2019年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール卒業論文
「Netflix の軌跡」
A1642411 藤原賢
2019年1月14日
目次
第1章 はじめに
1.1 背景
1.2 目的
第2章 動画配信サービスの現状
2.1 動画配信サービスとは
2.2 動画ストリーミングサービスの市場規模
2.3 Netflixの現状
第3章 Netflix急成長の仕組み
3.1 独自の強みはどこにあるのか
3.2 ビジネスモデルからみるNetflix
3.3 仮説
3.4 新規ユーザーの獲得
3.5 顧客の離脱防止1
3.6 顧客の離脱防止2
3.7 結論
3.8 最後に
第1章 はじめに
1.1 背景
ミレニアム世代である僕は、常にデジタルテクノロジーの進歩を肌で感じながら成長してき た。単なる通信手段に過ぎなかったPHSがガラケーを経て多彩な機能を持つスマートフォンに 進化し、今や現代社会を生きる上で必需品となったのはその最たる例だろう。
これらのテクノロジーの進歩は人々のライフスタイルや社会を大きく変化させてきた。その 中でも若い世代や一般の消費者にとってSNSと並んで特にインパクトが大きかったのが、動画・
音楽の配信サービスの普及ではないだろうか。
私自身の生活にとっても、これらのサービスは使用しない日がないほど身近なものだ。今回の 卒業論文では、急速に成長を遂げる動画配信サービスのなかでも、急成長を遂げた「Netflix」に ついて取り上げたいと思う。現在Netflixは、全世界で一週間に10億時間が再生されており、全 世界の通信の15%を占めるまでに成長した。まさにメディア界の王となったNetflixいかにして そこまで上り詰めたかについて研究したい。
1.2 目的
この研究の目的は「なぜ動画配信サービス業界において、Netflix が王者として君臨していら れるのか。」(言い換えれば「競合他社に対して何がどれくらいの優位性があるのか?」)を解き 明かすことにある。
第2章 動画配信サービスの現状
2.1 動画配信サービスとは
本題に入る前に、ここで「そもそも動画配信サービスとはなんぞや?」ということについて触 れておきたいと思う。一口に動画配信サービスと言っても様々な形態があり、Netflix や競合他 社を正確に分析するためには把握しておく必要があるからだ。
動画配信サービスの配信形態は大きく二つに分類される。日本ではWOWOW、スカパーに代 表されるケーブルテレビなどの有料チャンネル型(Pay TV)、Netflix、Hulu、Amazon Prime などのオーバー・ザ・トップ型(OTT)である。前者はケーブルや衛星などの放送インフラを持つ 通信会社が提供するサービス形態で、後者は独自の通信インフラを持たない企業がインターネ ットを介してコンテンツを提供するサービス形態である。動画配信サービス以外では Line や
SkypeなどもこのOTTに分類される。
補足 動画ストリーミングサービスとは
私は昨年夏に行われた卒業論文の中間発表において、「ストリーミングサービス」という言葉 を口にしたと思うが、意味を正確に把握していなかったので補足・訂正しておきたい。
前述の通りNetflix(Hulu、Amazon、YouTubeなども)はインターネットを介して動画コン テンツを提供しているわけだが、一つのコンテンツを丸々ダウンロードしてから再生しようと すると、顧客はそれが終わるまでそれを待たなければならない。ましてや同時に大勢の人間がサ ービスを利用しようとすればその通信量は膨大になる。ではなぜ我々は今現在ストレスなくコ ンテンツを楽しめているのか。それは「ストリーミング配信」という配信手法の恩恵に他ならな い。
ストリーミング配信とは、Stream(流れ)に沿って少しずつ映像や音声が配信され、受信した 顧客の端末で同時に再生する方法である。絶えずダウンロード、再生を続けることで顧客を待た せることなく、またネットワークに過度な負荷をかけることなくサービスを提供できるのだ。
iTunesやPlay Station Storeなども動画配信サービスを展開しているが、一括ダウンロード方式
であるためまったく異なる次元のサービスと言える。
2.2 動画配信サービスの市場規模
スマートフォンの普及と通信技術の飛躍的な向上により、動画配信サービスの市場規模は年々 拡大してきた。下のグラフは2014年から2019年までの動画ストリーミングサービスの売り上 げ高と契約数をまとめたものである(米IHS Markit調べ)。
売り上げ高のオレンジの部分は定額制(サブスクリプションモデル)のサービス、青の部分はそれ 以外(ペイパーヴューモデル)のサービスの売上高を示している。ペイパーヴューモデルのサービ スが失速する一方で、サブスクリプションモデルのサービスが市場を大きく拡大させているの が見て取れる。
