なぜ今の時代に本屋をオープンさせるのか
2015 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
都築沙和子
提出日:2016 年 1 月 15 日
はじめに
「本が売れていない」と聞くようになってから何年が経っただろうか。本は売れてい ないのだろうか。実際に書店が潰れたり、雑誌が廃刊になったり、出版業界の不況は続いてい る。最近の業界の大きなニュースとしては、三大取次と呼ばれていた一社が倒産せざるを得な くなったことがあった。時代は紙媒体からデジタルへと移行しつつあり、より本が売れない時 代になってきている。そんな中、個人経営のような小さな本屋さんや、カフェと併設している 本屋さんの人気が出ている。毎日世界のどこかで町の小さな本屋が潰れているといっても過言 ではないのに、反対に新たな本屋もオープンしている。そこで感じたのは、「何故今の時代に本 屋をオープンさせるのか」という疑問だ。不況と言われているこの業界で、いくら本や雑誌が 大好きな私でお金がたくさんあったとしても本屋をオープンさせないだろう。それでもオープ ンさせる本屋には必ず売れる、儲かる仕組みがあるに違いない、そう感じた。その理由の一つ として私は、デジタルが進む一方で、紙の本の反動が起きているのではないだろうか考えた。
本屋にカフェが併設するブックカフェはすでに新たなビジネスモデルとなりつつある。このよ うな形の本屋のビジネスモデルを理解することでこれからの本屋の未来が見えてくるのではな いかと考えた。また、この研究を通して今、人々が何を求めているのかを読み取れるのではな いだろうか。
目次
はじめに
第一章 本屋さんとは
第二章 本は売れていないのか - 出版物推移
-電子書籍
- 業界推移
第三章 これからの本屋ビジネスモデル - 仮説
- 検証結果
第四章 結論
おわりに
参考文献
第一章 本屋さんとは
まず初めに、一口に本屋といってもいろんな種類の本屋が存在する。ジュンク堂や丸 善、紀伊国屋などの大型書店や、商店街にあるような小さなお店から、古本屋さんまであらゆ る種類がある。種類は様々だが、新刊書点を扱う本屋の仕組みは基本的に同じである。下の図 は簡単に説明をしたものである。出版社が本を制作・出版をし、取次を介して本が書店や本屋 に流通され、店頭に本が並べられる。そして我々の手に本が届く。出版業界は基本的にこの出 版社・取次・書店の三社によって成り立っている。意外と知られていないのが取次の存在だ。
しかし業界では大きな役目を果たしている。全国どこでもちゃんと発売日に本が売られ、どこ でも値段が変わらず売られているのは、この「取次」を初め、「再販制度」、「委託業務制度」の 3つの他業界にはない特別な仕
組みがあるからである。「取次」
はいわゆる、卸・流通業者であり、
たいていの書店はひとつの大き な取次と契約をし、その会社一社 から本をほとんど仕入れる。大き な取次は数社しかなく、総合取次 と呼ばれる。トーハンや日販、大 阪屋、栗田出版販売などが総合取 次に含まれる。書店はそれらの仕 入れた本がいくら売れなくても、
割引セールをせずに定価で売る ことが決められている。これが
「再販制度」である。この制度は、
本の数が少なくなることや、本の 価格が高くなること、内容に偏り がでてくることなどを回避して
いるものである。その代わり、本はほとんどが委託商品である。そのため、商品を出版社に返 品することができる。それが「委託業務制度」だ。出版社はオンライン販売を除いて、基本的 に店舗を持たないため販売を書店に委託する必要がある。このようなことができるのは、独占 禁止法によって適用の除外になっているからである。日本全国津々浦々どこの書店でも遍く、
なるべく早く安く、知恵や情報を届けたいという理想のもとに、このような大規模で特殊な流
通の仕組みが日本では作られてきた。しかし、デジタルが進むことで、このような仕組みにも 少しずつ変化が見られるようになった。例えば、アマゾンで本が割引されているのを見かけた ことがないだろうか。前述したように、本の割引は再販制度によって禁止されている。アマゾ ンは今までKindleの電子書籍の割引は行っていたが、紙の書籍の割引は昨年2015年6月から 7月まで期間限定で行った『夏の読書推進お買い得キャンペーン』が初めてだった。アマゾン は一部出版社と契約をして定価から2割引で販売した。このニュースには様々な意見が集まっ た。「再販制度に違反しているのではないか」、という声に対し、主婦の友社は「むしろ再販制 度を守るため」とコメントをしている。実際に出版社側は在庫を一掃するチャンスでもあり、
