1.日本は微生物の宝庫:微生物による もの つく り大国 日本
日本は,資源に乏しい国といわれているが,本誌の 読者なら,微生物に関しては日本は世界に冠たる資源 大国であることはご存知のことと思う.日本は周囲が 海で,寒冷地から亜熱帯まで細長い国土をもち,地形 も変化に富んでいる.要するに,変化に富んだ自然が あり,生息する微生物も多種多様で,それらは四季の 変化に応じて刻々と変化する.これを砂漠の土と比較 すれば,同じ 1 グラム中に同じ数の微生物がいると仮 定しても,その豊かさが全くちがうことは容易に理解 できる.数と種類の多さは,周到で熱心な探策を行え ば,優れた能力や未知の能力を有する微生物と出合う 可能性も高いことを意味している.微生物との共存を 可能にするこのような日本特有の環境は,私たちに,
微生物に対する高い親和性をうえつけ,これを基盤に して古来から多くの発酵生産物がたくみに作り出され てきた.現在,日本が微生物バイオの分野では最先進 国であり,多くの化学工業がいわゆるバイオプロセス を取り入れた生産を活発に展開しているのもこのよう なところにそのルーツの一つがある.
微生物の生命の営み,すなわち,代謝や反応は,い まや,化学工業,食品加工と製造,医療,分析・計測,
環境保全,エネルギー資源開発など様々な産業分野で 利用されている.しかし,一般的には,誰もが知っ ている 味の素(グルタミン酸ナトリウム) ですら,
これが微生物を用いて製造されていることは案外と知 られていない.これは,世界で年間 150 万トンも製造
されている.単一の化合物で,これほど大量に製造さ れているものは,生物の機能を利用しない もの つ くり(いわゆる有機化学合成)を含めた製造全体を見 まわしても,あまり例がない.ここでは,微生物に よるものつくりについて,その方法論と私たちの研究 室から生まれた工業生産プロセスを例にとって概説す る.
2.ものつくりの方法論としての発酵法と酵素法 微生物を用いる物質生産法は,教科書的にいうと,
発酵法(fermentation)と酵素法(enzymatic trans- formation)に大別できる(図 1).発酵法は,微生物 の生育という生命現象を伴う生産法であり,増殖のた めの比較的安価な炭素源や窒素源が,生命活動のため の連続した多段階の複雑な酵素反応(代謝)を経て,
第 3 回
微生物工場─微生物による もの つくり─
清水 昌
京都大学大学院農学研究科 〒606‑8502 京都市左京区北白川追分町
Microbial and enzymatic production of useful chemicals
Sakayu Shimizu
Graduate School of Agriculture, Kyoto University, Sakyo-ku, Kyoto 606-8502, Japan
E-mail: [email protected]
連載「微生物の産業利用─はたらく有用微生物」
Enzymatic transformation
Fermentation
図1 発酵法と酵素法
目的とする生産物に変換される.この場合,微生物の 生命活動と目的とする物質の生成とは密接に関連して おり,微生物の細胞は高度に組織化された組立工場の ようにみなすことができる.従って,発酵法は,菌が 生きて活発に生命活動を行っていないと成り立たない プロセスであり,発酵法では微生物が本来生産する天 然物は作れるが,生命の営みと無関係なものは生産で きない.今,注目されているバイオエタノールの製造 プロセス(バイオマスに由来する糖質からアルコール を作るプロセス)は典型的な発酵法である.また,先 に述べた 味の素 の製造も,サトウキビなどの糖質 を原料とする発酵法で行われている.
一方,酵素法では,微生物はより機能的にとらえら れ,単に特定の反応を触媒する酵素あるいは酵素の袋 として扱われる.このことは,微生物の生命現象は酵 素を得るためには必要であっても,実際の反応とは無
関係であることを意味しており,酵素法がきわめて有 機合成化学的な発想に基づいた方式であることを示し ている.酵素法では,発酵法でいう原料(炭素源,窒 素源など)に相当するものとして,変換の対象となる 化合物(基質,substrate)が必要となる.基質は,通常,
一段または数段の酵素反応によって目的の産物に変換 されるにすぎないので,生産物に近い構造をもつこと が多く,その供給は発酵法の原料とくらべると,高価 になりがちである.また,基質は酵素の作用を受けて 変換されるものであれば,天然物でも非天然の化合物 でも利用できる.従って,酵素法では微生物が通常の 代謝で生産できるものは勿論のこと,非天然物の生産 も可能である.
