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第2回 発酵乳製品の有用微生物

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Academic year: 2024

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1.はじめに

 明治時代に日本人が牛乳を飲用するようになって 100 年以上が経ちます.当時,牛乳は薬のように珍重 されていましたが,今日では 牛乳離れ すら起こっ ていると聞きます.牛乳は子牛が成長するために必要 な栄養をすべて含む,バランスの良い食品です.しか し保存性の観点で言えば決して日持ちの良い食品であ るとは言えません.世界的に見れば,歴史の記録が始 まる遥か以前に,保存食としての乳の加工製品の記述 が認められています.それは乳酸菌などの微生物を用 いた発酵乳製造技術によるもので,今日では保存性だ けでなく,風味の向上,そして有用な生理効果をもつ ことが分かってきました.このように長い歴史のなか で人々の生活にすっかり定着した発酵乳食品ですが,

いま一度,本稿では微生物の有用性という視点で紹介 したいと思います.

2.発酵乳の微生物

 まず発酵乳とは何か,から始めたいと思います.牛 乳,羊乳,山羊乳などの獣乳に微生物を加えて酸度を 上げたものを発酵乳と呼びますが,加える微生物の種 類や獣乳の種類により,世界各地でさまざまな種類の 発酵乳が作られています.日本においては,発酵乳 の種類は「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」,

いわゆる乳等省令により規定されています.この省令 において「はっ酵乳とは乳又はこれと同等以上の無脂 乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母ではっ酵させ,

糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの」

と規定されています.無脂乳固形分(solid non fat; 

SNF)とは,乳全体から水分を除いた全固形分のうち,

乳脂肪を除いた残りの部分を指します.表1にありま すように,無脂乳固形分が 8% 以上のものを「はっ酵 乳」と呼び,3% 以上 8% 未満のものを「乳製品乳酸 菌飲料」,またそれを加熱殺菌した「乳製品乳酸菌飲 料(殺菌)」,そして 3% 未満の「乳酸菌飲料」に分か れています.乳等省令では使用する微生物が乳酸菌又 は酵母と示されていますが,酵母を用いた発酵乳はそ の炭酸ガス生産性などから,あまり一般的ではないか もしれません.おそらくヨーロッパなどで普及してい るケフィア(kefir)やクーミス(kumiss)といった 酵母を使用した乳製品を包括する必要があるためと考 えられます.このような酵母は乳糖資化性をもつ酵母

( 属酵母など)や乳酸菌との共生関係 にある乳糖非資化性酵母( 属酵母)で あることが知られています.

 世界的に見た場合,狭義のヨーグルトでは使用する

微生物を と

の二種類に限り,乳脂 肪分 3.0% 以上,無脂乳固形分が 8.2% 以上のものを「ヨ  ーグルト」,乳脂肪分が 0.5% 以上 3.0% 未満の「部分 脱脂ヨーグルト」,乳脂肪分が 0.5% 未満のものを「脱 脂ヨーグルト」といい,無脂乳固形分による分類や乳 酸菌飲料のような分類は一般的ではなく,日本固有の もののようです.

 前述のように世界的には と

の二菌種を使用しない とヨーグルトとは呼ばない訳ですが,日本において

は や , ,

─ 111 ─

Microbiol. Cult. Coll. Dec. 2006. p. 111 114 Vol. 22,  No. 2

第 2 回  

発酵乳製品の有用微生物

篠田 直

カルピス株式会社 基礎研究フロンティアラボラトリー 〒229‑0006 神奈川県相模原市淵野辺 5 丁目 11‑10

Useful microbes in fermented milk products

Tadashi Shinoda

Calpis Co., Ltd. Frontiers Laboratory, R&D Center 

11-10, 5-chome, Fuchinobe, Sagamihara-shi, Kanagawa 229-0006, Japan

E-mail: [email protected]

連載「微生物の産業利用─はたらく有用微生物」

(2)

