教員養成大学デザイン教育における 知らせる為のデザイン(1)
一ディスプレイとその周辺一
朝 倉 直 巳
1 .まえがき
H.ディスプレイの領域
皿.ディスプレイという言葉の意味 1.広義の意味におけるディスプレイ 2.狭義の意味におけるディスプレイ IV.ディスプレイの特徴
V.デザイン教育におけるディスプレイ
1.美術教育におけるディスプレイとその周辺 2.学習指導要領にみるディスプレイの項目・
海外の専問大学におけるディスプレイの扱 い方
3.教員養成大学におけるディスプレイ A.基礎的な項目
B.応用例の項目
1.まえがき
科学やマス・メディアの発達によって,現代社 会はコミュニケーショyの手段が一段と豊富にな
った.個人や,個人の属する集団の組識体は,そ の意志をひとびに伝達する機会をより多くもち,
またより効果的に為すことができるようになっ た.それが正しく行なわれるとき,人間 の文化や文明も発達する.
技術の進歩に従って次々に出現する新 製品や,めまぐるしく変転する政治や文 化の情勢を,速かに,よりょく,大衆に 伝達し理解してもらうためには,近代的 なコミュニケーションの手段が必要であ る.ヴィジュアル・デザイγ(visual communication designの略)はそのた めにある.
デザイγはいろいろのはたらきをもっ ているが,本題ではその中で視覚的伝達 のはたらきをもつもの・即ち「知らせる ためのデザイン」をとりあげて論じてみ たいと思う.特に今回は,その中でも展 示の行為を伴うディスプレイ(display)
について考察を進めることにした.
知らせるためのデザインの中で,ポスター・新 聞広告・テレビジョン等は間接的宣伝媒体物であ るのに対して,ディスプレイは直接大衆に接触す る直接的宣伝媒体吻である.(1)宣伝デザイγに おいて,ディスプレイは上記のようなマス・メデ (知らせる為のデザイン)
ρ05砂道路標識
新聞広告 看板
面叙副 P吻撒
ヒεω毎爆
P礁9吻 婦μ厩
家庭用品
通見
立体カレンダ㌧
ρ5・砒∫吻
砂血伽
改∫〆叩表
ε鷹島撫
建除
(債フ為の デザイン)
家具 凍物
〈f191〉
(柱屯為の ヂサ/ン〕
イアによって誘発された大衆が,その行為を完結 する最終的なところに当るので,「文章でいえば 起承転結の結の作用に相当する」・〔2)将来も・交 通機関の発達に伴い人間の移動の機会が多くなる につれて,ますます発達するであろう.しかし・
P.S、ディスプレイ(point−of−saledisplayの 略)のような一部のものを除いて大部分が大量生 産ではないから,マス・コミによる媒体吻に比べ るとき・その力は狭く,デザイン教育における比 重も決して,大きいとはいえない.しかし,「知
らせるためのデザイン」の中の一領域を求め,独 特な存在を形成しているところがら,ここに取り
あげてみた.
皿.ディスプレイ・デザインの領域
では,ディスプレイはデザイン全体Z)中でどの ような位置にひろがっているのであろうか.
参考図1.は,デザインを(知らせる),(使 う),(住む)の三つの機能に注目して系統だてた 図表である.
三角形の頂点からパッケージ(packagin9)に 至る左斜面の分野は,印刷に関係あるところがら 主としてグラフィック・デザィγ(9raphicdesi−
9ロ)の分野に属する.それに対して,右側の斜面 は展示とか・陳列して見せるとかいうはたらきを もちながら建築へ向かう分野である・この中で,
(展示)という行為を通してひとびとに接する知 らせるためのデザインが,ディスプレイ・デザイ γの領域である.
ショーウインドー(shOwwindOw)やショール ーム(sbow room)は建築内に位置を占め,広告 塔は建築の外に場を占めて,コミュニケートする
はたらきと同時に,いずれも(展示)という性格 を強くもっている.博覧会(exhibitioロ)は大規 模なデザインであるが,展示という行動を通して 催される知らせるためのデザインであるから,そ のためになされる一切の設営はディスプレイ・デ ザインである。パッケージやカレンダー(calen−
der)も, ディスプレイの機能を併せもつものが あらわれ,近年めざましい発展をとげている・商 業主義が,ディスプレイという視覚伝達の媒体を 利用する傾向は,年鑑広告美術(3)や電通広告年 鑑(4)を見てもわかるように年女その重みを増し
,表現の方法も多種多様にわたって量・質共に隆 盛の方向をとっている・しかし,商業主義こ無関 係な地味な日常の生活圏においても,ディスプレ
イの行為はいくらでも見かけることができる・家 庭や学校におけるさまざまの展示,政府や公共団 体や組合等の宣伝活動で展示に関係するものはい くらもあり,それらは後で述べるようにみなディ スプレイである.
