2005年度
上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
『潜在的な人々へのアプローチ方法』
【紹介サービス機関の低利用率の検証とその活用】
A 0242412 出石 司織
2006年 1月 14日
目次
第1章 はじめに
1-1 問題提起 1-2 仮説 1-3 検証
第2章 前提
2-1 人材サービス機関とは
2-2 人材紹介サービスのビジネスモデル 2-3 紹介サービス機関の役割
第3章 製品・サービスの普及とその過程 3-1 テクノロジー・ライフサイクル 3-2 各顧客層の特徴
3-3 市場への普及過程
3-4 人材紹介サービスのライフサイクル
第4章 個人が製品・サービスを受け入れる過程 4-1 イノベーション意思決定過程 4-2 潜在的な転職希望者の意思決定過程
4-3 意思決定過程における企業の働きかけとそのチャネル 第5章 踏み切らせるためには
第6章 結論
第7章 おわりに
【潜在的な顧客との付き合い方とは】
■参考文献・参考資料
第1章 はじめに
1-1 問題提起
現在、日本における全労働人口(就労が可能である人)は約6,635万人、このうち流動人 材(転職希望者および完全失業者)といわれる人口は約930万人にのぼると言われている。そ のうち、転職を考えている人は約333万人と言われるが、この中で実際に人材サービス機関を 利用し転職をしている人は、わずか2~3%しかいないそうだ。成長途中の市場とは言え、なぜ ここまで人材サービス機関の利用率が低いのだろうか。
1-2 仮説
人材サービス機関の利用率が低い理由として、以下に三つの仮説を挙げ、検証していきたい。
■仮説①:“転職”というもの自体、以前よりも認知度が高まってきてはいるものの、まだ一般 的なものにはなっていない
■仮説②:転職の多くは親や親戚などによるコネ、また友人伝いの紹介などによって行われるこ とが多い
■仮説③:転職を漠然とは考えているものの、自ら行動を起こすまでに至らない人が多い
1-3 検証
上記で挙げた三つの仮説に対する検証は以下の通りである。
■仮説①「転職はまだ一般的ではない」
転職に対する認知度は、以前に比べ高まってきている。しかし、終身雇用制を基本とした考え 方や、また、「職を変える=現在の職に背を向ける」といった、逃げのイメージが根強く残って おり、転職に対してネガティブイメージを持つ人が少なくない。その原因としては、転職という もの自体の事例が少ないこと、それに伴い、市場のネガティブイメージをなかなか拭うことがで きないことが挙げられる。これらのネガティブイメージを取り除くためには、まず市場全体の認 知度を上げ、転職を一般的なものとして人々に捉えられるような環境をつくる必要がある。それ は人材サービス機関側の宣伝広告やマーケティングといった、企業の戦略的な問題に関わってく ると考えられる。
■仮説②「知人伝いの転職が多い」
なぜ知人伝いによる転職が多いのだろうか。その理由としては、情報の信頼性による問題が考 えられる。誰しも、全く見ず知らずの人に何かを進められるよりも、自分のことをよく知ってく れている身内や知人から紹介された方が、受け入れやすいであろう。これは、自分を知ってくれ ている人の方が、より自分に適した情報を提供してくれるのではないかという信頼感、また安心 感からくるものだと考えられる。転職にも同じことが言え、世の中に出回っている一般的な情報 よりも、身近なところから得た情報の方が安心して受け入れやすいのではないか。ましてや、転 職を人生の転機ともなるイベントとして考えると、あかの他人から得る情報よりも、自分自身を
よく知ってくれている近い存在から得る情報を信頼したくなるのは、人間の自然な心理ともいえ る。その結果として、知人伝いによる転職が行われるのだろうが、これが人材サービス機関の利 用率の低さの直接的な原因であるとは考えにくい。
■仮説③「漠然とした転職願望」
転職を考えている人の中には、二つのタイプが存在すると考えられる。一つは、転職を明確に 考えているタイプ、もう一方は、転職を漠然とは考えているが明確な意思は持っていないタイプ である。
前者は転職に対する意思が明確であり、自らチャンスを探し情報を収集するなどといった、積 極的な行動を取る顕在的な人たちである。彼らに人材サービス機関を利用してもらうには、目に 見えやすいメリットをアピールするのが有効的であると考えられる。例えば、登録されている企 業の数、職種の幅など、利点となりうる具体的な情報を見せることにより、人材サービス機関の 利用を促すことが可能となる。
一方後者は、転職をしたいという明確な意思があるわけではなく、もし機会があれば…という 漠然としたイメージを描いている、潜在的な人たちである。彼らは自ら積極的に動くことはなく、
基本的に待ちの姿勢であり、外から何か機会が与えられるのを待っていることが多い。また、き っかけを得たとしても、人材サービス機関に登録するということに対する心理的抵抗が大きいた め、実際に行動を起こすまでには至らないのではないか。転職を考えている人の中では、この漠 然とした考えを持つ、潜在的な人たちが占める割合が多いと考えられる。彼らのボリュームが大 きいため、それに比例して、人材サービス機関の利用率も低くなっているのではないだろうか。
