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2003年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文

老舗企業と虎屋・和菓子の今後

A9942110 岩田 寛士

平成16年1月15日 提出

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1-1「はじめに」

就職活動を終えてのんびりしていた私はたまたま読んでいた新聞の次の 見出しに目がとまった。「老舗の看板不況に勝てずー倒産企業の26%設立後3 0年以上、1-5月、民間調べ。」(日本経済新聞:2003年6月18日)そ して記事本文には「業種別では製造業で「老舗」の占める割合が三四、七%と最 も高かった。」とある。私が就職を決めた会社も100年以上の長い業歴を持ち、

しかも製造業であったのでその頃からなんとなくこの情報が気になっていた。そ こで卒業論文を書くにあたり「老舗」をテーマにしてみることとした。

1-2「企業倒産件数」

まず日経四紙の新聞記事検索ソフト、日経テレコン21を使い「老舗」

をキーワードに検索してみたところヒットした記事の多くは上記新聞記事のよう な「老舗企業の倒産」を知らせる民間信用調査機関の帝国データバンクや東京商 工リサーチなどの調査結果を取り上げたものだったのである。そこで帝国データ バンクの全国企業倒産集計を調べると2002年の倒産件数は1万9458件、

84年の2万841件に次ぐ戦後二番目の高水準に達していることがわかった。

下の図表1の年別推移を見ても90年以降倒産件数が増加してきていることがわ かる。つまり日本での企業倒産数自体が増加しているのである。

図表1 帝国データバンク 全国企業倒産集計2002年報

1-3「老舗倒産の動向」

次に同じく帝国データバンクによる「老舗倒産の動向調査」のまとめを みてみると2003年(5月まで)の老舗倒産の構成比は実に26.3%に達し ていたことがわかった。ここで「老舗」の定義について触れると、旺文社の国語 辞典によれば「老舗とは先祖代々の業を守り続けている有名な店」となっている。

そして帝国データバンクによると「業歴30年以上の企業」を老舗と扱いその調

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査の対象にしている。業歴30年というのは老舗と呼ぶにはいささか早い気がす るが、この定義の元での帝国データバンクの分析は以下のようである。

「2003年は5月までに老舗倒産が1996件発生し、全体の倒産件数に占め る構成比は26.3%に達している。過去最悪を記録した2002年(構成比2 6.9%)に続く26%台で、依然として老舗倒産は高水準で推移している。~

中略~産業構造の変化に対応できない老舗企業が次々と淘汰されている状況があ る。」

図表2:老舗企業の倒産推移 帝国データバンク老舗倒産の動向調査 2003 年

上の図表2をみてもわかるように倒産件数に占める老舗倒産の構成比は87年か ら右肩上がりに上昇している。先に、企業倒産件数自体も増加傾向にあるという ことが分かったわけだがこの老舗倒産の動向調査と合わせて考えると単純に計算 しても4社に1社は老舗倒産ということになりやはり業歴30年以上の老舗企業 の倒産が増加していることは否定できないようである。

1-4「老舗倒産の原因」

ではこうした老舗企業が倒産してしまう原因は何であろうか?

「系列取引先と安定した関係を誇ってきた老舗メーカーが急激な経済環境の変化 に対応できなくなっている」(日本経済新聞:2002年1月15日)、「過去 の業績に依存し、時代の変化に対応できない。」(日本経済新聞:2003年1月 25日)、「業歴の長い企業ほど環境変化の荒波に乗り切れず、組織や人間関係 の硬直化を招き淘汰を余儀なくされている。」(日本経済新聞:2001年2月 7日)などの記事が目立った。老舗倒産と言っても業種や業歴別によってその原

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因や傾向は違うはずだが、確かに長年培ってきた経験や過去の成功体験にしばら れて時代の波にスムーズに乗れないというのは容易に想像がつくところである。

1-5「生き残る老舗の対策」

ここまでの老舗倒産の状況がわかってきたわけだが次に「では倒産とい う状況にならず現在も生き残っている企業は何をしているのだろうか?」という 疑問が湧いてきた。そこでビジネス誌で特集されている記事や、老舗企業の健闘 を知らせる新聞記事などと関連づけて考えてみようと思う。まず2003年夏か ら秋にかけてビジネス誌で何度も特集をくまれて紹介されているケースがあるこ とに気付いた。それは業種転換をとりあげたものである。簡単に説明すると大手 メーカーの元で苦しむ下請け企業や時代のニーズに合わなくなった事業から撤退 した企業が業種転換をして新たな生き残り策を見つけ成功したというケースであ る。具体的にはセイコーエプソンのプリンター組み立てを売上のほぼ100%依 存していた1937年創業の樽川工業が、納期の要望に対応しながら改良を繰り 返してきた独自の組み立てラインを商品として売るという転換(日経ビジネス 2003年7月14日号)や、塩化ビニール樹脂中心の科学メーカーであった日 本ゼオン(1950年設立)がバブル崩壊後の業績不振でカメラ付き携帯電話向 けのレンズでシェア100%達成に成功した(エコノミスト 2003年10月 21日号)例などがあげられる。また、2002年12月22日掲載の日経流通 新聞の記事「100年続く老舗は常に改革姿勢、専門店協まとめ。」によると

