1 これまでの歩みから
(1) 社会情勢から
新型コロナウィルスの影響により,特に特別支援教育 を必要とする子供たちを取り巻く環境は著しく変化し ている。このことで子供たちの生活も変化せざるを得な い状況におかれた。実際に,これまで感情表現の一種と してハイタッチやペアストレッチなど言語表現の代替 として,フィジカルコンタクトを他者とのコミュニケー ションを図る方法として指導してきたが,現在では行え ないなど,身に付けた知識や技能が使用できなくなった 例もたくさんある。一方で,GIGAスクール構想によ り,PC端末がこれまで以上に生活に密着したアイテム へと変化している時代でもある。文部科学省は「これま での実践とICTのベストミックスを図っていくこと により,多様な実態の子供たちに公正に個別最適化され た学びや創造性に富む学びを産み出す可能性を秘めて おり,特別な支援が必要な子供たちの可能性も大きく広 げるものになる。」としている。そこで,子供たちにお ける生活を現在,そして今後という視点で検討し,子供 たちの可能性を引き出すためのカリキュラムの編成を 行いながら,これからの授業像を新たに追究していく必 要があると考える。
(2) 特別支援教育の情勢から
特別支援学校学習指導要領の改訂では,その総則にお いて,「単元や題材などの内容や時間のまとまりを見通 しながら,児童又は生徒の主体的・対話的で深い学びの 実現に向けた授業改善を行うこと」が新たに規定されて いる。これは,丹野
(2019)が指摘する「子供の障害の状 態や発達の段階,及び学習状況は様々であり,学習活動 を成立させることが目標となりがちである。」としてい る課題に対するアプローチになるものだと考える。ここ で述べられていることは,主体的・対話的で深い学びと は,1単位時間の授業の中で全て実現されるものではな く,学習内容の有機的なまとまりの中で実現していくも のだということである。そこで,意味のある学習のまと まりを発達段階や内容の系統性を視点に組織化してい くことが必要である。そのためには,子供の発達の状況 を誰もが理解できる状況を整えていくことや明確な基 準に基づいて個の実態を捉え,効果的だった支援の記録 を積み重ねていくなどの手立てが必要である。これは,
福岡県の特別支援教育の課題にも挙げられている,「学 びの連続性」を子供に保障していく上でも,確固たる基 準を示さなければならない。
その際留意しておかなければならないことは,各教科 の本質である「見方・考え方」を働かせることである。
「見方・考え方」とは,各教科等の本質に応じた物事を 捉える視点や考え方であり,学習内容と子供の生活や身 の回りの社会とをつなげる重要な役割を担うものであ る。そこで,各教科等の本質に応じた見方・考え方を働 かせることのできる学習場面を計画的に位置付けなが ら,得られた知識を関連付けたり,問題を見いだして解 決策を考えたりする学習活動の構成の仕方について追 究していく必要がある。
(3) 本校の実態から
本学級では,これまでに子供たちにとって必要な資 質・能力を設定し,未来社会における生活に視点をあて た授業づくりを追究してきた。その中で,子供が学習対 象と積極的に関わり合うための教材化や題材開発を実 施してきてきた。年度末に実施した保護者アンケートに おいては,子供たちは学校が大好きであり,学習への意 欲も概ね高い状況にある。これは,子供の実態把握から 学習材を選定し教材化を図ってきたことや,個別の指導 計画から子供の学習内容を設定してきた成果であると 考える。一方で,学校での学びを学校外で活かしている という報告を受けるのは一部であり,未だに学びを十分 に他の生活場面に転用したり般化したりしているとは 言い難い一面がある。また,同じ障害種であっても異な る特性が見られる場面もあり,個の実態として把握して いく必要があるが,担当の教師の見取りに依存する部分 が大きいため,実態と支援が適切に対応しているのか判 別する材料が不足しているといった指導面に関する課 題も見られた。このようなことから,以下に示す3つの 方法で学びと生活を関連づけていくように考えた。1つ は,子供が学習で得られた知識を活用したり,関連付け たりする生活場面を具体的に設定すること。