本論文では仮説③に重点を置き、転職を漠然と考えている人に、「どのようにして紹介サービ スを利用するという決断まで動いてもらうか」を考えると同時に、最終的に何かビジネスをする 際、このような受け身の姿勢である「潜在的な人々に、どのようにアプローチし、またどのよう に接していけば良いのか」考えていきたい。
第2章 前提
2-1 人材サービス機関とは
人材紹介サービス機関とその利用者(転職希望者)に関する研究を行う上で、まず前提として、
人材関連サービスとは何か簡単に触れておきたい。人材関連サービスには、人材紹介(人材斡旋)
サービスの他にも、ヘッドハンティング、人材派遣など多くのタイプが存在する。また人材紹介 サービスにも、ハローワーク(公共職業安定所)のような公的なものと、インテリジェンスに代 表される民間企業によるものがある。
ここでは、転職希望者を企業に紹介するという転職支援サービスを行う、民間の人材紹介サー ビス機関について見ていきたい。
2-2 人材紹介サービスのビジネスモデル
人材紹介サービスには、転職をしたいと考えている個人、そして中途採用を行いたいと考えて いる企業の二方向の顧客がいる(図1参照)。両者にとって、人材紹介サービスとはどのような ものなのか、利用の目的やサービスの流れ、またメリットを各立場から見ていきたい。
図1. 紹介サービスのビジネスモデル
【インテリジェンスの転職支援・ホームページから引用】
まず、個人にとって紹介サービス機関を利用する目的としては、年収をアップさせたい、やり がいのある仕事をしたい、将来性のある会社にいきたい、などというポジティブな姿勢から来る ものの他に、現職場への不満や、現職業との不一致などから来るネガティブな理由などが挙げら れる。
インテリジェンスの人材紹介サービスの場合、まず求職者にネット上で仮登録申請をしてもら い、それに対し希望や能力に見合った職業や職種が紹介可能とされた場合、本登録のための手続
き書類が送付され、正式に転職希望者としての登録が完了する。登録後は、機械的に求職者を企 業に紹介するのではなく、キャリアコンサルタントとの一対一でのカウンセリングを行い、個人 にあったキャリアプランニングをサポートしていく流れとなっている。
個人にとって紹介サービス機関を利用するメリットとしては、転職希望者としての登録手続き がネット上で気軽に行えること、企業情報を収集する手間が省けること、一対一でのカウンセリ ングが実施され適した職業を紹介してもらえること、また、面接・履歴書の対策も施されること などが挙げられる。さらに、登録から紹介成立までの業務に対し、個人には一切の費用負担がな く、企業に紹介が成立した場合は、紹介者の年収の数十%を企業から支払ってもらうというシス テムになっている。このように、コスト、時間、またサービスの質といった面で、個人にとって かなり多くの利点を挙げることができる。
では、企業にとって紹介サービス機関を利用する目的とは何か。考えられる理由としては、自 社で採用募集をかけるコストと手間を省くこと、また、即戦力となる人材を確実に得ることなど を挙げることができる。企業がインテリジェンスの紹介サービス機関を利用した場合、自社にど のような人材がどの時期にどのくらい必要であるのか、インテリジェンスのリクルーティングア ドバイザーと相談し、それに見合った人材を社内のデータベースやキャリアコンサルタントとの 情報交換によって探してもらい、紹介してもらうという仕組みとなっている。
企業にとってのメリットとしては、まず情報の量を挙げることができる。現在、インテリジェ ンスへ登録をしている転職希望者数は50万人に上り、その情報は社内にデータベースとして蓄 積されている。これだけの人数を一社で集めることはそう簡単ではないが、紹介サービス機関を 利用することによって、豊富な選択肢の中から自社に適した人材を選ぶことができる。
二つ目は情報の質である。求職者が紹介者として登録する際に、その能力やスキルといった情 報を事前に把握し、紹介可能な企業がすぐに見つからない場合は、求人が発生するまで登録を待 機してもらうといったシステムをとっている。ただやみくもに求職者を紹介するのではなく、リ クルーティングアドバイザーと情報交換をし、共有することで、的確な人材を手に入れることが 可能となるため、対大衆的な一般中途採用と比べ質が高くなると考えられる。
他には、多くの求人広告の場合、掲載を以来してから実際に掲載されるまでに一ヶ月程度の時 間がかかるが、紹介サービス機関を利用することでその時間を省けることや、また非公開求人1)
によって、若干名の募集や極秘プロジェクトに関わる人材の募集などが可能となることなどが挙 げられる。このように、多忙な企業の採用担当者にとってもメリットの多いサ-ビスとなってい る。
1)非公開求人とは、転職サイトをはじめとする媒体などで一般公開されているものではなく、
インテリジェンスなど人材紹介会社に寄せられる非公開の求人情報のことを言う。その割合は、
求人全体の80~90%程度を占めると言われている。
2-3 紹介サービス機関の役割
