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選択体系文法理論 - 福島大学

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山口 登:選択体系文法理論[後編 1] 35

選択体系文法理論

        [後編 1]

r選択体系言語学の最近の動向

(Hallidayのシドニー大学退官によせて)

山 口 登

はじめに

M.A.K.Hallidayが去る1987年末をもって,

1975年に言語学科創設教授として招かれその創 設と発展に努めてきたシドニー大学言語学科を,

関係各筋に惜しまれつつ退官した。Hallidayは,

学科長としての10年を含む在職12年(これはそ れまでの一個所に2年程の在職期間と比べると例 外的に長い)の間に,シドニー大学をオーストラ

リアで最も有力な言語研究機関の一つに育てあげ ただけでなく,彼が主唱する選択体系機能文法理 論(Systen亘。 Fmctional Grammar,以下SFG と略記)に基く言語の理論的・応用的研究の飛躍 的な発展を促してきている。筆者は,シドニー大 学言語学科草創期の1977年にHallidayのもと で学び,その後様々な機会にHallidayと接触す るなどしながら,その言語理論の理解に努めてき た者として,Hallidayのシドニー大学退官によ せて,彼の理論に基づく研究・活動の一端を紹介

しておきたいと思う。本稿では,1987年にシドニ

ー大学で行われた二つの国際学会AILAとISW

での研究テーマや人的交流の様子と最近のSFG 関係の研究や出版物の具体例,そして,そのよう な研究・活動を支えているHalliday等の言語研 究に対する考え方を中心に述べることにする。

AILAとISW

 4ヵ月後にHallidayの退官を控えた1987年

8月のシドニー大学言語学科には賑々しい雰囲気 が満ち溢れていた。Hallidayが開催の総責任者 を勤める第8回国際応用言語学会(AILA)と,

Hallidayの言語理論とその応用を中心とする研 究学会であり南半球では初めての第14回国際選

択体系言語学研究会(ISWニIntemational

SystemicWork5hop)があい前後して開かれたか

らである。

 日本からもJACET関係の多数の参加者を得た AILA(16日〜21日)では,その開催の場所柄も あり,Halliday理論に関わる研究発表がかなり の数行われた。更に,開催地オーストラリア在住 の研究者達による諸研究が,特別枠のワークショ

ップの形で紹介され,その中にはGenre:the social白haphlg of text(T。Threadgold&G.

Kress),Language and gender(C・Poynton&A・

Thwaite),Semanticvariation:themeani㎎of evelyday talk between mothers and children

(R.Hasan&C.Cloran),Writi㎎:teaching genre across the curri㎝1um(J・Martin,J・

Rothery&F.C㎞stie)等のSFG関係の現在シ ドニー大学を中心に精力的に行われている研究の 一部の紹介が含まれていた。ここに示したワーク

ショップのテーマを見ただけでも,最近のHa1−

1iday理論による研究領域の広がりがおぼろげな がら掴めよう。AILAでのこれらの一群の研究発 表と研究紹介は,さながら,その翌週5日間(24

日〜28日)にわたって行われたISWへの序曲の 観を呈していた。

 SFGに基づく研究がこれから追究すべき諸課 題を論じたHallidayの全体講演Systemic lin−

guistics:dir㏄tionsfordevelopmentで始まった ISWには,終始「友好的」な雰囲気が漂ってい た。「友好的」というのは,SFG研究者達の研究・

活動を特徴づけるものであり,自分の考えを示す 場合に,それが本や論文によろうが,あるいは学 会発表や非公式の個人的対話によろうが,お互い を攻撃し合うのではなく,いわば一つの緩やかに 組織された共同研究チームの一員として協力し合

いながらお互いの考えを作りあげていくという姿 勢である。そこには,自分の考えの正当性,優秀

(2)

さを排他的に主張することもないし,他者の考え の不備や知識の不足を非難するということもない。

この「友好的」な雰囲気は,1973年にノッティン ガム大学のHalliday理論研究者達によって地域 的な研究会の形で始められ,1982年に初めて英国 以外の場所(カナダ)での開催を機にその名称に

「国際」を冠することとなった現在のISWのプロ グラムのありかたにも色濃く反映している。ISW のプログラムでは,他の学会と同じようなやりか たで若干の全体講演と30ほどの研究発表が行わ れるが,それに劣らず重要な役割を果たすものは,

小数人のグループに分かれて行われるセミナーと ワークショップであり,夕食後長時間にわたって 行われる討論集会(dialogicsession)である。セミ ナーとワークショップの性格はほぼ同じものであ り,テーマとして取り上げられた分野の専門家と その分野に関心を抱く者や初学者が,具体的な資 料を用いて実際に分析作業等をしながら互いに学

び合い啓発し合って,その分野の研究の発展と深 化を目指そうとするものである。更に,討論集会 は,当面の最も重要な課題を取り上げ,話題提供 者とフロアーの人達が,たとえ師弟であろうが自 分と近しい研究者同志であろうが,批判すべき部 分に対しては手厳しい批判をするということをし ながらも,互いに「友好的」に学び合う場になっ ている。このような人的交流のありかたは,

Hallidayがしばしば言うように,言語研究はその 対象である言語と同じように対人間的な営みであ る,という考え方の一つの具体化であるといえよ

う。

 今回のセミナーのテーマはPhono1㎎y(C.

Mock),Lexicogrammar(M.Gregory),

Network whting(R。Fawcett),Probabilistic grammar(G.Plum),A貢ificia1血telligence(W.

Mam),Australian la㎎uages(W.McGragor),

Language development(C.Painter),Systemic theory(T.Threadgold),Context(D。Butt)であ

り,ワークショップのテーマは,Varbal art(P.

Thibault),Media(T.van L㏄uw㎝),Ideology and text(G.Kress),Semantic variation(R.

Hasan),Aphasic discourse(E.Amlstro㎎),

Casual conve㎜tion血ESL(D.Slade&S.Eg−

gins),Classroom discourse:s㏄ondary school

(L.Gerot),Academic discourse(H.Dn∬y)であ り,これらのテーマはいずれも最近のSFG研究

者達の主要な関心事をほぼ網羅したものであった。

討論集会は三晩にわたって行われ,そのテーマは,

Modelli㎎context:register,genre,ideology

(D.Butt,M.Gregory,M.Halliday,R.

