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582 化学と生物 Vol. 55, No. 9, 2017

植物色素ベタレイン̶分布 生合成および生理機能

謎に包まれた多機能性植物色素

ベタレインは,植物の花や果実などを赤紫や黄色に彩 る植物色素であり,われわれの身の回りでは,菓子類を 赤色に着色する食品着色料 アカビート(ビートレッ ド)色素 として使用されている.これまでは,主に視 覚を刺激する色材として扱われてきた.しかし,近年,

このベタレイン色素がラジカル除去能や抗酸化能,抗腫 瘍作用などをもつ多機能分子群であることがわかってき たことから,機能性食品として注目を集めベタレインを 含む代表的植物であるアカビートは スーパーフード としてさまざまなメディアで取り上げられている(1).し かしながら,まだ耳慣れない方も多いこのベタレイン色 素について,その生合成経路や機能など最近の知見を紹 介する.

植物二次代謝産物であるベタレインは,赤〜赤紫色を 呈するベタシアニンと黄色を呈するベタキサンチンの 2種に分けられ,緑色を呈するクロロフィル,黄〜橙色 を呈するカロチノイド,黄,橙,赤,青,紫と幅広い色 を発色するフラボノイドとともに植物四大色素に挙げら れる色素である.四大色素のうち,クロロフィルやカロ チノイドは光合成細菌から藻類,高等植物に広く分布 し,フラボノイドはシダ以上の高等植物に普遍的に分布 している.一方,ベタレインは,アカビート,オシロイ バナ,マツバボタン,サボテンなど,中心子目のうちヒ ユ科・オシロイバナ科・サボテン科など17科の植物と ベニテングダケなど一部の真菌にのみ分布が限定されて いる.さらに,ベタレインと同様に水溶性が高い赤色系 フラボノイドのアントシアニンとは排他的,つまり,同

じ細胞には決して共存しないという特徴的な分布様式を 有している.また,クロロフィル,カロチノイド,フラ ボノイドに関しては,生合成にかかわる酵素のほとんど が遺伝子レベルで明らかにされているが,ベタレインは 最も研究が遅れており,生合成経路や生合成遺伝子はま だ完全には解明されていない(2,3)

ベタレインは分子内に窒素を含んでいることから,古 くは含窒素アントシアニンと呼ばれていた.ベタシアニ ンとベタキサンチンは,どちらも基本共通骨格としてベ タラミン酸をもっており,そのベタラミン酸に,ベタシ アニンはシクロドーパおよびその配糖体が,ベタキサン チンにはプロリンなどの生体アミノ酸またはアミンがそ れぞれ結合している.先に述べたように,ベタレインの 生合成経路についてまだ完全には理解されていないが,

現在予想されているベタレイン生合成経路を図1に示し た.チロシンの水酸化によりL-ドーパが合成され(Step  1),さらにドーパ4,5-ジオキシゲナーゼ(DOD)によっ てベタレインの基本共通骨格であるベタラミン酸が合成 される(Step 2).また,ベタシアニンの構成要素であ るシクロドーパは,L-ドーパがチロシナーゼによって酸 化されドーパキノンとなった後,自発的反応によって非 酵素的に生成されると考えられてきた.しかし2012年 に,L-ドーパからシクロドーパへの変換(Step 3)を触 媒する酵素としてCYP76AD1が同定され,酵素反応に よる生成経路が発見されている.また,CYP76AD1は,

シクロドーパ合成だけでなくチロシン水酸化(Step 1)

も触媒するバイファンクショナル酵素であり,ベタシア

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● 化学 と 生物 

今日の話題

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化学と生物 Vol. 55, No. 9, 2017

図1ベタレイン生合成経路

Step 1〜4(→)は酵素触媒反応,S(⇢)は 自発的反応と考えられる.Tyr: チロシナーゼ,

PPO:  ポ リ フ ェ ノ ー ル オ キ シ ダ ー ゼ,CY- P76AD1:  シ ト ク ロ ムP450酸 化 還 元 酵 素,

DOD:  ドーパ4,5-ジオキシゲナーゼ,GT:  グル コシルトラスフェラーゼ.

ニンだけでなくベタレイン合成全体において重要な機能 を有すると考えられる(4, 5)

生成されたベタラミン酸とシクロドーパまたはアミノ 酸/アミンは自発的反応(S)によって縮合し,ベタシ アニンまたはベタキサンチンが生成される.ベタシアニ ンは通常配糖体として蓄積しており,配糖体化には2通 りの経路が推定されている.一つ目は,シクロドーパが 配糖体化(Step 4-1)された後にベタラミン酸と縮合す る経路,2つ目は,シクロドーパとベタラミン酸が縮合 しベタシアニンとなった後に配糖体化(Step 4-2)され る経路である.両経路とも配糖体化はグルコシルトラン スフェラーゼによって触媒されると考えられる.

近年,ベタレイン生合成の鍵となる酵素が同定された ことによって,生合成経路の解明が進むとともに,これ らの遺伝子群の分子系統解析により, や の遺伝子重複とそれに続く機能多様化がベタレイ ン生合成の起源に深く関与していることが示唆されてい る(6).今後,さらにベタレイン生合成系遺伝子解析が進 展することによって,アントシアニンとの排他的な分布 の謎や混乱した被子植物の分類系統の理解に大きく寄与 することが期待される.

