• Tidak ada hasil yang ditemukan

ゲノム育種からエピゲノム育種へ - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "ゲノム育種からエピゲノム育種へ - J-Stage"

Copied!
7
0
0

Teks penuh

(1)

はじめに:ゲノムに基づく育種

生物を人が望むように作り替える「育種」活動は,農 耕の開始以来,バイオテクノロジーの基本であり続けて きたし,進化と遺伝子に基づく現在の生命観の出発点と なった.今世紀に入ってからの,ゲノム・オーミクスレ ベルでの生命理解の飛躍的進展を,育種にどう活かすか が,バイオテクノロジーの最重要課題の一つとなってい る.とくに,ゲノム配列情報が爆発的に蓄積し,イネを はじめとする栽培植物,ウシ,カイコなどの動物で,種 内の多数系列のゲノム配列が得られ,「ゲノムに基づく 育種」への探索が始まっている.

このような遺伝子・ゲノムのレベルでの生命理解の,

先端を走ってきたのは微生物である.全ゲノム,トラン スクリプトーム,プロテオームを解読し,全遺伝子を ノックアウトして,機能を網羅的に解析することが,大 腸菌,酵母などでまず行われた.微生物を利用した産業 では,早くからわが国が世界をリードしてきた.そこで は,個別遺伝子だけでなく全ゲノム配列に基づいた代謝 経路の改変が行われている.しかし,それらから明らか になったのは,細菌でさえ生命活動の理解が不十分であ ることであり,それが既存知識に基づく合理的デザイン による育種の限界となっている.

一方,デザインによるアプローチに対して,「生物が 実際に行っている適応進化から学ぶ」という「進化的ア

プローチ」も,ゲノム情報を利用して行われ始めた.昔 ながらの「生物を突然変異誘発原(試薬,放射線など)

で処理したのち,望む形質をもつ系統をスクリーンす る」という方法では,得られる適応的な変異はごく僅か で,ほかは無関係あるいはむしろ有害な変異であること が,全ゲノム解読から明らかになった.変異原処理なし に,選択条件で数千世代にわたって培養を継続し,ゲノ ムを解読して,生き残りに寄与した突然変異を探るとい う「実験進化」アプローチ(1)は,適応進化のしくみを一 つひとつ明らかにしながら,微生物育種に貢献し始めて いる.しかし,この方法は,原理的に見通しが立てにく く,世代時間が僅か半時間の大腸菌でも月単位の時間が かかり,非効率であることが,実用化での困難になって いる.

エピゲノムを変える育種

では,どのようにすれば,ゲノム情報オーミクス情報 に基づく生命理解と,それをフルに利用した育種が可能 になるのだろうか? 私たちは,「DNA配列によらない で子孫細胞に遺伝する状態」である「エピジェネティッ クな状態」(エピゲノム)に注目する.「ゲノムのエピ ジェネティックな状態(エピゲノム)を作り替えること によって,複数の遺伝子の発現を足並みそろえて変化さ

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

セミナー室

合成生物学を意識した核酸改変技術の現状と展望-1

ゲノム育種からエピゲノム育種へ

小林一三

東北大学大学院生命科学研究科,杏林大学医学部

(2)

せ,選択の対象となる多様性を創り上げる」という形の 進化を生物がしてきたことは,植物・微生物で想像され てきた(図1.本稿で述べる私たちの研究(2)は,この

「エピジェネティック駆動進化モデル」に,証拠を与え る.この,生物が進化に使ってきたやり方をまねること で,現状の合理的方法,実験進化法を乗り越える,有効 な育種技術が実現できるだろう.

ゲノムDNAのメチル化

ヒストン修飾,スモールRNAなど,さまざまなエピ ジェネティクスの仕組みの中でも,私たちが注目するの は,DNAのメチル化である.細菌のDNAメチル化系 は,ほとんどが高いDNA配列特異性(4〜8 bp)をも

つ.たとえば,EcoRIメチル化酵素は,5′-GAA TTCを 認識して,メチル基(‒CH3)を転移し,5′-GAmATT C

(mA=N6メチルアデニン)とする.原核生物のDNA の塩基のエピジェネティックなメチル化としては,N6 メチルアデニンのほかにN4メチルシトシン,5メチル シトシンを作るメチル化がある(図2

