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海洋天然物のケミカルバイオロジー - J-Stage

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化学と生物 Vol. 50, No. 6, 2012

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今日の話題

海洋天然物のケミカルバイオロジー

ブリオスタチンとイグジグオリドへの合成化学的アプローチ

人類は長い歴史の中で,医薬資源として植物や微生物 由来の薬効成分を探索・活用し,健康の維持・増進をは かってきた.一方,海洋生物が生産する二次代謝産物

(天然物)の探索の歴史は比較的浅く,20世紀後半から 次第に活発に行なわれるようになった.その結果,陸上 生物の二次代謝産物には見られない,独特な分子構造と 興味深い生物活性を有する化合物が近年次々と発見さ れ,天然物創薬を大いに活性化したほか,生物現象の分 子レベルでの理解と制御におけるツールとして期待され ている.しかし,海洋天然物は多くの場合において極微 量成分である.生産生物の乱獲は海洋生態系の破壊につ ながり,培養による化合物供給は困難を極める場合が多 い.このため,化学合成による実践的な化合物供給法の 開発が必要である.さらに,化学合成によれば天然物の 分子構造の部分改変や単純化も可能であり,それに伴う 活性増強・分離などの生体機能のチューニングを通じ て,新たな生体機能分子を創出することができる.すな わち,極微量天然物の実践的供給と生物活性評価や,天 然物を基盤とする新規化合物の探索において,合成化学 者の果たす役割はきわめて大きいと言える.

フサコケムシ から単離・構造決定さ れたブリオスタチン1 (Bryo 1) は,強力な抗腫瘍活性

を示す海洋マクロリド天然物である(図1(1).Bryo 1 およびその天然同族体は,発がんプロモーターであるホ ルボールエステルと同様に,細胞の分化・増殖・がん化 に関わるプロテインキナーゼ C (PKC) に結合,活性化 し,PKCを細胞質から細胞質膜へとトランスロケー ションする.また,ブリオスタチン類はPKCに対する ホルボールエステルの結合を競争阻害することも知られ ている.しかし興味深いことに,ブリオスタチン類はホ ルボールエステルの作用を部分的に拮抗阻害することも 知られており,ブリオスタチン類が発がん促進活性では なく抗腫瘍活性を示す理由の一つと考えられている(2). Pettitらは,南カリフォルニア沿岸で採取した湿重量 1トンの からBryo 1を1.5 g単離するなど(3), 生産生物からの抽出による化合物供給に尽力し,ブリオ スタチン類の作用機序解析研究や臨床試験が実現した.

一方で,現在までに多くのブリオスタチン類の全合成が 報告されているが,いずれも非常に多段階の合成であ り,Pettitらの単離を凌ぐ化合物供給は達成できていな い(4).これに対し,Wenderらは天然物の構造を単純化 した構造類縁体をデザインし,天然物と同等もしくはそ れ以上の生物活性を示す化合物の創製に成功した.

Wenderらは,独自に提唱したブリオスタチン類,ホ

図1ブリオスタチンとその構造単純化類縁体 13 およびイグジグオリドの構造式

Wenderらのファーマコフォアモデル(5)によれば,コバルト色で示した酸素原子はPKC結合活性に重要と考えられている.

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今日の話題

ルボールエステルおよび内因性PKCリガンドである1,2- ジアシルグリセロールのファーマコフォアモデル(5)に基 づいた分子設計を行なった.すなわち,ブリオスタチン 類 のA環 お よ びB環 は,PKC結 合 活 性 に 重 要 な C1,  C19, C26  位の酸素原子の三次元的な配置を制御するた めの スペーサードメイン であると仮定し,この部分 を単純化した数種の構造類縁体を設計・合成した(図 1).この際,PKCとの分子認識に重要と考えられるC 環周辺は天然物に忠実に合成した.構造類縁体の立体配 座が天然物のそれをよく再現することを,溶液NMR解 析と分子動力学計算により確認した.こうして得た類縁 体1は天然物と同等のPKC結合活性を有し,さらに数 種のヒトがん細胞に対し強力な増殖抑制活性を示すこと がわかった.本研究により,Wenderらは独自に提唱し たファーマコフォアモデルを実験的に検証するととも に,天然物よりもはるかに短段階で効率良く合成できる 高活性類縁体1の創製に成功した(6)

ところで,PKCは10種類以上のアイソフォームから 構成されるタンパク質ファミリーであり,その生理機能 は多岐にわたる.このため,PKCアイソフォーム選択 的な化合物は,PKCの下流に位置するシグナル伝達系 の理解と制御に有用である.Wenderらは最近,ブリオ スタチン類のA環が実は 単なるスペーサードメイン ではなく,A環のC7位置換基がPKCアイソフォーム選 択性に重要な役割を担っていることを明らかにした(7). CHO-k1細胞において,Bryo 1により細胞質のPKC

β

1 は活性化され細胞質膜へと速やかにトランスロケーショ ンしたが,Bryo 1と同等のPKC結合親和性を示す天然 同族体Bryo 2は,PKC

β

1をまったく活性化しなかっ た.また類縁体2がPKC

β

1とPKC

δ

の両方を活性化した のに対し,類縁体3はPKC

δ

のみを活性化することが明 らかになった.以上の結果は,A環のC7位置換基によ るPKCアイソフォーム選択的活性化の可能性を示唆し ている.

筆者らは,海洋天然物の実践的な化学合成や,天然物

の構造を基盤とした新規有用化合物創製に興味をもち,

その一環として,イグジグオリドの全合成と作用機序解 析研究を行なっている.イグジグオリドは,太田らが奄 美大島沖で採取した海綿  Thieleより単 離・構造決定された20員環マクロリドである(図1)(8). 太田らは,本天然物が棘皮動物の受精を特異的に阻害す る一方,受精卵の卵割は阻害しないことを報告していた が,生産生物からの化合物調達が困難であったため,そ れ以上の生物活性評価は行なわれていなかった.筆者ら は,イグジグオリドとブリオスタチン類との構造類似性 に興味をもち,全合成による化合物供給と詳細な生物活 性評価を実施した.すなわち,全合成により約50 mgの 試料を調達した後,各種ヒトがん細胞に対する増殖阻害 活性を検討したところ,ヒト大細胞肺がん細胞NCI- H460やA549が顕著な感受性を示すことが明らかとなっ た(9).現在はマウスゼノグラフトモデルを用いた抗腫瘍 活性試験や作用機序解析を進めており,興味深い知見が 得られつつある(共同研究).また,天然物の構造を改 変した構造類縁体の合成と評価も併せて行なっており,

基礎的な構造活性相関が明らかになってきた.このよう に,極微量成分であるが故に詳細な生物活性が明らかに なっていない天然物に着眼し,有用化合物を 再発掘 することもまた,合成化学者の役割と言えるだろう.

  1)  G. R. Pettit  : , 104, 6846 (1982).

  2)  R.  Mutter  &  M.  Wills : , 8,  1841 

(2000).

  3)  G. R. Pettit  : , 47, 3601 (1991).

  4)  K. J.  Hale  &  S.  Manaviazar : , 5,  704 

(2010).

  5)  P. A. Wender  : , 85, 7197 

(1988).

  6)  P. A. Wender  : , 95, 6625 

(1998).

  7)  P. A.  Wender  : , 108

6721 (2011).

  8)  S. Ohta  : , 47, 1957 (2006).

  9)  H. Fuwa  : , 17, 2678 (2011).

(不破春彦,東北大学大学院生命科学研究科)

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