2つは,子 供自身が何を学んだのかという学習としての評価を自 覚させていくこと。3つは,個別の教育支援計画や個別 の指導計画の内容を再検討していくこと(学習のための 評価)である。このことは,これまでの生活から大きく 変化する今において,子供たちに必要な資質・能力を明 確にし,具体的な生活場面でどのように関わっていくも のなのか教師と子供で共有することができるものであ る。以上のことから,子供たちにおける評価活動を充実 させることで,子供たちの実態の捉え方を定義し,どの ように学習活動に結び付けていくことができるのかを 追究していくことが本年度の重点としていく。
2 研究構想について
(1) 研究構想図
(2) 研究構想の概要
◯ 目的
自分のできることを活かしながら,生活の質的改 善を図っていくために,自発性,自己発揮性,成就 性の資質・能力を育成する方法をアセスメント・カ リキュラム・授業の視点から追究していくこと
◯ 方法
子供の生活経験や発達段階,認知特性をアセスメ ントに基づいて,個別の指導計画や授業を構成した り,般化を目指す場面を具体的なパフォーマンス場 面を設定することができるカリキュラムを編成し た上で,子供に応じたスモールステップのある授業 づくりを行ったりすることで,子供が資質・能力を 発揮していくことができるようにすること
3 主題について
(1) 生活への関わりを広げる子供
生活とは,1人1人の子供にとって意味のある生活行 為の集合体のことである。生活行為は,「遊ぶ」「暮ら す」「働く」と3つに類別することができる具体的な活 動のことである。具体的には,「遊ぶ」においては,遊 具遊びや鬼遊び,または読書やゲーム,行楽施設での活 動などが該当する。これらは将来的に子供達の余暇活動 の充実させることに繋がっていくものである。 「暮らす」
においては,衣服の着脱や食事の準備・後片付け,物の 整理整頓等が該当する。これらは身辺の自立に繋がって いくものである。「働く」においては,所属する集団に おける役割の遂行や登校,清掃活動等が該当する。これ らは就労に繋がっていくものである。このように,生活 行為は,主に家庭,学校,地域の3つの場面で構成され ているものである(図2)。生活への関わりを広げる子供 とは,生活行為を実行する場面や対象を増やしていく子 供のことである。新たな人や未知なもの,経験したこと
のない出来事,または既知ではあるが関わり方が把握で きていない事柄等に対して,自分のできることを発揮し て自ら働きかけたり,働きかけられても適切に対応した りし,多様な関わり方を構築していくことができること を目指すものである。
人間は本来好奇心にあふれた生物であるが,闇雲に挑 戦した結果,失敗の経験が積み重なり,自らの好奇心に 自制をかけることもある。しかし、適切なステップを踏 むこと,または,今できることを活かしていくことによ り,挑戦したことに対する成功体験を積み重ねていくこ とが容易になり,このような経験が生活の質的向上に繋 がるものと考える。そのために,子供たちには,初めて 出合う対象に興味をもつことや自分のできることを活 かそうとすること,また,それらの行為に取り組んだ自 分自身のことを大切に思うことができる資質・能力が生 活の質的改善に繋がっていくものと考える。そこで,私 たち指導者は,特別な支援が必要な子供たちが学校とい う環境において,新たな対象との関わりを広げていくこ とができるきっかけを,子供たちに提供していく方法を 模索していかなければならないものと考える。
(2) 育成すべき資質・能力
【図1 研究構想図】
【図2 生活の定義】
① 自発性
自分から身の回りの対象に働きかけようとす る意欲や,粘り強く関わっていこうとする意思 など心の統制に関わる資質・能力である。
② 自己発揮性
経験や情報を統合し,知識化を図るものや獲 得している知識を対象や場所を変えたりする中 で活用しようとすることなど,対象への働きか け方に関する資質・能力である。
③ 成就性
自分の行動に対する充実感や達成感,自己肯
定感を味わうなど感受性に関わる資質・能力で
ある。
Dalam dokumen
未来社会を創造する主体を育成する カリキュラム・マネジメントⅡ
(Halaman 142-160)