「天災や戦災、需要の大きな変化などマイナス要因に対し、新規顧客の開拓や生 産地の開発、苦しい中での新商品開発といったケースが目立った。」とある。

以上のことをまとめてみると老舗による倒産が増加している事実に対し て、時代の変化が著しいと言われる現代社会において老舗というブランド力だけ では企業存続は厳しく老舗と言えども何らかの改革、あるいは時代の流れを意識 しその変化に対応していかなければならない状況になっていると言えるのではな いだろうか。

第二章

第一章では主に老舗企業の現状、つまり倒産増加の現象をみてきたわけ であるがここからは時代の荒波に飲み込まれず懸命に存続しつづけている企業に 視点を移してみていきたいと思う。業歴が長ければ長い程、どんなタイプの企業 であっても幾度となく様々な困難に直面することは想像ができる。1980年代 には「企業の寿命は30年」という議論が行われたことは有名であるが近年その 寿命はドッグイヤーとして20年、10年という説も飛び出してきている。平場 健二の「寿命考現学」という著書に「命あるもの、形あるもの、そして思想や文 化等、思いつくもの全てにおわりがある。それが寿命というものである。」とい う一節があり彼の主張では人や動物などの生物に限らず企業や国家など社会の仕 組みですら寿命がありいつかはその生命が終わるとしている。こうした議論が本 当に正しいかどうかを証明することは非常に難しいが、少なくとも企業という組 織にとって長くその生命を維持させていくことは昨今の時代の移り変わりを考え ても大変知恵がいることのように思える。だとすれば長い業歴を持つ老舗企業が 生き続け社会に一定の価値を提供しつづけていることは非常に興味深く掘り下げ て見ていくことに意義があると思うのである。

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㈱東京商工リサーチでは創業100年を越す老舗企業の調査を行ってお り同社発行の「世紀を超えた企業たち100」によれば、そうした100年企業 は2002年11月時点で15、207社存在しているという。

産業別の構成比は製造業、卸売業と小売業・飲食店の割合が大きく、建設業とサ ービス業が小さくなっている。これは記述によれば「100年前まではモノをつ くり、売るビジネスがほとんどで、サービス業も、建設業もウエートは小さかっ た。」という理由の様だ。また製造業で最も多いのは酒類で433社で、菓子1 78社、調味料152社と続いている。創業年代別分布状況は下の図表3のよう になっている。

図表3:創業年代別分布 ㈱東京商工リサーチ「世紀を超えた100年企業たち」

この図を見ると江戸時代後期と明治時代に入ってからが最も多い構成になってい ることがわかる。創業年数の最も古い会社は大阪にある建設会社、金剛組という ことが2003年9月14日掲載の日本経済新聞の記事で分かった。同新聞によ れば「創業当時の文献が残っていないため、ギネスブックには採用されていない が、世界最古の可能性もある。」ようだ。この金剛組のホームページで確認する と創業は578年とされ実に1400年の社歴がある。

さて先ほど見たように産業別では製造業が最も多く、中でも酒・菓子の製造が老 舗企業の傾向が強いようであるが、老舗企業研究会のホームページに記載されて いる老舗企業の設立年表によるとこの年表に登場した上場老舗企業536社のう ち創業トップ15に挙げられている企業でも多い分野は和菓子ということになる のである。

図表4:老舗企業の設立年表上位20社

(出所:老舗企業研究会ホームページより抜粋)

時代 創業 年号 企業名 分野 銘柄

古代 538 仏教の伝来

589 金剛組 建築

古代 593 聖徳太子と曽我氏の施政はじまる

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古代 710 平城京へ遷都

718 養老 2 法師(善吾桜) 旅館

793 奈良時代 虎屋黒川 和菓子 虎屋饅頭

古代 794 平安京へ遷都

889 仁和年間 ㈱田中伊雅仏具店 仏具

971 天禄 2 平井常栄堂 医薬品

1000 長保 2 一和 和菓子 あぶり餅

1141 永治1 須藤本家㈱ 酒造 郷の譽

1181 治承 5 五郎兵衛飴総本舗 和菓子 五郎兵衛飴

1190 建久 1 ㈱御所坊 旅館

中世 1192 頼朝 征夷大将軍となる

1329 元徳元年 かん袋 和菓子 久留美餅

1333 鎌倉末期 黒田千年堂 和菓子

1337 延元 2 まるや八丁味噌 味噌

1341 暦応 4 塩瀬総本家 和菓子 志ほせ饅頭

1467 応仁 1 菱五中林竹材店 木材

中世 1467 応仁の乱始まる

1487長享 1 飛良泉本舗 酒造 飛良泉

図で赤く示したように和菓子の分野は15社中6社となり、全体としては酒造の 方が多いようであるがその設立はもっと時代が上がってから急激に増加している ことがわかった。