皿.ディスプレイという言葉の意味 1.広義の意味におけるディスプレイ ディスプし/イ(display)という言葉の意味1ま,
GeorgeNelsonによれば,「賦㎡old(拡げる,展 示する,示す) とか,spread out(ものを列べ る,展げる)ということを意味するラテン語から 発した言葉で,いろいろな立場からの相違はあろ うが,いつもはっきりと見える方法で示して見せ ることによって,人の注意をあるものに向けさせ ようとする作者の意向を,伝達するもの」であ
る.(5)
もともと,ディスプレイする行為は,幼児にお ける遊びや,原始時代の先祖の生活の中で行われ てきたものであり,重成基氏もいう如く「物をひ ろいあげる,物をおく,という動作が,さらに物 をならべて美しく飾るという動作。行為となり・
それが日常生活で繰り返されて次第に習慣をつく り美的構成をととのえて」(6)今日の社会に見る ようなさまざまなディスプレイとなった,と考え られるのである.
更に,(美Nelsonは,「人類に先立ってあった」
(7)として,雄の鳥の羽毛,斗魚の道化などをデ ィスプレイの例としてあげ,中世時代の写本に金 色や銀色で飾られた文字や,騎士の樋こ描かれた 紋章や,奴隷を連れ着飾って教会へ行く貴婦人の 行為もみなディスプレイであるとして挙げてい る.これは,「結局,ディスプレイとは,主な目 的が何であるかを示して見せる(show)あらゆる 三次元り活動」〔8)という同氏の解釈からすれば 当然のことといえよう.このような広義り意味か らすれば,江戸時代の大名行列も・城下の立札 も,今日の運動会やデモ行進も,すべてディスプ
レイということができる.
2.狭義つ意蜘乙おけるディスプレイ
今日社会の一般通念としては,ディスプレイと は展示のことを指し,物をある一定の目的のため に,より見易く,美しく配置構成して大衆に見せ ることである.塚田敢氏はこれを賑売のためのデ
イスプレイと,宣伝や!P.R.のためのディスプレ イの2つに分けて,「前者にはショーウィンドー や店内のディスプレイがあり・後者は催物・展示 会・ショー・博覧会など」(9)というように分類
しているが,教員養成の大学においてはなるべく 商業主義的なものは避けた方がよいと思う.
IV・ディスプレイ・デザインの特徴
ではいったいディスプレイ・デザインは他のデ ザインに比べて・どんな特徴をもっているのであ
ろうか.
第1に・前述のような言葉の意見から・ものを
「展示」するはたらきをもっていなければならな
い一
第2に・知らせるためのデザインの一領域であ るから視覚伝達の媒体として・独創的でアトラク ティブな視覚性が要求される.
第3に・第1章で述べた如く,直接大衆に接触
■ ● するデザインである.
第4に立体的なデザインであるから,いつも三 次元的観点からの工夫が必要である.
第5に・必しも建築のように恒常的な耐久性が 要求されない.(10)
第6に 大量生産でない場合が多い.
V.テザイン教育におけるディスプレイ
1.美術教育におけるディスプレイとその周辺 デザイγ教育におけるディスプレイの目的は,
デザインの中のディスプレイという方法を通し て・造形上の基硬一的な能力や感覚を育成し・それ らを実際の場面にあてはめて応用する能力と態度 を養うことである.
デザイン的基礎能力としてはいろいろあるであ ろうが、主なものとして,
(1)視覚的表現と伝達の力
(2)機能に対する解決の方法を考える力 の2つ(11)を挙げることができよう.
普通教育におけるデザイン教育や デザイン教 育におけるディスプレイも,人間が個人として,
叉社会人として生活していく上に必要な上記の如 き美術的能力の少くとも最少限度のものを身こつ けさせることを目ざすものでなければならない、
そのためには,美術の成り立つ根本的な要素であ る視覚言語やその使い方について教育すること が,最も重要なことになる.
