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最も初期生命に近いバクテリア - J-Stage

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【解説】

最も初期生命に近いバクテリア

髙見英人

初期生命はいつどんな環境のもとで形作られ,どのようなも のだったか? また,この初期生命がどのように進化し,現 在私たちの身の回りに数多く存在するバクテリアやアーキア へと進化を遂げたのであろうか? 私たちヒトも生き物であ る以上,科学者のみならず誰でも共通に抱く疑問であろう.

初期生命がもつ機能は単純で地球が本来もつ物理・化学的な エネルギーによって支えられたと考えられている.現在の地 球環境にも,初期生命誕生の頃に近い環境が残されていると するならば,初期生命に近い姿を残した微生物が現存するの だろうか? 微生物の多くが難培養性であることはよく知ら れているが,近年急激に発展しつつあるメタゲノミクスを用 いれば,培養に依存せずゲノム情報から初期生命の姿に迫れ るかもしれない.本稿では,初期生命進化のシナリオとメタ ゲノミクスによって最近得られた最も初期生命に近いバクテ リアについての知見を紹介する.

生命はどこで誕生したか

16S rRNA遺伝子に基づく系統樹が原核生物の進化系 統を議論する際によく用いられるが,これらの系統樹に

よれば,最も早期に共通祖先系から分岐したと考えられ る バ ク テ リ ア の 多 く が  , 

,  門などに属する好熱性菌である.し たがって,バクテリアは好熱性の祖先から誕生したとす る説が広く一般的に受け入れられているが(1, 2),必ずし も普遍的に受け入れられているわけではない.実際,系 統解析の手法を変えることで,バクテリアはもともと常 温性で,その後好熱性を獲得したとする説もあり(3),初 期生命像の姿については議論が絶えないところである.

一方,今から30年以上前に深海熱水システムが発見さ れたことにより,原始生命を育んだ初期地球環境の背景 が地質学的,地球化学的観点から推測され,これにより バクテリアの好熱性祖先説が信憑性を帯びてきてい

(4, 5).深海熱水システムが見つかった当初は,そのイ

ンパクトの大きさからあらゆるタイプの熱水システムが 初期生命を育む揺りかごになりうると考えられていた.

しかし,300℃を超える熱水が吹き出す深海熱水孔は,

初期生命を形作る環境としては熱すぎるとの反論もあ り,現在では大西洋中央海嶺の近くで発見された Lost  City  熱水域などのアルカリ性で水素が豊富な低温の熱

(6, 7),インド洋の海嶺熱水域のような高温で水素が豊

Bacteria Earliest Diverged from Last Universal Common Ances- tor

Hideto TAKAMI, 海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域

(2)

富なブラックスモーカー(8, 9),累代や始生代初期の強ア ルカリのホワイトスモーカーなどが最も初期生命誕生の 場所として妥当と考えられている(10)

初期生命の生化学的反応に関しては,Wächtershäu- serの先駆的研究によって「初期生命における表面代謝 理論」がまとめられている(11).また近年では,アルカ リ熱水鉱床チムニーにおける生命誕生以前のプロトタイ プの細胞質や生化学的進化に関するシナリオがCO2固 定を行うアセチルCoAパスウェイやプリンやピリミジ ン成分の合成を導く中央中間代謝の進化プロセスから説 明されている(12).さらに,アセチルCoAパスウェイに よる酢酸生成やメタン生成が,最初の自由形原核(バク テリアとアーキア)細胞の祖先的エネルギー代謝形であ ろうと推測されている.一方,水素や二酸化炭素,アン モニアなどが豊富に湧き出す環境は深海熱水域だけでは なく,地下深部環境にも存在する.一例として,浅熱水 性の地下鉱山には,地下のマグマによって熱せられた 70℃ぐらいのお湯が水素や二酸化炭素,メタンなどのガ ス成分とともに湧き出す場所がある(13).したがって,

現地球環境で初期生命の痕跡が残されているとすれば,

やはり深海熱水域や地下深部の熱水環境などが最も可能 性が高い場所なのであろう.

未培養の好熱菌グループ

コロラド大学のNorman Paceらの研究グループは,

米国ワイオミング州のイエローストーン国立公園の熱水 溜り (75 〜95℃) のサンプルから培養に依存しない16S  rRNA遺伝子の分子系統解析によって,これまでの分類 系統群(門レベル)に帰属しない新しいバクテリアの分 類群 (Candidate division) に属するクローンを数多く検 出した(14).それらの系統群は Obsidian Pool  で分離さ れたことからその頭文字をとって,OP1 〜 OP11と名づ けられたが,そのうちの OP1, OP9  の一部,OP10(現 在では数株が培養されているがその菌学的性質は大きく 異なる(15)),OP12に属するクローンの一部はそのGC含 量の高さから生育上限温度が75℃を超える好熱性菌で あると推測されている.一般に,ゲノム全体のGC含量 と生育温度には何の相関もないが,16S rRNA遺伝子の GC含量と生育温度には相関関係があることが知られて おり,GC含量が60%を超える場合はほぼ間違いなく好 熱性菌である(16).特に,OP1クローンは,いくつかの 深海熱水環境,アイスランドのアルカリ性地下熱水や米 国ネバダ州のグレートベイスン国立公園北西部の温泉な どからも検出されている.また,国内では浅熱水性鉱山

の弱酸性 (pH5.1) で酸化還元電位の低い (−130 mV) 

約70℃の温泉水の流路に繁茂する微生物マットからも OP1クローンが検出されている(13)

ところで,これら未培養の好熱菌性群は既知のバクテ リ ア と ど の よ う な 系 統 的 関 係 に あ る の だ ろ う か? 

