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senpaku shototsu sekininho no kadai to tenkai

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早稲田大学大学院法学研究科

2012年5月

博士学位申請論文審査報告書

論文題目 「船舶衝突責任法の課題と展開」

申請者氏名 松

主査 早稲田大学教授 博士(法学)

(早稲田大学)

早稲田大学名誉教授 法学博士(早稲田大学) 中

早稲田大学教授 法学博士(早稲田大学) 近

早稲田大学教授 尾

早稲田大学教授 大

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2 松田忠大氏博士学位申請論文審査報告書 鹿児島大学法文学部准教授 松田忠大氏は、2011年9月2日、その論文「船舶衝突責任 法の課題と展開」を早稲田大学法学研究科に提出して、博士(法学)(早稲田大学)の学位 を申請した。後記の審査委員は、同研究科の委嘱を受けて、この論文を審査してきたが、 2012年5月7日、審査を終了したので、ここにその結果を報告する。 Ⅰ.本論文の構成と内容 (1)本論文の目的と構成 本論文は、筆者がこれまで取り組んできた船舶衝突責任に関する研究をまとめたもので ある。19 世紀以降、造船技術・航海技術の飛躍的な進歩により、航海の安全は著しく向上 しているが、他方で、船舶の高速化、大型化にともない、ひとたび船舶衝突が生じた場合 の人的ないし物的損害はかつてと比べものにならないほど甚大なものになっている。現代 の船舶衝突の特徴は、関係船主や乗組員・乗客、積荷の荷主などの利害関係者が多く、ま た、渉外関係を含むことが多いことから、複雑な法律問題を生じさせる点にある。本論文 は、このような現代における船舶衝突の実際に関する認識を前提として、わが国において 従来から論じられてきた船舶衝突法の解釈上の重要問題を再検討するとともに、アメリカ 合衆国において発達してきた特異な因果関係法則に関する判例法理の考察を通して、この 領域におけるアメリカ法の特殊性を解明し、とりわけ船舶衝突法の国際的統一という視点 から、不法行為法に基礎づけられた船舶衝突責任法の新たな展開可能性を探ることを目的 とするものである。 本論文は、第1章「船舶所有者の衝突責任」、第2章「船舶衝突における因果関係の立証 に関する一考察 ――アメリカ合衆国における特有の法理について――」、第3章「船舶衝 突により生じた損害賠償請求権の消滅時効、衝突責任の準拠法」、「むすびにかえて」によ り構成されている。なお、第2 章および第 3 章は、初出として掲げられた4つの論文と2 つの判例評釈に基づいて執筆されたものである。 (2)本論文の内容 1)第1章「船舶所有者の衝突責任」は、船舶の衝突が生じた場合にまず問題となる船 舶所有者の責任について、衝突に関与した船舶所有者間のいわば内部的な責任関係と、こ れら船舶所有者の第三者に対する対外的な責任関係が分けて論じられている。 ①本章第1節では、船舶衝突に関する船舶所有者間の責任原則について、衝突が不可抗 力により生じた場合、原因が不明である場合、一方船舶の過失による場合および双方船舶 の過失による場合のそれぞれについて、これまでの各国海法に現れた損害分担原則が紹介 されている。その上で、筆者は、わが国の商法 797 条が「比較過失原則」を採用するもの