ここでは,酵素法についてもう少し話を展開してみ る.歴史的にいうと,酵素法に類似した物質生産技術 は,実は,発酵という古来の生産技術の中にも見いだ 表1 Recent industrial applications of microbial enzymes in Japan (1984‑2003)
Item Product Organization (year)
Amino acids D-p-Hydroxyphenylglycine Kyoto Univ. & Kaneka (1979/1995)
Aspartate Ajinomoto (1984)
Mitsubishi Chemical (1986) DOPA Kyoto Univ. & Ajinomoto (1994) Hydroxyproline Kyowa Hakko Kogyo (1997)
Nucleotides 5ʼ-IMP & 5ʼ-GMP Toyama Pref. Univ. & Ajinomoto (2003)
Sweetners Paratinose Shin Mitsui Sugar (1984)
Aspartame Tosoh Corporation (1987)
Lactosucrose Hayashibara (1990) Galactooligosacharide Nissin Sugar mfg. (1990) Maltotriose Nihon Shokuhin Kako (1990) Engineered stevia sweetner Toho Rayon (1993)
Theandeoligosaccharide Asahi Chemical Industry (1994)
Treharose Hayashibara (1995)
Nigerooligosaccharide Nihon Shokuhin Kako, Kirin Brewery &
Takeda Food Products (1998)
Oils Functional oils Fuji Oil (1989)
Kao (1990)
The Nissin Oil Mills (1998) Polyunsaturated fatty acids Kyoto Univ. & Suntory (1998) Vitamins Stabilized vitamin C Hayashibara (1990)
Nicotinamide Kyoto Univ. & Lonza (1998) Vitamin C-phosphate Kyowa Hakko Kogyo (1999)
Pantothenate intermediate Kyoto Univ. & Daiichi Fine Chemical (1999) Chemicals Acrylamide Kyoto Univ. & Mitsubishi Rayon (1988)
Chiral epoxides Japan Energy & Canon (1985) Pharma intermediates Herbesser' intermediate Tanabe Seiyaku (1992)
Chiral alcohols Kyoto Univ. & Kaneka (2001) Others Casein phospho peptide Meiji Seika (1988)
Hypoallergenic rice Tokyo Univ. & Shiseido (1991) Hypoallergenic protein Meiji Milk Product (1991)
せる.例えば,酢の製造は,古来の発酵技術の一つで あるが,これは,エタノールが 2 段階の酸化反応によっ て,アセトアルデヒドを経て酢酸に変換されるプロセ スであるという点では酵素法そのものである.酵素法 による物質生産の古い例には 1930 年代に始まったビ タミン C の製造や酵母によるアルコール発酵の過程 で生ずるアセトアルデヒドをベンズアルデヒドと縮合 させ,エフェドリン製造のための中間体に変換するプ ロセスなどがある.これらは,現在も改良が加えられ,
有機化学的工程と組み合わせることで工業的製造法と して利用されている.しかし,一つの物質生産方式と して酵素法の高い可能性が認識されたのは,医薬品と して有用なステロイド類の合成・変換に微生物菌体を 触媒として用いるという当時では奇抜なアイデアが劇 的な成功を収めたからである.カビ,酵母,細菌の多 くがステロイドやステロールに作用して,水酸化,エ ポキシ化,異性化,側鎖の切断など多彩な反応を行う ことがわかり,これらのいくつかは工業的製法として 利用されるに至った.また,微生物あるいは酵素を化 学合成の触媒として利用するための基本的原理を示し た点でも,これらの反応は重要である.1950 年代の ことである.同じ時期に微生物の培養法,生化学,遺 伝学,酵素化学などが飛躍的に発展したことも,以後 の酵素法の展開の要因になっている.
