グリーンウッドワークにおける丸ほぞ収縮接合の性能評価
北海道大学 大学院農学院
環境資源学専攻 修士課程
佃 猛司
目次
1.緒言 2.試験体
3. 実験
3.1.実験方法
3.2.計算式および定義
3.2.1.組立/使用かん合度
3.2.2.曲げ強度,曲げ剛性および初期がた
4.結果
4.1.引抜試験
4.1.1.引抜耐力とかん合度の関係 4.1.2.条件間の引抜耐力の比較 4.2.曲げ試験
4.2.1.曲げ破壊形態の比較 4.2.2.単調曲げ試験
4.2.2.1.接着接合と収縮接合の比較
4.2.2.2.収縮接合における湿度変動前後での比較 4.2.3.繰返し曲げ試験
4.2.4.単調/繰返し曲げ試験における初期がたとかん合度の関係
5.総括
謝辞 参考文献 巻末資料
1.緒言
生木から手加工で小物や家具を製作するものづくりを「グリーンウッドワーク」という(図1)。広 義には,自然に囲まれた静かな環境の中で持続可能かつ豊かなライフスタイルを営む,または提供する といった観念的な意味合いが重視される。このような考え方は 1980年代の比較的新しい時代にイギリ スで発祥したとされる1)が,その製作手法,すなわち冒頭で述べた狭義の「グリーンウッドワーク」自 体は18世紀の産業革命以前から存在していた。この理由として,「生木」からのものづくりは大型動力 機械のない時代において木材を加工するのに大変合理的だったことが挙げられる。現代のグリーンウッ ドワーカーの中には当時の技術の再現を主目的とする者も少なくない2)。
生木から木材を加工することのメリットとして,現行木工における製材後の大掛かりな乾燥が必要 なく乾燥の手間や機械のランニングコストを省けるということ,また,生木は小さな力で加工できるた め大型加工機械が必要なく,足踏みろくろ(pole lathe)(図1-2)などの簡単な道具のみで加工の全工 程をこなすことができること,そして,作り手は山に入り伐った木をその場で加工して完成形に近いパ ーツの状態で持ち運びできるため,輸送の際に無駄な重量を省けることなどが挙げられる。上記のよう な合理性から,日本でも昔から木地師と呼ばれる人たちが山を渡り歩きながら生木加工の旋盤木工を生 業とする人が存在した。
資源の有効利用という観点からいうと,手加工の際,木材の繊維に沿って木材をこじ割る工程があ
る(図 1-1,6)のだが,これは小さなエネルギーで比較的平滑に,しかも大鋸屑を出すことなく材を加
工できるため歩留まりの観点から有効である。なにより大型動力機械を使用しないことはエネルギー削 減に繋がる。また,現行木工よりも比較的小さな材料で済むため,材料を選ばず,地域の森から多種多
1 2 3 4 8 9 5 6 7
1,繊維に沿って木材をこじ割るところ 2,足踏み ろくろ(pole lathe)3,Shaving horse での加工 4,脚部パーツ 5,Pole lathe にて器加工 6,L 型の 斧(Froe)7,生木 8,完成したスツール 9,器の作 品群
図 1.グリーンウッドワークの様子
様な木質資源(特に,市場に乗らないような木質資源)を有効利用することに繋がる。このような環境 への負荷が小さいという側面は,80年代に「生木による木工」を「グリーンウッドワーク」としてリバ イバルさせた大きな要因の一つといえよう。
グリーンウッドワークには生木から加工することで得られる構造上の大きな特徴がある。それは,
木材の膨潤/収縮特性を生かした「収縮接合(shrink-fit joint)」と呼ばれる接合手法が多用されること だ。収縮接合は,金属加工分野では「焼きばめ」として知られる。これは,雄部と雌部からなる接合部 材において,その素材のもつ膨張/収縮特性を生かし,組立後に雄部が膨張,雌部が収縮することで接合 部耐力を発揮させるという接合手法である。金属加工の分野では比較的一般的な収縮接合も,木材加工 分野ではその研究例が非常に少ない 3-5)。また,木材の膨潤/収縮特性は一般に接線方向(T):半径方向
(R):繊維方向(L)=10:5:0.5~1 とされ 3),このことから木材のほぞ収縮接合ではほぞ及びほぞ 孔部材の各T方向を揃えることで湿度変動に対して両部材が同程度T方向に膨潤/収縮するよう仕向け られるのだが,このような接合部の性能を実際の使用環境を踏まえて定量的に評価した研究例は世界的 に見ても極めて少ない。
本研究では,日本におけるグリーンウッドワークを想定し,日本のような湿度変動の大きな地域に おける収縮接合の性能,ならびに繰返し曲げ負荷を受ける収縮接合の性能を,接着接合との比較を交え て相対的に評価することを目的とした。また,今回の実験から得られた結果をもとに,収縮接合耐力向 上のヒントを探った。
2.試験体
使用樹種はミズナラ(Quercus crispula),ハルニレ(Ulmus davidiana),SPF材の計3種類を用 いた。ミズナラは北海道大学内で保管されていた厚板(断面6×12cm程度),ハルニレは北海道大学キ ャンパス内に自生していた樹木の枝部(直径50cm程度),SPF材は市販されている2″×4″材を用い た。なお,SPF に含まれるマツ類及びトウヒ/モミ類に関しては比重ならびに引抜試験/曲げ試験の結果 において明瞭な強度差がつかなかったため,本研究では一括して扱うものとした。
試験体タイプは図に示すT型(引抜用)及びL型(曲げ用)の2種類とし,各々に対して収縮接合 及び接着接合の2種類の接合方法で製作した(図3,4)。接着には酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤
(コニシ,#40007)を用いた。比重,組立かん合度(後述)には可能な限り幅をもたした。
以下に収縮接合用試験体の製作方法を記す(図 2)。はじめに,粗木取りした材を十分に浸水さ せ含水率 28%以上とし,湿潤状態でほぞ部材,ほぞ孔部材を各々,材せい×材幅:半径(R)方向×
接線(T)方向:25×25,30×30mm の二方柾として加工した。ほぞ部分の加工には 5/8″Power Tenon cutter (Veritas 社)を用い,ミズナラ,ハルニレ,SPF で各々平均直径 16.65,16.71,16.08mm に加工し,その後ほぞを設定温度 30 度のオーブンに入れて乾燥させた。このとき,T 方向のほぞ直 径の平均値が 15.5mm になるまで乾燥させる「ほぞ乾燥レベル A」(試験体数:各条件 5~8 体)と,
ほぞが全乾状態になるまで乾燥させる「ほぞ乾燥レベル B」(試験体数:各条件 1~3 体)の 2 種類
の乾燥レベルを設定した。ほぞ乾燥中,ボール盤を用いて湿潤状態のほぞ孔部材に直径 15.5mm の ほぞ孔を開けた。ほぞ乾燥後,ほぞ部材を湿潤状態のほぞ孔部材に挿入して試験体を組み立てたが,
その際,ほぞ部材とほぞ孔部材の T 方向を揃えた(図 5,9,10)。その後,実験室内で 1 ヶ月以上 の自然乾燥期間を置き,各実験を行った。実験時の各接合部含水率を表 1 に示す。
接着接合用の試験体については,気乾状態からの加工(ほぞ径は 15.5mm),並びに接着剤によ る組立て,接着後の養生期間(36 時間)を除き,収縮接合と同様に作製した。
ほぞ乾燥レベル A の収縮接合試験体及び接着接合試験体については湿度変動を与えるため,上 記の製作過程を経た後,恒温恒湿器(エスペック,LHU-123)で 25℃,85%RH で 2 週間,続いて 20℃,
30%RH で 2 週間調湿させた後に,十分な養生期間を経て,実験した。このときの試験体含水率変動 については図 6 に示した。
1 2 3
5 7 4 6
1,二方柾に粗木取り 2,含水率 28%以上まで浸水 3,湿潤状態でほぞ加工 4,湿潤状態でほぞ孔加工 5,ほぞ部材の乾燥 6,乾燥したほぞ部材と湿潤 状態のほぞ孔部材の組立 7,試験体の養生(ほぞ孔部材の乾燥)
図 2.収縮接合用試験体の製作過程
R
L T
R
L
補助孔 T R
L T
R
L
補助孔 T
0 5 10 15 20 25
0 5 10 15 20 25
日数(日)
含水率(%)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
温度(℃)/相対湿度(%)
収縮接合 ミズナラ 接着接合 ミズナラ
収縮接合 ハルニレ 接着接合 ハルニレ
収縮接合 SPF 接着接合 SPF
相対湿度 温度
図 3.T 型(引抜)試験 体
図 6.湿度変動時の試験体含水率
図 4.L 型(曲げ)試験体 図 5.ほぞ接合部の繊維 方向のイメージ
ほぞ ほぞ孔 ほぞ ほぞ孔 ほぞ ほぞ孔 ミズナラ 5.39 28~ 14.9 14.8 9.1 9.0 ハルニレ 13.1 28~ 13.4 13.5 8.6 8.6 SPF 12.9 28~ 12.3 12.4 8.9 8.9 ミズナラ 0 28~ 12.1 13.8
ハルニレ 0 28~ 8.4 9.6 SPF 0 28~ 6.2 6.4
ミズナラ 12 12 12.7 12.7 8.8 8.8 ハルニレ 12 12 12.2 12.2 8.7 8.7 SPF 12 12 11.9 11.9 8.8 8.8 Note: 整数箇所は一部の試験体からの推定値
なし Lv.A
Lv.B 収縮
接合
接着
接合 なし ほぞ乾燥
レベル 樹種 接合
種類
表1.含水率推移表
組立時 湿変前実験時 湿変後実験時 含水率(%)
30.0 25.0
280.0 50.0
φ12.5
φ15.5 280.0
15.0 φ12.5
30.0 30.0 30.0
25.0
unit:mm
P
P
22 P P
P
unit:mm
3.実験
3.1.実験方法
縦型フレーム試験機により T 型/L 型試験体に対して引抜/曲げ試験を行った。図 7,8 にその様 子を示す。なお,矢印は変位計の位置を示す。曲げ試験では単調引張試験に加え,同試験から得た 比例限度荷重を交番レベルとした 5 回繰返し曲げ試験も行った。湿度変動後の試験体に対しても同 様の実験を行った。全ての実験の流れをまとめたフローチャートを図 9 に示す。
- 全実験の流れ -
引抜
L型 T型
L型 T型
繰返し曲げ 単調曲げ
引抜
繰返し曲げ 単調曲げ
引抜
湿度変動 湿度変動
繰返し曲げ 単調曲げ
引抜
繰返し曲げ 単調曲げ
引抜
湿度変動 湿度変動
T型
接着接合 接着接合 収縮接合 収縮接合
ほぞ乾燥 レベルA ほぞ乾燥
レベルB
繰返し曲げ 単調曲げ
引抜
繰返し曲げ 単調曲げ
引抜
湿度変動 湿度変動
繰返し曲げ 単調曲げ
引抜
繰返し曲げ 単調曲げ
引抜
湿度変動 湿度変動
気乾材使用
T/L型試験体 3樹種×5~8体
,
*
*;3樹種×1~3体
図7.引抜試験の様子 図8.曲げ試験の様子
図 9.全実験の流れ 変位計1
変位計2
3.2.計算式および定義 3.2.1.組立/使用かん合度
一般に,ほぞ径からほぞ孔径を引いた値をかん合度という。これはほぞ接合部のきつさを示す 指標となる。本研究では,組立て後にほぞが膨潤し,ほぞ孔は収縮することが想定されるため,こ れらを踏まえたかん合度を「使用かん合度」と定義した。これは,組立て時から実験時にかけて膨 潤したほぞ径から乾燥自由収縮した後のほぞ孔径(図 5 に示す補助孔から推定)を引いた値とした