篠田 直 発酵乳製品の有用微生物

─ 112 ─

, , ,

,  , 

,  な

ど様々な菌株を用いた発酵乳が使用されています.こ れらの菌株は前述の乳等省令により 1 m あたり 106

〜 107個以上の乳酸菌数を示す必要がありますが,こ の菌数の測定方法は公定の培地(BCP(ブロモクレ ゾールパープル)加プレートカウント寒天培地)上で 35‑37℃ ,72±3 時間の培養したときの黄変コロニー 数で計測する方法で行います.この培地は,栄養要求 性の厳しい乳酸菌は増殖しないこと,また培養条件が 好気的な条件であるので耐酸素性の低い乳酸菌は増殖 できないことがあります.このため,日本の発酵乳製 造に用いられる乳酸菌には好気培養に耐える性質が必 要とされており,好気培養の難しい

属は乳等省令上の乳酸菌数を示すことが困難なようで す.

3.発酵乳中の微生物の保健効果(プロバイオティッ クスとプレバイオティックス)

 乳酸菌で発酵させた発酵乳の生理効果のなかで最も よく知られたものの一つに整腸作用があります.1991 年よりスタートした特定保健用食品の制度のなかで も,「お腹の調子を整える」ことを謳った商品群が大 きなジャンルを形成しています.多くの試験では乳酸 菌が便秘傾向のボランティアの排便回数を更新してい ることから,整腸作用は便秘の改善を示していること になります.その一方で,近年では過敏性腸症候群の ような神経性下痢症改善の報告があり,新しい整腸作 用として注目されています.

 ボランティアでの発酵乳の摂取による整腸作用試験 では,排便回数の増加と経口投与した乳酸菌が便中に 生きていることが認められることが合わせて示される ことが多く,乳酸菌が生きて腸に届くことが必要であ ると言われています.ただ,排便回数の増加が認めら れる乳酸菌株でも便中では培養できない状態で存在し ている可能性が認められることから,必ずしも生きて 検出される必要はないのではないか,ということは議

論の余地があるように思います(図 1).

 現象面では排便回数の増加/減少という明快な整腸 作用も,実際の作用メカニズムとなると不明確な点が 多いのも事実です.排便回数増加のメカニズムに関し ては,摂取した乳酸菌が直接に腸管内で生産する有機 酸が腸管を刺激することで蠕動運動が亢進するのでは ないか,という推定がなされています.しかしながら

1

 乳等省令による発酵乳等の規格

種類別 無脂乳固形分 乳酸菌又は酵母の菌数 大腸菌群 代表例

はっ酵乳 8.0% 以上 10,000,000 個/m 以上 陰性 プレーンヨーグルト 乳製品乳酸菌飲料 3.0% 以上 10,000,000 個/m 以上 陰性 ヤクルト

乳製品乳酸菌飲料(殺菌) 3.0% 以上 ─ 陰性 カルピス

乳酸菌飲料 3.0% 未満  1,000,000 個/m 以上 陰性 カルピスキッズ

図1 

 

乳酸菌投与におけるヒトボランティアの排便回数と 便中の菌体の検出

▲は生菌数を示し,△は検出限界以下をあらわす.●は標 識 DNA による検出を示し,○は検出限界以下をあらわす 

(Shinoda  ., 2001).

(3)

─ 113 ─

Microbiol. Cult. Coll. Dec. 2006 Vol. 22,  No. 2

表 2 で簡易に計算しましたように,もともと腸内に存 在する乳酸菌やビフィズス菌の菌数に対して,乳製品 で摂取した乳酸菌などの菌数は 1 桁から 2 桁ほども少 なく,局所的に高濃度になることはあっても腸管全体 への影響を与えるとするには不十分ではないか,とい う意見もあります.つまり,乳製品の乳酸菌を摂取し たことで腸内菌叢のバランスが変化し,もともと腸内 にいた乳酸菌・ビフィズス菌が増加するのではないか という考え方です.この推定では,発酵乳の乳酸菌 はプロバイオティックスな働きではなく,むしろプレ バイオティックス的に働いていることと言えます.従 来,プレバイオティックスは難消化性のオリゴ糖や食 物繊維などが中心で,これらはヒトの消化管で消化吸 収を受けずに腸内へ達して,そこに存在する乳酸菌/