3.微生物によるものつくり,最近の展開
最近 30 年ほどの微生物によるものつくりについて,
日本でなされた成果の一部を表 1 にまとめた.光学活 性アミノ酸類,機能性糖類,機能性脂質類,ビタミン類,
汎用化成品,医薬品などの中間原料としての種々のキ ラルアルコール,キラルエポキシド,キラルアミンな ど,様々なものをあげることができる.表 1 は主に酵 素法の成果を要約したものであるが,発酵法の成果を まとめても,同様のものが作れるであろう.ここで強 調しておきたいことは,まず,生産物が食品用から精 密化学品,医薬品,汎用化成品に至るまで多様なこと である.これは,微生物によるものつくりが多様な産 業分野で展開していることの証でもある.実際,様々 な業種の企業がこの分野に参入していることもこの表 からわかる.また,この表では省略したが,実際の生 産を担う微生物のほとんどは,いわゆる工業微生物と いわれるもので,その多くは実験室ではなじみが薄い が,自然界ではごく普通に生息している菌で,根気強 い探索を通してそのユニークな能力が見いだされ,開 発・育種されたスーパーな微生物である.
最初に,日本が微生物バイオの最先進国であると書 いたが,表 1 のようなものを欧米諸国全体についてま とめたとしても,同等の表はつくれないと思われる.
このような応用微生物学の分野は,学問的にも産業的 図2 油糧微生物 (A)と代謝工学的に誘導されたユニークなPUFA生合成経路(B‑D)
にも日本の得意分野の一つである.また,この表は,
大学から発信して産業界との連携によってなされた成 果がいくつか含まれている.これらのいくつかは筆者 らの研究室から発信したものである.ここでは,それ らを例にとって少し詳しく説明する.
4.世界で活躍する京大発酵研究室プロセス 1)油を作るカビ
筆者の研究室の仕事の一つに,微生物に食品用の油 を作らせてみようという研究がある.これを発酵法 の一例として少し紹介する.探索によって京都大学 キャンパスの土壌からユニークな糸状菌が得られた.
と同定されたこのカビは,普遍的 な土壌糸状菌であるが,糖質を与えて生育させると,
これを効率よく油脂(トリアシルグリセロール)に変 換して,菌体内に蓄積する.その蓄積量は,菌体 1 g 当たり 0.6−0.7 g に達する.つまり細胞の 6−7 割が 油でできており,超肥満のカビである.顕微鏡で見る と,油滴が細胞の中にびっしり詰っているのがわかる
(図 2A).この油脂には,アラキドン酸など炭素数 20 の高度不飽和脂肪酸(PUFA)が大量に含まれている.
培養条件を整えると,油脂の生産量は培地 1 当たり 10−20 g,油脂中の全脂肪酸に占めるアラキドン酸の 割合は 30−70%に達する.この油脂は炭素数 18 のオ レイン酸やリノール酸が主脂肪酸である大豆やトウモ ロコシなど油糧植物では作れないユニークなもので,
乳幼児や老齢者の補助栄養食品として利用価値の高い ものである.このようにして得られる油脂は,従来の 動植物由来の油脂と区別して「発酵油脂」と呼ばれ,
すでに,培養タンクという畑で大量生産され,乳幼児 の粉ミルクの栄養価を高める素材として世界的に使用 されている.この発酵法は,ほとんど菌の能力のみに
依存した単純な生産法であるが,それでも工業生産と して成り立つところが面白いといえる.また,アラキ ドン酸生合成に関与する酵素の欠損変異株を得ること で,生合成経路の改変が可能となり,ジホモ‑g‑リノ レン酸(20:3n-6)やミード酸(20:3n-9)など各種 のユニークな PUFA の工業生産が可能になっている
(図 2B‑D).油は油糧植物から採るものと相場がき まっており,微生物に油を作らせるといったちょっと 変わった研究はほとんどされていなかった.勿論,こ のカビが見つかるまでは,微生物がこのようなユニー クな油を作ることも知られていなかった.これを契機 に,「油糧微生物」という言葉が生まれ,油脂発酵あ るいは脂肪酸発酵ともいうべき新しい微生物生産の分 野とマーケットがひらけた.
