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2013年以降の気候変動政策の将来枠組みについて

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はじめに

昨年のモントリオール会合(国連気候変動枠組条約第11回締約国会議〔COP11〕、京都議定書 第1回締約国会合〔COP/MOP1〕)の結果、2013年以降の気候変動政策の将来枠組みについて の議論が本格的に開始されることとなった。日本国内でも、将来枠組みに関する議論や提 案の蓄積がなされてきているが、本稿では、とりわけ将来枠組みに関する日本政府の意見 に注目し、国内検討体制と調整の過程、表出した意見と調整の結果について観察すること としたい。

このプロセスは、2つの時期に区分することができる。ひとつは、COP11・COP/MOP1以 前で、環境省・経済産業省が審議会(専門委員会)を設置し、それぞれのアイディアを表出 させた時期である。2つ目は、COP11・COP/MOP1およびそれ以後で、国際交渉のための交 渉ポジションを決定する作業に移行した時期である。2つ目の時期の国内検討体制は、外務 省・環境省・経産省の(日常的な)3省間調整を主としており、日本政府提案をまとめるた めに、意見を集約する、あるいは各省間に共通する意見を抽出する作業が行なわれる。そ して、この過程の特徴は、各省間の国内意見調整とともに、国際交渉のための戦略的要素 が重要となることである。

以下では、国際交渉と国内意見調整という2つの過程の相互関係に関する一般的な議論を 踏まえ(第1節)、地球温暖化対策における過去の経験から、日本における国際交渉と国内意 見調整に関する特徴を抽出する(第2節)。最後に、第3節において、将来枠組みに関する検 討過程を紹介する。

1 国際交渉と国内意見調整

(1) 国際交渉のための意見調整

対外政策の形成過程を分析した1970年代の研究ではすでに、①対外政策において、行政 機構に対外政策の企画立案から実施までの権限が与えられていることから、国内政策と比 べて大幅な自由が法制上認められていること、②外務省による「外交一元化」のもとに対 外政策を形成・実施することが現実的でなくなり、関連行政機関がそれぞれの所管範囲の 利害関係を代表する立場で対外政策形成にかかわっている現状では、「対外政策」と「国内 政策」との古典的な区別はあいまいになりつつあること、したがって、対外政策の形成に

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おいてもさまざまな分野の国内的「利益」が反映されることを要求するようになってきて いることが指摘されている(1)。そしてこのような状況において、水平的な省庁間関係をトッ プ・レベルで調整する仕組みが欠如していることを懸念し、調整役としての外務省の役割 に期待するような意見があった(2)。しかしながら、地球環境問題のように国内法体系との接 点が多い政策領域で、かつ国内立法による履行が必要とされる場合には、各国内関係省庁 が主管事務にかかわる事項を直接担当し国際交渉を行なう、という実態がみられる。この ような場合には、外務省による調整機能には限界もある。また、政治的に重要な争点を別 とすれば、内閣によるトップ・レベルでの調整が発動されることは少なく、関係省庁間の 水平的な調整が基本となる。このような検討体制においては、まず、国内意見調整過程に おいて、関係省が個別に獲得してきた国内関係者の支持を背景に主導権を争うことに終始 し、国際交渉戦略がおろそかとなることが起こりうる。

(2) 交渉戦略と国内支持獲得

国際交渉における政府の行動には、国際−国内の2つのレベルにおける勝利獲得ゲームの 構造がみられることが知られている(3)。将来枠組みに関する日本政府提案を作成する際にも、

対外的な戦略と国内支持獲得という2つの点に配慮がされる。前者は、他国の交渉ポジショ ンと本当の狙いを見据えながら、日本にとって有利な合意点を獲得できるよう交渉ポジシ ョンを戦略的に設定したり、他国に働きかけるなどの交渉戦略を練ることである。後者は、

国内の関係省庁それぞれが利害関係団体の支持を調達しながら日本代表団としての意見調 整を行ない、調整の結果としての日本政府提案に対する支持・合意の獲得を目指すことで ある。

国際交渉戦略のたて方は、獲得しうる国内支持の程度と関係してくる。第1に、国内関係 者が限定的である場合、国際交渉ポジションの決定と国内の支持調達を同時並行で行なう

―国内で受け入れられるような合意点を目指して他国と交渉しながら、国内関係者に対 しては交渉合意点を予測してそれを受け入れてもらえるよう説得する―ことが可能であ る。このような場合、国内に国際合意を持ち帰る以前に国内関係者の支持を獲得している ので、国内実施は容易となると考えられる。第2に、国際交渉以前に、すでに具体的な(他 国に先駆けて導入された)国内政策・合意が存在する場合には、国際交渉においてこれを強 くアピールしてイニシアティブをとることや、国内で受け入れられないことを理由に交渉 相手から譲歩を引き出すことが可能であり、国際交渉上有利な戦略をとりやすいと考えら れる。ただし、他方で、自身の交渉上の自由度が減り、柔軟な交渉を妨げる可能性もある。

また、国内政策とは異なる国際合意がなされた場合、国際合意を受け入れる阻害要因とな りうることや、遵守レベルが高くならない可能性が指摘されている(4)

2 京都会議に向けての「日本提案」取りまとめ過程の特徴―過去の経験から

現在、2013年以降の将来枠組みをめぐる国際交渉は開始されたばかりで、具体的な制度 提案が出される段階ではないが、京都会議(COP3、1997年)に向けて日本提案を取りまとめ た過去の経験から、地球温暖化対策における国内政策形成の特徴を整理することとしたい(5)

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京都会議に向けた国内意見調整の過程の特徴は、環境庁・通商産業省が対立して省庁間 調整の限界が露呈し、官邸主導での調整がなされた点にある。

京都会議に向けて、国際レベルの準備会合は1995年8月から開始されたが、日本国内の意 見調整のための検討は、まず環境庁、通産省が審議会報告書を公表し、それぞれの考え 方・主張を公にすることから開始された(6)。環境庁は、省エネルギーの徹底・新エネルギー の導入・環境税の導入により、2010年までに二酸化炭素(CO2)排出量を90年比で最大7.6%