OP1, OP9, OP10など好熱菌と予想される菌群を含む Candidate divisionと既知の主な門に属する生物種の 16S rDNA配列をもとにアーキアを外群として系統樹を 最尤法で書くと,サーモトガ ( ) 門がバク テリアとアーキアの共通祖先から最も早期に分岐したよ うに見える(図

1

.この系統樹は見慣れた系統樹の一 つではあるが,一つの門やCandidate divisionに属する 菌株やクローンのどの配列を解析に用いるかによって樹 形が容易に変わるので,16S rDNAに基づく系統樹だけ から系統進化を語ることは難しい.一方,Candidate di- visionの 系 統 的 位 置 は,OP11とOP1が , 

,  門 に 近 く,

や 門よりも共通祖先から早期に 分岐したように見える.しかし,OP11は16S rDNAの

Proteobacteria Cyanobacteria

Fusobacteria Firmicutes

Chrysiogenetes Deferribacteres

Caldiserica Synergistetes OP9 Chloroflexi Dictyoglomi OP10

Actinobacteria

Chlamydiae Lentisphaerae Verrucomicrobia NitrospiraeOP3

Fibrobacteres Gemmatimonadetes AcidobacteriaOP8

OP2Chlorobi Spirochaetes Thermodesulfobacteria

Aquificae

Deinococcus-Thermus

OP1 OP11

Thermotogae Archaea

534

585 916

875

546

1000

756 651

805 584

555 637

794 675

672 541

524

654

0.06

Planctomycetes

Bacteroidetes

図116S rRNA遺伝子に基づき最尤法により作成された系統樹

外群はアーキア.図中の数値はブートストラップ値.

(3)

GC含量と生育温度の相関から好熱性菌とは予想されて いないため,バクテリアが好熱性の祖先から誕生したと する仮説は,この系統樹を見る限りでは必ずしも支持さ れていない.したがって,共通祖先から初期に分岐した と考えられる未培養菌のゲノム情報なくして,バクテリ アの初期進化に関する考察をこれ以上深めることには無 理があると思われる.

環境中から未培養菌のゲノム情報を得るメタゲミク ス

先に述べたように,現地球環境から初期生命の痕跡を 探すとすれば,深海熱水域や地下深部の熱水環境などが 最もその可能性が高い場所と考えられる.しかし,初期 生命の痕跡を色濃く残すバクテリアがいるとすれば,機 能分化した現代のバクテリアとは異なりエネルギー効率 が悪く増殖速度も遅い原始的で単純な細胞である可能性 が高いので,分離・培養にはかなりの困難が予想され る.実際,私たちが分離・培養できる環境微生物は全体 の10%未満と考えられていることからも,分離・培養 に依存したゲノム情報の収集はあまり現実的ではなく,

培養に依存せずゲノム情報を得るメタゲノミクス的アプ ローチが現状最も有効な手段と考えられる(17)

筆者らの研究チームでは,Candidate division OP1 の 16S rDNAクローンが検出された浅熱水性鉱山から湧き 出る約70℃の温泉水の流路に繁茂する微生物マットに 着目し,かき取ったバイオマットから培養を介さず直接 DNAを抽出しフォスミド(メタゲノム)ライブラリー を作製した(18).3,375のフォスミドクローンのうち,異 なる生物種の16S rRNA遺伝子を含む15クローンとラ ンダムに選択した136クローンを合わせた151クローン の全塩基配列を決定し,それぞれのクローンにコードさ れる遺伝子のアノテーションを行った.これらの遺伝子 は少なくとも15生物種のゲノム断片に由来するので,

各アミノ酸をコードするコドン使用頻度の違いに基づき フォスミドクローンのクラスタリング解析を行ったとこ ろ,OP1生物種に由来するゲノム断片が全体の約2割

(34クローン)存在することがわかった(図

2

.そこで さらにOP1ゲノムに由来するフォスミドクローンを集 めるため,全3,375のフォスミドクローンの両端配列

(両端から約700塩基)を決定し,その配列中に見いだ

図2コドン使用頻度パターンによ るメタゲノム配列の階層的クラスタ リング

赤のラインは同一種グループと評価 されるライン.青の四角は同一種由 来のフォスミドクローンのグループ.

青の矢印は16S rRNA遺伝子を含む フォスミドクローン.*は部分的16S  rRNA遺 伝 子 を 含 む フ ォ ス ミ ド ク ロ ー ン.青 字 は  ʻA. autotrophi- cumʼ 由来のフォスミドからアセンブ ルされたコンティグ.緑の四角には 16S rRNA遺伝子を有するフォスミド クローンが含まれないが,遺伝子の 相同性の高さから 

 と同定された.(A) 階 層的クラスタリングにおける各フォ スミドクローンの関係性 (B)   ʻA. 

autotrophicumʼ  クラスター内のフォ スミドクローンとコンティグの関係 性.

