地球惑星圏物理学
惑星大気(2)
1
地球型惑星大気の概観
2
地球型惑星の大気組成
3
大気組成 [%] 金星 地球 火星
窒素
1.8 78.1 2.7酸素
― 20.9 ―アルゴン
0.02 0.9 1.6二酸化炭素
98.1 0.035 95.3田近 (1998)を改変
地球は金星・火星と大きく異なる大気組成を持つ
•
海洋の存在による二酸化炭素の除去 (炭酸塩の形成)
•
光合成による酸素の発生
物理的性質の違い
4
50 第 4 章 惑星大気
図 4-8 .大 気 中 の オ ゾ ン の 生 成 と 消 滅 。気 象 庁 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/3-10ozone.html より転載。
4.3 惑星大気の概観
4.3.1 岩石惑星の大気
表 4-1 .地球型惑星大気の物理量。岩波書店『比較惑星学』より転載。
表 4-1 に太陽系の岩石惑星の大気の諸物理量を示す。水星はエクソベースが地表面に相当 するような希薄な大気しか持たないため、ここでは除外した。金星・地球・火星の順に地表 温度が高くなっているが、これは太陽からの距離の違いに加えて、大気量の違いによるもの である。金星は地表圧力が 90 気圧程度の厚い大気を持つ一方で、火星は地表圧力が小さい希 薄な大気しか持たない。温室効果を担う大気量の違いが地表温度に大きく寄与している。特 筆すべき点として、金星のボンドアルベドが極めて高いことが挙げられる。金星大気中の雲 によって太陽放射の大部分は反射され、地表温度に寄与しない。アルベドを加味した実効的 な惑星の平衡温度は、金星より地球のほうが高い ( 表 4-1 の有効放射温度が実効的な平衡温度 に対応 ) 。従って、金星が地球より高い地表温度をもつ要因は、大気の温室効果によるもので あるということができる。金星の地表温度は水の臨界温度 (647 K) より高く、また、火星の 地表圧力・温度は水の三重点以下である。従って、地表で液体の水を安定に保持できる環境 をもつ太陽系の岩石惑星は地球のみである。
N2, O2 CO2
CO2
大気圧・地表温度の差
反射率の差
大気質量の見積り
5
地球惑星圏物理学 2015 年度後期 期末レポート 解答
1. 惑星大気
地球と金星は軌道半径や質量が同程度であり、兄弟惑星と形容されることもある。しか し、地球と比較して金星ははるかに厚い大気を持ち、その結果として地表面温度には大きな 隔たりがある。ここでは地球と金星の大気の違いについて考察する。
問 1.1
観測量である惑星の地表大気圧と地表重力、平均半径から、静水圧平衡の関係式を利用 して地球と金星の大気質量を計算せよ。講義ノートの表 4-1 の地球・金星の地表大気圧と地 表重力、そして地球の平均半径 6.37 × 10
3km, 金星の平均半径 6.05 × 10
3km を用いること。
ただし、大気圏の厚みは惑星半径に比べて十分に小さいことから、大気圏において重力は一 定とし、曲率は無視できるものとする。
問 1.1 解答
講義資料の式 (4.1) 、静水圧平衡の関係式より、
dp(r )
dr = − GM (r )
r
2ρ(r ). (1)
ここで、 r は惑星中心からの距離、 p は圧力、 ρ は圧力、 M (r ) は距離 r より内側にある質量 である。大気の厚みは惑星半径に比べて十分小さいことから、大気圏において重力を一定と
すると、 dp(z )
dz = − ρ(z )g. (2)
ここで、 z は地表からの高さ、 g は地表面における重力加速度である。式 (2) を地表面から無 限遠まで積分することで、次式を得る。
p(z = ∞ ) − p(z = 0) = − g
! ∞
0
ρdz. (3)
ここで、 p(z = ∞ ) = 0 、 p(z = 0) = p
s、
"0∞ρdz × 4πR
2p= M
atm(R
pは惑星半径、 M
atmは大 気質量、 p
sは地表大気圧 ) より、
M
atm= 4π R
2pp
sg . (4)
式 (4) に地球・金星の物理量を代入すると、地球大気質量 5.3 × 10
18kg 、金星大気質量 4.8 × 10
20kg となる。
問 1.2
地球の海水中では大気中の二酸化炭素 (CO
2) が溶け込み、石灰岩 (CaCO
3) として沈殿す る (CaO + CO
2→ CaCO
