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巻頭言 Top Column - J-Stage

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化学と生物 Vol. 51, No. 8, 2013

巻頭言

Top Column

1000年後の「化学と生物」の夢

西田律夫

京都大学大学院農学研究科

Top Column

京都の東のシンボルは,お盆の送り火で 有名な大文字山である.最近では高いビル が増えて町中からは見えにくくなったが,

その昔は町のどこからでも見えていたに違 いない.永らく京都に住む私は,春に秋に この高台(標高466 m)に登ることを楽し みにしてきた.眼下に広大に広がる京都盆 地の眺めは素晴らしく,一瞬,現世を離脱 しそうな気分になる.真正面の御所や神社 の杜がこんもりと緑の島になっている以外 は,よくもここまでと思うほどぎっしりと ビルや家が建ち並び,車がテントウ虫のよ うに忙しく走り回っている.そういえば,

私が学生だった頃(40年ほど前)は,各 条里に市電がのんびり走っていた.町並み を見下ろしながら,終戦→幕末→戦国時代

→平安京…と一気に都でのできごとをさか のぼれば,いったい人類の文明や文化とは 何なのだろうと果てしない瞑想が湧いてく る.

現在の京の都を囲う山並みはうっそうと した森になっているが,昔はハゲ山も多 かったらしい.お湯を沸かし,ご飯を炊 き,暖をとるために薪は欠かせなかった.

でも,有史以来,貧しいながらも薪も食料 も建築資材も全部国内で賄われていたわけ で,化石燃料の海外全面依存/食料自給率 40%の現在の豊かさとは,全く異次元の世 界であった.

平安の頃,この眼下のどこかに 虫愛づ る姫君 という姫がいて「私は,毛虫が羽 化してチョウになる理由を知りたいの」

と,たくさんの虫を飼っていたという(堤 中納言物語).専ら昆虫を研究材料として きた私にとっては,この50年間のここ一 帯の昆虫相の変容はあまりにも著しいと感 じている.幼い頃,あれだけたくさんの種 数と数がいたチョウもトンボもコガネムシ もミズスマシもバッタも身近な環境から姿 を消し,郊外の子どもたちでさえ,ますま

す人工的な環境のなかで暮らすようになっ てきた.小学校の校庭も奇麗な敷石で固め られて雑草も生えさせないし,ほとんど虫 もやってこない.せめて子どもたちには時 間的・空間的になんとか自然に触れる機会 を増やしてやりたいという私の思いは,隙 間なく建ち並んだビルを見下ろすと,はる か彼方にかすみそうである.そういう私自 身,その隙間のマッチ箱のような家に住 み,ここ1週間,まともに「土」の地面を 踏みしめた瞬間は皆無に近い.足元の草む ら,小川のせせらぎ,小池,ちょっとした 雑木林…画像や映像ではない.子どもたち は,本ものの生きものたちに心をときめか す.そうして,きっと一人ひとりにいろん な感性が育まれるに違いない―こんな時間 と空間が各学区の至る所にある夢の都市を 夢見てきた.

感性豊かな姫君が暮らしていた頃から ちょうど1000年.今を折返し点と考える と,私たちは1000年後の子孫にあの頃か らの生物多様性をどれだけ残してやれるだ ろうか.この勢いでオイルシェールもメタ ンハイドレートも使い果たし,都は荒れ果 て,地球は…となってしまっていては,わ れわれの世代が引き継ぎ発展させてきた素 晴らしい科学も産業も通り越して,最悪の 世紀と言われかねない.そのなかにあっ て,大自然の営みに学ぶ太陽エネルギーの 新たな利用法も,食料も環境も生命科学 も,農芸化学領域が未来に果たす役割はま すます大きいと期待されている.

大文字山の眼下に広がる文明をぼんやり 見つめながら,ふと,「化学と生物」(現在 ち ょ う ど 創 刊50年) が,そ の 頃 は 何 を 語っているのか,1000年後の世界にタイ ムスリップして,ちょっと覗いてみたく なった.その頃は,きっと,この見晴らし のよい山の上でも,たくさんの子どもたち が元気に遊んでいることを夢見て.

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