• Tidak ada hasil yang ditemukan

工 場 見 学

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2024

Membagikan "工 場 見 学"

Copied!
8
0
0

Teks penuh

(1)

その上で改めて問いましょう、貴方の両目で見て

いるものは正しく映っているのでしょうか?

これから話すのはそれを問う物語。どうぞお聞き

下さい……

ある日、『工場見学招待券』なる物が家に届いた。

聞くに、母が雑誌の懸賞コーナーの中から適当に

選んで応募した賞品の中で『サイバーネイチャー』

と言う雑誌のチケットが見事当選したらしい。

送られてきた封筒入っていたのは『工場見学招待

券』の他にもう一枚紙があり、そちらの方にはこう

書かれていた。

『おめでとうございます!  この度、貴方はサイ

バーネクサス社の最新鋭の技術の結晶、パラボット

工場の見学会のチケットに当選致しました!  つき

ましては以下の日程に~駅にてバスでお迎えに上が

りますので指定の時間に集合場所にお集まりくださ

い!』

サイバーネクスト社もパラボット工場と言う名前 も全く聞き覚えの無く、母に聞いても適当に送った

だけで詳細はあまり知らないらしい。

おまけに雑誌の方は半年前に発行されたことも

あって既に捨てられていた。

なんの情報も無い中、とりあえず抽選で当たった

んだから行ってみようという話になったが、なぜか

親子連れのがメインターゲットであるはずなのに懸

賞で当たったのは一枚のみで、なんだか怪しい。

招待状に書かれていた日はちょうど俺だけが予定

が開いていた事もあり、好奇心と疑惑を抱えながら

謎の工場に行く事になった。

当日、指定の場所に時間通りに行くと自分と同じ

ように何人かが集まっている。

しかし、工場見学だというのに、人の数が少ない。

普通、工場見学と言えば子どもと親がセットに

なって公共施設や大企業の工場の設備を学んだり、

知名度を上げたりするために行う事が多く、そのた

めに

50人近くは募集するのが一般的だろう。

しかし、今集まっているのは老若男女混じり交り 貴方は自分が自分だと証明できますか?

そりゃそうだと答えるのが普通でしょう。

では家族、隣人、友人、恋人……自分以外の人は

どうでしょうか?

今、貴方の隣にいる人間が人じゃない可能性を確

信できるほどの確かな証明を構成出来ますか?

もしかしたら人に化けた何かが巧妙に人の姿を真

似て、仕草を真似て、言葉を真似てまぎれこんでい

るかもしれない。

もしかしたら自分以外は指定された言葉に反応し

て適切な言葉を返す様にプロクラムされた良くでき

た装置に過ぎなのかもしれない。

もしかしたら世界は実は五分前に構成され、今ま

で生きてきた人生はその前にあらかじめ作られた人

格で、全て始まったばかりなのかもしれない。

自分の目で見たものの全てがそのままの姿である

とは限らないし、世界には知恵と知識と情報を寄せ

集めても想像すらできない現象や生物だって存在し

ます。 経済学部現代ビジネス学科2年 

手塚  

● 小説 

工場見学

(2)