DNAメチル化酵素は,多くの場合,それによってメ チル化されていないDNAを破壊する制限酵素と組んで 制限修飾系を作り(図3上),遺伝的系列の隔離をもた らす(図3下).これに対して,単独で存在するDNAメ チル化酵素もある.一つのDNAメチル化系の有無は,

図1適応進化の2つのモデル

図2エピジェネティックなDNA塩基のメチル化(15)

原核生物で見られる3種類.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

連載開始にあたって:合成生物学を意識した核酸改変技術の現状と展望 本セミナーは合成生物学を意識し,特に「核酸改変」の

視点で企画した.まだ若いこの学問領域の歴史や重要性,

その他の倫理的問題はほかの情報源に譲るが,国内では既 に「細胞を創る研究会」や新学術領域研究「合成生物学

(略称)」などでの研究活動がある.

システム生物学に代表されるように,生物を構成要素に 分けそれら機能や相互作用を通しシステムを理解するトッ プダウン(解析的)アプローチとは異なり,合成生物学は ボトムアップ(構成的)である.この研究領域の目標の一 つとして「人工細胞」創成による有用物質生産等の応用が 設定されている.これらはお互いに異なる生物由来の酵素 遺伝子(部品)などを組み合わせて人工的に代謝経路を設 計し,物質生産のための細胞システムを作り上げる(=ボ トムアップ)試みである.しかしどの目標に向かうにも

「核酸改変」は必須な技術である.本企画では,学問的に も技術的にも核酸改変に関して新たな試みを行い,かつ合 成生物学的指向で研究されている研究者の最新知見の紹介 をお願いした.歴史的には生化学・分子生物学・遺伝子工 学がもたらした「核酸改変技術」の新しい技術が,将来の

合成生物学への貢献だけでなく,生物進化による遺伝的要 素と機構への問題提起となるよう構成した.

第1回  ゲノム育種からエピゲノム育種へ(小林一三・東 北大)

第2回  ゲノム縮小株作製による生育に重要な遺伝子群の 解析(加藤潤一・首都大学東京)

第3回  細胞外核酸を利用した簡便で迅速な形質転換系の 確立(金子真也・東工大)

第4回  ゲノム再編成のための機能クラスター単位の構築

(柘植謙爾・神戸大)

第5回  非天然型核酸を利用する:DNA合成複製可能な 人工塩基対を組み込んだDNAを創る(平尾一 郎・理研)

本セミナーにより多くの研究者に合成生物学に興味をもっ ていただければ幸いである.

(仲宗根 薫,近畿大学工学部科学生命工学科;板谷光 泰,慶應義塾大学先端生命科学研究所)

(3)

一つの細菌ゲノムの,ときには数百数千にもなるサイト のメチル化の有無を支配する.個々のサイトでのメチル 化は,近傍の遺伝子の発現に影響を及ぼす場合が知られ ている.「分化」と「適応」という生物進化の2つの条 件を,制限修飾系は兼ね備えていることになる.

「動く利己的遺伝子」としての制限修飾系

私たちは制限修飾系が,ウイルスやトランスポゾンの ような「利己的な動く遺伝子単位」であることに気がつ き,その解析を進めてきた(3, 4)

そのきっかけは,制限修飾系遺伝子によるホスト細菌 攻撃である(5).制限修飾系遺伝子を失った細胞系列で は,複製された染色体にメチル化されていない認識配列 が現れる.そこを残った制限酵素分子が攻撃する.それ が修復されない限り,細胞は死に至る.この過程は,

「分離後細胞死」あるいは「遺伝的中毒」と呼ばれ,

EcoRIなどII型と呼ばれる制限修飾系に共通に見られ る.この「分離後細胞死」が,制限修飾系とそれと連鎖 した遺伝単位が,ほかの遺伝因子と排他的な競争をする うえで有効であることは,数理生態モデルからも支持さ れた(6)

制限修飾系遺伝子がトランスポゾンと同様に,ゲノム の間を動き回る事,近隣部分にゲノム再編を引き起こす ことが,ゲノム配列解析と実験とから明らかになっ

(4).さらに,制限修飾系には,ウイルスのような遺伝 子発現制御と相互競争が見られる(7)

制限修飾系の3つの型

図4に 制 限 修 飾 系 の3つ の タ イ プ を 示 し て い る.