紹介サービス機関の役割としては、大きく二つ挙げることができる。一つは、求職者と企業と のマッチングである。各企業の中途採用のコストや、求職者個人の情報収集の手間を省き、企業 に対しては求める人材を、個人に対しては納得のいく企業を的確に紹介する。二つ目は、情報の 収集・蓄積機関としての役割である。潜在的なニーズに関する情報を企業に代わって収集しデー タベース化するほか、個人に対しては非公開求人として一般的には公開されていない各企業の採 用情報を収集することで、よりバラエティに富んだ職業の情報を蓄積することができる。
前者は採用の規模が大きい大企業にとって、また後者は自社のみでは大量の情報を集めにくい中 小企業にとって、魅力的であると考えられる。
現在、企業間においては、紹介サービス機関を利用した中途採用が盛んになってきているが、
個人間においてはまだ一般的なものとはなっておらず、冒頭で述べたように利用率が2~3%と 非常に低い。Rogers(2003)によると、新しいアイディアや考え方、またその方法をイノベー ションと言うが、紹介サービス機関も、受け身である潜在的な人々にとっては新しいサービスで あり、ある種のイノベーションであると言えるのではないか。従って、紹介サービス機関がどの ように人々の間に普及していくかを見る際に、Rogers(2003)による『テクノロジー・ライフ サイクル』の考え方を活用できると考える。新しいサービスがどのような経路をたどり、また、
どのような人々が関わって世の中に広まっていくのか、ここでは製品が普及していく過程を表す モデルとして、『テクノロジー・ライフサイクル』を活用して考えていきたい。
第3章 製品・サービスの普及とその過程
3-1 テクノロジー・ライフサイクル
『テクノロジー・ライフサイクル』とは、新たな製品が市場でどのように受け入れられていく かを理解するためのひとつのモデルである(ムーア、2002)。このモデルは新たな製品が市場に 受け入れられていくプロセスを、製品ライフサイクルの進行に伴って顧客層がどのように変遷し ていくかという観点から捉えたものであり、イノベーター、アーリー・アドプター、アーリー・
マジョリティー、レイト・マジョリティー、ラガードの五つの顧客層に分類することができる(図 2参照)。各顧客層とも異なる性質を持ち、イノベーションに対する反応も異なっており、これ らを分類することで、各グループに適したマーケティング手法を用いたアプローチが可能となる。
ここでは、『テクノロジー・ライフサイクル』における各顧客層の特徴とイノベーションの普 及との関係を見た上で、この考え方を紹介サービス機関の普及とその過程の検証に活用し考えて いきたい。
3-2 各顧客層の特徴
■イノベーター
イノベーターは新しいテクノロジーに基づく製品を追い求める人たちであり、別名テクノロジ ー・マニアとも呼ばれている(ムーア、2002)。彼らは挑戦的であり、新しいイノベーションに 対する好奇心が非常に強い。また、イノベーションの不確実性が高くても、それを受け入れる能 力を兼ね備えている。イノベーターはローカルなネットワークからは離れたところにおり、自ら の属するシステム内のメンバーとのつながりが弱い。そのため、束縛されることなく、新しいこ とに挑戦することができる。彼らは自由に動くことで、新しいイノベーションをいち早く見つけ ることができ、それをネットワーク内に持ち込むきっかけを与えている。このように、イノベー ターは門番の役目を果たしている(Rogers、2003)。
■アーリー・アドプター
アーリー・アドプターはイノベーターと同じようにライフサイクルのかなり早い時期に新製品 を購入するが、技術指向ではないという点で異なる。ムーア(2002)によると、アーリー・ア ドプターは新たなテクノロジーがもたらす利点を検討し、理解し、それを正当に評価しようとす る。そして、現在抱えている問題を新たなテクノロジーが解決してくれる可能性が高ければ、彼 らは進んでその製品を購入しようとする。製品の購入を決める際は、他の導入事例には頓着せず、
自らの直感と先見性を拠り所とする。また、彼らはローカル・ネットワークとの交流がイノベー ターに比べ多く、オピニオン・リーダーとしての高い能力を持っている。他の潜在的な採用者は、
彼らが新しいイノベーションを採用したのを見て、それに対するアドバイスや情報を求める傾向 にある(Rogers、2003)。このようにアーリー・アドプターは、自らがまずイノベーションを採 用し吟味するという、検査官としての役割と共に、それをネットワーク内に広めていくという、
オピニオン・リーダーとしての役割を果たしている。
■アーリー・マジョリティー
アーリー・マジョリティーは、テクノロジーに対する姿勢という点でアーリー・アドプターと 共通するところはあるが、実用性を重んずる点で一線を画する(ムーア、2002)。彼らは新しい イノベーションに対し慎重であり、採用する前にまず周囲の動向をうかがい、導入事例を確認し てからイノベーションを採用しようとする。そのため、イノベーションの存在を認知してから実 際に採用するまでに要する時間が、イノベーターやアーリー・アドプターよりも長くなっている。
彼らはごく一般的なローカル・ネットワークに属し、周囲の様子を見てから行動するため、自ら が他の潜在的な採用者のリーダーシップを取るということはほとんどない。ただ、このグループ の構成員は全体の約三分の一に及ぶため、彼らを誘引し採用を決定付けることが、イノベーショ ンの普及を促進させるための決定的な要素となる。
