CeruleninやML-236B(compactin)の発見とその大きな成果に触発され,微生物資源から脂質代謝を阻害する機能 分子の発見に注力してきた.中でも中性脂質(コレステリルエステルやトリグリセリド)の代謝を制御する新規 機 能 分 子 と し て,い ず れ も 真 菌(カ ビ) の 代 謝 産 物 中 よ り 発 見 し たbeauveriolide類,pyripyropene類 そ し てdi-
napinone類について,その発見の経緯,ケミカルバイオロジー研究,さらに創薬への可能性を総括する.
微生物は多様な構造を有する化合物を生産する能力を もっていることは皆の認めるところである.私が初めて 研究に携わった1977年ころ,脂質代謝に影響する化合 物 と し てcerulenin(1)とML-236B(compactin)(2)を 思 い 出すことができる.いずれも真菌が生産する化合物であ り,前者は北里研究所の秦藤樹・大村智先生が発見さ れ,脂肪酸合成酵素を阻害することが明らかとなり,ま た後者は当時三共におられた遠藤章先生がコレステロー ル生合成を標的としたスクリーニングから発見された阻 害剤として注目されていた.私自身,大村先生との共同 研究として,ceruleninの脂肪酸合成酵素に対する阻害 機構とceruleninを生産する真菌のceruleninに対する自 己耐性機構の研究に携わっていた.脂質代謝,なかでも 長鎖脂肪酸は生体内で生合成されグリセロールと結合し トリアシルグリセロール(トリグリセリド,TG)とし て,またコレステロールは長鎖脂肪酸と結合しコレステ リルエステル(CE)として蓄積するが,TG/CEの過度 な蓄積は脂質異常症への元凶となるばかりでなく,他の さまざまな疾患の重篤化とも深くかかわっている.この ような背景から北里研究所に入所以降,脂質代謝を制御 する微生物由来の低分子機能物質に興味をもち,新たな 機能分子の発見とそれを利用した細胞や生体の機能解析 を進めてきた.その結果,これまで27種類(100成分)
以上の脂質代謝を制御する新規機能分子を発見してき
た(3〜5).今回,遠藤章先生のガードナー賞をお祝いして
の本記念号に執筆する機会を与えいただき,この領域の
最近の自分の研究を総括するいい機会となった.
表1に,これら機能分子がどのような評価系(スク リーニング系)によって発見されたかをまとめた(3〜5). 評価系は大きく2つに大別され,動物細胞や微生物を用 いて,試料によって引き起こされる表現型の変化を観察 するスクリーニング(phenotype-based screening,本 項では表現型スクリーニングと呼ぶ)と標的とする酵素 やタンパク質の試料により引き起こされる活性の変化を 観 察 す る 直 接 的 な ス ク リ ー ニ ン グ(target-based screening,標的スクリーニング)である.表現型スク リーニングではあるが,その標的が容易に解析できる工 夫をこらした標的指向型表現型スクリーニングも考案し
てきた(3〜5).表現型スクリーニングで発見された化合物
についてはそのターゲットが何であるのか,また標的ス クリーニングで発見された化合物については細胞レベル でもその作用を検証できるのか,そして標的が明確に なった機能分子を利用して,新たな細胞機能の解析へと 応用するなどのケミカルバイオロジー研究を実施してき た.図1には表1であげた化合物の細胞内での標的タン パク質を示すが,依然として不明なものも少なくな
い(3〜5).現在これら機能分子の中には,それをリードと
して誘導体合成研究を展開し,生体レベルでの有用性を 証明し,創薬への挑戦をし続けているものもある.
本稿では,これら微生物由来の脂質代謝阻害剤の中か ら,pyripyropene類,beauveriolide類 とdinapinone類 を中心に述べる.
2017
年ガードナー国際賞受賞記念特集微生物が生産する脂質代謝制御剤の研究に 魅せられて
供田 洋
Hiroshi TOMODA, 北里大学薬学部
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
Pyripyropene類の発見
遠藤先生が発見されたML-236Bをリードとして,こ れまで多くのスタチン系医薬品が発見され,臨床的にも 血中コレステロール低下薬(脂質異常症予防治療薬)あ るいは動脈硬化予防治療薬として使用され,人類の福祉 に大きく貢献してきたことは今更言うまでもない(6).し かしその一方で,スタチン系医薬品では十分な効果が得 られない患者(ホモ型家族性高脂血症FHなど)がいる ことも明らかとなってきた(7).生体内の脂質代謝は複雑 かつ複合的であり,患者の病因や病態を考慮したテー ラーメード薬物治療の必要性などから,スタチン系医薬 品に続く薬剤の開発が続けられている(8).その標的分子 の一つとして,ステロール -アシル転移酵素(SOAT,
以前はアシルCoA:コレステロールアシル転移酵素 ACA Tと 呼 ば れ た) が あ る(5).SOATは,コ レ ス テ ロールと長鎖アシル-CoAを基質としてコレステロール の3位水酸基にアシル基を転移しCEを生成する.本酵
素は生体内でのコレステロール代謝に重要な役割を果た し,小腸での食餌性コレステロールの吸収,肝臓でのリ ポタンパク質(VLDL)の分泌,そして動脈硬化巣での マクロファージや平滑筋細胞の泡沫化に関与し,長年理 想的なポストスタチンの薬剤標的と考えられてきた.実 際,1980年代から多くの製薬企業で合成阻害剤の開発 研究が行われ,アミド系,ウレア系およびイミダゾール 系の合成剤を中心に活発な開発が進められた.しかし,
これらすべての合成剤は,副腎毒性や下痢などの副作用 の問題などで開発が中止された(5).