HasIm&J・Martin),Artificial intellig㎝ce and systemic linguisticsσ.Bateman,R.Fawcett,

W.Mam&C.Matthiessen),Towards a lan・

guagebasedtheoryofleaming(EC㎞stie,M。

Halliday,C.Painter&J.Rothery)であり,現在 SFGがその本領を最も成功裏に発揮し始めてい る研究領域であった。

 同じように「友好的」な雰囲気の中で,全体講 演として,先に触れたHallidayのもの以外に,

SFGに基づく研究の中でも重要なCb幽痂〃ε

L∫㎎嬬痂sα 4Sb吻」乃2胤如 」7b磁鳩佛

動物勿4 ㎜4ε」ゲ6馴s㎞女ル o吻㎜1

9翅翅㎜■4π4伽0伽ω柳 ε S夢召00餌・

観 加蕗㎎ 勉∫ (1980,Julius Groos Verlag

Heidelberg&Univ of Exeter)の著者であり

SFG研究者の中心的存在の一人でもあるR.

FawcettのTextprod㏄tionandcomprehension

inaunifiedcomputational model,Lambの成層

文法とPikeの文法素論の洞察をSFGに取り組 んだ㏄㎜mication L剛甜csという理論を

提唱するM.GregoryのKnowledge in a dis・

cou罠℃ analysis and caねlysis: a functional

approachtognostology,イデオロギーの科学分 野のテクストに及ぼす影響についての主導的な研

究をしている」.L㎝keの㎞tics,ideology

mdcha㎎eが行われた。また研究発表として最も 重要なものは,この10数年の間Hallidayの最も 近くにありシドニー大学の現言語学科長でもあっ て,言語の体系のモデルにイデオロギー,ジャン ル,言語使用域の三つのレベルを上積みした Sys㎞cS㎝㎡otics(あるいはSystemiotics)と いうHalliday自身の理論とはやや異る理論を提 唱しているJ.MartinのLa㎎uage tumed back onitself:astratalconspiracyinEngliεhであっ

た。

 こうして過ぎていったISWの期間中に,非公 式ではあるが「友好的」に学び合う対話の機会を 更に提供したのは,会議に先立って行われた歓迎

レセプション,会期中の午前と午後のティーブレ イク,かなり豪華な食事が用意された昼食と夕食 の時間,討論集会の後のビール付きの歓談の時間,

(3)

山口 登:選択体系文法理論[後編 1] 37

Hallidayの好きな中国料理店で行われたコンフ ァランスディナー,そして閉会の懇談会であった。

lSWにはオーストラリア,イギリス,アメリカ,

カナダ等を中心に130名余の参加者があったが,

これらの非公式の集りにおいても,有名・無名の 研究者達が一同に会して,活発に意見を交換し合

う姿は印象的であった。なお,閉会の懇談会にお いて,この学会は,その実態に即して,今後名称 をIntemational Sys㎞c Co㎎ressと改められ ることとなった。

SFG関係の最近の研究と出版物

 ISWを中心とする様々な研究会,共同研究を通 して,SFG関係の出版物が,この数年その数を急 速に増してきている。その中でもとりわけ重要な

ものの一つは,鋤鍬 L∫㎎μ奮幡」 伽0び 4 4卿伽吻πs(C.S.Butler,1985,Ba厨ord)

である。これは,Chomsky理論の25年間の発展

について概略した.蕊麟漉7㎞η伽ノ4嬲物

(ENewmeyer)のSFG版に相当するものであり,

Halliday理論とその応用研究のおよそ25年間の 発展の概略およびHanidayの諸著述に対する批 判的検討を述べたものである。筆者もほぼその主

旨に共感している批判的検討の部分に対しては,

Halliday自身や彼に近い立場をとるJ.Martin 等から「誤解に基づくものである」といった逆批 判も非公式には聞かれるが,Halliday理論とそ の応用研究の流れを知るうえで大変参考になろう。

この本の末尾に1985年頃までのSFG関係のか

なり詳しい参考文献目録が示されているので,こ

こではなるべくそれ以降のあるいはそこには含ま れていない出版物(特に本,論文集,ジャーナル,

オケイジョナルペーパー等の形で刊行されたもの あるいは刊行予定のもの)を中心に,それらの研 究を産み出している研究者集団の動向をも混じえ て紹介する。

 先に述べたような雰囲気の中で過去に行われた ISWで発表された研究を中心とする論文を集め た論文集として,5加伽女∫セ壇。勧8s碑D魯

ω鋸形(ybム1)」S吻。翅伽。惚惚」螂

ノ}D 3魏召9酌1SP7, (Vb .2) r S2を 勿4のゆ鰯

螂加御伽9訪EW(J.Benson&W.

Greaves編,1985,Ablex)と釣s鰍翫 o吻 4」

」4鋤㈱池s如1)鶴。 彫ゴs吻 翅ρ吻痔加御

伽12訪1SW(J.Benson&W.Greaves

編,1988,Ablex)がある。また,かなり前にその公 刊が予告され関係者達から待望久しかった論文集

が,その内容を大幅に改めハ勧伽膿む玩 銚伽女Li麟漉s(γb乙1)」7㎞ぴσ 4

4㎜φ勧π(M.Halliday& R.Fawcett編,

1987),(VbJ。2)」7㎞,ッ躍4μ㎞勧  (D.

Yomg&M.Halliday編,1988,Frances

Pinter)としてようやく出版される運びとなった。

更にLJ㎎傭伽伽4銚鰍恥柳ε漉泥(W.

Greaves,M.Cummi㎎s&」.B㎝son編,1988,

Jo㎞Benjamh】s)も出版された。これらのいずれ にも,理論的研究と昨年のISWの紹介で示した ような多岐にわたる領域への応用研究が含まれて いる。SFG関係の研究では,後で述べるような Halliday等の言語研究に対する考え方に支えら れて,理論と応用が相互に影響し合うことが重要 であるとされており,これらの論文集の内容もこ の立場を顕著に反映するものである。理論的研究 として特に重要な論文は,M.Halliday&R.