(式 1)。これに対し,組立て時のかん合度を「組立かん合度」とした。これは一般的なかん合度と 同じ式となる(式 2)。なお,かん合度の計算に用いた各直径の方向はそれぞれ,ほぞ部材の T 方向 とほぞ孔部材の T 方向,並びにほぞ部材の R 方向とほぞ孔部材の繊維(L)方向となる。従って,
それらの方向を「T-T 方向」/「R-L 方向」と呼ぶことにし,各々に対するかん合度を「○○かん合 度 T-T」/「○○かん合度 R-L」とした(図 10,11)。
(1)
(2)
ここで,φu:使用かん合度,Dta組立時ほぞ直径,⊿Rt:含水率変化1%あたりのほぞ寸法変化率(%), Mte:実験時ほぞ含水率,Mta:組立時ほぞ含水率,Dma:組立時ほぞ孔直径,⊿Rm’:含水率変化1%あ たりの補助孔寸法変化率(%),Mme:実験時ほぞ孔含水率,Mma:組立時ほぞ孔含水率,φa:組立か ん合度。
R
L T
R
L T
R
L R T
L
T
R L
T
R L
T
R L
T
R L
T
R
L T
R
L T
R
L R T
L
T
R L
T
R L
T
R L
T
R L
T
R
L T
R
L T
R
L R T
L
T
R L
T
R L
T
R L
T
R L
T
例えば今回の実験の場合,ほぞ乾燥レベルAとBにおける組立時の部材含水率,T方向の直径,組 立かん合度の関係は表2のようになる。すなわち,ほぞ乾燥レベルA ではT方向の直径を乾燥基準と したため,ほぞ含水率にばらつきが生じ,ほぞ乾燥レベルBではほぞを全乾状態にすることを乾燥基準 としたため,SPFの組立かん合度T-Tが-0.5を越える結果となった。これは組立時のほぞ接合部のT-T 方向にそれだけ隙間が存在したことを意味する。
図 10.かん合度 T-T の計算に用いるほぞ 径/ほぞ孔径の位置
図 11.かん合度 R-L の計算に用いるほぞ 径/ほぞ孔径の位置
φu=Dta×(1+⊿Rsh×100×(Mte-Mta))- Dma×(1+⊿Rm’ ×100×(Mme-Mma)) φa=Dta-Dme
28~
28~
28~
28~
28~
28~
ほぞ孔
0 0 0 13.0 13.1 5.5 ほぞ
含水率(%)
レベルB.
含水率 基準 レベルA.
ほぞ径 基準 ほぞ 乾燥レベル
-0.01 15.52
15.51 ミズナラ
-0.38 15.59
15.21 ハルニレ
-0.24 15.67
15.43 SPF
-0.51 15.29
14.78 SPF
-0.04 15.38
15.34 ハルニレ
-0.17 15.54
15.37 ミズナラ
ほぞ孔 ほぞ
T方向の直径(mm) 組立かん合度T-T(mm)
樹種
ほぞ径-ほぞ孔径
28~
28~
28~
28~
28~
28~
ほぞ孔
0 0 0 13.0 13.1 5.5 ほぞ
含水率(%)
レベルB.
含水率 基準 レベルA.
ほぞ径 基準 ほぞ 乾燥レベル
-0.01 15.52
15.51 ミズナラ
-0.38 15.59
15.21 ハルニレ
-0.24 15.67
15.43 SPF
-0.51 15.29
14.78 SPF
-0.04 15.38
15.34 ハルニレ
-0.17 15.54
15.37 ミズナラ
ほぞ孔 ほぞ
T方向の直径(mm) 組立かん合度T-T(mm)
樹種
ほぞ径-ほぞ孔径
3.2.2.曲げ強度,曲げ剛性および初期がた
曲げ試験での接合部破壊形態の95%以上がほぞ部での曲げ破壊だったため,接合部曲げ強度は以下 の式から得た。
ここで,MOR:接合部曲げ強度,Mmax :最大曲げモーメント;P×L×(cos(θおよび 2)-sin(θ および2)),Z:円の断面係数,D:ほぞ径の公称値(15.5mm), P:荷重,L:モーメントアームの長 さ(280mm),θ:回転角;(δ1-δ2)および a,δ1:変位計1の変位,δ2:変位計2の変位,a:変 位測定点間の距離(87mm)とした。
接合部の曲げ剛性は,繰返し部を除いた荷重変位曲線(図12)の0.2 Mmaxから0.4 Mmaxまでの測 定値から求められる回帰直線BCの傾きとした。
曲げ剛性を求める際に引いた回帰直線がx軸と交わる点Aの回転角を初期がたとした。
表 2.組立時の部材含水率,T 方向の直径及び組立かん合度(平均値)
図 12.荷重変位曲線の一例
回転角
曲 げ モ ー メ ン ト
Mmax
B C 0.2Mmax
0.4Mmax
曲げモーメント
回転角
曲 げ モ ー メ ン ト
Mmax
B C 0.2Mmax
0.4Mmax
回転角
曲 げ モ ー メ ン ト
Mmax
B C 0.2Mmax
0.4Mmax
曲げモーメント
O A
Z
M
m axMOR
32 D3
Z
(3)
(4)
4.結果
4.1.引抜試験
4.1.1.引抜耐力とかん合度の関係
図13-a,b,c,dに引抜耐力と組立/使用かん合度の関係を示した。これら4枚の図から引抜耐力の発現 機構を推察した。
まず,引抜耐力と組立かん合度の関係(図13-a,b)を見ると,組立かん合度T-Tはマイナスの値が 多いのに対し,組立かん合度R-L はプラスの値が多いことがわかる。組立かん合度がマイナスの場合,
それはほぞ接合部の隙間を意味するため,引抜耐力には影響を及ぼさないが,プラスである場合はほぞ /ほぞ孔で部分圧縮(めり込み)変形が生じていることを意味するため,引抜耐力に対して各樹種の部分 圧縮剛性に順ずる摩擦抵抗の影響が生じると考えられた。このとき,同程度の組立かん合度 R-L(0.6