JFF006_C06 JFF014_B06 JFF008_F10 JFF022_C11 JFF037_F03 JFF009_D09 JFF013_D05 JFF001_A04 JFF033_C03 JFF016_E03 JFF048_A06 JFF003_C06 JFF051_E10 JFF038_G10 JFF011_H08 JFF014_G08 JFF055_G01 JFF019_G07 JFF045_G04 JFF022_C05 JFF048_D12 JFF005_B10 JFF003_B08 JFF054_B02 JFF017_E05 JFF044_F02 JFF051_C01 JFF040_G09 JFF001_E07 JFF004_B01 JFF032_G01 JFF004_D09 JFF012_F11 JFF015_A06 JFF042_A12 JFF001_C09 JFF016_E07 JFF015_F08 JFF005_E10 JFF030_F01 JFF007_C12 JFF031_D07 JFF008_D11 JFF029_A09 JFF049_B11 JFF004_H05 JFF027_F06 JFF036_A01 JFF046_H12 JFF048_B01 JFF001_E02 JFF001_H03 JFF006_F06 JFF008_F07 JFF004_A11 JFF037_H05 JFF003_H09 JFF050_D11 JFF035_B12 JFF054_G04 JFF052_D02 JFF020_D08 JFF021_E10 JFF021_A08 JFF001_C04 JFF017_E10 JFF053_C10 JFF002_E06 JFF052_A12 JFF031_E01 JFF047_C08 JFF032_F05 JFF036_B04 JFF013_G06 JFF035_G12 JFF051_D07 JFF052_F12 JFF028_H07 JFF041_F10 JFF043_B07 JFF050_B12 JFF023_G10 JFF027_H04 JFF013_E04 JFF003_A04 JFF022_A10 JFF054_F02 JFF013_B08 JFF021_E04 JFF055_E10 JFF003_C01 JFF022_D11 JFF028_D03 JFF010_H10 JFF017_D01 JFF010_C03 JFF003_G12 JFF018_H05 JFF052_F08 JFF027_G12 JFF007_E12 JFF029_C06 JFF033_H03 JFF006_F04 JFF001_E03 JFF023_B02 JFF027_B02 JFF032_H02 JFF050_F04 JFF052_E02 JFF042_G09 JFF001_F09 JFF024_F10 JFF054_D01 JFF003_G07 JFF045_C08 JFF042_G03 JFF046_A05 JFF042_E07 JFF047_C12 JFF031_F10 JFF040_A07 JFF051_E07 JFF053_H06 JFF017_C12 JFF053_F08 JFF055_D02 JFF006_E10 JFF014_E04 JFF016_H05 JFF037_A11 JFF007_F09 JFF029_E04 JFF040_C01 JFF001_H02 JFF011_H10 JFF022_F09 JFF055_C09 JFF052_D10 JFF052_F07 JFF030_F06 JFF016_D08 JFF025_A04 JFF029_F10 JFF004_H08 JFF006_G04 JFF037_B02 JFF046_F11 JFF004_D06 JFF051_G12 JFF045_C05

0.01

*

Planctomycetes

Chloroflexi (Anaerolineae)

γ-proteobacteria

δ-proteobacteria candidate division OP1

Unclasseified bacteria GAL08 β-proteobacteria Chlorobi(lineage5)

α-proteobacteria Aquificae

HWCGI

HWCGIII

Deinococcus-Thermus

(Methylohalobius crimeensis)

(Hydrogenophilus thermolutolus)

(Hydrogenobacter thermophilus)

(Thermus thermophilus)

Chlorobi Chlorobi(lineage5)

Chloroflexi (Anaerolineae)

(A)

JFF031E01 JFF047C08 JFF032F05 JFF036B04 JFF013G06 JFF035G12 JFF051D07 JFF052F12 JFF028H07 JFF004A11 JFF037H05 OP1_contig_3 OP1_contig_4 OP1_contig_2 OP1_contig_1 JFF052D02 JFF035B12 JFF054G04 JFF021A08 JFF020D08 JFF021E10 JFF003H09 JFF050D11 JFF001E02 JFF001H03 JFF006F06 JFF008F07 JFF001C04 JFF017E10 JFF053C10 JFF002E06 JFF052A12 JFF041F10 JFF043B07 JFF050B12 JFF023G10 JFF027H04 JFF013E04

(B)

Ca. ‘A. autotrophicum’

(4)

された遺伝子(完全長および不完全長)のコドン使用頻 度がOP1ゲノム由来と判別されたクローンと類似する 176クローンを選別した.次に,選別された176クロー ンの全塩基配列決定を行い,すでに配列決定された34 クローンとアセンブルを行ったところ,176クローンの うち143クローンがコンティグ形成に寄与し,結果的に 4コンティグ(全コンティグ長は約2 Mb)が形成され た.これらのコンティグの均一性を確認するため,先に 151クローンを用いて行ったコドン使用頻度による解析 を再度これら4コンティグを加えて行ったところ,アセ ンブルされた4コンティグ間のコドン使用頻度パターン がほかのどのクローンよりも近く,OP1に属する同一種 由来の均一性の高いゲノムと判断された(図2).そこ で筆者らは,この未培養菌を   ʻAcetother- mus autotrophicumʼ (  ʻA. autotrophicumʼ) と命名し た.

次に,今回アセンブルされた4コンティグが   ʻA. 

autotrophicumʼ  が本来もつゲノムの何割程度カバーし ているのかを見積もるため,これまでゲノム配列が決定 された1.5 Mb以上のゲノムを有するすべてのバクテリ アのうち95%以上が共有する306遺伝子の保存性を調べ たところ,約73%の遺伝子が   ʻA. autotrophicumʼ ゲ ノム断片に保存されていた.この結果から,本菌のゲノ ムサイズを計算すると約2.7 Mbと見積もられた.つま り,フォスミドクローンの挿入断片の平均長を40 kbと すると,まだ17クローン分の情報が不足していること になるが,メタゲノミクス的アプローチは,未知なる未 培養菌の実態を知るうえで最も効果的な手法であると言 える.