■レイト・マジョリティー
レイト・マジョリティーもアーリー・マジョリティーと同じように、全体の三分の一ほどの割 合を占めている。彼らは懐疑的で、周囲の大半の人が採用し、完全に安全であると確信しない限 り、イノベーションを受け入れることはない。レイト・マジョリティーがイノベーションを採用 する理由としては、経済的な必要性や、周囲の採用者からのプレッシャーに押された結果などが 挙げられる(Rogers、2003)。つまり、アーリー・マジョリティーが採用し、市場の約半数に広 まると、それに影響を受け採用を決定する。
■ラガード
ライフサイクルの最後に位置づけられるのが、ラガードである。このグループは過去の事例に こだわることから、伝統的であると言われている(Rogers、2003)。ラガードはコミュニケーシ ョン・ネットワークが最もローカルであり、何か情報を得る時に最初に触れ合うのは、同じ伝統 的思考を持ったラガードである。彼らの意思決定プロセスは非常に長く、すでにほとぼりが冷め
てから採用の決断をする。そのため、彼らが採用するまでに、新しいイノベーションの安全性は 確かなものとなっている。
3-3 市場への普及過程
以上が採用者の五つのカテゴリーとその特徴となるが、製品はこれらの採用者の段階を経て市 場に受け入れられていくこととなる。
まず、製品が開発されて間もなく、世の中にその名前すら出ていない時期に、イノベーターは いち早くそれを見つけ購入する。ほぼ同じ時期に、アーリー・アドプターも新製品の存在に気づ くが、その利点や効果を考慮するため、採用時期はイノベーターより少し遅れた時期となる。上 記でも述べたよう、アーリー・アドプターにはオピニオン・リーダーとしての素質が兼ね備わっ ており、彼らが採用しその製品の実用性が証明されると、次にアーリー・マジョリティーが採用 に踏み切る。彼らが製品を購入するということは、市場の三分の一以上に広まったということと なり、その製品の普及が大きく進むことになる。アーリー・マジョリティーが採用し、製品の普 及率が一気に高まると、その影響を受けたレイト・マジョリティーが採用に踏み切り、製品はほ ぼ市場全体へ広まることとなる。製品の安全性が完全に保証され、最後に必要を迫られたラガー ドが採用に踏み切ることとなる。
だが、ここで見逃してはならないのが、アーリー・アドプターとアーリー・マジョリティーの 間に潜む深くて大きな溝、すなわちキャズムである。ムーア(2002)によると、これは『テク ノロジー・ライフサイクル』において、越えるのがもっとも難しい溝であり、通常見過ごされて いるだけに危険であるという。その理由としては、このキャズムの両端に位置づけられる、アー リー・アドプターとアーリー・マジョリティーは共通する点が多いため、キャズムの存在が気づ きにくくなっていることが挙げられる。このキャズムに気づかずにアーリー・アドプター向けの アプローチをし続けると、一度落ちるとなかなか抜け出すことができないキャズムに、いつしか はまることとなる。アーリー・アドプターとアーリー・マジョリティーの間に存在するキャズム をいかに越え、採用者間でのイノベーションのバトンタッチをスムーズに進めることができるか、
これがイノベーションを世の中に普及させるうえでの鍵を握ると言っても過言ではないだろう。
このように、『テクノロジーというものは、購買者の心理作用ならびに社会的に置かれている 状況を反映した、いくつかの段階を経て市場に受け入れられていく(ムーア、2002)』というの が、『テクノロジー・ライフサイクル』の基本的な考えとなる。また、テクノロジー・ライフサ イクルにおいて、新しい製品やサービスの普及には、キャズムを越えることができるか否かが大 きく関わることが分かった。このテクノロジー・ライフサイクルの考え方を活用し、紹介サービ ス機関がどのように普及していくか、また普及するまでにはどのような過程があるのか、以下で 考えていきたい。
3-4 人材紹介サービスのライフサイクル
これまで見てきたテクノロジー・ライフサイクルを、転職市場における紹介サービス機関に置 き換えて考えてみると、イノベーター、また、転職機関の利点を見出したアーリー・アドプター は、すでに利用を始めていると言える。ただ、まだ世の中で一般的なものとして受け入れられて いないところを見ると、多くのアーリー・マジョリティーが採用に踏み切っていないことが考え られる。彼らは保守的とも言われるように、能動的にイノベーションを採用することはまずない。
つまりアーリー・マジョリティーは、仮説③で述べた基本的に受け身で待ちの姿勢である、潜在 的な人々であると考えることができる。この、顧客全体の三分の一を占めるアーリー・マジョリ ティーが、まだ採用をしていないことが、紹介サービス機関の利用率の低さに関係しているので はないか。従って、紹介サービス機関を世の中に広めるためには、このアーリー・マジョリティ ーを採用に踏み切らせることが必須となってくる。
では、なぜ彼らはなかなか採用に踏み切ることができないのだろうか。Rogers(2003)は、
イノベーションに対する個人の意思決定は、瞬間的な行動ではないと言っている。つまり、意思 決定は即座にするものではなく、そこに至るまでにはいくつかのステージを踏むということであ る。この個人がイノベーションを受け入れる過程を、Rogers(2003)は『イノベーション意思 決定過程』として取り上げており、個人が意思決定に至るまでにはどのような行動をとるのか、