そのような中,われわれは,1990年頃より合成剤と は異なる骨格を求めて,微生物資源を対象に,ラット肝 ミクロソームをSOAT酵素源とした標的スクリーニン グを構築し,機能分子の探索を行った.表1に示したよ う にpurpactin類,glisoprenin類,enniatin類,terpen- dole類およびpyripyropene類など新規阻害剤を報告し
た(3〜5).真菌 FO-1289の培養液か
ら発見したpyripyropene類(PPP,図2)は,ピリジン 表1■これまで構築した脂質代謝に関する評価系と微生物由来阻害剤
評価系 由来 標的分子
1)表現型スクリーニング
抗カビ活性 Cerulenin 真菌 Fatty acid synthase
抗嫌気性活性 Thiotetromycin 放線菌 Fatty acid synthase (type II)
マウス腹腔マクロファージを用いた脂
肪滴蓄積評価 Beauveriolide 真菌 SOAT1
Phenochalasin 真菌 ? (Actin?)
K97-0239 放線菌 ?
Quinadoline 真菌 ?
Isobisvertinol 真菌 ?
Sespendole 真菌 ?
Spylidone 真菌 SOAT1/SOAT2
動物細胞(CHO細胞)を用いた脂肪滴
蓄積評価 Dinapinone 真菌 ? (Inducer of autophagy)
Isochaetochromin 真菌 ?
Bafilomycin L 放線菌 V-ATPase
2)標的スクリーニング
DGAT(ジアシルグリセロールアシル
転移酵素) Amidepsine 真菌 DGAT1/DGAT2
Xanthohumol 植物 DGAT1/DGAT2
Roselipin 真菌 DGAT2
SOAT(ステロールO-アシル転移酵素) Purpactin 真菌 SOAT1/SOAT2
Glisoprenin 真菌 SOAT1/SOAT2
Eninatin 真菌 SOAT1/SOAT2
Pyripyropene 真菌 SOAT2
Terpendole 真菌 SOAT1/SOAT2
CETP(コレステリルエステル転送タン
パク質) Erabulenol 真菌 CETP
Ferroverdin 放線菌 CETP
スフィンゴミエリナーゼ Chlorogentisylquinone 真菌 Sphingomyelinase
3)標的指向型表現型スクリーニング
変異酵母 (mutants
L-7 and A-1) Triacsin 放線菌 Acyl-CoA synthetase
Vero細胞(±メバロン酸) Hymeglusin 真菌 HMG-CoA synthase
SOAT1/SOAT2を選択発現させたCHO
細胞 7-Chlorofolipastatin 真菌 SOAT1/SOAT2
KM2-16-A 放線菌 SOAT1/SOAT2
Clonoamide 真菌 SOAT1/SOAT2
Pentacecilide 真菌 SOAT1/SOAT2
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
環,
α
-ピロン環とテルペンから構成された基本骨格を示 すユニークな構造を有する(9〜13).このユニークな基本 構造については,生産真菌培養液に[13C]酢酸,[13C]メバロン酸,[14C]ニコチン酸などの標識前駆体を添加 し,生産されたpyripyropene A(PPPA)のNMR解析 より生合成過程を明らかにした.すなわち,ニコチン酸 をアシルプライマーとして2分子のマロン酸と縮合した トリケチドとセスキテルペンとが連結してその基本骨格 が生合成される(14).海老塚らはこの生合成遺伝子をク ローニングし,われわれの推定した生合成経路が正し かったことを証明した(15).実際に単離した18種のPPP 類のうち,特にPPPAとPPPCは強力なSOAT阻害活性 を示し,IC50値はそれぞれ0.058と0.053
μ
Mと測定され,天然由来SOAT阻害剤の中で最も強力な活性を示した.
さらに天然由来と1, 7, 11位の -acetyl基を他のアシル 基へと変換した半合成誘導体研究から,1, 11位の水酸 基にはアセチル基が,7位はC5〜6のアシル基が強い SOAT阻害活性を示すことを明らかにした(16〜21).次に PPPAのSOAT阻害効果を細胞レベルで確認する手段と してマクロファージ細胞内に中性脂質(CEとTG)を 脂肪滴として蓄積されるマクロファージ泡沫化を観察す る細胞評価系で中性脂質生成阻害活性を確認したとこ ろ,PPPAは全く効果が認められなかった.当時,これ はPPPの細胞膜透過性が悪いことに由来するものであ ろうと判断し,酵素を用いた標的スクリーニングから細 胞を用いた表現型スクリーニングへと転換することとし た.
Beauveriolide類に関する研究 1. Beauveriolide類の発見
PPPAがマクロファージの泡沫化を観察する表現型ス クリーニングで活性を示さなかったことから,大量のサ ンプル数を評価するには適さないかもしれないが,この 細胞評価系をスクリーニング系として利用することとし た.マクロファージの泡沫化は生体内において動脈硬化 進展の初期に観察される過程(22〜24)であることから創薬 につながる評価系である.この評価系は当時,東大・薬 におられた井上圭三教授と新井洋由博士(現,教授)に よって確立されたものであり(25),共同研究としてスク リーニング系を構築した(26).変性LDLの代わりに酸性 リン脂質を含むリポソームを用いるとマウス腹腔マクロ ファージに取り込まれ,細胞内に脂肪滴(CEとTGと して蓄積)を形成する.これをオイルレッドOで染色 し,顕微鏡で観察する方法である.スクリーニングでは 図1■これまでに発見した脂質代謝阻害剤 の動物細胞における標的酵素(部位)
図2■真菌由来pyripyropeneの構造とその多様性
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
微生物の培養液をこの系に加え,脂肪滴が退縮あるいは 消失するものを選択する.細胞に対する毒性も同時に観 察できる.また,リポソーム添加と同時に[14C]オレイ ン酸([14C]Ole)を加えることにより,脂肪滴を構成す る[14C]CEと[14C]TGを定量することもできる.この スクリーニング方法により,微生物資源からbeauveri- olide 類,phenochalasin 類,K97-0239 類,quinadoline 類,isovisvertinol, sespendoleおよびspylidoneなど多く の機能分子を発見できた(3〜5)(表1).これら化合物の多 くは,その標的分子は未知であり,ケミカルバイオロ ジー研究への展開が必要である.