減少させることが期待されるとしたのに対し、通産省は、省エネ・新エネを最大限強化、

原子力発電所を2030年までに約50基増加させてやっと、2030年に90年レベルに戻るとした。

政府意見作成のための意見調整は、1996年10月15日までの提出が要請されていた「議定 書に関する各国提案」を作成するために、外務省・環境庁・通産省間調整として、9月から 開始された。しかし、意見調整と合意形成に進展がなく、第5回京都会議準備会合(1996年 12月)で発表された提案は、具体的な目標値を明示することを避けたものであった―すな わち、①2000+x年から5年間のCO2の1人当たり排出量の平均を「pトン」以下とする、

②2000+x年から5年間のCO2の総排出量の平均を1990年水準から「q%」削減する、とい う2つのオプションから選べるというもの―。これは、省エネに取り組んできた国(日本)

を配慮するために1人当たりの限度枠を主張する通産省と、総量での削減を主張する環境庁 の2つの考えを反映させたものであったと言われる(7)

しかし、第7回準備会合を控えた1997年7月以降、橋本龍太郎首相から、「議長国として」

の日本提案を示すべく、9月中にまとめるよう指示があったことをきっかけとして、官邸主 導の調整が展開されることとなる。具体的には、内閣官房の内政審議室と外政審議室(8)の両 審議室が、外務省・環境庁・通産省との調整を主導することとなり、京都会議(12月1日―)

に向けて定期的な意見交換・政策調整が行なわれた。また、3省庁の局長級会合も9月2日 ごろから頻繁にもたれ、環境庁・通産省の担当者レベルの会合はほぼ連日もたれたという(9)

なお、官邸主導の調整過程のなかで各省庁の提案は次のように変化した。環境庁は「2010 年に約7%削減」を主張し、外務省も(2100年にCO2排出量を1トン/人という長期目標から算 出し)「2010年に6.8%」という案を出した。それに対して、通産省は提案を出すことができ なかったが、話し合いのなかで「90年比で3%の増加」という考えを示したという。そして

9月末になると、わずかな歩み寄りがみられ、環境庁・外務省は「温室効果ガスの5%削減」、

通産省は「0%の削減」という提案となった。最終的には、9月24日に、官邸から官房副長 官・内政審議室長・外政審議室長が、外務省・通産省・環境庁から幹部クラスが集まり集 中的に議論を行なった結果、「5%削減」提案に決定した。調整の論拠となったのが「京都会 議の議長国としての提案であること」であり、各国が交渉ベースで受け入れうるものであ る必要があることと、あまり緩やかな目標を設定して他国からの非難を受けないようにす ること、そのために、先進国全体の排出削減率が1990年比5%を下らないことが必要である ことが強調された(10)。日本提案は、10月6日に官房長官記者会見で公表された。

以上のような国内意見調整の特徴としては、第1に、国内の関係省庁間調整においては、

各省庁の意見に隔たりが大きく、かつ各省庁がそれに固執するため、主張と論争に労力が

(4)

割かれたということである。従来からしばしば観察されてきた環境庁と通産省との対立に 加えて、外務省も「調整役」に徹するのではなく、固有の政策指向を有する当事者として 主張を行なったことが指摘されている(11)

第2に、このように省庁間対立の解消や省庁間対立の妥協点を探ることに調整の重点が置 かれてしまうが故に、国としての意見を建設的に作り上げることや国際交渉戦略の観点か ら提案を作成することが困難となっている。交渉戦略の考え方についても省庁間で意見の 相違があり、たとえば、通産省は、アメリカが参加することを重視し、アメリカが受け入 れやすいような提案を行なうことを国際交渉戦略の中心においた(12)。当時は、橋本首相の 地球温暖化問題に対する関心が高かったことと会議の開催国であったことから、政治的重 要性が高い案件として官邸主導の調整が開始され、官邸の国際交渉戦略としては、とりわ け議長国として京都会議を成功裡に終わらせることが重視された。先にみたように、最終 的に日本政府提案を取りまとめる際の判断基準となったのが、議長国としての立場であっ た。また、議長国として、内政とは別に、各国に働きかけを行なう外交努力も展開された(13)

第3に、官邸による調整が入るのは、政治的な争点であるか、首相や内閣官房長官・副長 官・副長官補などが関心を寄せて調整に乗り出そうとするかどうかという個人的資質に拠 るところが大きいという(14)。この点は、内閣官房の調整機能に重点が置かれることになった 橋本行革以降も変わらないと考えられる。京都会議の後では、京都議定書実施のための国 内政策(内政)について、内閣官房による調整が行なわれた。まず、京都議定書批准の決定

(2002年5月31日に可決成立)とそのための新大綱の決定(2002年3月19日)などの重要な事 項の決定について、内閣官房、地球温暖化対策推進本部による調整が行なわれた(15)。また、

京都議定書発効後に策定された京都議定書目標達成計画(2005年4月28日閣議決定)につい ても、内閣官房でコンセプトを示すことで、各省の施策の積み上げによる数あわせではな く、各省の枠を越えた議論を主導しようとした(16)。検討体制としては、局長レベルの地球 温暖化対策推進本部幹事会のほか、インフォーマルなものとして、課長レベルの「地球温 暖化対策関係省庁連絡会」(地球温暖化対策推進本部幹事会決定)を設置し、各省連携体制の 構築を促したという。京都議定書目標達成計画には、基本的考え方として、「点から面へ」

「主体間の垣根を越える」といった文言や、「省CO2型の地域・都市構造や社会経済システム の形成」といった項目が盛り込まれており、内閣官房のコンセプト― 都市構造の観点、

各省の枠を超えた連携―に基づく調整の結果をみることができる。

官邸がこのような関心をもたない場合(重要な政治的イシューとはなっていない場合)には、

省間調整が基本となるが、その場合、各省審議会の枠を超えてアイディアを出し合う場が なく、各省意見の共通項の抽出以上の作業に困難が伴うことが考えられる。外務省の調整 役としての機能が期待されるが、京都会議の時点で、ある外務省担当官は、「地球環境問題 にどの程度外務省が関わるか、どう位置づけるかは、まだ試行錯誤の段階」と語ったとい う(17)。省庁再編後の現在、地球温暖化対策担当課を含む国際社会協力部は、(総合外交政策局 ではなく)大臣官房に置かれており、政策の企画立案よりも調整機能を重視することを意図 しているものと考えられる。今後の省間調整のあり方に注目したい。

