執行智子, カレイラ松崎順子,
中学 1 年生におけるリーディングからライティングへのプロジェクト の実践報告―振り返りを大切にする授業
執行智子
1カレイラ松崎順子
21東京未来大学こども心理学部 〒120-0023 東京都足立区千住曙町34-12
2東京経済大学現代法学部 〒185-8502 東京都国分寺市南町1-7-34 E-mail: 1shigyotomoko@gmail.com, 2carreira@tku.ac.jp
概要 本研究では、英語学習の初心者である中学校1年生英語のライティング活動において,リーディング教材 の表現を利用し,プロセス重視のライティングをした後,それをプレゼンテーションし,言葉の気づきや学習に対 する振り返りをするというプロジェクトを2回することで,生徒の振り返りがどのように変化していくかを明らか にし、さらにそれが新指導要領の指導事項の一つである読み手に正しく伝わるように文と文のつながりに注意して 書く力を養うために適切な手立て一つとしての可能性があるどうかを調査することを目的とした.生徒の気づきや 学習の仕方に対する振り返りから,プロジェクトを重ねていくことで,生徒は読み手の存在を鮮明に意識していく ように変化し,読み手を説得できる主張をするための文章構成についての気づきも深まっていったことが分かった.
よって,この活動が読み手に正しく伝わるように文と文のつながりに注意して書く力を養うために適切な手立とし て可能性があるものと思われる.
Report on the Effectiveness of Projects Utilizing a Step-by-Step Approach of Reading, Research, Writing and Presentations as Seen from the Changing Reflective Habits of Junior High School Students
Tomoko Shigyo
1Junko Matsuzaki Carreira
21 Faculty of Child Psychology, Tokyo Future University 34-12 Senjuakebono-machi, Adachi-ku, Tokyo 120-0023 Japan
2 Faculty of Contemporary Law, Tokyo Keizai University 1-7-34, Minami-cho, Kokubunji-shi, Tokyo 185-8502 Japan
E-mail: 1shigyotomoko@gmail.com, 2 carreira@tku.ac.jp
Abstract The purpose of this study is to report the changes in the reflections of first-grade junior high school students on their awareness of language and strategies of learning over the course of two projects; both of which included a step-by-step series of reading, research, writing and presentations.
Furthermore, the study aimed to determine whether these kinds of programs were appropriate in developing the ability to write essays paying due attention to the construction of paragraphs. The reflections of the students showed that the projects helped them become aware of the existence of the reader and of the importance of learning paragraph writing, and therefore, projects which include a step-by-step series of reading, research, writing and presentations appear to be effective in developing the ability to write well-constructed essays.
1. は じ め に
文 部 科 学 省 中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 外 国 語 編
[1]に よ れ ば ,「 教 育 基 本 法 改 正 , 学 校 教 育 法 改 正 が行 われ ,知・徳・体 のバ ラン ス(教 育 基本 法第 2条第 1号 )と と もに ,基 礎 的・ 基本 的 な知 識・
技能 ,思 考力・判 断力・表 現 力等 及び 学 習意 欲を 重視 し(学 校教 育法 第 30条 第 2 項 ),学 校教 育に お い て は こ れ ら を 調 和 的 に は ぐ く む こ と が 必 要 であ る旨 が 法律 上規 定 され た」(p. 1). では 授業 に お い て ど の よ う に 指 導 す れ ば よ い の で あ ろ う
か。
2011 年 度 ま で 実 施 さ れ て い た 中 学 校 指 導 要 領 外国 語科 に おけ る「 書 くこ と 」の 指導 事 項と ,2012 年度 から 実 施 さ れ た も の は 以 下 の と お り で あ る 。
<2011 年 度ま で の 中 学校 指導 要 領 >
(ア)文 字や 符号 を 識別 し,語と 語の 区 切り な どに 注意 し て正 しく 書 くこ と.
(イ )聞い たり 読 んだ りし た こと につ い てメ モ を 取っ た り 、感 想 や 意 見な ど を 書い た り する こと .
(ウ )自分 の考 え や気 持ち な どが 読み 手 に正 し く伝 わる よ うに 書く こ と.
(エ )伝言 や手 紙 など で読 み 手に 自分 の 移行 が 正し く伝 わ るよ うに 書 くこ と.
(文 部科 学 省[2])
<2012年 度 より 実施 さ れた 中学 校 指導 要領 >
(ア)文 字や 符号 を 識別 し,語と 語の 区 切り な どに 注意 し て正 しく 書 くこ と .
(イ )語と 語の つ なが りな ど に注 意し て 正し く 文を 書く こ と .
(ウ )聞い たり 読 んだ りし た こと につ い てメ モ を とっ た り ,感 想 , 賛 否や そ の 理由 を 書 いた りな ど する こと .
(エ )身近 な場 面 にお ける 出 来事 や体 験 した こ と など に つ いて , 自 分 の考 え や 気持 ち な どを 書く こ と .
(オ )自分 の考 え や気 持ち な どが 読み 手 に正 し く 伝わ る よ うに , 文 と 文の つ な がり な ど に注 意し て 文章 を書 く こと .
( 文部 科 学省[1]) 2012 年 度 よ り 実 施 さ れ た 指 導 要 領 ( 以 下 新 指導 要領 )で は (イ )が 付 け加 えら れ ,ま た 2011 年 度ま での 指 導要 領(以 下旧 指 導要 領 )の( ウ )と
( エ ) を 新 指 導 要 領 の ( エ ) と ( オ ) に 再 編 し , さら に(オ )に「文 と 文の つな がり 」と いう 文言 を加 えた こ とに なる .グロ ー バル 社会 で 生き 抜く であ ろう 中 学生 にと っ て,自 分の 考え を 相手 にわ か る よ う に 論 理 的 に 構 成 す る た め に ,( オ ) に あ る 能 力 を は ぐ く む こ と は 不 可 欠 で あ る と 思 わ れ る.し か しな がら ,こ のよ う な能 力を 従 来通 りの 知識 偏重 型 ,ま た 講義 型の 英 語の 授業 で はぐ くむ こと はな か なか 困難 で あ り ,それ を現 代 社会 を生 きて いる 社 会人 たち は 経験 して い る .現 在中 学校 にお いて は ,多 様 な英 語の ゲ ーム を取 り 入れ 口頭 での やり 取 り が 盛ん に 行わ れて お り,生 徒の 興味 関 心 を 高 ま っ て い る よ う で あ る . し か し な が ら , 新 指 導 要 領 で の 改 善 点 の ひ と つ で あ る 指 導 事 項
(オ)に 関し て,英語 学習 の 初心 者で あ る中 学校
1 年 に おい てど の よう な活 動 が適 切で あ るの かに つい ては 議 論の 余地 が ある よう に 思わ れる .