一方,未培養菌のゲノムを再構築するもう一つの手段 として用いられているのがシングルセルゲノミクス 

(single cell genomics) である.これは,環境中から単 離した1細胞のゲノムDNAを増幅し,次世代シーケン

サーを用いてゲノム配列を解読する方法で,近年 Can- didate division OP11 に属する細胞のゲノム再構築が試 みられている(19).報告によると,ゲノムDNA増幅の偏 りの問題などから,まだ270 kbのコンティグにまでし かアセンブルできていないが,今後環境メタゲノミクス とシングルセルゲノミクスを組み合わせた手法を用いる ことで,未培養菌のゲノム情報をさらに効率良く取得す ることが容易になると期待される.

 ʻAcetothermus autotrophicumʼ の系統的位置 再構築された4コンティグには46のtRNA遺伝子と3 つの rRNA (5S, 16S, 23S) 遺伝子,1,980のタンパク質 をコードする遺伝子が含まれていた.そこで,367種の 原核生物(バクテリアとアーキア)と   ʻA. autotro- phicumʼ に広く保存されている4つの遺伝子産物 (Pgk,  Pyr, Rplk, Rpsl) を連結したアミノ酸配列を用いて最尤 法による系統樹の作成を行った(17).その結果,図

3

Aに 示したように   ʻA. autotrophicumʼ  は,今回用いた 368原核生物の中では,バクテリアとアーキアの共通祖 先から最も初期に分岐した種であることがわかり,この 結果は高いブートストッラプ値からも強く支持されてい た.次に,  ʻA. autotrophicumʼ  を含む358のバクテ リアに広く保存されている16の遺伝子産物 (DnaG, Frr,  InfC, NusA, pgK, PyrG, RplA, RplK, RplL, RplS, RplT,  RpmA, RpoB, RpsB, RpsI, SmpB) を連結したアミノ酸 配列を用いて同様に系統樹を作成したところ,先の系統 樹の樹形と類似の樹形を示した(図3B).部分的な樹形 はアーキアを含めた原核生物(図3A)とバクテリアの み(図3B)の系統樹間で若干異なるが,  ʻA. auto- trophicumʼ の系統的位置が 門や

門に近い点は両者の間で再現性が高く,

16S rDNA配列に基づく系統樹の結果からも支持されて

図3  ʻA. autotrophicumʼ の系 統的位置

(A) バクテリアとアーキア(368種)

に共通な4つのタンパク質を連結し たアミノ酸配列を基に最尤法で作成 された系統樹.(B) 358種のバクテリ アに共通な16種のタンパク質を連結 したアミノ酸配列を基に最尤法で作 成された系統樹.図中の数値はブー トストラップ値.

0.3 OP1

92

100 100

92 84

100

76 84

100

69 93

100 56

10096 99 76

α-proteobacteria γ-proteobacteria

β-proteobacteria

δ-proteobacteria Acidobacteria Bacteroidetes Chlorobi Chlorofrexi Cyanobacteria Actinobacteria Tenericutes

Firmicutes

Spirochaetes Deinococcus/ThermusThermotogae Euryarchaeota Crenarchaeota ThaumarchaeotaPlanctomycetesChlamydiae

ε-proteobacteriaunclassified γ-proteobacteria

Aquificae OP1 0.3

100

94 68 100

100 100

93 96

97 97

100 100

98 100

96 67 95

100

65 100

100 99

51

γ-proteobacteria

α-

proteobacteria

δ-proteobacteria Acidobacteria Tenericutes

Firmicutes

Chloroflexi Cyanobacteria Actinobacteria

β-proteobacteria

Thermotogae Deinococcus/ThermusSpirochaetes

Chlorobi Bacteroidetes Chlamydiae

ε-proteobacteria Aquificae

Thermotogae

unclassified

(A) (B)

(5)

いる.一方,  ʻA. autotrophicumʼ  の16S rRNA遺伝 子のGC含量は61.9%で,先に述べたように,この値か ら推測される生育上限温度はおよそ85℃であった.  

ʻA. autotrophicumʼ のゲノムが分離された熱水環境の温 度が70℃であることからも本菌が好熱性菌であること を疑う余地はなく,  ʻA. autotrophicumʼ は既知のバ クテリアのなかで最も共通祖先から初期に分岐した好熱 菌であることがわかった.

アセチルCoAパスウェイ

MartinとRussellの仮説によれば,生命誕生以前のプ ロトタイプの細胞における生化学反応の根幹を担う代謝 経路がCO2固定を行うアセチルCoAパスウェイで,こ の経路を通した酢酸生成によるエネルギー獲得を行う細 胞がバクテリアへ,メタン生成によるエネルギー獲得を 行う細胞がアーキアへ進化したと考えられている(12). 実際,アセチルCoAパスウェイはバクテリアとアーキ

アに共有されており, 門に属するメタン 生成アーキアのなかには共通祖先から初期に分岐したと

考えられている超好熱性の    や 

などにこのパスウェイが存 在する.しかし,バクテリアの場合は,共通祖先から初 期に分岐したと考えられている  , 

,  門などに属する好熱性菌にはア セチルCoAパスウェイの存在が知られていない.した がって,MartinとRussellの仮説が正しいとすれば,ア セチルCoAパスウェイをもつ共通祖先に近い未知なる バクテリアが存在するはずである.そこで,Candidate  division OP1 に属する   ʻA. autotrophicumʼ のゲノム 情報をもとにアセチルCoAパスウェイに関与する遺伝 子の有無を調べたところ,既知のバクテリア(

門に属する (20))が有す るこのパスウェイに関与する遺伝子がすべて揃っている ことがわかった(18)

5つ の 酵 素(バ ク テ リ ア で はAcsA-Dお よ びAcsF, 

図4ACDS複合体と由来生物種の

系統16S rRNA遺伝子に基づく系統 樹

(A) ACDS複合体を構成する5つの 酵素を連結し最尤法にて作成した系 統樹.(B) ACDS複合体を有する由 来生物種の16S rRNA遺伝子配列に 基づき最尤法で作成された系統樹.

