第1回の報告では,生物多様性条約(CBD: Convention on Biological Diversity)の締約国会議であるCOP(the Confer- ence of the Parties to the CBD)にて,最近著しい発展を見 せる「合成生物学」という学問領域に関して今どのような議 論がなされ,何が問題となっているのかを紹介した.今回は COPの議論から,「合成生物学」というのはどのような学問 領域として捉えられているのか,どの技術まで「合成生物 学」に含まれていると想定されているのか,そしてその議論 に潜む,途上国やNGO(非政府)団体が要求する社会経済 的な補償の問題についてもご紹介したい.
「合成生物学」の技術分野
CBD事務局が提出した文書では,「合成生物学」は以下の 5つの技術分野からなる学問領域であるとし,それぞれの技 術をCBDが独自に定義づけしている(1).
1. 人工遺伝子回路(DNA-based genetic circuits)
2. 合成代謝経路工学(synthetic metabolic pathway engi- neering)
3. ゲノム細胞工学(genome-level engineering)(トップ ダウン型とボトムアップ型)
4. 人工細胞(protocell construction)
5. 非天然生物学(xenobiology)
各技術分野の具体的な内容は,経産省のホームページに 掲載された「平成26年度環境対応技術開発等(遺伝子組換 え微生物等の産業活用促進基礎整備事業)報告書 第II編 平成27年3月 一般財団法人バイオインダストリー協会編」
を参照されたい(2).
さて上記の5つの技術分野は,これまでの遺伝子組換え技 術(GMT: genetically modified technology)を基本技術と する一方で,ヒトゲノムの解析研究以降に発展したDNA/
RNAの核酸合成技術や細胞工学技術,あるいは情報工学,
コンピューター化学やゲノム解析技術等などのあらゆるサイ エンスの分野を抱合しており,これらをすべてまとめて「合 成生物学」とCBD事務局は定義した.しかしこの定義に従 うと,「合成生物学」の学問領域の範囲があまりにも広すぎ
て,各技術の利点とリスクを抽出して議論し,最終的に統一 された単一のリスク評価方法と管理システムを構築して,国 際的な合意を得るというCBDの目的を達成するのは困難と 言わざるをえない.また明確な技術分野が定まっていない
「合成生物学」をすべて包括しうる定義の設定への試みは,
結局従来の古典的なGMTをもその定義のなかに抱合してし まい,GMTと「合成生物学」の区別をかえって難しくさせ てしまうように思える.さらに今回のCBDでの議論では,
「合成生物学」の実験に必要なツール(試薬,ライブラリー,
DNA合成機器,遺伝子情報データベース,遺伝子解析 コンピューターソフト,合成DNA/RNAなど)を,「成分
“Components”」という語句で統一して,この「成分」の国 境を超えた移動(インターネットによる情報伝達なども含 む)までにも,新たな規制を設定するべきだと主張する国や NGO団体もでてきている.ここまでくるとCBDの議論の目 的を逸脱していると考える.
しかし昨年12月に,欧州委員会の下部にある3つの科学 技術専門委員会(3)から合同で提出された「合成生物学II̶リ スク評価方法と安全性の側面̶」という報告書には,これま でのCBDの議論に加えて,さらにゲノム編集技術(ZFN, TALEN, CRISPR-Cas9など)までもが将来「合成生物学」
の技術分野で使用される可能性が高いという理由で,今回の CBDでの「合成生物学」の議論の中に組み入れられている(4).
この3つの科学技術専門委員会が提案している合成生物学 の定義は次のとおりである.
「合成生物学とは,生物の遺伝素材のデザイン,作成,お よび(または)加工を促進し,加速するための科学,技 術および工学の応用である」(5)
SynBio is the application of science, technology and engineering to facilitate and accelerate the design, manufacture and/or modification of genetic materials in living organisms.