入間の社会において・美術的な行為はいろいろ
とあり,特に科学や技術の発達のめざましい現代 においては,人間の造形活動はほとんど無限とい ってよい.限られた時間内で行なわねばならない 美術教育において,それらの1つ1つを取りあげ て教えるということはとうてい不可能であるか ら,人間の造形的表現全般にわたって必要な,要 素的。基礎的なものを抽出し・それらを組識的に 教えることによって,その後のあらゆる造形活動 に役立てようとする考え方が成り立つのである.
以上のように,美術教育全体の中で・基礎的な ものの教育がいかに重要なものであるかが分る.
従って美術のカリキュラム全体の中で考えると き,デザイγ教育におけるディスプレイの扱い は,ディスプレイの題材を与えながらも,その教 育的内容としては造形上の基礎的な能力を育成す ることを第一に目ざすものと(〔A〕とする),デ ィスプレイというものを一定の条件下に行われる 問題解決のための総合的活動として・諸々の造形 的要素や原理はそのために選択され統合されるも の(〔B〕とする)2つの方向が生じる.
たとえば,小学校のような幼い児童を対象とす る美術教育では,児童の心理はものをみても意味 ずけて感じとろうとし・具体的なものに対する興 味を示す段階にあるから・抽象的な美術の要素を 構成して表現をさせるようなことのみを続けるこ とは困難である.従って,なにか具体的なもので 児童にとって興味りある題材を定めて実際の学習 にあたることになろう.ディ・スプレイの分野に属 するいろいろな題材もこの為に利用することがで
ぎるのであるが,その教育的内容としては美術の 基礎的能力を育成するということが根本の目的と なるのである.
これは勿論〔A〕の場合である.従って教師は ディスプレイやその他の立体,内デザイγについ て,それが成り立つ造形的な要素や基礎的な問題 について,平素十分な研究をつんておくことが大 切である.
叉・現実のわれわれの生活場面こおいては,造 形裏素≧そつまま使うということは少なく・一定 の条件のもとにさまざまな構成要素や原理を組合 せて行なう総合的な創造活動であるので,義務教
ロ の し ロ
育.D最終段浩にある中学校り美術教育では・具体 的な目的をもった身近かな題材を与え・美術の基 礎的能力を生かし総合的に解決させる学習は意義 あるも○である.それは生徒の発達段階からみて も正しい.この場合は〔B〕の場合であるが,教
師は生徒にどんな種類のディスプレイを課題とし て与えたらよいかを考えるために・我索の生活に おけるさまざまなディスプレイを知っておく必要
がある.
教員養成の大学においては, 〔A〕の場合は,
学生の抽象的思考や経験の世界は+分に発達して いるから,造形の要素である基礎的な問題を抽出 して純粋に学習させることが可能である.表現の ためのボキャブラリーを1つでも多く身につけ、
その可能性をためして研究しておくこくことは,
自己が美術の制作をするに当って必要であるばか りでなく,美術教育にたずさわるようになったと き最も役立つものとなるであろう.
〔B〕の場合は,基礎的能力がしっかり身につ いていればやがて解決される問題であるが,実際 にみるいろいろの応用例の知識や特徴について一 通りのことは知っておく必要がある・そうして・
条件の総合解決の学習として・大学においてもデ ィスプレイの制作を少くとも一度は経験させてお くことが望ましい.美術教育にたずさわる老にと っては,造形芸術全般にわたる広い理解が必要で あるから,この観点からいっても,デザインの一 分野であるディスプレイについてもでぎるかぎり 深く知っておくことが望ましい・
そして,それが知らせるためのデザインや,デ ザイン全体の中でどんな位置にあるか・また美術 教育全体の中でどれ位の重要度をもち・どのよう に扱ったらよいかを理解しておくことは最も重要 な根本的なことであり・欠くことのでぎない問題
である.
2.学習指導要領にみるディスプレイの項目・
海外の専問大学1こおけるディスプレイの扱 い方
文部省の示す小学校図工科指導要領において は,3年から「デザインをする」という項目があ り,5年、6年こ及んでいる・(12)3・4年では 機能的なものはあまりやかましく言っておらず・
「用途をもたない自由構成」が主な内容である が,う,6年では「用途をもったもののデザイ ン」が主となっている.それらは各学年の時間配 当の割合の上で(3年〜6年)・20%となっている が,最近の著しい傾向として,デザインとその基 礎的な能力の育成に・大きな力が傾けられている
ことが挙げられる.