(5)

3 将来枠組みをめぐる議論

将来枠組みに関する国内の議論は、COP11・COP/MOP1以前の、関係各省(環境省・経産 省)において個別にアイディアの整理を行なっていた段階から、COP11・COP/MOP1以後、

国際交渉に臨むための意見調整(日本政府提案の作成)と戦略作りの段階に移行している。

この段階に移行したばかりである現段階で評価を下すことはできないから、ここでは、こ れまでの経験と照らし合わせながら、将来枠組みをめぐる議論の過程を紹介することとし たい。

(1) COP11、COP/MOP1開催以前の検討体制と検討の過程

①担当部署

将来枠組みに関する検討は、外務省・環境省・経産省の3省間で行なわれている。環境省 では、将来枠組みについての検討は国内対策に直ちにつながるような議論ではないとして、

地球環境局地球温暖化対策課のなかで国際対策室が担当している。国際対策室は、主とし て国際交渉や「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」(APP)など の国際協力業務を担当する部署であり、国内対策担当部署との住み分けがなされている。

経済産業省では、産業技術環境局環境政策課地球環境対策室が担当しており、地球温暖化 問題のための国際交渉を主たる任務としている。外務省では、大臣官房国際社会協力部地 球環境課気候変動室が担当している。また、本年4月28日付で外務省地球環境問題担当大使 が、「気候変動枠組条約および京都議定書関連交渉に参加するための政府代表」を兼任する こととなった。これは、COP11、COP/MOP1の決定を受けて、今後継続して行なわれる京都 議定書の第1約束期間(2008―2012年)以降の枠組み交渉に積極的に取り組んでいくための 措置である。

②審議会を通じた検討の開始

COP11、COP/MOP1以前の検討体制は、環境省、経産省が個別に、審議会での検討を踏ま えてアイディアを表明するというものであった。以下、環境省・中央環境審議会地球環境 部会・気候変動に関する国際戦略専門委員会(2004年4月―:以下「環境省専門委員会」とす る)、経産省・産業構造審議会環境部会地球環境小委員会・将来枠組み検討専門委員会

(2004年1月―:以下「経産省専門委員会」とする)の検討経過をみる。検討の経過や報告書の 公表時期などから、各省の戦略を垣間見ることができる。

経産省では、専門委員会が設置され、2004年1月8日から検討が開始される以前に、2つ の報告書を公表している。産業技術環境局「地球温暖化問題に関する国際交渉の動きと今 後の検討について」(2002年10月)と地球環境小委員会中間取りまとめ『気候変動に関する 将来の持続可能な枠組みの構築に向けた視点と行動』(2003年7月)である。前者では、アメ リカや途上国を含むすべての国が参加する共通のルールの構築に向けて、早期検討開始の 必要があるとした。後者では、①技術を通じた解決を重視すること、②国家だけでなく、

地域、各セクター、各産業、個人などの多元的主体が参加することと、多様なコミットメ ント―量的な規制だけでなく、各セクターごとの技術基準、自主協定や自主的な目標設

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定など―が望ましいことなどの基本的方向性が、この時点で示された。

一方、環境省では、2004年1月に中環審地球環境部会『気候変動問題に関する今後の国際 的な対応の基本的な考え方について(中間取りまとめ)』を公表している。経産省の中間取り まとめとの比較で言えば、「アメリカ、途上国が参加する枠組みを構築すべき」「環境と経済 の好循環を目指すべき」という点においては見解が一致しているが、次の点において、異 なる考え方を示した。第1に、これまでの議論の積み重ね・合意の上に共通基盤が築かれて いることを重視し、「条約や議定書の仕組をどのように発展・改善していくか、という視点 からの議論が必要である」とした。第2に、企業や非政府組織(NGO)などの多様な主体の 参加を保証しながらも、国家を中心とした国際合意プロセスであるべきことを強調した。

環境省においても、2004年4月8日から専門委員会での検討が開始された。安定化レベル とタイムスケジュールを2つの軸として次期枠組みを考えることが必要であるとしており(18)、 先行する欧州連合(EU)の議論に対して日本側の考えを示せるように用意しておきたいと いう意図があったと思われる。

③専門委員会における検討

まず、2004年10月に経産省専門委員会が『気候変動に関する将来の持続可能な枠組みに ついて(中間取りまとめ案)』を公表した。その内容は以下のとおりである。第1に、中長期 的展望について、少なくとも現在の科学的知見の下では、ボトムアップの目標が望ましく、

安定化濃度に関して一定の目安を用意することは望ましくないとした。第2に、将来枠組み のあり方について、気候変動枠組条約の究極目標の達成のためには、①主要排出国のすべ てが参加でき、かつ、②それぞれが実効性のあるコミットメントを行なう新たな枠組みを 実現することが必要であることを明記した。「すべての主要排出国の参加」「実効性」ある枠 組みという点では、環境省と共通しているようにみえるが、その根拠と目指す方向につい ては、相違がある。②については、特に京都議定書の問題点と限界を指摘し(19)、技術開発へ の取り組みがコミットメントの中核となるような新しい枠組みが必要であること、長期を 要する技術開発・普及を費用対効果の観点から効率よく行なえるよう、次期約束期間を長 期に設定すべきであることを主張した。したがって、各国別の数値目標を設定することは、

「必ずしも実効性の高いアプローチではなく、これのみをもって気候変動問題の究極的な解 決を図ることは困難と考えるべきである。むしろ、将来の枠組みにおけるコミットメント の中核は途上国支援、技術開発などの具体的取組とすべきであり」数値目標は補完的な役