Fawcett(編,1987)の中のThe mean血g of features in systemic1卿sticsσ.Martin)とJ.

王㎞son&W.Greaves(編,1988)の中のWhat

㎜kes a good sys㎞network〜一Four pahs of con㏄ptsforsuchevaluations(R.Fawcett)で

ある。これらはどちらも,SFG研究の中でその重 要性は認識されていながら,これまで充分に考察

されることの少なかった選択体系網(system network)設定の基準について詳しく論じている。

なお,選択体系網設定の基準については,もとも

とSFG関係の研究紀要でもあった1%飯ゆ拠

L∫麟比(》卿血■の第13巻(SFG研究特集号,

1984)のFunction記componentsinagrammar:

A review ofdeplorable r㏄ognitioncτite㎡a (J.

Martin)も重要である。

 言語体系を層化(層の数と性格については幾つ かの異なる考え方が提案されているが)された意 味選択の体系であるとするSFG研究におけるこ

こ10数年間の主要な課題は,昨年のISWの討論 集会のテーマにも見られたように,「言語と社会的 現実との関係」,「言語発達と人の社会化との関 係」,「人工知能研究の一部としてのコンピュータ

によるテクスト産出と解釈」の三つである。この ような研究領域の活性化を導いたHallidayの研 究には,これまで著書20余を含む100編以上の著 述があるが,最近のものとしては,これまで既に

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発表してきた観念構成的機能(ideational

hmction),対人的機能(interpersonal㎞ction),

テクスト形成的機能(textua1㎞ction)について

の考え方を総括的に要領よくまとめた、肋

1地かη4蜘%  如  1勉πo如凋履1 Gπ1 昭r  (1985,

Amold),また観念構成的機能,対人的機能,テク スト形成的機能とコンテクストを構成する活動領 域(field),役割関係(t㎝or),伝達様式(mode)との

相関関係,それにCb励 ∫ E㎏廊再(R.Hasan と共著,1976,Lo㎎㎜)での結束性の考え方を理 論的に拡大した結束調和(cohesive ha㎝ony)に

ついて論じているL8㎎㎎召,Cb 繍,8π4 伽」纏dsρヂ血㎎㎎8伽4so吻」一s8拠面舵

ρ郷ρθo蜘8(R.Hasanと共著,1985,Deakin UnivPress),更に話し言葉と書き言葉は前者が文 法的な後者が語彙的な複雑性に支配される傾向が

あり,その問には文法的比喩(grammatical

metaphor)という関係が存在することを論じた

鋤㎞απ4 附伽Lα騨ε (1985,Deakhl

Univ Press)等が極めて重要である。

 「言語と社会的現実との関係」と「言語発達と 人の社会化との関係」という二つ課題の間には相 互に有機的な関係がある。SFGにおいては,意味 選択は,B.Malinowskiの「場面のコンテクスト

(context of situation)」に相当する活動領域,役 割関係,伝達様式の三種類の要素からなるコンテ

クスト(以下「場面のコンテクスト」とする)と,

「文化のコンテクスト(context of culture)」に相 当するイデオロギーというコンテクストのありよ うによって規定されまたその範囲が限定される,

と考えられている。つまり,どのような対人的な 言語活動が行われているのか(活動領域),その対 人的な言語活動にどのような役割を担った人達が 関わっているのか(役割関係),そしてその対人的 な言語活動が話し言葉と書き言葉という両極の間 にある様々な伝達媒体のどれによって行われてい るのか(伝達様式)に応じて,意味選択が規定さ れるのである。また,ここでいうイデオロギーと は,いわば特定の文化あるいは下位文化を構成し ている「これこれは,かくある(べし)・かくあ(る べか)らず」という信念の集合であり,この意味 でのイデオロギーによって意味選択の範囲が限定 されるのである。従って,SFGでは,対人的な相 互作用におけるコンテクストのありように応じて 言語体系から選択される意味の結合体がテクスト

であると考えられているので,テクストはその内 に「場面のコンテクスト」とイデオロギーを包み 込み,「場面のコンテクスト」とイデオロギーはテ

クストによって具現されていることになる。また,

人の言語能力がコンテクストのありように応じて 適切な意味を選択する能力,つまり適切なテクス トを産出する能力であるとすれば,言語能力の発 達とは意味選択の体系である言語体系とr連のテ

クストの産出を促すコンテクスト即ち「場面のコ ンテクスト」とイデオロギーの集合の知識を,共 に不可分な形で発達させることであると言える。

そこで,「言語と社会的現実との関係」という課題 は,特定のイデオロギーによってその意味選択の 範囲が,好むと好まざるに拘らず,特定の部分に 限定されたり特定の方向に偏向させられたテクス トが産出されること,更に意味選択の範囲が同じ ように限定されたテクストが繰り返して産出され ることによって,様々な社会的現実が創り出され るということを明らかにしょうとするものである。

「言語発達と人の社会化との関係」という課題は,

言語能力の発達が言語体系の知識だけでなくコン テクストの集合の知識の発達をも必然的に伴うも のであるから,人が社会化する即ち特定の社会の 構成員と成る過程の重要な部分は,その人の言語 能力の発達の過程にほかならないということを明 らかにしょうとするものである。そして,この二 つの課題がとりわけ不可分に融合したものとして 認識されるのは,話し言葉であれ書き言葉であれ 専ら言語を通して行われる教育という制度であろ

う。そのためにSFG研究では,「言語教育」とい う課題をその不可欠な一部として含む「教育にお ける言語」という課題が,この二つの課題を結び つける重要なものとなっている。

 「言語と社会的現実との関係」を扱ったものと して,比較的古いものではLo㎎㎎2侭招θo⑳

(G.Kress&R.Hodge,1979,Rout1〔xlge&

Kegan Pau1), 五4欄8 σπ4 (】oπまア01 (R.