図中の数値はブートストラップ値.

濃い緑, ; 薄 

い 緑, ; 黒,

; 赤, ; オレ

ンジ,  ; 濃い青, 

; マ ゼ ン タ,

. ( ) 内は生物種の3文字 略号.

0.2

(Clostridia)

(Euryarchaeota)

(OP1)

#: メタン生成菌 (Clostridia

)

Ammonifex*(adg)

Methanothermobacter

#

(mth)

Methanococcoides (mbu) #

Alkaliphilus

(amt)

Methanosarcina

# (mac1)

Methanosaeta# (mtp)

Methanosarcina (mba1)# Desulfobacterium

* (dat) Desulforudis

* (dau)

Methanosarcina (mba2) # Methanococcus

# (mmp)

methanogenic

# archaeon

(rci)

Methanosarcina

#

(mma2)

Methanosarcina

# (mac2) Carboxydothermus

(chy)

‘Acetothermus’‡ Methanococcus

# (mvn)

Methanoregula

# (mbn) Desulfotomaculum

(dae) * Desulfitobacterium

(dsy)

Clostridium (cdf)

Methanosarcina

#

(mma1) Moorella

(mta)

Methanospirillum

# (mhu)

100

100

89

100 70

100 100

100 72

100 100

63 100 100

77

100

100 96

(δ-proteobacteria 100

)

‡:酢酸生成菌, *: 硫酸還元菌

∆: 鉄還元菌, †: 脱塩素菌

100 98 100

92 100

10053 97

9979 95

80 59

100 84 100

98

0.2

(Clostridia)

(Euryarchaeota)

‘Acetothermus’‡(OP1)

Carboxydothermus

(chy)

(δ-proteobacteria )

Ammonifex

*(adg) Desulforudis

*(dau) Moorella

(mta) Desulfotomaculum(dae) * Desulfitobacterium

(dsy) Clostridium

(cdf) Alkaliphilus

(amt)

Desulfobacterium

* (dat)

Methanococcus

# (mmp) Methanococcus

#

(mvn)

Methanothermobacter

# (mth)

Methanoregula (mbn) # Methanospirillum

# (mhu) methanogenic

#

archaeon (rci) Methanosaeta

# (mtp) Methanococcoides

# (mbu) Methanosarcina

# (mma) Methanosarcina

# (mac) Methanosarcina (mba)#

(A)

(B)

(6)

アーキアではCdhA-DおよびCdhF)からなるacetyl- CoA decarbonylase/synthase (ACDS) 複合体は,アセ チルCoAパスウェイのコア酵素であるが,これらを コードする遺伝子はバクテリアとアーキア間でも相同性 が高く,オペロン様構造を取っている.そこで,  

ʻA. autotrophicumʼ に見つかったこれらの酵素群の系統 的位置関係を調べるため,本菌を含む9種のバクテリア と11種のアーキア由来のACDS複合体を構成する5酵 素を連結したアミノ酸配列を用いて最尤法による系統樹 の作成を行った(17).その結果,アーキアとバクテリア は共通祖先から明確に2つの系統に分かれ,  ʻA. au- totrophicumʼ  が有するACDS複合体は,先の共通タン パク質の系統関係と同様にバクテリアのなかでは最も共 通祖先から近い位置にあることがわかった(図

4

A).ま た,ACDS複合体に基づく系統樹の樹形とACDS複合 体の由来生物種の16S rRNA遺伝子に基づく系統樹の樹 形を比較したところ,アーキアについては両者の系統的 分岐パターンが類似していたことから,種分化を通して メタン生成能が継承されてきたと考えられる(図4B). これに反して,アセチルCoAパスウェイを有するゲノ ム解読が終了したバクテリアが11種と限られていると はいえ,ACDS複合体と16S rRNA遺伝子の系統的分岐 パターンは必ずしも一致していなかった.

しかし,いずれにせよ   ʻA. autotrophicumʼ のアセ チルCoAパスウェイは,現存する既知のバクテリアか ら水平伝播によって獲得されたものではなく,共通祖先 から維持されてきたものと考えられるので,Martinと Russellの仮説(12) を強く支持する結果となった.

フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ/フォス ファターゼ

アセチルCoAパスウェイを有する   ʻA. autotrophi- cumʼ は,CO2からアセチルCoAを合成するポテンシャ ルがあるので,アセチルCoAから糖新生 (gluconeogen- esis) によって糖類を合成し,この過程を経てさまざま な細胞構成成分が作られているものと考えられる.再構 築された   ʻA. autotrophicumʼ のゲノムには,糖質関 連トランスポーターが全く見つかっていないことから も,糖新生は重要なパスウェイと考えられる.もちろ ん,先に述べたように全体の約3割の情報が得られてい ないため,これらの遺伝子がコンティグギャップに埋も れている可能性も否定できない.しかし,一般にこれら の遺伝子はゲノム上に散在し,アイランドを形成する例 が知られていないので,いずれにせよ   ʻA. autotro- phicumʼ ゲノムには糖質関連トランスポーターが少ない

と思われる(17)