本 研 究 で は , 新 指 導 要 領 に あ る 指 導 事 項 ( オ ) に関 して 、中 学校 1 年 生に お いて どの よ うな 英語 の ラ イ テ ィ ン グ 活 動 を 行 う べ き か を 検 討 し て み た.
2. 先 行 研 究
2.1. 中 学 校 から の 英 語 の ライ テ ィ ン グ
中 学 校 で 行 わ れ て い る ラ イ テ ィ ン グ に つ い て , 金 子[3]は ,「 文 法 知 識 の 確 認 の た め に 英 作 文 が 用 いら れる こ とが 多く 」(p. 21), その 結果 ,「 短い 英文 は書 け ても ,社会 的な コ ンテ クス ト の中 で自 分 の 考 え を 書 こ う と す る と 応 用 が 利 か な い 」(p.
22)と述 べて い る .また ,井戸[4]で は ,高校 3年 生の 答案 か ら「 中 学の ころ か ら作 文に 慣 れて きた 生徒 は比 較 的や さし い 英語 を使 っ て書 こう と」(p.
24) す る が ,「 中 学 か ら 作 文 に 慣 れ て こ な か っ た 生徒 は ,大 学入 試 問題 の長 文 で読 むよ う な英 文を 書こ うと す る傾 向 」(p. 24)が あり,「 抽 象度 の高 い 語 を ブ ロ ッ ク の よ う に 組 み 合 わ せ て 英 文 を 書 こう とす る こと が多 い」(p. 24) と述 べ てい る . さら にそ の よう な生 徒 が書 いた 英 文は「 日本 語の 影響 が強 く,特に 書 きな れな い うち は,読み にく い英 語に な って しま う こと が多 い」(p. 24) と加 えて いる .
では どの よ うな 指導 が 必要 なの で あ ろ うか .柳 瀬[5]では ,高校 生 に英 語で 表 現す ると き 感じ るも どか しさ に つい ての 調 査か ら,2 種類 の もど かし さ ( 量 的 も ど か し さ と 質 的 も ど か し さ ) を 抽 出 , 分析 して い る .前 者 は英 語の 語 彙・表 現 の不 足に よる もの で,後者 は 発想 の転 換・柔軟 な 考え 方を 必要 とす る もの であ る .こ れら 2 つの う ち後 者の も ど か し さ を 乗 り 越 え て 自 分 の 言 い た い こ と を 英語 で表 現 する 際に は,「『 語 順に 寛容 な 言語 から , 語順 に厳 格 な言 語に 変 える 』こと であ る とい うこ とを 明確 に 意識 する 必 要」(p. 53)が あ ると 述べ てい る. さ らに ,根 岸[6]で は, 平成 22 年度 に国 立 教 育 政 策 研 究 所 教 育 課 程 研 究 セ ン タ ー が 中 学 校 3 年 生を 対 象に 実施 し た「 特定 の課 題 に関 する 調査( 英語:「書 くこ と」)」の 調査 から ,「自 分で 文脈 を判 断 し,必 要 な言 語形 式 を選 択し て,文を 作 る よ う な こ と は 多 く の 生 徒 が 苦 手 な よ う で あ る」(p. 15)と 述 べ, まと ま った 文章 を 書く ため に は ,「 指 導 や 評 価 に お い て も , ど の よ う な 言 語 形 式 を 用 い る べ き か の 判 断 を す る 練 習 を 意 識 的 に行 うこ と」(p. 16) の重 要 性を 説い て いる .つ まり ,従来 のよ う な文 法知 識 の確 認の た めの 一文
一文 独立 し た英 作文 で はな く ,自 分の 考 えを 伝え るた めの あ る程 度ま と まっ た量 の 英作 文を ,英語 学習 の初 心 者で ある 中 学校 1 年生 のこ ろ から ,何 度も 取り 入 れ,慣れ る必 要 があ り,さら に,母語 と は 異 な る 目 標 言 語 の 特 性 で あ る 日 本 語 と 英 語 の語 順の 違 いを 認識 し ,自 分 で言 語形 式 を選 んで 自 分 の 考 え を 書 く 機 会 を 設 け る 必 要 が あ る と い える であ ろ う .
2.2. パ ラ グ ラフ と プ ロ セ ス重 視 の 指 導 法 パ ラ グ ラ フ は ,「 書 き 手 が 主 張 し た い 一 つ の ア イデ ィア に つい て ,そ の主 張 がは っき り する よう に論 理的 展 開に よっ て サポ ート す る」( 大 井[7], p.
177)構 造に な って お り ,「 異 なる 価値 観 や意 見を 持つ 人々 に 自分 の考 え を的 確に 伝 える」( 大井[8, p.
14) た め に は 欠 か す こ と が で き な い も の で あ る
(田 畑・松 井[9 ];立川[1 0 ];鈴 木・大 井・ 竹 前[ 1 1 ];
天 満[1 2 ]). パ ラ グ ラ フ ・ ラ イ テ ィ ン グ の 学 習 を始
め る に 当 た り , 天 満 は ,「 主 題 と な る も の を , 自 分で まず 徹 底的 に考 え るこ と.つま り,自分 は何 を言 うべ き か,そ れ は言 うに 値 する こと か,それ を人 にわ か るよ うに 明 確に 表現 し うる か ,を 自分 で考 え抜 く こと」(p. 17) が 大切 であ る と述 べて いる.さ らに, 鈴 木,大井,竹 前は、パ ラグ ラフ をつ ない で 一つ の作 品 を完 成す る のに は ,各 プロ セス(1.情 報を 収 集し ,2.自 問 する ,3.焦点 を合 わ せる ,4.構 成を 考 える ,5.分析 を 深め る ,6. 想 像 力 を 働 か せ る ,7. 再 考 す る ,8.