Fowler,R.Hodge,G、Kress&T.Trew,1979,

Routledge&KegIm Pau1)があり,最近のもの ではLα㎎㎎σ 4魏εハ伽0伽■・4 ηS五セ加妙

N綱如吻y(P.Chilton編,1985,Frances

P血ter),L∫即奮がσ Pねσ鰹 f  Sり6勿α写」嬬 撤2 (G.Kress,1985,Deakin Univ Press),

L4㎎㎎召4π4(耀グゴ〃α扉㎎伽4伽6ε

(C.Poynton, 1985, Deakin Univ Press),

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山ロ 登:選択体系文法理論[後編 1] 39

勘吻」隔蕗㎎=Eゆあ万㎎コπ4 加」彪㎎∫㎎・

so吻1㎜婚(J.Martin,1985,Deakkl Univ

Press),馳 吻漉s,肋。⑳,Lo 麗ε (T.

Threadgold,E.Grosz,G.Kress&M.Halliday 編,1986,Sydney Association for Studies in S㏄ietyandCult皿・e)等がある。これらはいづれ

も,テクストはイデオロギーをその内に包み込ん だものであり,それが社会的現実を創り出す強力 な仕掛けとなっていることを,SFUの枠組みや 思考法に基いて論じている。例えば(C.Poynton,

1985)は男性と女性という二つの社会的現実が,

それぞれに対する異なるイデオロギーによってそ の意味選択の範囲が異なった部分に限定されたテ クストが繰り返して産出されることによって,い かに密やかにしかしいかに確実に創り出されてい くかを明らかにしている。また,」.Martin(1985)

やT.T㎞eadgold,8∫41.(編,1986)の中の Gramma廿calizi㎎㏄ology:The politics of baby seals and kangaroos(J.Martin)では,カ ナダでのアザラシとオーストラリアでのカンガル ーに対して,異なるイデオロギー(「アザラシ/カ ンガルーは人と同じ生き物であり同胞である:木 材等と同じ回復可能な資源である」)を持つ自然保 護主義者と「資源」利用者のそれぞれによって,

いかに異なる意味選択からなるテクストが産出さ れるかを論じている。この場合の典型的な意味選 択の具現形式としては,自然保護主義者が「だれ それがアザラシ/カンガルーを殺す」のように,「殺 す」を用いたり能動文を用いて行為のありかたや 行為主を明るみに出そうとするのに対して,「資 源」利用者は「アザラシ/カンガルーが収穫される/

の収穫」のように,「殺す」ではなく「収穫する」

を用い,更に行為主が明示されない受動文や名詞 化構造を用いようとする等が見られる。このよう に,SFGに基く「言語と社会的現実の関係」の研 究の重要性は,イデオロギーとテクストの関係を 観念的に捕らえるのではなく,イデオロギーによ

ってその範囲が限定された意味選択の結果である 意味の結合体即ちテクストを具現する語彙や文構 造等を通して明らかにする可能性を開いたことで あろう。

 「言語発達と人の社会化との関係」という課題 に先鞭をつけたのは,HallidayのEゆめ翅⑳πs o 伽F㎞c如郷のr L4㈱8 (1973,Anlold),

Lα闘8α雇Sb吻1〃απ (1974,Longman),

Lα宰 露㎎伽勿〃初πゴ助あ伽πs∫π孟舵 4ω8鵬 q〆毎ηg㎎8(1975,Amold),また

「言語と社会的現実との関係」の研究にも理論的枠

組みを提供しているLαηg㎎ε侭Sb吻J S励漉」7物so吻1∫π励吻⑳πげ麟8

απ4㎜∫㎎(1978,Amold)等である。Hal−

lidayの理論に基づく幼児の言語発達についての 事例研究が少なからず行われ始めているが,公刊

されたものとしては万物伽〃切加■7b膨」

Aα彫s鳩まπα薦む伽㎎㎎6鹿〃θ伽π (C.

Painter,1984,Fran㏄sPinter),Lα襯∫㎎吻

〃「o伽To,卿(C.Pa血ter,1985,DeakinUniv Press)等がある。これらは,言語発達というもの を構造的観点、からではなく機能的観点から考察す ることが可能であることばかりでなく,構造的観 点からでは観察の対象となりえないような領域,

例えば原初言語(protola㎎uage)のありよう等の 解明も可能であることを示している。

 言語能力というものを,理想化された同質的言 語共同体における理想化された話者・聴者の特定 言語の「文」の構成能力に限定し,その習得が生 得的な諸原理によって可能にされているという Chomskyの文法理論のような観点から見れば,

言語習得の基本的部分は人の誕生から4〜5才ま での内にほぼ完了することになると言ってよいで あろう。しかし,Hallidayの理論のように,言語 能力を人が対人的な相互作用におけるコンテクス

トの要請に応じた適切な意味のしかた(how to mean)の能力即ち適切なテクスト産出の能力で あると考えるならば,言語発達には,先に述べた ように,意味選択の体系である言語体系の発達だ けでなくテクストの産出を促すコンテクストの集 合の知識の発達も不可分な形で含まれており,こ の言語発達は,人の社会化の重要な部分を成して いることになる。従って,言語発達には,幼少期 における父母,兄弟等との対人的相互作用のみな らず,人の成長途中や成長後に関わる様々な対人 的相互作用もまた重要である。人は,このような 過程を経ることによって,ある特定のコンテクス トに対してはどのような意味活動(テクスト産出)

をすべきか,またどのようなコンテクストが意味 活動を要請するのかを知るようになるのである。

しかし,社会の仕組が複雑になればなるほど,そ れだけ対人的相互作用の数と種類は増し,それに よって意味活動を要請するコンテクストは多様化

(6)

するしそれに対応する意味活動もまた多様化する ことになる。そのために,言語発達には個人差が あり,またその発達の過程は人の一生のうちのか なり長い期間に及ぶものであると言えよう。この ような意味での言語発達のかなりの部分は日常的 な対人的相互作用を通してなされるが,複雑化す る社会の構成員として多様な意味活動をするため の言語能力の発達にとって決定的に重要な寄与を するのは,教育という制度である。教育は人に,

その人を取巻く現象世界の仕組を主として言葉を 通して知らせるが,教育が果たすさらに重要な役 割は,その人が構成員の一人となる社会あるいは 下位社会によって要請される,現象世界の様々な 領域についての意味活動のしかたを教えることで ある。このようにHallidayの理論では,言語発達 と教育とは切離すことのできない関係にあると考 えられているのである。

