「多体 系の場の理 論の新 展 開」 一A39 一
核 物 質 の 超 流 動性
への 中 間子 質 量 減 少 の 効 果
谷川 知
憲 (
九大理)
松崎 昌
之 (福 岡教 育 大)
概 要
我々は、Rapp 達によ る媒質中で の 中 間 子の質 量減少を 考慮し たln−Medium t
Bonn ポテ ンシ ャ ルを 対 相 互作用 と して用い 、 核 物 質の
1So
対ギ ャ ッ プ を計 算 し た。自由 空間 中で の Bonn −B ポテン シャ ル を用い た場 合に比べ 、得ら れ る対ギャッ プが大 きく減 少す ること を見い だ し た。序
核物 質の超 流動 性は原 子核 構造論の基礎の 一つ で ある こ と、 中性 子 星の物理 と密 接な関連が あ るこ と な ど か ら、 原 子核物 理 に お け る重 要な問題に挙 げら れ る。 ア プ
ロ ーチ法の 点か らは、原 子核 多体 系を記述 す る た めに相対論 的 な枠 組みが 近年 注 目 を 集 めて い る。 これは 1970 年代の
Chin
とwalecka
の研 究に 端を発 するQuantum
Hadrodynamics
(QIID )
の成功に負 うもの で ある[ 1]
。我々 は無限 対 称核物 質の
1So
対ギャッ プ をQHD
に基づ き研 究し てい る。 この枠 組み は核物質の飽和性だけで なく、球形核 ・変形 核 ・回転 核など原子核の様々な性 質を 記述で きる。 そ れ ゆえ、開殻構造を持つ 原子核に 必須であ る対相 関を詳細に 調べ るこ
とは
QHD
の 信 頼性を さ ら に高め るこ と と なる。 一方、 中性子 星の物理に関して は、 通常の原 子核 飽和密度の数倍に も なる高密度領域の 記述に際 し て、 相対論的表式が重 要で ある との指摘が さ れ てい る。相対論的枠 組み で本問題を扱うにあた り、 粒子一空孔(
p
−h
)チャネル と粒子一粒子 (p−p)
チ ャネル の 型に より、そ の手 法を次の ように三種 類に分類 した。 まず第一種と して、 核物質の飽和性 を再 現 す る相対論的平均 場(
RMF )
をp−h
チャ ネル に、それ と 同 じパ ラメータ か ら
得 ら れ る一中間子 交換 (
One
−Boson
−Exchange
,OBE )
相互作用をp
−p
チ ャ不 ル に用い る もの が挙 げら れる。 こ れ は後述 す る
Kucharek
とRing がとっ た手 法で あ る [2
]。 第二種とし て、RMF
を p−h
チャ ネル に、p
−p チャネル には裸の 、すなわ ち媒 質効果を何ら考慮しない 現実 的核力を 用いる ものが挙 げら れ る。 これに基づ く研 究はRummel
とRing
によっ て行わ れ た[
3]
。 第三種と して、 p−h
チャネルに 相 対論的G
行 列 、p−p チ ャ ネル に は裸の現実的核力 をと る ものが ある。 以 上 に照 らせ ば、 本研 究は 第二種に属 する もの で ある。 た だ し、 そこにBrueckner
相 関と は別の “媒質効 果” を 導入 す る 点で、その拡 張である とい える[
4]
。 ま た、ここ で は分類に含めなかっ た型の研 究 もあるが [
5
−7
]、これ らにつ い て は松崎によ る本研 究会の 報告 を参考に さ れ たい 。一一A40 一 研 究 会 報 告
核 子
・中 間 子 多 体 論
に よ る対 相 関
の記 述
よく知ら れてい るよ うに、
QHD
はハ ドロ ンの 自由度にお ける有 効 場の 理論である。この 模型で の ラ グ ラン ジア ン密度は以 ドの よ うに なる。
・ 一
嘛
聯 ・1
(・,,a )
(・・,・)
−1
・ga2
−
1
卿 ・ ・1 塩
♂ 一÷
即 緲 ・ +1
・;
・。 プ如
・ψ一・。ψ
脚 刃 ,如
・・1
・yb
一 gg・σ3
− ig