評価 を 下す )があ る と 述べ て いる 。これ ら のプ ロ セ ス を 学 習 者 に 意 識 さ せ 学 習 を 促 し て い く の に プ ロ セ ス 重 視 の 指 導 法 ( 岡 田[13]; 佐 野[14]) が ある.こ れ を 用い る こと で,次第 に書 き 手と して 自 分 の 考 え を 読 み 手 に 効 果 的 に 伝 え る 論 理 を 発 展さ せら れ るよ うに な るの であ る。佐 竹[15]は ,プ ロセ ス重 視 の指 導法 を 用い て中 学1年 生 に自 分の 学校 を紹 介 する 文章 を 書か せた 。各プ ロ セス は 以 下の とお り であ る。
①テ ーマ を 選ぶ
②選 んだ テ ーマ につ い て日 本語 で 書く
③内 容を 英 語で 書き 教 師に 提出 す る
④教 師が フ ィー ドバ ッ クす る
⑤フ ィー ド バッ クを 参 考に第 2稿 を書 く
⑥生 徒同 士 で第 2 稿を 読 み合 い ,感 想や ア ド バ イ ス を 日 本 語 で 書 き , 教 師 か ら 「 わ か り やす さ」「文 章全 体に ま とま り 」など に つい てア ドバ イ ス を もら う
⑦最 終稿 を 書く
そ の結 果 教 師 によ る フ ィ ード バ ッ ク の 後で は,
接続 詞も 代 名詞 も約 2 倍の 増加 と なり ,文 章 のま とま りの 度 合い が高 く なっ たと 報 告し てい る 。
以上 のこ と から プロ セ ス重 視の 指 導法 を 中 学 1 年生 のラ イ ティ ング に 用い るこ と で、文と 文 のつ なが りを 意 識し,パラ グ ラフ の構 造 また ,パ ラグ ラ フ の つ な が り が 必 要 で あ る こ と を 学 習 で き る と思 われ る 。
2.3. プ レ ゼ ンテ ー シ ョ ン
金子[3]で は ,積 極 的な 発信 の 指導 に重 要 なこ と は ,「 特 定 の 相 手 と 英 語 で 意 思 疎 通 を し た い と い う内 発的 動 機」(p. 22)を持 つこ と と,「 誰に 、何 を 、 何 の た め に 伝 え る の か と い う 社 会 的 視 点 を 」
(p. 22)持 つこ とで あ ると 述べ て いる 。そ のた め,
「教 科書 や 例文 のコ ピ ーで なく ,実在 す る読 み手 に 向 け て 生 徒 自 身 が 自 分 で 書 い た と 自 覚 で き る 英文 を書 く こと が重 要 であ る」(p. 24) と述 べ,
自分 の伝 え たい こと を 持ち ,実在 の受 信 者に 向け て書 くこ と の大 切さ を 主張 しい て いる.ま た,田 端 ・ 松 井[9]は , 書 く と い う こ と は ,「 た だ 単 に 英 文 を 順 番 に 並 べ た た め で は , 意 味 が 通 り づ ら い , あ る い は そ の 文 章 の か た ま り 全 体 で 何 を 言 お う とし てい る のか 判断 で きな いこ と を、身 をも って 体験」(p. 113)が大 切 であ るこ と を主 張し てい る。
プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン は 口 頭 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン 技術 の 1 つで あり ,上 杉[16]は プレ ゼ ンテ ーシ ョン を完 成 させ るに は「論 理 構成 のな か で足 りな いも のは 何 かを 認識 し」,「し っ かり 調べ 上 げ,考 察し てい く」こと が 重要 であ る と 述 べて い る。つ ま り 媒 体 が 文 字 で あ る か 口 頭 で あ る か の 違 い は ある もの の ,書 く とい う行 為 とプ レゼ ン テー ショ ン を す る と い う 行 為 は 非 常 に 似 て い る よ う に 思 われ る.
以上 のこ と から ,プレ ゼン テ ーシ ョン を 授業 に 取り 入れ る こと が ,伝 えた い こと をこ と ばで 論理 的 に 構 成 す る 力 を 身 に つ け さ せ る 一 つ の 手 段 と なる と言 え るの では な いだ ろう か .
亀岡 市立 南 桑中 学校[17]で は、課題 に沿 っ て英 文 を 書 き 、 絵 や 写 真 を Information and Communication Technology(ICT)機 器 を 利 用 し プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン す る 取 り 組 み を 学 年 を 通 じ て行 った と ころ,生 徒の 事後 ア ンケ ート よ り,生 徒 が 最 も 苦 手 と 感 じ て い る 「 書 く 力 」 に つ い て 、
「伸 びた と 思う」「ま あ 思う 」と 答え た 生徒 が 64%
おり 、その 他の 力 と 比 べ同 じ よう に伸 び たと 思っ てい る生 徒 がい たと 報 告し てい る(「 話す 力 」64%
「聞 く力 」63%「読 む 力」62%).さ らに ,学 力調 査で は ,こ の取 り 組み を経 験 した 生徒 た ちの 成績
は京 都府 の 平均 より も 高く ,また 当校 で の学 校独 自の 学力 調 査で も過 去3年 間 のう ち 点 数 が最 も高 かっ たと 報 告し てお り ,英 語 学習 にプ レ ゼン テー シ ョ ン を 取 り 入 れ た 学 習 は 大 い に 効 果 が あ る こ とを 証明 し てい る。
以上 のこ と を留 意す る と,英 語学 習の 初 心者 で ある 中学1年生 に おい てラ イ ティ ング 活 動行 う場 合,一 文 一文 独立 し た 英 作文 で はな く,プレ ゼン テー ショ ン を活 動の 目 標に し ,パ ラグ ラ フ構 造の 学 習 を 念 頭 に 置 い た プ ロ セ ス 重 視 の ラ イ テ ィ ン グの 指導 を 行う こと が ,新 指 導要 領に あ る指 導事 項 「( オ ) 自 分 の 考 え や 気 持 ち な ど が 読 み 手 に 正 しく 伝わ る よう に ,文 と文 の つな がり な どに 注意 して 文 章を 書く 」( 文 部科 学 省[2],p. 19)力 を養 う 適 切 な 手 立 て の 一 つ と し て 可 能 性 が あ る 思 わ れる .
3. 本 研 究
3.1. 本 研 究 の目 的
本 研 究 の 目 的 は , 中 学 校1年 生 英 語 の ラ イ テ ィ ン グ 活 動 に お い て , 課 題 に 沿 っ て 調 べ 学 習 を し , リ ー デ ィ ン グ 教 材 の 表 現 を 利 用 し て ラ イ テ ィ ン グを した 後,それ を プレ ゼン テ ーシ ョン し,言葉 の 気 づ き や 学 習 に 対 す る 振 り 返 り を す る と い う プ ロ ジ ェ ク ト を2回 行 い , 生 徒 の 振 り 返 り が ど の よう に変 化 して いく か を明 らか に し ,さ らに それ が 新 指 導 要 領 に あ る 指 導 事 項 「( オ ) 自 分 の 考 え や気 持ち な どが 読み 手 に正 しく 伝 わる よう に ,文 と 文 の つ な が り な ど に 注 意 し て 文 章 を 書 く 」( 文 部科 学省[1],p. 19)力 を養 う 適切 な手 立 ての 一つ と し て の 可 能 性 が あ る ど う か を 調 査 す る こ と で ある .
