【連絡先】〒960-1296 福島市金谷川 1 福島大学 教育研究院 准教授 経済経営学類 担当 沼田大輔: TEL / FAX : 024-548-8423 E-mail : [email protected]
【キーワード】ごみに関する授業、小学生、保護者、アンケート、テキストマイニング
小学校におけるごみに関する授業が保護者に与える影響
○(正)沼田 大輔1)、篠原由梨香1)、鈴木早苗1) 1) 福島大学
1.はじめに
小学校では、主に小学 4 年生を対象に、ごみに関する授業が行われ、地元のごみ処理工場等の見学も含めて、12 時 限程度の授業が実施されている。そして、地元のごみの現状等に関する内容を盛り込んだ授業の副読本を地元の小学 生に配付している自治体も見られる。この機会は、小学生がごみに関する授業で学んだことを、保護者をはじめとす る家庭で共有すれば、住民へのごみに関する啓発として有効と思われる。しかしながら、その有効性や、ごみに関す る授業で学んだことから小学生が何を保護者に伝えているかについては、これまで必ずしも定量的に捉えられてこな かったように思われる。実際、例えば、中村ほか(2011)は、福岡県筑後市の小学 4 年生向けのごみ分別授業を取り上 げ、その授業の影響について、受講した生徒へのテストやアンケートによって確認しているが、家庭への広がりにつ いては記述のみで定量的に捉えられているとはいいがたい。
そこで、本報告では、小学校におけるごみに関する授業が保護者にどのような影響を与えているか、そして、小学 生は小学校のごみに関する授業で学んだことのうち何を保護者に伝えているかについて、福島県会津美里町を例に、
ごみに関する授業を受けた小学生とその保護者へのアンケート調査によって検討した結果を報告する。
2.実施したアンケートの概要
まず、福島県会津美里町の 2 つの小学校で、ごみに関する授業に携わる教諭にヒアリングを行い、ごみに関する授 業は小学 4 年生の 8-9 月に行われることが伺われた。このことを受けて、ヒアリングを行った会津美里町の 2 つの小 学校の 4 年生とその保護者に 2018 年 9 月末から 10 月初旬にかけてアンケートを実施した。小学生へのアンケート は、ごみに関する授業を受け終わった小学 4 年生に、小学校の教室で教諭を通じて回答してもらい、72 名の生徒の回 答を得た。保護者へのアンケートは、小学生が自宅に持ち帰り、保護者が回答し、小学生に学校へ持参してもらう形 で行い、67 名の保護者から回答を得た。実際に実施したアンケートの内容については、鈴木(2020)を参照されたい。
3.ごみに関する授業が保護者に与えた影響
保護者へのアンケートより、ごみに関する授業が小学校で行われている 8-9 月に、ごみの出し方や分別について子 供と話し合いをした保護者は 67%であった。なお、学校からごみの問題に関して保護者と話し合う宿題等は出ていな かった。この 67%の保護者の 5 割にあたる 33.5%の保護者は、子供と話し合いをしたことでごみを捨てる際の行動 に変化があったと回答した。そして、ごみを捨てる際の行動に変化があった保護者は、ごみを捨てる際の行動に変化 がなかった保護者よりも、ごみの組成調査の結果が掲載された町の広報誌(会津美里町 2018)を読むことで分別をよ り意識するようになったという割合が 20%以上高かった(図 1、図 2)。なお、8-9 月におけるごみの出し方や分別に ついての話し合いの内容は、必ずしもごみに関する授業のことではない可能性がある点に注意が必要である。
図 1 ごみの出し方や分別について子供と話し合ったことでご
みを捨てる際の行動が変化した保護者の、ごみの組成調査 の結果が掲載された広報誌への対応(サンプル数:22)
図 2 ごみの出し方や分別について子供と話し合ったがごみ
を捨てる際の行動が変化しなかった保護者の、ごみの組成 調査の結果が掲載された広報誌への対応(サンプル数:22)
第31回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2020
A5-9W
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4.小学生と保護者のごみに関する授業の話の内容
表 1 は、テキストマイニングによって、「小学生がごみに関する授業を通して分かったこと」の自由記述から抽出さ れた 181 単語のうち、出現回数が多かった上位 20 位の単語について、順位と出現回数を示したものである。ごみ処理 場の見学に関する単語(例: 服、クレーン、クリアファイル)、町が抱えているごみに関する問題についての用語(例:
埋立地、税金、人口)が上位に見られた。一方、表 2 は、同じくテキストマイニングによって、「小学生と保護者がご みに関する授業を通して話し合ったこと」の自由記述から抽出された 93 単語のうち、出現回数が多かった上位 20 位 の単語について、順位と出現回数を示したものである。分別の仕方、ごみの捨て方に関する単語が上位に見られた(例:
燃えるごみ、燃えないごみ、ビン、何曜日、分別)。すなわち、ごみを減らす意義・必要性といった情報は、小学生か ら保護者には伝わっていないことが伺える。
5.まとめ
本報告では、会津美里町の小学校で行ったごみに関する授業についてのアンケート調査をもとに、ごみに関する授 業が保護者のごみ捨て時の行動に与える影響、ごみに関する授業について小学生が保護者にどう話したかを定量的に 検討した。その結果、ごみに関する授業と同時期にごみの出し方や分別について小学生と保護者で話すことは、約半 分の保護者のごみ捨て時の行動を変化させうることが伺われた。また、ごみに関する授業によって、町が抱えるごみ に関する問題について小学生は分かったとしているが、そのことは保護者には共有されていないことも伺われた。
本報告の今後の課題は、自治体が抱えているごみに関する課題を、住民に理解してもらうにはどうすべきかについ て、検討を深めることである。なお、自治体から住民へのごみに関する情報の広報には、自治体が地元の小学生に提 供するごみに関する授業の副読本だけでなく、自治体の広報誌、ホームページ、SNS など、様々にある。それらの広 報手段による、ごみに関する情報提供が、どれほどの住民にどのように受け止められているかの定量化については、
沼田(2020)を参照されたい。
参考文献:
・ 会津美里町(2018)「福大生が調査! 会津美里町から出るごみの実態」『広報あいづみさと 平成 30 年 3 月 1 日号』
No.148, pp.4-5 https://www.town.aizumisato.fukushima.jp/s047/010/020/030/20180301.pdf
・ 鈴木早苗 (2020)「ごみに関する授業が保護者の環境配慮行動に与える影響 ~会津美里町の小学校におけるアン ケート調査をもとに~」『信陵論叢』 Vol.62, pp.39-53
・ 中村修・王正・遠藤はる奈・岸田友里恵・松田香穂里 (2011) 「筑後市の「ごみ分別授業」の実証と考察」『地域 環 境 研 究 ・ 環 境 教 育 研 究 マ ネ ジ メ ン ト セ ン タ ー 年 報 』 3, pp.55-61 http://naosite.lb.nagasaki- u.ac.jp/dspace/handle/10069/25181
・ 沼田大輔 (2020)「自治体から住民へのごみに関する情報の広報手段の検討 ~自治体からの広報誌と小学校のご みに関する授業に着目して~」『第 31 回 廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集』
順位 抽出語 出現回数
1 ごみ 62
2 ペットボトル 47
3 分かる 25
4 燃やす 21
5 服 19
6 クレーン 17
7 お金 16
8 埋立地 15
9 減る・税金・増える 13 12 1kg・出す 12
14 使う 11
15 量 10
16 ごみ箱・人口 9
18 少ない 8
19 色 7
20 クリアファイル・
灰・作れる・道路 6
順位 抽出語 出現回数
1 ごみ 23
2 ペットボトル 18
3 出す 13
4 何曜日 12
5 服 11
6 捨てる・分別 8
8 家 7
9 聞く 6
10 いつ・ビン・作れる 5
13 入る 4
14
クリアファイル・プ ラスチック・缶・資 源ごみ・道路・燃え るごみ
3
20
ごみ処理場・ごみ 箱・アルミ・スチー ル・ラベル・人・大 きい・燃えないごみ
2
表1 小学生がごみに関する授業を通して分か
ったことの抽出語リスト(上位20位)
表 2 ごみに関する授業について小学生が保護者
に話したことの抽出語リスト(上位20位)
第31回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2020
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