ビフィズス菌の栄養源となることで腸内細菌叢のバラ ンスを乳酸菌/ビフィズス菌が優位な環境とする食品 成分を指します.

 また整腸作用以外にも発酵乳などの乳酸菌を摂取す ることで,腸管を介したヒトへの影響として免疫賦活 作用やアレルギー抑制作用などの報告が数多くなされ ています.例えば,経口で投与された乳酸桿菌やビフィ

ズス菌が粘膜免疫に重要な働きをもつ分泌型 IgA の 産生を増強することや,血中の抗体である IgG の産 生を促すことが報告されています.腸管経由で感染す る細菌・ウイルス性疾患の予防に役立っているものと 考えられています.またこれらの微生物がサイトカイ ン産生を変化させることで細胞性免疫を調節している という報告もあります.これらの作用が,例えば必要 な免疫作用を増強することでガン抑制効果として認め られたり,不必要な免疫作用であるアレルギー反応の 抑制効果として認められたりしています.

 一方で,腸内細菌が腸管の中で有害な物質を吸着 し,体外へ排泄しているという報告もあります.有害 な物質として,加熱したアミノ酸に由来する Trp-P1

(3-amino-1,4-dimethyl-5H-pyrido (4,3- ) indole) や Trp-P2 (3-amino-1-methyl-5H-pyrido (4,3- ) indole)な どの変異原性物質などやアフラトキシンなどのカビ 毒,芳香族有機塩素化合物などが報告されている.ま た,毒性物質以外にも消化管中で胆汁に由来する胆汁 酸と結合して排泄することで,胆汁酸の前駆物質であ るコレステロールの血中濃度を抑制したという報告も あります.これらのプロバイオティックス効果は医薬

2

 

健康成人の腸内細菌叢における乳酸菌とビフィズス菌の菌数と発酵乳製品中の

菌数の比較

種類 菌濃度(個/g) 総内容量(g) 総菌数

腸内細菌  

  1010〜 1011

107〜 108 1.5×103

1.5×103 およそ 1013〜 1014 およそ 1010〜 1011 発酵乳

 乳酸菌 107〜 108 100 およそ 109〜 1010

2

 カルピス酸乳の寿命延長効果

実線がカルピス酸乳投与群,破線が未発酵乳投与群,一点 鎖線が通常飼料投与群をそれぞれ示す.縦の矢印はそれ ぞれ対応する群の平均寿命を示し,カルピス酸乳投与群で 91.8±20.0 週,未発酵乳投与群で 84.4±17.4 週,通常食投 与群で 84.9±18.9 週であった(荒井ら,1980).

3

 カルピス酸乳の自然発症高血圧ラットへの投与

○は通常飼料投与群の血圧を示し,□は 0.25% (w/w) カル ピス酸乳混餌投与群を,△は 1.25% (w/w) カルピス酸乳混 餌投与群を,●は 2.50% (w/w) カルピス酸乳混餌投与群を それぞれ示す(Nakamura  ., 1996).

(4)

篠田 直 発酵乳製品の有用微生物

─ 114 ─ 品のような強い作用ではないけれども,日々の食事の なかで継続して摂取でき,穏やかな作用で健康維持,

病気の発生を予防するという食事本来の目的に合致し ていると言えます.

