2019年度・線形代数学・同演義II 2019年11月28日
第 1 回中間試験の結果について
配点は,第1問5点,第2問9点,第3問10点,第4問6点です.満点は30点,最高点 は25点でした.得点分布は以下のとおりです.
得点 0–5 6–8 9–11 12–14 15–17 18–20 21–23 24–30
人数 7 6 10 10 8 7 2 1
採点基準・講評
1. (1)は2点,(2)は3点.
(1) 分配法則は2個あります.ベクトルについての分配法則とスカラーについての分 配法則で,各1点としました.
なお,後者については,「𝒖(𝜆+𝜇) =……」という解答は許容しませんでした.ベ クトルのスカラー倍を書くときは,スカラーを必ず前に書きます.この習慣は,こ の箇所だけでなく他の箇所でも,守られていないのをときどき目にしました.意識 していなかった人は,今回身につけてください.
(2) これは授業で扱った問題1.3 (3)です.
採点にあたり,特に,(b)の(vii)と(iv)を利用することが指摘されていることを 求めました(もっと細かくいえば(ii),(iii)も使っていますが,ここで重要なのは
(iv),(vii)だと思います).(vii)を使うことの説明に対し1点(「分配法則より」な
どでもよい),(iv)を使うことの説明に2点(「−𝒖を加えて」などでもよい.「𝒖を 引いて」は,−𝒖 の存在があたりまえでないことに関する意識が見られないと判断 して,不可としました).
なお,(iv)を使わずに証明できるとした人が一定数いましたが,それではだめで す.ここには(iii) の内容に関する誤解が潜んでいるので説明します.こういう証 明をした人の議論は,次のような形をしています.
「100𝒖+0𝒖 =100𝒖である.つまり0𝒖 は,加法の相手のベクトル100𝒖に変 化をもたらさない.すなわち0𝒖は,(iii)に述べられた零ベクトル0である.」
この議論は,抽象化すると,「ある一つの𝒘について𝒘+0𝒖=𝒘となるから0𝒖 =0」 ということをいっています.しかし (iii)によれば,ベクトル𝒗 が零ベクトルとよ ばれるのは,「任意の𝒘について 𝒘+𝒗 =𝒘」が成り立つときです.上に示した議 論では「任意の 𝒘について𝒘+0𝒖 = 𝒘」を証明したわけではないので,(iii)から 0𝒖 =0を結論することはできません.
2. (1),(2),(3)各3点.正誤だけでは加点はせず,説明に対して点を与えています.
(1) 授業の問題1.1 (1)でした.多くの人ができていました.
(2) 授業の問題2.1 (3)と同様の問題です.二点述べたいことがあります.
一点目.数列を(つまり,個々の数ではなくて数列そのものを)一つのベクトル として扱うことに不慣れな人が,まだまだ多いことが伝わってきました.「𝑎𝑛」と 書いたら数列の項のことであり,「{𝑎𝑛}」と書いたら数列そのもののことです.し たがって,「Φ(𝑎𝑛) =𝑎2𝑛」などと書くのはおかしい.「Φ({𝑎𝑛})= {𝑎2𝑛}」でなけれ ばなりません.(ただし,この種の記述の拙さについては減点はしていません.)
二点目.授業で問題2.1 (3)を説明した際にも同じことを指摘したのですが,次 のような説明では,議論がちょっと不足しています.
「Φ({𝑎𝑛} + {𝑎′𝑛}) = Φ({𝑎𝑛 +𝑎′𝑛}) = { (𝑎𝑛+𝑎𝑛′)2} = {𝑎2𝑛+𝑎′𝑛2+2𝑎𝑛𝑎𝑛′ } だ が,一方でΦ({𝑎𝑛}) +Φ({𝑎′𝑛})={𝑎2𝑛} + {𝑎′𝑛2} ={𝑎2𝑛+𝑎′𝑛2}である.した がって両者は異なる.」
次のことをよく理解してください―――ここで確かめたいのは,Φ({𝑎𝑛} + {𝑎′𝑛}) = Φ({𝑎𝑛}) +Φ({𝑎′𝑛})がみたされないような数列{𝑎𝑛},{𝑎′𝑛}の実例が存在すると いうことです.上に示した説明だと,Φ({𝑎𝑛} + {𝑎′𝑛})とΦ({𝑎𝑛}) +Φ({𝑎′𝑛})が 見かけ上違うだけで,実際にはいつでも一致してしまう可能性が残ります.そうで はなく,真に不一致となる例があることを確かめなければならない.このケースは 1点としました.厳しい採点なのはわかっていますが,本質的な箇所であることを 理解してほしいと思いました.