割となる(44―45ページ)とした。

これに対して、環境省専門委員会は『気候変動問題に関する今後の国際的な対応につい て(中間報告)』(2004年12月)で、枠組条約・京都議定書の仕組みが次期枠組みを構築して いくうえでの基盤となることを明記し、経産省との見解の相違をあらためて明らかにした

(ただし、枠組みを継続すべきということまでは言っていない)。経産省が主張する技術の役割 については、革新的技術開発には不確実性が伴うことから、早い段階から着実に排出削減 に取り組むためには、既存技術の実用化・全世界的な普及が温室効果ガス濃度の安定化に 大きく寄与することを強調し、長期的観点からの革新的技術開発に重きを置く経産省との

(7)

見解の相違を明らかにした。目標設定については、長期的目標(2100年―)や中期的な目標

(2030―2050年)を設定することが地球規模のリスク管理を行なっていく観点から有効であ ること、短期目標は具体的なコミットメントを行なうもので、おおむね2020年ぐらいまで を射程とすべきとした。

このように、2004年末までに両省のアイディアが表明され、相違が明らかとなった。ち なみに、環境省では、中間報告取りまとめに向けて第1回―第7回(2004年11月26日)の専 門委員会が、経産省では、中間取りまとめに向けて第1回―第8回(2004年10月15日)の専 門委員会が開催された。その後、経産省専門委員会の開催頻度は減り、2005年度には、第9 回(8月1日:最近の国際動向について、長期目標について)、第10回(10月4日:既存技術の普 及に向けたセクター別アプローチについて)、第11回(10月19日:革新的技術の開発・普及につ いて)の3回が開催されたのみである。この3回の議題の重点は将来枠組みのための技術開 発戦略にあるようにみえる。また、専門委員会とは別の産構審産業技術分科会研究開発小 委員会の審議を経たものに、2005年10月に公表された『技術戦略マップ(エネルギー分野)

―超長期エネルギー技術ビジョン』(20)があり、「長期を見据えた研究開発の重点化や、ポ スト京都議定書の国際枠組み等の長期的地球的視野からの議論の貢献を目的とした」検 討・取りまとめが行なわれた。

他方で、環境省専門委員会では、長期目標の設定に焦点を当てた議論が、第8回(2005年 4月4日)―第10回開催(5月12日)にかけて集中的になされ、「気候変動問題に関する今後の 国際的な対応について(長期目標をめぐって)第2次報告書」(2005年5月)として公表された。

京都議定書が発効し(2月16日)、国内で京都議定書目標達成計画が取りまとめられた段階

(4月28日閣議決定)であり、また5月に、非公式会合である政府間専門家セミナーを控えて いる段階において、経産省に対抗しうるよう集中審議を行なったものと考えられる。この 報告書では、「科学的知見を踏まえると、気温上昇の抑制幅を2°Cとする考え方は、長期目 標の検討における現段階での出発点となりうると考えられる」(15ページ)として、EUと同 じ2°Cという長期目標を明記した(21)。事務局の意図は、2°Cという目標を審議会報告書に明 記することで議論の出発点を示し、後の議論を次の段階に委ねるということであり、「日本 として、長期目標に関する建設的な議論を国内において広く行ない進展させていくととも に、国際社会における合意形成に主導的な役割を果たすことを期待したい」と述べている(22)

COP11、COP/MOP1以後の開催状況をみると、環境省専門委員会は3月14日、4月25日の 2回開催されており、適応対策や炭素隔離・貯留の現状について検討事項としているが、経 産省専門委員会はその後休止状態である。

このように各省審議会は別個に開催されたが、審議会をもたない外務省も含め、それぞ れがオブザーバー参加するなどして、審議の経過を把握していたほか、3省間では日常的に 意見交換が行なわれていたという。この間も、3省の意見調整は、室長レベル、地球環境問 題担当大使+審議官レベルなど、日本政府意見の集約などのタイミングに応じて各レベル で行なわれた。3省間での外務省の位置づけについて、現時点で判断することは難しいが、

京都会議に向けたプロセスと異なり、将来枠組みについて個別の提案を行なうことはなく、

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「調整役」に徹しているようにみえる。ただし、外務省としては、この件について日本が外 交交渉の主導権を握ることを目指しており、そのためには、日本は京都議定書の6%削減目 標を必ず達成して国際約束を実現していることを他国にアピールすること、日本国内の温 暖化対策の長期的ビジョンを明確にして国際的な議論を牽引することが必要である旨を強 調している(23)

④国内関係者の意見

次に、この時期に表明された産業界と環境NGOの意見を紹介する。

産業界(経団連)は、将来枠組みにおいて京都議定書のような短期の数値目標が割り当て られることに反対してきた(24)。短期の数値目標を設けると、①途上国やアメリカの参加を 得ることが難しいこと、②温暖化対策技術の開発には長期間を要するにもかかわらず短期 的な目標にこだわると費用対効果の高い対策がとれない場合がありうることを理由として いる。また、数値目標を各国へ割り当てることについても、削減目標値の割り当ては政治 的交渉に陥り、交渉をいたずらに長引かせる恐れがあることから反対している。そこで、

条約の究極目的の達成のためには、短期ではなく中長期目標を基本としながら、定期的に 中間的な目標達成の進捗状況を国際的にレビューするといった手法をとること、そして目 標値を国ごとに割り当てるのではなく、各国が自国の特色を活かしたできる限り野心的な 目標を誓約(pledge)し、その進捗状況を定期的に審査(review)するような制度で削減を進 めるほうが有効であるとしている。一部産業界では、業種ごとに国際的な産業団体が母体 となって、CO2削減のためのプロジェクトが進められており、セクター別取り組みの実験と もなっている(25)

他方、環境NGOが強調したのは次の点である。第1に、「全球平均気温のピークを(産業 革命以前のレベルから)2°C未満の上昇に抑え、このピーク以降は、可能な限り急速に気温を 下げていく必要がある」としている(26)。第2に、次期枠組みの交渉期限は遅くとも2008年と するべきこと(27)。第3に、政府意見は「すべての国の参加」を主張しているが、アメリカへ の過度な配慮などによって、議定書3条9項に基づいて京都議定書第2約束期間の交渉を着 実に進めなければならないという基本を覆すようなことがあってはならないとしている(28)。 また、第4に、日本の国内政策において長期的な温暖化防止のビジョンがないことを指摘し、