・σ4
− 1)
Ωμ。 = ∂
。ω。 一∂
。ω
。, R
μ = ∂。ρゾ ∂vP
。’
こ こ で 、 ψ は核子 場、σ,ω ,ρ は そ れ ぞ れ σ 中間子場,ω 中 間 子 場,ρ 中 間 子 場で あ る。 また
QHD
の近似で あるRMF
模型におい て、有限核の性質の定量 的再現のた めに しば し ば用い られ る σ 中間子場の非 線形 自己結合 項をこ こで も導入 して い る。
RMF
模 型に よる有 限核の計算におい て は、 p −p チャネル に非相対 論起源の力、 例え ばGogny
force
な ど を用い ることが その実 際で ある。 現在で は中性子 過剰核に も適用 され るなど、こ の手法は非常に大 きな 成 功 を収めて い る。 しか しなが ら、p
−p
チ ャ ネル相互 作 用 を 相 対論的模 型で導出 する こ とは、
RMF
模型で 自己完結し た形 式に よって原子 核 を記 述で きる か否か とい う命題に答えるた めの重要な一段 階で あ る。
QHD
に よ る最初の対 相関の研 究はKucharek
とRing
によ り1991
年に行わ れ た[ 2]
。対相 関 場 を取 り入れ るため に は、
Gofkov
分解に よ り定義さ れ る 異 常 グ リーン関数を 用い 、 中間子場 を量子化せ ねば な らない 。 結果と して得ら れるの は よく知 ら れ た相対 論的Hartree
−Bogoliubov
方程 式である。 従っ て、 有効核子 質量の 超 越方程式と通常の ギャッ プ方程 式と か ら な る、連立非線 形方程式を 解 くこ とでギャッ プの値が得ら れる。しか し、
NL1
の よ うなRMF
模 型の パ ラ メータセ ッ トを元に したOBE
相 互 作 用を 適用 した際の ギャ ップの値は、コ ンセ ンサス を 得てい るもの に比べ 数倍 大き な もの になる。 前述の有 限核に対す る 「現実的 なア プロ ーチ』は こ の過 大ギャッ プ問 題の処 方 箋の 一つ で ある
。
一方、 核物 質で は その 代わ りに p −p 相 互作用 と して 自由空 間で の 裸
の核 力を用い ること がで き、そ れに よ りギャッ プの最大値が
2MeV
か ら4MeV
とい う非 相対 論的 な研究と矛盾の ない結果 が得られ る [3
]。In
−Medium
Bonn
ポ テ ンシ
ャ ル第二種に沿っ た 拡張と して ハ ドロ ン の 性 質変化の導入が考え ら れる。 原子 核は強い 相 互作用 をする系で あるか ら、 本来な ら 基礎理論であ る
Quantum
Chromodynamics
(
QCD
)に よっ て記述 さ れるべ きで ある。 し か しなが ら、 今の ところその ような試みは低エ ネル ギー領域で の複雑さに起 因 する困難に直面 して い る。 その た め
QCD
の持つ 対称 性を考慮した種々 の 有効理論が構築 さ れ、そ れ らに よ ればカ イ ラル対称性の 部 分的回復に 呼応 し て、 媒質中のハ ドロ ン の性 質が変化 しうるとい わ れてい る。 その う
「多体系の場の理論の新 展開」 一A41 一
ち、理論 ・実験の 両 面 か ら精力的に研 究が なさ れる もの と して、 ベ ク トル 中 間子の 質 量減 少が挙 げられ る。
そ れに関連 し、
Brown
とRllo
に よる先駆 的 な研 究におい て、カイラル対称性の部 分的回復に伴い ハ ドロ ン の 質量変 化 が 起 こ り うる とい う指摘が なさ れた [8
]。 これに つ い て は現在で も議論の余地 が あ る が、ベ ク トル 中間子の 質量の 減少を支持 する実験 結 果 も得 ら れてい る。 その変 化 は質量 と密度との問の 一次式で 次の ように表 さ れる。竺
.m
;
・ .A 声
・ 司o
丑ムイ
η
z
ρμA
ρμρ
oC
;