3.2. 参 加 者 およ び 学 習 背 景
参加 者は ,東 京 都内 私立 女 子中 学校 1年 女子 11 名で ある .そ の うち の3 名 は 付属 の小 学 校か らの 内部 進学 者 であ り, 小 学校 1 年生 より 週 1 時 間,
中学 校に 上 がる まで に 総計 210時 間の 外国 語(英 語 )活 動を 経験 し てき てい る .外国 語(英 語 )活 動は ,音声 中心 だ が 単 語を 読 む活 動も 取 り入 れて いる .また ,外部 から の 9名 の うち 8 名は ,公立 小学 校出 身 であ り,小学校 5年 生よ り週 1時 間英 語活 動, 中 学校 に上 が るま でに 総計 70 時間 の外 国 語 活 動 を 経 験 し て き て い る .( 移 行 期 で あ っ た ため に2010 年( 参加 生 徒が 小学 校 5 年 生時 )に は「 英語 活 動 」を,2011 年( 参 加生 徒が 小学 校 6 年 生 時 ) か ら は 「 外 国 語 活 動 」 を 経 験 し て き た ) 生徒 のア ン ケー トで は ,音 声中 心 に 外 国語(英 語)
活動 が行 わ れて おり ,文字 の 導入 はほ と んど 行わ れて いな か った よう で ある が ,生 徒の 出 身小 学校 はさ まざ ま であ り,それ ぞれ の 小学 校 外 国 語(英 語 ) 活 動 の 実 態 を 調 査 す る こ と は で き な か っ た . 外部 入学 生 の 内 残り の 1名 は ,私 立小 学 校出 身で , 小 学 校 1 年 生 よ り 読 み 書 き の 学 習 も 含 め た 英 語 の授 業を 受 けて きて い る .
参加 者で あ る生 徒た ち は, 中学 校 にお いて 週 6 時間 の授 業 を受 けて い る .その 内 1時 間 は外 部の 語 学 学 校 か ら 派 遣 さ れ た イ ギ リ ス 人 の 外 国 語 指 導助 手(ALT)が phonicsや チャ ンツ を 導入 する 授業 をし て いる .他 5時 間は 主 に Z会 出版 の New Treasure 1 を テキ スト と して 使用 し てい るが ,適 宜検 定教 科書 New Horizon 1を 取り 入れ てい る . 本 研 究 の プ ロ ジ ェ ク ト の 実 施 ま で に 総 計 102 時 間の 英語 の 授業 を受 け てい る.
3.3. 方 法
本 研 究 で は プ ロ ジ ェ ク ト 終 了 後 の 生 徒 の 振 り 返り の変 化 を明 らか に する ため に ,プ ロ ジェ クト 1 で は第7 時( 最 終時 ) の 授 業中 に, プ ロジ ェク ト 2 では ,第 10 時( 第 1 回 プレ ゼン テ ーシ ョン 後) と第 12 時 ( 最終 時) の 授業 中に 振 り返 りシ ート の記 入 をさ せた .記入 項 目は 以下 の とお りで ある .
(1)調 べ る時 に工 夫 した こと は 何か
(2)英 語 で書 くと き に工 夫し た こと は何 か
(3)英 語 で書 いた 感 想 3.4. 実 践 内 容
各プ ロジ ェ クト の主 題,活用 す る文 法事 項,参 考に する リ ーデ ィン グ 教材 ,実践 形式 は 以下 のと おり であ る .
プ ロ ジ ェ ク ト1 プ ロ ジ ェ ク ト2 主 題 伝 記 を 書 こ う 今 と 昔 物 語( 私 た ち
の 周 辺 ) 活 用 す る
文 法 事 項
動 詞 の 過 去 形 There is/are~now There was/were ~ then
参 考 に す る リ ー デ ィ ン グ 教 材
Alex’s Lemonade (New Treasure 1
p. 126-127)
Mansfield ― Yesterday and Toda y (New Treasure 1 p. 162-163) 実 践 形 式 個 人 活 動 グ ル ー プ 活 動 実 践 時 期 2012年11月 2013年1月
プロ ジェ ク ト 1「 伝記 を書 こ う」 では , リー デ ィン グ教 材 で学 習し た 伝記 を参 考 にし ,自分 の関 心の あ る 人物 に つい て 調 べ, 動 詞の 過 去 形, およ びそ の教 材 で学 習し た 時を 表す 副 詞(句 )(in 1980,
on August 1st, 2004, at the age of 3など)を 利 用 し , 英 語 で そ の 人 物 に 関 す る 過 去 の 事 実 ( 伝 記 ) を記 述し た.ま た“She/He was great because ~”
の表 現を 用 いて ,その 人物 に 対し ての 自 分の 思い を書 き発 表 する こと を 目標 とし た .担 当 英語 教員 は第 1時「テ キス ト を読 む」では 通常 通 り内 容 及 び文 法事 項 ,さ ら に 新 出単 語 を確 認し な がら 授業 を進 めた 。第 2~3 時に は机 間 巡視 しな が ら生 徒の 質問 に答 え た .そ の後 第 4時「モ デル を 提示 し読 む」では 教 員が 作成 し た作 品を 提 示し 、第 5~6時
「 原 稿 を 書 く 」 で 机 間 巡 視 し な が ら 生 徒 の 質 問
(語 句や 文 法事 項) に 答え た .
