2015年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
ユーザー参加型サービスから見る 人を動かす方法
上智大学 経済学部 経済学科 A1141467 冨永重人 提出日 2015年 1月 15日
目次
1. はじめに
2. ユーザー参加型サービスの現状 2−1 ユーザー参加型サービスとは 2−2 市場の環境変化
2−3 ユーザー参加型サービスの種類
3. ユーザーが参加したくなる仕組み 3−1 ユーザーの心理
3−2 企業の仕組み
4. アマゾンと楽天のレビュー比較
4−1 アマゾンと楽天のレビュー閲覧時の特徴
4−2 アマゾンと楽天のレビュー投稿に対する仕組み
5. モデル検証
5−1 アンケート結果 5−2 考察
6. 結論
1. はじめに
本研究は、自身の素朴な疑問から始まった。「人はなぜインターネット上で、
知らない人に対して情報を発信するのだろうか」。自分自身がそのような行動を 一切とらないため、メリットのないこの行動が不思議に思えてならなかったの である。
スマートフォンユーザーが一日で最も多く利用するのがSNSサービスだと言 われるが、これは多くがリアルの知り合いとのコミュニケーションを楽しむた めに行われている。今回疑問として上がったのは、「知らない人」に対しての情 報発信である。そこで今回は企業にとって、どのようなユーザー参加型サービ スのモデルが、ユーザーから良質な情報を提供してもらえるのかを明らかにし ていきたい。
本研究では、このユーザー心理を理解するため、ユーザー参加型サービスの 中でも最もユーザーメリットの不明確な「口コミサイト」を焦点に論じていく。
メリットが不明確であるため、ここが解明できればより多くの分野で活かせる 汎用的な理論が構築できると考えたからである。(例えばメリットのない状況化 でいかに人に行動してもらうかなど。)そしてユーザーの情報発信心理とともに、
ユーザーにサービスに参加してもらうために最適なモデルは何なのかを論じて いく。また、ここで言う参加は「文章」、「画像」、「動画」、「音声」をユーザー 自ら発信することを指す。
まずユーザー参加型サービスの現状と特徴を簡単におさらいした上で、ユー ザーの心理を見ていき、アマゾン・楽天のレビュー比較を行い、独自で行った アンケート調査を元に結論を出していきたいと思う。
2. ユーザー参加型サービスの現状
2-1
ユーザー参加型サービスとは
ここではユーザー参加型サービスを、「ユーザーが誰もが閲覧できるオープン な場で発信してくれる情報を価値として構築されたサービス」と定義する。こ こでオープンとあえて定義付けしたのは、Line や Facebook のようなクローズ ドなサービスは、あくまで知り合いで使うことを目的としているためである。
ユーザー参加型サービスは数多くあり、一般的に使われているインターネッ トサービスの中にも、多くのユーザー参加型サービスが含まれる。
以下のグラフは、株式会社インタースペースが運営するコミュニティサイト
「ママスタジアム」で行われた「ママが最も使っている WEB サービス」に関 するアンケート結果である。
上記19個のサービスのうち、9個がユーザー参加型サービスと呼べる。(ク
ックパッド、アメーバブログ、Youtube、mixi、Twitter、2ちゃんねる、Wikipedia、 食べログ、ニコニコ動画)
また、部分的には楽天やアマゾン、価格.com のレビューの様にユーザーの参加 が重要となってくるところもある。
この様に、ユーザー参加型サービスは数多くあるインターネットサービスの 中でも重要な位置を占めていることがわかる。
2-2
市場の環境変化
2010年頃から、持ち運べるパソコンとも言えるスマートフォンが急速に 普及し始めた。外出中であっても簡単にインターネットにアクセスできるよう になり、インターネットサービスに触れる機会も増えた。
例えば料理のレシピ投稿・検索サイトである「クックパッド」では、平成2 6年10月の段階で月間利用者数が5033万人ほどおり、そのうち3171 万人がスマートフォンからアクセスしている。
1269 1417 1388 1406 1481 1595
1502 1573 1618 1727
531 680
870 988 1100
1429
1656 1776
1988
2377
383 497 576 653 667 754 814 901
