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安倍晋三首相は温暖化問題について、「Cool Earth 50」

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●画期的な「Cool Earth 50」

村瀬 2007年5月、安倍晋三首相は温暖化問題について、「Cool Earth 50」(1)という政 策を発表されました。私は、これはいろいろな意味で画期的な政策であると思いま す。それまでは環境省、経済産業省などがそれぞれバラバラに対応していた、それ を塩崎さんが官房長官として4大臣会合を組織し、一つの政策にまとめ上げた。日 本の意見をワンボイスに統合された意義は非常に大きいと思います。それを記録に とどめたいと思い、今日はまず「Cool Earth 50」策定の経緯やご苦労などについて、

お聞きしたいと思います。

また後半では、7月に日本で開かれる主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に 向けて、日本が気候変動問題についてどういう立場をとり、どういう形でリーダー シップを発揮したらよいか、お話をうかがえればと考えています。

塩崎 2007年2月に安倍総理がヨーロッパに行かれました。6月のハイリゲンダム・

サミットを控えて、メルケル = ドイツ首相はじめ、ブレア英首相、まだフランス大 統領にはなっていませんでしたがサルコジ氏にも会いました。あとシラク大統領に も会い、またEU(欧州連合)、NATO(北大西洋条約機構)本部にも行かれました。私 は留守番でしたが、この訪欧で、総理は各国首脳と環境の問題をずいぶんお話しさ れたようです。一方でこの時期、アル・ゴア米前副大統領の『不都合な真実』とい う映画が話題を呼びはじめており、またIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第 4次報告が出たのは1月でしたか……

村瀬 第1部の公表が1月です。「自然科学的根拠」の部分です。第3部は最終的には 5月でした。

塩崎 それもありました。一方で、1月の安倍総理の施政方針演説には「21世紀環境 立国戦略」についてワンパラグラフ入れています(2)。この演説について総理と議論 したのは、2008年には日本はサミットの議長国で、日本で開催することが決まって おり、そこでは当然のことながら環境が主要議題の大きな柱になる、第一の柱と言

衆議院議員・元内閣官房長官

聞き手

(上智大学教授)

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ってもいいかもしれないぐらい大事なテーマになる、ということでした。日本は2 回のオイルショックを経験して、エネルギー効率という面では世界に誇れる技術が ある。原子力についてはいろいろな考え方があるけれども、原子力発電所を開発す る技術を持っている国は、世界で3ヵ国しかない。日本とフランス、ロシアです。

そういうことも含めて、とくに温暖化については、いろいろな面で日本は世界に 貢献できるのではないかと考えました。施政方針演説のなかでも、「貢献」という言 葉を使っていますが、しっかり入れるように私も環境省に指示しました。しかしそ のときは、「環境は環境省の問題」というイメージが、世の中的にも霞が関的にも、

われわれのなかにもまだあったかもしれない。ただ、『不都合な真実』のインパクト のある問題提起を受けて、温暖化はやはり世界の問題であって、ひとり環境省の問 題ではない。ひとつは産業政策であり、ひとつは生活そのものでもあるから、これ は全世界的視野でやらないといけないということを痛感しました。それで総理に相 談したわけです。今まで環境問題というのは、税制調査会での環境税がいい例です が、基本的には環境省と経済産業省の戦いのなかで、圧倒的に強い経産省に、環境 省は一撃のもとに倒されて、何の答えも出せないままに時間がたっていくというふ うでした。

そこでわれわれは安倍総理と相談し、新たな総合戦略を作ろうと考えた。それは 環境省だけではなく、当然環境省と経産省が主な役所であるわけですが、なおかつ 環境外交でもあるので外務省が入らなければ、ということで、総理の指示で4人の 大臣が中心となって「ポスト京都議定書」の枠組みの考え方を整理し、まとめてい くことになったんです。

実は今申し上げた「21世紀環境立国戦略」は、環境省の中央環境審議会(中環審)

で議論していて、5月ぐらいに最終報告を出そうとしていた。そのため3月の終わり か4月に中間報告を予定していたんです。しかし、多分、あれは環境省始まって以 来の衝撃だったと思いますが、私から「その中間報告はちょっと待ってくれ」、つま り「環境省だけで決められる話ではない」と指示を出しました。そうしたら「いや いや、(経産省の)産業構造審議会の人にも来てもらっています」と言う。つまり環 境省だけで決めようというのではないと言うわけです。だけど、役所の審議会で、