中学校の美術指導書の中では,それらは合して
全体のパーセンテージのほぼ半に達している.
(13)指導内容は・(1)印象や構想などの表現.(21色 や形などの基礎練習.〔3)美術的デザイン.の三つ の系列に分けて扱われている.
さきに述べたように,ディスプレイの学習で主 たる内容を生徒の造形的基礎能力の育成におく場 合と,それらを統合して実際の生活場面の問題に 対処する学習とに分けて扱うとぎ・前者は(2}の中 に含まれ,後者は③に属するものとなる.
同指導書には,(3)に属するものとしてかなり具 体的に項目が書かれてあり・(14)ポスターや包装 紙のデザインなどと共に・舞台装置・展覧会、記 念物・展示台・店頭や店内の装飾,展示・看板・
電飾装置といったものが挙げられているが・展覧 会,記念物・展示台・展示・店頭や店内の装飾と いうのはディスプレイであり,舞台装置・看板・
電飾装置といったものはディスプレイの周辺にひ ろがるデザインである.
次に,「物の配置配合」ということが同指導書 でかなり大きく扱われているが,(励これはディ スプレイの基本動作に関係している.ディスプレ イは,物の配置配合によって行われるものである が,配置配合即ちディスプレイと言い切れないの は,後者が「知らせるためのデザイン」に属する のに対して,前者はその他の分野のデザインにも 応用できる基礎的な行為であるからである.つま り,家具や食器をいかによく配置配合するかとい う家庭内の室内計画は「使うためのデザイン」に 属するものであり、「校内の区域や町の美化」と いう地域社会に関する問題は(16)都市計画に属す
るものであって,ディスプレイとはいわない,だ が,それらは立体的なデザインであって,その根 底には「物の配置配合」という共通の行為がある から,この点を通してそれらはディスプレイと繋 がっているといえる.
しかし,既に完成した物体を配置配合するとい う行為は,その物体自体を制作するという行為に 比べるとき,創造的見地からは第2次的な性格の
ものであり,ディスプレイとしては消極的な活動
である.
高等学校指導要領の「芸術」の中の「美術」の 部門では,1,Hともごくかんたんだんに抽象的 な表現で述べられているにすざないが,「工芸 1」のところでは・(17)「視覚的効果を主とする もの」の項の中に,具体的に「展示・包装・広
告」というふうに書かれている・「展示」はその ままディスプレイの内容である.「包装」も最近 の顕著なる傾向として襖展示の機能を兼ね具えた パッケージ、(13)などを考慮に入れる時,ディス
プレイの領域に滲透してくる.
更に「工芸H」の「デザインと制作」(19)のと ころでは,(2)の宣伝・展示がディスプレイに関す るものである.((41では,「〔ア〕家具,室内計 画.〔イ〕テント,住宅その他の建造物.〔ウ〕
造園・都市計画」とか〜れているが・これらのう ち〔ア〕と〔ウ〕は配置配合の考え方を根底にも つ総合的な活動である・)
また,同書巻末に近い「美術の総合実習」(29)
のところでは・その内容としてr〔1)環境の美化.
(2)展示計画・展示.(3)各種の催物に必要なものの
、製作」とうたわれているが・これらにみるよう に,ディスプレイは次第に重視されて来ている・
海外のデザインの専間大学に於て,ディスプレ イ的なものがいかに扱われているかを見るとき・
一ディスプレイそのものをテーマとして追求する場 合と,ディスプレイ・デザインに共通する基礎的
.なものをとり出して学習する場合との二つに分け
・られる.
前者は,総合的な解決のデザイγの学習であっ
」て,例えばアメリカのインスティチュート・オブ
・・デザイγ(lustitute of Design)では,(21)創 作の基本となる、光、などについては第1学年の 基礎コースで教えているが・ディスプレイの実際 は3年以後の専門教育で教えられている.