長期的な温室効果ガス削減対策を策定するべきとしている(29)

2 COP11COP/MOP1以後の意見調整―国際交渉に向けた日本政府意見の取りまとめ

ここでは、COP11・COP/MOP1以後の国内意見調整過程を紹介するが、その前に、

COP11・COP/MOP1にて本格的に着手することとなった将来枠組みの検討プロセスについ て説明する。

①3つのプロセスによる将来枠組みの検討

COP11・COP/MOP1の結果、将来枠組みについて3つのプロセスが並行して進行すること となった。第1に、枠組条約附属書Ⅰ国(先進国およびロシア等)の第1約束期間以降の約束 について2005年末までに交渉を開始することを定めた議定書3条9項に基づくプロセスで、

検討開始のために作業グループ(WG)を設置すること、第1約束期間と第2約束期間の間に

(9)

ギャップのないことを目指すこと、締約国は2006年3月15日までに議定書3条9項に関する 考え方を事務局に提出することが決定した(Decision 1/CMP.1)。

第2は、定期的な議定書の再検討を規定する議定書9条に基づくプロセスで、COP/MOP2

(2006年)に予定されている。今回、COP/MOP1レポートに、締約国が検討方法や関連情報 と意見を取りまとめて、2006年9月1日までに提出することを要請することが盛り込まれた。

第3に、枠組条約のもとで、アメリカなどの京都議定書未批准国、削減義務のない途上国 を含めたすべての条約締約国が参加する交渉の場として「気候変動に対応するための長期 的協力のための行動に関する対話」を開始すること、2年間にワークショップを最大4回開 催し、結果はCOP12(2006年)およびCOP13(2007年)に報告することが決定された

(Decision 1/CP.11)。ただし、「対話」には、「将来の約束、交渉、プロセス、枠組み、マンデ ートといったものに予断をもたずに開催する」という条件が付されている。また、締約国 は、2006年4月15日までに意見を提出することを要請された。

②将来枠組みの検討プロセスに関する国内意見

COP/MOP1では、EU、途上国(G77+中国)、日本から「議定書3条9項に基づく検討に関 する提案」が提出された。そこで日本が主張したのは、附属書Ⅰ国の2012年以降のコミッ トメントの議論だけでなく、議定書9条に基づく見直し、すべての締約国が参加する究極の 目的達成に向けた条約の見直しに視野を広げるべきこと、であった。日本が交渉の第1目的 としているのが、すべての主要排出国が参加することであり、主要排出国が交渉のテーブ ルにつかないと制度設計についての議論に入ることができないこと、そして、次期枠組み の具体的あり方(たとえば約束期間など)が何も決定されていない段階で3条9項に基づいて 約束の数字だけを議論することには限界があるということが、その背景にある考え方であ る。

この対極にあるのが、途上国の提案であり、3条9項に基づいて先進国の次期約束を2008 年までに決定すべきと主張した。対して、EUの提案は、やや日本寄りのポジションにあり、

「差異のある責任」に留意したうえで、日本と同様に、すべての締約国が条約の究極の目的 に向けて努力することが必要であることを強調している。ただし、日本提案ほど、非附属 書Ⅰ国の参加を強調していない。またEUも、COP/MOP2で議定書9条に基づく見直しが行 なわれるに際して、気候変動枠組条約の下で関連する見直しと抱き合わせで行なわれるべ きことを求めている。

したがって、3条9項に基づくプロセスだけ独立して行なわれることとならず、3つのプ ロセスが並行して進むことになったことは、日本政府提案の意義を示すものであり、日本 政府としては、自らの交渉戦略が成功したものと評価している。

次に、これらの決定等に対する国内関係者の評価をみてみよう。まず、産業界は、京都 議定書の枠組みだけでは実効性が上がらないという認識から、「3条9項の議論だけでは危険」

であったが「対話」と抱き合わせとなった点、これを評価している(30)。他方、環境NGOは、

別の観点から、すなわち、議定書3条9項に基づく先進国のさらなる削減義務に関する交渉 プロセスを開始することで合意した点について、京都議定書が今後も継続し、2012年以降

(10)

も先進国のさらなる削減を積み上げていくことを明示したという意味があるとして、評価 している(31)。なお、「対話」については、将来の約束につなげないという条件が付されてい ること、2年間に最大4回のワークショップと開催回数も限られていることから、「対話」を 通じて将来枠組みに関する交渉が進展することを期待するのは難しいという評価がみられ る(32)。政府関係者も、「対話」がアメリカ・中国等の参加を確保するための場となるという ことについて楽観視していない(33)

③省間調整による意見調整・国際交渉ポジションの決定の特徴

COP/MOP1で提出された議定書3条9項に基づく次期約束の検討に関する提案書の作成、

そしてCOP11、COP/MOP1後に提出が求められていたサブミッションの作成のための意見の 集約過程(「京都議定書3条9項に基づく検討に向けた意見書」2006年3月15日提出、「気候変動に 対応するための長期的協力のための行動に関する対話」日本政府意見、4月13日提出)において は、上記で紹介したCOP11、COP/MOP1以前の各省審議会ごとの検討から、3省間での意見 調整・交渉ポジション作りに重点がシフトした。

政府意見の調整は次のように行なわれているという。まず、外務省が案を作成し、環境 省・経産省に意見を求める。案を作成するに際しては、各省との日常的な意見交換の積み 重ねから感触を把握しており、特に大きな対立と意見調整の必要は生じていないという(34)。 本節(1)でみたとおり、環境省・経産省それぞれが重きを置く主張には隔たりがあって、

日常的に意見交換を行なっているからといってその隔たりが埋まるとは考えられない。省 間調整において大きな対立がみられないとすれば、次のような理由が考えられるだろう。