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3 であるとする通説的見解に同調し、最も合理的かつ公平な損害分担原則であるとしている。 ②本章第2節では、第 1 節の概括的な検討を承けて、上述の類型において最も問題とな る双方過失による船舶衝突の場合における船舶所有者間の責任分担について議論を展開し ている。 第一に、商法797条と民法722条との関係が論じられている。商法 797条は、双方の過 失の軽重が判定できないときは、衝突により生じた損害を各船主が平分して負担すること を定めるにとどまっている。そこで、同条の反対解釈により、双方の過失の軽重が判定で きるときは、その過失の割合に応じて損害を分担すべきであるとする見解と、同条は過失 の軽重の判定ができない場合に民法 722条 2 項の過失相殺が機能しなくなることに対応し て設けられた規定であり、双方過失による船舶衝突における損害の分担は原則として民法 722条2項の過失相殺によって決せられるとの見解が対立している。筆者は、まずこの問題 に関する判例、学説を概観した後、民法学説に基づいて民法722 条2 項の趣旨および適用 要件を検討し、その上で、従来の海商法学説の再検討を試みている。筆者は、双方過失に よる船舶衝突の場合の多くは双方に損害が生じており、いずれもが加害者であり同時に被 害者であるという関係に立つという立場の互換性を強調しつつ、民法722 条2 項の過失相 殺における「被害者の過失」と商法 797 条が適用される場合の双方船員の過失とは同一で はないとする学説を支持しており、実質的にも、裁判所が裁量権を有する過失相殺と見る ことの不都合を指摘して、結論として、民法 722条 2 項は常に排除されると解すべきであ るとしている。 第二に、双方過失による船舶衝突から生じた損害賠償請求権の性質が論じられている。 これは、双方船員の過失による船舶衝突において、双方の船舶所有者が商法 797 条に基づ いて責任を分担するとして、この場合に2つの独立した債務が存在するとみるか(交叉責 任説)、それとも、各自の分担額を差し引いて受取勘定となる一方の船主の損害賠償請求権 のみが生じるとみるか(単一責任説)という、やはり伝統的な学説の対立がみられている 問題に関するものである。筆者は、わが国の学説および判例を概観した後、交叉責任説が 妥当であるとの結論を提示している。 ③本章第3節では、船舶所有者の第三者に対する責任を論じている。ここでの問題の中 心は、双方の船員の過失により生じた船舶衝突の場合における船舶所有者と第三者との関 係である。すなわち、こうした船舶所有者と第三者との関係においても商法 797 条が適用 され、各船主はその過失の割合に応じて責任を分担するのか、それともこの場合に商法797 条の適用はなく、一般法(民法 719 条)により各船主が被害者に対して連帯して責任を負 うのかという点である。換言すれば、商法 797 条は、責任を負うべき船舶所有者間の関係 を定めたものであるか、それともこれに限られず第三者との関係についても適用されるか という問題である。筆者は、この問題に関するわが国の判例・学説を概観した後、検討の 対象を英米の判例・学説に広げている。イギリスは、1911年の海事条約法により、1910年 の船舶衝突統一条約の内容を国内法として摂取して以来、同条約に則して船舶所有者の対