58.8 63 77.1 56.5 62.4 67.6
70.5 93.8 124.3 260.7 384.1 478.6
1.8 2.4 3.1
4.5
10.6
13.5
0 2 4 6 8 10 12 14 16
0 100 200 300 400 500 600
2014 2015 2016 2017 2018 2019
契約数:億契約 売上高:億ドル
動画ストリーミングサービスの市場規模推移
売上高(定額制以外) 売上高(定額制) 動画配信契約者数
2.3 Netflixの現状
前述した通り動画ストリーミングサービスはその規模を急激に成長させており、それに伴い 数々の企業が参入してきた。今年の八月にはアメリカのウォルトディズニー社が独自の動画ス トリーミングサービス「Disney Plus」を開始すると発表したのは記憶に新しい。
日本ではまだサービスが開始されていないこの「Disney Plus」であるが、サービス提供地域 では11月12日のサービス開始以前から契約者数が100万人を突破したと報じられた。「Disney Plus」の参入により、動画配信サービス業界にまた新たな、そして大きな一石が投じられた訳だ が、現在の各社のシェアはどうなっているのか見ていきたいと思う。
上のグラフは2018 年の全世界の動画配信サービスの加入者数をまとめたものである(米 HIS Markit調べ)。Netflixが1億3900万人のトップであり、2019年現在では1億5000万人を突破 した。中国企業はあまりに活動環境が違うため単純に比較することができないが、Amazon や Huluを大きく凌いでいることがわかる。次は各社の売上高を比較してみる。
上のグラフは動画配信サービス各社の売上高をまとめたものである。首位は AT&T、アメリ カの衛星テレビなどを手掛ける企業だ。契約者数でトップにいたNetflixは売上高において五位 に収まっている。単純に契約者が多ければ、売上高も増えるというわけではないようだ。なぜこ のような現象がおこるのか。それは収益構造の違いが起因している。
Netflix は契約者から月々契約料を徴収しそれを収入源としている。ケーブルテレビや衛星テ
レビなどの有料チャンネルも同じく契約料を徴収しているがそれに加えて、広告枠を購入した 企業からの広告費が収入源として存在する。そのため契約者数の大小がそのまま売り上げの大 小に繋がるわけではないのである。
第3章 Netflix急成長の仕組み
3.1 独自の強みはどこにあるのか
前述の通り、動画配信サービス業界というのはスマートフォンの普及や通信技術の飛躍的な 向上により市場規模を拡大してきたため、業界そのものに勢いがあることは間違いない。その中 でも業界のトップをいくNetflixはなにが独自の強みなのかということを探っていきたいと思う。
3.2 ビジネスモデルから見るNetflix
上の図はNetflixのビジネスモデルをまとめたものである。
ここで注目してもらいたいのが収入の項目だ。Netflix はケーブルテレビのような広告収入を 得ていないので、毎月契約者から支払われる契約料がメインの収益となっている。そのため
Netflix が利益を上げ持続的に成長していくためには、契約者数をいかに伸ばしていくかにかか
っている。その仕組みづくりにこそ、Netflixの強みが隠されているのではないだろうか。
3.3 仮説
前述のことを踏まえて、ここで一つの仮説を立てたい。
仮説 「Netflixは顧客獲得力が高く、顧客の離脱率が低い。」
「契約者数を伸ばす」ということは新規契約者を獲得することは勿論、既存の契約者の離脱を 防ぎ継続的に利用してもらうことも意味している。その点において、動画配信サービス業界にお いて圧倒的な契約者数を誇る Netflix は他社に比べてなにか特別な強みを持っているのではな いかと考えた。新規顧客の獲得と既存の顧客の離脱率から検証していきたいと思う。
3.4 新規ユーザーの獲得
インターネットを介してスマートフォンやパソコンにコンテンツを提供するというサービス の性質上、最もアプローチをかけやすいのが生まれたときからIT技術に触れてきたミレニアル 世代である若年層だ。
左の図は日本(緑)、韓国 (赤)、アメリカ(青)の動画 ストリーミングサービスの 契約者を年齢別にまとめた ものである。Netflixに限ら ず動画ストリーミングサー ビスはミレニアム世代が契 約者数の割合として最も多 いことがわかる。
アプローチのしやすいこ のミレニアム世代であるが、
それは Netflix 以外のサー
ビスにとっても同じである。いかにしてNetflixは他社と比べて優位性をたもったのか。当事者 である私自身や私の周辺の人間へのアンケート調査を交えて考察したい。