 現在,SFG研究者達と初中等教育に携わる現 場の教師達との間の緊密な協力による「教育にお ける言語」の研究が活発に行われている。「言語教 育」という課題を必然的にその内に含む「教育に おける言語」という課題は,学令以前の幼児の意 味活動のしかたと学校で教師が求める意味活動の

しかたとの間に,そして生徒達が自然に習い覚え てきた話し言葉と主として教育を通して教えられ また教育において重要な役割を果たす書き言葉と の間には,その理解が不十分であれば「教育の失 敗」を引き起こしかねないほどの大きな違いがあ るという認識に基いたものである。そして,授業 での教師と生徒との間の意味活動はどのようなも のである(べき)か,読むことと書くことの両方 に関わる書き言葉の教育と習得はいかになされる べきか等が主要な研究テーマとなっている。この 領域に属する研究の最近のものとして,教師と生 徒の対人的相互作用について論じたものには 加㎎㎎8翅綱勧 (F.(〕㎞sde,1985,Deakin Univ Press),0膨。㎎L4騨8ま 〃㎏C㎞ηo z

(」.L㎝ke,1985,DeakklUniv Press)等があり,

書き言葉について論じたものにはし即 ;伽g 如 職勿 (G.Kress,1982,Rout1α1ge & K(箸an Paul), 翫πo吻πσ1 /1鱒勉s  o 鰯が㎎J R㏄α脳。苑 ρε周%o ∫〃θs (B。Couture編,1986,

Frances P血於r),曜が㎎ o〃α魏」7伽漉㎎

脚郷αα㊨ss伽α 伽 π鵠(C.Painter&J.

Mar血編,1986,0ccasional Papers9,ALAA

ニApPlied L剛stics Assc℃iation of Au3

tralia),賜勘9ハ卿αRゆ9ガ1980,R吻掃

1981,R吻ガ1986,R吻ガ1987(」.Martin8 o ,Work丘1g Papers in L剛stics1,2,4,

5,UnivofSydney),既出のE襯」職廊㎎」

助めが㎎4 4 加」卿㎎so吻」繊 め等があ る。また,教師用のマニュアルとして,(】毎毎惚π

冊が㎎」S婦y8溺8,c毎毎惚π 附距㎎」

Rα吻 (1984;1985,DeakinUnivPress)があ る。また,教師と生徒の対人的相互作用と書き言 葉等の談話の分析の諸相を論じた1冶。側彫 o Dまsoo麗rsε (R.Hasan編,1985, 0ccasional Papers7,ALAA)も重要である。

 シドニー大学のSFG研究者を中心とする書き 言葉についての共同研究でとりわけ重要視されて いるのは,ジャンルの習得の問題である。意味活 動は,殆どの場合,特定のジャンルを通して行わ れる。ここでいうジャンルとは,例えば「始め・

中・終り」というような幾つかの発展段階を経な がら特定の社会的目的を果たすべく特定の到達点 に向かってなされる意味活動である。そして,人 の社会化の重要な部分は,特定の社会ないし下位 社会が求める様々なジャンルによる意味活動の能 力を習得することである。人が習得するジャンル には,日常の対人的相互作用を通して容易に身に つく,音声を通しての「お喋り」「噂話」「冗談」

「商店,郵便局,旅行代理店等での対話」等や文字 を通しての「私的手紙」等の主として話し言葉に よるものと,相当程度の経験や教育を通してのみ 習得可能な,音声を通しての「説教」「講義」「討 論」等や文字を通しての「報告」「商用書簡」「詩」

「小説」「論文」等の主として書き言葉によるもの がある。これら二つのジャンル群のうち,社会的 により高い評価を受けまた社会的に高い地位,職 業と結び付いているのは,後者の書き言葉による ジャンルでの意味活動つまりテクスト産出と理解 の能力である。そして,人が書き言葉による様々 なジャンルの基本的部分を習得するうえで,重要 な役割を果たしているのが教育である。先に示し たようなSFGに基づく研究の多くは,このよう な視点から,教育において書き言葉とジャンルの 知識がいかに習得され(う)るかを追究しようと しているのであ る。(因に,このような視点の妥当 性についての論争が,7弛P㎞召げ(}第%動

Lαz ;∫㎎」 (〕π %ず 鹿〜吻彪s (1.Reid編,1987,

(7)

山口 登:選択体系文法理論[後編 1] 41

DeakinUnivPress)で行われている。)これらの 研究は,更に,教育の中で用いられる(特に書き 言葉による)テクストの意味選択が,いかに特定 のイデオロギーによって特定方向に傾けられてい るかという問題にも視野を拡大することによって,

先の「言語と社会的現実との関係」の課題と結び 付いているのである。

  「人工知能研究の一部としてのコンピュータに よるテクスト産出と解釈」についての研究は,こ の20年程の間に大きな進展を遂げている人間の 言語処理行動のコンピュータ・シミュレーション 研究の一つである。この分野で最も高い評価を得 ているモデルの幾つかが,その言語基盤として

,SFGを用いている。SFGを用いているモデルの

うちで最も有名なものは,Uπ惚欝如π4肋g ぬ鰍r1加㎎㎎8(T.Winograd,1972,Edin・

burgh Univ Press)で示されたSHRDLUである。

SHRDLUは,テーブル上の色と形で区別された ブロックをロボットの手が指示に従って移動する というシステムで,必要な指示は命令文と質問文 の形でキーボード入力され,ブロックの移動はス クリーン上の画像によって行われるというもので あるg Winogradがこの研究で目指したのは,実 際的な用に供しうる言語理解システムの構築,人 間の自然言語と知能の仕組の解明とそれらの自動 機械化等である。Winogradが自分のモデルの言 語基盤にSFG (Hallidayの1960年代後期の理 論)を選んだのは,SFGが統語構造ではなく意味 機能を中心に組織されており,またそれぞれ固有 の意味機能を担う文>節〉群>語〉形態素という ランク階層の考え方をとっていること等が,言語 理解のシステムには適していると考えたからであ る。 侮騨召αs8Go9π∫ガ〃θP7002ssybム1:

鋤敏(T。Winograd,1983,Addison−Wesley)

の6章には,Winogradの人工知能研究者的解釈 によるSFGの概要が示されていて参考になる.)