読者からには安く購入できる。著者としては、より多くの人に読んでもらえるというメリット がある。「時限再販契約」というものがあり、出版社が決めた一定期間を過ぎたら書店が決めた 価格で値下げをすることができる。しかし、このキャンペーンに参加した出版社の中で「時限 再販契約」を結んでいたのはサンクチュアリ出版と数社だけであった。実際には、どの本を時 限再販するのか、どれくらいの期間を持って割引を許すのかなどが難しいということもあり、
時限再販を実施している出版社は非常に少ない。時限再販契約を全体的に適用すれば、書店か らの返品率も下がりメリットが多いように見えるが、現状を見る限り出版社のデメリットや負 担が多いのだろうか。
第二章 本は売れていないのか
では実際に、出版不況、本が売れない、活字離れが進む、など言われている現状につ いての数字を見ていきたいと思う。結果から言うと、本は売れていない。出版社の数も書店の 数も年々減っているのが現実だ。まず、本がどれくらい売れているのか数字を見ていきたいと
思う。このグラフは公益社団法人全国出版協会が毎年だす『2014 出版指標 年報』に掲載さ れている日本の出版販売額(取次ルート)である。書籍、月刊誌、週刊誌全て下がっているこ とがわかる。ただし、ここに発表されている数字は取次ルートに限定されている、つまり直販 の数字や先ほど触れたアマゾンの直接取引の数字は含まれていないことに注意したい。直販に ついては後でまた触れたいと思う。書籍は、1996年をピークに長期低落傾向が続いている。書 籍はヒット商品に左右されるため、売れ行きが一部のベストセラーに集中し、売れる本と売れ ない本の二極化が進んでいる。月刊誌は、販売と広告ともに不振で、休刊点数が創刊点数より も上回る。読者年齢の上昇が原因と言え、読者は30代40代にシフトして来ている。そのため、
対象年齢の高い雑誌はまだ大丈夫だが、若い読者をとりこめている雑誌が少ない。富士山マガ ジンによると、2015年に休刊・廃刊を発表した雑誌は145にも上る。中でも、ピチレモンや
Sweet、ギャル雑誌のBLENDAやegg、小悪魔agehaなど、若い読者向けの雑誌の休刊・廃刊
が目立つ。インターネットの普及から情報を得るスピードが格段に早くなり、速報性を重視し た週刊誌は厳しくなって来ている。コミックも同様落ち込んでおり、コミックも注目された作
品は好調だが、その他の作品の売れ行きは鈍く、二極化が進んでいる。映画化の点数は増え続 け飽和状態になっているため、期待されるほど伸びない例も多い。一方でコミックのデジタル、
電子コミックはめざましい成長をしており、紙のコミックに電子コミックを加えると、市場が 拡大していると言える。ムックや文庫本もマイナスを続けている。ムックは定期誌が不振のた め、ムックで補おうとする傾向が強まっており、新刊点数が年々増加している。書籍全体の売 上が下がる中で、文庫本は手堅いと言われてきたがここ数年はマイナスを続けている。文庫本 も同じく新刊書点の増加傾向にある。新刊書点の増加は返品率上昇の一因ともなっている。電 子書籍の存在も業界では年々大きくなってきているため、電子書籍の数字にも触れておきたい。
株式会社インプレスが電子書籍市場を分析した『電子書籍ジネス調査報告書2015』のデータか ら見ると、市場の拡大を読み取ることができる。報告書によれば日本国内の電子書籍市場は1411
億円とされている。上のグラフは、電子書籍に電子雑誌市場を加えたものである。数字を詳し く見てみると、2014年度の前年比は書籍がプラス35%で、雑誌はプラス88%と書籍に比べ2 倍以上の伸び率を示している。紙媒体としての雑誌の発売を同じタイミングで電子雑誌版の発 売を行う主力雑誌が登場し、対応誌も増えたことが背景に挙げられる。また、今後の電子書籍 市場規模は年々伸びて行くと予想されている。ここから、電子書籍市場の拡大は、紙の出版業 界市場縮小に大きく影響を与えていると言えるだろう。
本が売れないということは、出版社だけでなく、第一章で見た取次や書店にも打撃が あるということである。利益率は出版社約 70%、約取次 8%、約書店 22%と決められている。
本が売れなければ、書店の利益が減り、返品率が上がり取次の利益が減り、出版社の利益が減
書店数の推 移 1999 年〜 2015 年 (2105 年 5 月 )