上記の報告書では,「2005年から現在に至るまでの報文等 で発表された「合成生物学」の各定義が網羅的にレビューさ れており,今後のリスク評価を目的として考えた場合には,
このような概念的な定義ではなく,実際のリスク評価に役立
生物多様性条約と科学のかかわり(第 2 回)
合成生物学の技術分野とその社会経済学的な課題とは
白江英之
一般財団法人バイオインダストリー協会
バイオサイエンススコープ
つ実務的な “operational” 定義が必要である」としている.
また,「現在実際に使われている技術等を包含すると同時に,
現在は想定されていない新しい技術等にも対応できるもので なければならない」と説明している.
しかし同科学専門委員会からは,「合成生物学」と従来の GMTとを区別するための明確な基準が示されなかったこと から,「合成生物学」を従来のGMTを包含するさらに広義 の概念と捉えた解釈をすることも可能となる.したがって今 後,これまでのカルタヘナ議定書(6)下での遺伝子組換え生物
(GMO: genetically modified organisms 欧 州 で は,LMO
(living modified organisms)ではなく,GMOという略称を 使用している)の定義に当てはまらないゲノム編集技術など で作成された植物などが増えてきた場合に,従来のGMOを も包含する形で,「合成生物学」全体をカバーする新たな規 制やリスク評価の枠組みが必要,との主張に結びつく可能性 もある.その場合には,カルタヘナ議定書などの過去の国際 交渉ですでに解決済みの問題,たとえばカルタヘナ議定書に あるmodern biotechnology の定義,product thereof(生産 物の派生物) の扱い,社会経済的影響などに関する議論を 再び惹起する可能性があり,また,永年の経験に基づいて築 き上げてきたLMOのリスク評価の枠組みを覆す事態にもな りかねない.元々 GMTを快く思っていない各国のNGO団 体などは,これを機に,GMTの規制法であるカルタヘナ議 定書でカバーされているLMO(欧州ではGMO)によって生 産される各種の「生産物 “products” 」に対して新たな国際 的な規制の枠組みを求める主張を繰り返しているし,またゲ ノム編集技術で作製されたLMO(GMO)にはカルタヘナ議 定書の規制が及ばないとして,カルタヘナ議定書に代わる新 たなGMTを規制する法律の制定を強く求めている.
このような状況を鑑み,今後のCBDでの「合成生物学」
に対する国際交渉に関して,わが国としては慎重な対応が求 められるであろう.特に次の章に記載する,「合成生物学」
によって生じる「生産物」の商業活動による社会経済的な損 失の補償を求める動きは,わが国バイオ産業の根幹を揺るが しかねない重大な問題として捉えられるべきである.
「合成生物学」を取り巻く社会経済学上の 課題
先に述べたように「合成生物学」の基本技術は,従来の GMTがベースであることに変わりはない.1973年コーエ ン・ボイヤーが大腸菌を用いて最初の遺伝子組換え実験に成 功して以来,すでに40年以上経過している.そして,この GMTによって非常に多くの製品(食品,医薬品,化学品な ど)が,安価に大量に生産できるようになった.一方で,こ の技術による生物多様性への重大なるリスクの報告は,筆者 の知る限りこれまで報告されていないように思う.
「合成生物学」と従来のGMTの大きな違いは,扱う遺伝 子のスクリーニング法と遺伝子数およびその操作性にある.
GMTは,ほとんどの場合単一の遺伝子に焦点を絞り,その 遺伝子のみの改変を行うことで,ある特定の物質の生産性を 高める手法であるのに対して,合成生物学は,遺伝子データ ベースにある物質の生合成(代謝経路)上にあるすべての遺 伝子を網羅的に調べて,複数の遺伝子が組み合わさって成り 立つ代謝経路を一括して扱い,遺伝子を改変する技術であ る.その場合,宿主での発現に最適なコドンの選択や,複数 にまたがる代謝系上の遺伝子間の連携を最適化して新たな生 産経路を設計し,本来その宿主が生産できない自然界の産物 の生産を可能にさせたり,ときには自然界にない分子,たと えば非天然のアミノ酸などを,組換えタンパク質の配列の中 に導入させたりして,新しい機能を付与したりすることも可 能にさせる.加えて,数学的な予測に基づいた改変(遺伝子 の設計)がなされる点も合成生物学の特徴であろう.