3) 。原始地球において大気中に存在した二酸化炭素の大部分は、こ
地球惑星圏物理学 2015 年度後期 期末レポート 解答
1. 惑星大気
地球と金星は軌道半径や質量が同程度であり、兄弟惑星と形容されることもある。しか し、地球と比較して金星ははるかに厚い大気を持ち、その結果として地表面温度には大きな 隔たりがある。ここでは地球と金星の大気の違いについて考察する。
問 1.1
観測量である惑星の地表大気圧と地表重力、平均半径から、静水圧平衡の関係式を利用 して地球と金星の大気質量を計算せよ。講義ノートの表 4-1 の地球・金星の地表大気圧と地 表重力、そして地球の平均半径 6.37 × 10
3km, 金星の平均半径 6.05 × 10
3km を用いること。
ただし、大気圏の厚みは惑星半径に比べて十分に小さいことから、大気圏において重力は一 定とし、曲率は無視できるものとする。
問 1.1 解答
講義資料の式 (4.1) 、静水圧平衡の関係式より、
dp(r)
dr = − GM (r)
r
2ρ(r). (1)
ここで、 r は惑星中心からの距離、 p は圧力、 ρ は圧力、 M (r) は距離 r より内側にある質量 である。大気の厚みは惑星半径に比べて十分小さいことから、大気圏において重力を一定と
すると、 dp(z )
dz = − ρ(z )g. (2)
ここで、 z は地表からの高さ、 g は地表面における重力加速度である。式 (2) を地表面から無 限遠まで積分することで、次式を得る。
p(z = ∞ ) − p(z = 0) = − g
! ∞
0
ρdz. (3)
ここで、 p(z = ∞ ) = 0 、 p(z = 0) = p
s、
"0∞ρdz × 4π R
p2= M
atm(R
pは惑星半径、 M
atmは大 気質量、 p
sは地表大気圧 ) より、
M
atm= 4π R
2pp
sg . (4)
式 (4) に地球・金星の物理量を代入すると、地球大気質量 5.3 × 10
18kg 、金星大気質量 4.8 × 10
20kg となる。
問 1.2
地球の海水中では大気中の二酸化炭素 (CO
2) が溶け込み、石灰岩 (CaCO
3) として沈殿す る (CaO + CO
2→ CaCO
3) 。原始地球において大気中に存在した二酸化炭素の大部分は、こ
静水圧平衡の式を積分して、次式を得る
地球・金星の物理量を代入すると、
•
地球大気質量 5.3 10
18kg
•
金星大気質量 4.8 10
20kg
金星大気
6
7
4.3.
惑星大気の概観 金星大気
51金星
図
4-9.金星大気の温度構造。
(a)高度と温度の関係。破線は探査機による計測で、実線は探 査の結果からつくられた標準大気モデルである。数字は緯度を表す。
(b)圧力と温度の関係。
破線は地球大気を比較のためプロットしたもの。数字は緯度を表す。
金星大気は高温高圧の
CO2大気で特徴づけられる。化学組成は主に
CO2: 97 %, N2: 3 %である。地表圧力は
9.2 MPa,地表温度は
735 Kである。
図
4-9に金星大気の構造を示す。高度
50-65 kmに全球を覆う雲の層があり、
0.78という金 星の高いアルベドをつくりだしている。金星の高い地表温度は、主に大量に存在する
CO2と、
わずかに存在する
H2Oの温室効果によるものである。雲の下の下層大気の温度分布はほぼ断 熱温度勾配に従う。雲層の上の中層大気は地球のような温度のピークをもたず、成層圏と中 間圏に区分されていない。金銭の熱圏温度は
100-300 K程度と、地球の熱圏温度
800-1300 Kと比較して非常に低い。これは金星大気の主成分である
CO2の赤外放射による冷却によるも のと考えられている。
(a) 高度-温度分布
上層大気
中層大気
下層大気
46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)sは断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
惑星大気に共通の性質
•
高度とともに温度低下する下層大気
•
高度とともに温度上昇する上層大気
下層大気
•
ほぼ断熱温度勾配
•
雲層
中層大気
•
成層圏をもたない(オゾン層がないため)
上層大気
•
地球と比較して低温(CO
2による冷却)
エネルギー収支
•
雲によってアルベドが高い(0.78)
8
4.3.