他の省から参加したって席は末席に決まっているわけで、「それではだめだ」と言い ました。結局、中間報告は出さなかったと思います。ともかくこのポスト京都議定 書の枠組み、温暖化問題については4大臣のところで決めていくから、審議会では 先走った結論を出さないようにと言って、それで「美しい星50」すなわち「安倍原 則」を作っていったわけです。

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●米国、中国の協調を引き出す努力

塩崎 実は、その間に重要な外交日程がありました。4月初めに温家宝中国首相が見 えたのが一つの山で、もう一つ、4月の終わりには総理がワシントンに行かれてブッ シュ大統領との話し合いを行ないました。ポスト京都議定書では中国と米国の関与 が不可欠です。

中国については4大臣会合でも何度か取り上げていましたが、お役所は今までに ないプロセスだからと4大臣会合を後回しにしようとするわけです。次の4大臣会合 は温家宝首相が帰ったあとにやろうと言うから、「ばかなことを言うんじゃない、首 相が来日する前だからこそやるんだ」と言って、訪日前に2、3回やりました。

結果、どうなったかというと、最終的にポスト京都議定書の枠組み作りに中国も コミットするということに踏み込んだわけで、これは安倍総理の大きな外交成果だ ったと思います。麻生太郎外務大臣も頑張って、かなり中国にプレッシャーをかけ ていただいたし、事務方も努力しました。

米国については、2月にチェイニー副大統領が来日されたときに、総理は環境問題 を持ち出したけれども、あまり深い議論に至りませんでした。一般教書演説で初め て「climate change(気候変動)」という言葉を使ったブッシュ大統領でありながら、

まだそこまでは変わっていないのかと、霞が関はやや諦め気味でした。しかし私は むしろ、米国は必ずしもそんなに後ろ向きではないのではないかと感じていました。

ジェームズ・コノートン(米国大統領府環境評議会議長)が今交渉の最先端でやって いますが、国務省のドブリアンスキー(民主主義・地球問題担当国務次官)以外は、

評議会のメンバーはやはりホワイトハウスの人たちなんですね。

つまり米国にとって気候変動は安全保障問題なんですよ。経済安全保障でもある し、中国、インドという新興パワーとの駆け引きでもあるので、ホワイトハウスが やっている。コノートン氏が前に出てきているところをみると、決して無関心でも 後ろ向きでもない、けっこういろいろ考えているのではないかと思っていました。

それで外務省に「諦めずに首相の訪米前に行って、ホワイトハウスとよく詰めた らどうだ」ということで、行ってもらったわけです。そうしたら向こうから電話が かかってきて、「けっこう前に進みそうです」という報告でした。結局、安倍総理と ブッシュ大統領の間で、日米が環境技術面で協力をしていくことに合意し、シニア レベルの二国間協議プロセスを創設することになりました。

村瀬 私もIPCC第3作業部会の主要執筆者(リード・オーサー)を務めましたが、

経産省の産業構造審議会と環境省の中央環境審議会が全然違うことを言っていまし た。IPCCの会議に行くと外国の専門家たちもみんなそれをよく知っていて、「それ は経産省の意見だろう」とか「環境省の意見だろう」「日本政府としては未だ統合さ

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れていないだろう」と。おそらく外交の場では、もっと大変だったと思います。

冒頭にも申しましたが、それをsingle national voiceというか、一つの意見として取 りまとめられたのは、安倍内閣の、また官房長官の大変大きな功績だったと思いま す。とりわけ今お話しになった米国や中国―京都議定書にこれまでそっぽを向い てきた国―が、とにかくコミットすると約束してくれたのは非常に大きな成果で した。その後のハイリゲンダム・サミットやAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で日 本の提案は高く評価されましたが、そういう努力があったからこそだと思いますし、

それによって皆さんの期待も大きくふくらんだと思います。

●京都議定書遵守の困難性と日本の課題

村瀬 他方、現行京都議定書を日本は批准したわけですが、そこで割り当てられた 二酸化炭素(CO2)削減量は、日本は遵守できないことがほぼはっきりしています。

1990年比で6%削減というのが日本に課せられた義務ですが、その後8%増えていま すから、14%以上削減しなければ日本は議定書の義務を履行したことにならない。

確かにロシアからホットエアーを買ってくれば遵守は可能かもしれませんが、それ はつまり国民の税金でロシアに何千億か支払うということです。形式上は一応遵守 したことになるかもしれないけれども、ロシアはそのお金で経済活動をしてもっと CO2を出す方向に使うわけです。そういうことは、日本として道義的に許されるの かという議論もあると思います。