一方,  ʻA. autotrophicumʼ にはグリセルアルデヒ ド3リン酸 (D-glyceraldehyde 3-phosphae) からフルク トース1,6ビスリン酸 (fructose-1,6-bisphosphate) への 反応を触媒する酵素,フルクトースビスリン酸アルド ラーゼ (fructose bisphosphate aldolase ; FbaB) が見つ からず糖新生が不完全であった.そのため,遺伝子のア ノテーションを行った当初は, 遺伝子はコンティ グギャップに埋もれているものと考えていた.しかし,

その後の詳細な解析によって,筆者らがフルクトー ス-1,6-ビ ス リ ン 酸 フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ (fructose-1,6- bisphosphatase) とアノテーションをつけた遺伝子は,

門,ま た ア ー キ ア の

門, 門, 門に属す

る菌種のフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ/

フォスファターゼ (fructose-1,6-bisphosphate aldolase/

phosphatase ; FBP aldolase/phosphatase) と高い相同性 をもつことがわかった.この酵素は,fructose bisphos- phate aldolaseとfructose-1,6-bisphosphataseの2つの機 能を併せ持つユニークなものである.昨年12月号の

『化学と生物』の解説でこの酵素の機能的特徴が詳細に 紹介されているので,本稿では詳細な説明は割愛する が(21),この2機能性酵素をもつ生物種のほとんどが好 熱 菌 で, の 酵 素 と 同 様 に

門 に 属 す る 常 温 菌 の

においても耐熱性と2機能性が実験的に確認 されている(22).これは,fructose bisphosphate aldolase の産物であるfructose-1,6-bisphosphateが熱に不安定な ため,好熱菌が生息する高温環境でd-glyceraldehyde  3-phosphaeから一気にフルクトース6リン酸 (d-fruc- tose 6-phosphate) へ反応を進める必要性があるためと 考えられている.また,本酵素は,糖新生が解糖系に先 んじて進化したことを意味する祖先的な主導的酵素と考 えられているので,  ʻA. autotrophicumʼ の酵素とほ かの16種のバクテリアおよび28種のアーキアが有する 酵素のアミノ酸配列を用いた系統樹を最尤法にて作成 し,本菌の酵素の系統的位置関係を調べた(18).その結 果を見ると,FBP aldolase/phosphataseは,共通祖先 から大きく2つのクラスター(クラスター AとB)に分 かれた(図

5

.クラスター Aは主に 門 と 門 か ら な る ク ラ ス タ ー で

門, 門, 門に属するバクテリアの

一部の種が含まれており,そのほとんどが超好熱性また は好熱性菌であった.クラスター Bは   ʻA. autotro- phicumʼ  に 加 え 門,

(7)

門に属する一部のバクテリア, に 属する2種のアーキアなどからなる小さなクラスターで ある.このクラスター内の系統的位置を見ると,  

ʻA. autotrophicumʼ が  と近い位置にあ

ることはこれまでの系統解析の結果とも一致していた が,クラスター Aとは異なり好熱性菌は   ʻA. auto- trophicumʼ  と  (

門)のみであること,ほかの系統解析の結果 では遠縁にあたる 門やクラスター Aにも 含 ま れ る 門 の 一 部,ま た ア ー キ ア の 門などが含まれていることから,これ ら常温菌に見られるFBP aldolase/phosphataseは祖先 的好熱性バクテリアから水平伝播によって獲得された可 能性が高い.一方,これまでの系統解析で共通祖先から 初期に分岐したと考えられている 門がク ラスター Aに含まれ, 門に属する好熱性

メタン生成菌 ( ) と近縁関係

にあること,また遠縁の 門と 門が

一つのクラスターを形成していることなどから水平伝播 の可能性も高く,今回の系統解析のみからバクテリアの FBP aldolase/phosphataseの明確な系統的位置を語る ことは難しいと判断された.

 ʻA. autotrophicumʼ の基本代謝とエネルギー 代謝

図6に示したように,  ʻA. autotrophicumʼ  のゲノ ムにはTCAサイクルに必要な遺伝子がsuccinyl-CoA合 成酵素遺伝子 ( ) 以外すべて揃っている(18).した がって,本菌のTCAサイクルはおそらく非環状性の分 岐タイプのパスウェイとして機能し,この不完全型 TCAサイクルはほかの独立栄養型の微生物と同様に,

生合成の目的のみに用いられていると考えられる.  

ʻA. autotrophicumʼ がH2とCO2による化学独立栄養的な

生育をするとき,見かけ上アセチルCoAパスウェイを 通した基質レベルでの正味のATP生産はない.それは,

アセチルCoAパスウェイを経由した酢酸生成時にATP が1分子生産されるが,このパスウェイの初期の反応で ATPが消費されるためである(図

6

.このパスウェイ を通したメチル基生成時のH2からCO2に電子を受け渡 す過程では,細胞膜を介したイオン濃度勾配を形成する 一つもしくは複数の共役部位が関係すると考えられる が,詳細な共役部位については最もよく調べられた酢酸 生成菌 (Acetogen) でもまだよくわかっていない(23)