る。悪循環である。書店に関しては、人件費や運営費を抜くと手元に残る純利益は約1%とも言 われている。ここまでの話から、本の売上だけが利益元である書店数が減っているという予測 は簡単にできるだろう。上のグラフは書店数の推移を示している。このデータから、17年間で 8808軒の書店がなくなっていることがわかる。平均すると毎年518軒がなくなっている計算に なる。仮にこの推移で続いて行くと計算すると、2022年には1万軒を切るだろうと予測ができ る。カウントされている書店の中には本部や営業所、外商のみの書店も含まれるため、実際に 本を並べて売っている本屋はもっと少ないだろう。グラフでは13488軒となっているが、実際
は10800軒前後なのではないかと言われている。先ほどの計算をすると、2年ほどで書店数は
1万軒を切るという予測もでき る。出版社の数も売上も年々減っ ている。過去10年間で695社減 少しており、売上額は連続でマイ ナスであり、8150 億円減少をし ている。ただし、新規の出版社も あるため1000社は減少している と考えられている。ここで注意し ておきたいのは、販売額の占有率 だ。2014 年度の全出版社 3534 社のうち上位 500 社で販売額が
17063億となっており、91.29%
を占めている。残りの3034社の 占有率は 8.71%だ。これだけ毎 年出版社が減るのも理解ができ る。最後に取次に関してだが、取 次は総合取次が業界に 5 社いる が、大手の日本出版販売(1位)とトーハン(2位)の売上が突出している。そんな中、昨年の 夏に第 4 位の栗田出版販売が民事再生で倒産をした。地方や小さな書店との取引を強みとする 栗田の倒産は、出版業界の現状を象徴するような出来事だった。出版物の販売額、書店数、出 版社数の推移をここでは見たが、本が売れておらず、業界全体も不況であることがここから明 らかになった。
第三章 これからの本屋ビジネスモデル
<仮説>
ここで疑問に思うのが、なぜ今の時代に本屋をオープンさせるのかだ。これだけ出版 社の数や書店の数が減少にしているにも関わらずJPO書店マスタ管理センターの調査によると、
2014年の新規書店は約220軒がオープンしている。新たにオープンする書店がなぜまだこんな にもあるのかと疑問を抱いた。ここ最近自分の身の回りでも、メディアにおいても独立系書店 の人気がでてきていると思い、むしろ活気づいているのではないかとも感じる。独立系書店と は、大手チェーンの書店じゃない書店を指し、町の本屋さんと言われたりもする。独立系書店 の中に多いのは、カフェを併設している本屋で、ブックカフェとも呼ばれる。
わたしは、なぜ本屋をオープンさせるのか、ちゃんと儲かる仕組みになっているのか、
という疑問を検証するために以下の仮説を4つたてた。
仮説1:本以外で利益を出している
仮説2:取次を介さず利益率が高い
仮説3:紙の需要が高まっている
仮説4:本屋で利益を出そうとしていない
仮説1は立てるだけ愚説かと思うが、結論には欠かせない要点なため立てた。ブック カフェなど、カフェを併設している本屋や、イベントを行っている本屋、様々な本屋が存在し、
本以外と一概に言っても種類がある。独自性を持ちながら本以外の部分で収益を得て、本の利 益をカバーしているのではないか考えた。
仮説2は、第に章でも見たように総合取次の一つ、栗田出版販売が倒産したできごと から、取次の倒産は本が売れない背景だけでなく、取次を介さない本屋が増えて来たことから も説明できるのでは考えた。
仮説3は電子書籍の売上が上がっているというデータを見たように、一度でも電子書 籍を試した人は増えて来ている。そこで電子書籍を知った上で、紙の良さに気づき紙に戻って くる人が多いのではないかと考えた。これは自身の経験にあったため、そういう人が多いので はないかと感じた。
4
<
検証結果>
まず、検証を行うにあたって、対象本屋を独立系書店と言われる新刊書店とし、チェ ーンで展開されているような書店は対象を外した。また、独立系書店なのであくまでも、本屋 をベースにしている本屋で、カフェベースのところなどは除外をした。本屋がオープンしてか ら7年以内で、注目されているという意味で本屋や店長がメディアに取材をされている本屋を 全国から20軒選択をした。調査方法は、主に本屋のホームページや店長の対談、本、インタビ ュー記事から調べ、わからない部分は問い合わせをしたり直接質問をしたりした。
オープン日 場所 取次 出版社 部類
1 Stock books & coffee 2008 年 1 月 宮城 × ○ 3
2 一月と六月 2008 年 11 月 島根 × ○ 1.2.3
3 NOHARA BOOKS 2009 年 4 月 静岡 ○ ○ 1.3
4 北書店 2010 年 1 月 新潟 × ○ 1.2
5 Smoke books 2010 年 1 月 東京 × ○ 1.3