惑星大気の概観 金星大気
51金星
図
4-9.金星大気の温度構造。
(a)高度と温度の関係。破線は探査機による計測で、実線は探 査の結果からつくられた標準大気モデルである。数字は緯度を表す。
(b)圧力と温度の関係。
破線は地球大気を比較のためプロットしたもの。数字は緯度を表す。
金星大気は高温高圧の
CO2大気で特徴づけられる。化学組成は主に
CO2: 97 %, N2: 3 %である。地表圧力は
9.2 MPa,地表温度は
735 Kである。
図
4-9に金星大気の構造を示す。高度
50-65 kmに全球を覆う雲の層があり、
0.78という金 星の高いアルベドをつくりだしている。金星の高い地表温度は、主に大量に存在する
CO2と、
わずかに存在する
H2Oの温室効果によるものである。雲の下の下層大気の温度分布はほぼ断 熱温度勾配に従う。雲層の上の中層大気は地球のような温度のピークをもたず、成層圏と中 間圏に区分されていない。金銭の熱圏温度は
100-300 K程度と、地球の熱圏温度
800-1300 Kと比較して非常に低い。これは金星大気の主成分である
CO2の赤外放射による冷却によるも のと考えられている。
(b) 圧力-温度分布 惑星大気に共通の性質
•
高度とともに温度低下する下層大気
•
高度とともに温度上昇する上層大気
下層大気
•
ほぼ断熱温度勾配
•
雲層
中層大気
•
成層圏をもたない(オゾン層がないため)
上層大気
•
地球と比較して低温(CO
2による冷却)
エネルギー収支
•
雲によってアルベドが高い(0.78)
46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)sは断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
火星大気
9
火星大気
(a) 高度-温度分布
52
第
4章 惑星大気
火星
図
4-10.火星大気の温度構造。
(a)高度と温度の関係。破線は探査機による計測で、実線は 探査の結果からつくられた標準大気モデルである。
(b)圧力と温度の関係。破線は地球大気 を比較のためプロットしたもの。
火星大気は希薄な
CO2大気で特徴づけられる。化学組成は金星同様、主に
CO2: 95 %, N2: 2.7 %である。地表圧力は平均で
6 hPa,地表温度は平均で
210 Kであるが、金星大気と異 なって著しい日変化・季節変化がある。低温の火星大気中では主成分である
CO2が凝結する ため、大気圧は大きく時間変動する。
図
4-10に火星大気の構造を示す。火星大気の特徴は、大気中の塵によって温度分布が強く 影響を受ける点である。下層大気の温度分布は断熱温度勾配と比較してずっと等温に近い温 度分布が観測されている。これは、大気中の塵が太陽放射を吸収することで、大気上層部を 暖めているからである。火星大気中の塵の存在量は大きく時間変化するため、大気の温度分 布も大きく変動する。比較的塵が少ない条件下では下層大気の温度分布は断熱温度勾配に近 づく。中層大気は金星と同様に温度のピークをもたず、地球のような成層圏と中間圏の区分 はない。火星の熱圏温度は平均的には
150 K程度であり、太陽活動が活発な時期は
300 Kに 達することもある。火星は金星と同様
CO2大気をもつことから、地球と比べて熱圏温度は低 温である。
10
上層大気
中層大気
下層大気
46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)sは断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
惑星大気に共通の性質
•
高度とともに温度低下する下層大気
•
高度とともに温度上昇する上層大気
火星固有の性質
•
時間変動が大きい
•
塵の影響
下層大気
•
断熱温度勾配より等温に近い (塵が太陽光吸収)
中層大気
•
成層圏をもたない(オゾン層がないため)
上層大気
•
地球と比較して低温(CO
2による冷却)
火星大気
(a) 高度-温度分布
52
第
4章 惑星大気
火星
図
4-10.火星大気の温度構造。
(a)高度と温度の関係。破線は探査機による計測で、実線は 探査の結果からつくられた標準大気モデルである。
(b)圧力と温度の関係。破線は地球大気 を比較のためプロットしたもの。
火星大気は希薄な
CO2大気で特徴づけられる。化学組成は金星同様、主に
CO2: 95 %, N2: 2.7 %である。地表圧力は平均で
6 hPa,地表温度は平均で
210 Kであるが、金星大気と異 なって著しい日変化・季節変化がある。低温の火星大気中では主成分である
CO2が凝結する ため、大気圧は大きく時間変動する。
図
4-10に火星大気の構造を示す。火星大気の特徴は、大気中の塵によって温度分布が強く 影響を受ける点である。下層大気の温度分布は断熱温度勾配と比較してずっと等温に近い温 度分布が観測されている。これは、大気中の塵が太陽放射を吸収することで、大気上層部を 暖めているからである。火星大気中の塵の存在量は大きく時間変化するため、大気の温度分 布も大きく変動する。比較的塵が少ない条件下では下層大気の温度分布は断熱温度勾配に近 づく。中層大気は金星と同様に温度のピークをもたず、地球のような成層圏と中間圏の区分 はない。火星の熱圏温度は平均的には
150 K程度であり、太陽活動が活発な時期は
300 Kに 達することもある。火星は金星と同様
CO2大気をもつことから、地球と比べて熱圏温度は低 温である。
惑星大気に共通の性質
•
高度とともに温度低下する下層大気
•
高度とともに温度上昇する上層大気
火星固有の性質
•
時間変動が大きい
•
塵の影響
下層大気
•
断熱温度勾配より等温に近い (塵が太陽光吸収)
中層大気
•
成層圏をもたない(オゾン層がないため)
上層大気
•
地球と比較して低温(CO
2による冷却)
11
46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)sは断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
巨大ガス惑星・氷惑星大気の概観
12
巨大ガス惑星・氷惑星大気の概観
13
4.3.
