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がん抑制タンパク質 p53 の液滴形成現象の発見

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www.tohoku.ac.jp

2020年1月16日 報道機関 各位

東北大学多元物質科学研究所

【発表のポイント】

・がん抑制タンパク質p53が、機能を保持した状態で、液滴状のミクロンサイズ の会合体1を形成することを発見

・液滴状会合体の形成と崩壊によるp53の機能調整メカニズムを提案

・p53は液−液相分離を利用し、がん抑制の機能を制御している可能性

【概要】

東北大学多元物質科学研究所の鎌形清人准教授、高橋聡教授、永次史教授、お よび産業技術総合研究所人工知能研究センターの亀田倫史主任研究員らの研究 グループは、がん抑制タンパク質 p53 が液滴状の会合体を形成することを発見 し、液滴状の会合体により機能を調整する仕組みを提案しました。

がん抑制タンパク質p53は、標的となるDNAに結合し、細胞周期の停止、損 傷したDNAの修復、およびアポトーシス(プログラムされた細胞死)を引き起 こし、細胞のがん化を抑制します。これまでに、p53は、4量体を形成し溶液中 に分散した状態で機能しますが、不可逆的な凝集によって、その機能が失われる ことが知られていました。しかし、この分散状態や固体様の凝集体とは異なり、

液体の性質を持つ会合体へのp53の関与は余り明らかにされていませんでした。

研究グループは、生物物理学的な手法を用いて、p53が液滴状のミクロンサイズ の会合体を形成することを発見しました。これは、p53が、溶液中に溶けて分散 した相と密に集合した相に分離する、液−液相分離現象と考えられます。また、

p53の液滴形成には、特定の立体構造を取らない天然変性領域間の結合が関与す ることを明らかにしました。液滴状の会合体を経験した p53 は、その機能を保 持していることが分かりました。さらに、p53 の液滴形成の促進および崩壊は、

様々な生体分子や p53 への翻訳後修飾によって、制御されていることが明らか となりました。以上より、p53 は液−液相分離を利用し、がん抑制の機能を制御 している可能性が示されました。

本研究成果は、2020 年 1 月 17 日(英国時間 10 時)に英国科学誌 Scientific

Reports(オンライン版)に掲載される予定です。また、本研究は、科学研究費助

成事業、および産総研-東北大マッチング事業の支援を受けて、実施されました。

がん抑制タンパク質 p53 の液滴形成現象の発見

― がん抑制機構の解明に期待 ―

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【研究背景】

がん抑制タンパク質p53は、ゲノムの守護神と呼ばれ、ゲノムDNA上の特定 の部位に結合し、下流の遺伝子の発現を制御します。そして、細胞周期の停止、

損傷したDNAの修復、およびアポトーシスなどを引き起こし、細胞のがん化を 抑制しています。ヒトのがん細胞の約50%において、p53遺伝子の変異が原因で あることが知られています。p53は、4量体を形成し、溶液中に分散した状態で 標的DNAに結合し、機能します。一方で、p53が固体様に凝集すると、機能で きなくなります。しかし、これらの分散状態や凝集体とは異なり、液体の性質を 持つ会合体へのp53の関与は余り明らかにされていませんでした。特に、p53が 核内構造体である PML ボディ2やカハールボディ3(液体の性質を持つと考 えられる)に取り込まれることは報告されていましたが、p53が単独で液滴状の 会合体を形成するか、さらには、液滴形成は p53 の機能に関与するかは明らか にされていませんでした。

【研究の成果】

研究グループは、まず、微分干渉顕微鏡や光の散乱計測を用いて、p53が液滴 状の会合体を形成するかを調べました。様々なpHや塩濃度などの溶液条件を変 えて実験を行ったところ、中性及び弱酸性の条件において、p53がミクロンサイ ズの球形の会合体を形成することが分かりました(Fig. 1a)。また、複数の会合 体が接触した後に融合し 1 つの大きな会合体を形成したことから、この会合体 は液体の性質を持つことが分かりました(Fig. 1b)。これは、p53が、溶液中に溶 けて分散した相と密に集合した相に分離する、液−液相分離現象と考えられます。

次に、p53の液滴状の会合体形成の仕組みを調べました。p53の一部を欠損さ せた変異体の実験により、液滴形成には特定の立体構造を取らない天然変性領 域が関与することが分かりました。p53の N末と C末の天然変性領域は、それ ぞれ負と正の電荷を多く持つことから、静電的に結合すると考えられます(Fig.

