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北極海は、気候変動に 対して最も脆

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はじめに―気候変動と北極海の潜在的可能性

気候変動が地球環境に与える影響をめぐる議論のなかで、北極海は、気候変動に 対して最も脆弱で、その影響が顕著に現われるとされる。北極海は、低温故に油濁 を除去する細菌の活動が緩慢なうえに、外部海域との海水の循環を陸地が遮断して いることから、汚染物質が北極海内部のみで循環するため、地下資源開発の結果生 じる海底油田の暴噴事故や船舶の座礁事故等による人為的な環境破壊からの自然回 復には長い時間を要する。こうした事故やそれに伴う汚染、また、海氷の変化等を いち早く発見するために、北極海に対しては、最新の技術を用いて正確な観測が行 なわれ、その観測結果は広く公開されている。北極海を覆う海氷は、1979年に観測 が開始されてから、2012年には、面積にして半分、体積にして

4分の 1

まで縮小し、

観測史上最小となったとする観測データが報告されている。そうしたデータに基づ いた研究は、いずれも北極海における海氷の縮小傾向が今後も継続するものと予測 している。

海氷の縮小に伴い、これまで氷に覆われていた北極海が潜在的にもつと指摘され てきた可能性に対しても国内外の注目が集まりつつある。とりわけ北極海航路の利 用拡大、北極海およびその海底に存在する生物・非生物資源の開発・利用に伴う利 益についての検討が、現在さまざまな国と地域によって、さまざまな分野で行なわ れている。北極海を覆う海氷が縮小すれば、アジアとヨーロッパ間の航行距離を、

スエズ運河を経由した南回り航路の約

6割まで短縮することができる。また、北極

海とその周辺海域は、豊富な植物プランクトンに下支えされた良好な漁場となって いるうえに、未発見の原油の約

1

割、天然ガスの約

3

割が存在するとされており、生 物資源、非生物資源ともに、その開発・利用の拡大が期待されている。

一方で、北極海航路は、夏期でも依然、通航に砕氷船の先導を要し、さらに、一 般に深度も浅いなど危険性が高く、また、厳しい気象条件に左右されるために安定 性を欠く。資源開発についても、冒頭で述べたような人為的な環境破壊に対する脆 弱性の観点から、慎重にならざるをえないのが実状である。海氷の縮小に伴う北極

国際問題 No. 627(2013年12月)1

◎ 巻 頭 エ ッ セ イ ◎

Kunikata Toshio

(2)

海の潜在的可能性の表面化は、期待と同時に、その利用に際しての議論をも呼んで いるのである。

こうした状況のなかで、北極海における環境の変動や北極海航路の利用・資源開 発などの機会の拡大は、周囲を海に囲まれた「海洋国家」である日本にとっても、

課題と同時に経済的・外交的機会と可能性を提供している。日本は「非北極圏国」

だが、北極における気候変動は大気や海水の循環を通じて日本の気候にも影響を及 ぼし、また、環境保全・動植物保護等地球規模的な課題を提示している点で決して 無関係ではない。一方で、日本も北極海航路や天然資源の利用可能性などの経済的 な機会を享受できるうえに、長年の実験・研究・観測に裏付けられた科学的知見お よび先進的観測技術を有する日本だからこそ、北極海における地球規模的な課題へ の対処のために国際的なプレゼンスを発揮しうるという外交的機会も存在する。

本稿では、北極海における国際的な協調の試みおよび北極海での日本の観測・研 究の実績について紹介したうえで、日本が北極海をめぐる国際的な議論に参画する のみならず十分に貢献しうることを述べたい。

北極海をめぐる多数国間の協調

現在、存在する北極に関する国家間の枠組みの多くは、北極海に近接した諸国間 の地域的枠組みの性格が強い。複数存在する多国間の枠組みのなかで、本稿では、

本年

5

月に日本のオブザーバー資格が承認された北極評議会(AC: Arctic Council)につ いて記述することとしたい。

北極評議会は、メンバー国

8

ヵ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスラン ド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国)間で、1996年のオタワ宣言によって設 立された政府間のハイレベルの合議体である。目的は、北極に係る共通の課題(特 に持続可能な開発および環境保護)に関し、先住民社会等の関与を得つつ、北極圏諸 国間の協力・調整・交流を促進するための手段を提供することである。軍事・安全 保障関係については、取り扱うべきではない点も、同宣言において明記されている。

北極評議会は、①メンバー国

8

ヵ国、②常時参加者(6つの先住民団体の代表)、およ び③オブザーバー(北極評議会が同評議会への貢献の可能性がある国として認める国お よび国際機関)から構成されている。このうち、議決権を有するのはメンバー国のみ であるが、北極評議会は、北極圏における環境保護および持続可能な開発の達成の ために、先住民団体との対話・交流・協調を重視し、また、オブザーバーに対して も発言権を認めている。隔年で開催される閣僚会合が最高意思決定機関であり、議 長国の下、次の閣僚会合までの間の具体的活動計画などが決定される。また、閣僚 会合が開催されない年に副大臣会合が開催され、閣僚会合での決定のための事務レ ベル会合として高級北極実務者(Senior Arctic Officials)会合が年に2回開催される。

