総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成23年度)
テーマ2 小課題番号2.2-4
補修・補強用締結構造の開発および強度評価方法
一之瀬和夫*小久保邦雄**小林光男*後藤芳樹**斉藤数馬***若林博之***
1. まえがき
既設構造物の緊急補強施工や補修工事において,部材 の構造締結作業で狭隘な部材の内部へ作業者が侵入した り,締結工具を配置設置できないことは多い.このよう な箇所や作業の迅速さを要求されるときブラインドファ スナが使われる.これによって作業者一人による単独施 工の極めて作業効率は高くなる.そこで,橋梁や鋼構造 の 補 強な どで は 締結 助材 とし て M12 以上 のハ ック ボル トが,プレファブハウスなどではM10までのフレキシブ ルブラインドファスナ(frexible blind fastner FBFと略記)
が使われる.このとき,締結助材に使われるのがブライ ンドナットである(blind nut BNと略記).ま た,ハイ ド ロフォ-ム部材の構造締結にも BN として広く使わ れ て いる(名称:ロブバルブ,ロブロックなど).これらの背 景から,これま で行ってきた締結助材についてのFEAに よるBNモデル16の 締結解 析と 実験の結果1)をもとに し て,比較的軽作業下の片側施工の際に使用するフレキシ ブルブラインドナット(FBN と略記)の構造締結の強度 評 価方法を次のようにとりあげた.
a)BN の変形と施工上の検 討課題を 明らかにする.また,
b)母材 AへBNを締結した 状態の強度 をBNへの軸 力Pz と せ ん 断 力 Ps が 同 時 に 作 用 す る 複 合 負 荷 (combined loading)のもとで調べる方 法(複合負荷法)の開発.
2. 複合負荷による強度評価 法
スポット溶接や構造締結の強度評価で行われている従 来の方法は,締結助材の軸および軸と直交する平面内で せん断力を負荷するものであった.この方法を BNあ る いはFBN締結へ適用する とFig.1に示す方法となる1). 同図の方法(従来法)を単純負荷法と名づけ,あらたに Fig.2 で 提 案 し て い る 方 法 を 複 合 負 荷 法 と 称 す る こ と に する.Fig2の強度特性図を 準備することにより,施工の あと締結要素が被っている外力から,付替え,あるいは 補修(補強)の要不要を判断することができる.
3. 複合負荷による実験結果 と考察 3.1 単点構造締結における 加締力と BNの軸引張強度
Fig.3には,NSD-6Mの単点構造締結で加締めたときの
加 締 力 P と , そ の 後 の 軸 引 張 力 を 負 荷 す る こ と に よ る
BN円筒部の伸び破断を 示 した. 一対の母材はSPCC(A
と B ともに t1.6mm)で , ナッタ へ設定する加締量ℓ を
1.8mmとした.軸引張によ る円筒部の 変形は伸び破断で
あり,Pmax≒7kNであった .母材Bの底面とネジ部との 間で BN のねじ部を軸方 向 へ引く ことによって,円筒部 の強度が求められる.母材 AとBを引き剥がすとき ,穴 の広がり変形はBの板厚に大きく左右される.
3.2 浅絞りカップ型ホルダ による単点構造締結の強度 絞りカップを設計し,素板SPCCt1.6mmを 浅絞りする
*:工 学 院 大 学 工 学 部機 械 工学 科・ 機 械 シ ステ ム 工学 科 教授,** 機 械 シ ス テム 工 学科 卒 論生,***(株)フ セ ラ シ
(a) 軸 引 張 (b) せ ん 断 Fig.1 従 来 法 に よ るBNの 破 壊試 験
Fig.2 BNへ 複 合 負 荷 方 法
Fig3加 締 と 軸 引 張 力に よ る 破断
総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成23年度)
テーマ2 小課題番号2.2-4
ことによってFig.4に示したホルダを準備した.複合負 荷jigの詳細については省 略し,Fig.5には,こ れらの jig によってθ=0°および θ=90°で実施したPの推移と BN の破断形状を示した.同図(a)で,1対のホルダ内へ納 め られた締結体は軸力Pzによって軸方向へ引剥がされる.
このとき,加締によって BN の円筒部に形成され たバ ル ブの外径部によって母材Bの穴部は押拡げを被る.母材 B の穴部はバルブによって 面外変形をうける.したがっ て , 軸 引 張 力 が 優 勢 な 外 力 環 境 で の 設 計 と 施 工 で は ,
Fig.2の軸力優勢域でBN単 独の強度特性値よりも母材B
の面外変形を考慮することが重要である.同図(b)に お け るせん断力負荷の結果では,Pmax以降にBNの円筒 部 伸 び破断がおこっている.母材 B の穴拡がり量は小さく,
変位zはBNが せん断される ことによるものである.Fig.5
のP推移をFig.6に示したそれらと比較すると,BNは カ
ップ型ホルダから大きな変形拘束をうけている.すなわ ち,Fig.6に示したように,従来法でおこなうと長片母材 の面外変形が BN 円筒部 の 伸び変形を促進することにな るので注意が必要である.両者の方法で得られたせん断 力 Psの値はおおよそ同じ 値である.母材 A,ある い は B の 板 厚が 小さ くな る と,BN の 円 筒が せ ん断 され るより も,板側の穴部広がりが先行する.Ps に対する Pzの 比 の値(η=Pz/Ps)を 0.26~3.7 で実施した方法とその結果 を発表時に示す.
4. まとめ
ブラインドファスナ-のうち,ブラインドナットの締 結力の向上を目指して,部材A及び Bの締結における バ ルブの複合負荷試験法を開発した.締結体へ軸力および せん断力を負荷することにより,外力を受けるバルブの 挙動を実験で調べた.
参考文献
1) Peizeng L.,Kunio K.,Kazuo I.,Masaaki S.:Experimental and Numerical Analysis of the Fastning Bolt Using the Plastic Buckling Deformation of a Pipe,J.SMME,vol.4,no.12(2010),1765-1777.
(a) θ=90°, couple nr.1 and nr.2
(b) θ=0°,couple nr.5 and nr.6 FIg.5 P推 移 (NSD-6M,PCC,:t1.6,:t1.6)
(a) 浅 絞 り 設 計お よ び 塑性 加工
(b)不 整 成 形 の 一 例 Fig.4
浅 絞 り カ ップ 型 ホ ル ダ
Fig.6 従 来 法(長 片 母 材AとBへ 締 結 さ れ たNBの 破 壊 荷 重 推 移 と破 壊 状態 ,NSD-6M,SPCC,A:t1.6,B:t1.6)