播種期の気温上昇がカバークロップの雑草抑制効果に及ぼす影響 内野 宙
*
・弓立敏子・中村 郷久・岩間 和人・実山 豊(北海道大学大学院農学研究院)
The effects of temperature increase at seeding time on weed suppressive ability of cover crops H. Uchino*, T. Yudate, S. Nakamura, K. Iwama and Y. Jitsuyama
(Graduate School of Agriculture, Hokkaido University)
農薬を使用しない有機栽培において、除草に多大の労力と時間を費やすことは深刻な問題である。本研究室では、除 草剤に替わる雑草抑制方法としてカバークロップを用いる方法に着目し、カバークロップによる雑草抑制効果、および主 作物の成育・収量に及ぼす影響を検討してきた(内野ら
2006,2008)。その結果、カバークロップを用いることで主作物 +
カバークロップの植被率(単位土地面積あたりに占める上方からみた植物体面積)が増加し、雑草の発生が抑制されるこ とを明らかにした(内野ら2008
)。しかし、2年間の圃場試験において、カバークロップの播種期が高温の年次には低温 の年次に比べてカバークロップの成育が低下し、雑草の抑制効果が減少した(弓立ら,2006)。そこで本報告では、気温 の異なる3時期にカバークロップを播種し、温度条件がカバークロップの雑草抑制効果に及ぼす影響を検討した。【材料と方法】
実験は2006年と
2007
年に北海道大学北方生物圏フィールド科学センター生物生産研究農場で行った。作期処理とし て、2006
年は4
月30
日(作期1)、6
月3
日(作期2)、7
月25
日(作期3)に、2007
年は5
月1
日(作期1)、6
月14
日(作 期2)、8
月9
日(作期3)にカバークロップを播種した。また、カバークロップ処理として、2006
年はライムギ『ふゆ緑』、ヘ アリーベッチ『まめ屋』(以下「ベッチA」)およびその2種を等量ずつ混合したものを、2007
年は3品種のヘアリーベッチ(『ベッチ
A
』、『まめっこ(以下「ベッチB
」)』、『ヘアリーベッチ(商品名、以下「ベッチC
」)』)を供試した。なお、両年次とも にカバークロップを播種しない区(無カバー区)を設けた。播種密度は400
粒/
㎡とし、区制は4反復分割区法(主区:作期 処理、副区:カバークロップ処理)とした。成育期間中の気温は熱電対を用いて記録し、カバークロップ出芽後に出芽率、播種後
32
日目(以下DAS
とする)にカバークロップ植被率、70DAS
に雑草乾物重を測定した。植被率は、雑草を取り除 いた群落の上方から近赤外カメラ((
有)
木村応用工芸)
を用いて撮影した後、植被率測定用のソフトウェアにより算出した。【結果と考察】
1、 両年ともに成育前半(
32DAS
まで)の気温は作期が遅くなるほど増加し、作期3の気温は作期1より約10
℃も高かっ た(第1図)。また、作期2の気温は2006
年に比べて2007
年の方が高かった。2、 カバークロップの出芽率は、両年とも作期3で低く、特に気温の高かった
2006年では、作期1、2に比べ大きく低下し
た(第1表)。出芽(7DAS
)までの平均気温とカバークロップ出芽率との間には有意な負の相関関係が認められた(
r=-0.858
,p=0.03
,n=6
)。カバークロップ植被率は、2007
年では作期間に有意な差異が認められなかったが、出芽 率の低かった2006
年の作期3では植被率も大きく減少した。3、 無カバー区における雑草乾物重は、
2006
年は作期3で、2007
年は作期2で最も大きく、高温により雑草の成育が促 進された(第2図)。しかし、2007
年の作期3の雑草乾物重は作期2に比べ小さく、これは成育後期の気温の低下(第 1図)に加え、日長が短くなったために早い播種後日数で雑草が栄養成長を終えたことが関与していると推察した。4、 出芽率と植被率におけるカバークロップ処理間の差異は、作期間の差異に比べ相対的に小さかった(第
1
表)。5、 雑草乾物重は、カバークロップ処理間および作期処理とカバークロップ処理との相互作用に有意性が認められ、低 温ではカバークロップによって雑草乾物重が大きく減少したが、高温ではどのカバークロップにおいても雑草乾物 重が高く、本試験で用いたカバークロップは、いずれも高温になると雑草を十分に抑制できなかった(第
2
図)。6、
32DAS
のカバークロップ植被率と70DAS