第1に、現段階で調整する意見のレベルが、アメリカ・中国などの主要排出国が参加するよ うな交渉の土俵を作るべきという原則的なレベルであって、各省の「共通意見」を抽出す る作業で済んでいることであり、対立が生じる細かい論点まで日本政府提案に盛り込んで いないことである。この点について、担当者は、国際交渉は始まったばかりであり細かい 論点まで議論する段階にないことから(機が熟していないから)、3省間で細かい点について まで合意を進める必要はないこと、むしろ、他国の出方をみながら、政府意見調整を進め ていくべきという見解のようである(35)。第2に、3省ともに、3省協力体制を強く意識してお り、無用に省間対立構造を作ること、あるいは見せることを避けたいという意識がみられ る。たとえば、現段階の省間調整において、環境省は、2°Cという長期目標を日本政府意見 として盛り込むべきとの主張は行なっていない。国際交渉においては、外に向かって一丸 とならないと他国に太刀打ちできないという考えがその背景にあるようである。

将来枠組みに関する国会の関心も高まってきている。2005年3月10日に採択された「京 都議定書発効に伴う地球温暖化対策推進の強化に関する決議」(第162回国会衆議院本会議―10 号)において、将来枠組みの検討に関して、「世界最大の温室効果ガス排出国である米国等 の先進国に対し、同議定書への復帰・参加を強く働きかけるとともに、中国およびインド、

その他の途上国を含むすべての国が参加できる将来枠組みの構築に向け、国際的なリーダ ーシップを発揮すること」を求めている。また、最近も、国内の地球温暖化対策に関する 法案審議(NEDO法・石油特会〔石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計〕法改正など)

(11)

に際して、折に触れて将来枠組みに関する質問が出されている。とりわけ関心が集まって いる論点は、アメリカ等が不参加の枠組みでは限界があるという点に加えて、クリーン開 発メカニズム(CDM)活用のための国内整備が進められていることに関連して、CDMの将 来枠組みにおける位置づけについてである(36)

④COP11・COP/MOP1以後の政府意見

次に、上記3省間調整を経て取りまとめられた日本政府提案の内容をみる。

「京都議定書3条9項に基づく検討に向けた意見書」(2006年3月15日)では、再び、3条9 項に基づく検討は、9条に基づく定期的レビューや「長期的協力のための行動の対話」と連 携して進められることが必要であることを強調したうえで、COP/MOP1提出の提案に追加さ れた事項として、次の項目が列挙された。3条9項に基づく検討は、①すべての国がその能 力に応じて排出削減に取り組むことを可能とするとともに、主要排出国による最大限の削 減努力を促す実効ある枠組みとすることが重要であること、②地球規模の取り組みを促進 するための適切な枠組みの検討が必要であり、今後のWGでは、枠組みの期間・方法・コン セプトや内容を議論するべきこと、③技術の開発・移転が重要であり、各セクターで最大 限のエネルギー効率を追及すべきこと、④新しい促進的な空気(enabling culture)を醸成しな がら緩和努力を進めること、⑤緩和策(温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動を抑制する ための措置)と適応策(気候変動による悪影響に対拠するのを支援するためにとられる措置)の 推進が、すべての国において持続可能な発展に資するものであって損なうものではないこ とを確認するべきこと、⑥温室効果ガス抑制技術への投資が成功の鍵であること、⑦適応 策の重要性、である。

次いで、「気候変動に対応するための長期的協力のための行動に関する対話」日本政府意 見(2006年4月15日)の内容は、以下のとおりである。第1に、条約2条の究極目的の実現に 向けて取り組むべきこと。そのために、長期目標とそれを達成するための道筋に関する合 意、削減ポテンシャルや削減能力に関する共通認識、そのための科学的知見の共有が必要 であること。日本は、中長期目標を検討中であること。第2に、長期的な気候変動対策のた めには、すべての国がその能力に応じ排出削減に取り組むことを可能とするとともに、主 要排出国による最大限の削減努力を促す実効ある枠組みを構築することが重要であること。

そのためには、先進国の努力だけでなく新しいビジョンとコンセプト、「促進的な空気」の 醸成が必要であること。第3に、「対話」は、3条9項の検討や9条に基づく議定書のレビュ ーと一体的に議論が進められるべきこと。そして、「各論」として、(a)持続可能な開発の推 進、(b)適応策の推進、(c)技術の役割を挙げ、特に、技術の役割に関しては、各国セクター ごとの取り組みが求められること、セクター別にエネルギー効率についてきめ細かくベン チマークを作るとともに、ベストプラクティスを特定する取り組みが必要であることを明 記した。そして、(d)市場の活用として、CDM推進のために、将来枠組みの検討のなかで必 要な抜本的見直しを行なうべきとした。

この2つのサブミッションは、COP/MOP1でのEU・途上国の意見表明を受けて、調節さ れたものである。COP/MOP1提出の日本意見と比較すると、共通事項は、3条9項に基づく

(12)

検討、9条に基づく見直し、「対話」の議論が一体的に進められることが必要であるという 点である。他方、COP/MOP1以後にあらためて強調されるようになった点は、第1に、すべ ての国がその能力に応じ排出削減に取り組むこと、および、主要排出国による最大限の削 減努力を促す実効ある枠組みを構築すること、の2項目を使い分けるようになったこと。第 2に、技術開発の重要性がより強調され、最大限のエネルギー効率を各セクターが追求する べきであるとされた点(3月15日)、先進国、途上国の区分を越えて、セクター別にエネルギ ー効率についてきめ細かくベンチマークを作るとともに、ベストプラクティスを特定する 取り組みが重要であるとされた点(4月15日)など、経産省が審議会報告書で提案した事柄 が一部取り入れられていることである。そして、第3に、将来枠組みにおけるCDMの活用 とそのために制度改革が不可欠であることが強調されている。

4 今後の展望

現段階の将来枠組みについての議論は、国内対策と区別された国際交渉マターであり、

日本政府意見は、既存の国内政策との関連を意識して集約したものではないというのが、

現在の政府見解である(37)。とはいうものの、日本はCDM将来委員会を主導するなど、CDM の将来的な活用に積極的であり、CDMを制度改革することで将来的にも機能させたいとし ている(日本政府意見)。この点、2005年1月から域内排出量取引制度を開始しているEUの 場合は明示的で、域内取引の継続のためには、域外の国際排出量取引制度も継続すること が求められることから、京都議定書の枠組みの継続を求めており、既存の国内政策との連 続性を重視せざるをえなくなっている。