になっていて年齢層にまとまりが無い。

80内代ぐらいの老人も居れば、

10代くらいの若い

人まで様々である。

彼らは年齢も性別も違うがただ一つ、皆に共通し

ている点があった。

だれも彼もが死んだ魚のような虚ろな目をしてい

るという事である。

10代の少年も

80代の老爺も、皆同じように希望の

映っていないような暗い瞳をしているのだ。

まるで電源が切れかけているロボットのようだ。

傍から見れば俺はとてもいきいきとしているよう

に見えるだろう。

そのくらいに絶望を抱えた集団に気が滅入り、少

し離れたところでバスを待っていたら少しして時間

通りにバスが来た。

「お待たせしました、サイバーネクサス社の工場見

学参加者の皆さん、移動いたしましょう」

暗黒集団を迎えに来たのはいかにも朗らかな女性

だった。

よくある添乗員の格好をしていることからバスガ

イドだと分かる。

これでバスガイドまで暗い人だったらどうしよう

かと思っていたが、流石にそこまで陰鬱なツアーで

は無いようだ。

待っていましたとばかりに乗り込んでいく人々の 後に続いて、俺も乗ろうとしたらバスガイドの女性

に意外そうな顔で話しかけられた。

「あら、貴方珍しいですね」

「……?  何がですか?」

「いや、この工場見学に来る人にしては随分と普通

の人だなぁと思いまして」

「このツアーに来る人って皆こう、なんていうか

……あんな感じなんですか?」

「まぁそうというか……いえ、なんでもありません、

とりあえず乗って下さい。そろそろ点呼取るんで」

彼女はどこか含みの言い方をしながらにこにこし

ていた。

なんというか不安である。

点呼が終了し全員が乗っている事を確認し、バス

発進した。

バスは

30分ほどすると木々が生い茂った道路標識

も無い山道に入って行った。

一面木々に囲まれているせいで風景が変わらず、

カーナビが無ければ今どこに居るかも分からなく

なってしまいそうである。

バスの車内は相変わらずどんよりとした空気が

漂っており、バスガイドに至っては前方で座ったま

ま話をする事も無く、ただ前を向いて静かに座って

いるだけで職務怠慢もいい所だ。愛想がよかったの も最初だけのようだ。

あまりにも暇なのでスマホをいじっていたが、1

時間ほどたった頃に森はさらに深くなっていき、電

話も圏外になってしまった。

窓から見える風景は変わらず、目的地の工場の説

明すらなく、バスガイドのは職務怠慢に最悪な乗員

の空気もあって不満と不安が溜まって行く。

耐えかねた俺は思い切って隣の人に質問してみた。

「あの~ちょっといいですか?」

「なん……ですか……?」

隣の人は

30代くらいの女性で幸薄そうだが、そこ

そこ整った顔をしている。

「このバスって工場へ向かっているんですよね?」

「はい……」

「何の工場なのか知ってます?」

「私が知っているのは……幸せになれるとか……苦

しみから解放されるとか……私みたいな人々を救済

してくれる……素晴らしいものを作っていると……

聞きました……」

「は、はぁ……ありがとうございます……」

生気の無さそうな声でひねり出す様な声で返事を

されると、何だか申し訳ないような気持になってし

まう。

しかし、幸せになれるものを作っている工場と聞

くと何だか胡散臭くなってしまう。

(3)

もしかして変な宗教団体の施設にでも連れて行か

れるんじゃないだろうな……?

電波の届かない所で囲い込まれて監禁とか洗脳な

んてされたら恐らく元のままで帰る事など叶わなく

なってしまうだろう。

もうバスに乗ってしまったからにはそうでは無い

事を祈るしかないが……

胡散臭いこのツアーの行先がまともな所である事

を祈るばかりだ。

駅から出発してから約2時間、バスは秘境の地に

構えるサイバーネクスト社『パラボット第一工場』

に辿り着いた。

工場の周りは森に囲まれていて、もしその中に

入って迷い込んだら最後、誰にも見つからないまま

死んで、永遠の行方不明者として扱われてしまうだ

ろう。

来た道も深い木々によって視界が制限されている

上に街灯が無い為に夜になったら自分がどこにいる

かも分からないまま途方に暮れてしまう事が容易に

想像できた。

つまり、逃げ道が無い。

バスの隣に座っていた人の話と情報が欠けている

事による疑惑のよってこの工場自体が良くないもの

だと考えてしまう。 ただ立地こそとんでもない所にあるものの、見か

け自体は割とどこにでもありそうな工場なので杞憂

なのかもしれない。

それにしても辺境の地で工場を作る理由が分から

なかった。

工場は本来地理的状況や企業規模によって違いは

あるものの、車が通りやすい車道沿いや輸出しやす

いように海岸線に作るものである。

それをなぜこんな所に……?