また、どのようなチャネルを通した情報を信じるのかといったことを、各ステージを追って説明 している。この『イノベーション意思決定過程』の考え方を、アーリー・マジョリティーがどの ような意思決定をしていて、どうすれば採用に踏み切ってもらえるのかを考える際に、活用でき るのではないだろうか。
個人がイノベーションをどのように受け入れ、どのような意思決定を下していくのか、『イノ ベーション意思決定過程』の各段階を見た後に、これを活用し、アーリー・マジョリティーがど のように紹介サービス機関の利用に対する意思決定を下していくのか、以下で考えていきたい。
第4章 個人が製品・サービスを受け入れる過程
4-1 イノベーション意思決定過程
イノベーション意思決定過程には段階があり、それらは、Knowledge→Persuasion→Decision
→Implementation→Confirmationの五つ順を追って説明することができる。
■Knowledge
まず、個人や他の意思決定集団がイノベーションとの接点を持つためには、その存在を知る必 要がある。Rogers(2003)によると、イノベーションに対する気づきを得るきっかけは主に四 つあり、1,以前に使ったことがある、2,必要性や問題を感じる、3,革新者である、4,社 会的システムの標準となる、以上を挙げることができ、これらのきっかけによりイノベーション を認知することになる。ただし、イノベーション決定プロセスの始まり方は、個人や意思決定集 団の社会経済的な特性や、個性の変数、またコミュニケーション動作によって異なり、これが前 述のテクノロジー・ライフサイクルにおける顧客層の段階化へと関連することとなる。以上がイ ノベーション決定プロセスの始まりとして、Knowledge ステージにおいてイノベーションを認 知することになる。
■Persuasion
次にそのイノベーションに対し、好意的な、又は非好意的な態度のどちらを取るかという、
Persuasionステージを踏む。Knowledgeステージでは、知的な部分が中心だったのに対し、こ こでは感情的なものが中心となってくる。ここでは、イノベーションの相対的な優位性、適合可 能性、複雑可能性、試行可能性、また、観察可能性といった特性が、個人の態度形成に関わって くる。個人は、イノベーションに関する情報を探すことに積極的になり、どのメッセージを信じ るか、また受け取った情報をどのように解釈するかを決めていく。同時に自らの考えが間違って いないかどうかを確かめようとするが、マスメディアから得られる情報は一般的すぎるため、そ れを確かめる明確な判断材料とはなりにくい(Rogers、2003)。次のDecisionステージに向か うために、イノベーションに対する不確実性を減らすため、一般的ではなく自分の求めるものに 合った、より価値のある情報を個人は探すようになる。
■Decision
Persuasionステージを経た後、イノベーションを採用するか、または拒否するかという決定 をすることとなる。これがDecisionステージである。多くの人は採用の前に、自分の置かれて いる状況下でのイノベーションの有効性を試すが、この試行がイノベーションを採用する上での 重要な過程となる(Rogers、2003)。
■Implementation
Decisionステージを経てイノベーションを採用した後、Implementationステージにおいて、
実際にそのイノベーションを実行することとなる。ここではすでに採用の決断を下してはいるも
のの、イノベーションに対する不確実性が完全になくなったわけではない。実際にイノベーショ ンをどこで手に入れれば良いのか、どのように使えばいいのか、またオペレーションの問題をど のように解決すれば良いのかなど、イノベーションを実行する上での問題を一つひとつ解決する ことから始まる。
■Confirmation
最後に、Confirmationステージにおいて、すでに採用したイノベーションについての確認作 業を行うと同時に、採用をしていない人も今後イノベーションとどう関わっていくか再度態度形 成を行う。すでにイノベーションを採用し実行している場合は、その後も採用を続けるか否か、
決定を下すこととなる。また、前回採用をしなかった人の場合、遅れてイノベーションを採用す るか、または依然として拒否を続けるか、今後の態度形成を見直すこととなる。
以上がイノベーション意思決定過程と各段階の特徴となる。この中で、Knowledge ステージ からDecisionステージまでのプロセスを、漠然と転職を考えている個人が紹介サービス機関を 利用し、実際に転職に踏み切るまでの過程に当てはめと同時に、その間、企業から個人に対して 行われる働きかけとの関係について、各段階をおって見ていきたい。
4-2 潜在的な転職希望者の意思決定過程
まず、漠然と転職を考えた時に、そもそもなぜ転職をしたいのか、また転職をするとどのよう な良いことがあるのかなどといった素朴な疑問を抱く。同時に、どのような手段で、どのような 時期に、どのように行うかもよく分からず、多くの不安要素を抱えている。そのような時期に、