惑星大気の概観
534.3.2 巨大ガス惑星・氷惑星の大気
表
4-2.巨大ガス惑星・氷惑星大気の物理量。岩波書店『比較惑星学』より転載。
巨大ガス惑星・氷惑星はガス天体であり、明確な固体表面がないか、あるとしても非常に 深い位置にある。そのため、どこまでを大気と呼ぶか明確な定義はない。圧力でおよそ
100−1気圧以下の領域を大気と呼ぶことが多いため、ここではその定義に従う。表
4-2に巨大ガス 惑星・氷惑星大気の物理量を示す。これらの天体に共通の特徴として、大気の化学組成は主 に
H2と
He(モル比で約
10 %)である。ついで多いのは
CH4や
NH3である。大気の熱源とし て、太陽放射と同程度に内部発熱が寄与していることも岩石惑星にはない特徴である。これ は冷却に伴って惑星が収縮することで、重力ポテンシャルエネルギーを開放しているためで ある。
※ここでは10
0-1気圧より上空を大気と呼ぶ
太陽放射を上回る惑星放射 = 内部からの発熱
14
54
第
4章 惑星大気
木星
図
4-11.木星大気の温度構造。
(a)中層・下層大気。ボイジャーの赤外線放射観測から推定。
(b)
高層大気。ガリレオプローブによる観測とモデルの比較。
図
4-11に木星大気の構造を示す。木星の下層大気は断熱温度勾配の対流圏となっており、
そのまま惑星内部に接続していると考えられている。中層大気には温度が高度とともに上昇 する層、すなわち成層圏が存在している。地球の場合、成層圏の成因はオゾンの紫外線吸収 による加熱であるが、木星の場合、
CH4分子の赤外線吸収と
CH4から生成された光化学ス モッグの紫外線・青色光吸収であると考えられている。熱圏の温度は高く、
1000 K以上に達 している。短波長の太陽放射の吸収に加え、磁気圏で加速された電子による加熱などの要因 が寄与していると予想されている。
全球を覆う雲は巨大ガス惑星・氷惑星に共通する特徴であり、木星の場合、地上望遠鏡で 見ても雲による縞模様が顕著である。図
4-12に雲の構造の理論予想を示した。実際の観測で 雲の高度分布が確認されているわけではないが、唯一木星の場合、
NH4SHの雲層の存在がガ リレオプローブによって確認されている。
(a) 圧力-温度分布
46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)sは断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
木星大気
HとHe主成分、ついでCH
4, NH
3惑星大気に共通の性質
•
高度とともに温度低下する下層大気
•
高度とともに温度上昇する上層大気
下層大気
•
断熱温度勾配(惑星内部まで連続的につながる)
•
多成分の雲
中層大気
•
成層圏
CH
4分子による赤外線吸収
光化学スモッグによる紫外線・青色光吸収
上層大気
•
熱圏は高温 (~ 1000 K) 中層大気
下層大気
木星大気
雲の生成・消滅・運動で概観が変化
http://www.nasa.gov/centers/goddard/multimedia/largest/EduVideoGallery.html
15
16
他の巨大惑星の大気
4.3.
惑星大気の概観
55図
4-12.巨大ガス惑星・氷惑星の雲の分布
(理論的予想
)。
土星・天王星・海王星
大気の化学組成の類似性から、土星・天王星・海王星も概観としては木星と共通の特徴を もっている。しかしながら、個々の天体に固有の特徴も存在する。土星・天王星・海王星い ずれも下層大気は対流しており、惑星内部に接続していると考えられている。中層大気に高 度とともに温度が上昇する成層圏が存在することも、木星と共通する特徴である。熱圏は高 温であるが、各天体の熱圏温度は様々で、太陽からの距離との相関もない
(表
4-2)。また、雲 が凝結する高度は温度・圧力に依存するため、太陽から遠ざかるに従って、同種の雲ができ る高度は下がっていくと予想されている
(図
4-12)。
雲分布の理論的予想
木星大気との類似性
•
多成分の雲
•
成層圏の存在
•
高温の熱圏
惑星ごとの差異
•
太陽から遠いほど同じ雲が下層へシフト 木星・土星:NH
3の雲
天王星・海王星:CH
4の雲
•
熱圏の温度
まとめ
惑星大気の物理構造
• 下層大気:対流圏
• 中層大気:地球など一部の惑星は成層圏がある
• 上層大気:熱圏
惑星大気の化学構造
• 下部の均質圏と上部の不均質圏
• 光化学反応 (オゾン層、金星の雲)
惑星ごとに異なる大気量・組成
• 結果として、雲(アルベド)や大気構造の違いが生まれる