§ 13. 定積分の性質
教科書にある「区間に関する加法性」,「線型性」,「単調性」についてはprintでは省 略する.それらは積分可能な函数に対して成り立つ.
命題13.1(正値性). ∀x∈[a, b]でf(x)!0 =⇒
!b
a
f(x)dx!0.
とくにf!0がIで連続で,∃cs.t. f(c)>0 =⇒
!b
a
f(x)dx >0.
証明. 前半は定義から明らか.後半は,δ>0を十分小さくとれば,|x−c|"δの ときf(x)> 1
2f(c)となるので
!b
a
f(x)dx!!c+δ c−δ
f(x)dx! f(c)
2 ·2δ=δf(c)>0.
命題13.2.
"
"
"
"
!b
a
f(x)dx
"
"
"
""!b
a|f(x)|dx. (−|f(x)|"f(x)"|f(x)|による.)
注意13.3. 1点cでのみf(c)&=g(c)でその他の点ではf(x) =g(x)とする.さら
に|f(x)|"M,|g(x)|"Mとする.十分小さい∀ε>0に対して
0"""""
!b
a
f(x)dx−
!b
a
g(x)dx
"
"
"
""!c+ε c−ε
"
"f(x)−g(x)""dx"2M·2ε= 4Mε
が成り立つので!b a
f(x)dx=
!b
a
f(x)dxである.1点cを有限個の点としても同様.
定理13.4 (微積分の基本定理). f:有界閉区間I = [a, b]で連続,c ∈I:固定,
F(x) :=
!x
c
f(t)dt =⇒ FはIで微分可能1で,F"(x) =f(x) (∀x∈I).
とくに,連続関数には原始函数が存在する.
証明. F(x+h)−F(x) =
!x+h
x
f(t)dt,およびhf(x) =
!x+h
x
f(x)dtより F(x+h)−F(x)
h −f(x) = 1
h
!x+h
x
#f(t)−f(x)$
dt.· · · · '1
∀ε>0が与えられたとき,fの一様連続性から,
∃δ>0 s.t. |x−x"|<δ =⇒ |f(x)−f(x")|<ε.
さて,0< h <δとしよう.そうすると,x"t"x+hのとき,|f(t)−f(x)|<εで あるから """"F(x+h)−F(x)
h −f(x)
"
"
"
"" 1 h
!x+h
x |f(t)−f(x)|dt <ε.
1端点では片側微分可能.
1
−δ< h <0のときは'の右辺を1 −1 h
!x
x+h
#f(t)−f(x)$ dt= 1
|h|
!x
x+h
#f(t)−f(x)$ dt
と書き直してまったく同じ議論をすればよい. #
系13.5. f:連続,F:fの原始函数の一つ =⇒
!b
a
f(x)dx=F(b)−F(a).
証明. F1(x) :=
!x
a
f(t)dtとおくと,F1"(x) =f(x) =F"(x)より,F(x) =F1(x)+C
(Cは定数).x=aとおいてF(a) =Cを得るので,F1(x) =F(x)−F(a).ゆえに
!b
a
f(x)dx=F1(b) =F(b)−F(a).
定理13.6(積分の平均値定理). f, g:有界閉区間I= [a, b]で連続で,つねにg(x)!0
(またはつねにg(x)"0)とする.このとき
∃c(a < c < b) s.t.
!b
a
f(x)g(x)dx=f(c)
!b
a
g(x)dx.
とくにgとして恒等的に1という函数をとれば,!b a
f(x)dx=f(c)(b−a).
証明. g(x)!0とする(g(x)"0ならば,−g(x)を考えればよい).gが恒等的に
0という函数ならばcは何でもよい.次にg(x0)>0となるx0があるとする.この ときp:=
!b
a
f(x)dx >0である.m:= min
a!x!bf(x),M:= max
a!x!bf(x)とおくと mg(x)"f(x)g(x)"M g(x) (∀x) · · · ·'2
が成り立つ.'で左側の等号が成立しない2 x1があり,かつ右側で等号が成立しない x2があるとき,命題13.1より
m
!b
a
g(x)dx <
!b
a
f(x)g(x)dx < M
!b
a
g(x)dx となるから,m < 1
p
!b
a
f(x)g(x)dx < Mである.中間値の定理から
∃c(a < c < b) s.t. f(c) = 1 p
!b
a
f(x)dx.
'で恒等的に2 mg(x) =f(x)g(x)が成り立っていれば,x0の近くでg(x)>0より,
x0の近くでつねにf(x) =mである.とくにf(c) =m(a < c < b)となるcがある ので,このcに対して
!b
a
f(x)g(x)dx=m
!b
a
g(x)dx=f(c)
!b
a
g(x)dx.