様々なチャネルを通して転職をサポートする機関があることに気づき、人材紹介サービスをひと つの手段として認知することとなる。これが個人のKnowledgeステージとなる。ここでは、紹 介サービス機関が自分に変わって企業を探してくれること、カウンセリングなどで自分に合った 職業を紹介してくれることなど、大まかな転職サポートの内容を知る。また、年収アップのため や、好きなことができる職業に付きたいなど、転職にも様々な目的や理由があることを理解する。
このような基礎となる情報を得ることで、転職に対する大まかなイメージを描くこととなる。し かし、それだけではまだ転職に踏み切ることはなく、検討材料のひとつとして認知するにとどま る。
次の段階として、Persuasionステージが訪れる。ここでは、個人が紹介サービス機関に対す る自分自身の態度を形成するために、さらに詳しい情報を得たいと思うようになる。紹介サービ ス機関を利用することで自分たちにもたらされるメリットは何か、実際そのような機関を利用し て転職した人にはどのような人がいるのか、利用した場合どのような経緯をたどることになるの か、などである。世の中に一般的に出回っている情報では個人は満足せず、自分が求める、自分 に合った情報を得ることで、転職というもののイメージを膨らませていく。同時に、自分の周り にいる人々は採用しているのかどうか、また、しっかりと機能しているのかどうかなど、周囲の 様子を伺い安全性を確かめていく。これらによって、個人が好意的な態度を取るか、または非好
意的な反応をするかという、個人の紹介サービス機関に対する態度が大きく左右されることとな る。
転職に関する詳しい情報とその実例を得た個人は、実際にそれを利用するか否か、という決断 をすることとなる。これが個人の意思決定過程におけるDecisionステージである。ここでは、
紹介サービス機関を利用すると決めた場合、同時に転職をするということがほぼ確定的になるが、
その際、利用に踏み切るための合理的理由が必要となってくる。この理由は、つまりは転職の目 的となるが、各個人によって異なってくる。2003年5月時点でのインテリジェンス登録者の アンケート結果(インテリジェンスの転職支援・ホームページ)によると、二十代の転職理由の 第一位は、「年収をアップさせたい(30%)」、第二位は、「やりがいのある仕事がしたい(22%)」、
第三位以下は、「将来性のある会社に入りたい(14%)」、「キャリアアップしたい(12%)」、
「大企業に行きたい(10%)」と、その目的も様々である。これらの合理的な理由を個人が確 実に認識することが、決断をするうえで非常に重要な要素となってくる(図3参照)。
図3. 二十代の転職理由
0% 10% 20% 30% 40%
理由
年収をアップさせたい やりがいのある仕事がしたい 将来性のある会社に行きたい キャリアアップしたい
大企業に行きたい
【インテリジェンスの転職支援・ホームページ参照】
以上が、転職を考えている個人が実際に紹介サービス機関を利用するまでに通過する、意思決 定過程におけるKnowledgeステージからDecisionステージである。このように、個人は各段階 で必要な情報を得、転職に関する知識を深めると同時に、そのイメージを形成し、最終的な決断 の段階へと進んでいく。
では、この意思決定プロセスにおける各ステージにおいて、紹介サービス機関の側が個人に対 して行っていることとは何か。
4-3 意思決定過程における企業の働きかけとそのチャネル
まず、Knowledge ステージの段階では、転職というものをできるだけ多くの人に知ってもら い、認知度を高める必要がある。ここでは、詳しい情報というよりは、転職をサポートするもの があるという、その存在自体をより多くの人々へと発信する必要があるため、マスディアなど対
大衆向けのチャネルが有効的となってくる。テレビ CM やインターネット、電車内の広告など といったマスメディアを通し、紹介サービス機関の存在を認知してもらうと同時に、個人の転職 に対するネガティブ要素を取り除くことが重要となってくる。様々な転職の目的、方法、種類を 提示し、見てもらうことで、転職に対するハードルをできるだけ低くし、飛び越えやすい環境を 設定する必要がある。
次のPersuasionステージでは、Knowledgeステージで発信した情報によって、転職というも のを認知した個人に向けて、より詳しい情報を発信することとなる。ただ、この段階では個人は 対大衆向けの一般的な情報には満足しないため、個々の求めるものに応じた情報を与える必要が ある。ここで有効的となってくるのが、フェイス・トゥー・フェイスでの各個人に合わせた情報 提供である。紹介サービス機関を利用したことのある友人の話や、実際に転職をしたことのある 人の体験談を通し、転職するということがどういうものなのかイメージを個人が描きやすいよう サポートする。同時に、紹介サービス機関を利用することの利点、また転職をすることによって 得られるメリットなど、実体験に基づく詳しい情報を発信することで、プラス要素を与えてあげ る。このようにPersuasionステージでは、各個人の転職というものに対しての考え方やイメー ジに、プラス要因となる情報を発信することが重要となり、これが個人を次のDecisionステー ジへ進めることとなる。