そういう状況に対して、とりわけ2002年に日本が京都議定書を批准したときに、

政治家から何らかの声が上がってしかるべきだったと思いますが、上がらなかった。

塩崎さんを含む一部の政治家は別として、温暖化の問題について一般的に声が上が るようになったのはつい最近のことです。そういう政治家の責任を私は強く感じる のですが、どうお考えですか。

塩崎 今回、一時的にですが、揮発油税など道路特定財源の暫定税率が廃止される ことになっているわけです。この問題は、環境という観点からはあまり取り上げら れてこなかった。私はこれが環境にとっていかに問題であるか、メールマガジンに しつこく書いているのですが、一般の方々と話してみると、「それよりも生活だよね」

と、こうなるんですね。

私は「ブレアの過ちを繰り返すな」(3)とメールマガジンに書きました。ブレア英首 相も2001年にガソリン価格を下げたことがある。ところが環境保護団体から徹底的 に批判され、2003年に引き上げざるをえなくなる。高い授業料を払った末に2年後 から上げはじめて、去年も上げ、今年も上げて、来年も上げて、新たに再来年も上 げると発表しています。ガソリンを上げるよりは高い公共交通機関をなんとかすべ きだとか、いろいろ言われていますが、価格を上げればガソリンの消費量抑制につ

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ながる、そういう効果を考えたうえであえて上げ、代替エネルギーや代替交通手段 の開発を促すということをやっています。

こういうことは、政治家が国民に説いて回らなければいけないことだと思うし、

英国はそれをやっているわけです。米国は明確に「環境より成長だ」ということで、

京都議定書から離脱しました。一方日本は、何となく京都議定書にも入ってはいま すが、意識レベルでいくとアメリカと大差なくて、やはり「生活だ」と言ってみた り、経済界にしてもモードはまだ成長モードです。環境に支払うコストが成長には マイナスだと考えている。しかし温暖化対策をしっかりやらないと、結果として背 負わなければならないトータルのコストが重くなることをわれわれは考えないとい けない。

●経済発展と温暖化対策の両立―安倍3原則の意義

塩崎 今、商品価格がいろいろ上がっている一つの原因は、温暖化対策として食料 や飼料になるはずの穀物がバイオエタノール生産に回されているからです。それで 食品価格が上がっている。そして、やはり原油価格の高騰です。一方で、エネルギ ー効率が悪いままCO2をたくさん出しながら成長するというやり方で、日本経済も これまで何とかやってきた。それは大企業だけの話だと言うかもしれないが、今後 大企業すらだめになったら日本の経済がもたない。ということは、世界の経済の発 展モデルとしても、環境問題をビルトインしてそれを内生的なコストとして計算し ていかないと、日本の経済発展も、ひいては日本の社会保障や生活そのものも成り 立っていかない。同じ船にみな乗っているということで、大きな内生変数として

「環境」を入れないと、もうだめです。だから「経済発展」「景気」という生活レベ ルでいちばん身近な問題と、「環境」の問題は密接につながっていて、景気だけよく してくれと言っても、それはもうできない。

国立環境研究所の計算によれば、暫定税率を下げることでCO2排出量が年0.6%増 えてしまうという。結局、増えた分は共同実施(JI)でどこか先進国から買うか、あ るいはクリーン開発メカニズム(CDM)でどこか途上国から買ってくるわけですね。

しかし、これは税金で買うわけだから、実質的に税金は下がらない。

結論として、CO2を出さず経済発展を続けていくことが、地球にとってもわれわ れの将来負担にとっても不可欠ではないか。

村瀬 安倍総理が「Cool Earth 50」で「主要排出国が参加する」「個別国家の固有の 事情を考慮する」「経済と環境の両立」という三つの原則を提示されたのは、非常に 重要なポイントだと思います。福田康夫総理は今年3月の世界経済フォーラム(ダボ ス会議)でこれを一歩押し進めて、交渉上の指標として出された。安倍総理の場合 は目標として「世界全体の(温室効果ガス)排出量を2050年までに半減」という線を

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出されたわけですが、塩崎さんもダボスに行かれたようですのでおうかがいするの ですが、そのように福田総理が一歩進めたのはいい面があると同時に、他方で京都 議定書の不遵守の場合と同じように、専門家の間では「2050年に半減するのは相当 難しい」という意見が出ています。そのあたりは、どのようにお考えですか。