まず考察したいのは、いかに顧客である我々に加入のきっかけを作ったかである。私はこの卒 業論文を作成するにあたり、大学生80人にアンケートを実施した。そのなかで「なにがきっか けで加入に至ったか」という質問に対して、
という結果が得られた。「見たい作品があったから」が過半数を占めている。また、「友人等の口 コミで聞いたから」という回答ではそのすべてが「口コミ」が特定の作品を評価する内容であっ た。つまり、回答者の4分の3以上が特定の作品がきっかけとなって加入していることになる。
また、「見たい作品があったから」「友人等の口コミで聞いたから」と回答した人にはその特定の 作品についても聞いてみた。
圧倒的存在感を見せたのが、恋愛リアリティーショーとして人気を博す「テラスハウス」だっ た。昨年話題となった和製ドラマ「全裸監督」、エミー賞受賞の海外ドラマ「ストレンジャーシ ングス」、テラスハウスと同じく人気恋愛リアリティーショーの「あいのり」がそれに続いてい る。Netflix がミレニアム世代の心に刺さる作品を視聴可能にすることで集客し、口コミで更な る顧客の獲得につなげていることがわかるが、ここで注目してもらいたいことは上記の作品が
すべてNetflixの独自に作成したコンテンツであるということだ。
Netflix は毎年多額の費用をオリジナルコンテンツに投資しており、2018年には会社全体で
80 億ドルを超えている。この金額はライバルであるAmazon Prime の二倍以上だ。また日本 の民放各社のコンテンツ制作費と比較するとその差は歴然である。Netflix が制作したオリジナ ルコンテンツは多少の 制限はあるといえ、ほと んどの作品がサービス を展開するほとんどの 地域で視聴することが できる。つまり、この金 額の差はそのままコン テンツのバリエーショ ンや充実さを表してい ると言っても過言では ない。
見たい作品があったから 55.10%
友人等の口コミで聞いたから 20.40%
広告を見て気になったから 16.30%
テラスハウス 41.8%
全裸監督 9%
ストレンジャーシングス 7.2%
あいのり 5%
14300
881 997 807 985
0 5000 10000 15000 20000
Netflix テレビ朝日TBSテレビ フジテレビ 日本テレビ
2018年 コンテンツ投資額(単位:億円)
実際、Netflixのオリジナルコンテンツは名誉ある賞を受賞するに至っている。2019年のアカ デミー賞では「ROMA/ローマ」が10部門でノミネートされそのうち3部門で受賞を果たした。
このようにNetflixはクオリティーの高いコンテンツや「テラスハウス」のようなミレニアム 世代の心を掴むコンテンツを制作し、「Netflixでしか見られない」状況を作り出すことによって 新規の顧客を獲得する力において優位性を保って来たと言える。
3.5 顧客の離脱防止(1)
さて、新規顧客の獲得力の強さを見てきたわけだが次は獲得した顧客をどうやって囲い込ん でいくのかについて考察する。
言わずもがなNetflixのようなサブスクリプションモデルのビジネスでは、ユーザーが契約し たあと如何に離脱させずに維持していくかが重要だ。離脱される理由の一つとして考えられる のが、顧客がNetflixのコンテンツやサービスに飽きてしまうということだ。まずはこの切り口 から考察していきたい。Netflix が顧客を飽きさせず維持していくためには顧客の望む作品を提 供し続けなければならない。いったいどのようにしてNetflixはこの条件をクリアしているのだ ろうか。
「顧客がどんな商品を好んだか・望んでいるか」は顧客に聞くことが一番早い。同じようにネ ット上で食品配達サービスを提供するUber Eatsでは、顧客が注文した商品が良かったか・悪か ったかを評価する機能が実装されている。その情報や顧客のセグメントに基づき次回以降の注 文に向けたレコメンドが仕組みだ。
一方Netflixには顧客が視聴したコンテンツを評価する機能は実装されていない。それどころ
か、Netflixは登録の際に性別や年齢などの基本的情報も必要としない。Netflixが重要視してい るのは顧客のYes or Noの単調な意見や顧客の属性ではなく、顧客の実際の行動であるためだ。
具体的には顧客がどのような作品を見たか、どのくらいで見るのをやめたかなど顧客の行動履 歴に焦点をおいている。1億3900万のアカウントにはそれぞれ2,3人の視聴者がおり合計で4 億人分の行動履歴が収集できる計算だ。Netflixはこのデータを分析するためにAIなどの関連技 術に年間12 億ドルを支出している。これはNetflix の支出のなかでもコンテンツ投資に次ぐ金 額だ。その効果は一体どれほどのものなのか。週刊ダイアモンド2019年4/20 号によると、実 に75%の利用者がNetflixのおすすめしてきた作品を視聴している。これほどの数字が出せる のは、行動履歴から顧客一人一人の好みを判定し作品をレコメンドするだけでなく、同じ作品で あっても顧客ごとに違うキービジュアル(表紙)でレコメンドしているためだ。