このように急速に発展する「合成生物学」に対して,各 国で伝統的に営んできた産業や植物から抽出される天然物を 取り扱う地域産業が大打撃を受け,地域経済のみならず,そ の地域の生物多様性をも脅かされる恐れがあるとする懸念が 途上国中心に広まっている.そして,そのリスク懸念が解消 されるまで「合成生物学」の研究や商業的な販売を一時的に 停止(モラトリアム)させるか,あるいは新たな国際基準の 規制を設定して国際承認が得られない場合はその製品の販売 を許可すべきでないとの主張がなされている.あるいは仮に
「合成生物学」よって製造された製品が市場で販売され,各 国の伝統産業に損害を与えた場合には,その損害に対する金 銭的な補償をすべきであるという主張が,途上国やNGOを 中心に,CBDのCOPの場で執拗に繰り返されている.
カルタヘナ議定書では,その第26条に「締約国は,この 議定書またはこの議定書を実施するための国内措置に従い輸 入について決定するに当たり,特に原住民の社会および地域 社会にとっての生物の多様性の価値との関連において,改変 された生物が生物の多様性の保全および持続可能な利用に及 ぼす影響に関する社会経済上の配慮を自国の国際的な義務に 即して考慮することができる.」とあり,「社会経済上の配 慮」が明文化されている.しかし,カルタヘナ議定書の対象 はあくまでもLMO(生きた遺伝子組換え生物)のみであっ て,LMO由来の「生産物」までその対象は及ばない.この ため,本件の議論は専らCBDのCOPで議論され,その議論 の対象も先に述べた「生物 “organisms” 」のみにとどまら ず,「成分」,「生産物」の範囲にまで拡大している.
さらに2014年10月12日付で発効された名古屋議定書にあ る「遺伝資源の活用により損害を被る国や地域に対する利益 配分」の規定をこの合成生物学によって生じる 成分 や 生産物 にも活用して,「社会経済的な補償」を求めようと する動きもある.なお,名古屋議定書では,その対象範囲や どのくらい前までさかのぼって対象の遺伝資源を取り扱うか などはまだ不明瞭のままである.また,これまでのGMTと
「合成生物学」の境界が不明確なため,カルタヘナ議定書で 対処しているGMTに関しても新たな規制が覆いかぶさると いう二重規制になりかねない.さすがにこれには先進国を中
心に反発が強まっている.
現在議論されている3つの項目「生物」,「成分」,「生産物」
もいったい何を指しているのか,その定義すらまだ決まって いない.今後2016年12月にメキシコで開催予定のCOP13に 向けて,2015年4月末から7月初旬にかけて開催された合成 生物学の専門家を交えたオンラインフォーラムでも,途上国 や各国のNGO団体から社会経済学的な補償を求める発言が 執拗に繰り返された.これに嫌気をさした先進国のオンライ ンフォーラムの参加者からは,合成生物学から生じる「生 物」,「成分」,「生産物」のリスク評価の議論とリスクマネジ メントの議論(社会経済学的措置を含む)をわけるべきであ る,という提言もなされた.今後,この社会経済学的措置の 議論がどのように進められるのかは未定だが,わが国として どのような主張とポリシーをもってこの議論に参加していく のか,十分に検討する必要がある.