〔註〕 例えば,同大学でヴィジュアル・デザイン専 攻の学生は,「展覧会」「展示計画」「視覚伝達と 運動」等の学習過程を経なければならないし, シェ タール・デザイン専攻の学生も、高学年になると,
「設営のための構造的と非構造的要素の究明」と か,「グループ作業による綜合計画と近代構造のデ ザイン」といったものが必修となっており、カリキ ュラムの中でも重要な位置を占めている。
又,ウルム造形大学(Ho3hschule f〔ir Gestal一
『tung Ulm)では,Toma8M飢don乱d担当の、形 態学構成および演習(Visuelle Ei且f〔ihrua9)、
で・ヤディスプレイの設計、という課題で厳格な
■条件の下に学習が進められている.(22)
〔註〕 一例をあげれば,条件として;1:2の比率 を有する平面をもって空間を構成し,展示空間の限 度を3とする.平面構成の材料は板材とし,取付げ 方法を特に考慮し,取付け,取はずしが容易で再び
利用しうる構造のものの制作・(3面図,着色見取 図,構造図.展示品ば工作実習作品とし,実物,写真 および説明文等を適当に考え,展示するものとする・)
一方,基礎教育の方では,例えばアメリカのア ート・センター・スクール(ArtCenterschoo1)
では,「立体構成における空間の認識」「空間構 成にモジュールを使用」「空間分割と材質感の構 成」というような単元り中に,立体デザインやデ ィスプレイの基礎的なものが扱われているのを見 ることがでぎる.(23)それらの中では・具体的な ディスプレイの用途を考えずに基礎的な学習がな されているのである.
例えば「空間分割と材質感の構成」の問題とし ては,、1本のワイヤーで端りない形・即ち円・
楕円,又は歪んだ楕円のようものの形と糸との構 成、という題で,糸の張り方によっていろいろな 三次元的造形の可能性をためすことがなされてい
る.
3.教員養成大学におけるディスプレイ 次に述べる A.基礎的な項目・・では,すべての ディスプレイに共通して必要な基本的な問題を・
B.応用例り項目 では,教育的見地からディ スプレイとその周辺に関する主だった応用例を挙 げて,それぞれかんたんな説明を試みることにし
た.
限られた時間り中で,それらのすべてを教える ことは難かしい.特に,教員養成大学はディスプ レイ・デザインの専問家を養成するところではな いから,Bのような題材としては1つか2っのも のをとりあげて学習させるのが適当であろう.
しかし,Aのようなディスプレイの全般に通じ た基礎的な問題は,更に立体デザインや造形芸術 全般にわたって広く利用されうる共通的な基礎実 習であるから,なるべく多くをとりあげて十分に 学習させておくことが要望される・
そして,大学の教科課程の上で,低学年』こはデ ザインの基礎,高学年1こはその応用というように 区分のはっきりしたカリキュラムをとっていると ころがあるとすれば・ディスプレイの基本的なも のは前者の中に入れ・その応用例は後者のコース に入れて教えることになるであろう.また・「立 体デザイン」として年間を通じたコース・オブ・
スタディのあるようなところでは・その少くとも 前半を基礎的な実習としてAのような問題をなる べく十分に扱い.その後半における応用例の問題
としては,Bの中から適当な一,二のものを選ぶ のがよいであろう.
ディスプレイ。デザインとしての通年つ教程を 組むことは,デザイン全体.D中で考えるとき少汝 重く扱われすぎるという非難を免れない.しか
し,「立体デザイン」という名称の下に,配置配合及 配置配合に関係する室内の計画や・環境℃美化と
しての都市計画をも含めて,より広い範囲の中に ディスプレイを入れ通年の授業として扱うことは 一案であると思う.
A.基礎的な項目 (a)視角と距離
展示された物が見やすく置かれるためには距離 と視角がまず問題となる.参考図2.(ffg.2)は,H−
erbert Bayerの考案したものであるが,見やすさ は,眼から物体1こ至る距離を半径とする球面上の 点が,互いに等価値をもつ.又,眼から物体へ下 した垂線と物体の面とがなす角度に関係する.こ の二つのことから,四角い部室もディスプレイに 使う時は,まるく・球面を扱うような感覚で処理
しなければならない.
(b)立体化の問題
平面的な特徴をもつものでも・一応は立体化し てみる考慮が必要である.例えば,文字は印刷さ れて用いる場合が多いから平面的なもののように 考えられているが・ディスプレイの場の中ではそ の厚味を考える必要がある.又 写真のように平 面的なものは・それをたわめて曲面として展示す
ることもできる.
(e)吊す問題
<fig2〉
ものを吊すことがでぎるのは・三次元の世界の 特権の一つである.最近,無数の穴のあいたボー ド板が展示コーナーや家庭の壁面に用いられるよ うになったことは・展示のために便利である.又 A.Calde1はいろいろなモビールの制作によって この方面の可能性をひろげてくれた.