他方で、現在、インフォーマルな多数国協力プロジェクトとして、セクター(産業分野)

別に技術協力を行なうAPP(アジア太平洋パートナーシップ)が実施されている。APPについ ては、京都議定書の代替ではなく補完であること、京都議定書と異なる形で進むわけでは ないことを確認したうえで参加しているとの説明がなされているが(38)、将来的な発展に対 する産業界の期待感はあるし、経産省も、APP参加6ヵ国(オーストラリア、中国、インド、

日本、韓国、アメリカ)の温室効果ガス排出量が世界の全排出量の50%を占めることからも、

「京都議定書を補完するというのが建前だが、極めて現実的な方法」という評価を示してい る(39)

これまでみてきたように、日本政府は、すべての主要排出国が参加する「実効ある枠組 み」を構築するということを交渉の目標としているが、そのための具体的な戦略はまだ明 確ではない。現在、政府レベルでは、(日本政府提案に記されていたように)中長期的目標の 策定作業を開始しているという。また、これまでに2013年以降の国際枠組みに関して多く の提案が出されているが(40)、今後、日本政府提案としての制度提案を準備する必要が出て きたときに、どのような検討体制で意見調整・提案の構築を行なうべきか、制度内容だけ でなく、国内の検討体制のあり方についても議論する必要が出てくるだろう。国際交渉と 国内合意との相互作用について、第1節で紹介したように、ゲーム的な説明がなされること が多いが、そこで変数とされている短期的な国益や国内関係者の利害との関係以外の考慮

(13)

要素、すなわち問題解決のための長期的な観点からのビジョン作りも重要であろう。国際 交渉においては、国益に反しないような国際合意を目指すための交渉戦略が必要であるけ れども、その国益とは、短期的な利害関係のみから判断されるものではなく、長期的な国 民全体の利益の観点も考慮に入れたものでなければならない。京都会議の際には、議長国 としての立場を維持するためという動機からであるにせよ、官邸主導で政治判断が行なわ れた。中長期的な国益、国際気候変動政策への寄与といった観点を取り入れるためには、

官邸主導の政策形成が行なわれればそれで足りるということにはならないけれども、それ でも省間調整に依るよりはより相応しい場であるということは言えよう。これに対し、気 候変動問題が政治的に重要な争点とみなされず官邸主導の議論が起こりにくい場合には、

省間調整を超えた横断的な議論・長期的なビジョンについて検討するために、さまざまな 主体を巻き込んだ議論の場を用意することも考えられるのではないだろうか。

1) 渡辺昭夫「日本の対外政策形成の機構と過程」、細谷千博・綿貫譲治編『対外政策決定過程の日 米比較』、東京大学出版会、1977年。

2) 同前、46―47ページ。

3 Robert Putnam, “Diplomacy and Domestic Politics: the logic of two-level games,” International Organization, Vol. 42, No. 3, Summer 1988. 2レベル・ゲームでは、国内支持の動員の場として「批准」が念頭にお かれているが、日本の場合には、日常的な利害関係者からの支持獲得が主たる動員の場となるこ とに注意。

4 David Vogel and Timothy Kessler, “How Compliance Happens and Doesn’t Happen Domestically,” in Edith Brown Weiss and Harold K. Jacobson ed., Engaging Countries: Strengthening Compliance with International Environmental Accords, MIT Press, 1998, p. 23.

5) 経緯について、竹内敬二『地球温暖化の政治学』、朝日選書、朝日新聞社、1998年;田邊敏明

『地球温暖化と環境外交』、時事通信社、1999年;佐脇紀代志「地球温暖化防止政策を巡る国内政 策過程―京都会議を焦点に」『レヴァイアサン』第31号(2002年秋)、参照。

6) 環境庁は、環境庁長官の私的懇談会「地球的規模の環境問題に関する懇談会」の中間報告書を

1996年11月に、通産省は、総合エネルギー調査会基本政策小委員会中間報告を1996年12月に公表

した。

7) 竹内『地球温暖化の政治学』、137ページ。

8) 以前、内政審議室長・外政審議室長(内政審議室長は大蔵省、外政審議室長は外務省の出身者で 占められていた。他に、安全保障危機管理室長〔防衛庁出身〕および安全保障危機管理室がある)

の下に、それぞれ内政審議室・外政審議室が置かれていたが、相互の連携に不十分なものがある との認識から、橋本行革によって室長−室の垣根を廃して、内政担当・外政担当の官房副長官補 の下に、ひとつの室(官房副長官補室)・1人の審議官(準局長級)が置かれることとなった。「こ の結果、環境の変化に応じて柔軟に課題に取り組めるようになった」とされている(城山英明

「内閣機能の強化と政策形成過程の変容―外部者の利用と連携の確保」『年報行政研究41』2006 年、76ページ)。なお、新設された副長官補のポストであるが、現在も従来と同じ派遣元から着任 している。信田智人『官邸外交』、朝日選書、朝日新聞社、2004年、22―31ページ;古川貞二郎

「総理官邸と官房の研究」『年報行政研究40』2005年、10―11ページ。

9) 田邊『地球温暖化と環境外交』、115ページ;竹内『地球温暖化の政治学』、161ページ。官邸主 導の調整は、双方の担当者が出席して意見をぶつけ合うというよりも、省庁の幹部による首相官 邸の説得作業という、官邸と各省庁とのバイの交渉の積み上げであったという指摘もある(竹内

(14)

『地球温暖化の政治学』、164ページ)

(10) 竹内『地球温暖化の政治学』、165ページ;田邊『地球温暖化と環境外交』、125―126ページ。

(11) 佐脇「地球温暖化防止政策を巡る国内政策過程」、164ページ。

(12) 通産省は、「日本が案を出してもアメリカが受け入れるかどうか判らない」として、アメリカ提 案を待ち、それを踏まえて日本が議長国として、アメリカを含め主要先進国が受諾できるような 案を提示することが適切であると主張したが、橋本首相の指示は、アメリカ提案の後では遅く、