2a)。また、導入した2つの蛍光色素間の蛍光共鳴エネルギー移動4の計測から、

p53は、溶液中を分散した状態からその立体構造を少し変えて、液滴状の会合体 内で分子間ネットワークを作っていることが明らかとなりました(Fig. 2b)。

最後に、p53の液滴状の会合体と機能制御の関係を調べました。液滴状の会合 体を一旦経験させ分散条件に戻した p53 は、その機能を保持していることが分 かりました。この性質は、不可逆的な凝集体とは異なっています。さらに、生体 環境を模倣した混雑状況下では、p53の液滴状の会合体の形成が促進されること が分かりました。一方、DNAやATPなどの生体分子の添加により、p53の液滴 形成が抑制されることが明らかとなりました。さらに、リン酸化を模倣したp53 の活性化変異体では、液滴形成が抑制されました。以上より、p53の液滴状の会 合体は、様々な生体分子や翻訳後修飾により制御されていることが明らかとな りました。

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上記の結果を踏まえて、液滴状の会合体が関与する機能スイッチモデルを提 案しました(Fig. 2b)。細胞にストレスがかかっていない通常の状態では、p53は、

液滴状の会合体を形成し、その機能をOFFにしています。細胞にストレスがか かり、p53がリン酸化などで活性化されると、溶液中に分散し、その機能がON になります。今後、実際の細胞内での液滴状の会合体形成を検証することで、p53 のがん抑制の仕組みが分子レベルで解明されることを期待しています。

Fig.1 微分干渉顕微鏡を用いて、p53の液滴状の会合体を観察しました。 a)p53

のpH依存的な会合体の形成。pH 6.5と7.0では球形の会合体を形成し、pH 5.5 では非球形の会合体を形成しました。一方、pH 7.5以上では、ミクロンサイズの 会合体は観測されませんでした。b)pH 7.0で形成したp53の会合体は、液体の 性質を持つことが分かりました。300秒の時間をかけて、3つの球形の会合体が 融合する過程が観察されました。右側の黒い線は、10 マイクロメートルを表し ています。原著論文の図1より転載しました。

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Fig.2 液滴状の会合体の形成と崩壊によるp53の機能のスイッチモデルを提案し ました。a) p53の一次構造(アミノ酸配列)と立体構造の関係。NT、Core、Tet、 CTは、それぞれ、N末ドメイン、コアドメイン、4量体ドメイン、C末ドメイ ンを表しています。b) p53は、分散状態と液滴状の会合体との間をスイッチしな がら、その機能を制御していると考えられます。細胞にストレスがかかっていな い通常の状態では、p53 は、液滴状の会合体を形成し、その機能を OFF にして います。p53は、NTとCTが静電的に結合することで、その立体構造を変えて、

液滴状の会合体を形成します。一方で、細胞にストレスがかかり、p53がリン酸 化などで活性化されると、溶液中に分散し、その機能がONになります。原著論 文の図6より転載しました。

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【論文情報】

題目:Liquid-like droplet formation by tumor suppressor p53 induced by multivalent electrostatic interactions between two disordered domains

著者:Kiyoto Kamagata1,2,*, Saori Kanbayashi1, Masaya Honda1,2, Yuji Itoh1, Hiroto Takahashi1, Tomoshi Kameda3, Fumi Nagatsugi1,2, and Satoshi Takahashi1,2

所属:1東北大学 多元物質科学研究所, 2東北大学大学院 理学研究科化学専攻,

3産業技術総合研究所 人工知能研究センター 雑誌:Scientific Reports 10,580 (2020)

URL:www.nature.com/articles/s41598-020-57521-w DOI:10.1038/s41598-020-57521-w

【用語解説】

注1)会合体

2 個以上の分子が比較的弱い分子間力によって集合し、一つの塊として存在 している状態。

注2)PMLボディ

直径0.2 ~ 1マイクロメートルの球状構造体で、核の中に複数存在しています。

Promyelocytic leukemia (PML)タンパク質とそのSUMO修飾体によって、球状 構造体が形成されます。転写、細胞の分化など様々な現象に関与することが 知られています。

注3)カハールボディ

直径0.2 ~ 2マイクロメートルの球状構造体で、核の中に複数存在しています。

コイリンタンパク質によって、構造体が形成されます。核内および核小体低 分子リボ核酸タンパク質の生成や成熟などに関与することが知られています。

注4)蛍光共鳴エネルギー移動

1 つ目の蛍光色素が光のエネルギーを吸収し、その一部が 2 つ目の蛍光色素 に移動する現象。蛍光色素間の距離に応じて、エネルギーが移動する効率が 変わるため、ナノメートルサイズの距離を計測する手法として用いられてい る。

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【お問い合わせ先】

(研究に関すること)

東北大学多元物質科学研究所

准教授 鎌形 清人(かまがた きよと)

電話: 022-217-5843

Email:[email protected]

(報道に関すること)

東北大学多元物質科学研究所 広報情報室 電話: 022-217-5198

E-mail:[email protected]

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