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4 第三者責任は分割責任であるとしているのに対して、アメリカは同条約を批准することな く、船舶所有者は第三者に与えた損害について連帯責任を負うものとする判例が確立され ている。筆者は、両国の立場の差異に着目してその背景にある理論状況を検討している。 第一に、筆者はイギリスの判例法理を検討する。ここでは1824年以降の特に重要な3つ の判例をとりあげ、荷主との関係についても船舶所有者は分割責任を負うとするイギリス の判例理論を分析する。まず、1910年の衝突統一条約以前の判例である1824年のHay v. Le Neve事件が、荷主に対する関係においても船舶所有者の分割責任を認めたことを確認する。 次いで、第三者との関係においても損害平分原則を適用する1860年のMilan号事件判決を 検討している。これらの判例を含むいくつかの裁判例を分析することにより、筆者は、寄 与過失法理と被害者側の過失理論といった共同不法行為に関するコモン・ロー上の原則の 適用によって生じる不合理な結果を回避する意図があったとする分析結果を示している。 その後、イギリスでは、上述の海事条約法により、第三者との関係において船舶所有者 が分割責任を負うこととされているが、その後の判例である1977年のGiacinto Motta事件 判決では、Milan号事件によって適用が排除されていた「船舶と積荷の一体化の理論(被害 者側の過失の理論)」が、荷主に対する関係では船舶所有者が分割責任を負うことの根拠と されていることを指摘している。 第二に、筆者はアメリカの判例法理を検討する。ここでは、筆者は 3 つの裁判例を取り 上げて分析を試みている。そのうえで、無過失の荷主が絶対的に保護されるべきことは、 アメリカではもはや公序になっていることを確認している。また、この問題に関するアメ リカおよびカナダの文献をとりあげ、このような判例の見解に対しては批判も尐なくない ことを指摘している。そして、特に、連帯責任を認めるべきでないとする理由としては、 運送船の一方的過失によって衝突が生じた場合には、その所有者は荷主に対する損害賠償 責任を免れることができるが、非運送船たる相手船にも過失がある場合には、運送船の過 失割合が低下するにもかかわらず、連帯して責任を負う相手船からの求償に応じなければ ならないという矛盾が生じること、また、アメリカのみが連帯責任を肯定すればいわゆる 法廷地漁りを助長することになるという考えのあることを指摘している。 第三に、以上のような英米における判例理論および学説の検討を踏まえて、筆者はわが 国の判例および学説を検討している。ここでは、まず共同不法行為制度の趣旨に触れたの ち、共同不法行為の成立要件について、民法学説の動向が、「客観的共同説」、「主観的共同 説」の対立を軸として論じられ、次いで共同不法行為の類型化ないしはその効果の類型化 に関する近時の学説を検討している。その上で、筆者は、船舶衝突が共同不法行為にあた るか否かという前提的問題を検討して、これを肯定しつつ、船舶衝突の場合の第三者たる 被害者について類型化の余地があることを示唆する。筆者は、わが国の判例および通説は、 船主の対第三者責任については民法 719 条が適用され、船舶所有者が連帯責任を負うこと を当然のこととして説くにとどまっており、民法 719 条の共同不法行為の結果としての連 帯責任に関する議論に踏み込んでいないという問題点を指摘している。また、第三者に対

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5 する関係にも商法 797 条を適用して、船舶所有者の責任を分割責任と解する尐数説につい ても、衝突条約の規定との整合性を指摘しながらこれが国際的理解にかなっていることを 主張するにとどまっている点を批判している。 この点について、筆者は、20世紀の代表的なフランスの海法学者であるRené Rodièreの、 「衝突した船舶と法律上も、事実上も結びつきを有していない第三者に損害が生じた場合 には、連帯責任を排除する理由は見いだせない」という变述に着想を得ながら、船舶所有 者と荷主との関係には、法律上も事実上も結びつきがあるので、その他の第三者とは異な る特殊な関係があることを指摘する。そして、この船舶所有者と荷主との間については、 イギリス判例の認めるように被害者側の過失理論に基づき、船舶と積荷を一体としてみる ことが合理的であると説く。筆者によれば、船舶所有者の第三者に対する衝突責任につい ては、民法 719 条を適用するという通説・判例の見解を基礎としながら、運送船上の積荷 の荷主と船主との間には運送契約に基づく密接な関係ないし一体性が認められることから、 荷主以外の第三者とくらべて被害者保護の要請は低くなるとする。そして、船舶所有者と 荷主との間には、通常は運送契約における免責約款が存在し、また、国際海上物品運送法 による航海過失免責が存在するという特殊な状況の下で一体化しているから、運送船の荷 主に対する関係では、運送船主および非運送船主の共同不法行為の成立を認めながら、か かる特殊な状況において生じる不都合(衝突船主間の求償の循環、免責約款および法定免 責の援用の問題)を回避するために、例外的に連帯責任を排除して、分割責任と解すべき であると主張する。 最後に、人的損害の取扱いについては、人道的な見地から原則通り連帯責任を肯定すべ きことを指摘している。 2)第 2 章「船舶衝突における因果関係の立証に関する一考察 ――アメリカ合衆国に おける特有の法理について――」は、ペンシルヴェニア・ルールとして知られる、アメリ カにおいて採用されている船舶衝突事件の過失と損害との因果関係を推定する法理につい て論じている。 ①本章第1節では、アメリカの判例法理として生成されてきたペンシルヴェニア・ルー ルが船舶衝突事件における合理的な立証責任原則となりうるか否かという点について、関 連する英米の研究論文およびこの原則を適用するアメリカの判例を分析している。 ペンシルヴェニア・ルールは、1874年のThe Pennsylvania事件において確立された判例法 理であり、本来は船舶衝突事件において法令違反のあった船舶はその違反が衝突の原因と はなりえなかったことを立証しない限り、当該法令違反と衝突との間の因果関係が推定さ れるとする原則であった。筆者は、まず同ルールの確立する過程、その性質と適用範囲を 検討しており、このルールが船舶衝突事件ばかりでなく、船舶の単独事故についても拡大 されてきていることを指摘する。 次いで、アメリカがかつて採用していたいわゆる損害平分原則の廃止とペンシルヴェニ ア・ルールとの関係を考察している。すなわち、1975年のReliable Transfer事件連邦最高裁