745 793 428 0 345 0 255 0 219 10 148 31 143 36 117 43 107 44 96 45 64 50
2012/07 2012/10 2013/01 2013/04 2013/07 2013/10 2014/01 2014/04 2014/07 2014/10
クックパッド 端末別ユーザー推移
PC スマートフォン スマホアプリ フィーチャーフォン その他
上記のグラフから、スマートフォンからのアクセスが急増しているのが伺え、
2014年の10月の段階では、全ユーザーのうち 63.4%がスマートフォンか らアクセスしている。
この様に、ユーザーがインターネットにアクセスできる機会が増えるに連れ て、ユーザーがサービスに関わる機会、タイミングも大きく変化する。スマー トフォン時代だからこそ、PC時代とは変わったユーザー心理の動向、そしてそ れに合わせて企業は取り組んでいく必要があるだろう。
2−3 ユーザー参加型サービスの種類
ユーザー参加型のサービスの種類として、大きく5つあると思われる。
1つ目に、ある特定のテーマを元にユーザー間のコミュニケーションを繋ぐ モデル。(ユーザー間コミュニティモデル)クックパッド、みんしゅう、Pixiv、 2ちゃんねる等が当てはまる。
2つ目に、商品に関する情報を提供するモデル。(口コミモデル)
Amazon・楽天のレビュー、@コスメ、食べログなどが当てはまる。
3つ目に、ユーザー間の出会いのマッチングを行うモデル。(ユーザーマッチ ングモデル)旅行に行く人をマッチングするトリッピースや、出会い系サービス が当てはまる。
4つ目にQ&Aサイト(Q&Aモデル)。質問するユーザーと、その答えを知る ユーザーのマッチングするモデルで、知恵袋やOKWaveが当てはまる
5つ目に、自身の知っている情報を一方通行に提供してあげるモデル。(情報 提供モデル)Naverまとめやブログが当てはまる。
本研究では、特に2つ目の口コミモデルについて論じていく。口コミモデル は、ユーザーへのメリットが最も不明確な分野であり、だからこそここの解明 は他分野での汎用性があると考えたからである。
3.ユーザーが参加したくなる仕組み
3—1 ユーザーの心理
「人はなぜシェアするのか」を把握するために NY タイムズが行った調査結果 がある。それによると以下の5つが、人が情報をシェアする理由だと言う。
1 . 他 者 に 対 し て 価 値 が あ り 楽 し み が あ る コ ン テ ン ツ を 与 え る た め 。
2.他者に対して自分自信を定義するため
3 . 自 分 た ち の 関 係 を 育 て 育 む た め 4 . 自 己 実 現 の た め
5 . 気 に か け て い る 事 柄 に 対 し て 意 見 を 述 べ る た め
この様に、人が情報を発信する理由に、大きく「自己承認」と「他者との関 係構築」があると思われる。今回の研究として注目するのは、主にオープンな 場での情報発信のため、「他者との関係構築」のためではなく「自己承認」のた めの情報発信がユーザーの最も重要な心理だと思われる。(他者の反応を通して の自己承認)そしてそれを企業が満たす環境を整えることによって、ユーザー は情報を発信してくれるのだと考える。
3−2 企業の仕組み
企業側の仕組みを分析すると、大きく2つの方法によって、ユーザーのサー ビスへの参加を促していると言える。
1つ目がインセンティブモデル。ユーザーの参加に対してインセンティブ(金 銭や特典など)を提供するかわりに、参加を求めるものである。
楽天のレビューをしてもらう代わりに送料無料特典や、「Naverまとめ」のまと めたPVに応じてお金を提供といったものが挙げられる。
2つ目が自己承認モデル。ユーザーが自身の承認欲求を満たすための仕組み を構築するモデルである。上述した、ユーザーの情報発信の心理的理由に合致 しているのがこのモデルである。Amazon のレビューに対する「役に立った機 能」や、知恵袋のコイン制度の様に、他者ユーザーからの「反応」を見せるこ とによって参加をしてくれたユーザーに対して自己承認を満たす仕組みが挙げ られる。
モデル 内容 サービス例
インセンティブ型 ユーザーに、サービスに 参加してもらうためのイ ンセンティブを提供する
楽天のレビュー、Naver まとめ、Vorkers(転職サ イト)