の雑草乾物重との関係をみると、両年とも低温であった作期1、および比較的低温であった
2006
年の作期2では有意な負の相関関係が認められた(第3図)。しかし、両年とも高温であった 作期3および2007年の作期2では有意な相関関係が認められず、カバークロップの植被率が高くても雑草を抑制で きなかった(第3図)。これは、本圃場の優占雑草であるアオゲイトウの出芽率および成育が高温になるほど促進さ れる特性を持つ(弓立ら,2006)ためであると考えられた。以上の結果は、今後の地球の温暖化に伴い播種期の気温が上昇した場合、現在北海道でカバークロップとして用い られているライムギやヘアリーベッチでは出芽率と植被率が低下し、さらに植被率と雑草抑制効果との関係性が小さくな るため、十分に雑草を抑制できない可能性を示唆している。これらのカバークロップは冷涼な気候に適した種であるが、
今後は高温条件下での出芽率と成育に優れ、雑草抑制効果の高いカバークロップ種の選抜が必要であると推察した。
LSD LSD
(0.05) (0.05)
2006年
ライムギ 60.5 48.0 20.7 43.1 9.8 52.1 65.3 10.5 42.6 17.4 ベッチA 76.4 68.8 14.5 53.2 16.2 62.4 67.4 23.0 50.9 14.9 ライムギ+ベッチA 78.5 57.8 16.6 51.0 8.1 66.2 73.3 11.2 50.2 12.7 平均値 71.8 58.2 17.3 49.1 5.9 60.2 68.7 14.9 47.9 10.3
LSD(0.05) NS 11.2 NS 6.9 NS NS NS NS
2007年
ベッチA 59.0 26.0 21.5 35.5 15.8 56.7 51.6 43.0 50.5 NS ベッチB 47.5 16.6 26.8 30.3 15.3 39.0 32.4 33.3 34.9 NS ベッチC 47.5 35.0 32.0 38.2 NS 23.1 43.4 29.4 32.0 NS 平均値 51.3 25.8 26.8 34.6 15.7 39.6 42.5 35.3 39.1 NS
LSD(0.05) 6.8 9.2 NS NS 8.6 NS NS 13.5
処理区
出芽率(%) 植被率(%)
作期1 作期2 作期3 平均値 作期1 作期2 作期3 平均値
ANOVA 作期 カバークロップ 作期×カバークロップ
第1表 2006年および2007年におけるカバークロップ出芽率と32DASのカバークロップ植被率 第1図 2006年(左)および2007年(右)の各作期における気温の推移
データは5日ごとの日平均気温の移動平均値。
括弧内の数字は播種後0から32日目までの平均気温を示す。
0 10 20 30
0 35 70 0 35
70 播種後日数
気温(℃)
作期1(12.8℃)
作期2(19.2℃)
作期3(23.0℃)
2006年 2007年
ライムギ ベッチA ライムギ
+ベッチA ベッチA ベッチB ベッチC
雑草乾物重(g / ㎡)
第2図 2006年(左)および2007年(右)の各処理区における 70DASの雑草乾物重
■作期1;■作期2;□作期3。
***,**,*はそれぞれ0.1%,1%,5%水準で有意であることを示す。
図中のバーは標準誤差(n=4)を示す。
2006年
2006年(● ) r=-0.956***
2007年(○ ) r=-0.850***
0 600
300
50 100
70DASにおける雑草乾物重(g / ㎡)
32DASにおけるカバークロップ植被率(%)
第3図 各作期における32DASの植被率と 70DASの雑草乾物重との相関関係
***は0.1%水準で有意であることを、NSは 有意でないことを示す(n=16)。
作期1(12.9℃)
作期2(16.8℃)
作期3(24.2℃)
2007年
***
***
*
*
***
**
引用文献
内野ら(2006) 日作紀75(別1): 42-43.
内野ら(2008) 日作紀77(別1): 88-89.
弓立ら(2006) 日作紀75(別2): 68-69.
0 900
600
300
0 900
600
300
0
2006年(● ) r=-0.859***
2007年(○ ) r=-0.199NS
2006年(● ) r=-0.173NS 2007年(○ )
r=-0.400NS 作期1
作期2
作期3
1)
1) NSは有意な差異がないことを示す。
ANOVA 作期 カバークロップ 作期×カバークロップ
無カバー 無カバー
0 700
200 100 400 300 600 500