Decision ステージでは、転職に関する十分な情報を得、それに対する態度もほぼ形成されて いる個人が、最終的な決断をスムーズに下すことができるよう、誘導することが重要となってく る。ここでは、多くの個人が転職に対しての意思がほぼ決まっているものの、その決断に踏み切 ることができず、とどまっていることが多い。そのため、多くの情報を与えるというよりは、決 め手となる判断材料を与え、決断への最後のひと押しをしてあげることが重要となってくる。個 人が信頼を寄せる人、またオピニオン・リーダーのような存在が、橋の先が安全であることを教 え、渡っても大丈夫であると一言かけることが、迷っている個人の背中を押し、決断へと踏み切 らせる大きな要因となる。
このように、意思決定過程の各ステージによって、個人の求める情報は異なり、転職に関する 知識やイメージは大きく変化していく。これに伴い有効的なチャネルも異なってくるため、各ス テージにおいてチャネルの使い分けをし、最も効果的なアプローチをすることが必要となってく る。
第5章 踏み切らせるためには
これまで、紹介サービス機関をある種のイノベーションとしてとらえ、それがどのように市場 に受け入れられていくのか、その過程として『テクノロジー・ライフサイクル』を、また、個人 がそれをどのように受け入れ意思決定を下していくのか、その過程として『イノベーション意思 決定過程』を活用し、人材サービス市場に置き換え考察をしてきた。その中で見えてきたことが 二つある。一つは、イノベーションが世の中に普及していくためにはアーリー・マジョリティー の存在が必要不可欠であり、これは紹介サービス機関が普及していく上でも同じことが言えると いうこと、二つ目は、イノベーションの普及の鍵を握るアーリー・マジョリティーは潜在的であ り、その意思決定過程においても決断になかなか至らないということである。つまり、自ら能動 的に動くのではなく、基本的に受け身で待ちの姿勢である潜在的な人々が、イノベーション普及 のキーパーソンになるということである。しかし、自ら積極的には動くことのない彼らを、決断 までに動かすことは容易ではない。動いてもらうためには、何らかの力を外から加える必要があ るのではないか。
では、転職を漠然とは考えながらも、紹介サービス機関の利用まで至らない人を、どのように すれば決断に踏み切らせることができるか、以下で考えていきたい。
例えば、目の前に橋があるにも関わらず、渡ることを躊躇している人がいるとする。これを漠 然と転職を考えている人にあてはめると、目の前にある橋を紹介サービス機関、その橋の先にあ るものを転職に例えることができ、橋を渡ることが紹介サービス機関の利用を表すこととなる。
橋を渡らせるためには、まず橋の入り口まで転職希望者を連れてくる必要がある。ここでは、
マスメディアなどを用いて、転職を考えている人々に紹介サービス機関があることを知らせ、橋 の前まで誘引する。また、転職には人それぞれの仕方があり決して一通りではないという、様々 な橋を提示することにより、入り口に至るまでに飛び越えなくてはならないハードルをできるだ け低くしてあげると同時に、転職というものに対するネガティブイメージやマイナス要素を取り 除き、安心させてあげることが大切になってくる。
次に、橋の前まで来た転職希望者に足を踏み出させるためには、転職というものにプラス要素 をつけ、背中をひと押ししてあげる必要がある。ここでなかなか足を踏み出すことができず、と どまっているのは、前述で触れた保守的と言われるアーリー・マジョリティーの可能性が高い。
彼らは、サービスの実用性や採用した後のメリットなどを慎重に検討し、それらが明確に見出せ ない限り自ら足を踏み出すことはない。そこで、一足先に採用を終えているアーリー・アドプタ ーに自らの体験談を直接話してもらい、アーリー・マジョリティーが採用後のイメージを描きや すいようサポートしてもらうと同時に、そのメリットを明確に伝えてもらうことでプラス要素を つけてもらう。このアーリー・マジョリティーを採用に踏み切らせることが、紹介サービス機関 というものの普及の鍵になると考えられる。
そして最後に、橋を渡るか否かの最終決断を転職希望者に求めることとなる。ここでは、利用 後のメリットを理解し、イメージもでき、ほぼ採用への気持ちが固まってはいるものの、最後の
踏み切りができずにいることが多い。そのため、第三者的な存在がまずは渡ってみるようひと声 かけ、決断の後押しをしてあげなくてはならない。踏みとどまる転職希望者の最終的な決断をサ ポートするものとして、彼らの背中を強く押し、初めの一歩を踏み出させてあげることが必要な のである。
第6章 結論
本論文では、「紹介サービス機関の利用率が低いのは、潜在的な転職希望者が多いためである」
という仮説を立て、検証をしてきた。潜在的な転職希望者とは、新しいものを受け入れることに 保守的であるアーリー・マジョリティーに多く見られることが、Rogers(2003)の『テクノロ ジー・ライフサイクル』から分かり、彼らがまだ採用に踏み切っていないことが、紹介サービス 機関の利用率の低さの原因の一つであることが立証された。同時に、アーリー・マジョリティー である潜在的な転職希望者を採用に踏み切らせることが、利用率を上げる鍵であることが分かり、