6 ON reading 2011 年 1 月 愛知 × ○ 1.2.3
7 B&B 2012 年 7 月 東京 ○ ○ 1.2.3
8 SNOW SHOVELING BOOKS & GALLERY 2012 年 9 月 東京 × ○ 1.2
9 YUY BOOKS 2012 年 12 月 京都 × ○ 1
10 天狼院書店 2013 年 9 月 東京 ○ ○ 1.2
11 Book apart 2013 年 10 月 神奈川 × ○ 2.3
12 bookkafe kuju 2014 年 5 月 和歌山 × ○ 1.2
13 READAN DEAT 2014 年 6 月 広島 × ○ 1.3
14 長崎次郎書店 2014 年 7 月 熊本 ○ ○ 1.2
15 NOW IDeA 2014 年 10 月 東京 × ○ 1.2.3
16 かもめブックス 2014 年 11 月 東京 ○ ○ 1.2.3
17 アルトスブック 2015 年 1 月 島根 ○ ○ 1.2.3
18 ホホホ座 2015 年 4 月 京都 ○ ○ 1.2.3
19 森岡書店銀座店 2015 年 5 月 東京 × ○ 2.3
20 誠光社 2015 年 11 月 京都 ○ ○ 1.2.3
仮説1の検証結果
仮説1:本以外で利益を出している
独立系書店は先ほど述べたようなカフェを併設している本屋や、イベントを開いてい る本屋など様々な種類の本屋がある。独立系書店を以下のように3つ部類分けしてみた。
① 地域密着型:
地域に密着し、地域にあった本を置いたり、イベントを開催したりする本屋
② 空間・時間消費型:
ゆっくりとした環境で本との時間を創る、カフェやギャラリーがある本屋
③ 提案型:
本に関連をした雑貨や小物などを販売する本屋
このように部類分けをしたが、①〜③全てを取り入れる本屋も少なくない。反対に、一つの型 だけでやっている本屋が少ないこともわかった。それだけでは上手くやっていけないというこ とを表しているのではないだろうか。本の利益率は取次を介している場合約2割だと言われて いるが、雑貨やカフェメニュー(カフェメニューといってもほとんどの本屋がドリンクメイン)
の利益率は本に比べると比較的に高い。コーヒー一杯の原価はおよそ1~2%で抑えられると言わ れている。独立系書店は豆などにこだわっているところも多いため、もう少し原価が高くなる と予測できるが、それでも利益率は高い。雑貨の利益率は約5割と言われており、本屋で雑貨 を数多く売ることは厳しいが利益率が高いため一つ売れるだけでも本より利益を得ることがで きる。恵文社一乗寺店の店長を務め、現在は新たにオープンさせた誠光社の店長堀部篤史さん 著書の『街を変える小さな店』でも、「店長になって以来、本と雑貨、やりたいことと売り上 げの間では、ずいぶん悩まされている。あくまでも本屋であるという矜持は捨てたくないが、
実のところ、利幅や売り上げ単価で本は雑貨にかなわない。」と述べている。他の目的もある だろうが、利益幅を上げるため本屋は雑貨を取り扱ったりカフェを併設したりしているとも言 える。イベントに関しては、毎日必ずイベントを行っている B&B を例に挙げたい。B&B 店長の内 沼晋太郎さん著書の『本の逆襲』によると、B&B は基本的に 1500 円+500 円のドリンクチケット でイベントを開催しており、ものによっては 3500 円のチケット代金になることもあり、単純に ある程度の集客ができたらイベントは黒字になり、集客できなかったら赤字。ドリンクをたく さん飲んでもらえればより黒字になるという計算だ。内沼さんは、ドリンクも含めイベントか
仮説2の検証結果
仮説2:取次を介さず利益率が高い
取次を介して本を仕入れるのは基本だが、20軒中、出版社と直接取引を行っている 本屋はなんと全部であった。独立系書店が増える背景で、本屋と直接取引をする出版社が増え たこと、また自費出版やリトルプレスの人気もうかがえる。リトルプレスとは、いわゆるフリ ーペーパーのことでZINEとも言われる。今回は調査対象にしていないがリトルプレスだけを 扱う本屋も存在する。20軒中12軒だけが、取次を全く介しておらず、残りの8軒は出版社か ら直接本を仕入れ、直接取引ができない出版社の本は取次を介して仕入れを行っている。取次 を全く介していない12軒はあえて介さないことを選択している本屋と、大手取次店との契約が 困難で諦めたという本屋もいた。だが、利益の面で取次を選ばない本屋がほとんどであった。