~0.8mmあたり)におけるほぞ乾燥レベル Bのミズナラとハルニレのプロットを見ると,試験体数は 少ないにせよ,およそ3:2の比率で引抜耐力を呈しており,これは樹種毎の板目面のかたさの比率に 近かった(図14)6)。このことからも,収縮接合の引抜耐力には部分圧縮剛性が主要な耐力発現要因の 一つとなると考えられた。
次に,同じ組立かん合度R-Lの図(図13-b)におけるほぞ乾燥レベルAとBのハルニレを見ると,
後者は前者に対して耐力が3倍以上増加していることがわかる。これは,組立時のほぞ含水率が低かっ たことによるほぞの膨潤が引抜耐力増加に大きく影響したと考えられた。
上記の考察を踏まえ,続いて引抜耐力と使用かん合度の関係(図13-c,d)を見てみる。図13-cのハ ルニレに着目すると,プロット間に距離があるものの,強い正の相関があった。また,図 13-d では全 樹種において相関が見られた。これらの結果からも,部材の膨潤/収縮性能が引抜耐力に影響を及ぼすと いうことが示唆された。
以上の結果から,収縮接合の引抜耐力には①部分圧縮剛性,②膨潤/収縮性能,③組立/使用かん合 度という3つの因子が大きな役割を果たことが示唆された。同時に,①と②の因子,さらには部材の摩 擦係数といった値が組立時の部材含水率に影響されるということ,並びに高すぎる組立かん合度は接合 部の割れを誘発することなども収縮接合を製作する上では重要な観点であるといえよう。より確定的な ことを言うためには,より多くの実験と新たな観点からのアプローチが求められる。
前段の①と②を基準とし,部分圧縮剛性を材の表面かたさ6)で代替することで,図14から収縮接 合に対する一般的な樹種の適合性が比較できる。図 14上でプロットの集まる領域を十字に区分けした とき,右上部分の第一象限に存在する樹種が収縮接合にとって相対的に適する樹種といえる。この場合,
アカガシ,シラカシ,イスノキ,イタヤカエデ,ブナあたりがそのトップ5に当たった。一方で,T方 向の収縮率が際立って大きいハルニレや,収縮率のわりに表面かたさの大きなケヤキ,ハンノキといっ た樹種がかん合度を高めることでどこまで耐力を伸ばせるのか非常に興味深いところであった。一方,
グリーンウッドワークということを考えた場合,高すぎる強度は手加工による作業効率に負の影響を与 えかねないことから,一概に先述のトップ5がグリーンウッドワークに適するとは言い切れないという
考察もできるため,実用に向けて,さらなる指標が必要といえる。
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 3.2 3.4 3.6 組立かん合度 T-T (mm)
ミズナラ ミズナラ ハルニレ ハルニレ
SPF SPF
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 3.2 3.4 3.6 組立かん合度 R-L (mm)
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 3.2 3.4 3.6 使用かん合度 T-T (mm)
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
-0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 3.2 3.4 3.6 使用かん合度 R-L (mm)
図 13-a,b,c,d.引抜耐力と組立/使用かん合度の関係
b,組立かん合度 R-L a,組立かん合度 T-T Lv.A Lv.B
c,使用かん合度 T-T
d,使用かん合度 R-L
かん合度 (mm)
引抜耐力(N)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 R方向の収縮率 (%/MC1%)
板目面のかたさ (kg/mm^2)
キリ ドロノキ
ハリギリ オニグルミ
ハンノキ ヤチダモ
クリ ハルニレ
イタヤカエデ ブナ
マカンバ ミズナラ
ケヤキ シラカシ
アカガシ イスノキ
エゾマツ トドマツ
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 T方向の収縮率 (%/MC1%)
柾目面のかたさ (kg/mm^2)
図 14.柾目/板目面の表面かたさと T/R 方向の収縮率の関係(木材工業ハンドブック,1973)
4.1.2.条件間の引抜耐力の比較
湿度変動前の引抜耐力における,接着接合と 収縮接合を比較した(図15)。接着接合に対する 収縮接合(ほぞ乾燥レベル A)の引抜耐力比は,
ミズナラ,ハルニレ,SPFで各々,0.79,0.13,
0.04 であり,接着接合に対するの収縮接合(ほ ぞ乾燥レベル B)の引抜耐力比は,0.76,0.50,
0.07だった。ハルニレとSPFでは湿度変動前の 時点で接着接合に対し収縮接合の引抜耐力が大 きく劣ったが,ミズナラの収縮接合は接着接合の 8割弱の引抜耐力を呈しており,両者に有意な差 は見られなかった。
続いて,ほぞ乾燥レベル A における湿度変 動前後における収縮接合の引抜耐力を比較した
(図16)。湿度変動前に対する湿度変動後の引抜 耐力比は,ミズナラ,ハルニレ,SPFで各々0.28,
0.27,0.73(湿度変動後のSPFの最大値を除く)
だった。
湿度変動前後で引抜耐力が低下した要因と して,含水率変動によるR-L 方向の膨潤/収縮が 考えられた。すなわち,かん合度の定義で用いた