「合成生物学」における社会経済学上の課題 の実例
現在,途上国から「合成生物学」の登場によって社会経 済学的な損害が被るとされている地域伝統産業への補償を求 める主張内容は千差万別であって,まだ統一したスタンスは ない.先のオンラインフォーラムでは,主にスイスに本社の あるEvolva社が開発し,米国のIFF(International Flavors and Fragrances)社が販売しているバニリンに議論が集中 した.なぜなら,OECDが昨年発刊した「Emerging Policy Issues in Synthetic Biology」(7)には,このバニリンが世界最 初の合成生物学による製品と記載されたからであろう.しか し,世界のバニリンの需要は16,500 T(2011年)であり,そ の99%は石油由来の原料から化学合成法により製造され,
販売されている.今回NGOが社会経済学的補償として求め
る天然のバニリンのシェアーは全体の流通量の僅か1%以下 であり,またその60%がマダガスカルで生産されている.
マダガスカルには,2013年ごろから日本の高砂香料やハー ゲンダッツ社などが現地にバニラフレーバーの生産工場を建 て,地域に入り込んで天然バニリンの保存と利用可能な維持 に貢献している.しかし,Friend of the Earthを中心に7つ のNGO団体が,Evolva社のバニリンを 天然 由来とする 宣伝に反発して,2013年8月27日付で世界中のアイスク リーム製造会社に公開質問状を送付し,合成生物学由来の Evolva社のバニリンを使用しないように求めた(8).そしてこ の抗議活動に,世界116の市民団体が同調した(NGOが WEBに掲載した市民団体の数).元々天然バニリンしか利用 していないハーゲンダッツ社は,この質問状に対して,「わ れわれはこれまで天然バニリンしか利用していないし,今後 も天然のものしか使用するつもりはない」と声明を出した.
これを受けて,NGO各組織は,われわれの主張が受け入れ られたとして,インターネット上に声明を出した(8).
また米国のSolazyme社は,ブラジルで微細藻類を用いて 各種脂肪酸を製造し,そのうちC12とC14の中鎖脂肪酸を家 庭用洗剤の原料として,ベルギーのエコバール社に供給し た.そしてエコバール社は,その原料をもとに世界初の藻類 由来の原料を用いた洗剤として売り出した.しかし,2014 年春に24のNGO団体が,エコバール社に公開質問状を送付 して,明確な規制の枠組みのない合成生物学由来の製品の利 用は,生物多様性の減少の潜在的なリスクにつながるサトウ キビ由来の糖源の使用も合わせて,社会正義への挑戦である と主張し,合成生物学由来製品の使用のとりやめを求めた.
また同団体は,同年10月に韓国で開催されたCOP12の場 で,合成生物学由来の製品の商業使用や環境への放出の禁止 を各国政府代表者に求めた.しかし,Solazyme社の脂肪酸 生産用の微細藻類に導入された遺伝子は,特許から類推する にfatty acyl-ACP(acyl carrier protein) thioesteraseの 遺
表1■合成生物学の発展で影響を受けると途上国が主張する地域産業の一覧表 品目 ぺチバ油
(Vetiver) サフラン
(Saffron) バニラ
(Vanilla) ココアバター
(Cocoa butter) ココナッツ油
(Coconut oil) イソプレン
(ゴム) アルテミシニン酸
(Artemisinic acid)
代表的な
生産国 インドネシ
ア,ハイチ イラン,ギリ
シャ,モロッコ マダガスカル,
レユニオン コートジボ アール,ガー ナ,インドネ
シア
フィリピン,
インド,イン ドネシア
タイ,インド ネシア,ベト ナム,イン
ド,中国
中国,ケニア,タ ンザニア
年間生産高
(推定) 250 T 300 T 2,000〜3,000 T
(バニラ豆) 394万T
(ココア豆) 345万T
(2013/2014) 6億T 163 T (2011) 従事者(人)
(栽培面積(ha)) ハイチ:6万
(1万ha) イラン:20万人
(3万ha) 20万人 (推定)500〜
600万人 フィリピン:
350万人
(356万ha)
2,000万人
以上 (推定)10万人
原産 インド 西南アジア 中央アメリカ 熱帯アメリカ タイ(?) ブラジル 中国
生物種
用途 フレグランス 香辛料・添加物 香辛料・添加
物 チョコレート
の原料 食品,界面活
性剤 ゴム 加工品 マラリヤ薬の原料 開発企業 Allylix Evolva Evolva Solazyme Codexis, LS9 Du Pontなど Amyris
宿主 酵母 酵母 酵母 微細藻類 大腸菌/藻類 大腸菌 酵母
伝子1個のみであり,従来のModern Biotechnologyの技術 範囲に留まり,とても合成生物学によって生じた製品とは思 えない(9).NGOの主張に根拠はない.