(d)透明性の問題
眼の錯覚を利用することによって・平面の上で も透明な感じは,ある程度得ることができる.しか し三次元の世界では・透明物質を扱うことによっ てきわめて具体的に表現することができる.透明一 なものを追求する情熱は現代の最も目ざましい傾 向の一つである.(24)透明は光を招き,もののアウ トラインと共に内部を明かにする.H.Bayerは 透明な地球儀を作ってディスプレイの効果を高め た.透明は構造を一目瞭然と示すが・機能的な構 造は,それ自体が美しい造形である.グラステッ クス等の発明や技術の進歩によって未来のわれわ れの生活には,ますます 透明性 が取入れられ ていくことであろう.透明感はまた・線材を使っ てレースのように向う側がすけて見えるような効 果を出すとぎにも,得ることができる.
(e)通行路り問題
ディスプレイには・いつも通行の問題がつぎも のである.大勢り人が混雑することなく,順序正一 しく展示物を見うるようにするために・どのよう な通路を設けるかは重要な問題となる・道順を示 すために,立札に矢印や数字をかいたり,間仕切
りやテープをはったりする方法がよく用いられて いるが,H.Bayerはしばしば床ンこ.流動的な曲面 図形を描いている.これらはすべて・観者を誘導 するための視覚鼠達の方法である.
(f)観る人の位置を変える問題
人の通行は平面図の上だけでなく、立面図や断 面図からも計画しなければならない・低い処や高 い所にあるものは・台や橋の上を歩かせることに よって一層よく見えるようにすることができる。
見る人の位地を上下に変えることも考える必要が
ある.
(9)動かす問題
動的装置を用いて物を動ずこともまた・三次元 世界の特権である.立体派の画家たちは,ものを 描くのに人間の視角を移動させて描いた.ディス プレイでも人間が物の周りを歩いて見るのである が,もし人間が動かない場合は・物の方を廻転さ せないとその全体は見えないことになる.しかし
物体の運動は回転運動のほかにもいろいろとある から・この方面の研究は将来大いになされねぽな らない.さぎに挙げたモビールもその一例である が,扇風機のように風を使うもの,ミラーボール のように光を使うもの等・いろいろな方法があ
る.
(h)照明の問題
眼を疲れさせずに物をよく見せるためには・明 るすぎず・暗すぎぬように光の 量 を工夫しな ければならない.
光の 質 に関しては・人工光の場合は完全な る昼光色はほとんど得られないのが普通であるか ら・光源に照らし出された時の物の色の変化に注 意する必要がある.
又,光を投ずる際には陰影の問題が起る.R.
■Rembra面七は,下からの光を人間の顔に当てるこ とによって,戦標や驚愕の感情を一層効果的に描 き出すことに成功した.投光の角度によって変る 1陰影は・人間の心理に微妙な影響をもつものであ る.壁面や床に投じられた影の美しさを鑑賞する ことができるのもディスプレイならではのことで
ある.
光は叉・物を強調することができる.スポット ライトを用いる例は・舞台やウインドーでよく見 かける、光源は,なるべくむき出しにしない方が
よい.
色セロハンをガラスにはって後方から光を通す 実験をしたことのある者は,重なり合ったセロハ γから神秘的な透過色光が得られることを知って いる.違った性質の光や色光を組合せることによ って まだまだいろいろな効果を得ることがでぎ
る.
とにかく,光の問題は,たくさんあって尽きる ことがない.古い時代の図案家は・ただ顔料で画 くのみであったが,これからの新しいデザインで は色光や写真やレリーフや透明といった 光 に
.関する造形の方法をどんどんとり入れていく傾向 にある.
光の三原色は顔料のそれと異り,混色の法則も 正反対であるので・将来美術教育にたずさわるも のにとって,光についての多角的な実習は欠くこ とのできないものと云えよう.照明のための用具 はディスプレイの施設として,ぜひとも学内に備 一えて置ぎたいものである.
(i)可動システム
ディスプレイが・各地を巡回するような場合に
は,ディスプレイのための可動システムが必要と なる.その機能としては・軽くて・分解や折りた たみがぎき,いろいな用途に利用でぎ・輸送や組 立てに便利で・しかも丈夫で美しい一という構 造が要求される.このような組織(system)は・
機能り目的のために作られるものであるが,構造 それ自体が構成美をもつところから・ディスプレ イのための基礎練習としても学習する意義があ
る.