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6 判所判決によって損害平分原則が廃止され、比較過失原則の採用が宣言されたのちに、こ れとともにペンシルヴェニア・ルールが廃止されたかどうかの問題について、同判決後の 下級審裁判例を検討することにより、下級審判決が同ルールを適用し続けていること、お よび、その理由を明らかにしている。さらに、「ペンシルヴェニア・ルールは廃止されるべ きか」との問いについて、廃止論と存続論の対立を示し、最後に、国際的統一の観点から の考察、および、ペンシルヴェニア・ルールが「présomptions légales」に該当するか否かに ついて詳細な検討を加えている。すなわち、1910年の船舶衝突統一条約が排除している「法 律上の推定」にあたるか否かについて、船舶衝突統一条約制定における外交会議の審議過 程やイギリス、アメリカおよびイタリアにおける状況を考察することにより検討を加えて、 制定法ではない判例法理であっても条約の排除する「法律上の推定」になりうることを指 摘しながら、同原則が公平な責任の分配に資するものであるかは疑問として批判している。 ②本章第2節では、前節でペンシルヴェニア・ルールの適用領域が拡大していることを 示した点について、アメリカの共同海損事件に関する判例を素材として、その適用の限界

に関する検討を試みている。ここで検討されるのは、いわゆるNew Jason Clauseによりアメ

リカ合衆国海上物品運送法(US COGSA)が適用され、共同海損の分担を請求された荷主が、 その分担を拒絶するために船舶の不堪航および不堪航と共同海損との因果関係を立証しよ うとする場合に、この立証に関してペンシルヴェニア・ルールが適用される余地があるか 否かという問題に関するものである。この場合にもペンシルヴェニア・ルールが適用され るとすれば、荷主による船舶不堪航の主張があれば立証責任が転換され、運送人(船舶所 有者)が堪航能力に関する相当の注意を尽くしたことの立証以前に、船舶の不堪航と共同 海損との因果関係が不存在であることの立証責任を負担することになる。この点について、 第 5 巡回区連邦控訴裁判所は、ペンシルヴェニア・ルールは海事事件の因果関係の立証に 適用されるものではあるが、COGSAが明瞭に立証責任原則を規定している場合には、同ル ールの適用はないと判示している。ここでは、第 5 巡回区連邦控訴裁判所が判断の根拠と して引用する第 2 巡回区連邦裁判所の裁判例も検討されている。筆者はこの点について、 ペンシルヴェニア・ルールによる立証責任原則とCOGSAとの関係を検討したのち、同判決 がペンシルヴェニア・ルールの適用を排除する明確な根拠を提示していないと批判し、こ の点の検討を続けている。すなわち、ペンシルヴェニア・ルールが船舶衝突事件以外に適 用された裁判例を検討することによりその適用要件がいかなるものであるかについて分析 を加え、ペンシルヴェニア・ルールは損害賠償が不法行為に基づくものであり、かつ、損 害の分配が可能である場合に限って適用されるものであり、契約責任が問題となる場合に は適用されないという判例法理の存在を明らかにしている。 3)第3章「船舶衝突により生じた損害賠償請求権の消滅時効、衝突責任の準拠法」は、 表題にある2つの独立した問題について論じている。 ①本章第1節では、船舶衝突により生じた損害賠償請求権の消滅時効について、とりわ けその起算点の問題を扱っている。この消滅時効については、商法 798条1 項が、損害賠