T-T 方向とR-L 方向において,T-T方向の膨潤/収縮はほぞ/ほぞ孔部材で一致するため耐力に影響はな 図 15.接着/収縮接合の引抜耐力の比較
図 16.湿度変動前/後の引抜耐力の比較
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000
引抜耐力 (N)
収 縮 接 着
収 縮 接 着
収 縮 接 着 ミズナラ ハルニレ SPF
0 500 1000 1500 2000 2500 3000
引抜耐力 (N)
後 前
ミズナラ ハルニレ SPF
後
前 前 後
いと考えられるが,R-L方向の膨潤/収縮ではほぞ部材のR方向のみが膨潤/収縮すると考えられ,その 際にほぞが加圧収縮を引き起こしたために引抜耐力が減少したと考えられた。SPFの引抜耐力減少量が 比較的小さいことの理由としては,SPF の膨潤/収縮率が小さいために加圧収縮の影響を受けづらかっ たと考えられた。
以上のことから,膨潤/収縮率の大きな樹種を用いて収縮接合を行う場合,湿度変動の小さな環境で 使用することが求められる。なお,本研究のように幅広い湿度変動を経なくても,収縮接合組立直後に ほぞ部材がほぞ孔部材の水分を吸収することで気乾含水率以上になってしまえば,その後の平衡状態に 移る過程でほぞR方向の加圧収縮が起こると考えられた。従って,理想的な収縮接合組立条件として,
組立前からほぞ孔部材の含水率をある程度低くしておくことが有効であると考えられた。
4.2.曲げ試験
4.2.1.曲げ破壊形態の比較
曲げ破壊形態は大きく分けて,ほぞ部での曲げ破壊と,ほぞ年輪界面のせん断破壊の2種類だった。
より細かく分けた場合,以下の 5 つの破壊形態に分類できた。すなわち,A.ほぞの長さ方向に対し 90 度に亀裂が入る“繊維直行型”(図17),B.ほぞの長さ方向に対し 45 度の角度で亀裂が入る“繊維 45 度型”(図18),C.ほぞが引き抜けながらほぞ年輪界面でせん断破壊を起こす“繊維平行型”(図19), D,AとBの複合型である“直行+45度型”(図20),E,BとCの複合型である“45度+並行型”に分 けられた。発生頻度としては,95%以上がほぞ部での曲げ破壊であり,その内訳は繊維直行型と繊維45 度型がそれぞれ50%近くを占めた。繊維平行型はごく一部の比重の高い試験体で見られ,破壊発生過程 としてはほぞが曲げ破壊に耐えて引抜けてくるところでほぞ年輪界面のせん断破壊が発生するといっ たものだった。
破壊形態と比重との関係を見たところ,広葉樹であるミズナラ,ハルニレと,針葉樹であるSPF とで若干傾向が分かれた。広葉樹の湿度変動前の収縮接合では比重が高くなるにつれ繊維直行型破壊の 割合が増える傾向を示し,接着接合でも薄れはするが同様の傾向が見られた。一方,湿度変動後になる と破壊形態はほとんど繊維 45 度型となり,比重の高い一部の試験体で繊維平行型が見られるようにな った。針葉樹では全体的に比重が低いものから高いものへと移るにつれ破壊形態が繊維直行型,繊維45 度型,繊維平行型へと移る傾向が見られた。また,湿度変動前後で特に傾向の変化はなかった。
4.2.2.単調曲げ試験
4.2.2.1.接着接合と収縮接合の比較
単調曲げ試験で得られた曲げ強度及び曲げ剛性と接着/収縮接合の関係を示す(図21)。曲げ強度の,
接着接合に対する収縮接合の比はミズナラ,ハルニレ,SPFで各々1.04,0.92,0.81であり,曲げ剛性 の,接着接合に対する収縮接合の比は各々1.15,0.69,0.72だった。
収縮接合の曲げ強度は3樹種とも接着接合に対して有意差がなかったが,曲げ剛性ではSPFの収 縮接合が接着接合に対して有意に低く,ハルニレにおいても平均値が3割程度低かった。この要因とし て接着剤塗布による接着境界面硬化が考えられた。すなわち,収縮接合の曲げ強度平均値からハルニレ
図 17.繊維直行型
図 18.繊維 45 度型
図 19. 繊維平行型
図 20.直行+45 度型
とSPFはミズナラに比べ材質として曲げ 剛性が低いと考えられるが,接着剤を塗布す ることによりほぞ接着境界面が硬化された ため,接着接合の曲げ剛性が増加したと考え られた。ミズナラにおいて収縮接合曲げ剛性 の方が接着接合に比べ高くなっているのは,
ミズナラの場合,ほぞの部分圧縮剛性が接着 剤塗布による接着境界面硬化に対して十分 大きかったためと考えられた。
以上のことから,ミズナラ程度の部分圧 縮剛性があれば接着剤を用いない収縮接合 でも十分に接着接合並みの曲げ強度及び曲 げ剛性を発揮することが示唆された。
4.2.2.2.収縮接合における湿度変動前後での比較 収縮接合における曲げ強度及び曲げ剛性と
湿度変動前後の関係を示す(図 22)。曲げ強度 の,湿度変動前に対する湿度変動後の比はミズ ナラ,ハルニレ,SPF で各々1.10,1.08,1.11 であり,曲げ剛性の湿度変動前に対する湿度変 動後の比は各々0.85,1.14,1.05だった。各条 件とも湿度変動前後で有意差はなかった。
ミズナラの曲げ剛性以外の条件で平均値が 微増する傾向を示したが,これは湿度変動後の 収縮接合部含水率が湿度変動前と比べ 4%程度 減少したことによるものと考えられた。
0 20 40 60 80 100 120 140 160
曲げ強度 (MPa)
0 200 400 600 800 1000
曲げ剛性 (N・m/rad.)
収 縮 接
着 収
接 縮
着 収
縮 接 着 ミズナラ ハルニレ SPF
0 20 40 60 80 100 120 140 160
曲げ強度 (MPa)
0 200 400 600 800 1000
曲げ剛性 (N・m/rad.)