(3) 授業の定理4.1でした.
線形従属性の定義がうまく述べられない人が一定数いたのですが,それは厳しく 採点しました.「見かけ上それらしいことを書ける」のと「本当にわかっている」の 間に,小さくないギャップのある箇所だと考えています.
完全な解答はもちろん3点ですが,満点を出せないものについては,「解答の基 本方針が正しく,かつ線形従属性の定義が正しく述べられている」というケースに 限り1点を与えることにしました.
なお,対偶をとって「どのベクトル𝒖𝑗 も他の𝑘−1個のベクトルの線形結合とし て表されないなら,𝒖1,𝒖2,. . .,𝒖𝑘 は線形独立である」とし,「前半の条件は線形独 立性の定義だからよい」とした解答も数件ありました.これは不可としました.第 一の理由は,授業でも教科書でも,それを線形独立性の定義として採用してはいな いということです.ただし数学の試験における解答は,授業や教科書に「準拠」す る必要は全然なく,だからそれだけでは減点の十分な根拠にはならないでしょう.
そこで理由を補足すると―――授業・教科書の方法から外れるならば,その場合は特 に自分の立場を明確にしなければならないし,かつ,自分が対象をよく理解してい ることが伝わる説明をする必要があると思います.本問については,ここで「どの ベクトル𝒖𝑗 も他の 𝑘 −1個のベクトルの線形結合として表されない」を線形独立
性の定義として採用するのは,「それ以外の定義があり得る」ことの理解がないこ とを示しているものと判断しました.
3. (1)と(2)は各2点,(3)と(4)は各3点.
(1) 多くの人が正答していたのですが,わずかにあった「Φ(𝑓(𝑥1+𝑥2))= Φ(𝑓(𝑥1) + 𝑓(𝑥2))を示す」のような形の誤答が気になります.関数を一つのベクトルとみなす 考えに慣れていない,ということでしょうか.
(2) 「基底Σに関する表現行列は……で,基底Ξに関する表現行列は……である」と いう誤答が非常に多い.表現行列は,定義域の基底と終域の基底の両方を指定して 決まるものなので,「基底Σ,Ξに関する表現行列」というのは一つの行列です.こ のケースは根本的な誤解なので0点としています.(ただし,正しい表現行列が一 部分に現れている場合,(3),(4)は採点対象としました.)
第1行と第2行を逆にしている場合(部分的に逆になっている場合も含む)は1 点としました.
(3) 表現行列を 𝐴 とすれば,KerΦを求めることは連立一次方程式 𝐴𝒙 = 0を解く ことに対応します.まず重要なことは,最後の「𝐴𝒙 =0の解に基づきKerΦを求 める」という段階が正しく行われることです.これができているという前提のも とで,軽微な誤りを含む答案は 2点としました.「最後の段階はできていないが,
𝐴𝒙 =0の解は正しく求められている」というものは1点です.
(4) 次元定理を用いるのが第一の方法(解答例で述べました).それによらず,まず ImageΦ𝐴を求めて,それを利用してImageΦを求めるのが第二の方法です.もち ろんどちらでもかまいません.中間点を与えたケースとして,「dim ImageΦ =2は 証明できている」というものがあります(1点).
複数人に見られた誤答のタイプとして,𝐴 を行基本変形によって(たとえば)
階段型行列に変形したものを 𝐴′とするとき,ImageΦ𝐴′ を求め,それを利用して
(?)ImageΦを求めるものがありました.行基本変形によってKerΦ𝐴は変わりま せんがImageΦ𝐴は変わってしまうので,これは誤りです.
4. (1)は2点,(2)は4点.
(1) わずかに正答がありました.証明すべきことはKerΦ1 ⊂ KerΦ2ですが,集合の 包含 𝐴 ⊂ 𝐵の定義は「任意の𝑎 ∈ 𝐴に対して𝑎 ∈ 𝐵である」ということです.は じめに考えるべきことは,これを直接確かめることです.