塩崎 実際に難しいと思います。それを達成するために、どういうことをやらなけ ればならないか。国際エネルギー機関(IEA)の報告書が言うように、必要なエネル ギーをすべて電力で代替するということであれば、原子力発電所を毎年30基は造ら ないといけない、三峡ダムクラスの水力発電所を毎年二つは造らないといけない。

また、まだ開発段階のCCS(Carbon Dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収貯留)を 相当数世界でやらないといけない、とも書いてあります。ということは、今見えて いる技術力では半減はできない。半分にしないと温室効果ガスの濃度が安定化しな いということですから、バスタブの水量にたとえれば、蛇口をひねって入ってくる 量と、底の栓を抜いて出ていく量とのバランスの問題で、蛇口を半分締めないと地 球全体でバランスしない。2050年までにそうしようというのですからまだ先の話で すが、今の技術ではとても無理だということは明らかです。

そうすると、技術革新を図っていくことと、今できることでやっていないことが たくさんありますから、それをどう実行していくかです。企業やわれわれ一人一人 の行動パターンを変えていく。ありとあらゆることをやらない限りは安定化しない。

安倍原則は現在の技術レベルを前提とするかぎり安定化しないということをよく考 えたうえで、とりあえず長期目標として2050年の半減を言っているので、それに向 けて今は見えない技術を開発するために何をすべきかということです。

いろいろ考え合わせてみると、やはり研究開発への投資を促進していかないとな かなかうまくいかない。そのために、炭素に値段をつけ、市場メカニズムで研究開 発や投資をプッシュしていこうと。その方途の一つが排出量取引であり、環境税で ある。そういう意味では、英国のガソリンの税率を上げていくというやり方は、学 ぶべきことの一つだと思います。

3月初めですが、英国でBP(英国石油会社)のCEOに会ったとき、日本が暫定税率

を下げる議論をしていると話したら、「信じられない」と驚いていました。「1年ぐら い、いいじゃないか」という意見もありますが、先ほども言ったように、試算では1

年で0.6%排出量が増える、増えればその分だけ減らすためのコストがかかるわけで

すから、環境面から考えてここで税を下げる理由はないと思います。

日本の技術を含めて、今ある技術でどれだけ減らすことが可能か。それでも足り ない部分については、どうやって新しい技術開発を促していくか。そのための方策 をこれから皆がやらないといけない。「負担だ」と言っているけれども、これは逆に ビジネスチャンスでもある。日本の場合は売となる技術がいっぱいあるわけです

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し、その感覚も持っているわけですから、どんどんやるべきなんです。

●洞爺湖サミットの目標

村瀬 洞爺湖サミットが目前に迫っていますが、日本がどのような役割を果たすべ きか。もちろん議長国という面がありますが、何か具体的な方策とか提案など、お 考えになっていることはありますか。

塩崎 環境が主要議題となったハイリゲンダム・サミットでも、2050年までに半減 するというのはサミットとしての合意にはならなかった。「ヨーロッパと日本が言っ ていますね」という言い方でした。この安定化させるための長期目標について合意 することが、まず最低限やらなくてはいけないことだと思います。それから米国の コミットメントをどう確固たるものにするか。また新興国、なかでも中国に100%と はいかないまでも拘束力のあるコミットメントをさせることがとても大事です。米 国は、中国が入らない枠組みには国内政治的にもなかなか入りづらいと思います。

CO2に国籍はありませんから、すでに排出量で米国を抜いたかもしれないと言われ ている中国を対象にしない排出抑制策は意味がない。

実は安倍3原則の「各国の事情に配慮した柔軟かつ多様性のある枠組みを作る」

となっているところは、そもそもは環境省から5原則で出てきたものです。しかし それには相変わらず「平等だが差異ある責任」とか書かれていました。しかし「差 異ある責任」に言及するということは、初めから途上国の立場に立つことになり、

それでは先に進まないと言って、三つにまとめたんです。この条件を満たせばいい というごく基本的な原則です。国際交渉は何度もデッドロックに乗り上げることを 覚悟しておかなければならないから、そのときにつねに立ち戻る原則というつもり で、これを作っているんです。

村瀬 本当にそうですね。これまでの調整は足して2で割る調整がほとんどでした

が、2歩も3歩も前に進もうという形で出てきたところがいいですね。

塩崎 だから主要排出国はすべて参加する。これはこの間バリでのCOP13(第13回 気候変動枠組み条約締約国会議)で、一応米国も中国もみんな入ると……国連のプロ セスとしてやることに決まりました。したがって3原則の一つは達成された。ただ、