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7 償請求権は 1 年の消滅時効にかかるとの特則を定めながら、その起算点を明示していない ことからこれまでも議論がなされてきた。これについて、近時、最高裁判所平成 17 年 11 月21日判決が現れ、その是非を巡って大いに論じられているところである。筆者は、まず 先例となる裁判例および従来の学説状況を明らかにしている。わが国のこれまでの学説は、 理論構成を異にしながらも、結論としては、船舶衝突の時を起算点とみる点でほぼ一致を みていた。これは、1910年の船舶衝突統一条約が明文で規定するところとも一致していた。 しかし、同判決は、商法に規定のない以上は民法 724 条が適用され、その起算点は、船舶 の衝突時ではなく、被害者が損害および加害者を知った時であるとした。筆者は、従来の 学説を踏まえつつ、この場合の起算点については民法 724 条によるべきではないとして判 旨を批判する。とりわけ、最高裁判決が被害者保護を意識していると思われる点を指摘し ながら、被害者保護の問題は時効の起算点の問題ではなく期間の問題として考慮すべきで あると批判する。また、学説の分かれている起算点を衝突時とする理論構成としては、民 法166条1項に依拠する学説を否定して、商法798条1項の立法趣旨および文理から導か れるものとしている。 ②本章第2節では、公海上で国籍の異なる船舶が衝突した場合の、衝突責任の準拠法に 関する問題を検討している。この問題は、船舶衝突が不法行為の問題を生じさせるところ、 公海という不法行為地に適用される法が存在せず、旧法令11条による解決が困難となる特 殊な問題としてこれまでも議論がなされてきたものである。まず筆者は、衝突責任の準拠 法に関するわが国の判例・学説を概観した後、これに検討を加えている。筆者は、「被害者 旗国法説・加害者旗国法説」、「旗国法累積(重畳)適用説」を中心に各学説を検討し、そ のいずれもが問題点を抱えていることを確認する。その上で、船主責任制限の準拠法につ いて、いわゆる同則主義および異則主義の対立を検討している。そして、結論として、公 海上における異国船籍船舶間の衝突は、法適用通則法17条が規定する結果発生地主義が機 能しない場合であり、法廷地法を適用すべきとする説(法廷地法説)を支持せざるを得な いと結論づけており、これが1977年の万国海法会による「海上衝突事件における民事裁判 管轄、法選択、判決の承認および執行に関する条約草案」4 条の規定、さらにはイギリス、 アメリカの理解ともおおむね合致していることを指摘する。 ③本章第3節では、船舶衝突の準拠法決定と裁判管轄権の制限を扱っている。これは、 前節において公海上における異国船籍船舶の衝突責任を規律する準拠法として、法廷地法 説に従うべきとした点を承けて、この説について指摘されるいわゆるフォーラム・ショッ ピング(Forum shopping)の回避策について検討するものである。筆者は、法廷地法説を採 用するためには法廷地漁りの弊害を回避することが不可欠であるとの認識の下で、公海に おける船舶衝突事件の裁判管轄権について、主としてアメリカの動向を検討し、特にフォ ーラム・ノン・コンヴェニエンスの法理の適用を考察している。フォーラム・ノン・コン ヴェニエンスの法理は、訴訟が提起された裁判所以外の裁判所で、事件がより適切に審理 されると考えられる場合には、他の裁判管轄を有する裁判所の存在を前提に、裁判所は本

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来有する管轄権の行使を裁量によって差し控えることができるとする原則である。筆者は、