上の画像は私のアカウントにおすすめされてきた画像(左)と友人のアカウントにおすすめされ てきた画像(右)。まったく同じ作品であるが異なった印象を受けるのではないだろうか。膨大 なデータから好みを割り出し、作品の視聴に顧客を導いているわけだが、ここまでNetflixが固 執するのは、コンテンツを増やしていくことのジレンマに理由がある。
顧客を飽きさせないためには顧客の望む作品を追加し続けなければならないが、選択肢が増 えれば増えるほど何もしなければ顧客が好きなコンテンツに巡り合う確率が低くなる。それは 大図書館の中から自分に合った作品を一冊手に取るようなものだ。どれだけクオリティーの高 い作品を制作し提供したとしても、顧客が視聴しなければ存在しないことと同義であり、結果と して顧客満足度の低下や最悪の場合顧客の離脱を招くのである。それを防ぐのが膨大な情報を 処理するシステムであり、精査された情報はレコメンド機能としてだけででなく次のオリジナ ル作品作成するうえでのリソースとしても活用できる。
3.6 顧客の離脱防止(2)
次はコストパフォーマンスの観点から考察していきたいと思う。どんなに良いサービスを提 供していたとしても、定期的に支払いをしなければならないサブスクリプションモデルでは、顧 客が料金を高いと感じた時点で離脱してしまう可能性が考えられるためだ。
現在の主要3サービスの料金は以下の通りだ。Netflixの料金はスタンダードプランを表示し ている。これをみるとあまり差はないとい
え、Netflixが特段安いわけではない。顧客
はこの価格設定をどうとらえているのだ ろうか。
仮説 海外のユーザー(主にアメリカ)は高いとは感じていない
私が海外ユーザーに絞り込みこの仮説を設定したのは、この論文を書くにあたり日本と海外 との市場環境が違うと感じたためである。動画配信サービスという括りの中には、様々なビジネ
Netflix Hulu Amazon Prime 日本 1200円 1007円 400円
アメリカ $7.99 $5.99 $9.91
スモデルが存在することをこの論文の最初に記したと思う。Netflix のような OTT 型のサービ スが普及する以前は、ケーブルテレビや衛星テレビなどのサービスが主流だった。日本における 有料チャンネルの普及率は50%前後であるが、アメリカでは80%を超えており、複数の有料チ ャンネルと契約する利用者も数多く存在する。これはアメリカ国内の地上波放送が充実してい ないことや、1980 年代から 2000 年代にかけて有料チャンネル各社が熾烈な競争を繰り広げて きたことが起因している。有料チャンネルのほかにもインターネットや電話などをまとめて契 約させることでアメリカ国民にとって無くてはならない存在にまで登りつめた。
一方で、これらのアメリカの有料チャンネルは複数のチャンネルまとめて契約させ平均して
月額100$以上もの価格を顧客に提示してきた。これらの企業は各地域で独占企業のような形で
成長してきたため、顧客はなすすべなく料金を払い続けてきたのである。その状況を一変させた のが、インターネットさえ通っていれば地域に関係なくサービスを利用できるOTT型のサービ スだ。つまり私がここで言いたいのは、アメリカを主とする海外ユーザーはNetflixの料金の比 較対象が他のストリーミングサービスの料金ではなく、これまで利用してきた有料チャンネル の料金であるため相対的に安いと感じているのではないかということだ。
上記の情報を踏まえて検証していきたい。2010 年までは年 1.5%の割合で利用者を伸ばして きたアメリカの有料チャンネル業界だったが年々失速し、2014年についに減少に転じた。2017 年の第一四半期には契約者数が 76 万 2000 件の減少という過去最悪の数字をたたき出した。
Netflix を始めとする動画ストリーミングサービスの普及と時期が重なるため、両者が同じ土俵
で競争していることを表している。
顧客の価格に対する感覚はNetflixがこれまでに行ってきた値上げを参考にしていきたいと思 う。これまで米国のNetflixは2014年5月、2015年10月、2017年10月、2019年1月の計四 回値上げをしている。下のグラフはそれぞれの値上げの上げ幅をしめしており、次頁のグラフは
米 Netflix の契約者数の
推移を四半期ベースで示 している。次頁のグラフ の 2017 年までの値上げ された時期を見てみると、
かなり鈍化しているもの の、辛うじて契約者数を 増 加 さ せ て い る 。 一 方 2019 年に値上げが実施 された際には Netflix が サービスを開始してから 初めて契約者数を減少さ せた。