Winogradのモデルがテクスト理解のためのシス テムであるのに対して,D醜碑彫伽4㏄⑳艦ハ

00柳陀〆脚吻1ヴSO 躍纏 ∫S{ゾ0麟■

(A.Davey,1978,Edinburgh Univ Press)で示 されたProteusというモデルは,テクスト産出の システムである。このシステムは,三目並べのゲ ームの過程を記述する談話を産出するというもの にすぎないが,産出される談話は節間の結束性の 高いテクストであり,テクスト産出の有力なモデ

ルの一つとなっている。Daveyは,このモデルの 言語基盤としてE gJ勧Cb翅ρ忽S幽婉εs諏4π

∫π翫}4麗伽勿型s彪拠此卯翅㎜r (R、Hudson,

1971,North−Holland)で示されたSFGの一変種 を用いている。更に,SFGを言語基盤としたテク スト産出のモデルで現在最もその可能性が期待さ れているのは,Hallidayの協力の下に南カルフ

ォルニア大学の情報科学研究所のW.Mamと

C.Matthiessen等が開発しているテクスト産出 のモデルNigelである。Nigelは,様々な状況に おいてテクスト産出の必要性を判断し,適切なテ クストを産出するようなシステムの構築を目指す

Pe㎜計画の一部をなすものである。Nigelの 概要を示したものとして7勉働苑L4C肥Fb芦

μ翅1偲3(1984,Hombean)の中のALinguistic

overview of the Nigel text generation gra】㎜nar

(W.M㎝n)とHow to make grammatical

choices in the text generation(C.Mat伽essen)

や,既出の5加鰍髭醜。勧εs oπ砒ooπ膨

(ybJ.1)の中のAD㎝薩onstrationoftheNigel text generation computer program (W.

Mam&C.Matt1亘essen)とAn introductionto

theNigeltextgenerationgrammar(W.Mam)

等がある。このようなテクスト産出と理解のコン ピュータによる自動機械化の試みが重要な意味を 持つのは,システムの言語基盤として用いられる 文法・言語理論がその有効性を問われるからであ

る。これまでの研究は,SFGが必要な修正を加え ればコンピュータプログラムに乗せることの可能 な特質を十分に持っているばかりでなく,極めて 波及効果の大きい潜在力を備えていることを示し ている。

 以上のもの以外で,最近のSFG関係の研究で 重要なものとしては,旅行代理店,郵便局,小売 商店等における対人的相互作用のありようを類型 的にとらえそのSFGによる記述には選択体系網 による静的な記述だけでなく流れ図による動的な 記述も必要であることを示した7物S 耽伽防げ

&,吻」乃惚惚伽 」」4那飽痂。吻m㏄苑加ま加

㎜わかcsげsε吻召8郷。観勧s (E.Ventola,

1987,Frances P血ter),SFGの記述装置を用い て,子供の言語表現に対する審美感覚がどのよう に発達するのか,詩や物語がどうして特定のしか たで読者に訴えかけるのを明らかにしょうとした

し∫π召膨奮飢:s,五4η鐸2,αη4 %名加1/1  (R.

(8)

HasIm,1985,Deakht Univ Press),SFGの思考 法や記述装置による文体分析の可能性を追究した 翫π伽πsげSかを (D.Birch&M.0 Toole,

1987,FrancesPrinter)等がある。F擁 σ吻 s q〆 Sかをには,時として難解な独特の表現,文法使用 により言語研究の地平を創造的に拡大している Hallidayの文体に焦点を当てたHalliday and the stylisticsofcreativity (R.Hodge)があり,

Hallidayの著述の理解のため参考になる。また,

SFG関係の論文を中心とする研究誌としては,

地価。漉 (Uhiv of Wales),0 o翻履耽灯 動蝕s㎞ヒL∫π郷地s(Univ of Nottingham),

Ooα肋πα1 R撚 ∫π 1, 興奮ガcs  (Univ of

Sydney)等があり,SFG関係の論文が少なから

ず載るものとしては、4πs吻勧 R蜘 び

」4ρρ1fε4L∫ gπ∫sま∫ s (ALAA),既出の ハlb痂㎏勉拠L∫横物C翔㎝血7等がある。

 SFG関係の研究公刊物は,これまで示してきた もののように,その研究の流れを了解していない と,それとは分らないタイトルで,あるいは一見 無関係そうに見える論文集等に現れるのセ注意す

る必要がある。いずれにせよ,最近のSFG関係の 研究は,Hallidayの理論の可能性,有効性を証明 するかのように急速に増加しており,当然のこと ながらここで示した研究公刊物は筆者の視野に入 ってきたものに限られている。

Ha iday等の言語研究,理論,言語観  これまでに示したような様々な領域に及ぶ,

SFGの記述装置を用いたあるいはSFGの思考法

に基づく一群の研究は,総称的に選択体系言語学

(Systemic Linguistics)と呼ばれてる。相互に無 関係とさえ思えるような異質の研究領域を包み込 み,ますますその研究の地平を拡大している選択 体系言語学の営みを支えているのは,Halliday を中心とするSFG研究者達の言語研究と言語理 論に対する考え方であり,またそれらの考え方の 基盤をなす言語観であろう。Halliday等は,いか なる言語研究も,言語と言語に関わる様々な事柄 について解答,意見を求められる諸課題について 応えるべき社会的責任があると考えている。換言 するならば,言語研究の課題は,どのような学問 分野の研究課題にも多かれ少なかれ言えることで あるが,自立的,排他的に決められるのではなく,

それが解答,意見を求められる様々な方面からの

問,要請のありようによって形作られるものでな ければならないということである。言語研究者・

言語学者が解答,意見を求められてしかるべき,

社会的責任として応えるべき課題には,既に前節 でSFG研究の主要課題として示してきたような

もの以外にも,「言語政策・計画への参加」「言語 病理の治療に対する援助・協力」「犯罪捜査におけ る言語的側面の解明」「マスメディアの社会的影響 の解明」等様々なものがありうる。そしてもし,