幸せの白い粉の工場と言う線も無くは無いけれど

それにしたって工場見学の参加者が陰鬱な集団と言

う点が引っ掛かる。

そもそもその線だったら雑誌の賞品になんてしな

いはずだ。

この工場に対する疑問が尽きないまま考え込んで

いるとバスガイドが相変わらず朗らかな様子で参加

者に集合を呼びかける。

「皆さま、山道のバスに揺られお疲れでしょう。こ

こが皆さまお待ちのパラボットを作っている『パラ

ボット第一工場』です!」

「やっとか……」

「この日をどれだけ待ちわびたか……」

「生きてて良かった……!」

『パラボット第一工場』の名前を聞くや否や皆が

口々に嬉々とした声で笑い始めた。 パラボットという物が何だか知らないが、陰鬱を

人の形にしたような人々が表情を変えるほどのもの

らしい。

たかが工場見学ごときでここまで希望を持てる

『パラボット』とはなんなんだろう?  そもそもこ

のツアーは本当に工場見学だけで終わるのだろう

か? 暗い雰囲気にはうんざりしていたので明るくなっ

てきているのは嬉しい事なのだが、一言でいきなり

豹変しだすとなるとこれまた不気味である。

バスガイドの後ろに皆でくっついていくと、工場

の従業員入口と書かれている鉄のドアから細身のつ

なぎを着た細身の中年が出てきた。

「皆さんこんにちは。私はここの工場長をしている

ものです。本日は遠方からわざわざお越しいただき

ありがとうございます。今回は工場見学に加え、パ

ラボットの『搭載』も兼ねての予定になっております」

「やったぁ、とうとうパラボットを搭載できるん

だ!」

工場長の言葉に誰かが反応し大声で喜ぶとそれに

釣られるように周りも歓喜する人や涙を流す人まで

出てきた。

誰もが幸せそうにしている中、俺だけが得体の知

れない違和感を抱えている。

しばらくして皆が落ち着いたのを見計らって工場

工場見学

(4)