また ,プ ロ ジェ ク ト 2「今 と 昔物 語」 で は, リ ーデ ィン グ 教材 で学 習 した アメ リ カの Mansfield の今 と昔 を 比較 する 物 語を 参考 に し,自 分の 学校 あ る い は そ の 周 辺 の 地 域 の 一 つ の 事 柄 の 今 と 昔 につ いて 調 べ,そ の 教材 で学 習 した「there is ~ 構文」の現 在 時制・過 去時 制と 副 詞“now”と“then”
を効 果的 に 用い て ,調 べた 事 柄の 現在 と 過去 を比 較描 写し ,英語 で その 今と 昔 の違 い及 び 変わ らな いこ とを 書 き発 表す る こと を目 標 とし た .担 当教 員は プロ ジ ェクト 1同 様 に第 1~2時 では 内容・文 法 事 項 , 新 出 単 語 の 確 認 を し な が ら 授 業 を し , work sheet 2作 成 の補 助を し た.第 3時 に教 員が 作成 した 作 品を モデ ル とし て 提 示 し,第 6~8 時 に机 間巡 視 しな がら 生 徒の 質問( 語句 や 文法 事項 ) に答 えた 。第9,11時 では 文 法項 目に つ いて 校正 のた めの 助 言を し, さ らに ,第 10 時 に おい て聞 き手 の一 人 とし て感 想 を述 べ, 第 12 時 では すべ ての 生徒 の 感想 のま と めを 行い ,さら に パラ グラ フ 構 造 に つ い て ま と め た 。( パ ラ グ ラ フ と い う 言 葉は 言及 し なか った )
各 プ ロ ジ ェ ク ト の 実 践 過 程 は , 以 下 の と お り で あ る . プ ロ ジ ェ ク ト1 プ ロ ジ ェ ク ト2
第1時 教 科 書 の テ キ ス ト を 読 む
テ キ ス ト を 読 み , worksheet 2を 作 る 第2時 目 標 を 示 し ,テ ー
マ の 選 択 ( 図 書 館 ) を す る 第3時 資 料 収 集 し
worksheet 1 を 作 成 す る
目 標 を 示 し ,modelを 提 示 し , 読 む ( 見 る )
第4時 モ デ ル を 提 示 し , 読 む ( 見 る )
テ ー マ の 選 択( 図 書 館 )
第5時 原 稿 を 書 く テ ー マ の 決 定 お よ び 資 料 収 集 ( 図 書 館 ) 第6時 原 稿 を 書 き ,PC
で 精 書 す る worksheet 3の 作 成 , 原 稿 を 書 く
第7時 リ ハ ー サ ル , 発 表 , 講 評 ,振 り 返
り シ ー ト 記 入 第 8時
第 9時 原 稿 の 校 正 , リ ハ ー サ
ル
第 10時 第 1 回 発 表 , 講 評 , 振 り 返 り シ ー ト 記 入 , 原 稿 の 校 正
第 11時 原 稿 の 校 正 , リ ハ ー サ ル
第 12時 第 2 回 発 表 , 講 評 , 原 稿 の 清 書(個 人 ), 振 り 返 り シ ー ト 記 入
3.5. 結 果
3.5.1 振り 返 り シー ト ( 自由 記 述 )
各 プ ロ ジ ェ ク ト の 振 り 返 り シ ー ト の 自 由 記 述 は 以 下 の と お り で あ る .( 生 徒 の 記 述 の ま ま で あ る. また 括 弧は 筆者 が 補足 した .)
(1)調 べ る時 に工 夫 した こと は 何か プロ ジェ クト 1
「 本を 何 度も 読み 返 した こと 」
「資 料 に書 いて あ った こと を すべ て書 か ずに 一部 だけ 書 いた こと 」
「 オー ド リー のす ご いと ころ は どこ か 」
「デ ィ ズニ ーは 有 名な こと が たく さん あ った の で , そ れ ら を う ま い よ う に ま と め た こ と 」
「自 分 がす ごい な と思 った こ とを 書き だ して , その 中か ら 選ん だ 」
プロ ジェ クト 2
「 細か い 部分 まで ち ゃん と見 た 」
「『 世 田 谷 区 』 と い う 大 き な く く り か ら 喜 多 見に ある 文 化遺 産を 探 すこ と 」
「 イン タ ビ ュ ー は 何 が 大 切 な こ と か 考 え た 」
「喜 多 見と いう 本 は分 厚く い ろん なこ と が書 い て あ る の で 一 番 大 切 な も の だ け を 取 り 出 すこ と」
プロ ジェ クト1と プ ロジ ェク ト2を比 較 する とプ ロジ ェク ト2の 方 が工 夫し た 点に つい て の表 現が 詳細 にな っ てい る 生 徒が 4名 いた 。例 えば ,プロ ジェ クト 1 で は,「一 部 だけ 書い た」「 す ごい とこ ろ」「 うま い よう に」「 す ごい なと 思 った こと 」な ど 「 す ご い 」「 う ま い 」 な ど 様 々 な 意 味 で 使 わ れ やす い表 現 を用 いて 書 かれ てい る もの が ,プ ロジ ェク ト 2 では,「 細か い部 分」「 世田 谷区 」「 文化 遺産」「何 が,大 切な こと か 考え た」「 喜 多見 とい う本 」など 工夫 し た点 がよ り 詳細 な表 現 で表 され てい る。
(2)英 語 で書 くと き に工 夫し た こと は何 か プロ ジェ クト 1
「 自分 の わ か る 単 語 を た く さ ん 使 っ た こ と 」
「 スペ ル はし っか り 辞書 で確 認 した 」
「英 語に 変 える 時に ご ちゃ ごち ゃ にな らな い よう にし た 」
プロ ジェ クト2
「 読む 側 の人 にわ か りや すく 書 くこ と 」
「 文の 並 べ方 」
「 文の つ なぎ 目に 気 を付 けた 」
「自 分が ち ゃん と伝 え たい こと を 完璧 な英 語 にす るこ と 」
(清 書後 )
「 スペ ル を間 違え な いよ うに し た 」
「 ピリ オ ドな どが つ いて いる か 確認 した 」
「 英文 の 語順 に気 を 付け た 」
プロ ジク ト1で は 書き 手と し て 工 夫し た 点に つい て「 自分 の わか る」な ど主 観的 な 言い 回し や,「ご ち ゃ ご ち ゃ に 」 な ど 口 語 的 な 表 現 が 目 立 つ 一 方 , プロ ジェ クト 2 で は,「読 む 側の 人に わ かり やす く」な ど 読み 手の 存 在に つい て 言及 した り,文の 内部 構造 で はな く文 章 にお ける「 文の 並べ 方」「文 のつ なぎ 目 」な どに つ いて 言及 し てい る 生 徒 が 4 名い た .さ ら に第 12時 終 了後( 清 書後 )では ,「ピ リ オ ド 」 な ど 符 号 を 意 識 し た り ,「 語 順 」 な ど 日 本語 と英 語 の違 いに つ いて 述べ て いる 生徒 が3名 いた .