G.NelsOnは,その例として,一本の柱で支え る UniSrut・・構造から・日本の蛇の日傘にヒン トを得た大規模な Para−so1 構造に至るまで豊 富な例を挙げている.(25)
〔註〕ここでHerbert Bayerについて一言触れてお きたいと思う.H.Bayerは,GropiusやMoholy・Na・
gyと共にBauhaus(1919〜1932)の教授であったが,
exhibitionにおいてvisual communicationの新しい 方法をつぎつぎに発見し,ディスプレイの分野にお いて驚嘆すべき変化に富む技術と発展とをもたらし た.彼の作品の写真をみるとき,(26)ディスプレイ の基本的問題に関する深い思索の跡がわかるのであ る.上記の(a)〜(h)はBayerから示唆をうけた ものである.
lB.応用例の項目 (a)塔とアーチ
記念物としての塔やアーチは・人がその中に入 って住むことができない.又,使うためのデザイン でもない.従って.視覚的な効果を主としたvisua1 なデザインであり,展示の活動であるこれらの三 次元的造形物はディスプレイの領域に属する.
ビルダーカードや・他のいろいろな構造練習的 な実習は・これらの制作の基礎を作るものとして 絶好である.装飾を否定して機能を主んずるとい うところから近代デザインは出発したが,余分な 飾りをごてごてとつけ加えるということはやめ て,構造の美はそのまま生かすのがよいと思う.
(b)展覧会と文化祭
学校におけるさまざまの展示会は,最近の学校 においてどのような教育が行われいるかを社会の 人たちに知ってもらう絶好の機会である.展示会 は,その解説と共に作品や模型等の展示を通し て,教育内容を一般の人々に具体的に知ってもら う「知らせるためのデザイγ」である.とくに現 代のように目まぐるしい変動をつづける社会で は,教育の内容や美術り方法D変化は大きなもの
があるから・それらを教育や美術の専間的知識を もたない大衆に正しく知らせることは重要なこと
である.
展覧会を行うには,ポスターや案内状や,塔・
会場入口の設計,通路標識というようにいろいろ のデザインが必要なので・ 「知らせるためのデザ イン」の総合計画として扱ってみたら面白いであ
ろう.
展覧会は,文化祭の中の一つの行事として行な われることが多い.文化祭の中でも・他のショー
(show)一例えば 仮想行列 などでは,観る 方は静止していて,観せる方が動く.プラカード を持って進むメーデーの行進や・江戸時代の大名 行列なども襯せる側が動いている.これらは・み な,αNelso皿のいうディスプレイの一般白碇義
(広義リディスプレイ)の範蒔に入るものであ
る.
しかし,それらがふつうディスプレイと呼ばれ ないのは,展示する内容が,品物であるか人間で あるかの相違に基くものであろう・
〔註〕ディスプレイの中でも exhibition (展覧 会,博覧会)と呼ばれるものは,展示の中にstoryを もっていることが特徴である.(27)その他のディス プレイは,ウィンドーにしてもスタンド・ディスブ レィにしても,一見して理解することができるもの であるが,exhibitionは時間的な展開をもっており・
会場内を一巡してみないとその全体像はつかめな い.従って,前者は主として静止したディスプレイ であるのに反して,後者には動きと,内容の展開が ある. 動き というのは,展示物そのものは静止 していてもそれを見る人間の側が動いて見廻るので 相対的な観点からいえば両者の間には 動的関係 が 成立する.
(c)舞台装置と運動会
動く展示 は意外に多い.舞台装置や運動会 も広義り意味におけるディスプレイである.これ らのデザインは,exhibitiOuの場合と同じように それらのシ・一が時間的経過を追うものというこ とを考えることが基本となる.観衆は,丁度ウィ ンドーをのぞくように舞台を見る.しかし・そこ で見せられるものは,品物ではなくて人間Dアク ションであり・不トーリーの展開である・だから 演技の効果を高める為の照明も,動きと時間的経 過の観点から考案されねばならない.空を表わす 為には,ノ㍉クに描きこんだり,ホリゾントH(〉一 rizont(円筒形球形の壁)を用いたりする・機能 を主んずるという観点から,舞台装置を作るに当
っては舞台の構造,設備を明かにして,その部分 の目的に従ってデザインしなければならない.現 代の舞台装置の傾向を大別すると,写実形式・単 純化形式,様式化形式の三つが挙げられるが・絵一 画的な平面性・描写性を超えて新しいリアリズに 向う傾向にある.(28)
運動会も演劇に似ている.観衆は・観覧席に座 って場内で行われる催しもの(shOw)を見てい る.この場合も,観る側は動かないで・観せる側 が動いている.exhibitiOnの場合と同じように通.