EcoRIのようなII型では,制限酵素(R)は,認識配列 内あるいはその近くで,非メチルDNAを切断する.こ れとは別のタンパク質に,修飾酵素(DNAメチル化酵 素,M)活性が存在する.それぞれが,標的配列を認識 する.

III型の制限修飾系(図4下)は,標的DNAを認識す るドメインを備え単独でメチル化活性をももつModタ ンパク質と,それに結合することによって制限活性を示 すResサブユニットからなる.切断は認識配列から一定 の距離のところで起きる.

I型の制限修飾系(図4上)は,標的DNAを認識する 配列特異性サブユニット(S),メチル化する修飾サブ ユニット(M),切断する制限サブユニット(R)から なる.SM複合体で修飾活性,SMR複合体で制限活性  を示す.その認識配列は,特異的な配列2つとそれら  をつなぐ一定の長さの非特異的な配列(たとえば,

NNNNNNNN=N8)からなっている(図5左).Sサブ ユニットには,2つの標的配列認識ドメインTRD1と TRD2があり,それぞれが端の特異的な配列を認識す

図3制限修飾系の作用

(上)修飾酵素は特定の塩基配列(ボックス)

にメチル基を転移する.このIDをもたない DNAは,制限酵素によって破壊される.損 傷には,リン酸ジエステル結合の加水分解 と,塩基の切り出しがある.(下)制限修飾 系は,自己と非自己の区別によって遺伝的隔 離を引き起こすだけでなく,ゲノムの多数の 特定のサイトのメチル化によって特定の遺伝 子発現パターンを,そしておそらく特定の形 質セットを,もたらす.これら2つの働きに よって,制限修飾系は適応進化に貢献するの かもしれない.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(4)

る.Sサブユニットの中央にある繰り返し配列の数に よって,標的DNA配列の中央のNの数が量られる場合 がある.

I型制限酵素の作用については,「SMR複合体が未メ チル化サイトを認識すると,そこからDNAをたぐり寄 せていき,もう一つのSMR複合体に出会うと,そこで DNAを切断する」という,奇妙なモデルが提唱されて い た.私 た ち は,I型 制 限 酵 素 が モ デ ルDNA複 製 フ ォ ー ク を 切 断 す る こ と を 示 し(8),「SMR複 合 体 が DNAをたぐり寄せていき,停止している複製フォーク に追いつくと,そこでDNAを切断し,細胞死を引き起 こす」というモデルを提唱している.

制限修飾系の動き

制限修飾系遺伝子の「動き」の単位は,さまざまであ る.プラスミドやファージのような大きな「動く遺伝 子」に乗って動く場合も,制限修飾系遺伝子単位で動く 場合もある.後者については,DNA型トランスポゾン そっくりで,短い標的配列繰り返しを挿入の両側に作り 出すものがある(9).また,100塩基対程度の長い標的配 列繰り返しを作り出しながら挿入するというユニークな 挿入モードも見られる(10).このような長い繰り返しに 挟まれた制限修飾系遺伝子(X‒RM‒X)は,縦に繰り 返 す 重 複 構 造(X‒RM‒X‒RM‒X‒RM‒X‒RM‒X‒RM‒

X‒RM‒X)を作り出すことがある(11).分子進化解析か ら,制限遺伝子と修飾遺伝子が別々になる場合も,知ら れている.

ところで,これまで知られている中で,最も多数の制 限修飾系遺伝子をもっているのはピロリ菌という細菌で ある.この菌は,世界人口の半数の胃に幼年期から住み 着いて,ついには胃がんなどの疾患を引き起こす.その ピロリ菌の複数のゲノム配列を比較することによって,

動きの単位が標的認識ドメインである場合がわかった.

III型の制限修飾系がメチル化する配列を認識する  ドメイン(Target recognition domain; TRD)(図4下)

には,さまざまなアミノ酸配列グループがあった.それ らは,異なる座の遺伝子にコードされるModタンパク 質の間を飛び移る(12).そのもとにあるのは,標的配列 認識ドメインをコードする遺伝子部分の,異なる座の遺 伝子への組換えである.驚いたことに,これらのドメイ 図4制限修飾系の3つの型

R, restriction; M, modification; S, specificity; TRD, target recogni- tion domain.