2. Beauveriolide IIIの立体化学
真 菌 sp. FO-6979の 培 養 液 か ら8成 分 の beauveriolide類(Beau)を単離した(27〜29).そのうち beauveriolide I(BeauI)は,山村らにより弱い殺虫活 性を示す化合物として報告されていた.(30) Beauveriolide III(BeauIII)は,アミノ酸分析よりL-Phe, L-Alaおよび
D- -Ileを 有 す る こ と,ヒ ド ロ キ シ 酸3-hydroxy- 4-methyloctanoic acid(HMA)の立体については,予 想される4種のHMA立体異性体を合成し,赤坂らによ り開発された不斉を有するアントラセン蛍光標識体(31) で誘導化後HPLCにより分析し,BeauIII由来のHMA と比較することにより(3 , 4 )HMAと決定した(32).最 終的にBeauIIIはBeauIと類似の13員環デプシペプチド 構造でありBeauIのD-Leu部位がD- -Ileに置き代わっ ていた(図3).
3. Beauveriolide IとIIIの培養による選択生産 BeauIとBeauIIIの構造を比較すると1アミノ酸部位
(D-LeuとD- -Ile)のみの相違のため,その物性が類 似し培養液からの分離が難しく,また生産量も両成分と も多くなかった(5〜6
μ
g/mL).そこで,Beauを構成 するアミノ酸に着目し,生産培養液中へのアミノ酸添加 によるBeauの生産量の向上を試みた(33).その結果,BeauIとBeauIIIを構成する共通のアミノ酸(L-PheとL- Ala)の添加では生産量はわずかしか上がらなかった
が,それぞれのD体アミノ酸に対応するL-Leuあるいは
L-Ileを0.2%添加する(D体そのものでは変化なし)こと により,それぞれの成分の生産量が選択的にかつ飛躍的 に向上することを見いだした(図4).すなわち,0.2%
L-Leu/0.2% L-Ileの 添 加 に よ り,BeauIの 生 産 量 は 142/3.9
μ
g/mL,一 方,BeauIIIは18/189μ
g/mLの 生 産 量となり菌体抽出物からシリカゲルカラムクロマトグラ フィーのみの精製により選択的に高収率でBeauIと BeauIIIを 得 る こ と が で き た.こ の よ う な 知 見 は Kleinkaufらによりenniatin類の生合成で1990年代に報 告されているが(34〜36),近年のゲノム解析からも,その 生合成酵素が基質としてD体アミノ酸を用いるのではな くL体アミノ酸を取り込み,それをエピマー化して縮合 することが明らかとなっている.4. Beauveriolideの標的分子と 活性
マクロファージ泡沫化阻害活性を示したBeauIと BeauIIIの標的分子を検討した.両化合物は[14C]Oleか ら[14C]TGや[14C]リン脂質の生成に全く影響を与え ず,[14C]CE生成を選択的に強く阻害した(BeauIと BeauIIIそ れ ぞ れ のIC50値 は0.78と0.41
μ
M).さ ら に,細胞内でのコレステロール輸送に対するBeauの作用点 を解析したところ,リソソームから小胞体へのコレステ ロール輸送以降の段階であることが明らかとなり,小胞 体膜酵素であるSOATが標的である可能性が考えられ た.そこで,マクロファージより調製したミクロソーム 画分を用いBeauIとBeauIIIのSOAT活性に対する影響 を調べたところ,その活性を阻害し,IC50値はそれぞれ 6.0と5.5
μ
Mであった.したがって,Beauの標的分子は SOATであると結論づけた(37).このようにBeauIIIは細 胞レベルでも毒性を示すことなくSOAT活性を強くし たことから,動物レベルで動脈硬化進展を抑えるかどう かに興味がもたれた.そこで石橋俊博士(当時は東大・医,現自治医大教授)の協力を得て,動脈硬化発症モデ ルマウス(アポリポタンパク質欠損マウスとLDL受容 体欠損マウス)を用いてBeauIIIの薬理効果を調べた.
2カ月間高脂肪食を与える条件下,BeauIII(25および 50 mg/kg/day)を2カ月間経口投与した結果,毒性を 示すことなく,動脈硬化病巣の進展を約30〜50%有意 に抑制した(37).この動物実験から,BeauIIIは新しい動 脈硬化予防治療薬のリードとして期待され,
(2004年1月19日号)にも取り上 げられた.