長が「それじゃあ、参りましょうか」と歩みを進め

皆を工場に誘導していく。

『工場見学』はまだ、始まったばかりだ。

工場の中もよくある工場と変わりなかった、少な

くとも途中まではそう見えた。

ラインをよく分からない機械が絶え間なく動き、

スムーズに部品を組み合わせていく。

「ここはパラボットの部品部分です。もうこの時点

で半円のような大きな球になっているのが分かると

思います。パラボットの搭載に重要なのは違和感の

感じさせないフォルムが重要となります」

皆は半円のような大きな球に納得したのかうんう

んと頷いている。

しかし『パラボット』がどういうものか分からな

い俺にはドーム型の精密機械の塊にしか見えなかっ

た。

とはいえ、昔洗脳に使われていたというヘッドギ

アや謎の電波を飛ばすアンテナが付いていないとい

う所を見るに思考をいじくるような機械では無さそ

うだ。

少し歩くと今度はドーム型のパーツに小さなチッ

プが沢山付いた基盤を取り付けていた。

「あれがパラボットの思考型AIの根幹となる基盤

となります。パラボットは人の代わりに働くと言う 都合上、高度な思考力と人と共に暮らす中で違和感

なく共生できるようにするために高性能なOSを搭

載していなければいけません。ですので製造数も当

然限られてしまいます。しかし、パラボットが我々

の社会に浸透し、労働者という概念すら変わるほど

のポテンシャルを秘めているのです!」

工場長は話に熱が入り選挙間近の政治家の様に熱

く語っている。

しかし熱意に対して、皆の意識は基盤を溶接して

くっ付けたドーム状の機械に釘付けになっていて普

通に聞いていた入れは何だかいたたまれない気持ち

になってしまった。

それでも工場長は慣れているのか特に落ち込んで

いる様子もなく、むしろ更に気分が良さそうに見え

る。

とはいえ、これでパラボットという物はきっと新

型ロボットで人々を助けてくれるような物なんだと

いう事が分かった。

だとしてもこんな山奥でひっそりと作っている理

由が分からない。

そこに何かの部品を差し込むのだろうけど、半円

のようなごつい球の形にする理由が分からない。

歩みを再び進める一行に工場長が「次で最終工程

になります」と呼びかけた。

よく見ると半円の下に円状の窪みが見える。 そこに何かをくっつけるのだろう。

実際予想は当たっていた。しかしその用途は想像

もしなかった物だった。

「パラボットの最大の特徴は血液循環をスムーズに

するだけではなく、擬似的に脳、臓器の役割を果た

すことです。ここまでお見せしたのは『機構臓器パ

ラボット脳壱型』の擬似的に脳を構成する為のパー

ツ。こちらのパーツは脳髄となる部分です」

目の前に見えるのは短い棒がくっ付いた付いた半

円のようなごつい球。それはまさしく機械で作られ

た皺の無い脳だった。

「このパラボットは頭がい骨を切り取り、脳を摘出

した後にそのまま入れるタイプの物です。これによ

りパラボットを埋め込んだ人間はAIによって本人

の来歴や交友関係のデータともとの体の持ち主の脳

から得たデータを元に本人の行動や癖などを読み込

み日々暮していく事で学習を重ね、どんどん本人に

近づいていきます。一カ月もすればもう本人と大差

は無いでしょう」

工場長の口から出る言葉を俺は信じる事が出来な

かった。

この工場は人工的な脳を作っていて、それを人間

に埋め込んで社会に紛れ込ませる、そう言っている

のだ。

こんなもの、表に出せるわけが無い。

(5)

工場見学

存在が知られた時点で非人道的だと世界中から非

難されるだろう。

……だからこそ山奥で作っているという訳だ。

そして工場長の次の一言が俺に大きな衝撃を与え

る。

「実は私もパラボットを埋め込んでいる、というよ

りも私もパラボットなんですよ」

その一言に俺だけでなく工場見学に来ていた全員

が驚いた。

「冗談ですよね?」

「では私がパラボットだという証拠をお見せしま

しょう。パラボットは脳に強い衝撃を受けても気絶

や昏睡する事なく、平然としていられます。試しに

職員に殴らせてみましょう」

とても正気とは思えない事を口走っている様子に

皆は期待の目を向けている。

この場でおかしいと思っているのは俺だけなのだ

ろうか?

工場長が不意に手を上げると、通路近くの扉から

大きなハンマーを持った作業服の男が現れた。

そして男は一言も話す事無く、突然工場長の頭を

思い切り殴る。

普通は思い切り殴られたら死にはしなくても倒れ

て気を失う所だろう。

しかし工場長は倒れなかった。頭から血が噴き出 しているのにも拘らず、何事もなかったような顔で

痛みすら感じていなさそうだ。

その様子に周りは驚きと歓喜の声をあげる。

この場で心から驚いているのは俺だけで周囲との

落差に頭がおかしくなりそうだ。

あらかじめ用意していたのか、ハンマーで殴った

男がガーゼを取り出して止血をし始める。血が止

まった所で再び工場長がニコニコを笑みを浮かべな

がら話し始める。

「パラボットを入れている人間と入れていない人間

の違いと言うとこれぐらいしかありませんが信じて

いただけたでしょうか?」

目の前の現象が現実である以上、首を縦に振るし

かなかった。

「パラボットを搭載しても、我々のように事業用パ

ラボットでなければ自分がパラボットであることす

ら知らずに活動していくので家族や知り合いに疑わ

れることもありません」

もはや正気じゃいられない状況の中、おかしくな

りそうな頭で考えてみる。

なんでこんなとんでもない技術のある工場を少数

とはいえ、一般人を入れているのだろうか?

