六下『言葉は時代とともに』 (
日本の名作 30 ページ)
明 めい治 じ・大 たい正 しょう時代に書かれた日本の名作を読んでみましょう。
『吾 わが輩 はいは猫 ねこである』(夏 なつ目 め漱 そう石 せき) 夏目漱石が、明治三十八(一九〇五)年に発表した作品。猫の目から人間社会を見るという、当時としては新しい書き方がされ、多くの人に読まれました。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生 うまれたか頓 とんと見当がつかぬ。何でも薄 うす暗いじめじめした所でニ (ニャー)ヤーニ (ニャー)ヤー泣いて居 ゐた事丈 だけは記憶 おくして居る。吾輩はここで始めて人間といふ (ウ)ものを見た。
『山椒大夫』(森鴎外) さんしょうだゆうもりおうがい
森鷗外は、夏目漱石とならんで日本の明治・大正時代を代表する作家の一人。この作品は、大正四(一九一五)年に発表した、昔話をもとにした物語です。
越 ゑち後 ごの春 かすが日を経 へて今 いま津 づへ出る道を、珍 めづらしい旅人の一 ひと群 むれが歩いてゐ (イ)る。母は三十歳 さいを踰 こえたばかりの女、で二人の子供 どもを連れてゐ (イ)
る。姉は十四、弟は十二である。それに四十位の女中が一人附 ついて、草 くたび臥れた同 はら胞 から二人を、「もうぢ (ジ)きにお宿にお著 つきなさいます」と云 いつ (ッ)
て励 はげまして歩かせようとする。
『蜘蛛の糸』(芥川龍之介) くもあくたがわりゅうのすけ
芥川龍之介が、大正七(一九一八)年に発表した作品。人間の欲望を題材に書いています。 越後(現在の新 にい潟 がた県。) (イ)
(ズ)(エ)
同胞(きょうだい)
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或 ある日の事でございます。御 お迦 しゃ釈 か様は極 ごく楽の蓮 はす池のふちを、独りで ぶらぶら御 お歩きになつ (ッ)ていらつ (ッ)しや (ャ)いました。池の中に咲 さいてゐ (イ)る 蓮の花は、みんな玉のや (ヨウ)うにまつ (ッ)白で、そのまん中にある金色の蕊 ずゐ
からは、何とも云 いへ (エ)ない好 よい匂 にほひが、絶 たえ間 まなくあたりへ溢 あふれて居 をりま す。極楽は丁 ちやうど度朝なのでございませ (ショウ)う。 『小諸なる古城のほとり』(島崎藤村) こもろこじょうしまざきとうそん
島崎藤村は、明治から昭 しょう和 わ時代にかけて活躍 やくした詩人・作家。この作品は、明治三十八(一九〇五)年に発表したもので、一時暮らした長 なが野 の県小諸市の風景をうたっています。
小諸なる古城のほとり 雲白く遊 いう子 し悲しむ 緑なす蘩 は萌 もえず 若草も藉 しくによしなし しろがねの衾 ふすまの岡 をか辺 べ
日に溶 とけて淡 あは雪流る あたゝ (タ)かき光はあれど
野に満つる香 かをりも知らず 浅くのみ春は霞 かすみて 麦の色はつかに青し 旅人の群 むれはいくつか 畠 はた中 なかの道を急ぎぬ 暮れ行けば浅 あさ間 まも見えず
歌哀 かなし佐 さ久 くの草笛 千 ち曲 くま川 がわいざよふ (ウ)波の 岸近き宿にのぼりつ 濁 にごり酒濁れる飲みて
草 くさ枕 まくらしばし慰 なぐさむ 遊子(旅人)蘩(春の七草の一つ。)藉 しく(敷 しく)よしなし(方法がないこと。)しろがねの衾(銀色のふとん。)岡辺(岡の辺り。) (ニオイ) (ズイ)
(オ)
(チョウド) (シャ)
(オカベ)
(アワ)(カオリ) (ユウシ)
はつかに(物事の一端 たんが少し表れること。)
佐久(長野県佐久市) はこべ
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