2008年1月29日
マクロ経済学初級 II 学期末試験解答の指針 ( 速報版)
出題:大平 哲 解答の指針です。このバージョンは速報版です。ミスプリが含まれているかもしれません。ミス プリがなくなった最終版は、採点基準の公開と同時に出します。
I. 産業連関表
農業、工業、サービス業の3部門からなる経済で、農業への財政支出のみがおこなわれていると する。
農業 工業 サービス業 消費 投資 財政支出 農業 50 30 30 200 40 20 370 工業 20 20 10 100 30 0 180 サービス業 10 10 10 100 30 0 160
(a)
290
(b)120
(c)110
370 180 160
(1) 図中の(a)(b)(c)はいくつになるか。図中に書き込みなさい。(10点)。
(2) 生産国民所得の定義を示した上で、その値がいくつになるか示せ(6点)。
¶ ³
生 産 国 民 所 得 は 各 産 業 の 付 加 価 値 合 計 と し て 定 義 さ れ る 。す な わ ち (a)+(b)+(c)=290+120+110=520である。
µ ´
(3) 生産国民所得と支出国民所得が等しくなることを確認せよ(6点)。
¶ ³
支出国民所得は消費、投資、財政支出の合計である。それぞれの産業の消費、投資、財 政支出の合計は
農業 200+40+20=260
工業 100+30+0=130
サービス業 100+30+0=130
なので、支出国民所得は260+130+130=520となる。これは(2)で求めた生産国民所得 の値に等しい。
µ ´
(4) 農業への補助金が20から30になると国民所得はいくつになるか。また、財政支出乗数はい くつであるか(8点)。
¶ ³
産業連関表はY =C+I+Gというマクロの恒等関係を分解したものに過ぎず、消費 関数など乗数効果を発生する仕組みを含んでいない。そこで、財政支出が増加した額 30-20=10と同じ額だけ国民所得が増加し520+10=530となるだけである。また、この ことは、財政支出乗数が1であることを意味する。
µ ´
II. 貨幣
(1) 投機的動機に基づく貨幣需要について説明せよ。(10点)
(2) 公開市場操作とは何か(8点)。
(3) 授業で 貨幣需要L=
rXz
2r という貨幣需要関数を導いた。この貨幣需要関数を用いて、貨 幣供給Mが増加したとき、LM曲線が右にシフトすることを確認せよ(22点)。
注意:取引額X は国民所得Y におきかえて解答すること。
¶ ³
L=
rY z
2r から次の計算ができる。
L = M
rY z
2r = M Y z
2r = M2
r = z
2M2Y
この式はY −r平面でLM曲線が原点を通る直線になることを表している。また、その直線 の傾きが2Mz2 であることも意味している。ここで、Mが大きくなると、直線の傾きは小さく なる。つまり、Mが大きくなるとLM曲線は右にシフトする。
µ ´
III. 物価指数
経済にはリンゴとみかんしか存在しない次のケースを考える。
2000年(基準時) 2009年(比較時) 価格(円) 取引数量(個) 価格(円) 取引数量(個)
りんご 100 20 200 10
みかん 20 10 50 5
2009年の物価指数を計算するとき、パーシェ指数とラスパイレス指数とでどちらが大きくなる か(20点)
¶ ³
パーシェ指数は比較時の取引数量、ラスパイレス指数は基準時の取引数量を加重にして比較 時、基準時の平均価格を求め、その比をとる。比較時、基準時では取引数量は異なるが、りん ごの取引量がみかんの取引量の2倍である点は基準時、比較時ともに同じなので指数は同じ になる。どちらが大きいというわけではない。
この問題は計算問題としてではなく、記述問題として出題している。計算して結果を出すので もかまわないが、計算をせずに回答するのが模範解答と想定している。
µ ´
IV. IS-LM モデル、 AD-AS モデル
次のモデルについて(1)(2)(3)に解答すること。
Y = C+I+G (1)
C = 0.8Y (2)
2
I = 100−I1r I1>0 (3) L = M
P (4)
L = 1000 + 10Y −5r (5)
M = 500 (6)
P = 1 (7)
(1) 財政支出乗数を求めよ(20点)。
¶ ³
まずIS曲線を求める。
Y = 0.8Y + 100−I1r+G 0.2Y +I1r= 100 +G 次にLM曲線を求める。
1000 + 10Y −5r= 500 10Y −5r=−500 この2つは次のように整理できる。
"
0.2 I1
10 −5
# "
Y r
#
=
"
100 +G
−500
#
この連立方程式を全微分することで次を得る。
"
0.2 I1
10 −5
# "
dY dr
#
=
"
1 0
# dG
この式を解いて、次の比較静学の結果を得る。
dY dG =
¯¯
¯¯
¯ 1 I1
0 −5
¯¯
¯¯
¯ ¯
¯¯
¯¯
0.2 I1
10 −5
¯¯
¯¯
¯
= −5
−1−10I1 = 5 1 + 10I1
言うまでもなく、同じ数値を表すものであれば正解。たとえば、 1
0.2 + 2I1 は同じ数値 ですね。
µ ´
3
(2) (1)の結果を元に投資関数の形状とクラウディングアウトとの関係について論ぜよ(8点)。ま た、45度線分析に比べてIS-LM分析では財政支出乗数が小さくなることも確認せよ(7点)。
¶ ³
dY
dG = 5 1 + 10I1
であるので、投資関数が利子率に敏感に反応するほど、すなわちI1が大きくなるほど 乗数が小さくなる。このことは投資が利子率に敏感に反応するほどクラウディングアウ トが大きいことを意味する。
また、このことは、I1= 0のときがもっとも乗数が大きく、I1が大きくなればなるほど 乗数が小さくなることであり、45度線モデルからモデルが異なるほど(投資が利子率に 敏感に反応するほど)財政乗数が小さくなることを意味している。
µ ´
(3) G= 0、I1= 1とする。さらに(7)を削除しP= 1ではなく、P がさまざまな値をとるもの として、AD曲線を導け(20点)。
¶ ³
IS曲線は(1)と同様であり、LM曲線は
1000 + 10Y −5r=500 P となる。この2つを連立すると
Y = 5(100 +G) + 1000I1
1 + 10I1 + 500I1
1 + 10I1
1 P
= 150 + 5G 11 + 500
11P が求まる。
µ ´
4