0
.15
. (2
)ここで、M ,
rn
ρ,w ,A
ρμ はそ れ ぞれ核子の 質 量、ρ,
w
中 間子の質量、 各々 の核子一中 間 子の バ ーテ ッ クス に適 用され るカ ッ トオフ質量で ある。 ス ケール因子C
は0
.15
であ り、これ はQCD
和 則から得ら れ るもの と ほ ぼ一致する。 この 関係式は 『Brown
−Rho
( BR )
ス ケーリ ング』と呼ばれる。 この帰 結と して核力に変化が 生 じ る ことか らもわ かる よ うに、BR ス ケーリン グ は有限核 ・中性 子星の物 理に間接的では あるが影響を 及ぼす。最 近、こ の スケ ーリン グ に従 うハ ドロ ン質量の減 少が 核 物質の飽和 性と両立する こ と を
Rapp
達が示 し た[
9]。 彼らは元のBonn
ポテ ン シャ ル に二つ の 新た な σ ボ ゾンを付 け加 え、
Bonn
−B
パ ラメータ に若干の変更を加 えて、OBE
ポテ ン シャ ル を構成した。 これ らのボゾン は相関の ある
2
π 交換過程 を模倣 す る ようパ ラメータが決められ てい る。 その上で 、この ポテ ン シ ャ ル を用い て Dirac−Brueckner −
Hart
・rce
−FQck
(DBHF
)計算を行い 、 飽和性と両 立 するこ と を確認して い る。 な お、
BR
ス ケーリン グ はσ ボ ゾ ン に対 して では な く、 本 来の 2π 交換 過程に立 ち返っ て適用さ れる。
こ の 『ln−Medium
Bonn
ポ テン シ ャ ル』によ り、 超流動性に対 する媒 質効果を簡単 に 調べ る こ と が 可能になる。 そこ で我々 は この ポテ ン シャ ル を ギャッ プ方程 式に現 れ る p −p 相互 作 用 と して採 用する。結 果 と考 察
図 1 に
ln
−Medium
Bonn
ポテ ンシ ャ ル に よ り 得ら れ たFermi 面 上で の ギャッ プ を、 Fermi 運動 量の関数と して実線で示 した。 破線は 元のBonn
−B
ポテ ン シャ ル によ り得ら れ た結果で ある。 両者を比べ る と、
BR
ス ケーリング に従 うハ ドロ ン 質量の 減少 を導入 する こ とに よ り、ギャッ プが大 きく減 少する こ とが わ かる。 し か し な が ら、そ の値は合意の得ら れてい る範囲に留まっ てい る。この ように して得 られ るギャップの詳細な議論
に入る前に、どの運動量領域か ら どの ような寄 与 が あるのかを 明ら か にするため に ギ ャ ップ方 程式
の構造を 調べ てお か ね ば ならない 。
Rummel
と3 5 ’ tt・. t−
: : 巨 囲
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I
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O.OL _ 一一 ...一一 幽
OG O4 0B、 12 1.6
Mrm
.」
図 1 Fermi 運動量 々
F
の 関 数と して表し たFermi
面 上 でのギャッ プ。 詳 細は本 文参照。
一A42 一 研 究 会 報 告
eo
60
竃 、 。
『
乱
星
2°誰
o.o
一2000
一一In−Medium (
C
≡015}一一一一・
Benn
−B」
_ 一一一一.
」
「
150 2QO
3D
25
50
,[
lk9
,}図2 運 動 量の関数として表した p−pチャ
ネル の相 互 作 用。 密 度は Fermi 運 動 量で 繰 = 0,9fm −
1
である。 詳細は本文参照。.一一b己re M巳SO冂masses
.... bar已N凵oleon mass
−一一 belh scaled by BR−scallng
21
」、
」
眠
い眠
い。 《
7
7
グ
駒.
m 毎 40
.