1947年のGulf Oil Corp. v. Gilbert事件連邦最高裁判所判決がフォーラム・ノン・コンヴェニ

エンスの法理について示したいわゆるGilbert基準を紹介し、この基準に従う海事裁判例を 検討している。その上で、さらに同基準が公海での異国船籍船舶間の衝突事件について適 用されたアメリカ裁判例について検討を加えている。その結果、アメリカにおける船舶衝 突事件でのフォーラム・ノン・コンヴェニエンスの法理の適用について、(1)公海上の船舶 衝突を含む海事事件におけるフォーラム・ノン・コンヴェニエンスの法理の適用は Gilbert 基準によって判断され、(2)原告がアメリカ合衆国国民または居住者であることはフォーラ ム・ノン・コンヴェニエンスの法理の適用を妨げないが、アメリカ合衆国の法廷において アメリカ合衆国国民が原告として訴えを提起した場合の原告の法廷地選択は、外国人原告 によってアメリカ合衆国の法廷地が選択された場合よりも尊重されると解されていること を指摘する。最後に、筆者は、船舶衝突事件におけるGilbert基準の適用について考察し、 アメリカの5つの裁判例から、船舶衝突事件において考慮されたファクターを抽出すると して、証人の所在地などの私的ファクターと法廷との関連性、効率性などの公的ファクタ ーに分類して、あわせて12のファクターを掲げて分析を加えている。すなわち、私的ファ クターとしての、(1)証人の所在およびその証人を合衆国の法廷に出頭させられるかどうか、 (2)証人召喚のための費用、(3)翻訳の負担に関連した人証および書証に用いられている言語、 (4)外国法解釈に伴う当事者の負担、また公的ファクターとしての、(1)法廷との関連性が希 薄な場合は紛争が生じた地で解決されるべきこと、(2)外国法の適用とその解釈の問題、(3) すでに外国の法廷で同様の訴訟が遂行されているなどの訴訟遂行の効率性、(4)裁判所の 混雑の問題、(5)翻訳・通訳についての法廷の負担、(6)当事者と法廷との関連性、(7)陪審義 務、(8)訴訟と衝突が生じた地域の住民との関連性である。 以上の検討を踏まえ、筆者は、法廷地漁りを回避するためのわが国における方策につい て指摘している。ここでは、最高裁平成9年11月11日判決が、「わが国で裁判を行うこと が当事者の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認め られる場合には、わが国の国際裁判管轄権を否定すべきである」として「特段の事情」に よる修正を認めていること、また、平成23年改正民事訴訟法3条の9の規定を踏まえれば、 わが国においても適切かつ妥当な裁判管轄権の制限を行うことにより、公海における異国 船籍船舶の衝突責任の準拠法を法廷地法と解しても、法廷地漁りの弊害を回避することが 可能であるとする。しかし、Gilbert 基準が参考になるとしながらも、いずれのファクター をどの程度考慮すべきか、および、公海上の異国船籍船舶間の衝突事件について固有のフ ァクターを見いだすべきかについては、さらなる検討事項であるとしている。 Ⅱ.本論文の評価 本論文は、船舶衝突における船舶所有者間の責任、船舶所有者の第三者に対する責任と