行路は合理的に設定されなければならない・
運動会そのものを指してディスプレイという人 はいないが,そのための設営はディスプレイに関一 係がある.アーチをつくったり,旗で飾ったりず る点では,博覧会と等しい.しかし,競技場の中 央にポールを立てて,その頂点から張った糸に万 国旗を飾るような古い習慣は止めにしたいもので ある.H.Bayerが行なったような、まったく予 期しないような発想によって,この催しがいつま でも記憶に残るように・魅力をもった強い視覚的 演出の構成でありたいものである。
(d)祭礼に関するもの
運動会について述べたついでに,ディスプレイ の周辺として・日本個有の祭礼の装飾美術に一言F 触れておく.
お祭の出しもの(みこし,だし,仮装行列等)
は,動くディスプレイである.宮城県塩釜の四季 の大祭では, だし を鳳凰り形をした船にのせ て松島湾内に乗り入れるという.αNelsOn式の 広義り意味からすれば・これも立派なディスプレ イである.一方,正月の門松や七夕の装飾は・狭 義り意味におけるディスプレイの為のデザイγと いえるが,これらのデザインが衰退の運命にある ことは社会の変遷と,近代デザインの性格から考 えるとき,当然のことがらであろう.
(e)校内や室内の展示
教室の外の廊下に児童画を展示したり・講堂や 校長室に花や額や校旗を飾ることは,みなディス プレイである.優勝した旗やカップや楯などを・
まとめて玄関脇のガラスのケースや来賓室などに 展示しているのを見かけることがあるが,前者ば ウィンドー・ディスプレイであり,後者はショー
・ルームの展示に対応する.生活共同組合や校内 購売部の売店の展示計画は・店舗設計のデザイン に学ぶところが多い.(29)
われわれの家庭内でも・床の間,茶の間・応接
間等にある飾り棚島民芸品や装飾品などを陳列 するのはディスプレイの行為であるが,常とう的.
な方法をさけ,空間構成には造形的な新感覚を表 現したいものである.
(f)パッケージとカレンダー
パッケージについては既に述べた如く,ディス プレイの機能をもつものが次第に増える傾向にあ る.display contaiaerやdisplay carto且はその一 例である.食料品や雑貨品のような品物は・沢山 積み上げてディスプレイされることを予想してデ
ザインされねばならない.
カレンダーは9rapUc desigロであるが,室内の 配置配合や展示の計画に参加するときは,それら を含めた全体の計画はディスプレイの活動となる から・室内での展示ということを重要な条件とし て制作に当らねばならない.卓上カレンダーは立 体的なものであり,卓上のディスプレイに参与す るデザインである.その考え方は,宣伝デザイン でいうdisplay s訟nd(30)やshow sta皿dと似てお り,poiatりf−8ale displayの制作に当っての諸注 意がそのまま良き参考となる.(31)
参 考 文献
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{4)電通広告年鑑,1957,1958,1959,1960,
各年度版、
(5)Nelson,George,Display,1956,P.7.
(6)デザイン大系6, 店舗・ディスプレイ (ダ ヴィッド社),1955,p.12.
(7)Nelson,G.Display,P.7.
{8)Nelsou,G.同上書,P・8.
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⑳ 高橋正人, デザイン教育で何を育てるか , 教育美術瓶3,1960,P。6〜8.
働 文部省,小学校学習指導要領図画工作科編,
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⑬ 文部省,中学校美術指導書,1959,P・101〜102.
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091文部省,高等学校学習指導要領,1960,P.133 〜137.
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㈲ 服部茂夫,工芸ニュース,VoL25,石10,
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⑫◎ Moholy・Nagy,L. transparency and light , Vision in Motion,1946,p.252.
Nelson,G.前掲書,P.11〜43.
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デザイン小辞典,前掲書,P179〜178.
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朝倉直巳,大学二部会美術部門における口頭 発表,1960,10月.
⑨ Sutnar,L.前掲書.
W.Stewart Reach and Paul R.㎞g,
P.S.Advertising ,Visual Commuロicat・
ion and Art Directing for Sale.
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