調査からわかった新たな事実は、直接出版社と取引をしていない本屋は1軒もないということ だ。独立系書店は店長が独自で本をセレクトして仕入れることが多いためか、出版社と直接取 引をすることがここまで行われていたとは新たな発見であった。取次を介さずに、直接出版社 から仕入れることで利益率が上がり、少しでも利益を上げることができているだろう。
したがって、この仮説は正しいとする。
仮説3の検証結果
仮説3:紙の需要が高まっている
マイナビニュースでは、電子書籍使用経験のある読者300名に対して利用状況につい てのアンケートを行った(2015年2月25日公開)。アンケートの中にある「電子書籍を買うよう になって、紙の書籍・雑誌を買う機会は減りましたか?」という質問の答えを参考資料とした。
質問の回答は、減ったと答えた読者が19.0%、変わらないと答えた読者が77.3%、増えたと答 えた読者が3.7%であった。
電⼦子書籍を買うようになって、紙の書籍・雑誌を買う機会は減りましたか?(n=300)
ここから読み取れることは、電子書籍がでてきたことが原因で紙の本の売上が劇的に減ってい るわけではない、ということだ。増えたと答えている読者は11人しかおらず、3.7%なため、
紙の需要が高まっているとは言えないが、そのような読者も少なからずいるということもわか った。また、変わらないと答えた読者が77.3%もいるということは、電子書籍を買う前に比べ、
電子・紙問わず、書籍を買う頻度は高まっているのではないか、とも予測できる。変わらない
と答えた77.3%からは、
・「バラバラと⾒見見たいところを探せる」(27 歳⼥女女性/ソフトウェア/技術職)
・「充電が切切れることがない」(32 歳⼥女女性/運輸・倉庫/事務系専⾨門職)
・「コレクション欲を満たす」(23 歳男性/その他)
・「思ったことやメモなどを、書いて残せる」(33 歳男性/機械・精密機器/技術職) との意見も集まり、電子は電子で購入するものの、一方の紙媒体の魅力を感じている人が多い ことがアンケートからわかった。
この結果から、「紙の需要が高まっている」という仮説は必ずしも正しいと言えない ため×とする。需要が高まっていると完全には言えないが、電子書籍の存在から紙の書籍の価 値が再認識され、紙媒体の魅力を感じる人が増えてきている、と言える。
仮説4の検証結果
仮説4:本屋で利益を出そうとしていない
この仮説に関する検証は難しかった。
・ 店長が本屋以外にも収入源があるか
・ インタビューや記事などで本屋では利益を出そうとしていないという内容をうかがえるも のがあるか
この二つの判断基準を設け検証を行った。結果は20軒中11軒。判断できる情報が集まったの が11軒で他は情報を得ることができなかった。そのため、情報が集まらなかった軒数が本屋で 利益を出そうとしているとイコールするとは言い切れない。11軒の中では、本屋が本業でない 店長、親会社が出版社である本屋、外商を多くしている店長、「こじんまり経営したい」、「本屋 は儲からない」、「街を活性化させたいから」とコメントしている店長などがいた。本屋は儲か らない、だが本が好きだからやる、といったコメントをしている店長は多い。もちろん赤字で
ば経営できるという背景も関係するだろう。何より、皆本が大好きで本屋さんをやりたい!と いう気持ちが強いことがこの仮説からわかった。そのため、必要以上の利益を求めすぎない傾 向がある、と読み取れる。
したがって、この仮説は正しい可能性が高いと言える。
第四章 結論
本稿では、なぜ今の時代に本屋をオープンさせるのかについて、全国の独立系書店 20軒を調査し、仮説を用いて検証した。そして結果として、3つの仮説が正しいと導いた。
今回の研究によれば、最近の独立系書店は既存の流通システムに頼らず、直接出版社 と取引を行うことで利益率を上げ、本を一点一点セレクトすることで価値を提供していると考 えられた。しかし、本の利益だけでは不十分なため、地域に密着をしたイベントを開いたり、
空間や時間をカフェやギャラリーなどによって与えたり、小物や雑貨を売ることで利益を上げ ている。多大な利益は得られないが、本屋を経営することに何らかの意義を感じており、経営 ができる利益があればそれでよい、という考え方が多く集まった。また、病院やスーパーの本 棚を担当したり、メディアに多く取り上げられたり、本を出版したりなど、その他の外商で利 益を上げている店長も複数いた。今本屋を経営するからこその注目も浴びており、独立系書店 が少しずつ盛り上がりを見せていると言えるかもしれない。
研究の結果から、これからは本だけで勝負する本屋は少なくなると予測できる。今後 の本屋のビジネスモデルは、「本」×「イベント」、「本」×「カフェ」、「本」×「ギャラリー」、