自己承認型 ユーザーが、自身の承認 欲求を満たす様な仕組み を構築する
知恵袋、Amazonのレビュ ー、食べログ、トリップ アドバイザー
この両者のモデルにおいて、どちらの方がユーザーから良質な情報を発信し てもらえるのか。次章ではインセンティブモデルの楽天のレビューと、自己承 認モデルのアマゾンレビューを比較していく。
4.アマゾンと楽天レビューの比較
アマゾン、楽天はともに EC 業界の代表的なサービスである。ただ、この2 つのサービスのモデルは大きく異なっており、それはレビューに対する仕組み に対しても同じことが言える。そしてその仕組みの違いは、レビューを閲覧す る「閲覧ユーザー」と、実際にレビューを投稿する「投稿ユーザー」に対して 影響を及ぼす。
4−1 アマゾンと楽天のレビュー閲覧時の特徴
アマゾン、楽天はどちらもレビューを見ることができるが、その位置づけが 違う。その違いはデザイン面でも、機能面でも伺える。
まずデザイン面では、アマゾンではレビューが商品ごとに見やすくついてお り、商品を検索したら1クリックで見ることができる。一方、楽天の場合はレ ビューがどこに設置されているのかわかりにくい。商品をクリックしてから、
下の方にスクロールして初めてレビューが見られる。
次にレビューをするユーザーの「機能」も異なる。どちらも口コミユーザー 機能はついているが、アマゾンの場合ユーザーIDがなければレビューを残すこ とはできない一方で、楽天は必須ではない。そしてアマゾンの場合、ユーザー のレビューに対して「役に立ったか、立っていないか」の評価をすることがで き、ユーザーページに飛ぶと、過去のレビューとともにそのユーザーがどれほ ど「役に立つレビュー」をしたのか平均が表示される。
楽天も機能的には同じものが搭載されているが、「役に立つレビュー」をしてい るかの平均がないなど、アマゾンほどレビューに対して重要視していない様子 が伺える。
デザイン面、機能面で見ても、アマゾンは楽天と比較してレビューを重要視 しているように思われる。
4−2 アマゾンと楽天のレビュー投稿に対する仕組み
今度はアマゾン、楽天の両サービスにおける、レビューをしてもらうための 仕組みについて見ていく。
楽天は、レビューしてくれたユーザーに対して「送料無料」や、自分のレビ ューを通して別のユーザーが商品を購入するとアフィリエイトになるなど、「金 銭的なインセンティブ」を提供しレビューを促している。
それに対してアマゾンは、金銭的な見返りは一切ない。第3章で見た、ユー ザーが情報を発信する理由である「自己承認」を満たす。だからこそ、レビュ ーしてくれたユーザーに対して、自分のレビューがどれほど役になったのかを 見えるようにしている。他ユーザーからの「反応」をしっかり見せることによ って、自己承認を満たす様に設定している。また、他ユーザーの反応は、なる べく多く見せられるように「役に立ったか、立ってないか」のようにボタン一 つで表せるようにしている。
では、この2つのモデルによるレビューの促進では、どちらの方が企業にと って、そしてユーザーにとって良いものであるのか。実際のアンケートを元に 検証していく。
5.モデル検証
5−1アンケート結果
インセンティブモデルと承認欲求モデルのどちらが良質な情報を発信してく れるのか検証すべく、アマゾン・楽天の両サービスを使ったことがある上智大 学、東京大学、慶応義塾大学、早稲田大学、立教大学の合計32人の大学2年 生から4年生に対してアンケート調査を行った。
内訳は2年生4人、3年生12人、4年生16人である。
もともとは各サービスの全体ユーザー数に対する発信数を元に検証したかっ たのだが、実際の数値データが得られなかったことと、レビューの数だけでは、
レビューの質に関して何も結論が出せないと考えたためである。
21
11
0 5 10 15 20 25
アマゾン 楽天
①アマゾンと楽天のどちらを最も利用し
ているか
上記から、①アマゾンと楽天のどちらを最も利用しているか という質問と
②アマゾンと楽天では、どちらのレビューの方が参考になるか という質問に 対する答えが比例していないのがわかる。楽天をメイン使っているからといっ て、レビューが特に良いわけではない。
また、問3で、2の答えに対する理由を聞いたのだが、その答えをまとめた ものが以下となる。
④なぜそのサービスのレビューの方が参考になると答えたか