後 前
ミズナラ ハルニレ SPF 後
前 前 後
図 21.接着/収縮接合の曲げ強度及び曲げ剛性の比較
図 22.湿度変動前/後の曲げ強度及び曲げ剛性の比較
4.2.3.繰返し曲げ試験
交番レベルを単調曲げ試験で得られた比例限度荷重とした 5 回繰返し曲げ試験の結果,曲げ強度/
曲げ剛性の値は単調曲げのものと大きく変わらなかったが,湿度変動後の比較的比重の低い試験体では 1回目のサイクルで初期がたが増大し,2回目以降は一定を保つ傾向が見られた。なお,SPFの最も比 重が低い試験体では2回目以降のサイクルでも初期がたが微増した。
図23に代表的な繰返し曲げ試験の荷重変位曲線を示す。図 23左は湿度変動前における収縮/接着 接合のミズナラや接着接合のハルニレで見られた曲線であり,繰返し部分では方錐型のカーブを描いた。
一方,湿度変動前の収縮接合のハルニレ/SPFや湿度変動後の全試験体においては図23右のような雷型 のカーブが多く見られた。その中でも特に比重の低い材では,図 23 右の青線で示されるような,2 回 目のカーブで大きく初期がたが増加してその後微増していくといったカーブが見られた。なお,接着接 合のSPFでは両者の中間に当たる直線的な繰返しカーブを描いた。
これらのことから,接合部完成時からすでに初期がたがあるような収縮接合では繰返し負荷で初期 がたがさらに増加する恐れがあるが,初期がたが見られない収縮接合であれば,比例限度内の負荷であ る限り初期がたは生じないということが示唆された。
-0.04 -0.02 0 0.02 0.04
-40 -20 0 20 40
-0.04 -0.02 0 0.02 0.04
-50 0 50
X軸:回転角 (radian) Y 軸
: 曲 げ 応 力
( MP a )
図 23.繰返し曲げ試験で描かれるカーブの異なる荷重変位曲線の例
4.2.4.単調/繰返し曲げ試験における初期がたとかん合度の関係
単調曲げ試験と5回繰返し曲げ試験における初期がたの角度別試験体数を比較した表を示す(表3)。
湿度変動によって初期がたが 1/200rad.以上に増加した試験体数は,収縮接合のミズナラ,ハルニレ,
SPFで各々1,8,13体であり,接着接合では各々1,1,0体だった。また,湿度変動前後で1/200rad.
以上の初期がたがをもつ収縮接合試験体数の変化は各々0→1,1→7,6→7 体だった。初期がたが
1/100rad.以上になった試験体数は収縮接合で各々0,3,6体,接着接合で各々0,1,0体であり,湿度
変動前後で1/100rad.以上の初期がたをもつ収縮接合試験体数の変化は各々0→0,1→2,3→3だった。
続いて,収縮接合における初期がたと使用かん合度 R-L との関係を示す(図 21)。使用かん合度
R-L=+0.7mm あたりまではハルニレと SPF で負の相関が見られた。また,ミズナラはハルニレ/SPF
に比べ使用かん合度R-Lの分布域が高い位置にあるため,ハルニレ/SPFと単純に比較することはでき なかった。使用かん合度R-Lの0.4mm~0.7mmの範囲にある湿度変動前と後のハルニレを比較すると,
湿度変動前後で初期がたが増加していた。なお,接着接合における初期がたと組立かん合度R-Lの関係 でも湿度変動前後でごく僅かに初期がたが増加する傾向があったが,収縮接合ほどではなかった(図24)。
これらの結果から,収縮接合においては,使用かん合度 R-Lの低さが初期がたを増大させること,
並びにハルニレに関しては湿度変動によっても初期がたが増加することが示唆された。後者の要因とし て,ハルニレは湿度変動に伴う加圧収縮の発生が考えられた。一方,SPFにおいて,湿度変動前後に 初期がたが増加した試験体数が1体のみと少なかったのは,単純に使用かん合度が低かったために湿度 変動前の時点で初期がたをもつ試験体数が多かったからと考えられた。
以上のことから,初期がたの抑制には,使用かん合度の高さと湿度変動を避けることが重要である と考えられた。なお,本研究の結果のみではわからなかったが,部分圧縮剛性と初期がたの間にも関係 があるように思われるため,今後の研究に期待したい。
前 0.65 12 0 0
後 0.65 11 1 0
前 0.65 12 0 0
後 0.66 11 1 0
前 0.55 7 0 1
後 0.56 5 5 2
前 0.54 12 0 0
後 0.57 9 0 1
前 0.42 8 3 3
後 0.42 7 4 3
前 0.47 11 0 0
後 0.47 12 0 0
表.3 初期がた角度別試験体数の比較
1/100≦θ 1/200≦θ <1/100
全乾
比重 θ <1/200
初期がた(θ rad.)の角度別試験体数
ミズナラ
収縮 酢ビ ハルニレ
収縮 酢ビ SPF
収縮 酢ビ
湿 度 変
単調曲げ
+5回繰 返し曲げ
荷重方法 接合種
樹種 類
-0.01 -0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02
-0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
ミズナラ 湿度変動前 ミズナラ 湿度変動後 ハルニレ 湿度変動前 ハルニレ 湿度変動後 SPF 湿度変動前 SPF 湿度変動後
-0.01 -0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025
図 24.収縮/接着接合における初期がたと使用/組立かん合度 R-L の関係 接着接合
組立かん合度 R-L 収縮接合 使用かん合度 R-L
初期がた(rad.)