アメリカ提案を日本がのめない場合もありうるから、先に提案するべきであるというものだった

(田邊『地球温暖化と環境外交』、122―123ページ;竹内『地球温暖化の政治学』、158ページ)

(13) 京都会議を間近に控えた1997年10月下旬、橋本首相から各国意見の大きな隔たりを埋めるため、

京都会議に向けて途上国を含む関係国に対する働きかけを戦略的に考えるよう指示があった。こ の指示に基づき、外務省を中心に外交戦略が検討され、「京都会議に向けての関係諸国への戦略的 アプローチ」(10月31日)が発表され、各国に特使が派遣された。

(14) 内閣官房関係者へのインタビューより(2006年4月)

(15) その経緯について、澤昭裕・菊川人吾「京都議定書批准と国内対策をめぐるゲーム」、澤昭裕・

関総一郎編『地球温暖化問題の再検証』、東洋経済新報社、2004年、参照。なお、これ以降、内閣 官房において気候変動対策は「内政」の担当とされている(内閣官房関係者へのインタビューよ り〔2006年4月〕

(16) 内閣官房関係者へのインタビューより(2006年4月)

(17) 竹内『地球温暖化の政治学』、266ページ。

(18) 第1回専門委員会議事録(2004年4月8日)、小島敏郎地球環境局長の発言より。

(19) このような京都議定書への批判に対する反論として、亀山康子「京都議定書の評価」『資源環境 対策』第41巻第1号、2005年、94―96ページ。

(20) 研究者、民間企業、経産省(資源エネルギー庁・原局原課・産業技術環境局)(独)新エネルギ ー・産業技術総合開発機構(NEDO)(独)産業技術総合研究所等の参画により取りまとめ。

(21) 国立環境研究所のAIMモデル(アジア太平洋地域における物資循環を考慮した地球温暖化対策 のための気候モデル)による試算によると、気温上昇幅を2°C以下に抑えるためには、2030年以降

475ppmで全温室効果ガス濃度を安定化させる必要があり、このためには、世界全体の全温室効

果ガスの排出量を1990年比2020年で約10%、2050年に約50%、2100年に約75%削減することが必 要であるとされた。

(22) 第10回専門委員会議事録(2005年5月12日)、水野国際対策室長の発言より。

(23) GISPRI/IGES(〔財〕地球産業文化研究所/〔財〕地球環境戦略研究機関)共催セミナー「ポスト

COP11及びCOP/MOP1」(2006年1月27日)における外務省・久島直人気候変動室長の発言、およ

び国際法協会2006年度研究大会「国際環境法の履行確保―気候変動を素材として」(2006年4 15日)における西村六善地球環境問題担当大使の発言より。

(24)(財)日本経済団体連合会「地球温暖化防止に向けた新たな国際枠組みの構築を求める―究極 目的の達成に向けた産業界の基本的考え方」、2005年10月18日。

(25) 1999年11月「WBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)」の産業プロジェクトとして、

セメント産業部会(セメント産業自主対策:CSI)が発足し、「CSI」の第2段階として、自ら優先 課題を決定し取り組む「自主行動計画」を策定し、2007年までに各企業のCO2削減目標をたてる ことになっている。また、鉄鋼業界では、国際鉄鋼協会(IISI)において、世界の鉄鋼業が抜本的 なブレークスルー技術開発に共同して取り組むことを発表している(2003年10月6日)

(26) プレスリリース「気候変動に関する将来の枠組みは『危険な気候変動を防止するため』のものに」

(要約版)、2003年6月5日。

(27) プレスリリース「削減目標の確実な達成を求める共同声明」、2004年12月。

(15)

(28) 気候ネットワーク「モントリオール会議に期待すること―次期枠組み交渉のスタートに当たっ て」、2005年11月。

(29) 第162回国会参議院環境委員会―16号(平成17年6月7日)、地球環境と大気汚染を考える市民会 議(CASA)の早川光俊氏の発言より。また、平田仁子(気候ネットワーク)「最大の成果は『ポ スト2012年』の議論開始」『月刊地球環境』2006年3月号、36―37ページ。

(30) 笹之内雅幸(トヨタ自動車環境部渉外グループ担当部長)「先進国の次期目標と対話の融合で前 進を」『月刊地球環境』2006年3月号、34―35ページ。「実効性を上げるためにはみなが参加する枠 組をどのようにつくるか、これに尽きると思います」

(31) 平田、「最大の成果は『ポスト2012年』の議論開始」

(32) 亀山康子「2013年以降の国際制度をめぐる動きと提案」『環境と公害』第35巻第4号、2006年、

42ページ。

(33) 深野弘行(経済産業省大臣官房審議官)「米、途上国対話に参加するも予断許さぬ展開に」『月刊 地球環境』2006年3月号、32―33ページ。

(34) 外務省担当官へのインタビューより(2006年4月)

(35) 経産省担当官へのインタビューより(2006年4月)

(36) 第164回国会参議院・経済産業委員会―11号、平成18年04月20日。

(37) 環境省担当官・経産省担当官へのインタビューより(2006年4月)

(38)「特集:ポスト京都議定書への道」『月刊地球環境』2006年3月号、22―28ページ;小池百合子環 境大臣「すべての国々が参加する実効ある枠組へ前進」、同、30―31ページ。

(39) 同前『月刊地球環境』、22―28ページより(経済産業省・坂本敏幸地球環境対策室長の言として 紹介)

(40) 高村ゆかり「2013年以降の地球温暖化防止のための国際制度設計とその課題―国際法学の視 角から」(田中則夫・増田啓子編『地球温暖化防止の課題と展望』、法律文化社、2005年、所収)

に、諸提案の整理がなされている。また、亀山康子「京都議定書の発効と国際関係」『国際問題』

第541号(2005年4月)、12―15ページに制度提案の傾向が、亀山「2013年以降の国際制度をめぐる 動きと提案」に諸提案の経年的な変遷が紹介されている。

くぼ・はるか 甲南大学助教授

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