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化学と生物 Vol. 54, No. 4, 2016
新「農芸化学科」の復活にあたり
大西浩平
高知大学総合研究センター日本農芸化学会
● 化学 と 生物
巻頭言 Top Column
Top Column
巻頭言を書くにあたり,過去の号を振り 返ってみた.「なるほど」と感心し「そう だったのか」と納得する読み応えのある記 事ばかりで,私には任が重いと改めて感じ させられた.私はもともと理学部生物学科 の出身であり,大学院,海外でのポスドク など10年以上,微生物分子遺伝学を専門 とする基礎生物学の研究を行ってきた.農 芸化学の世界に足を踏み入れたのは,帰国 後,海洋バイオテクノロジー研究所に就職 して以降であり,現職である高知大学遺伝 子実験施設に赴任後は,農学(農芸化学と 植物防護)の教育研究を主としている.
農芸化学の分野では経験の浅い私が,巻 頭言を書くにいたったのは,現在中四国支 部の支部長を務めているためであると思わ れる.中四国支部は2016年に創立15周年 を迎える若い支部であり,構成する9県の 持ち回りで2年ごとに支部業務を行うこと になっている.会員数や都市の規模から,
全国大会は広島か岡山の開催に限られる が,支部運営を各県が経験できることは,
支部活動の活性化に非常に役立っており,
支部設立時の英断に敬意を表したい.私が 高知大学に赴任したのが2000年であり,中 四国支部が設立されたのが2001年である ため,中四国支部設立も他人事であったと 記憶している.2015〜2016年度は高知県 が担当しており,諸事情によりそんな私が 支部長の任にあるのは不思議なものである.
さて,前置きが長くなったが,私の所属 する高知大学では2016年度から農学部は 農林海洋科学部にリニューアルされる.そ れに伴い1学部1学科から1学部3学科にな る.学部名からわかるとおり,目玉となる 学科は海洋資源科学科であるが,農芸化学 科もひっそりと復活することになった.
「農芸化学科」の復活については,最近の
巻頭言でも2014年52巻5号に稲垣賢二先 生が「各大学で改組を検討の際には,「農 芸化学科」の設置を検討していただきた い」
,52巻8号には横田明穂先生が「明治
の先駆者が果敢に創造したこの分野名(農 芸化学)を学科名として取り戻すことは可 能だろうか」と書かれておられる.改組に 伴い,海洋系・フィールド系に加え,旧農 芸化学系も学科を作ることは早い段階で決 まっていた.ほかの大学と同様,「農芸化 学科」「生物資源科学科」「農学科生命化学 コース・食料科学コース」と変遷してきた 学科名をどうするかという議論の中で「農 芸化学で良いのでは」という意見があり,原点回帰の意味も込めて構成メンバーの意 思が統一された.ただし,どうしても「農 芸化学科」を復活させたいという意識は構 成メンバーの間でそれほど強くなかったと いうのが,私の個人的な印象である.
その後,何度か消滅の危機を乗り越えな がら最終的には国立大学として唯一の「農 芸化学科」が復活することになった.私が 学生の頃,学部学科を選ぶ際にぼんやりと 意識し憧れていた「農芸化学科」(結局は 理学部を選んだが)と新「農芸化学科」は 根底にある「生命・食・環境」の理念は共 通しているが,その内容はかなり変質して いるのではないだろうか.今後も科学技術 全体の進歩の中で,「農芸化学」の内容は 進化していくことが予想される.極めて守 備範囲の広い農芸化学全体を語るには私自 身はまだ力不足であるが,専門である微生 物学を通して新「農芸化学」の普及と発展 に貢献していきたい.また,これを機に多 くの「農芸化学科」が復活することを期待 している.
Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.227
プロフィール
大西 浩平(Kouhei OHNISHI)
<略歴>1983年東京大学理学部生物学科 卒業/1990年同大学大学院理学系研究科 博士課程修了/同年早稲田大学人間総合研 究センター助手/1995年海洋バイオテク ノロジー研究所研究員/2000年高知大学 遺伝子実験施設助教授/2007年同総合研 究センター教授,現在に至る<研究テーマ と抱負>大型藻類多糖の微生物酵素による 分解とオリゴ糖の利用,植物病原細菌の感 染機構の解明<趣味>体を動かすこと
日本農芸化学会