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化学と生物 Vol. 55, No. 8, 2017

γ - ヘキサクロロシクロヘキサン( γ -HCH )分解遺伝子を導入したカボチャ毛状根の作出

実用的な残留性有機汚染物質( POPs )ファイトレメディエーション植物の創出に向けて

残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants: 

POPs)は,環境中での残留性や生物への蓄積性,長距 離移動性,生物への高い毒性,という性質をもつ有機ハ ロゲン化合物の総称であり,ダイオキシン類やポリ塩化 ビフェニル(PCB),DDTなどはその代表である.国際 条約「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条 約」(1)が締結され,POPs廃絶・削減に向けた国際的な取 り組みが継続的に進められているが,農作物や飲用水へ の残留,POPsで汚染された食物の摂取に起因する母乳 のPOPs汚染は,世界中で深刻な問題となっている.

POPsにより広範囲に汚染された土壌の環境修復の方 法について,土壌の入れ替えや洗浄などの物理化学的な 処理は,莫大なコストがかかるため現実的とはいえな い.一方,植物を利用した環境汚染物質の浄化(ファイ トレメディエーション)は,現場の土壌機能を維持しつ つ,簡便かつ低コストで広範囲の浄化が可能であること から,POPs汚染土壌の修復には最適な方法として期待 されながらも限定的な利用にとどまっている.POPs汚 染土壌のファイトレメディエーション技術を確立するた め解決すべき大きな問題が2点ある.第一に,一般的に POPsのような疎水性の高い有機化合物は植物の根に強 力に吸着し,植物の地上部へはほぼ移行しない点と,第 二に,植物にはPOPsを効率良く分解できる酵素が存在 しない点である.つまり,仮に土壌からPOPsを効率良 く吸収できたとしても,POPsがそのままの形で体内に 残存する限り,その処分に対するコストが問題になる.

第一の問題を解決するため,われわれはカボチャに着目 した.ウリ科植物のなかでも,特にカボチャ属は土壌か ら吸収したPOPsを茎葉部に移行する能力が高いことが 知られており(2),POPsのファイトレメディエーション への応用が期待される.第二の問題への対処として,

POPsを特異的に分解できる微生物からPOPs分解遺伝 子を単離してカボチャに導入できれば,POPsの吸収・

分解を同時併行して行う,実用的なファイトレメディ エーション植物が創出できると考えた(補足:POPs分 解菌を直接現場の土壌に添加しても,温度やpH,土壌 微生物相などの環境要因によりPOPs分解菌の生育が安 定せず,十分な結果が得られないケースが多いことが知

られている).

γ-ヘキサクロロシクロヘキサン(γ-HCH,別名リンデ ン)は,日本においても農薬や殺虫剤,医療用など広い 分野で使用されていた天然には存在しない有機合成化合 物だが,生物への毒性や環境への残留性などから,1970 年代に使用などが規制された.2010年には化審法に基 づく第一種特定化学物質に指定され,製造・輸入・使用 が事実上禁止され,2011年には異性体であるα体,β体 とともに新規POPsとして指定されている.日本におい て残留または保管されているγ-HCHの量は76,000 tにも 及ぶという試算がある(3).このγ-HCHを完全に分解する 細菌  UT26株は日本で最初に単 離され,長年にわたる詳細な解析からγ-HCHの分解経 路およびγ-HCH分解酵素群が解明されている(4).そこ で,われわれは新規POPs分解植物のモデルとして,

γ-HCHの初発分解を担うデハロゲナーゼであるLinAを コードする のカボチャへの導入を試みた.

われわれはすでにニホンカボチャ(

)の形質転換系の開発に成功していたが(5),カボ チャの形質転換個体を作出するには多くの時間を要する ため,迅速な遺伝子機能解析には不向きであった.そこ で,培養細胞の一種である毛状根に着目した(図1 毛状根とはリゾビウム属の一種である

に感染することで誘発され,植物ホルモン無 しに旺盛に増殖する.カボチャでは比較的短期間に

(1〜2カ月)形質転換毛状根を作製することが可能で

図1カボチャ( )の毛状根

の感染に伴い誘導される不定根の一種 であり,培養細胞として液体・寒天培地どちらでも維持が可能で ある.1〜2カ月という短期間で作出でき,遺伝子組換え体の作製 も可能である.

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あった.あらかじめ植物に最適なコドン頻度に改変した

( と呼ぶ)を導入した形質転換カボチャ毛状 根を作製し,γ-HCH分解能を検証した(6).しかし,当初 の転写は確認されたものの,LinAタンパク質は 検出されず,γ-HCHの分解も認められなかった.この 理由としてLinAタンパク質の量が非常に少ないか,ま たはLinAタンパク質が細胞質で速やかに分解されてし まうからだと推測した.そこで,細胞内での分解を避け るため,LinAに小胞体輸送シグナルペプチドを付加す ることでLinAを細胞外へ局在させたところ,LinAタン パク質の蓄積が確認され,γ-HCHの分解も認められた.