 ʻA. autotrophicumʼ  はF420非還元ヒドロゲナーゼ 

(F420-non-reducing hydrogenase) とヘテロジスルフィ ド還元酵素 (heterodidulfide reductase) からなる複合 体 (MvhADG-HdrABC) を構成するすべての遺伝子を 有しているが,メタン生成アーキアでは,水素を用いた ヘテロジスルフィド依存型のフェレドキシンの還元を電 子の分岐共役機構によって行うことが実験的に示されて いる(24).したがって,  ʻA. autotrophicumʼ  でも図6 に示したように,還元型フェレドキシンがアセチル CoAパスウェイの3つの可能な部位での還元反応に用い られている可能性がある(図6).一方,酢酸生成によ るエネルギーの保存には,還元型フェレドキシンの酸化 と共役するプロトンまたはナトリウム勾配の生成に何ら かのポンプが必要とされるが,膜介在型のフェレドキシ ン:NAD-酸化還元酵素 (Rnf) 複合体が最も有力な候 補の一つとして   ʻA. autotrophicumʼ のゲノムに見い だされている.Rnf複合体は多くのバクテリアやアーキ アのゲノム中に見つかっており, 門に属する のRnf複 合 体 は,カ フ ィ ー ト 

(caffeate) を電子受容体として用いた嫌気呼吸と共役す る起電性のナトリウムの移行を仲介することが実験的に 確認されている(25).細胞膜を介して作られる電気化学 的イオン電位は,通常ATP合成に用いられる.  ʻA. 

autotrophicumʼ  は,通常多くのバクテリアに見られる F1F0-ATPaseを欠いているが,ナトリウムおよびプロ

100 58 0.2

76 100

98 60

100 66 52

55

95 89

73

65

80 67

69 100 72 96 98

56 96

75

Cluster B Cluster

A

70 Methanobrevibacter smithii msi

Staphylothermus marinus smr Caldivirga maquilingensis

cma

Methanothermobacter thermautotrophicus mth Methanoculleus marisnigri

mem

Picrophilus torridus pto Methanopyrus kandleri mka

Methanosphaera stadtmanae

mst

Sulfolobus solfataricus sso Thermoproteus neutrophilus

tne

A. autotrophicum Syntrophus aciditrophicus

sat Thermofilum pendens

tpe Pyrobaculum aerophilum

pai

Moorella thermoacetica mta

Archaeoglobus fulgidus afu

Thermus thermophilus tth

Carboxydothermus hydrogenoformans chy

Thermoplasma acidophilum tac

Aquifex aeolicus

aaeThermoanaerobacter tengcongensis tte

Roseiflexus

sp.

rrs Methanoregula boonei

mbn

Pelotomaculum pth

thermopropionicum

Dehalococcoides ethenogenes

det

Bradyrhizobium japonicum

bja Methanocaldococcus jannaschii

mja

Natranaerobius thermophilus nth

Desulforudis audaxviator dau

Methanococcus maripaludis mmp

Desulfurococcus kamchatkensis dka

Methanosaeta thermophila mtp

Nitrosopumilus maritimus

nmr Metallosphaera sedula

mse Ignicoccus hospitalis iho

Hyperthermus butylicus hbu

Saccharopolyspora erythraea sen

Pyrococcus horikoshii pho

Hydrogenobaculum sp. hya Korarchaeum cryptofilum kcr

Aeropyrum pernix ape

Thermococcus kodakarensis tko Petrotoga mobilis

pmo

Coxiella burnetii cbu 100

Euryarchaeota

Crenarchaeota

Firmicutes

Aquificae Chloroflexi

Thaumarchaeota Deinococcus-Thermus Thermottogae Actinobacteria

α-proteobacteria Firmicutes γ-proteobacteria

δ-proteobacteria

Cenarchaeum symbiosum

csy

OP1

図5糖新生に関与するFBP aldolase/phosphataseの系統樹 16種のバクテリアと28種のアーキアに由来するFBP aldolase/

phosphataseアミノ酸配列に基づき最尤法により作成された系統 樹図中の数値はブートストラップ値.赤のラインは超好熱,好熱 性菌を示す.

(8)

トンを輸送する2つのタイプのV-ATPaseを有してい る. も同様にF1F0-ATPaseを欠 いているが, 由来のV-ATPaseは電気 化学的プロトン電位によってATP合成することが実験 的に示されている.したがって,  ʻA. autotrophi- cumʼ  もどちらか一方,あるいは両方のタイプのV- ATPaseを用いてATP合成が可能と考えられるが,実 際に,本菌を含む微生物マットが採取された熱水環境に は1,500 ppmの水素と500 mg/Lのナトリウムイオンが 検出されている(13)

一般に好気的なバクテリアにおいては,O2  や過酸 化水素は酸化ストレスを引き起こすが,それらは super  oxide dismutase (SOD) やカタラーゼなどによって効 率的に取り除かれる.嫌気性バクテリアは一般にこれら の酵素をもっていないが,いくつかの偏性嫌気性細菌は これらの酵素により酸化ストレス耐性を獲得することで 好気的な環境でも生存可能であることが知られてい る(26).  ʻA. autotrophicumʼ の場合は,アセチルCoA パスウェイを用いたCO2固定やエネルギー生産が生命 活動の主な原動力の可能性が高いので嫌気的条件下を好 むと考えられるが,2つのSODに加え,シトクローム

酸化酵素 (cytochrome   oxidase), Rieskeタンパク質,

シトクローム , シトクローム およびコハク酸脱水素酵 素 (succinate dehydrogenase) からなる潜在的好気的 呼吸鎖を有している.また,  ʻA. autotrophicumʼ は 硝酸還元酵素 (nitrate reductase), ジメチルスルフォキ サイド還元酵素 (dimethyl sulfoxide reductase) なども 有している.実際,  ʻA. autotrophicumʼ を含むバイ オマットが採取された熱水の酸化還元電位は,−85 mV から−130 mVと非常に還元的な環境であるが溶存酸素 も検出されているので,このような酸化的,還元的境界 に棲息する   ʻA. autotrophicumʼ は,CO2以外の電子 受容体の候補として酸素,硝酸,ジメチルスルフォキサ イドなどを状況に応じて使い分けているのではないかと 考えられる.