(3)英 語 で書 いた 感 想 プロ ジェ クト1
「( 自 分 で 書 い た も の が ) す ら す ら 読 め る よ うに なっ た 」
「 難 しか った けど ,辞書 を 使っ て ,一 つ一 つ の単 語を 調 べた りす る のが ,面 白か っ たで す 」
・「 こ の 日 本 語 は こ う い う 英 語 で あ ら わ さ れ る んだ と思 っ たり もし ま した 」
・「皆の 前 で発 表し た 時は とて も 緊張 しま し た 」 プロ ジェ クト 2
・「日本 語 はあ まり 『 私 が』『こ れ が 』等 言わ な いか ら ,つ い『I』と か『This』を忘 れ てし ま う こ と が あ る の で , そ れ を 気 を 付 け ま し た 」
「と て も難 しか っ たが ,英 語で 書 くこ とに よ って ,自 分 の知 って い る単 語が 増 え,わか ら ない 単語 の 読み 方も わ かり まし た 」
「ど のよ う にし たら し っか り文 を つな げる か を考 えた 」
「 しっ か り意 味が 分 かる 文章 に した 」
「 少し 英 語を 覚え る こと がで き た 」
(清 書後 )
「 すご く やっ たか い があ りま し た 」
「い っ ぱい 英語 を 書い たか ら,難 しい スペ ル や,わ から なか っ たス ペル が あっ たけ ど ,書 いて いく う ちに わか る よう にな っ たし ,書け るよ うに も なっ た 」
「 自分 の 学校 につ い てよ くわ か りま した 」 プロ ジェ ク ト 1 で は,「す ら すら 」 の よ うな 擬音 語 や 「 こ の 日 本 語 」「 こ う い う 英 語 」 な ど 一 見 一 般 化 し た よ う に 見 え る が 何 を 指 し て い る の か わ から ない 表 現が ある 一 方 , プロ ジ ェク ト 2 で は,
「 日 本 語 は あ ま り 『 私 が 』『 こ れ が 』 等 言 わ な い から ,つい『I』とか『This』を忘 れて し まう こと があ るの で ,そ れを 気を 付 けま した 」や「ど のよ う に し た ら し っ か り 文 を つ な げ る か 」「 し っ か り 意味 が分 か る文 章に し た」な ど 具 体的 な 例を 挙げ なが ら文 構 造や 文章 構 成に 言及 し てい るも のが 2 名 い た . ま た ,「 知 っ て い る 単 語 が 増 え , 単 語 の 読 み 方 が 分 か っ た 」「 英 語 を 覚 え た し , ス ペ ル が わか るよ う にな った 」など 書 くこ とが 自 分の 単語 力に 影響 を 及ぼ した こ と 記 述し て いた 生徒 が2名 いた .プ ロ ジェ クト 2 では ,第 12時 で 行っ た発 表後,感 想を 各生 徒 が述 べ共 有 した .生 徒の 感想 は以 下の と おり であ る .
「文 を 自分 たち で 考え 出す こ とが 難し か った 」
「 図表 を 用い たの が よか った 」
「 発表 が ハキ ハキ し てい た 」
「 声が 大 きく てよ か った 」
「 内容 に あっ た絵 が あっ た 」
「 さま ざ まな 内容 を 調べ てい た(ほか の 班)」
「 文の 構成 は ,1.言 いた い こと ,2.例 ,3.
まと め(言い た いこ と)」
感想 はさ ま ざま であ り ,プ レ ゼン テー シ ョン 後 に 行 っ た こ と も あ っ て プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン に 関 する こと も 多く 含ま れ てい たが ,複数 の 文か らな る 文 章 構 成 に つ い て 「1. 言 い た い こ と ,2. 例 , 3. ま と め(言 い た い こ と )」 な ど 聞 き 手 に 分 か り や す い 論 理 構 成 に す る こ と の 重 要 性 を 述 べ て い る生 徒も い た .音 声付 多読 を 行っ た後 の 読後 カー ドの「面 白か っ たこ と,興味 の持 て たこ と」の欄 には ,本の 内容 に つい ての 記 述 が ほと ん ど で あっ たが 、プ ロジ ェ クト 2 の書 く 作業 がは じ まっ てか らは ,
「 たく さ ん知 らな い 言葉 がで て きた 」
「 知ら な い単 語が た くさ ん出 て きた 」
「 過去 形 」
「 今ま で 気づ かな か った けど( 多読 の活 動 で 使用 して い た本 の中 に ) 一つ 一つ の 単語 ( 動 詞)が過 去形 に なっ てい る こと に気 が付 く こ とが でき た 」
「わ から なか っ た単 語が わ かる よう に なっ た 」 等 内 容 以 外 の 未 知 の 単 語 に つ い て や 動 詞 の 時 制
(過 去形 )に つ いて 改め て 認識 した こ とを 記述 す る生 徒が い た.
3.6. 考 察
本研 究で は,中 学校1 年生 英 語 に リー デ ィン グ 教 材 の 表 現 を 利 用 し て プ ロ セ ス ラ イ テ ィ ン グ と プレ ゼン テ ーシ ョン を 行い ,言葉 の気 づ きや 学習 に 対 し 生 徒 の 振 り 返 り が ど の よ う に 変 化 し て い くか を明 ら かに し ,さ らに そ れが 新指 導 要領 にあ る 指 導 事 項 「( オ ) 自 分 の 考 え や 気 持 ち な ど が 読 み手 に正 し く伝 わる よ うに ,文と 文の つ なが りな どに 注意 し て文 章を 書 く」( 文 部科 学省[1],p. 19)
力 を 養 う 適 切 な 手 立 て の 一 つ と し て の 可 能 性 が ある かど う かを 調査 す るこ とを 目 的に した .プロ ジェ クト 1と 2 の 生 徒の 振り 返 りか ら 、質 問(1)
「調 べる 時 に工 夫し た こと 何か 」で は,プロ ジェ クト2 の方 が プロ ジェ クト 1よ りも,固 有名 詞や 使 用 し た 本 の 名 前 や 調 べ た 具 体 的 な 事 柄 な ど を 用い たり ,調べ 方 につ いて 言 及し たり し てよ り詳 細な 記述 に なっ てい た 。 こ れは , プロ ジェ ク ト 1 に比 べ,プロ ジ ェク ト2 で の 方が 生徒 た ちが 主題 につ いて よ く考 え ,何 を主 張 すべ きか を 吟味 した から であ る と思 われ る .つま り,プロ ジ ェク ト 1 で 行 っ た プ ロ セ ス 重 視 の ラ イ テ ィ ン グ を 踏 ま え て, プロ ジ ェクト 2で は 生徒 たち はパ ラ グラ フ・
ラ イ テ ィ ン グ の 学 習 に 必 要 な 主 題 の 吟 味 と 主 張 す る こと を 客 観 的 に観 察 す る こ と( 天 満[12]) を,
書 き 始 め る 前 の 段 階 で あ る 調 べ 学 習 に お い て し たの では な いか と思 わ れる .