.LO
σ
D
F>
圭
=
ざ
く
図 3 部 分 的に BR ス ケーリン
グ を施し た p−p 相互作 用か ら得 られ るギャップ。詳 細 は 本文参照。
Ring
が指摘した よ う に[ 31
、ギャッ プへ の正 の寄与はギ ャッ プ と ポテ ンシ ャ ル と が逆の 符号を持つ ような低 運動量 ・高 運動 量の 両領域に 由来する。 これ は ギ ャ ッ プ方程式の 負 符号の ため で ある。 一方、負の 寄与は ギ ャ ッ プ と ポテ ンシ ャ ル が同符号で ある 中間 運 動 量の 領域(
こごで は 1− 2fm −1
)に由来する。次に、 p −p 相互作用へ の質量減 少の効 果 を 見 る た め に、
In
−Medium
Bollllポ テン シャ ル と元の Bonn −B ポテ ンシ ャ ル と を図 2 に示し た。II1
−Medium
Bonn
ポテ ン シャ ル に 関 し て、より低い 運動 量の領域へ のずれ が見ら れ る。 換言 す れ ば、上 述の ギャッ プへ の正の寄与を与 える領域の ポテ ンシャ ル の強さ が、ハ ドロ ン 質量の減 少に より弱 くなっ
て い るの で ある。 こ れ がIn−Medium Bolln ポテ ン シ ャ ル を 用い るとギャッ プ が 減 少 す る主因だ と考え ら れる。
こ こで、 「核 子 と 中 間 子の どちら が こ の減少に大きく寄与 してい る のか」 とい う疑 問 が 生 じる。 この 疑問に答 えるため 、 我々 は核子あるい は中間子の みに
BR
ス ケーリン グ を施 した計算を行っ た。しか し、その ような取 り扱い に よ り
DBHF
計算で核 物 質の 飽和性を再現で きな くなる とい う観点か ら、 も はや物理 的 な ポテ ン シャ ル で は な く なる とい うこ と に注意してお か ね ば ならない。 結果は図 3 に示 した。 実線 ・破線 ・長 破 線はそれ ぞれ、核子 質量の み ・中間子 質量のみ ・両質量 (完 全 な
BR
スケーリングに相当)を減ら した場合 に対応 す る。 この 図か ら、 ある程 度は核子が ギ ャッ プの減少を 担 う もの の 、主と して 中 間 子質量の減少が寄与 し てい る と結論づけら れる。
ま と
め本稿で は
In
−Medium
Bonn
ポテ ンシャ ル をp
−p
相互作用に用い た ギャッ プの計算につ い て報 告 し た。 結果 とし て得ら れ た ギャッ プ は元の
Bonn
−B
ポテ ン シャ ル の場 合に「多体 系の場の 理論の新 展 開」 一A43 −一
比べ 大 きく減 少し、そ れ は非相対論的研究の結果と矛盾 しない もの である。 ま た、中 間子論 的なポテンシ ャ ル を用い るこ と で、ベ ク トル中 間子の 質量の減少、 つ まり斥力
の到達範囲が 長 くなる こ とが ギャ ッ プの減 少の主要因である こ と を明ら かに し た
園
。なお、非 相 対論的 枠組みにおい てギャ ッ プ を減 らす
Ferm
三sea
の偏極だけで な く、相対 論 的枠 組み に お い て 中 間 子質量の 軽減 を導 くDirac
sea
の偏極を考慮 する ことで 、 同 様にギャッ プの減 少が得ら れ る か 否 か につ いて は ま だ 推 測の段 階に留まっ てい る[ 11】
。原 理 的 に高運動量 が関与す る物 理である対相関におい て、本件は興味深い 課題で あ り、
多面 的に研 究を進め てい く必 要が あろ う。
参考 文 献
[
1
}B
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.Serot
and
J
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.V
「a
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Astro
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in
Honor
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IVannqueRho
’s
60th Birthday’Properties
of
丑