「さて、パラボットの存在を皆さんにお見せした所

でそろそろ『ユートピア計画』のお話を致しましょう」

またもや聞きなれない名前に困惑するのはやはり 俺だけで、他の皆は今回来た最大の目的とも言わん

ばかりに盛り上がっていた。

歓喜する人、泣き出す人、腰が抜けて立てなくな

る人など、多種多様の反応を見せている。存在しな

い楽園を彼らは求めていたとでもいうのだろうか?「『ユートピア計画』とはパラボットを用いた恒久

的な幸せを実現する為の計画です。概要としてはパ

ラボットが脳の代わりとなり、社会的な役割を果た

す中、摘出した脳を培養液の中に入れ、管理された

コンピューターの指示の元、刺激を適切に与える事

で本人の望む理想の世界を脳内で作りだし、脳が死

ぬまでずっと望むまま生きる事が出来るのです」

存在しない楽園は脳内で意図的に作り出せばそれ

は至高の楽園となりえる、という事か。

脳を摘出すると言う時点で従順な奴隷を量産する

為に作っているものだと思っていたが、これは奴隷

を作ると言うよりも人を擬似的な楽園に導く為の行

為ともいえる。

「もうすでに私の元々の脳はもちろん、この計画を

考案した資産家や大企業の社長、政治家やから始ま

り、各所から抽選で選ばれた皆さまにも体験しても

らっております。どなたも理想の世界で生きている

方々からは軒並み好評価を頂いております」

俺はなぜこの工場見学に参加している人間が皆、

揃いも揃って重い空気を漂わせていたのかを理解した。

(6)

皆、この社会の中で生きていけなくなったのだ。

そして自殺を考えていた時にこの工場見学の懸賞

を見かけて藁にもすがる思いで応募して当選したの

だろう。

だから皆パラボットを搭載したかった、いや、理

想郷へ行きたかったのだ。

工場長は「これから手術の為に別館に移動して頂

きます」と言って工場の隣の建物に向かっていった。

その後に続くのは感極まって様々な反応をする世

捨て人達。

俺は考える。このままパラボットを搭載してもい

いのだろうか、と。

これからの人生の苦楽を全て身体を操るロボット

に任せて自分は理想郷の中で極上の快楽を与えられ

続けられるのもいいかもしれない。

パラボットの性能は工場長と普通に話が出来てい

る事やハンマーで頭を殴られてもびくともしないと

いう点を見ても知性、強度どちらも優れている事は

明らかだ。

しかし、俺は理想郷に逃げてしまってもいいのだ

ろうか?

俺はまだ、人間だと言えるだろう。

しかし、パラボットを搭載し、脳と五体を切り離

したら果たして俺は果たして人間と言えるのだろう

か? まだ、人間を辞めるわけにはいかないと思う。

しかし、理想郷に行きたいという気持ちも捨てら

れずにいた。

煩わしいこの社会を切り捨て、自分がやりたいと

思えば何でも出来る世界。

それが可能であるのだとしたらどんなに素晴らし

いのだろう。

両方を捨てきれないまま、別館の中を歩いていく。

工場見学はそろそろ終わりそうだ。

工場長曰く、ここで働いているのはもうパラボッ

トを搭載している人だけらしい。

生物は居ても動かすのは全て機械。

脳をパラボットに変える事で睡眠を必要としなく

なった事によりこの工場は

24時間稼働しているとの

事。

しかし肉体への負担は変わらないのでタイムテー

ブルで全ての従業員の行動を管理できる他、本体が

機械なのでパラボット同士で相手を指定して信号を

飛ばす事も出来るのだそうだ。工場長を殴った作業

員もその信号を受け取ってやって来たんだとか。

つまり擬似的かつ機械的なテレパシーをする事が

出来るのである。

現在のパラボットの普及率は日本の全人口の0.

01%にも満たないごく限られた数らしく、自殺志 願者やホームレス、更生の余地のない囚人などに搭

載を薦めているらしい。

そのうちの何割が脳内に構成された理想郷の中で

死んで行くのだろうか?

そして今、脳を切り離そうとしている人達はあち

ら側に行ったら何を思い描くのだろうか?

病院の様に聖潔で明るい別館を歩いているとここ

は山奥である事を忘れてしまう。

まるで都心の総合病院のような近代的な施設で工

場という感じがしない。

工場長は『第一手術控室』と言う所で止まった。

「ここで診察着に着替えてください。順番にお呼び

します」

俺達は言われるがまま診察着に着替えて手術され

るのを待つことになった。

脳を切り離す順番はくじ引きとなり、俺は最後の

グループのようだ。

控室で待っている事4時間、待っているうちにど

んどん人が呼ばれていって数が減っていく。

呼ばれた人々は歓喜に満ち溢れたような顔をして

いて、自分もそうなるんだろうかと想像してみたり

して見る。

「最後の方々、大変お待たせしました、手術室にご

案内します」

とうとう自分の番が来たようだ。

(7)

科学的に創られた理想郷はどのようなものなのだ

ろうか?

