自然科学概論A(原科)
25 科学と非科学・ニセ科学
テーマ 科学と非科学を区別する
科学的とはどういうことか
あなたが「非科学的」と考える例は?
UFO,幽霊,超能力(テレパシー,念力,予知,・・・),
「科学的」・「非科学的」はよく使いますが,
科学的とはどういうことなのでしょうか。
事例:超心理学(超能力の研究)は科学か?
超能力を研究していたP教授は,超能力者を見出したと発表した。能力者Sが,
念力でスプーンを曲げたり,封筒の中のカードを透視したりする実験の様子のビデ オを公開した。それがトリックではないかと疑う人たちがいたので,公開で実験を 行ったが,超能力は現れなかった。P教授は,「公開実験の場に超能力を疑う人がい たので,それが能力者Sの精神に影響を与えて実験が成功しなかったのだ。超能力 を信じる人たちだけの集まりならば,能力者Sはリラックスするので,超能力はほ ぼ100%現れる。」と主張した。
科学と非科学(科学でないもの)を判別する基準は? 線引き問題
ポパー (1902~1994 イギリス) 哲学者
判断基準は・・・「 反証可能性反証可能性反証可能性反証可能性 」 がある→科学的な理論
「こういう実験をして,この結果(反証)が出れば,その理論・命題は否定される」
「こういう事例(反例)が発見されるならば,その理論・命題は否定される」
ということがはっきりしている。(反証される可能性がある理論)
「質量保存の法則=どんな変化が起こっても質量の和は変化しない」は?
反証されることがない理論は科学的でない!
超心理学の事例はどうですか? 反証可能性ある?
定義があいまいなもの
ああ言えばこう言うで,否定のしようがない言説
反証可能性がない説・理論・・・ 科学では扱えない,科学の領域外 (宗教など)
注意:科学は宗教や神を否定してはいない。科学で扱えない問題がある。
反証可能性がない
遅刻・途中退席のときは教室前の 名簿に番号・名前を記入すること
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「2018年は,世界中で日食が観測されない年である」 ・・・ ある 「6月1日は,山羊座生まれの人によいことが起こる」 ・・・ ない 「A型はきちょうめんで,B型はマイペースである」 ・・・ ない
「真空中の光速よりも速く運動できる物質は存在しない」 ・・・ある
「この世界は5分前にできた(誕生した)」 ・・・ない
科学という営みは何なのか,考えると結構難しい(科学を科学する/科学哲学)
「反証可能性」を,科学的方法論の軸にすえてみよう(ポパー)
科学の営みを
自然現象を観察し,実験を行って,そこから真理を見出していくこと。
その真理(自然法則)は累積的に増えていく。より確かになっていく。
と考えていませんか?
必ずしもそうではない (科学革命,パラダイム転換 クーン)
天動説から地動説 ニュートン力学から相対性理論・量子力学
また実は,観察・実験事実をどれだけたくさん積み重ねても, (帰納主義)
ある理論が正しい(真理である)という証明にはならない。
自然法則・科学的な理論はすべて仮説である。
『99.9%は仮説―思いこみで判断しないための考え方―』(竹内薫著 光文社新書)
法則・理論とは,“ 反証に失敗し続けて ”いるあいだだけ生き延びる仮説。
反証されたら,反例も従来の事例も両方説明できる新しい仮説を考える。
ニュートン力学の反証:光速に近い速さでの運動を説明できない。
→ 特殊相対性理論 (光速に近い運動も,十分遅い運動も,説明できる)
同じ現象・実験を説明できる仮説(法則・式・理論)は無数につくれる。
→ 法則・式・理論はできるだけ簡単なものを採用する (オッカムの剃刀)
ポパーは,かなりいい線をいっているが,科学の営みはそれほど単純ではない。
例:天王星が発見された後(1781),その軌道がニュートン力学の計算と合わな いことが明らかになった。 → ニュートン力学が反証された?
ニュートン力学という仮説を捨てなかった。未発見の惑星からの重力の 影響ではないか(仮説)。こうして海王星を発見した(1846)。
水星の軌道も,ニュートン力学の計算と合わなかった。→どうなったか?