巻頭エッセイ北極海問題と日本

国際問題 No. 627(2013年12月)2

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北極評議会に設置された

6つの作業部会(

北極圏汚染対策行動計画、北極圏監視・評価 プログラム、北極圏動植物保護、緊急事態予防・準備・対応、北極圏海洋環境保護、持続 可能な開発)は、相互に連携しつつ、その成果や活動状況を、高級北極実務者会合で の承認を得て、閣僚会合および副大臣会合において報告する。

2011

5月の北極評議会第 7

回閣僚会合において、「北極における上空及び海洋で

の捜索救助協力協定(Agreement on Cooperation on Aeronautical and Maritime Search and Rescue in the Arctic)」が、2013年

5

月の同第

8

回閣僚会合において、「北極における海 洋油濁汚染への準備及び対応に関する協力協定(Agreement on Cooperation on Marine Oil Pollution, Preparedness and Response in the Arctic)」がそれぞれ署名された。このような国 際約束が署名されたことは、北極評議会が、本来の政府間のハイレベル・フォーラ ムという緩やかな対話の場という性格に加えて、既存の海洋法の枠組みのなかで条 約という法を生み出す「機関」としての機能を備えてきたことを示している。

日本としては、北極評議会の掲げる目的を踏まえつつ、オブザーバーとして各会 合に積極的に参加し、北極評議会の動きを安定的な地位からフォローしていく方針 である。同時に、長い歴史をもつ日本の北極観測・研究による科学的知見の蓄積を 基に、北極評議会に対して具体的な貢献を行なっていきたいと考えている。

本年10月、カナダのホワイトホースで行なわれた北極評議会高級北極実務者会合 に参加した。本会合においては、北極評議会の

6

つの作業部会で実施されているさ まざまなプロジェクトについて報告があり、また、高級実務者からは、プロジェク トの承認と今後の方向性が示された。今後、来年

3

月に予定されている次回高級北 極実務者会合に向け、各作業部会はその活動をいっそう加速していくことになる。

北極海に関する日本の取り組み

日本の北極観測・研究は、1950年代に始まり、現在では陸域、海域、大気、生態 系等多岐に及び、国際的にみてもかなりの先進的な技術、科学的知見を蓄積してき た。研究機関のなかで代表的な例を挙げると、国立極地研究所(NIPR)は、1991年 にノルウェーのニーオルスンに開設した観測基地を拠点に、北極圏の変動の実態と メカニズム、生態系への影響を解明するため、大気、雪氷、海洋、陸域環境、超高 層大気の各分野で現地観測を軸に研究を進めると同時に、北極圏のさまざまな地域 で国際共同研究を行なっている。また、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)

は、海洋地球研究船「みらい」や砕氷船、漂流ブイなどを用いた総合観測を行ない、

大気・海氷・海洋の変化とその相互作用および北極域の気候変動に伴う世界各地の 気候システムへの影響の研究を行なっている。加えて、アジア大陸の各地で積雪・

氷河・凍土等地球上の水循環を観測し、データ収集や解析するモデルを構築するこ とで雪氷変動・水循環について陸域からの研究を進めている。さらに、宇宙航空研

巻頭エッセイ北極海問題と日本

国際問題 No. 627(2013年12月)3

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究開発機構(JAXA)は、地球観測衛星での観測データを北極圏の陸海域双方での研 究において提供・活用している。上記

3

つの機関は、文部科学省が2011年に開始し た「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス(GRENE)」事業の代表機関およ び参加機関として、北極気候変動において分野横断的な研究および人材育成を推進 し、北極の変化に伴う日本への影響に取り組んでいる。同事業には、国内

35機関か

らさまざまな分野の研究者約

300

人が参加し、国際協力の下で北極全体の研究を進 めている。

日本が蓄積してきた、こうした観測・研究の体制および実績は、北極評議会の作 業部会等から高い評価を受けている。日本はこれまでも、北極圏監視・評価プログ ラム作業部会会合に参加した際に、最新の活動状況について積極的に説明を行なっ てきたが、同会合においては、日本の充実した体制、長年にわたり培ってきた技術 および知見を用いた具体的な貢献に対して大きな期待が表明されている。これまで 積み上げてきた科学的知見および国際的な協力の実績は、今後、日本が北極をめぐ る国際的な議論に参画し、貢献するうえで非常に有意義なものになるであろう。

おわりに

北極における環境変化は、これまで氷に覆われた海域の一部を利用可能な海域へ と変化させることで、北極海航路の利用および資源開発等、人類の活動の可能性の 幅を拡大し、同時に、国際社会において開発と環境保全との調和等の新たな議論を 惹起した。今後、北極に対する国際的な関心はさらなる高まりをみせるものと予測 される。長年にわたり北極観測・研究実績を積み上げてきた日本が今なすべきこと は、既存の海洋法秩序に従い、蓄積してきた科学的知見と観測技術に基づいて、国 際社会における北極に係る諸問題についての議論に積極的に貢献していくことでは なかろうか。そのために、日本は今後、北極問題の分野・地域横断的な性格を考慮 し、「オールジャパン」として北極に係る諸課題に取り組まなければならないと考え る。

*本論文は筆者個人の見解であることをお断わりしておく。

巻頭エッセイ北極海問題と日本

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くにかた・としお 外務省北極担当大使

Referensi

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