(2) 線形代数の諸定理の証明に相当習熟していないと難しいと思います.加点の対象 になるような答案はありませんでした.
2019年度・線形代数学・同演義II 2019年11月28日
第 1 回中間試験・解答例
1.
(1) 𝜆(𝒖+𝒗) =𝜆𝒖+𝜆𝒗,(𝜆+𝜇)𝒖 =𝜆𝒖+𝜇𝒖.
(2) (b)の(vii)により0𝒖+100𝒖 = (0+100)𝒖 = 100𝒖である.ここで(b)の(iv)に より−(100𝒖)の存在が保証されているので,これを両辺に加えて0𝒖 =0を得る.
2. (1)と(2)は誤り.(3)は正しい主張.
(1) たとえば,𝑥2と−𝑥2は𝑊の元だが,それらの和𝑥2+ (−𝑥2) =0は𝑊 に属さない.
したがって𝑊 は加法について閉じておらず,𝑊 は𝑉 の線形部分空間ではない.
(2) 「Φ({𝑎𝑛} + {𝑎𝑛′ }) = Φ({𝑎𝑛}) +Φ({𝑎′𝑛})」が一般には成り立たないことを 示す.数列 {𝑎𝑛},{𝑎′𝑛} がいずれも定数列 {1} であるとする.そのとき,左 辺は Φ({𝑎𝑛} + {𝑎𝑛′ }) = Φ({2}) = {4} だが,右辺は Φ({𝑎𝑛}) +Φ({𝑎′𝑛}) = Φ({1}) +Φ({1})= {1} + {1} ={2} であり,両者は等しくない.
(3) 𝒖1,𝒖2, . . .,𝒖𝑘 が線形従属であるとすれば,𝜆1𝒖1+𝜆2𝒖2+ · · · +𝜆𝑘𝒖𝑘 =0をみた す数(𝐾 の元)の組 (𝜆1, 𝜆2, . . . , 𝜆𝑘) であって,𝜆1=𝜆2 =· · ·=𝜆𝑘 =0ではないよ うなものが存在する.𝜆1,𝜆2,……,𝜆𝑘 のうちに0でないものがあるので,その ようなものを一つとって𝒖𝑗 とする.すると
𝜆𝑗𝒖𝑗 =−Õ
𝑖≠𝑗
𝜆𝑖𝒖𝑖, したがって 𝒖𝑗 =−Õ
𝑖≠𝑗
𝜆𝑖 𝜆𝑗𝒖𝑖.
こうして𝒖𝑗 を他の𝑘 −1個のベクトルの線形結合として表すことができる.
3.
(1) 任意の 𝑓(𝑥),𝑔(𝑥) ∈𝑉および𝜆∈Rについて,Φ(𝑓(𝑥)+𝑔(𝑥)) = Φ(𝑓(𝑥))+Φ(𝑔(𝑥)) とΦ(𝜆 𝑓(𝑥)) =𝜆Φ(𝑓(𝑥))が成り立つことを示せばよい.
Φ(𝑓(𝑥) +𝑔(𝑥)) =
∫ 1
0 (𝑥−𝑡)(𝑓(𝑡) +𝑔(𝑡))𝑑𝑡
=
∫ 1
0
(𝑥−𝑡)𝑓(𝑡)𝑑𝑡+
∫ 1
0
(𝑥−𝑡)𝑔(𝑡)𝑑𝑡 = Φ(𝑓(𝑥)) +Φ(𝑔(𝑥)),
Φ(𝜆 𝑓(𝑥)) =
∫ 1
0
(𝑥−𝑡)(𝜆 𝑓(𝑡))𝑑𝑡=𝜆
∫ 1
0
(𝑥−𝑡)𝑓(𝑡)𝑑𝑡 =𝜆Φ(𝑓(𝑥)).
(2) Φ(1) =−1/2+𝑥,Φ(𝑥) =−1/3+𝑥/2,Φ(𝑥2)=−1/4+𝑥/3,Φ(𝑥3)=−1/5+𝑥/4 なので,表現行列を 𝐴とすれば
𝐴=
−12 −13 −14 −15 1 12 13 14
.