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9 いう基本問題を含め、船舶衝突法に関する多岐にわたる重要な論点を扱っている。 第1章の中心は、船舶所有者の第三者に対する責任分担に関する研究である。2隻の船舶 が双方の過失により衝突して第三者に損害が生じた場合、両船舶の船舶所有者の責任関係 については、連帯責任とみる通説と分割責任とみる尐数説の対立があるところ、筆者は、 民法 719 条適用の当然の結果とする通説の理由と、衝突統一条約との整合性から国際的理 解に合致するという尐数説の理由について、いずれも形式的な理由を示すにとどまり不十 分であると批判する。その上で、フランス学説から示唆を受けつつ、近時の不法行為法に 関する民法学説の動向を踏まえて、無過失の第三者であっても保護すべき程度が異なり、 特に運送人と法律上も事実上も結びつきを有する積荷の荷主との関係では、例外的に分割 責任と解すべき余地があるとする独自の新しい見解を提示している。筆者は、ここでイギ リスおよびアメリカの判例・学説を分析して、19 世紀のイギリス判例がいわゆる損害平分 原則を採用しながら船舶所有者の分割責任を認めている点を詳細に検討し、この結果は、 寄与過失法理と被害者の過失理論といった共同不法行為に関するコモン・ロー上の原則の 適用によりもたらされる不合理を回避する意図があったものと分析している。そして、損 害平分原則が廃止された後、条約に基づき船舶所有者の分割責任を認める今日のイギリス では、かつて排除された被害者の過失理論に基づく「船舶と積荷の一体化の理論」が、む しろ荷主に対する分割責任の理論的根拠となっていることを指摘し、このことは、民法719 条の効果としての連帯責任の成立ないしその範囲を制限的に解する近時の学説の展開を踏 まえ、わが国における問題解決の検討に際しても参考になるとして自説を周到に補強して いる。このような解決が可能であれば、筆者も指摘するように、運送船主が自船の荷主に 対して運送契約上の免責約款または法定の免責事由で対抗できる場合に、荷主が連帯責任 を負う相手船主(非運送船主)に全額の損害賠償を請求した場合に生じる困難な問題を解 決することができる。本論文は、双方過失の衝突における船主の対第三者責任が連帯責任 であるか、分割責任であるかの問題について、前述のようなわが国の学説に強く反省を迫 るとともに、この免責約款等の援用をめぐる難問の解決を視野に入れた新たな理論の展開 可能性を独自の視点から示すものとして、高い学術的価値を認めることができる。 第2章は、船舶衝突法の領域で独自の姿勢を堅持しているアメリカについて、とりわけ 「船舶衝突事件において法令違反のあった船舶はその違反が衝突の原因となりえなかった ことを立証しない限り、当該法令違反と衝突との因果関係が推定される」とする特異な原 則(ペンシルヴェニア・ルール)について詳細な研究を行っている。筆者はここで、それ ぞれ20 点を超える関係判例と研究論文、さらに1910年条約の外交会議議事録などを詳細 に検討して、①アメリカが1975年まで採用していた損害平分原則とペンシルヴェニア・ル ールとの関係、②比較過失原則を採用した後におけるペンシルヴェニア・ルールの意義と 問題点、③国際的統一の観点からペンシルヴェニア・ルールが船舶衝突統一条約により排 除されている「法律上の推定(présomptions légales)」に該当するか否か、④同原則の船舶 衝突事件以外の事件への拡大とその限界などについて、綿密な分析結果を提示している。

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10 本論文は、ペンシルヴェニア・ルールを素材としながらも、この領域の国際的統一を実質 的に阻害しているともいえるアメリカの船舶衝突法全体の特異性を浮き彫りにすることに 成功しており、本論文は、この点を最も詳細かつ具体的に論じる研究論文として貴重であ るほか、条約制定から 100 年を超えた新たな時代の船舶衝突法のあり方を模索するという 筆者の一貫した問題意識のあらわれた優れた作品であるといえる。 第3章はいくつかの問題を扱うが、その中心は、公海上における異国船籍船舶の衝突に 関する衝突責任の準拠法に関するものである。筆者は、第2節においていわゆる法廷地法 説を支持すべきであるとの結論を導いた上で、同説に対する批判として指摘される法廷地 漁り(Forum shopping)を回避する可能性を検討するため、第3節においてアメリカ判例の