彼らをいかに決断に踏み切らせるかを本論文で考えてきた。
しかし、潜在的な転職希望者は漠然とした転職願望を持っているにもかかわらず、それを自ら 実行しようという強い意思は持っていない。そのため、何らかの外的要因を与えることが必要と なってくる。意思決定の初期段階においては、各チャネルを使い転職に関する情報を流し、人材 サービス機関を認知するところまで誘引する。その後、個人ネットワークを通してサービスの詳 細を伝え、また転職者の体験談などと接することで転職のイメージを描いてもらい、決断の段階 へと進んでもらうことになる。最終的に、紹介サービス機関を利用するかどうかの決断は転職希 望者本人が下すものとなるが、そこでは本人の意思以外に何らかの外的な力が必要となる。それ は個人にとって影響力のある第三者に背中を押してもらうことなのではないか。
以上のことから、潜在的な転職希望者を紹介サービス機関の利用に踏み切らせる最終的なポイ ントは、その踏みとどまる個人の背中を押す「第三者の存在」であると私は考える。
第7章 おわりに
これまで、潜在的な転職希望者をいかに紹介サービス機関の利用に踏み切らせるかを考え、サ ービスが世の中に普及する上での彼らの重要な役割を見てきたが、この潜在的な人々は人材サー ビス市場に限らず、他のビジネスの普及の際にも大きな鍵を握るのではないか。本論文のおわり として、これまでの検証を活用し、ビジネスをする際に潜在的な顧客にどのようにアプローチし ていけば良いのか、考えていきたい。
【潜在的な顧客との付き合い方とは】
潜在的な顧客に見ることのできる特徴は、基本的に待ちの姿勢であり、自ら能動的に動くこと が少ないということである。つまり、彼らがこちら側に来てくれるのを待っているだけでは何も 始まらないということだ。例えば商品をショーケースに並べ、「好きなものをお取りください」
と顧客が見に来るのを待つのではなく、商品を並べているということ、またその商品自体の情報 をこちら側から流し、その存在を認知してもらう必要がある。
しかし、ただ単に対大衆的な情報を流しているだけでは潜在的な顧客は動かない。彼らは新し いものを受け入れることに対して心理的抵抗感を持っているため、それを取り除かなくてはなら ない。そのためには、まず、周りの人も使っているという安心感を与えることで、敷居を低く設 定してあげることが必要である。同時に、その商品がどのような機能を持ち、どのように扱えば 良いのか、また、どのようなメリットがあるかなど、より詳しい情報を提示することで、ネガテ ィブイメージを取り除いてあげることが大切である。
それに加え、顧客自身も明確に認識していない潜在的なニーズを読み取り、かゆいところに手 が届くような情報を、ピンポイントで与えることが重要となってくる。そのためには、顧客の属 性や趣向性、これまでの購買行動などをデータベースとして蓄積し、把握した上で、各顧客のニ ーズに応じた情報を、適した時期に送る必要がある。それというのも、人間の自然な心理として、
強制的な勧誘や商品案内が度重なると、購買意欲が薄れてしまいやすいように、潜在的な顧客も、
押し付けがましい情報提供には一歩身を引いてしまう傾向にあるからだ。また、どのような手段 で情報を伝えるかといったことも重要な要素となってくる。電話やダイレクト・メールなどの通 信手段が良いのか、または、フェイス・トゥー・フェイスでの情報伝達が有効的なのか、最も効 果的な情報提供の仕方を考えることで、情報の価値をさらにあげることが可能となる。このよう に、どのような情報を、どのような時期に、どういった手段で伝えるかによって、顧客の購買意 欲を大きく左右することになると考えられる。
この段階まで来ると、顧客の購買に対する意思はほぼ決まっており、あとは決断に踏み切るか 否かという状況である。ここで、最後の決め手となるひと押しが必要になってくるのだが、その タイミングが非常に大切である。決断をさせようと必死に押し続けるのではなく、顧客の頭に「決 断」という文字がふと過ぎるのと同じタイミングで決定的な一言をかけることで、顧客自身も納 得のいくスムーズな決断を下すことができるのではないか。
製品やサービスの普及のキーパーソンでありながらも、それに対して受け身の姿勢を取る潜在 的な人々。彼らが自ら先頭を切って、積極的に採用に踏み切ることはまずない。そのような潜在 的な人々を動かすことは決して容易ではないが、動かせるか否かが普及の成敗を分けると言って も過言ではない。彼らにアプローチする際には、各個人に応じた情報を提供し、その時期や手段 など、適切な間合いをはかる必要がある。この間合いをどのように取るか、これが潜在的な人々 と接する際の鍵になると私は考える。
■参考文献
Everett M. Rogers “Diffusion of Innovations : the fifth edition” The Free Press, 2003;pp. 1-299.
ジェフリー・ムーア『キャズム-ハイテクをブレイクさせる「超」マーケティング理論』翔泳社,
2002; pp. 1-141.
【ホームページ】
株式会社インテリジェンス・ホームページ http://www.inte.co.jp/
インテリジェンスの転職支援・ホームページ http://tenshoku.inte.co.jp/