4.発酵生産物の保健効果(バイオジェニックス)

 菌体が宿主に対して生理効果を示すプロバイオ ティックスやその菌体の増殖を助けるプレバイオ ティックスに対して,発酵によって生じる物質によ る生理効果が知られるように成って来ています.前 述の規格では 「 乳製品乳酸菌飲料(殺菌)」 となる 飲料 「 カルピス 」 は と

を含む発酵乳と砂糖などで作られており,

製造過程で熱殺菌を行っているため製品には生きた乳 酸菌は含まれません.このカルピスの発酵乳(カルピ ス酸乳)を ICR マウスに混餌投与を終生行った試験 では,通常飼料や未発酵の牛乳を投与した場合に比べ て,平均寿命が約 8% 延長することが示されました(図 2).このような寿命延長効果は他のヨーグルトやビ フィズス菌の発酵乳でも認められています.20 世紀 初頭に Metchnikoff が提唱したヨーグルト不老長寿説 を直接的に示した試験結果でありますが,この効果は 発酵乳のさまざまな生理効果が複合して作用した結果 であろうと考えられています.

 カルピス酸乳の投与試験において,主要なマウスの 死因の一つである循環器疾患の発症時期が投与群では 遅延していました.このことをヒントにカルピス酸乳 を自然発症高血圧ラットに投与したところ,有意な 血圧降下作用が見られました(図 3).その後,有効 成分は乳清部分に含まれること,そして乳のカゼイン 蛋白質を分解して生じたペプチドによるものである ことが示されました.特に 発酵乳中か らは IPP,VPP,YP,KVLPVPE といった血圧降下 ペプチドが見出されました.in vitro の解析から IPP,

VPP にはアンギオテンシン変換酵素阻害活性が認め られたこと,そして化学合成で作った IPP 及び VPP を自然発症高血圧ラットへ投与したところ有意な血圧 降下作用が認められたことから,生体中でこのペプ チドがアンギオテンシン変換酵素の活性を阻害するこ とで血圧の上昇を抑制しているものと推定されていま

す.しかし,YP や KVLPVPE といったペプチドには 強いアンギオテンシン変換酵素阻害活性は認められな いことから,血圧降下作用には副次的な経路が存在し ていることも示唆されています.

 このほかにも,乳酸菌やビフィズス菌の発酵乳中に は様々な物質が生成していますので,今後新たな生理 活性物質が見出される可能性は大いにあるものと期待 されています.

5.おわりに

 本稿では,発酵乳製品の規格,菌体の生理機能,発 酵生産物の有用性の概要を簡単にご説明いたしまし た.限られた紙面ですので,十分にご紹介し切れなかっ た事項もまだまだたくさんあることと思います.発酵 食品において,パン類,醸造酒,味噌醤油などと並ん で身近な発酵食品である発酵乳にはまだまだ未解明な 有用性がたくさんあると思います.乳酸菌は現在,次々 にゲノム配列が明らかにされていますので,菌のもつ ポテンシャルが明らかになり,より有用な微生物で 作った乳製品が食卓に上るようになる日も来ることと 思います.このような産業界との距離の近い乳業微生 物は非常にエキサイティングな学問領域ですので,若 い研究者が興味をもって参加してくれることを期待し ております.

文 献

Nakamura,  Y.,  Masuda,  O.  &  Takano,  T.  (1996). 

Decrease of tissue angiotensin I-converting enzyme  activity  upon  feeding  sour  milk  in  spontineously  hypertensive  rats.  Biosci.  Biotech.  Biochem. 

60: 

488‑489. 

Shinoda, T., Kusuda, D., Ishida, Y., Ikeda, N., Kaneko,  K., Masuda, O. & Yamamoto, N. (2001). Survival of    strain  CP53  in  the  human  gastrointestinal  tract.  Lett.  Appl.  Microbiol. 

32: 

108‑113.

荒井幸一郎,室田一也,早川邦彦,片岡元行,光岡 知足(1980).殺菌発酵乳投与のマウスの寿命,腸 内細菌におよぼす影響について.栄養と食糧 33:

219‑223.

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