アマゾン レビューがしっかりしている。楽天は
主観(感情)が多いのに対して、アマ ゾンは機能的。また、楽天は送料無料 にしてもらうためにレビューする人も 多いと思うため、信憑性低い。
楽天 レビュー数が多いと思う。ショップの
レビューも見ることができるから。
自己承認モデルのアマゾンの方が、良質なレビューを投稿してもらっている
25
7 0
5 10 15 20 25 30
アマゾン 楽天
②アマゾンと楽天では、どちらのレ
ビューの方が参考になるか
のがわかる。
アマゾンの方がレビューは参考になると答えた人の方が多かったのに対して、
投稿ユーザーは楽天の方が多かった。その理由を問5で聞いた結果が以下とな る。
⑤なぜそのサービスでレビューを書いたのか
アマゾン 自分が本当に気に入った商品があり、
その魅力を伝えたかったから。
楽天 送料が無料になるから
上記の結果から、インセンティブモデルではレビューの数こそ稼げたとして も、本質的なレビューは自己承認モデルに負けるといえるだろう。
3
6
0 1 2 3 4 5 6 7
アマゾン 楽天
④アマゾンと楽天でレビューを書いたこ
とがあるか
5−2 考察
アンケートの結果から、以下の結論が言える。
・閲覧ユーザーにとって:
自己承認モデルであるアマゾンの方が、閲覧ユーザーにとっては参考に なる。
一方で楽天のレビューは、インセンティブモデルであるからこそ信憑性 が低く、コメントの質が低いことが伺える。
・投稿ユーザーにとって:
自己承認モデルであるアマゾンの方が、より質の高いレビューをする一 方、その数は少ない。
楽天のレビューは、数こそアマゾンより多いものの、きちんとしたレビ ューはわざわざ書かない。
つまり、レビューの数を追い求めるならインセンティブ型、質を求めるなら 自己欲求型であると言える。そして閲覧ユーザーにとっては、自己欲求モデル で反映されたレビューの方が参考になる。
そのため、長期的に見て企業はユーザーの自己欲求を満たすサービス設計(他 ユーザーからの反応を誘発+見える化)をすることが、ユーザーの良質な参加 を促すことに繋がり、閲覧ユーザーのためにもなるだろう。
6.結論
自己承認モデルは「他ユーザーからのコメントを期待」を原因とし、「口コミ」
を結果として行動させている。そしてこのモデルの特徴は、一度口コミをした ら、それを原因として「他ユーザーからのコメント」が帰ってくる。すなわち、
きちんと他ユーザーによる「反応」をサービス提供側がうまく誘発させること によって、「他ユーザーからのコメントを期待」→「口コミ」→「他ユーザーか らのコメント」→「口コミ」という好循環を生み出せる。
そしてこの具体的な現象を抽象化するならば、「他社の反応を期待する」ことに よって「自己承認を満たす行動」を起こす。
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抽象的概念
具体的概念
これは、例えばNPO団体で働くひとのように、必ずしもメリットが明白では ない環境において、いかに人に行動してもらえるかを考える上でも使えるもの だと考える。つまり、ポイントとなるのはきちんと行動した人に対して「反応」
を見せることであり、その環境を構築できれば好循環を生むことができるので はないか。
原因
他者の反応を期待
結果
自己欲求を満たす行動
原因
他ユーザーのコメントを 期待
結果
口コミ
参考文献
<ネット>
・ マイナビウーマン
http://woman.mynavi.jp/article/140206-77/
・ クックパッド株式会社 企業情報
https://info.cookpad.com/outline_of_service
・ NY TIMES
http://nytmarketing.whsites.net/mediakit/pos/
・THE CONTENT MARKETING
http://thecontentmarketing.com/why-people-share/
(NY TIMESの調査結果の日本語訳)
アンケート
① アマゾンと楽天、どちらのサービスをメインとして利用していますか?
② アマゾンと楽天では、どちらのレビューの方が参考になっていますか?
③ なぜ②でお答え頂いたサービスの方が参考になっていると思いますか?
④ アマゾンと楽天でレビューを書いたことがありますか?
⑤ なぜ④でお答え頂いたサービスでレビューを書きましたか?