図3■真菌由来beauveriolide IとIIIの構造
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● 化学 と 生物
5. Beauveriolide誘導体
より優れた活性を示すBeau誘導体合成が実施され た.東工大の高橋孝志教授(現,横浜薬科大・教授)と 土井隆行博士(現,東北大・薬・教授)らは,Beauの 環状デプシペプチド構造に着目し,一挙に多数の誘導体 合成ができるコンビナトリアルケミストリーの手法を導
入した(38, 39).すなわち,固相上で目的の鎖状デプシペ
プチドを合成し,リンカーから切り出し後,最終的に液 相で環化させ,300種以上のBeau誘導体ライブラリを 構築した.これら誘導体についてはマクロファージ泡沫 化阻害活性を評価した.天然物より10倍以上CE生成を 強 く 阻 害 す る 誘 導 体(L-Phe部 位 をdiphenyl-L-Alaや -chloro-L-Pheに置換した誘導体)や溶解性が向上した 誘導体(L-Ala部位をD-Alaに置換した誘導体)を見い だしている(38〜42).そのいくつかについては動物レベル での評価を行っている.またこの合成過程で,環化され る前の鎖状デプシペプチドタイプは,全く阻害活性を示 さ な か っ た こ と か ら,環 状 デ プ シ ペ プ チ ド 構 造 が SOAT阻害には必須であることが明らかとなった(38). また,BeauIIIのHMA部分のみの立体が異なる4種の 誘 導 体((3 , 4 ),(3 , 4 ),(3 , 3 ) お よ び(3 , 4 ) BeauIII)も合成され検討した結果, 3 体のみがマ クロファージ泡沫化阻害活性を示し,3 体は阻害活性 を示さなかった(32)(図4).また,天然物と同じ立体を 示す(3 , 4 ) BeauIIIはCE生成を選択的に阻害したの に対し,(3 , 4 ) BeauIIIはCE生成のみならずTG生成 も阻害したことから,(3 , 4 )体の場合SOAT以外に TG生成に関与するタンパク質も標的としている可能性 が示された.これらの研究を通して,機能分子の立体と 生物活性発現の精密さを改めて知ることができた.
SOAT阻害剤の開発研究の転換期
SOATは小胞体膜タンパク質であり,その単離も報 告がなく,立体構造も不明なまま,今日まで阻害剤の開 発が進められてきた.このようにSOATタンパク質自 体の情報が不十分であるにもかかわらず,1990年代に 入り最初のSOAT遺伝子(後にSOAT1遺伝子と命名)
がヒトマクロファージからクローニングされ(43),その 後,続いて小腸や肝臓由来の細胞からSOAT2遺伝子が クローニングされた(44〜46).その後の研究から,SOAT1 はマクロファージや副腎などのすべての組織や細胞で広 く発現しているのに対して,SOAT2は小腸と肝臓にの み特異的に発現していることが明らかにされた(47).さ らに,SOAT1欠損マウスの解析から,脱毛やドライア イといった副作用と思われる表現型が観察され,動脈硬 化病巣がむしろ悪化するという報告もなされた(48〜50). 一方,SOAT2欠損マウスの解析では,重篤な副作用と みられる表現型は観察されず,小腸からのコレステロー ル吸収抑制と肝臓からのリポタンパク質分泌抑制によ り,動脈硬化病巣の進展を抑制することが報告され
た(51, 52).このようにSOATは生体内に2種のアイソザ
イムを有しており,その機能が異なっていることが明ら かとなってきた.しかし,これまで開発を試みられてき た阻害剤の多くはSOATアイソザイムに対する選択性 も不明なまま中断したと思われる.
Pyripyropene Aの再発見
2種類のSOATアイソザイムの存在が明らかとなり,
その機能や局在が大きく異なることから,これまでわれ われが関与してきた阻害剤がどのような特性を示すのか に興味を持った(53).そこで,L. L. Rudel教授(Wake Forest Univ., USA)らが作製したアフリカミドリザル 由来のSOAT1とSOAT2遺伝子を選択発現させたチャ イニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(54)(それぞれ SOAT1-CHO細胞とSOAT2-CHO細胞と略)を分与し ていただき,阻害剤のアイソザイムに対する選択性を細 胞レベルで評価した(55).表2に示しているように,われ われが発見した微生物由来の阻害剤の多くはSOAT1と SOAT2を同程度阻害するdual-typeの阻害剤であった
(selectivity index(SI) が−1.00か ら+1.00の 場 合 を dual-typeと定義).また過去に開発が中止された合成剤 CL-283,546は強力なdual-typeであり(55),Wu-V-23は強 力なSOAT1選択的阻害剤であった(54).少し奇妙に感じ た点として,2000年以降に臨床試験が中止されたava- 図4■アミノ酸添加によるbeauveriolideの選択生産とHMA部
分の立体の活性発現に対する重要性 矢印の太さにより生産性の上昇を表している.
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● 化学 と 生物
simibeとpactimibeは,弱いdual-typeの阻害特性を示 したことである(56, 57).最も興味を引いた点は,われわ れが発見したpyripyropene類が唯一SOAT2を選択的に 阻害し,中でもPPPAが最も高いSOAT2選択性(SI,
>+3.00)を示した.この結果は,PPPAがSOAT1を 発現するマクロファージの泡沫化を全く阻害しなかった という疑問点を説明するものであり,と同時にこれまで SOAT2選択的阻害剤からの創薬研究は全く手つかずの 領域であると考えられた.
Pyripyropene Aとbeauveriolide IIIを 利 用 し た SOATタンパク質の機能解析
これまで膜タンパク質であるSOAT1とSOAT2の単 離は成功しておらず,その3次元構造についても未知で ある.生化学的なアプローチからSOATの活性中心に ついてさまざまな見解が報告されている.Rudelらは両 アイソザイムとも5回膜貫通モデルを提唱している(58). そこで,SOAT2選択的阻害剤PPPAを用いて,SOAT2 酵素のどの領域がPPPAの選択的阻害活性発現に重要か を検討した(59).SOAT1とSOAT2のそれぞれの対応す
るドメイン領域を入れ替えてもSOAT活性は保持され るという特性を生かして,さまざまなキメラSOAT2を 作成し,PPPAに対する阻害活性が保持されるかどうか を検討した.その結果,SOAT2の5番目の膜貫通領域
(480Lか ら504R) をSOAT1の も の(502Mか ら526Q)
と入れ替えると,PPPAの阻害活性は完全に消失した.