詳細な検討を試みている。筆者は1947年のGulf Oil Corp. v. Gilbert事件連邦最高裁判所判決

がフォーラム・ノン・コンヴェニエンスの法理について示したいわゆるGilbert基準を詳細 に検討してその法理を明らかにした後、さらに同原則が船舶衝突事件について適用された 事例を網羅的に検討し、そこからフォーラム・ノン・コンヴェニエンスの法理の適用に際 して実際に考慮されている12の要因を導き出して、これらを私的ファクターと公的ファク ターとに分類して提示している。その上で、わが国の平成9年11月11日最高裁判所判決や 平成23年改正民事訴訟法3条の9を踏まえて、これらのファクターがわが国においても有 効に考慮される可能性を指摘している。最高裁判決にいう「特段の事情」および民訴法 3 条の 9 にいう「特別の事情」が、船舶衝突事件においていかに解されるべきかという重要 な問題について、本論文によるアメリカ判例の詳細な分析が今後の議論に大きく貢献しう ることは明らかであるといえよう。第 2 節の基礎となる判例評釈は、すでに船舶衝突責任 の準拠法に関する研究において必ず引用される文献となっているが、これを発展させると ともに、さらに国際裁判管轄権の判断についてGilbert基準の応用可能性を提示する本論文 は、この領域における今後の研究の展開可能性を予感させる重要な文献といえる。 以上のように、本論文は、船舶衝突法に関する多様な問題について、この領域における 今後の研究の出発点とその方向性を明確に示しているという点において、その学問的な重 要性は明らかである。船舶衝突法は、民法、商法、国際私法、国際民事訴訟法などの学際 的な領域であるが、研究の初期段階から果敢にこれらの幅広い問題に取り組んできた筆者 の研究姿勢と知見の高さは、今後の大きな成果を期待させるものである。特に、この分野 でのまとまった研究は、1931 年の山戸嘉一『船舶衝突論』、1949 年の小町谷操三『船舶衝 突法論』以来、半世紀以上みられなかったところ、本論文はこの空白を埋めるとともに、 さらに新しい時代の船舶衝突法を描くという一貫した視点に基づく研究として、国際的に 調和のとれた船舶衝突法制の整備が不可避となっている今日、とりわけ貴重なものである といえる。 しかし、本論文にもいくつかの問題点を指摘する必要がある。まず、冒頭の第1章に短 い第1節と第2節が置かれ、「船舶所有者の責任原則」と、「双方過失による船舶衝突の責 任原則」について、わが国の判例・学説が整理され筆者の見解も示されているが、これら

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11 は分量も僅かであり内容も概説の域にとどまっている。これは1冊の書籍にまとめる構想 において体系的バランスを考慮して新たに書き下ろされたものと思われるが、重要な論点 をそれぞれ独立の節として掲げながら概説で済ませることは、尐なくとも学位論文の体裁 としては疑問であり、むしろこの部分は不要だったといえよう。 また、本論文は、必ずしも読みやすい論文とはいえない。特に第 2 章では、相当数のア メリカの判例・研究論文が紹介・検討されているが、第1節ではペンシルヴェニア・ルー ルの検討の中に前提となる損害平分原則の検討が割り込んでいたり、同第 2 節では、検討 が深化し対象も絞られていくのに反して、より包括的・一般的な見出しが付されていたり、 検討の筋道が追いにくい箇所がみられる。章の全体的な構成や整理に工夫をすれば、読者 にとってより理解しやすいものとなったであろう。 さらに、筆者自身が指摘していることではあるが、双方船主の対第三者責任について、 第三者の中でも荷主を特別に扱うとの主張や、Gilbert 基準から導かれるファクターのわが 国への応用については、まだその可能性を示唆するにとどまっており、今後のさらなる検 討の余地が多く残されている。 もっとも、これらの点は、いずれも本論文の学術的価値を損なうものではなく、むしろ 若い筆者の今後の課題とすべきものといえる。 Ⅲ.結 論 以上の審査の結果、後記の審査委員は、本論文の提出者が博士(法学)(早稲田大学)の 学位を受けるに値するものと認める。 2012年5月7日 審査員 (主査)早稲田大学教授 博士(法学)(早稲田大学) 箱 井 崇 史 早稲田大学名誉教授 法学博士(早稲田大学) 中 村 眞 澄 早稲田大学教授 法学博士(早稲田大学) 近 江 幸 治 早稲田大学教授 尾 崎 安 央 早稲田大学教授 大 塚 英 明

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