(https://www.statista.com/chart/16684/netflix-subscription-prices-in-the-united-states/)
(https://dazeinfo.com/2019/07/14/number-of-netflix-us-streaming-subscribers-graphfarm/) この時実施された値上げは過去最高の上げ幅かつ、これまで値上げされてこなかった最も安価 なベーシックプランも対象となったため影響が大きかったようだ。米ハリウッドリポーターに よると、この値上げの影響でアメリカ国内の利用者は12万人減少している。
この顧客の反応をどう解釈すればいいだろうか。顧客数を伸ばし続けてきたNetflixにとって 12万人の減少は確かに大きな数字に思える。一方でNetflixがアメリカ国内に5800万人の顧客 を抱えていることを考えると、12万人という数字は全体の約0.2%だ。私は「高額な有料チャン ネルと契約してきたアメリカ国民にとっては、Netflix の価格設定は決して高いものではない。」
という風に考えたわけだが、これは裏を返すと「高額な有料チャンネルと契約してこなかったア メリカ人はその限りではない。」ということでもある。この場合の高額な有料チャンネルと契約 してこなかったアメリカ人というのは、親世代が有料チャンネルと契約していた若年層・ミレニ アム世代のことだ。つまり、2019年の値上げによる12万人の顧客の減少は、顧客全体が値上げ に反応したというよりは、経済的に余裕のないミレニアル世代の一部が離脱したと考えること ができる。仮説が完璧に正しかったわけではないが、値上げの影響は限定的でありアメリカ人は
現在のNetflixの価格設定を高額であるとは感じていないと結論付ける。
補足 日本のユーザーはNetflixの価格設定についてどう感じているのか
日本のNetflixユーザーは現在の価格設定についてどう思っているのかアンケート結果を記し
ておく。サンプルが私の周辺にいる80人(大半が私立大学に通う大学生)であるため、かなり経 済的な偏りが想定されるためあくまで参考扱いとする。
OTT型のサービスでは価格帯にあまり差がないため、価格だけで優位性を保つことは難しい
が、Netflix は国内外で現行するサービスと価格において、顧客から一定の支持を獲得できてい るといえるだろう。
3.7 結論
Netflix がコンテンツ制作において他を凌ぐ力を持っており、それによる集客力が高いことは
証明できたと思う。ただNetflixが顧客の離脱を防ぐという点において、他社と比べてどれほど の優位性をもっているのかは情報不足で定量的な判断はできなかったように感じる。この二点 はそれぞれ独立したものではなく、コンテンツ作成・顧客満足・情報分析・コンテンツ作成とい う好循環を生み出すことでNetflixを成長させてきた。しかし、現時点では「コンテンツ力とそ れを運用する高価なAIがすごい」という短絡的な着地点に収まってしまった。もう少しそれぞ れの下位要因について分析してみたほうがよかったかもしれない。
3.8 最後に
卒論制作するにあたり自分の好きな分野について取り組みたいと思いましたが、日本と世界 でサービスを展開するNetflixをどのように分析していくかで悩んでしまい情けない卒論になっ てしまいました。こんな僕ですが、二年間先生のもとで学ばせていただいて本当に楽しかったで す。トラウマになりかけたセブンイレブンの足跡でしたが、おかげさまで就職活動の決め手にも なりました。二年間本当にありがとうございました。
そう思う どちらともいえない そうは思わない
価格設定が安いと思う 58.3% 26.6% 15.1%
見たい作品がなくなっ てもすぐには退会しな いと思う
78.3% 6.6% 16.6%
参考文献
米Netflix
https://www.netflixinvestor.com/ir-overview/profile/default.aspx
dazeinfo
https://dazeinfo.com/graphfarm/
statista
https://www.statista.com/
映画.Com
https://eiga.com/news/20190116/22/
既存の放送メディアを揺さぶるOTTサービス
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/oversea/pdf/20160301_7.pdf
マイナビニュース
https://news.mynavi.jp/article/20190116-757246/
週間ダイアモンド 2019 4/20号
Netflix コンテンツ帝国の野望