さらに,SOAT2のこの領域のアミノ酸を,一つずつ対 応するSOAT1のアミノ酸と交換したところ,492Qと 493Vを そ れ ぞ れL, 494SをCに 入 れ 替 え た キ メ ラ SOAT2に対して,PPPAの阻害活性は減弱した.他の 部位を入れ替えたキメラSOAT2ではPPPAに対する阻 害活性は保持されたままであったことから,PPPAは SOAT2の5番目の膜貫通領域のQVS部位に非共有的に 特異的に結合し,その選択的な阻害活性を発揮している と結論した(59).また,PPPAのこの特性を利用して,ヒ ト肝臓のSOAT2は肝実質細胞に発現・機能しているこ と,また,その活性には個人差があること,さらに,こ の個人差が動脈硬化発症と関連している可能性を報告し た(47, 60).
また,BeauのSOAT阻害活性から奇妙な矛盾点を見 いだしていた(55).すなわち,BeauIとBeauIIIは,マウ スマクロファージやマウス肝臓から調製したミクロソー ムを酵素源としたSOAT活性評価ではSOAT1と2の両 活性を同程度阻害したが,SOAT1-/SOAT2-CHO細胞 を用いた細胞評価系ではSOAT1を選択的に阻害する
(表2)という点である.他の多くのSOAT阻害剤の場 合,アイソザイムに対する選択性は酵素レベルと細胞レ ベルで良い一致を示すが,BeauIとBeauIIIだけ一致し なかった.そこで,このBeauの酵素レベルと細胞レベ ルでのアイソザイムに対する選択性の差について検討し た(61).まず,超音波処理によるSOAT1-/SOAT2-CHO 細胞からのミクロソーム調製方法について検討した.細 胞を3分間(30秒を3回)超音波処理して調製したミク ロソームではBeauのSOAT1に対する選択性は保持さ れているのに対して,処理時間を5分,10分と長くして いくとSOAT2に対する阻害活性が認められるようにな りSOAT1選択性は失われた.次に,SOAT1/SOAT2- CHO細胞をdigitoninで処理し細胞膜のみの透過性を向 上させた細胞ではBeauのSOAT1に対する選択性は保 持されたが,saponinで処理し細胞膜と小胞体膜の両方 の膜透過性を向上させた細胞ではその阻害の選択性は失 われた.さらに,3分間超音波処理したSOAT1-/SO- AT2-CHO細胞から密度勾配遠心法により精製したイン タクトな小胞体を酵素源とした場合,BeauのSOAT1 に対する阻害の選択性は保持されていた.これらの結果 表2■SOAT阻害剤のSOAT1とSOAT2に対する選択性の比較
(細胞レベルでの評価)
化合物
IC50 (µM)
SI* 分類**
Macro-
phage SOAT1 SOAT2 微生物由来
Pyripyropene A >80 >80 0.070 >+3.00 SOAT2 Pyripyropene B 38 48 2.0 +1.38 SOAT2 Pyripyropene C 40 32 0.36 +1.95 SOAT2 Pyripyropene D 35 38 1.5 +1.40 SOAT2 Purpactin A 4.5 2.5 1.5 +0.23 Dual Glisoprenin A 12 4.3 10 −0.37 Dual Terpendole C 2.5 10 10 0 Dual Beauveriolide I 0.78 0.60 20 −1.52 SOAT1 Beauveriolide III 0.41 0.90 >20 <−1.35 SOAT1 Beauvericin 0.13 2.0 0.7 +0.46 Dual Spylidone 42 25 5.0 +0.70 Dual 7-Chlorofoli-
pastatin ̶ 3.2 4.5 −0.15 Dual KM2-16-A ̶ >57 21 >+0.43 Dual Clonoamide 16 39 110 −0.45 Dual Pentacecilide 3.7 1.1 0.69 0.20 Dual 合成品
CL-283, 546 0.035 0.10 0.09 +0.05 Dual Wu-V-2354) ̶ 0.01 1.5 −2.18 SOAT1 Avasimibe56) ̶ 18.7 19.1 0 Dual Pactimibe57) ̶ 8.3 5.9 +0.15 Dual K-60456) ̶ 0.45 102 −2.36 SOAT1
* Selectivity index (SI): log IC50 SOAT1 / IC50 SOAT2. ** Dual typeは−1.00≦SI≦ +1.00, SOAT1選 択 的 阻 害 はSI<−1.00, SOAT2選択的阻害は+1.00<SIと定義する.「̶」は未評価
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は,小胞体膜におけるSOAT1とSOAT2の活性中心の 配向性が異なっていることを示唆するものである.すな わち,BeauのSOAT活性に影響を与える領域(活性中 心)は,SOAT1では小胞体の細胞質側に,SOAT2で は小胞体の内腔側に存在していると推定される.また,
Beauは細胞膜を通過できる(トランスポーター介在 か?)が,小胞体膜は通過できないと考えられる.この ようにSOATに対する機能分子(BeauやPPPA)を利 用することにより,3次元構造未知のSOATタンパク質 の生体内/細胞内機能の一部を解析することができた.
Pyripyropeneからの創薬研究
これまで報告されたSOAT阻害剤のアイソザイムに 対する検討(表2)から,PPPAはSOAT2を選択的に 阻害する唯一の機能分子と考えられた.したがって,
SOAT2選択的阻害剤が動脈硬化症や脂質異常症へ有効 なのかどうかはまだ試みられてはいない.そこで,動脈 硬化発症モデルマウスを用いて,PPPA(10, 25および 50 mg/kg/day)を3カ月間経口投与した(62).その結果,
用量依存的に血中コレステロールが23〜31%と有意に 低下した.さらに興味深いことに,投与開始2週間目に は血中コレステロールは低下し,リポタンパク質の中で も悪玉コレステロールと言われるVLDLとLDLが有意 に低下していた.また,肝臓中のSOAT2により生成し 血中リポタンパク質中に導入されるコレステリルオレー ト(CO)値も,PPPA投与により有意に減少していた.