5.総括
グリーンウッドワークにおける丸ほぞ収縮接合の性能評価をするため,T型およびL型試験体を用 いて引抜および単調/5回繰返し曲げ試験を湿度変動前後に分けて行った。なお,このときの組立時ほぞ 乾燥基準はT方向のほぞ径(ほぞ乾燥レベルA)とした。また,組立時ほぞ乾燥基準を全乾状態(ほぞ 乾燥レベルB)としたT型試験体に対しては湿度変動前の引抜試験のみを行った。その結果を以下に要 約した。
1,湿度変動前の収縮接合引抜耐力には,①部分圧縮剛性,②膨潤/収縮性能,③組立/使用かん合度と いう3つの因子が大きな役割を果たすと考えられた。
2,湿度変動前において,接着接合に対する収縮接合(ほぞ乾燥レベルA)の引抜耐力比は,ミズナラ,
ハルニレ,SPF で各々,0.79,0.13,0.04 であり,同比(ほぞ乾燥レベル B)は,0.76,0.50,0.07 だった。
3,ほぞ乾燥レベルAにおいて,湿度変動前に対する湿度変動後の引抜耐力比は,ミズナラ,ハルニレ,
SPFで各々0.28,0.27,0.73であり,ミズナラのように湿度変動前に高い引抜耐力を呈した樹種でも湿 度変動によって大きく耐力を減少させることが示唆された。この理由としてほぞR方向の加圧収縮が考 えられた。また,組立直後の加圧収縮を抑制するなら,組立前からほぞ孔部材の含水率を気乾状態近く まで低くしておくことが有効であると考えられた。
4,曲げ破壊形態は,95%以上がほぞ部での曲げ破壊で,残りがほぞ年輪界面でのせん断破壊だった。
ほぞの曲げ破壊の内訳は“繊維直行型”と“繊維45度型”がそれぞれ50%弱を占めた。
5,曲げ強度の,接着接合に対する収縮接合の比はミズナラ,ハルニレ,SPFで各々1.04,0.92,0.81 であり,接着接合と収縮接合の間に有意差はなかった。
6,曲げ剛性の,接着接合に対する収縮接合の比はミズナラ,ハルニレ,SPFで各々1.15,0.69,0.72 であり,SPF を除き接着接合と収縮接合の間に有意差はなかった。SPF の接着接合が収縮接合に対し 有意に大きかったのは接着剤塗布による接着境界面硬化のためと考えられた。
7,曲げ強度の,湿度変動前に対する湿度変動後の比はミズナラ,ハルニレ,SPF で各々1.10,1.08,
1.11であり,湿度変動前後で有意差はなかった。
8,曲げ剛性の,湿度変動前に対する湿度変動後の比はミズナラ,ハルニレ,SPF で各々0.85,1.14,
1.05であり,湿度変動前後で有意差はなかった。
9,5回繰返し曲げ試験では,曲げ強度/曲げ剛性の値は単調曲げのものと大きく変わらなかったが,湿 度変動後の試験体で比重が低いものに関しては1回目のサイクルで初期がたが増大し2回目以降は一定 を保つという傾向が見られた。なお,SPFの最も比重が低い試験体では2回目以降のサイクルでも初期 がたが微増した。
10,単調/繰返し曲げ試験の結果,使用かん合度の低さが初期がたを増加させること,並びに収縮/膨潤 率の高いハルニレのような樹種では湿度変動によって初期がたが増加する恐れがあることが示唆され た。従って,初期がたを抑制するためには,使用かん合度R-Lの高さと湿度変動の抑制が重要であると
考えられた。
以上,10点の要約から以下の3点が提言できた。
A.収縮接合は湿度変動に弱く,特に引抜耐力を大きく低下させるため,できるだけ湿度変動の少ない 環境で使用するか,引抜力のかかる位置での収縮接合の使用を避ける,もしくは引抜耐力をカバーする 設計が求められる。
B.力学的性能の高い収縮接合を製作するためには①部材の部分圧縮剛性の高さ,②部材の膨潤/収縮率 の高さ,③組立かん合度の高さ,④使用かん合度の高さ,⑤組立時のほぞ部材含水率が気乾状態より十 分低いこと,⑥養生時の加圧収縮を抑制するため,組立時のほぞ孔部材含水率を気乾状態に近くするこ と等が重要と考えられ,これらの条件を満たせば接着接合に近い性能を示すと考えられる。
C.本研究においては,ミズナラは収縮接合に最も適し,SPFは適さず,ハルニレはその中間の適性を
もつといえる。
Bの各項目は相互に関連したものがいくつかある。例えば,②と③を高いレベルで両立しようとす ればR-L方向での加圧収縮の恐れが高まるだろう。また,③と⑥で割れのリスクが増加し,⑥は④を打 ち消す関係にある。⑤をやりすぎると②を低下させかねず,①の追究は結果的に手加工というグリーン ウッドワークの魅力と相性が悪い。
このような中,長い歴史を持つグリーンウッドワークの現場においては既に上記の課題に対する解 決策がいくつか存在している。例えば,引抜耐力を維持する手法として,ほぞ先のかえし(三角形状の 溝),込栓,クロスロックジョイント(直角方向に 2 本の貫が入る接合部分において,片方の貫が込栓 に似た役割を果たす接合方法),樹皮を用いた編み座による締め付けなどの工夫がそれにあたる。また,
世界の各地域に属したグリーンウッドワーカーたちは,すでに経験的にその地域のグリーウッドワーク に最適な樹種や加工法を知っているかもしれない。
このような意味では,本研究の結果からだけでは,とてもとまでは言わなくても,未だ実用に直結 した新たな提言はできていないといえる。筆者としては,今回の研究が次のグリーンウッドワーク研究 や現場のグリーンウッドワーク活動のヒントになること,そして,グリーンウッドワークの世界が今も つ魅力だけでなく,科学的知見にも満ちたより面白い世界になることを願っている。
謝辞
本研究を行うにあたり,多くの関係者にご協力頂いた。北海道大学農学院の平井卓郎教授,沢田圭 助教授には細部に関する指導を頂き,佐々木義久技官には冷静沈着な実験装置の準備と取り扱いの指導 を頂いたほか,暖房設備故障の相談にものって頂いた。また,人工気象制御装置を貸して頂いた樹木生 物学研究室の方たちの寛大なる御心に厚く御礼申し上げる所存である。そして,グリーンウッドワーク に関する基礎技術,知識ならびに文献等をご教授頂いた井丸富夫さまには特別な感謝を込めると同時に,
グリーンウッドワーク普及活動のますますのご発展を願う所存である。ともに頑張りましょう。最後に,
本報の作図制作をはじめ学生生活を通して様々なイベント創作活動で関わってきた木材工学研究室の 友人たちと,私の学部/院時代の長期にわたる研究指導全般及び家具製作の指導ならびに生きる指針を授 けてくださった我らが小泉章夫准教授には言葉には表しきれない感謝の意をなんとか表面だけでもこ こに表したい。皆様,長い間,本当にありがとうございました。
参考文献
1)Mike Abbott: ”Living wood –From buying a wood land to making a chair-“, Living Wood Books, 2002.