2)キラルテクノロジーの新兵器 ラクトナーゼ D‑パントテン酸は,B 群ビタミンの一種で,医薬 品,飼料添加物としての用途のほかに,保湿作用が あることからシャンプーの添加物としても使われてい る.従来の製造は,化学的に合成したラセミ体のパン トラクトン(DL‑PL)をジアステレオマー造塩法とい う複雑な光学分割法によってD‑PL とL‑PL に分離し,
得られたD‑PL とb‑アラニンを縮合させる方法で行
Acrylonitrile
3-Cyanopyridine
Acrylamide
DL-PL D-PA L-PL
Nicotinamide
図3 ラクトナーゼによるパンとラクトンの光学分割反応
(1)および二トリルヒドラターゼによるニトリルの アミドへの変換(2, 3)
Coexpressing cells Chiral alcohols Glucose
Gluconolactone Prochiral carbonyl compounds NAD(P)+
NAD(P)H
GDH Carbonyl
reductase
図4 バイオ不斉還元システムの原理と設計 Designing of bioreduction system:
・Enzyme library (screening)
・Cofactor regenerator
・Host cells
・Reactor
Construction of bioreduction system:
1. Screening of novel carbonyl reductases 2. Characterization of carbonyl reductases 3. Gene cloning
4. Gene expression in host cells
5. Co-expression with cofactor-regeneration enzyme gene in host cells
6. Application to the practical production process
われていた.筆者らは,スクリーニングにより土壌に
普遍的に生息する糸状菌( )が
DL‑PL 中のD‑PL のみを選択的に加水分解して対応す る酸(D‑パント酸(D‑PA))に変換する新規な酵素 反応(ラクトナーゼ反応)を効率よく行うことを発 見した.この反応を利用すると,DL‑PL は簡単に酸
(D‑PA)とラクトン(L‑PL)に分別することができ る(図 3,反応 1).D‑PA は容易にD‑PL に戻せるの で,b‑アラニンとの縮合反応の工程では従来法がそ のまま使える.現在,D‑パントテン酸の生産は世界 で年間約 6,000−10,000 トンといわれているが,その うちの約 50%はこの酵素法(ラクトナーゼ法)によっ て製造されている.
3)不斉還元システムをデザインする
プロキラルなケトンを立体選択的に還元し光学活性
アルコールに変換する微生物反応(不斉還元反応)も 実用に供されている.原理とそれを実際化するプロセ スデザインは図 4 に示した.還元反応を触媒する還元 酵素(reductase, dehydrogenase など)と還元力を供 給する補酵素(NAD(P)H などでコスト的には高価)
の再生に関与する酵素(glucose dehydrogenase など)
を特定の宿主(大腸菌や酵母など)で大量に共発現さ せ,この組み換え菌体を触媒として用いる酵素法であ る.この系では還元のエネルギー源としてのグルコー ス,基質であるケトン,触媒量の補酵素,触媒として の菌体を混ぜると,基質は効率よく対応する光学活性 アルコールへ変換される.このシステムは,従来のパ ン酵母などの菌体を用いる方法の欠点である十分な収 量および光学純度が得られないことを巧みに回避して いる(それぞれ,酵素系の細胞内含量が低いこと,細 胞内に共存する立体選択性の異なるいくつかの還元酵
COOEt OH
COOEt
O Ethyl (R)-3-hydroxybutanoate
Ethyl (R)-4-trifluoro- 3-hydroxybutanoate (4R,6R)-Actinol
O OH O O
O O
D-Pantolactone S1
AR1
CPR
Yield Specifictiy Amount
>99% >99% ee 500 g/l
>99% >99% ee 400 g/l
>99% >99% ee 100 g/l
90% >99% ee 100 g/l
Cl COOEt
O
Cl COOEt
OH Ethyl (R)-4-chloro-
3-hydroxybutanoate
Cl COOEt
OH
Cl COOEt
O Ethyl (S)-4-chloro-
3-hydroxybutanoate S1
AR1
95% >99% ee 300 g/l
>99% >99% ee 350 g/l
O
NHCH3
d-Pseudoephedrine
OH
NHCH3
90% >99% ee 70 g/l APDH
Products
O
HO O
O O LVR
O
OYE
COOEt O
F3C COOEt
OH F3C
QR (R)-3-Quinuclidinol
>99% >99% ee 100 g/l 570 g/l
700 g/l
N O
N OH
Product
Molar Optical Yield yield purity
図5 バイオ不斉還元システムによる様々な光学活性アルコールの生産
素が同じ其質に作用することに由来する).現在,ス クリーニングにより,基質特異性や立体選択性の異な る還元酵素のライブラリーが整備され,各種ケトンを 対応する望みの光学活性アルコールへ容易に変換でき る工業生産システムとなっている(図 5).また,ケ トンのアルコールへの還元にとどまらず,本法は,ケ トンの還元的アミノ化,炭素間 2 重結合の水素化(図 5 のアクチノールへの変換)などの立体選択的反応に も利用できる.