図5I型制限修飾系の認識配列変換

(左)配列認識サブユニットによる標的配列 認識.ドメイン1で一方の端の配列を,ド メイン2で他方の端の配列を認識する.2つ のドメインの間にある反復配列の繰り返し 数によって,2つのDNA配列の間の距離

(Nの数)を量る.アミノ酸配列が,ドメイ ン1とドメイン2の間を動くことがあり,ド メ イ ン 移 動(Domain Movement; DoMo)

と呼ばれる.(右)ピロリ菌株での,配列認 識サブユニットと認識されるDNA配列.ド メインの一つの色は,ほとんど同じアミノ 酸配列を表している.P12株とF57株を比 較すると,cグループについてドメイン移動 があったことがわかる.文献2より改変.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(5)

ン配列のいくつかは,系統の垣根を超えて全細菌界に広 がっていた.

I型の制限修飾系についても,2つの標的認識ドメイ ンの動きが発見された.それを説明する前に,実験によ るメチローム測定について述べておこう.

一分子リアルタイムシーケンシングによるメチロー ム解読

上のゲノム比較の結果は,「これらの制限修飾系が認 識配列を頻繁に取り替える」ことを示唆していた.それ を検証すべき時期にタイミングよく現れたのが,第三世 代のシーケンサー Pac Bioマシンによる「一分子リアル タイムシーケンシング」技術である(図6

この方法では,一分子のDNAポリメラーゼが個室に 固定される.そこにDNAを与えると,その配列に応じ て,異なる蛍光でラベルされているATG Cのうちのい ずれかの先駆体が,次々とDNAに取り込まれる.それ を映画に撮れば,鋳型DNAの配列がわかる.20 kb程度 と,これまでの方法に比べて飛躍的に長くDNA配列を 読むことができる.さらに,鋳型にメチル化などの修飾 があれば(N6メチルアデニン,N4メチルシトシン), 合成が遅れるので,どの塩基がメチル化されているかが わかる.

細菌メチロームの多様性

図7に示すのは,このようにして解明されたピロリ菌 5株のある遺伝子のメチル化状態である(2).株によって メチル化の程度もパターンも異なる.その生物学的意義 の解明は,これからの大きな課題である.

近縁株の間でゲノム配列(遺伝子構成)とメチル化さ れるDNA配列モチーフを比べることによって,それら を対応づけることができた.図5右に,ある遺伝子座に あるI型の制限修飾系の配列特異性決定遺伝子の場合を 示す.TRD1には多数のアミノ酸配列のレパートリーが あり,異なるDNA配列を認識している.これらは,相 同組換えでとり変わるだろう.TRD2も同様である.

TRD1とTRD2で同じ(あるいはほとんど同じ)アミノ 酸配列がある場合は,それらをコードする遺伝子配列が 遺伝子内(TRD1とTRD2の間)で移動したと考えられ る.これは,ゲノム配列比較から予想されていた反応 で,ドメイン移動(Domain Movement, DoMo)と名づ

図7細菌メチロームの一部

ピロリ菌の 遺伝子.ある色の棒は,あるDNA配列でのメチ ル化を示す.F16〜F57は,ゲノム配列のよく似た日本株.文献2 より改変.

図6一分子リアルタイムシーケンシング 技術によるメチローム解読

第3世代シーケンサー(Pac Bioマシン)に よる(16).文献17より改変.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(6)

けられたものである.「遺伝子内の遺伝子変換」とも呼 べる,新しい組換えの仕組みである.

そのほかに,TRD1とTRD2の間の繰り返し配列の数 によって,メチル化モチーフの中央部分が変わる.これ らのバリエーションを考えると,この座だけで,10×10

×10=103程度のメチル化パターンが可能になる.ピロ リ菌ゲノムには,少なくとも20個程度のメチル化配列特 異性を決める遺伝子があるので,全体として実現できる メチル化パターンの多様性は,天文学的な数字になる.