この結果は,PPPAが生体内でもSOAT2を選択的に阻 害していることを示している.投与開始3カ月後に大動 脈を摘出し,スダンIV染色により動脈硬化病巣を評価 したところ,50 mg/kg/day投与で動脈硬化病巣が約 50%に減少した.このように,PPPAを用いてSOAT2 を選択的に阻害することにより,血中コレステロール低 下作用と動脈硬化の進展抑制作用を示すことを初めて証 明した(62).
PPPAはその構造中に3箇所の -acetyl基を有してお り,これらはSOAT2阻害活性発現には必須であること から,生体内ではエステラーゼにより加水分解され薬理 効果が減弱する可能性が懸念された.そこで,ヒトを含 む各種動物由来の肝ミクロソーム中でのPPPAの代謝実 験を行ったところ,加水分解は1位に続いて11位で起こ ること,7位の -acetyl基は分解されにくいことが明ら かとなった(63).この結果を踏まえ長光亨教授(北里大 薬)らは,これら3カ所の -acetyl基にさまざまな官能 基を導入し,半合成的に新たなPPPA誘導体(PRD)を
約200種 創 製 し た(64〜66).そ れ ら に は7位 にbenzoyl基 を,加水分解されやすい1位と11位にはbenzylidene基 で架橋したPRDも含まれる.その結果,PPPAよりさ らにSOAT2阻害活性が強く選択性も向上したPRDを創 製することに成功した.細胞でのSOAT2に対する阻害 活性と選択性の結果(図5)から10種のPRDを選別し,
これらについてはさらにモデルマウスで2週間経口投与 による血中コレステロール低下作用を測定し,創薬候補 として3種のPRDを絞り込んでいる.これらPRDは,
動脈硬化発症モデルマウスにおいてPPPAより10〜50 倍の強い脂質低下作用と抗動脈硬化作用を示した(67). さ ら に 最 近,S. D. Turley教 授(University of Texas Southwestern Medical Center, USA)らは,細胞内の 酸性リパーゼ(LAL)の欠損が原因となり重篤な脂肪 肝を引き起こし,若くして死に至る難治性遺伝病ウォル マン病(WD)やCE蓄積症(CESD)のモデルマウス
(LAL欠損マウス)を用いて,PRD125がその発症の進 展を抑制することを報告した(68).このように,SOAT2 選択的阻害剤PRDは,脂質異常症予防治療薬や動脈硬 化予防治療薬としてのみならず,WDやCESDに対する オーファンドラッグ,さらに脂肪肝や脂肪肝炎などの脂 肪性肝疾患の予防治療薬としても実用化されることを期 待している.スタチンに続く微生物資源から脂質代謝領 域の医薬品としての発展を願っている.
図5■PPPA誘導体のSOATアイソザイムに対する選択性 それぞれの誘導体のSOAT1に対するIC50値を 軸に,SOAT2に 対するIC50値を 軸にプロットした.
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● 化学 と 生物
Dinapinone類に関する研究 1. Dinnapinone類の発見
前述のCHO細胞を利用したスクリーニングは,[14C]
Ole添加により[14C] CEの生成だけでなく[14C] TGの 生成も評価できるハイコンテントな評価系である.この ような点にも注目し,[14C] TGの生成を阻害するような 微 生 物 培 養 液 も 探 索 し て い る.こ の 過 程 で,真 菌
(旧名 )
FKI-3864株の培養抽出液が,細胞毒性を示すことなく TGおよびCEの両者の生成を阻害する(TG生成の方が 強く阻害される)という表現型を示した.この細胞を用 いたスクリーニング系では,このような表現型は非常に 珍しいことから選択した.活性を指標に活性物質を単離
精 製 し た と こ ろ,dinapinone A(DPA) を 発 見 し
た(69, 70)(図6).DPAを逆相系のODS C18カラムを用い
た分取HPLCにより精製した当初は単一の化合物である と考えていたが,各種機器分析の結果,2成分が混合し ている状態である可能性が示唆された.そこで,DPA をさらに逆相系のC30カラムを用いて精製したところ,
予想どおり2成分(存在比として約2 : 3)に分離し,そ れぞれ軸異性体の関係にあるdinapinone A1(DPA1)
( 体)およびdinapinone A2(DPA2)( 体)を取得 した.さらに FKI-3864株の培養液中か ら,DPAと同一のUV吸収スペクトルを有する類縁体 を探索し,最終的にDPABからDPAEまでの4種8成分 を新たに取得した(71)(図6).
図6■DP類の構造
図7■DPAの中性脂質生成阻害活性
(a) DPA, (b) DPA1, (c) DPA2による[14C]
Oleか ら の[14C]TG (■), [14C]CE(●) お よび[14C]PL(▲)生成に対する影響を調べ た.