また,γ-HCHの代謝物である1,2,4-トリクロロベンゼン も検出され,LinAがカボチャの細胞で機能しているこ とが証明された.1 ppmの濃度で培地に添加したγ-HCH の約90%が1日で分解されるという非常に高い分解効率

が得られ,微生物の遺伝子を植物で発現させてPOPsを 分解させることに初めて成功した.HCHを特異的に分 解する酵素を導入した環境浄化に利用可能なウリ科植物 は,われわれの知る限りほかに例がなく,この解析によ り得られる知見は,実用的なPOPs分解植物の創出に向 け大きな寄与を果たすと確信している.

今後の展望として,LinAにより代謝されたγ-HCH代 謝産物のさらなる代謝・無毒化やHCH異性体の分解が 挙げられる.現在HCH分解遺伝子群を導入したカボ チャ植物個体を作製しており,HCH類汚染土壌の浄化 能力を詳細に検証する予定である(図2.また,ほか のPOPs分解遺伝子の利用も考えられる.たとえば,

DDTの変換により生じるDDEについては,DDE分解 遺伝子群がすでに単離されている(7)ほか,日本でもしば しば土壌残留が問題となるPOPsのヘプタクロルやドリ ン類については分解遺伝子の探索が続いており,これら の成果が期待される.このような新規機能を付加した植 物は,遺伝子組換え技術を高度に活用した結果として得 られるものである.残念ながら遺伝子組換え技術につい ていまだに懸念をもつ方もおられるが,POPsのファイ トレメディエーションによる環境負荷軽減や,高度な機 能性を有する遺伝子組換え農作物など,遺伝子組換え技 術を用いるメリットを知ってもらうことによって,本技 術の理解が進むものと考えている.

謝辞:本研究は農林水産省「新農業展開プロジェクト(GMB-0002およ びGMB-0004)」の一環として行われました.この場を借りて御礼申し上 げます.

  1)  環境省:POPs(Persistent  Organic  Pollutants:  残留性有 機汚染物質).http://www.env.go.jp/chemi/pops/.

  2)  大谷 卓:化学と生物,49,474 (2011).

  3)  J.  Vijgen,  P.  C.  Abhilash,  Y.-F.  Li,  R.  Lal,  M.  Forter,  J. 

Torres,  N.  Singh,  M.  Yunus,  C.  Tian,  A.  Schäffer  :  , 18, 152 (2011).

  4)  Y.  Nagata,  R.  Endo,  M.  Ito,  Y.  Ohtsubo  &  M.  Tsuda: 

76, 741 (2007).

  5)  Y. Nanasato, K. Konagaya, A. Okuzaki, M. Tsuda & Y. 

Tabei:  , 30, 1455 (2011).

  6)  Y.  Nanasato,  S.  Namiki,  M.  Oshima,  R.  Moriuchi,  K. 

Konagaya, N. Seike, T. Otani, Y. Nagata, M. Tsuda & Y. 

Tabei:  , 35, 1963 (2016).

  7)  A. T. P. Nguyen, T. T. H. Trinh, Y. Fukumitsu, J. Shimo- daira, K. Miyauchi, M. Tokuda, D. Kasai, E. Masai & M. 

Fukuda:  , 116, 91 (2013).

(七里吉彦*1,田部井 豊*2,*1 森林総合研究所森林バ イオ研究センター,*2 農業・食品産業技術総合研究機 構生物機能利用研究部門)

図2LinA導入カボチャによるγ-HCHの分解・無毒化

(a)LinA導入カボチャにより,土壌のγ-HCHは地上部に効率的に 吸収・移行される.体内に吸収されたγ-HCHはただちにLinAに より1,2,4-TCBに分解される.(b)γ-HCHはLinAにより不安定な 1,4-TCDNを経て,自発的に1,2,4-トリクロロベンゼン(1,2,4-TCB)

に変換される.1,4-TCDNを代謝するLinBなど,UT26株由来の Lin酵素群を導入することにより,γ-HCHのさらなる代謝・無毒 化が期待される.

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化学と生物 Vol. 55, No. 8, 2017 プロフィール

七里 吉彦(Yoshihiko NANASATO)

<略歴>2000年姫路工業大学(現兵庫県 立大学)工学部応用化学科卒業/2005年 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエ ンス研究科博士後期課程研究指導認定退 学/同年博士(バイオサイエンス)授与/

2015年森林総合研究所 森林バイオ研究セ ンター主任研究員,現在に至る<研究テー マと抱負>スギなど有用樹木におけるゲノ ム編集技術の確立<趣味>ジョギング,

(子供と一緒に習い始めた)ピアノ,ラジ オ英会話の視聴<所属研究室ホームペー ジ>https://www.ffpri.affrc.go.jp/ftbc/

research/sosikisyoukai/baio.html

田部井 豊(Yutaka TABEI)

<略歴>1985年宇都宮大学農学部農学科 卒業/同年野菜試験場/1992年農業生物 資源研究所へ異動/1997年農水省農林水 産技術会議事務局先端産業技術研究課へ配 属/2000年農業生物資源研究所へ異動,

現在に至る<研究テーマと抱負>葉緑体形 質転換植物による有用物質生産,レギュラ トリーサイエンス<趣味>音楽鑑賞,オー ディオ

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.529

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