言語についての専門家である言語研究者・言語学 者がこれらの課題に応えることをせずに,自らの 内なる関心事のみに没頭し続けるとすれば,社会 にとって有益な役割を果たす可能性を持っている はずの言語研究・言語学をいわば大学における単 なる一つの学習・研究科目といった矮小化された 存在に留めてしまうことになる。いみじくも Halliday等は,言語学者というものは言語につい て「考える」だけでなく他者に向けて「行動する」

ことが必要であり,そのことが逆に言語研究の内 容を豊かにしその質を高めると考えている。そし て,このような社会的責任としての行動は,一般 的に言語研究の基本的な目標であるとされる言語 の仕組,機能,発達の解明という課題から逸脱し ているどころか,むしろそのような課題の追究が そもそもなんのためのものであるのかという,解 明すべき事の本質を一層明確にしてくれると考え ているのである。

 言語について「考える」ことは言語研究の理論 的側面であり,他者に向けて「行動する」ことは 言語研究の応用的側面である。そしてHalliday 等は,今述べたような言語研究に対する考え方か ら解るように,理論と応用とは前者が先ずありそ して後者がその後に来ると考えるのではなく,い わば[理論←→応用]という相互影響的な関係あ るいは[→理論→応用→理論→応用→]という循 環的な関係にあるとしている。理論はそれを応用 する人すなわち理論の「消費者のためにある

(consumer−oriented)」のであって,その消費者 の用途,必要性に応じることができるものでなけ ればならない。つまり「理論は,その応用の範囲 が広ければ広いほどそれだけ価値が高い」という

ことになる。言語理論が応じるべき消費者の用途,

必要性には多種多様のものが存在するので,それ らに応じるためには,言語理論は必要に応じて伸 縮自在に様々な形をと、りうるような「弾力性のあ

(9)

山口 登:選択体系文法理論[後編 1] 43

る」ものであり,特定の目的のために当面必要と されている以上の潜在的な応用力を持つ「潤沢な」

ものでなければならない。換言するならば,言語 理論はその組織上の細部を予め厳密に規定してし

まうよりは,特定の目的に合わせて必要な部分を 規定することができるようにしておくほうが,そ の応用の可能性がそれだけ大きくなるということ である。言語に関わる研究では,理論研究者が,

自ら自分の特定の研究に応用するための理論を構 想するというように,同時に消費者でもあるとか,

他の消費者のグループの用途,必要性に応じて理 論を構想する共同研究者であるという場合が多い。

そして,それぞれの消費者の言語理論に対する要 請が様々に異なるものであるとすれば,理論と応 用との相互影響ないし循環の過程を通して形作ら れるのは・唯一の正統的な理論というよりはむし ろ,異る用途,必要性に応じるために異るしかた でその組織上の細部が規定されうる,また現に規 定されつつある理論の集合ということになる。

Halliday等のSFG理論とは,まさにこのような 意味で絶えず応用との緊張関係にある理論の集合 であるといえる。従って,既に昨年のISWの紹介 の際に触れたFaw㏄tt,Gregory,Martin等が提 唱する諸理論のように,SFG理論の主導的立場 にあるHallidayの理論とは異る理論も,正統的 な理論の亜流であるとかそこから逸脱したもので あるというのではなく,それぞれが異る用途,必 要性に応じるべく構想されたものなのである。ま たHalliday自身でさえ,自らの視野に入ってく る用途,必要性に応じて幾つかの異る理論を提唱 しているということに注意しなければならない。

そして,これらはいずれもSFG理論という総称 的な名称で呼びうる理論の集合を成しているので ある。理論と応用に対するこのような考え方こそ が,SFG研究者達が一つの緩やかに組織された 共同研究チームの一員として協力し合う選択体系 言語学の営みを可能にしているのである。

 それでは,選択体系言語学の営みを支える研究 者達が共有している,異る理論に様々な形で取込 まれている言語観(この言語観自体が,ある意味 で,最も「弾力性のある」「潤沢な」理論であると

も言えるが)とはどのようなものであろうか。

Halliday等は,Hjelmslevにならい,言語という 現象を体系(system)と過程(pr㏄ess)とに分け,

後者が前者を具体化 (instantiate)するという関

係にあると考える。言語体系が体系であり,テク ストが過程である。言語体系は,意味活動の資源

(meaning potential)としての意味選択の体系で あり,テクストは選択された意味の結合体である。

そして,言語体系とテクストはそれぞれ「文化の コンテクスト」と「場面のコンテクスト」という 社会的コンテクストを具現(realize)しており,

「文化のコンテクスト」と「場面のコンテクスト」

という内容(content)がそれぞれ言語体系とテク ストという表現 (expression)に具現されるとい う記号的(semiotic)な関係にある。「文化のコンテ クスト」とは,特定のテクストの産出を促す「場 面のコンテクスト」の集合であり,この「文化の コンテクスト」に「いつどのような場合に何をど のようにすべき(でない)か」という特定の社会 の信念・価値観であるイデオロギーの集合が具現 されており,ここにも内容と表現という記号的関 係が存在する。また,選択された意味の結合体で あるテクストは,音声あるいは文字によって表さ れる文字や談話といった具体的な言語形式に具現 され,ここにもやはり内容と表現という記号的関 係がある。即ち,SF℃研究者達は,体系としての 言語体系は「文化のコンテスト」を具現し,「文化 のコンテクスト」はイデオロギーの集合を具現し ている,また過程としてのテクストは「場面のコ ンテクスト」を具現し,言語形式に具現されると いうように,言語という現象を,体系としてもま たそれを具体化する過程としても,内容と表現が 互いに層を成す記号的構成体であると考えている のである。このようにHalliday等は,体系として の言語体系とそれを具体化する過程としてのテク ストのいずれの言語現象も,自立的で自足的な組 織や構造を持つものではな.く,それぞれと有機的