2)Stephanie Stone: “Woodwork”, pp26-34, p80, June, 2005.
3)Alexander J.: “Making a Chair from a Tree: An Introduction to Working green Wood”, Enlanged Ed., Astragal Press, Mendham, NJ.
4)C. Eckelman, E. Haviarova, A. Tankut, N. Denizli, H. Akcay, Y. Erdil: Forest Products Journal, 54, 185-191 (2004).
5)E.Mougel, C.Segovia, A. Pizzi, A. Thomas: Journal of Adhesion Science and Technology, 25, 213-221, 1-3(2011).
5)“木質の物理”,日本木材学会編,文永堂出版,2007,p.59.
6)“木材工業ハンドブック”,林業試験場編,日本木材加工技術協会,1973,p235.
巻末資料
P(N) C.V. σ(MPa) C.V. K(N・m/rad.) C.V.
前 0.65 16.0 2129 0.15 0.65 13.4 107.1 0.18 754 0.14
後 0.64 9.4 606 0.15 0.64 9.0 118.2 0.14 639 0.08
前 0.65 11.8 2694 0.18 0.66 13.1 103.0 0.14 658 0.18
後 0.66 8.8 2220 0.28 0.67 8.8 118.9 0.20 556 0.21
前 0.79 1.04 1.15
後 0.27 0.99 1.15
前 0.58 13.7 325 0.40 0.54 12.0 79.9 0.14 367 0.14
後 0.56 8.9 87 0.41 0.56 8.2 86.1 0.29 418 0.32
前 0.55 12.2 2523 0.17 0.56 12.4 87.2 0.23 534 0.34
後 0.55 8.8 1484 0.45 0.59 8.3 108.5 0.23 612 0.32
前 0.13 0.92 0.69
後 0.06 0.79 0.68
前 0.40 12.1 131 0.66 0.41 12.2 75.1 0.09 466 0.13
後 0.40 9.1 184 1.11 0.42 8.7 83.5 0.17 489 0.21
前 0.47 11.5 2975 0.19 0.48 11.8 92.4 0.11 644 0.18
後 0.47 9.0 1551 0.52 0.47 8.4 93.1 0.16 603 0.16
前 0.04 0.81 0.72
後 0.12 0.90 0.81
Note: P比(後/前),引抜耐力の、湿度変動前に対する後の比。曲げ強度(σ)、曲げ剛性(K)についても同じ。
曲げ強度σは、ほぞ直径を15.5mmとした場合の公称値。
引抜耐力 曲げ強度 曲げ剛性
L型 単調曲げ
σ比(後/前) K比(後/前)
含水率
(%)
含水率
(%)
接合耐力(平均値)の比較 T型 引抜
樹種 接合タイプ
とその比 湿度
変動 全乾
比重 P比(後/前) 全乾
比重
ミズナラ
収縮 0.28 1.10
収縮/接着
0.85
接着 0.82 1.15 0.84
ハルニレ
収縮 0.27 1.08
収縮/接着
1.14
接着 0.59 1.24 1.15
SPF
収縮 1.40
収縮/接着
接着 0.52
1.05 0.94 1.11
1.01
ミズナラ
X軸:変位(mm)Y軸
: 荷 重
(N)
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
比重:大~小
湿度変動後 湿度変動前
収 縮 接 合
酢 ビ
ミズナラの引抜試験における荷重変位曲線
湿度変動後 湿度変動前
収 縮 接 合
酢 ビ
ハルニレ
X軸:変位(mm)Y軸
: 荷 重
(N)
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20
0 1000 2000 3000
比重:大~小
ハルニレの引抜試験における荷重変位曲線
湿度変動後 湿度変動前
収 縮 接 合
酢 ビ
SPF
X軸:変位(mm)Y軸
: 荷 重
(N)
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
0 10 20 30
0 1000 2000 3000
比重:大~小
湿度変動後 湿度変動前
収 縮 接 合
酢 ビ
SPFの引抜試験における荷重変位曲線
25
0 0.1 0.2 0.3
0 100
20000 0.1 0.2 0.3
100 200
0 0.1 0.2 0.3
0 100
20000 0.1 0.2 0.3
100 200
0 0.1 0.2 0.3
0 100
0 0.1 0.2 0.3
0 100
-0.1 0 0.1 0.2 0.3
0 100
-0.1 0 0.1 0.2 0.3
-100 0 100
収 縮 接 合
酢 ビ 収 縮 接 合
酢 ビ 湿度変動後
湿度変動前
曲げ応力( MP a )
X軸:回転角(radian) 比重:大~小
ミズナラの曲げ試験における荷重変位曲線
0 0.1 0.2 0.3 0
50 100 150
0 0.1 0.2 0.3
0 50 100 150
0 0.1 0.2 0.3
0 50 100 150
0 0.1 0.2 0.3
0 50 100 150
-0.1 0 0.1 0.2 0.3
0 100
-0.1 0 0.1 0.2 0.3
0 100
-0.1 0 0.1 0.2 0.3
0 100
-0.1 0 0.1 0.2 0.3
0 100
収 縮 接 合
酢 ビ 収 縮 接 合
酢 ビ
湿度変動後 湿度変動前
曲げ応力( MP a )
X軸:回転角(radian) 比重:大~小
ハルニレの曲げ試験における荷重変位曲線
0 0.1 0.2 0.3 0
50 100
0 0.1 0.2 0.3 150
0 50 100 150
0 0.1 0.2 0.3
0 50 100
150 00 0.1 0.2 0.3
50 100 150
0 0.1 0.2 0.3
0 100
0 0.1 0.2 0.3
0 100
-0.1 0 0.1 0.2 0.3
0 100
-0.1 0 0.1 0.2 0.3
0 100
収 縮 接 合
酢 ビ
収 縮 接 合
酢 ビ
湿度変動後 湿度変動前
曲げ応力( MP a )
X軸:回転角 (radian) 比重:大~小