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● 化学 と 生物
2. Dinapinone Aの中性脂質生成阻害活性
野生株CHO-K1細胞を用いて[14C] Oleから中性脂質
[14C] TGと[14C] CEの生成を測定する評価系を用いて DPAの影響を評価した.当初単一の化合物と考えてい たDPA(DPA1 : DPA2の約2 : 3の混合物)を評価したと ころ,[14C] TGと[14C] CEの両生成を強く阻害し,そ のIC50値はそれぞれ0.097および0.31
μ
Mと測定された.TG阻害のほうがやや強く現れる特色があった.一方 で,リン脂質(PL)の生成には影響を与えなかった
(図7).しかし,DPAは軸異性体の混合物であったこと から,いずれの軸異性体が活性の本体かを明らかとする ために,DPA1およびDPA2をそれぞれ単独で評価し た.すると驚くべきことに,DPA1単独では12
μ
Mでも TGおよびCEの生成を全く阻害せず,DPA2単独では TG(IC50値0.65μ
M) とCE生 成(IC50値5.2μ
M) を 阻 害したものの,混合状態と比べるとその活性は減弱した(図7).そこで単離したDPA1とDPA2をさまざまな比 率で再度混合したところ,阻害活性が回復し,DPA1と DPA2の混合比が1 : 1のとき(DPAmixと略)に最も強い 阻害活性が認められた(表3).このような軸異性体の 混合による活性増強は,ヒト子宮頸がん由来HeLa S3 細胞やヒト肝がん由来細胞HepG2細胞でも観察された.
また,CHO細胞においてDPAと同様の効果を,DPAC を除いて,その他のDP類も示した(表4).
3. DPAmixの標的分子の解析
まずDPAmixの阻害部位として,TGとCEの生合成に 関与する酵素を想定した.TGの生合成経路にはグリセ ロール3リン酸(G3P)経路とモノアシルグリセロール
(MG)経路が知られているが(72),MG経路は主に小腸に おける脂質の吸収過程に限定されることから,CHO-K1 細胞ではG3P経路によりTGが生成されると考えられ た.G3P経路の4つの酵素,グリセロール3リン酸アシ ル転移酵素(GPAT),アシルグリセロール3リン酸ア シル転移酵素(AGPAT),ホフファチジン酸ホスファ ターゼ(PAP)およびジアシルグリセロールアシル転 移酵素(DGAT)に対するDPAmixの阻害活性を評価し たが,12
μ
Mの濃度でも顕著な阻害活性は認められな かった.一方,CE生成酵素であるSOATに対しても,DPAmixにより顕著な阻害活性は認められなかった.ま たアシルCoA合成酵素にも阻害活性は示さなかった.
CHO-K1細胞を用いた評価では,[14C] Oleを加え6時間 というかなり長い作用時間で[14C] TGと[14C] CEの生 成を測定している.しかし,この作用時間を30分〜1時 間と短くするとDPAmixの阻害活性は非常に弱くなって しまう.これは上記のように[14C] Oleから[14C] TGと
[14C] CEへの生成過程を阻害していない結果をよく説明 している.したがって,次のDPAmixの標的として,中 性脂質の分解を促進している可能性を想定した.そこ で,次のような細胞評価系を構築しDPAmixの影響を調 べることとした.すなわち,CHO-K1細胞を[14C] Ole 存在下で24時間培養することで,あらかじめ[14C]脂 質を細胞内に蓄積させておく.その後,培地交換により 未利用の[14C] Oleを除去し,その後DPAmixを含有し た新しい培地で細胞を培養した.この培地交換の時点を 0時間目とし,継時的に細胞内および培養上清の[14C]
脂 質 を 回 収 し 定 量 し た(図8).0時 間 目 の 細 胞 内 の
[14C] TGもしくは[14C] CE蓄積量を100%とした際,コ 表3■軸異性体混合比の違いによるDPAが示す中性脂質生成阻
害活性の変化
Ratio (A1 : A2) IC50 (μM)
TG CE
1 : 0 (A1) >12 >12
5 : 1 >1.2 >1.2
4 : 1 >1.2 >1.2
3 : 1 >1.2 >1.2
2 : 1 >1.2 >1.2
1 : 1 0.054 0.18
1 : 2 0.073 0.19
1 : 3 0.16 0.18
1 : 4 0.25 0.71
1 : 5 0.24 0.51
0 : 1 (A2) 0.65 5.2
a [14C]TG degradation
% of control
50
0 100
10 5
0 15
[14C]CE degradation
10 5
0 15
Time (h)
b
PSL value (x 104) 12
6 18
0 0 2 6 9 12
Time (h)
PL Oleic acid Others Medium
PL TG CE Cell
図8■DPAmixが示す中性脂質分解促進活 性の生化学的解析
(a) DPAmix処 理(0(○),0.12(▲),1.2
(●),12(■) μM) に よ る 濃 度 依 存 的 な
[14C]TGおよび[14C]CEの分解促進活性.
(b)DPAmix 12 μM処理時の細胞内および 細胞外の[14C]脂質のプロファイル.