に対応する社会的コンテクストである「文化のコ ンテクスト」そして特定の「場面のコンテクスト」

と記号的な緊張関係にあると考えている。言語と いう現象を社会的コンテクストとの緊張関係にあ る記号的構成体と考えれば,言語体系の本質的仕 組の解明には、「文化のコンテクスト」と「場面の

コンテクスト」という社会的コンテクストのあり ようの解明が必然的に含まれることになる。

 これがHalliday等の最も基本的な言語観であ る。そして,選択体系言語学の営みとは,まさに このような言語観が言語研究の基盤として取込ま れ,それぞれの課題に応じて必要な部分の拡充,

(10)

修正(例えば既述のイデオロギーとテクストの関 係の研究の場合等),精密化がなされつつある選択 体系機能文法の諸理論による様々な応用研究の営

みにほかならない。

おわりに

 シドニー大学の広報紙丑θ θ躍泥矧吻 げ 蝕ぜ喫yハE聡 (VoL19No.22,1Sep.1987)

に掲載されたAILAでのHallidayへの退官記念 論文集の贈呈についての一文Distinguished lin・

guisthonouredの主要部分を紹介して,本稿を終 えることにする。

 「言語学科のMichael Halliday教授は,第8回 国際応用言語学会会期中の8月17日の公式レセ プションにおいて600名以上の友人,教え子,同 僚達の見守る中で,2巻からなる退官記念論文集

を贈呈された。Halliday教授はシドニー大学言 語学科創設教授であり,今回の国際応用言語学会 の大会委員長を勤め,そして本年末をもってシド ニー大学を退官する。Halliday教授が提唱する 選択体系文法理論は,現在最も有力な説明力豊か な言語理論の一つであるとみなされている。退官 記念論文集には,およそ18力国からの60余人に 及ぶ著名な研究者達によるHalliday教授の研究

に焦点を合せた様々な論文が寄せられている。こ の論文集は,Ross St㏄leフランス文学科準教授

とTeny Threadgold英文学科上級講師の編集に

なり・L4騨27b郷r㎞卵切hoπo驚rφ

〃 o勉ε1恥ZZ物yと題された。St㏄le氏によれ ば,退官記念文集の計画,編集には3年余の歳月 を要し,2巻目は未だ校正の段階にあるとのこと である。そしてSt㏄le氏は「この論文集への寄稿 希望者は多数にのぼり,結果的に2巻に拡大せざ るをえなかった。これはHalliday教授に対する 学問的威信と暖かい友情の表れである。Halliday 教授は,慎ましやかな学究であり,これまでの研 究と教育の生活の全てを教え子達のためにそして 言語研究の発展のために棒げてこられ,現在世界 で最も注目すべき言語学者の一人となっている。」

と述べた。この退官記念論文集の寄稿者の中には,

Halliday教授の初期の重要な著述伽L∫㎎驚毎 旋S伽。㏄o館4五4㎎㎎ε7初σ海 8・(1964)の

共著者でもあるPeter StrevensとAngus

Mclntoshがいる。Steele氏は更に「この論文はま た,言語の習得と教育についての我々の理解に,

一人の言語学者がいかに貢献しうるかを示すため の初めての試みでもあった。しかしこれは未だそ の原初的な試みに過ぎない。」と述べた。」

*本稿は,「選択体系文法理論:[前編]Hallidayの 言語理論の一解釈」(『福島大学教育学部論集 40号』

(1986))の[後編]の一部を成すものである。[前編]

の後書きでは,[後編]の内容の一部として,Halliday の著述の文献目録 (A Halliday Bibli㎎raphy1956

〜1986)と選択体系文法理論に関わる諸研究の文献目 録(ASystemicBibliography)を提示するつもりであ った。しかし,前者については,本稿の最後で触れた RSt㏄le&T.Threadgold(eds.)」L伽縄27b亟α}』

㎞協動ho控。πrρμ4∫c伽 融 あ吻y(び。 .1)(1987,

Jo㎞Benjamins)のComprehensivebiliographyof

books and articles by M.A.KHalliday,後者につ いては,M.A.K.Halliday&CMatthiessen(eds.)

Sセ」ε  β必1∫09名妙ゐツ のF 蝕s 8翅∫o L∫ 8漉s ∫os

(m㎞eo,1988,Univ of Sydney)が入手可能となった ので,最早それらを[後編]に含める必要はなくなっ た。そこで[後編]では,後書きにも述べた「選択体 系文法理論の発展と最近の研究の動向」のより具体的 な内容に重点を移すことにした。本稿では,その一部 として,Butler(1985)以降1988年までの研究の動 向等を,学会での活動や様子や刊行物等を通してやや 詳細に示した。1988年以降の研究の動向については,

本稿執筆後「国際選択体系言語学会」はミシガン州立 大学,ヘルシンキ大学,スターリング大学で既に三回 行われ(筆者も参加し)ているし,選択体系文法理論 に関わる研究も少なからず刊行されているので,[後 編]の更なる一部として稿を改めて示すことにする。

また,[前編]の後書きで予告した「[前編]に対する やや詳しい注と,注の形には納まりきらないHalliday 理論に対する若干の覚え書」については,[後編]の内 容を更に拡大することによって,筆者が意図していた 目的を果たすつもりである。

(11)

山口 登:選択体系文法理論[後編 1] 45

SystemicFmctionalTheoΨofGra㎜ar

       [The S㏄ond Part:1]

R㏄ent Trends in Systemic Linguistics

ハbδ07覆 }盟ノ10ひ㎝

  Thepr鯉ntpa匿isthef蛉t蜘onofthe諏ondPa貢of Syst㎝icFunctionalTheoryof Grammar ,whichcon曲oftwocomp1㎝entarypar捻:theFirstPa貢andtheS㏄ondPa貢.

  This first s㏄tion of the S㏄ond Part presents the r㏄ent(1985−1988) trends in Systemic Linguistics.It discusses some sali㎝t features ofthe Systemic activities as seen in AILA and ISW which were held at the University of Sydney in1987,aswell as some representative samples of the Systemic publications which have b㏄n rapidly growing hl quality and quantity,and the typical Hallidayan ways of t1血king hl linguistic study which㏄casion such activities and publications.

Referensi

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