質問(2)「 英語 で 書く とき に 工夫 した こ と」で は ,プ ロジ ェ クト1 では ,書 き手 中心 で あっ たり 稚拙 で主 観 的 な 表現 を 用い てい た が ,プ ロジ ェク ト 2で は,「ピ リオ ド」「語 順 」な ど文 の 内部 にお ける ミク ロ な注 意点 か ら,「 文の 並べ 方」「文 のつ なぎ 目」など,文 章に おけ る マク ロな 工 夫に つい て 言 及 し て い た り ,「 読 む 側 の 人 」 な ど 読 み 手 の 存在 を意 識 して 記述 さ れて いる も のも あ っ た .前 者で は ,プ ロジ ェ クト 1の 振 り返 りで は 何も 書か な か っ た あ ま り レ ベ ル の 高 く な い 生 徒 4 名 が こ の点 を言 及 して いた .ま た、後者 は比 較 的レ ベル の 高 い 生 徒 が 言 及 し て い た . ど ち ら に お い て も , プ ロ ジ ェ ク ト の 中 で プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を 重 ね て経 験し て いく こと で ,プ レ ゼン テー シ ョン は発 表 者 が 主 張 す る と い う 一 方 的 な 行 為 な の で は な く,聞 き 手が 存在 し,発表 者 の主 張は そ の聞 き手 に 何 ら か の 影 響 を 及 ぼ す と い う 社 会 的 行 為 で あ
る と い う こ と を 生 徒 た ち が 認 識 し て き た か ら で あり,そ のこ とを 通 して,書 く行 為も ま た読 み手 が存 在し ,書き 手 の主 張は そ の読 み手 に 何ら かの 影 響 を 及 ぼ す と い う 社 会 的 行 為 で あ る こ と に 結 び付 ける こ とが でき た から だと 思 われ る .以 上の こと より ,プ ロジ ェ クト を重 ね てい くと ,生 徒た ち は 「( ア ) 文 字 や 符 号 を 識 別 し , 語 と 語 の 区 切 り な ど に 注 意 し て 正 し く 書 」 い た り ,「 読 み 手 に 正し く伝 わ るよ うに ,文と 文 のつ なが り など に注 意し て」( 文部 科学 省[1],p. 19) 書か ね ばな らな い こ と を 自 覚 す る よ う に な っ て い っ た と 言 え る ので はな い だろ うか .
さら に質 問(3)「英 語で 書 いた 感想 」で は,プ ロジ ェク ト1で は 擬音 語や 指 して いる も のか わか らな い指 示 語を 用い た 記述 から , プロ ジェ ク ト 2 で は , 文 構 造 に 関 す る 「 日 本 語 は あ ま り 『 私 が 』
『こ れが 』等言 わな い から 、つ い『I』と か『This』
を忘 れて し まう こと が ある ので 、それ を 気を 付け まし た」や文 章構 成 に関 する「ど のよ う にし たら しっ かり 文 をつ なげ る かを 考え た」や「 しっ かり 意味 が分 か る文 章に し た」な ど へ と変 化 して いっ た 。 こ れ も 、 質 問 (2) 同 様 、 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ンを 何度 も 行う こと に より 伝え る 相手,目 的,内 容 を 認 識 す る と い う 社 会 的 視 点 を 持 た な け れ ば なら ない (金 子[3])と いう こ とを 自覚 し てき たこ とが ,書く こと に も応 用さ れ たか らだ と 思わ れる . さら に ,書 く活 動 が語 の習 得 を促 進し た こと を表 す記 述も あ った。こ れは、自 分の 主張 を 相手 にう まく 伝え る ため には ,発表 者 であ る自 分 が文 脈に あ っ た 単 語 精 選 し そ れ を し っ か り 理 解 し て い な けれ ばな ら ない こと を ,プ レ ゼン テー シ ョン を 繰 り返 し経 験 する こと で 自覚 し ,そ れが 語 彙を 増や すこ とに な った ため と 思わ れる .
また,プロ ジ ェク ト 2 で 行 った 2 回目 の プレ ゼ ン テ ー シ ョ ン 後 の 生 徒 の 口 頭 で の 感 想 の 共 有 に おい て ,文 章の 構 成に つい て 触れ てい る もの があ った .これ はパ ラ グラ フ構 造 に当 ては ま るも ので ある .プレ ゼン テ ーシ ョン を 目標 にし た プロ ジェ クト を繰 り 返し 行っ た こと によ っ て ,プ レゼ ンテ ー シ ョ ン を 完 成 す る た め に は 調 べ た こ と を 並 べ るの みで は ,主 張 した いこ と を伝 える こ とは でき ない(上 杉[16])と いう こと を 認識 した た め,パラ グラ フ学 習 の指 導 を 受 ける 前に お いて も ,パ ラグ ラ フ の 構 造 の 必 要 性 の 自 発 的 な 理 解 を 促 し た と 思わ れる .
さら に ,本 研究 と 平行 に行 っ てき た 音 声 付多 読 の振 りシ ー トに おい て プロ ジェ ク ト2の 期間 中に 単語 やそ の 形式 につ い ての 振り 返 りあ った .音声
付多 読で は ,音 声 と絵 を補 助 にス トー リ ーが わか るの で ,プ ロジ ェ クト を行 う まで は あ ま り意 識を 向け なか っ た 語 の形 式 に,複 数の プロ ジ ェク トに お い て の 書 き 手 に な る と い う 体 験 を 通 し て 注 意 を 向 け る こ と が で き る よ う な っ た か ら で は な い かと 思わ れ る .
以上 のよ う にプ ロジ ェ クト を1回目2回 目と 重 ねて いく こ とで ,振り 返り に も 思 いつ た こと を漠 然に 書き 並 べる こと か ら ,よ り詳 細な 事 柄に つい て記 述し て いる 生徒 が 3 分 の 1 ほど いた .ま た、
プロ ジェ ク ト2に おい て 読 み 手の 存在 を 意識 した 記述 をし た 生徒 が3分の2ほ どい たこ と がわ かる . また,プ レゼ ンテ ー ショ ンを 行 うこ とで ,聞 き手 に よ り わ か り や す い よ う に 一 つ の 文 を 組 み 立 て , さ ら に 複 数 の 文 を 相 手 に 分 か る よ う に 組 み 立 て て い く こ と の 大 切 さ を 知 っ た と 述 べ て い る 生 徒 が 3分の 1ほ どお り ,書く こ とに も読 み 手が 存在 し,そ の読 み手 に 向か って 論 理的 に書 か ねば なら ない と理 解 して きた よ うで ある .さ らに ,単 語一 つ一 つを じ っく り観 察 し,自 分の 中に 取 り込 んで いる 生徒 が 4分の 1ほど いた こ とが 分か っ た .