俺が望んだ物は何でも手に入るだろう。

俺がモテまくりたいと思えばそれも叶うだろう。

俺が世界のどこかに行きたいと思えばどこだって

行けるだろう。

だが、しかし、それでいいのだろうか。

そうこう考えてながら移動していると、視界にと

んでもないものが飛び込んできた。

「あれは……なんですか……?」

「あれはさっき手術した方から摘出した脳です。あ

れをチューブに繋いで適切な電流を流すことその脳

が望むとおりの世界を作り出せるのです」

それは未来の自分の姿だった。

あれは生きた人間とは言えない。

脳は生きている以上、生命活動は続いているが、

人間的には死んでいるのだ。

俺は人間として生きたい。

この体で生きずらい世界を生きるために。

俺は機械では無く人間であると証明する為に。

全力で走っているのに呼吸は不思議と苦しくない。

入り組んだ別館は迷路のように入り組んでいた

が、不思議な事に職員が追ってきたりサイレンが鳴っ

たりはしていない。

よく映画とかだったらここでたくさんの追っ手が 来て俺を捕まえに来るものだが、そんな事も無く工

場の入口に辿り着く事が出来た。

ただ、行きに乗ってきたバスはもう姿は無く周り

に車両も見当たらない。

周りを照らすのは工場から僅かに漏れた光のみ。

このまま逃げても生きて帰れる保証なごどこにも

ないだろう。

しかし帰らなければいけない。俺は、俺の運命を

AIなんかに譲りたくない。

スマホのバッテリーが残っていたのでその小さな

光を元に道を歩いていく。

暗闇の中を歩いて2時間、とうとうスマホの電源

が切れてしまった。

「くそ、何も見えねぇ!  帰らなきゃ、いけないの

に!」

辺り一面真っ暗で自分の手すら見えなくなってし

まった。

感覚でポケットにスマホを入れて手探りでガード

レールを探す。

ガードレールを掴み伝い続ければ、街灯のある道

に辿り着けるかもしれないからだ。

ただ暗闇の中立ち往生しているよりも数段ましだ。

なんとかガードレールを探り当て、絶対に離さな

いと思いながら伝っていく。

そうする事6時間、街灯のある所に辿り着く前に 日差しが昇り始め、普通に道を歩けるようになった

のでそれから更に3時間、やっと人里に辿り着き、

そこから電車で帰る事ができたのだ。

やっとの思いで帰れた我が家に感動を覚えなが

ら、ベットに倒れ込む。

これでよかったのだ。この疲れが、生きていると

いう感覚が機械では無いという証拠なだと実感し、

深い眠りに就いた。

 最近はどこもかしこもパラボットばかりの世の中

になってきた。

あの日の工場見学の時に比べるとパラボットの人

口は日本全体の人口の1割を迫ろうとしており、『年

間自殺者0人に』とか『パラボットのみで構成され

た企業が一部上場』といったパラボットは経済的に

も社会的にも認知されてきており、若い人はどんど

ん『搭載』を望んで脳を切り離している。

更にとうとうパラボットを搭載した議員が増えた

ことにより国家主導で行う、パラボット同士で子供

を増やす法律を施行、結婚相手に利害を求めないパ

ラボット同士の出生率は高いため、少子化を大幅に

改善させるといった成果を上げたのだ。

そんな中とうとう家族までパラボットになってし

まった。

ご近所酸と話す時も取引先への連絡も全て通信す

工場見学

(8)

るだけで済んでしまう。

こうしているうちにも電脳世界の会話は続いている。

俺の生きた声は今君に届いているだろうか?