上記2製品以外に,NGOが合成生物学由来の生産物であ ると主張する製品には,ココナッツ油,サフラン,バニラ,
ココアバター,天然ゴム(イソプレーン),パチョリ(ファ ルネセン)などの農作物や,甘味料のステビアなどがある.
また,医薬品の原料であるアルテミシニン酸(抗マラリア薬 の原料:フランスのサノフィー社が販売予定)などに対し て,合成生物学による商業生産のアプローチがあり,それら の生物資源をもつ各生産国から合成生物学に対する国際規制 を求める要求が高まっていると,NGOはCOPの場で訴えて いるのである.各品目の一覧表を別紙にまとめた(10)(表1).
この一覧表にある地域伝統産物には,これまでも化学合 成や旧来の微生物を用いた発酵法,酵素法,あるいは化学合 成法と酵素法の組み合わせなどによって新しい製造法が生み 出されてきたものばかりである.前述のEvolva社も,その ターゲット市場は合成品のバニリンが使用されている食材市 場であって,高級アイスクリームなどに使用される天然由来 のバニリンの市場ではないと言っている.最終的には,製品 の価格やその特性,機能によって,おのずと使用される市場 領域決められるのであって,途上国の言うような,「地域の 伝統産業がすべて衰退してしまう」ということも考えられない.
まとめ
CBDで議論が開始された「合成生物学」の技術分野は,
上記に示したように極めて多岐にわたる.その学問領域の定 義も範囲も,そして3つのキーワード(「生物」,「成分」,
「生産物」)の定義も不明瞭なまま,CBDでの「合成生物学」
に対する国際的な規制の必要性の有無の議論が進んでいる.
すでに欧州委員会では,合成生物学によって起こる社会経済 学的影響を評価する指標(Indicator)の検討に入っていて,
近々公表されるという話もある(CBDの「合成生物学」に 関するオンラインフォーラムでの英国代表からの発言).
これまでわが国のごく一部のものしか,このような国際 的な議論が展開していることを知りえなかったが,すでに発 効した名古屋議定書のときのように,その取り決めや規制が 国際的に決定してからでは,わが国として何の手当ても打つ ことができない.本誌の第1回の報告で述べたように,米国 はCBD加盟国ではないため,このCBDの合成生物学の議論 には参加しているが,そこでの発言権は強くない.そして
「合成生物学」に実際取り組んでいる先進国は,CBDの中で は少数派であり,さらに欧州ではGMOを好まない一般人が 多く,CBDでの議論に対して明確に反対を唱えられない事 情もある.
一 方,各 国 のNGOは そ の 根 拠 が 曖 昧 の ま ま,GMTに よって製造された各種製品に対して,公開質問状をその製品 を利用している販売企業に向けて送付するというやり方で,
攻撃を繰り返している.その活動は,年々活発になってい る.日本企業はまだその攻撃対象になっていないが,今後は このようなNGOの動きに十分注意する必要がある.またそ の攻撃の対象は,企業だけとは限らない.アカデミアもその 対象からは逃れられない.
この「合成生物学」のさらなる発展のために,是非わが 国の科学者の間でも,今後このような国際論争の場での議論 に興味をもっていただき,日本政府やCBD事務局に対して 意見具申をしていただきたいと願う.また反合成生物学団体 のWEB上に発せられる事実誤認の記事に惑わされないよう に十分に気をつけるべきであろう.