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● 化学 と 生物
ントロールでも時間経過とともに徐々に蓄積量は減少し ていくが,それと比較してDPAmixを1.2
μ
M以上作用さ せることにより,細胞内[14C] TGもしくは[14C] CEの さらなる減少が確認された(図8a).0時間目の[14C]脂質量の半減期(LT50)は,コントロールでは[14C]
TGおよび[14C] CEともに12 時間以上であったのに対 し,DPAmix 12
μ
M存 在 下 で は[14C] TGは 約2.5時 間,[14C] CEは約4時間と算出され,用量依存的に中性脂質 の分解が促進していることが示された.また,分解され た 細 胞 内[14C] TGと[14C] CEの 量 に 対 応 し た[14C]
Oleが培養上清から回収された(図8b).このDPAmixに よる中性脂質分解促進効果は細胞内に蓄積した脂肪滴の オイルレッドO染色による観察でも確認できた(図9). 脂肪滴の分解経路として,リポリシス(73)とオート ファジー(74)が報告されている.リポリシスは脂肪細胞 で起こっており,
β
受容体が引き金となり進行する.CHO細胞は
β
受容体を発現していないことからオート ファジーに着目した.オートファジーは2016年ノーベ ル医学・生理学賞を受賞された大隈良典先生の研究テー マで一躍注目を浴びた細胞機能の1つである.オート ファジーによる脂肪滴分解は,リポファジーとも呼ばれている(74).そこで,DPAのオートファジーへの影響を 検討した.CHO-K1細胞をDPAで処理して6時間後に 細胞ライセートを調製し,オートファジーのマーカータ ンパク質である,microtubule-associated protein light chain 3(LC3)(75)とp62(SQSTM1/sequestosome 1)(76) を ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ で 解 析 し た(図10a). DPAmix処理した細胞では,化合物の用量依存的にLC3- II量の増加と,p62量の減少が認められ,DPAmixはオー トファジーを誘導していることが示唆された.一方,
DPA1およびDPA2単独処理では,LC3-II量の増加は僅 かであったが,軸異性体の混合(DPAmix)により,表 現型が顕著に変化する現象は,中性脂質分解促進作用と 良い一致を示した.また,DPAmix 12
μ
Mでは,LC3-II 量の増加は化合物処理1時間後から顕著に観察され,一 方で,p62量は化合物処理3時間後から明確にその減少 が認められ6時間後にはほぼ消失していた(図10b).こ のp62の消失時間は,細胞内[14C] TGおよび[14C] CE の半減期と良い相関を示した(図8a).以上のことよ図9■DPAmixが示す脂肪滴分解促進活性の形態学的解析 Bars; 20 μm
図10■DP類が示すオートファジー促進活 性
(a) DPAが示すオートファジーへの影響.
(b)DPAmix 12 μMが示すオートファジーへ の影響の継時変化.(c)DP類が示すオート ファジーへの影響.
表4■DP類の軸異性体による中性脂質生成阻害活性の変化 Compound IC50 (μM)
TG CE
DPA1 >12 >12
DPA2 0.65 5.2
DPAmix 0.054 0.18
DPAB1 >12 >12
DPAB2 1.1 >12
DPABmix 0.030 0.089
DPAC1 >11 >11
DPAC2 >11 >11
DPACmix >11 >11
DPAD1 >12 >12
DPAD2 4.2 >12
DPADmix 0.20 4.4
DPAE1 4.8 >11
DPAE2 4.3 >11
DPAEmix 0.13 6.3
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り,DPAが示す中性脂質への影響とオートファジーへ の影響は密接に関係しているということが示された.
そのほか,DP類についても同様にLC3-IIを指標に オートファジーへの影響を調べたところ,DPABmix, DPADmixおよびDPAEmixで濃度依存的なLC3-II量の増 加が見られ,その強さはDPABmixが一番顕著であり,
DPADmixおよびDPAEmixは同程度であった.一方で,
DPACmixはLC3-IIの増加を示さなかった(図10c).こ のLC-II誘導の強さは,これらDP類の中性脂質蓄積阻 害活性の強さと良い一致を示した(表4).この結果も DP類の中性脂質への影響とオートファジーとの関連性 を強く支持した.現在はこれまでの研究結果を基盤とし て,DPAの標的分子を解明するべくさらなる研究を進 めている.
おわりに
現在,多くの企業が微生物を含め天然資源からの創薬 研究から離れ,抗体医薬開発に焦点を置いている.また 脂質異常症の治療薬としてスタチンだけでこの領域の治 療薬は充分足りているとされ,企業は新しい医薬品開発 に消極的である.しかし,LDL受容体の加水分解に関 与するプロテアーゼPCSK9に対する抗体医薬が臨床で 使用された.日本における微生物資源からの創薬研究 は,スタチンをはじめエバーメクチンやタクロリムスな ど大きな足跡を残し,世界に大きく貢献してきた実績が ある.天然資源からの新しい化合物の報告は,ゲノム工 学などの急速な発展とともに実は級数的に増加してい る.単なる新しい化合物というだけでなく,生物/生理 活性というもう一つの重要なファクターを加味して,さ らにこの領域の研究が進展することを期待している.そ ういう意味においても,アカデミアでの研究は今後その 重要性が増えていくものと考える.われわれも脂質代謝 領域研究においてスタチンに継ぐような創薬につながる 研究を展開し続けたいと願っている.
謝辞:本研究で述べた化合物の起源は,私が北里研究所そして北里大学 北里生命科学研究所に在籍していたときの研究に端を発している.改め て北里大学・特別栄誉教授の大村 智先生に感謝いたします.本研究は,
医薬基盤研究所(06-45),科研費基盤研究A(26253009),科研費基盤研 究B(18390008)そして武田科学振興財団2016年度特定研究助成からの 助成によって実施されたものである.ここに感謝申し上げます.
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日本農芸化学会
● 化学 と 生物
プロフィール
供 田 洋(Hiroshi TOMODA)
<略 歴>1978年 東 京 大 学 薬 学 部 卒 業/
1983年同大学大学院薬学系研究科博士課 程修了/1983〜1991年(社)北里研究所研 究員(この間1987年7月〜1989年2月米国 ジョンズホプキンス大学博士研究員)/
1991年(社)北里研究所主任研究員/2001 年(学)北里大学北里生命科学研究所・大 学院感染制御科学府教授/2005年(学)北 里研究所・北里大学薬学部微生物薬品製造 学教室教授<研究テーマと抱負>研究テー マ:微生物資源からの低分子機能物質(特 に脂質異常症と感染症に対する化合物)の 検索と創薬のための基礎研究.抱負:微生 物は環境の変化とともに多様な構造を有す る低分子化合物を作り出す.その潜在能力 を生かしアカデミアからの創薬につなげた い<趣味>テニス
Copyright © 2018 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.56.171
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