このような光学活性化合物を作る技術分野をキラル テクノロジーというが,上記の酵素法 2 例は,医薬品 の中間原料のような精密化学品の製造に欠かせないキ ラルテクノロジーの重要技術となっている.
4)汎用型化成品製造への利用
合成化学的には比較的容易と考えられているような 化学反応でも,微生物反応を用いると画期的な技術革 新が可能になることを,ニトリル化合物を水和して アミド化合物に変換する微生物反応(ニトリルヒド
ラターゼ反応)を例にとって紹介する.この反応も や などの土壌細菌に見い だされたもので,単純ではあるが新規なものであり,
これを利用すると,アクリロニトリルからアクリルア ミドへの変換(図 3,反応 2)や 3‑シアノピリジンか らニコチンアミドへの変換(図 3,反応 3)が容易な ことが判明した.すなわち,短い反応時間,高い転 換率で,化学的方法ですら困難と思われる高濃度の生 成物を与えることが可能となった(それぞれ,収量,
0.6 kg/ および 1.46 kg/ ,モル転換率 100%).勿論,
同じ反応は有機化学的にも行えるが,実際は反応の制 御が意外と困難で,反応がさらに進み,酸(アクリル 酸やニコチン酸)が副生する.現在,これらの反応は 工業的に利用され,世界的に見ると,アクリルアミド は年間数 10 万トン程度,ニコチンアミドは 3,000 ト ン程度がこの酵素法で製造されている.アクリルアミ ドの生産法の確立は,安価な大量生産型の化成品にも 省エネルギー型の酵素反応が利用できることを示した 点でも画期的で,酵素法が,精密化学品の合成にとど まらず,広く化学工業原料の製造分野で利用できるこ とを示したものである.
5.グリーンケミストリーへの道を拓く
工業生産プロセスへの微生物反応の導入は,環境調 和型のプロセスを構築する上でも,本質的に有利な選 択である.従来の有機合成化学による石油化学反応を 基盤とする化学工業プロセスを少しでも変えていける 余地があるのなら,積極的に取り組むべき課題であ る.ここでは,先に述べた酵素法によるパントラクト ンの光学分割やアクリルアミドの生産プロセスを環境 保全の観点から考えてみる.いずれの場合も製造法の 変換によって,製造コストの低減のみにとどまらず,
プロセス自体がクリーンになり,エネルギー消費や廃 棄物が少なく,環境に対する負荷が著しく軽くなった ことも注目すべき点である(図 6).最近では,この ような環境に配慮した物質生産に関する化学はグリー ンケミストリーと呼ばれ,発酵法や酵素法はグリーン ケミストリーの中核となるべき技術に位置づけられて いる.欧米や日本でのグリーンケミストリー政策の急 展開も,種々の精密化学品の生産や基礎化成品生産へ の微生物反応の成功的適用が契機となっており,今後,
様々な微生物反応が石油化学あるいはポスト石油化学 における基幹物質の合成と変換に利用される可能性も 大きいといえる.
(担当編集委員:高木 忍)
図6 環境負荷の観点から見た化学法と酵素法 パントラクトンの光学分割法(ラクトナーゼ法 とジアステレオマー造塩法)(上),アクリロニ トリルからアクリルアミドへの変換(ニトリル ヒドラターゼ法と銅触媒法)(下)
CO2 kg/ton acrylamide 4000
3000
2000
1000
0 MaterialRaw
Electricity Steam
Chemical Bio Process Process