次回の報告では,各国が「合成生物学」をどう規制し,
リスク評価とその管理を行っているかの現状について紹介し たい.
謝辞:本稿の内容は,経済産業省平成26年度環境対応技術開発等(遺伝 子組換え微生物等の産業活用促進基盤整備事業)の「生物多様性関連の 遺伝子組換え技術の国際交渉に係る調査検討委員会」での議論ならびに 調査研究に基づいたものである.同調査検討委員会の委員の皆様および 報告者の執筆にご協力をいただいた関係各位の皆様に,改めて御礼申し 上げます.
文献
1) CBDホームページ: New & Emerging Issues, https://
www.cbd.int/emerging/
2) 一般財団法人バイオインダストリー協会:経済産業省委 託事業 平成26年度環境対応技術開発等(遺伝子組換え 微生物等の産業活用促進基盤整備事業) 報告書 第II編 平成 27 年 3 月,http://www.meti.go.jp/meti̲lib/report/
2015fy/000358.pdf
3) SCHER (Scientific Committee on Health and Environ- mental Risks), SCENIHR (Scientific Committee on Emerging and Newly Identified Health Risks), and SCCS
(Scientific Committee on Consumer Safety)のエキ ス パ ー ト リ ス ト,http://ec.europa.eu/health/scientific̲
committees/emerging/members̲wg/index̲en.htm#
4) 欧州委員会科学委員会: “Preliminary opinion on Syn- thetic Biology II Risk assessment methodologies and safety aspects,” http://ec.europa.eu/health/scientific̲
committees/emerging/docs/scenihr̲o̲048.pdf
5) 欧州委員会科学委員会:“Opinion on Synthetic Biology I Definition,” http://ec.europa.eu/health/scientific̲
committees/emerging/docs/scenihr̲o̲044.pdf
6) 日本では,「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生 物の多様性の確保に関する法律̶通称「カルタヘナ法」」
として施行,http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15HO097.
html
7) OECD: “Emerging Policy Issues in Synthetic Biology,”
2014.
8) Friends of the Earthによるハーゲンダッツ社への公開質 問 状,2013年8月27日 付,http://libcloud.s3.amazonaws.
com/93/56/6/4828/Letter̲to̲Haagen-Dazs̲Synbio̲
Vanilla̲Nestle.pdf
9) 米国特許US7935515 B2(2011年5月3日公告)「新規の油 を作る組換え微細藻類」,http://www.google.com/patents/
US7935515
10) ETC group: Case Studies in the Impact of Synthetic Bi- ology: Coconut oil, palm kernel oil and babassu, http://
www.etcgroup.org/content/case-studies-impact-synthetic- biology-coconut-oil-palm-kernel-oil-and-babassu
プロフィル
白江 英之(Hideyuki SHIRAE)
<略歴>1983年京都大学農学部農芸化学 科卒業/1985年同大学大学院農学研究科 修士課程修了/同年味の素株式会社中央 研究所研究員/1991年京都大学博士(農 学)を取得/1994年米国スタンフォード 大学医学部微生物免疫学部の博士研究 員/1996年味の素株式会社中央研究所研 究員に復職/1998年同社医薬事業部,医 薬事業本部,ライセンス部を経験/2007 年同社経営企画部/2009年味の素ファイ ンテクノ株式会社経営企画部に出向/
2010年味の素株式会社研究開発企画部/
2014年一般財団法人バイオインダスト リー協会出向,現在に至る<研究テーマ と抱負>2014年より,経済産業省の委託 事業による国内外の合成生物学の科学,
規制状況,バイオセキュリティ・バイオ セーフティの調査に従事.現在,生物多 様性にかかわる条約での合成生物学のオ ンラインフォーラム日本代表メンバー
<趣味>テニス,マラソン,グルメ旅行
<所属協会のホームページ>http://www.
jba.or.jp/pc/index.html
Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.797