ベタレインの生理機能については, 系におい て有毒な活性酸素などを消去するラジカル除去能あるい は抗酸化機能をもつことが示されている(1).また,筆者 らは,活性酸素と同様に反応性が高い活性窒素に対して

も,アカビートベタレインが代表的抗酸化剤であるアス コルビン酸(ビタミンC)以上の高い消去活性をもち,

DNA損傷を抑制することを見いだした(7).活性窒素は,

核酸やタンパク質,脂質などの細胞構成成分を酸化およ び,ニトロソ化あるいはニトロ化する能力をもち,がん やアルツハイマー病など多くの疾病への関与が指摘され ている.そのため,ベタレインが においても,

活性酸素や活性窒素からの保護や抗酸化,抗がん作用を 示すことが期待されており,動物細胞やマウス個体を対 象にした研究が年々増加している.その結果,ベタレイ ンはコレステロール(LDL)酸化抑制作用,炎症性サイ トカイニン上昇抑制による抗炎症作用,薬物代謝酵素の 誘導による肝臓保護作用などをもつことが示されてい る.しかしながら,ベタレインは酸化されやすいシッフ 塩基あるいはイミニウムカチオン構造をもっており,非 常に不安定な性質をもつ.そのため,精製された色素を 用いた検討はごく限られており,その多くは未精製また は粗精製のベタレインを使用した研究となっている(1). このことは,ベタレイン色素の機能あるいは,その反応 分子機構の解明に至っていない一因となっており,高度 精製ベタレイン色素を用いた検証が望まれている.

ベタレインの機能については動物細胞における研究が 先行しており,ベタレインを生合成する植物細胞におけ る機能に関しては報告例が非常に少ないのが現状であ る.ベタレインはさまざまな花色の素になっていること

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584 化学と生物 Vol. 55, No. 9, 2017

から,花粉媒介者誘引のための視覚的シグナルという生 態学的な機能,さらに葉において,過剰な光から細胞を 保護する光フィルター機能をもつと言われている.しか し,花や葉以外の茎,根などの器官にもベタレインが蓄 積しており,低温や乾燥,塩などのストレス負荷によっ てベタレイン色素含量が上昇すること,またベタレイン 含有植物であるヒユ科やサボテン科の植物は,熱帯や乾 燥地帯,海浜など厳しい環境に生育する植物が多いこと も知られている.これらの事実は,ベタレインには環境 適応にかかわる生理学的な機能があることを示唆してい るのではないだろうか.ベタレイン生合成酵素遺伝子の 同定によって,ベタレインの種類や蓄積量を制御するこ とが可能となってきた.今後,ベタレイン生合成変異体 を用いた解析によってベタレインの植物における生理機 能についても明らかになることが期待される.

  1)  M.  I.  Khan:  , 15,  316 

(2016).

  2)  Y.  Tanaka,  N.  Sasaki  &  A.  Ohmiya:  , 54,  733  (2008).

  3)  作田正明: 植物色素フラボノイド ,武田幸作,齋藤規

夫,岩科 司編,文一総合出版,2013, p. 413.

  4)  G.  J.  Hatlestad,  R.  M.  Sunnadeniya,  N.  A.  Akhavan,  A. 

Gonzalez, I. L. Goldman, J. M. McGrath & A. M. Lloyd: 

44, 816 (2012).

  5)  G.  Polturak,  D.  Breitel,  N.  Grossman,  A.  Sarrion-Perdi- gones,  E.  Weithorn,  M.  Pliner,  D.  Orzaez,  A.  Granell,  I. 

Rogachev & A. Aharoni:  , 210, 269 (2016).

  6)  S.  F.  Brockington,  Y.  Yang,  F.  Gandia-Herrero,  S. 

Covshoff, J. M. Hibberd, R. F. Sage, G. K. S. Wong, M. J. 

Moore & S. A. Smith:  , 207, 1170 (2015).

  7)  Y. Sakihama, M. Maeda, M. Hashimoto, S. Tahara & Y. 

Hashidoko:  , 46, 93 (2012).

(崎浜靖子,北海道大学大学院農学研究院)

プロフィール

崎浜 靖子(Yasuko SAKIHAMA)

<略歴>1994年琉球大学理学部生物学科 卒業/1996年同大学大学院理学研究科修 士課程修了/2000日本学術振興会特別研 究員/2001年琉球大学大学院理工学研究 科博士課程修了/2002年北海道大学大学 院農学研究院助手/2012年同講師,現在 に至る<研究テーマと抱負>植物の環境適 応における植物色素の機能<趣味>子ども と一緒にお菓子を作ること

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.582

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はじめに 植物は一見植物の生長や生存に何の関係もなさそうな 形質をしばしば有している.しかし,ここ数十年間の研 究によりそれらの植物の形質の多くが植物のほかの生 物,特に昆虫の食害に対する防御形質であることが判明 してきた.たとえば植物の種々の二次代謝物質やタンパ ク質・酵素,刺,毛などの形質が植物を食害する昆虫な どの植食動物に対する防御機構としての役割をもつこと