『HALLO  WORLD』

君も我々も始まったばかりのプログラムだ。

『工場見学』コメント

この小説はある日もう一人の自分が仕事を肩代わ

りしてくれないかな~なんて思っていた時に思いつ

いた小説です。

これからの時代、ロボットは工場やレジなどが自

動化されていくにつれて次々と目標に合わせて最適

化されたものが登場し人々が担っていた仕事を代わ

りにこなしていくと思います。

現在においてでもロボットによる工場の自動化に

より職を奪われた人々が反ロボットを掲げてデモを

起こすなど、効率化の反動は小さくないでしょう。

ならば人間自体を自動化したらどうなるのだろう

かと考えたのがこの作品でした。

作中に出てくるパラボットという存在が及ぼす新

たな倫理観と機械によって作られた効率的な社会を

読者の皆様はどう捉えるのでしょうか?

たくさんの意見が出ることを期待したいです。 私はSF小説が昔から好きで小説を書き始めたの

も伊藤計劃の『ハーモニー』を見て、こんな世界観

を考えて文字で構成された世界で表現したいと思っ

たのが始まりでした。

この作品の世界を気に入っていただけたなら嬉し

い限りです。

 

Referensi

Dokumen terkait

3, 2018 遠藤先生 , ガードナー賞ご受賞 , おめでとうございます 古谷航平 元,三共(株)(現,第一三共(株))筑波研究所長 遠藤先生は,これまでもラスカー賞をはじめとして 数々の受賞をされてきましたが,今回のガードナー賞の 受賞を改めて心からお祝い申し上げます. このところ,創薬源としての微生物に関する関心は急

つくばの心理学 2014 10 冒頭の写真は、1 歳だった娘が、茶筒を 開けて、こぼれた茶葉をすくっているとこ ろです。これを見て、みなさんはどう思わ れるでしょうか。 「あーあ、やっちゃった」「お茶がもったい ない」「しつけがなっていない」というとこ ろでしょうか。 私は「筒があけられるようになった!」 「一生懸命茶葉を集めている。おもしろ

1 Part1 日本の習慣やマナーについて 日本の習慣やマナーで気をつけなければならないことを理解するためにイメージを言葉にしたり日本人 にインタビューをしたりしてみましょう。 <使い方> まず、例を見て(1)~(3)の○の中や線に考えついた言葉を自由に書いてみましょう。

みそさざいは、 どうして うぐいすの うちから ぬけだして、やま が らの うちへ むかったのでしょう。 よろこぶ やま が らを みて、 みそさざいは どのような きもちに なったのでしょう。 これから、ともだちと どのように せいかつして いきたいですか。 しっかり かんがえられた あたらしく きづいたことが あった たいせつに したいことが

大陸に学んだ国づくり① (教科書 94~108 ページ) 氏名( ) 1 教科書 94 ページのアを見て、遣けん唐とう使しの旅がどのようなものだったのかを書きましょう。 2 遣唐使は、 中ちゅう国ごくからどのようなものを持ち帰りましたか。 3 聖徳太子しょうとくたいしはどのような政治を行ったでしょうか。 時代 背景はいけい 目ざし たこと

1 通学路での交通安全 3年 組 名前 ➊通学路の歩き方 通学路の安全についてまとめましょう。 気をつけるところはどこですか。 安全な歩き方について話し合いましょう。 ➋正しい横だんの仕方 青信号が点めつしているときは,どうしたらよいでしょうか。その理ゆうも書きましょう。 どうする 理ゆう... 3年 組 名前 ➌ふみ切のわたり方

1 1.「学習をまとめる」活動から,よりよく学ぼうとする意欲を育む 数年前から,学力の低下が教育界を始め,マスコミでも盛んに取り上げられています。た だ,マスコミなどで騒がれているのは,国語で言えば漢字が読めたり書けたりすることがで きない,算数で言えば計算ができない,そして社会科では,都道府県の位置や名称,主な産

5年- 5 - ・「まんがの方法」を紹介する筆者の手順 や表現の特徴をつかみ、グループで話し 合いをする。 ・ひみつをさぐってみましょう。 ・えがき方について考えてみましょう。 ・物語の進行の仕方についてはどうでしょ うか。 ・「まんがの方法」は、ほかにもあります。 ・みなさんも、自分の好きなまんがから、 いろいろな「まんがの方法」を見つけて