'で恒等的に2 f(x)g(x) =M g(x)が成り立つときも同様. #
2
•置換積分と部分積分に関してはここでは省略しよう.標語的に言えば 置換積分:合成関数の微分の逆演算, 部分積分:積の微分の逆演算.
•対数函数の定義から始めて指数函数を定義すること:
定義13.7. logx:=
!x
1
dt
t (x >0).
•定義よりlog 1 = 0である.
命題13.8. (1) logxは(0,+∞)でC∞級で,(logx)"= 1 x. (2) log(xy) = logx+ logy.ここで,y= 1
xとおくことにより,log 1
x =−logx.
(3) logxは狭義単調増加であって,lim
x→+∞logx= +∞かつ lim
x→+0logx=−∞. 証明. (2)
!xy
1
dt t =
!x
1
dt t +
!xy
x
dt
t とし,右辺第2項の積分で,t=xuと変数 変換すれば,dt=x duより,!xy
x
dt t =
!y
1
x du xu =
!y
1
du
u となる.
(3) 0< x1< x2とする.(2)でx=x1,y=x2
x1
>1とおくと logx2−logx1= logx2
x1
=
! xx2
1 1
dt t >0.
k∈Nとして,k"t"k+ 1のとき,1
t ! 1
k+ 1 であるから,
!k+1
k
dt t !!k+1
k
dt k+ 1 = 1
k+ 1. したがってn!2のとき,
logn=
!n
1
dt t =
n−1%
k=1
!k+1
k
dt t !%n−1
k=1
1
k+ 1→+∞ (n→+∞).
ゆえに∀M >0に対して,番号Lを選ぶと,n! Lである限りlogn > Mであ る.logxは狭義単調増加ゆえ,x > Lならば,logx > logL > Mとなるので,
logx→+∞(x→+∞)である.x→+0については,x= 1
uとおくと,u→+∞ であり,log 1
x =−logu→ −∞となる. #
定義13.9. logxは(0,∞)を定義域とし,(−∞,+∞)を値域とする狭義単調増加 函数であるから,その逆函数expxが定義できる.
•expxは定義域が(−∞,+∞),値域は(0,+∞)となる狭義単調増加函数である.
•exp 0 = 1である.e:= exp 1とおいて,自然対数の底という.loge= 1である.
3
•logの逆函数ということから,lim
x→+∞expx= +∞, lim
x→−∞expx= 0.
命題13.10. (1) expxはC∞級で,(expx)"= expx.
(2) exp(x+y) = (expx)(expy).
証明. (1)y >0のとき,exp(logy) =yをyで微分して,(exp)"(logy) 1 y = 1.こ こでlogy=xとおくと,(exp)"(x) =y= expxを得る.
(2)x= logu,y= logvとおくと
exp(x+y) = exp(logu+ logv) = exp(log(uv)) =uv= (expx)(expy).
定義13.11. a >0とする.ax:= exp(xloga)と定義する.とくにex= expxであ るから,ax=exlogaである.
•x=n∈Nのとき,今の定義と命題13.10 (2)によれば
an= exp(nloga) = exp(loga+· · ·+ loga) = (exp loga)· · ·(exp loga) =a· · ·a となって,aをn個かけていることと等しくなっている.
•x= 1
nのとき,再び命題13.10 (2)より an1· · ·an1= exp&1
nloga'
· · ·exp&1 nloga'
= exp&
n· 1 nloga'
= exp loga=a.
ゆえにここでの定義に従ったa1nはaの正のn乗根になっている.
教科書の命題3.4.6と3.4.7は自習.
命題13.12. lim
x→0(1 +x)x1= lim
x→+∞
&
1 + 1 x
'x
=e.
証明. 定義から
x→0lim 1
xlog(1 +x) = lim
x→0
log(1 +x)−log 1
x = (logx)"""
x=1= 1.
ゆえにx→0のとき,(1 +x)1x= exp&1
xlog(1 +x)'
→exp 1 =e.二つ目の極限 は 1
x =yとおくとよい. #
【7月13日提出の宿題について】導函数の非有界性の説明ができていないレポートが多かった.
f"が区間I:= (0,1]で有界である⇐⇒ ∃M >0 s.t.|f"(x)|"M(∀x∈I)であるから,非有
界性を示すには,|f"(xn)|→+∞をみたすIの点列{xn}を一つみつければ十分であることに 注意.式の形をよく観察すること.f"(x) = 43x1/3sin1x−x−2/3cos1xであるから,xn:=2nπ1 (n= 1,2, . . .)とおくと,xn∈I(∀n= 1,2, . . .)であって,f"(xn) =−(2nπ)2/3→ −∞
(n→ ∞)であるから,f"は区間Iで有界ではない.
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