(3) 𝜓Σ:𝑉 → R4 を基底Σの定める線形同型写像とすると,KerΦとKerΦ𝐴(ただ しΦ𝐴: R4 →R2は左から 𝐴を掛ける写像)は𝜓Σ によって対応する.そこでまず KerΦ𝐴を求める.行基本変形によって 𝐴を階段型に直すと
𝐴′=
1 0 −16 −15 0 1 1 109
. 𝐴𝒙 =0と𝐴′𝒙 =0は同値であることから,KerΦ𝐴は
𝑠©
«
1
−61 1 0
ª®®®
¬ +𝑡©
«
1
−5109
0 1
ª®®®
¬
(𝑠, 𝑡 ∈R)
という形の数ベクトルからなり,KerΦ𝐴の基底として [𝑡(1/6 −1 1 0),𝑡(1/5
−9/10 0 1)] がとれる(スペースの節約のため転置の記法を用いた).これを 𝜓−Σ1で移すことにより,KerΦの基底として
1
6 −𝑥+𝑥2, 1 5 − 9
10𝑥+𝑥3
がとれることがわかる.
(4) (3)よりdim KerΦ = 2だから,次元定理によってdim ImageΦ = 4−2 = 2.し たがって,dim ImageΦは𝑊 の部分空間なのだが,両者の次元は等しい.ゆえに dim ImageΦ =𝑊.
4.
(1) 𝒖 ∈ KerΦ1 とすると Φ2(𝒖) = (Ψ◦ Φ1)(𝒖) = Ψ(Φ1(𝒖)) = Ψ(0) = 0 なので 𝒖 ∈KerΦ2.ゆえにKerΦ1 ⊂ KerΦ2が成り立つ.
(2) まずKerΦ1の基底 [𝒗1, . . . ,𝒗𝑝]をとり,これに𝑉 のベクトルをつけ加えて𝑉 の 基底 [𝒗1, . . . ,𝒗𝑝,𝒗′1, . . . ,𝒗′𝑞]をつくる(𝑘+𝑙 =dim𝑉).
次に𝒘𝑗 = Φ1(𝒗′𝑗) ∈𝑊1(𝑗 =1,. . ., 𝑞)とおく.すると𝒘1, . . ., 𝒘𝑞は線形独立 である.なぜなら,𝜆1𝒘1+ · · · +𝜆𝑞𝒘𝑞 =0ならば𝜆1𝒗1′+ · · · +𝜆𝑞𝒗′𝑞 ∈KerΦ1であっ て,KerΦ1 =Span(𝒗1, . . . ,𝒗𝑘) なので𝜆1𝒗1′ + · · · +𝜆𝑞𝒗′𝑞 = 𝜇1𝒗1+ · · · + 𝜇𝑝𝒗𝑝 と表 すことができ,したがって𝜆1𝒗1′+ · · · +𝜆𝑞𝒗′𝑞−𝜇1𝒗1− · · · −𝜇𝑝𝒗𝑝 =0だが,ここで [𝒗1, . . . ,𝒗𝑝,𝒗′1, . . . ,𝒗𝑞′] は𝑉 の基底なので,𝜆1 = · · · =𝜆𝑞 = 𝜇1 =· · · = 𝜇𝑝 =0で なければならないからである.
𝒘1,. . .,𝒘𝑞に𝑊1のベクトルをつけ加えて,𝑊1の基底[𝒘1, . . . ,𝒘𝑞,𝒘′1, . . . ,𝒘′𝑟] をつくる(𝑞+𝑟 =dim𝑊1).そして線形写像Ψ:𝑊1 →𝑊2を,
Ψ(𝒘1)= Φ2(𝒗′1), . . . , Ψ(𝒘𝑞) = Φ2(𝒗′𝑞), Ψ(𝒘′1) =· · ·= Φ(𝒘𝑟′) =0 によって定義する.するとΨ◦Φ1(𝒗′𝑗) = Ψ(𝒘𝑗) = Φ2(𝒗′𝑗)(𝑗 =1,. . .,𝑞)であり,
またΨ◦Φ1(𝒗𝑖)=0= Φ2(𝒗𝑖)(𝑖=1,. . ., 𝑝.二番目の等号は𝒗𝑖 ∈KerΦ1 ⊂ KerΦ2 による)だから,Ψ◦Φ1 = Φ2が成り立つ.