本菌が酸素を電子受容体として好気的条件下で生育可 能と仮定すると,従属栄養的なライフスタイルに必要な 代謝能が必要である.それをサポートする一つの可能性 として,極性アミノ酸や側鎖アミノ酸,オリゴペプチド などの取り込みに必要なトランスポーターがゲノム中に 見つかっている.しかし,実際の熱水環境は有機物に乏 しい環境であることから,従属栄養的ライフスタイル

oligo- peptide アミノ酸側鎖

アミノ酸極性 チアミン 亜鉛

Fdox Fdred 2H+

H2 -S-S--

SH HS-

V-ATPaseNa+

ATP ADP Mvh-Hdr 鉄イオンリン酸 H+ H+/Na+,2価マイナスイオン

formyl-H4F formate

methenyl-H4F

methyl-CoFeS-P CO2

methylene-H4F methyl-THF CO2

CO

2e- ATP

2e- 2e- 2e-

アセチルCoAパスウェイ

酢酸 アセチルCoA

K+

Na+ H+

K+

COX

ABC CAP2 CAP2 Trk ZIP DASS

P-ATPase 亜硝酸シアン

脂質タンパク 脂質

抗微生物ペプチド

マルチドラッグ MFS

亜ヒ酸

ArsB CDF

鉄イオン ABC

ATP

Rieske-CytbRnf- Na+/H+

ATP ADP

V-ATPaseH+

H2O 2H+ + 1/2O2

H+

QHQ2

QHQ2

NAR

NO3-

NO2-

H+

succinatefumarate SDH

Rieske-Cytb c マルチドラッグ

金属イオン

ATP ADP

FBP aldolase/phosphatase

dihydroxyacetone phosphate

 フォスフォエノ‒ルピルビン酸 β-D-glucose-6-phosphate

glyceraldehyde-3P

ピルビン酸

malate

2-oxoglutarate

succinyl-CoA citrate oxaloacetate

fumarate

succinate

isocitrate

CO2 + Fdred fructose-6-phosphate fructose-1,6-bisphosphate

3-phosphoglycerate

NADHCoA CO2

CoA

CO2

CO2

HCO3- CO2

ATP

解糖系/糖新生

TCA 回路 2-phosphoglycerate 1,3-bis-phosphoglycerate

Fdred ATP Pi

ATP FBP aldolase/phosphatase

アセチルCoA

亜鉛

細胞膜

図6ゲノム情報から推測される   ʻA. autotrophicumʼ の基本代謝とエネルギー代謝

矢印は,代謝の流れを示す.灰色の破線は,遺伝子が見つかっていない反応.青は,細胞膜.赤の→は糖新生の方向を示す.

(9)

は,好気的環境にさらされた場合の補助的なものではな いかと考えられる.また,初期生命に近い共通祖先の機 能は単純で非効率的であったとすれば,  ʻA. autotro- phicumʼ は高度に機能分化した大腸菌などへ進化する発 展途上のバクテリアなのであろう.

おわりに

冒頭で述べたように,初期生命の姿とその進化のシナ リオについては,非常に魅惑的な問題だけに議論が絶え ず,新たな知見とそれに基づくさらなる展開が求められ ている.しかし,共通祖先から初期に分岐した微生物で あればあるほどその機能は単純でその生育が非効率的で あることが予想されるため,培養は極めて困難である.

本稿で紹介した未培養菌の   ʻA. autotrophicumʼ は,

残念ながらそのゲノムを完全に再構築することはできな かったが,培養を介すことなく約70%のゲノムがメタ ゲノム解析によって再構築された.これにより,本菌が 既知のバクテリアで最も共通祖先に近いアセチルCoA パスウェイを有する好熱性のバクテリアであることが見 いだされ,バクテリアの初期進化を考えるうえで画期的 な発見となった.しかし,地球上には,まだまだ初期生 命を育んだ環境に近い環境が残存すると考えられるの で,今回紹介したメタゲノミクスに加え,単一細胞から 抽出したDNAを増幅しゲノム解析を行うシングルセル ゲノミクスなどを駆使することによって,新たな初期生 命像,さらに初期生命に近いバクテリアの発見につなが る可能性が高いと期待される.

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プロフィル

髙見 英人(Hideto TAKAMI)    

<略歴>1984年東京農業大学農学部醸 造学科卒業/1986年山梨大学大学院工学 研究科修士課程修了/1993年東京工業大 学大学院理工学研究科博士課程修了(工 博)/1986 〜 1991年栗田工業株式会社総 合研究所研究員(この間1987 〜 1990年理 化学研究所派遣研究員)/1993 〜 1995年 ミシガン州立大学微生物生態学センター 博士研究員/1995~2000年海洋科学技術 センター研究員(この間1997 〜 1998年奈 良先端科学技術大学院大学特別研究員)/

2001 〜 2006年海洋研究開発機構グループ リーダー(この間2002 〜 2003年カリフォ ルニア大学サンディエゴ校Scripps海洋研 究所客員研究員)/2006 〜2009年プログラ ムディレクター/2009年〜同機構チーム リーダーおよび2006年〜麻布大学客員教 授(併任),現在に至る<研究テーマと抱 負>メタゲノム解析を基盤とした微生物生 態系がもつ機能解明とそれに必要な方法論 の開発,特に現在は海洋・深海・地球深 部環境の微生物生態系を研究<趣味>ギ ター,ウォーキング,園芸,愛猫と遊ぶ

Referensi

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