遺伝子発現への影響

このようなメチロームの多様性は,何のためにあるの だろうか? それぞれが,ゲノムの異なるサイトのセッ トのメチル化によって,固有の遺伝子発現パターンを成 立させ,固有の形質セットを実現することが想像される

(図8

実際I型の制限修飾系の特異性決定遺伝子の一つを ノックアウトして,トランスクリプトーム解析をする と,一塊の遺伝子の発現が上がっていた.そこには,そ の制限修飾系の認識するメチル化モチーフが3つあり,

最も上流のものは,長いパリンドロームの中に埋め込ま

れていた.このパリンドロームに対称的なタンパク質な どが結合することに,メチル化が影響し,この遺伝子塊 の発現を変えることが,示唆された(図9

メチロームを変えるそのほかのしくみ

メチル化酵素の遺伝子内に単純反復配列(CCC CCC のような)があると,それの伸び縮みによって,フレー ムシフトが起こり,遺伝子が壊れる.それによって,一 群の遺伝子の発現が影響される場合が知られており,相 変異(phase variation)と呼ばれている.単純反復配列 の伸び縮みが,遺伝子の上流の非翻訳領域にあって,遺 伝子発現がON/OFFされる場合も,同じことになる.

制限修飾系は自分自身の発現を制御するさまざまな仕 組みを備えている(13).ある場合にはメチル化酵素のN 端が転写因子として働き,別の場合には,独立の転写制 御因子が制限修飾遺伝子に連鎖する.また,アンチセン スRNAによる制御も知られている(14)

おわりに:エピゲノム育種への道

以上の結果は,「さまざまなきっかけによって,メチ ロームがさまざまに変貌し,それにともなって遺伝子発 現パターンと形質が変貌する.それらが進化の素単位と なる」という遺伝と進化の考え方を支持する(図8). この複雑なネットワーク,形質との関係,メチロームの 変換を引き起こすしくみについて,現在研究が進められ ている.これらの解析は,一塩基分解能のメチローム解 読と結びついているので,エピジェネティックスのさま ざまな研究のなかでも,明快な結果を産み出す可能性が ある.

以上の研究成果は,「ゲノムではなくエピゲノムを標 的とした育種」への道を開く.具体的には,DNAメチ ル化酵素のDNA配列特異性をさまざまな方法で変える ことによって,遺伝子発現パターンと形質パターンを変 え,得られる多様なエピゲノムに選択をかけるという方 法である.そのような「エピゲノム育種」技術が実現す れば,微生物発酵産業で有用物質の生産に貢献し,藍藻

図9I型制限修飾系の配列特異性遺伝子に よって発現が影響される遺伝子塊

A.  ノックアウトによって,4つの遺伝子の発 現が上昇する.それらには,赤い棒で示すメ チル化サイトがある.B.  最も上流のメチル化 サイトは,長いパリンドローム配列に埋め込 まれた形になっている.文献2より改変.

図8エピジェネティックス駆動進化モデル

ボックスは一つの個体(系列)を,輪はほとんど同じゲノム配列 を,旗はそれぞれに異なるメチル化などのエピジェネティックな 修飾を示す.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(7)

あるいは光合成細菌による光合成,希少資源の獲得,環 境のバイオレメディエーションなど,さまざまな目的で の細菌の育種に活用されるだろう.その技術は,現在の 最先端の育種法である「ゲノム改変による合理的デザイ ン」と「多数世代の選択培養による実験進化」による育 種を,置き換えあるいは相補することになるであろう.

たとえば,これまで手の付けようがなかった複雑な代謝 ネットワークに依存する物質,全く合成経路のわからな い物質の生産にも,利用できる可能性がある.物質生産 だけでなく,複数のストレスへの耐性など,複数の形質 を同時に複合的に向上させる必要があるという場面で も,力を発揮することだろう.「エピゲノム育種」の成 立は,微生物だけでなく植物・動物での育種の根本の考 え方をも変革すると予想される.

文献

  1)  Y.  Asakura,  H.  Kojima  &  I.  Kobayashi: 

39, 9034 (2011).

  2)  Y.  Furuta,  H.  Namba-Fukuyo,  T.  F.  Shibata,  T.  Nishi- yama, S. Shigenobu, Y. Suzuki, S. Sugano, M. Hasebe & 

I. Kobayashi:  , 10, e1004272 (2014).

  3)  I. Kobayashi:  , 29, 3742 (2001).

  4)  Y. Furuta & I. Kobayashi: “Bacterial Integrative Mobile  Genetic  Elements,”  ed.  by  A.  Roberts  &  P.  Mullany,   Landes Bioscience, pp. 85‒103, 2013.

  5)  T.  Naito,  K.  Kusano  &  I.  Kobayashi:  , 267,  897  (1995).