「本」×「雑貨」のように本と何かの組み合わせをしたかけ算式本屋が基本となっていくので はないだろうか。また、独特な流通システムもより変化していき、取次の存在がなくなるとは 言えないが、数はもっと減るのではと予測した。
おわりに
海外の出版業界の仕組みや構造は日本と完全に同じではないため、海外との比較を今 回調査に含まなかったが、おもしろい記事があった。2015 年 9 月 22 日付けの The New York Times に「The Plot Twist: E-Book Sales Slip, and Print Is Far From Dead」という記事が掲載さ れており、大変興味深かった。記事を要約するとアメリカでの電子書籍の売り上げがいきなり 伸び悩み初め、独立系書店が力強い復活の兆しを見せているとのことだ。アメリカでは 2008 年 から 2010 年にかけ、電子書籍の売り上げが急増し1260%上昇し、紙の時代は終わるという考え 方が主流になっていた。しかし、書店数は 2010 年には 1400 店舗しかなかったが、2015 年には 1712 店舗に増えた。大型書店チェーンが減る一方で独立系書店が増え、現在では電子書籍と紙 はそれぞれ違うものだという認識が生まれ、区別する考え方が主流になってきている。出版ニ ュースに掲載されている笹本史子の、イギリスに関する「独立系書店は生き残れるか」の記事 によると、独立系書店が増えて来ているのはイギリスも同じようである。日本は電子書籍が浸 透するのが遅れ、売り上げが伸びるのも同じく遅れた。インプレスは今後 2019 年までの予測で 電子出版の市場規模が拡大していくと発表しているが、アメリカの電子書籍市場を例にすると、
その予測があたるかは微妙だ。日本も今後順調に伸びて行くと予測するのは安直なのではない かと感じる。数年後にはアメリカと同じ状況になっていてもおかしくない。そうとなると今後 の本屋がより注目である。電子書籍の売り上げがいきなり上昇したときに、皆が感じた紙の時 代が終わる、ということが今では言えないように、数年後には全く違うが起きているかもしれ ない。
本論文を書き始めた頃は、調査対象の本屋数はもう少し多く予定していたが、独立系 書店は売り上げも公表しておりずウェブ上の情報では限度があったり、質問をしても答えてく れない本屋があったりと、結果的に検証できたのは 20 軒だけとなってしまったのが心残りであ る。書き終えてみると、まだまだ言及の余地があり、多くの予測ができた。4 月からは独立系書 店ではないが、本屋を経営する企業に就職する。これからも本に関するアンテナを張って、今 後の動向に注目したい。
参考文献
<書籍>
・ 内沼晋太郎『本の逆襲』朝日出版社,2013
・ 笹本史子『出版ニュース』海外出版レポート イギリス:独立系書店は生き残れるか出版ニ ュース社 2014.3 下旬 PP21-22
・ Discover Japan『ワクワクする本。』エイ出版社,2015,12
・ 堀部篤史『街を変える小さな店』京阪神エルマガジン社,2013
<ウェブ>
公益社団法人全国出版協会
http://www.ajpea.or.jp/statistics/
日経新聞 『出版6社、発売後一定期間で値下げ アマゾンと組む』
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ25I1W_V20C15A6TI1000/
株式会社インプレス『電子書籍ジネス調査報告書 2015』
http://www.impress.co.jp/newsrelease/2015/07/20150729-01.html 日本著者販促センター
http://www.1book.co.jp/
Dot Place
http://dotplace.jp/
マイナビ『電子書籍と紙書籍の利用調査』
http://news.mynavi.jp/articles/2015/02/25/pad/
JPO 書店マスタ管理センター
https://www.jpoksmaster.jp/Info/documents/top_transition.pdf
The New York Times “The Plot Twist: E-Book Sales Slip, and Print Is Far From Dead”
http://www.nytimes.com/2015/09/23/business/media/the-plot-twist-e-book-sales-slip-an d-print-is-far-from-dead.html