その第1原則の続きの「京都議定書を越え、世界全体で排出削減につながる」枠組 みを作るという、ここのところは中身の問題ですからこれからです。2番目の「各国 の事情に配慮した……」もそうだし、3番目の「省エネなどの技術を活かし、環境保 全と経済発展を両立すること」もこれからです。

●ポスト京都議定書の枠組み―セクター別アプローチ

村瀬 私は、ポスト京都議定書の枠組みは拘束力のあるものでないとだめだと思い

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ます。そうでない形の提案もいろいろありますが、日本が提案するセクター別アプ ローチ(4)が、国際社会にとっても、長期的にも、いちばん望ましいと思います。こ のやり方には先例があって、GATT(関税貿易一般協定)の関税引き下げがそうです。

セクター別に関税を下げてきたわけです。GATTももちろん拘束的なレジームですが、

排出量削減の国際枠組みにもこのGATTモデルを、というようなことを考えていま す。塩崎さんは、セクター別アプローチについては、どのようにお考えですか。

塩崎 セクター別アプローチにはどうにもならないところがある。それは、環境対 策として行なわれている税制にしても、補助金、規制などにしても、エネルギー効 率が物差しになっているということです。例えば車ですが、地方税である自動車保 有税は今エネルギー効率で決まっている。しかし、エネルギー効率がいいキャデラ ックというのもありうるわけです。つまりどんなに効率がよくても、排気量が多く てCO2をたくさん出す車もある。だからこれからは、CO2をどのぐらい出すか、温 室効果ガスをどれだけたくさん出すかという物差しでやっていかないといけない。

英国はすでに、CO2の排出量によって自動車に対する課税を変えています。だか らだいぶ進んでいます。日本は燃費効率です。いいものはいいと言っているけれど も、排気量が大きければ意味がない。セクター別アプローチもそれと似ています。

日本の産業界は産業分野ごとに、エネルギー効率の改善を目指すと言っています。

効率が向上しても、たくさん生産すればCO2もたくさん出てしまうわけです。それ ではだめです。

福田首相がダボス会議で言われたのは、一つは国別に排出量の上限(cap)を決め ることで、「やはりこれでないといけないと思います。日本もそれでやります」とい う宣言をしたこと。もう一つは、「ボトムアップのセクター別アプローチをする」と も言われました。エネルギー効率についても触れておられるけれども、エネルギー 効率だけだと、今申し上げたような問題が起きてしまう。したがって、既存の技術 だったらどこまで排出を減らせるのか。多分、トップダウンで仮にセクター別に排 出量を分配し、長期目標を決め中間目標を作ったとしても、達成できない部分が出 る。それをどうするのか、というところが問題になる。

だから日本は、ひとりこのセクター別アプローチのボトムアップだけで目標値を 決める、上限を決めるということをしようとしているのではないかと、世界から疑 いの目で見られている。もう一つは、セクター別アプローチでいくと、途上国も含 めて横断的に世界を業種で分けて、その業種は先進国であろうと途上国であろうと、

あまねく同じ基準でやらなければならない。そこに今途上国は不満を言っているわ けです。先進国、途上国、どちらからも批判が出ている。ボトムアップでいくとい う話について、最終的に排出量のボトムアップでどこまでやれるのかということと、

マクロでトップダウンでやった場合にどれだけ必要かというギャップ、このギャッ

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プをちゃんと解決しますと言わないと、セクター別アプローチは立っていられなく なると思います。

村瀬 それについてはまだいろいろ議論したこともありますが、時間もきましたの で、今日はこのへんで終わりにしたいと思います。貴重なお話をうかがうことがで きました。お忙しいところを、ありがとうございました。

(2008年4月15日)

1) 地球温暖化に関する内閣総理大臣演説、「美しい星へのいざない『Invitation to「Cool Earth 50」』―3つの提案、3つの原則」、平成19年5月24日(http://www.kantei.go.jp/jp/

abespeech/2007/05/24speech.html)

2) 第166回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説(http://www.kantei.go.jp/jp/abes-

peech/2007/01/26sisei.html)

3) メールマガジン「やすひさの独り言」466号(2008年4月1日)「ブレアの過ちを繰り返 すな」(http://www.y-shiozaki.or.jp/oneself/index.php?start=0&id=558)

4) セクター別アプローチとは、各セクターすなわち産業分野の実情を踏まえ、削減ポテン シャルや目標の設定を通じて排出削減に取り組む方法。本誌、村瀬信也「気候変動に関す る科学的知見と国際立法」(46―58ページ)、など参照。

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