  6)  A. Mochizuki, K. Yahara, I. Kobayashi & Y. Iwasa: 

172, 1309 (2006).

  7)  K.  Ishikawa,  E.  Fukuda  &  I.  Kobayashi:  , 17,  325 (2010).

  8)  K.  Ishikawa,  N.  Handa  &  I.  Kobayashi: 

37, 3531 (2009).

  9)  Y. Furuta, K. Abe & I. Kobayashi:  , 38,  2428 (2010).

10)  A.  Nobusato,  I.  Uchiyama,  S.  Ohashi  &  I.  Kobayashi: 

259, 99 (2000).

11)  M.  Sadykov,  Y.  Asami,  H.  Niki,  N.  Handa,  M.  Itaya,  M. 

Tanokura & I. Kobayashi:  , 48, 417 (2003).

12)  Y.  Furuta  &  I.  Kobayashi:  , 40,  9218  (2012).

13)  I. Mruk & I. Kobayashi:  , 42, 70 (2014).

14)  I. Mruk, Y. Liu, L. Ge & I. Kobayashi:  ,  39, 5622 (2011).

15)  R. M. Blumenthal & X. Cheng: “Modern Microbial Genet- ics,” 2nd edition, ed. by R. E. Yasbin and U. N. Streips,  Wiley, pp. 177‒225, 2002.

16)  T. A. Clark, I. A. Murray, R. D. Morgan, A. O. Kislyuk,  K. E. Spittle, M. Boitano, A. Fomenkov, R. J. Roberts & J. 

Korlach:  , 40, e29 (2012).

17)  Pacific Biosciencesホームページ:http://www.pacificbio- sciences.com/

プロフィール

小林 一三(Ichizo KOBAYASHI)

<略歴>東京大学理学部卒/同大学院修了

(薬学博士)/同医科学研究所助手/Re- search Associate at Institute of Molecular  Biology, University of Oregon/東京大学 医学部助手/国立小児医療研究センター研 究員/東京大学医科学研究所助教授/同大 学大学院新領域創成科学研究科教授(2015 年度定年退職)<研究テーマと抱負>細菌 のゲノミクスとエピジェネティックス.エ ピゲノム育種<趣味>本を読む,バロック 音楽を聴く,バレーボールを見る 仲宗根 薫(Kaoru NAKASONE)

<略歴>1987年琉球大学理学部海洋学科 卒業/1994年同大学大学院医学研究科博 士 課 程 修 了/1994年 海 洋 科 学 技 術 セ ン ター(現;海洋研究開発機構)深海環境プ ログラム博士研究員/2001年近畿大学工 学部助教授/2007年同准教授/2008年同 教授,現在に至る<研究テーマと抱負>

(分子生物学・ゲノム情報を基盤とした)

極限環境微生物学(深海微生物・高度好塩 古細菌)と発酵微生物学(泡盛黒麹菌・泡 盛酵母・乳酸菌)<趣味>楽器・ギター製 作,怪異見聞(妖怪や物の怪に関する民俗 学)

板谷 光泰(Mitsuhiro ITAYA)

<略歴>1976年東京大学理学部生物化学 科卒業/1983年同大学理学系研究科博士 課程修了/同年NIH(National Institutes  of Health,米国)留学/1986年三菱化学 生命科学研究所研究員/2006年慶應義塾 大学先端生命研教授,現在に至る<研究 テーマと抱負>微生物ゲノムのデザインと 構築

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.493

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

Referensi

Dokumen terkait

はじめに 花は儚い(はかない)ものの象徴にもなっているが, 仕方なくしおれているのではなく,自ら進んでしおれて いく.そもそも花は種子を作るための器官である.ヒト が見て美しいと思う花の多くは,昆虫を引き寄せて受粉 を成功させるために,多種多様に進化したものである. 受粉が成功した後,あるいは受粉しなくても咲いてから

はじめに なぜDNAの塩基は4種類なのだろうか? 塩基の種 類が増えたらどんな生物やどんなバイオ技術ができるの だろうか? そもそも,塩基の種類を増やすことが,人 工的にできるのだろうか? 生物の授業で初めてDNA を学んだとき,そんな疑問をもった人はいませんか? 4種類の塩基がA‒T,ならびに,G‒Cの塩基対を選択