反証可能性あるorない?
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ニセ科学あれこれ (非科学がすべて悪いものでも間違っているものでもないが,) 非科学や科学的に間違っているものが,科学を装って,だます,だまされる,
傷つける,差別するなどの実害が生じるときは問題 → ニセ科学 健康・美容にまつわること
マイナスイオン,磁気ネックレス,ゲルマニウム,トルマリン,
コラーゲン,ラドン,・・・
プラセボ効果 (プラシーボ効果) 「病は気から」
病気の患者に 偽の薬(小麦粉など)を与えても効き目がでる 現象
ある薬Aの効き目を確認するためには,
色・匂い・味などが全く同じ Bを用意する。
2つの患者グループを用意し,一方にA,他方にBを投薬する。
患者は本物か かは知らない。薬以外の治療条件は同じとする。
さらに,どちらのグループに本物の薬Aを与えているかを,
治療をしている医師にも知らせないで行う ・・・「 二重盲検法 」
病気が治った,症状が改善されたという場合,プラセボ効果を除いても ちゃんと効果があることを確認しているのだろうか?
実験条件がコントロールされているか? →「水からの伝言」
統計・確率・数字でだましていないか? →ジャンクフードが非行の原因
あやしい科学的説明,また科学用語(擬似科学用語)を濫用する
ホメオパシー,遺伝,DNA,ナノ,ピコ,波動,フリーエネルギー,・・・
なんでも科学で解決するのか
原子力発電が大事故を起こす確率は?どこまで対策すれば十分か?
A.ワインバーグ(核物理学・原子力工学者 アメリカ)
「 トランストランストランストランス・・・・サイエンスサイエンスサイエンス サイエンス 」(1972)
科学に問いかけることはできるが,科学によって答えることができない 問題領域
小林傳司「トランス・サイエンスの時代」より(一部修正)
科学
(客観的事実)
権力・政治
(価値判断)
客観的真理を提供 分離・独立
科 学
政 治 トランス・
トランス・トランス・
トランス・
サイエンス サイエンスサイエンス サイエンス
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どんなときにトランス・サイエンスの問題になるのか
戸田山和久著「『科学的思考』のレッスン」より(一部修正・追加)
(1) 知識の不確実性 ,解答を得ることの 現実的不可能性
・放射線の健康影響(被ばく者が非常に多ければ確かめられるけれど)
・遺伝子組み換え食品の健康影響,環境影響
(2)対象がそもそも 不確実 な性質をもつ, 複雑性
・原発は多くの部品,機器,プログラムなどから構成された 非常に複雑なシステム → 事故の確率は?
(3) 価値判断 とのかかわりが避けがたい (倫理的)
・原発は1000年に一度の大津波にまで備えるべきか
・原発の廃棄物を安全に管理していくには何万年も時間がかかるが,
その負担を将来の世代に押し付けてよいのか。
トランス・サイエンスの問題は,科学・科学者だけで解決できない。
従来は,科学で解決しようとしてきた。(解決できるふりをしてきた。) 安全基準,安全審査,環境アセスメント ⇒ 審議会,有識者会議
価値判断をともなう意思決定・合意形成に,非専門家・市民が参加する 。
平川秀幸著「科学は誰のものか」を参照
科学・非科学のまとめ
①科学的な法則・理論は「反証可能性」をもつ。非科学は反証可能性がない。
②ニセ科学を疑ってみよう。
③科学によって問うことができるが,科学によって答えることのできない問題領 域(トランス・サイエンス)がある。
次回「物理学の発展 近代から現代へ」
☆本日のミニレポート課題 ①または②のどちらか選んで書く。
(300字以上,次週水曜13時の〆切までに提出)
①ニセ科学の特徴をいくつか述べよ。ニセ科学と考えられる事例についてその 内容を紹介し,それをニセ科学と考える理由・意見などを書け。
②科学と非科学をどう区別すればよいか。「(再現しなかったけれど)STAP 細胞はあります。」,「聖書に記されたとおりに宇宙はできた。」のような例は,
なぜ科学とは認められないか,具体例をあげて「反証可能性」をキーワード に考察せよ。