これ らの こ とか ら 中 学 校1年 生の 英語 に リー デ ィ ン グ 教 材 の 表 現 を 利 用 し て プ ロ セ ス を 重 視 し たラ イテ ィ ング をし ,プレ ゼ ンテ ーシ ョ ンを 行っ た後 ,言葉 の気 づ きや 学習 に 対す る振 り 返り をす ると いう プ ロジ ェク ト を重 ねて い くこ とで ,英語 学習 の初 心 者で ある 中 学校 1 年生 にお い ても ,読 み 手 を 説 得 す る た め に パ ラ グ ラ フ の 構 造 に 沿 っ て 内 容 を 構 成 し 表 現 し よ う と す る 態 度 を 養 う こ とが 可能 で ある よう に 思わ れる .つ まり ,こ のよ う な プ ロ ジ ェ ク ト の 繰 り 返 し が 新 指 導 要 領 に あ る 指 導 事 項 「( オ ) 自 分 の 考 え や 気 持 ち な ど が 読 み手 に正 し く伝 わる よ うに ,文と 文の つ なが りな どに 注意 し て文 章を 書 く」( 文 部科 学省[1],p. 19)
力 を 養 う 適 切 な 手 立 て の 一 つ と し て 可 能 性 が あ ると いう こ とに なる.
本研 究は ,対 象 校が 一週 間に 6時 間の 英 語の 授 業を 行っ て おり ,70 時 間 程度 公立 の 中 学校 1 年 生 よ り 多 く 英 語 の 授 業 が あ る と い う 恵 ま れ た 環 境 で あ っ た た め に 行 う こ と が で き た も の で あ る 。 こ の よ う な 授 業 時 数 が 多 い と い う 環 境 を 生 か し , 上記 のプ ロ ジェ クト を 組む こと で ,知 ら ない こと を知 る喜 び を十 分味 わ い,そ れを 他者 と 分 か ち合 いた いと 思 う気 持ち を 持つ こと に よっ て ,書 くと い う 作 業 は 書 き 手 で あ る 自 分 の 思 い を 一 方 的 に 主張 する の では なく ,読 み手 に 分か るよ う に,読 み 手 が 納 得 す る 様 に 伝 え る と い う コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 手 立 て で あ る と い う こ と を 実 感 で き た
ので はな い だろ うか 。し かし な がら,こ のよ うな 潤沢 な時 数 を確 保 す る のが 難し い 場合 には ,より 効率 的な 手 立 て を 使 わ な け れ ば な ら な い だ ろ う 。
4. ま と め
本 研 究 で は , 中 学 校1年 生 英 語 に リ ー デ ィ ン グ 教 材 の 表 現 を 利 用 し て プ ロ セ ス ラ イ テ ィ ン グ と プレ ゼン テ ーシ ョン を 行い ,言葉 の気 づ きや 学習 に対 し生 徒 の振 り返 り を繰 り返 し をし た 結 果 ,生 徒 は 読 み 手 の 存 在 を 鮮 明 に 意 識 し て い く よ う に 変化 して い った .さ らに、読 み手 を説 得 でき る主 張 を す る た め の 文 章 構 成 に つ い て の 気 づ き も 深 まっ てい っ たと 言え よ う .よ っ て,英 語 学習 の初 心 者 で あ る 中 学1年 生 の ラ イ テ ィ ン グ に お い て 文 法 事 項 を 確 認 す る た め の 和 文 英 訳 型 の 英 作 文 で は な く , プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン を 活 動 の 目 標 に し , パ ラ グ ラ フ 構 造 の 学 習 を 念 頭 に 置 い た プ ロ セ ス 重視 の指 導 を行 うこ と が,新 指導 要領 に ある 指導 事 項 「( オ ) 自 分 の 考 え や 気 持 ち な ど が 読 み 手 に 正し く伝 わ るよ うに ,文と 文 のつ なが り など に注 意し て 文章 を書 く」( 文部 科 学省[1],p. 19) 力を 養 う 適 切 な 手 立 て の 一 つ と し て の 可 能 性 が あ る と思 われ る .
しか しな が ら,本 研 究で は,生徒 の振 り 返り に 焦点 を当 て て考 察を し たが ,作品 にお い ては ライ ティ ング を 行う 際の 実 践形 式 が プ ロジ ェク ト1で は個 人活 動,プ ロジ ェク ト 2 では グル ー プ活 動と 異な るた め に,生 徒一 人ひ と りに どの よ うな 変化 が あ っ た か を 比 較 検 討 す る こ と が で き な か っ た . 今 後 ど の よ う に 生 徒 一 人 一 人 の 作 品 に 影 響 す る かを 課題 と し, 調査 を 行っ てい く 予定 であ る .
文 献
[1] 文部 科学 省, “ 文 部科 学省 新 中学 校指 導 要領 解説 外国 語 編”, 文 部科 学省, 2008.
[2] 文 部 科 学 省, 文 部 科 学 省 中 学 校 指 導 要 領(平 成 10年 12 月), 第 2章 各教 科第 9節外 国語, http://www.mext.go.jp/a_menu/sh otou/cs/13200 86.htm
[3] 金子 朝子, “「 伝え た い」意欲 を高 め る指 導,” 英語 教育 June, 2012, pp. 21-24, 2012.
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[6] 根岸 雅史, “ま と まり のあ る 文章 を書 く ため
の下 位技 能 ―― その 現 状と 課題,”英語 教育, June, 2012, pp. 13-16, 2012.
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[8] 大井 恭子, “学 習 者を 育て る ライ ティ ン グ―
パラ グラ フ・ライ テ ィン グと ク リ テ ィ カ ル ・ シン キン グ,”英語 教 育, June, 2010, pp. 14 -17, 2010.
[9] 田 畑 光 義 ・ 松 井 孝 志,パ ラ グ ラ フ ・ ラ イ テ ィ ン グ 指 導 入 門 ― ― 中 高 で の 効 果 的 な ラ イ テ ィ ン グ 指 導 の た め ”, 大 井 恭 子(編), 大 修 館 書店, 2008
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[14] 佐野 正之, 初 めて の アク ショ ン・リサ ー チ―
英 語 の 授 業 を 改 善 す る た め に, 大 修 館 書 店, 2005.
[15] 佐竹 弘司, “中 学 生の ため の ライ ティ ン グ指 導 の 在 り 方 に つ い て ― 中 学 校 1 年 生 に お け る実 践を 通 して,” 東 北英 語 教育 学会 研 究紀 要第 31号,pp. 29-40, 2011.
[16] 上 杉 兼 司, “ 中 学 生 の プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 能力 開発 ― 伝え る難 し さと 喜び を 知り ,抽象 化の 能力 を 養成 する,”学 習 情報 研究, 2007.9.
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[17] 亀岡 市立 南 桑中 学校, “中 学 校英 語科 で 逆向 き 設 計 論 を 効 果 的 に 実 践 す る た め の パ フ ォ ー マ ン ス 評 価 の 取 組 ― プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン 能 力 を 高 め る た め の ICT 利 用 , ” http://www.pef.or.jp/db/pdf/2011/2011_38.pdf.