第三章

以上みてきたように大雑把ではあるが老舗企業の中で最も業暦の古い業 界は和菓子の企業といえると思う。そこでここからはこの和菓子業界を掘り下げ てみていくことにする。中でも代表的な和菓子の会社として株式会社虎屋の例を 後にあげ、長い業暦の中でどのような歴史を経て今日に至っているのか、そして 今後の方向性などについて述べていくことにする。まずは和菓子とはどのような ものか、また和菓子の成り立ちや和菓子業界の現状について触れる。

3-1 和菓子とは

和菓子とは旺文社の国語辞典によれば「純日本風の菓子。」とある。全 国菓子工業組合連合会のホームページによれば、「和菓子とは、明治以前、有史 以来の我が国独自のお菓子、奈良・平安時代に中国の唐から渡来してきたお菓子、

安土・桃山時代に南蛮等より渡来して定着、育てられた菓子類を総称して言いま す。」とある。和菓子の分類は大きくはその水分含量と保存性の基準によりなさ れており、「一般には水分を30%以上含むものは生菓子、水分が10~30%

のものは半生菓子、水分が10%以下のものが干菓子とされます。」とある。簡 単にまとめたものが以下の図表5のようになる。

図表5:和菓子の分類 全国菓子工業組合連合会 ホームページより

大分類 中分類 小分類

生菓子 もちもの、蒸し物、焼きもの、流し もの、練りもの、揚げもの

和菓子

半生菓子 あんもの、おかもの、焼きもの、流

しもの、練りもの、砂糖漬けもの

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干菓子

打ちもの、押しもの、掛けもの、焼 きもの、あめもの、揚げもの、豆菓 子、米菓

驚いたことは、和菓子と言うとまさに日本の伝統的な食文化の象徴という印象が 強いが実際には外国から輸入されたものや手法を真似して発展してきたもの多い ということである。次に和菓子の歴史をみていくがこの事実がより鮮明になる。

3-2 和菓子の歴史

以下の図表6で和菓子の歴史を紹介する。

図表6 和菓子の歴史と特徴 全国菓子工業組合連合会ホームページより

年代 菓子の時代 特徴(詳細は各時代をクリックしてね)

紀元前 大和時

上古時代

大陸文化の輸入前で、果物も含めて日本固 有の菓子が作られ始めた時代です。菓子の 始まりとして田道間守(たじまもり)が、橘を常 世国(とこよのくに)から持ち返ったなどの話が 伝わっています。

奈良時 代 平安時

唐菓子時代

遣隋使、遣唐使により唐からお菓子とその 製法が伝わってきました。これまでの簡単な 穀物の加工品に比べ、味・形・製法がすぐれ、

唐菓子に工夫を加えた独自の菓子が創り出さ れていきます。また、この時代の末期に砂糖 が輸入されました。

鎌倉時 代 南北朝

時代

点心時代

砂糖の輸入が増加し、国内でも生産される ようになりました。一方、茶の栽培が盛んとな り、茶菓子(点心、茶子)が求められるようにな り、砂糖とまみえて現在の和菓子の源流が生 まれました。

室町時 代 安土桃

山 時代

ザビエルの日本上陸以来、ポルトガル人や スペイン人により砂糖や卵を用いたカスティ ラ、カラメル等のお菓子が持ち込まれ、我が国 のお菓子に大変革をもたらしました。これらの 南蛮菓子は長崎を中心にして全国に伝わりま した。

江戸時 代

京菓子・江戸 菓子 時代

茶道と共に発達した点心は、上流階級の菓 子「京菓子」として独特の発展をしました。

一方、政治・経済・文化の中心が江戸に移る

につれ、生活に密着した色々な菓子が作られ

ました。現在の和菓子の殆どがこの時代に作

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られたといえます。

明治時 代 大正時

洋菓子輸入時 代

明治維新を経過して、ドロップ、キャンデー、

チョコレート、ビスケット等が輸入され、菓子界 に革命がもたらされました。森永を始め、多く の製菓会社が創立されました。

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第2次大戦後、昭和 27 年に砂糖の統制が 撤廃になって、菓子業界はいっせいに活発な 動きをみせるようになりました。昭和30年代 に入って、洋菓子、和菓子、米菓等順調な伸 びをみせ、機械化による本格的な大量生産時 代にはいりました。

昭和時 代

国際化時代

昭和46年チューインガム、キャンデー、チョコ レート、ビスケット等すべての菓子が自由化さ れ、完全な国際化時代を迎えるにいたってい ます。

現代 健康志向時代

昭和 50 年代には入り、豊になった食生活、

生活の 24 時間化の中で人々の健康志向が 高まり、それに応じたお菓子が増えるなどお 菓子の種類や消費態様が多様化しています。

図表6をみてわかるように、代表的な変化として奈良・平安時代に遣隋使や遣唐 使によって唐菓子がもたらされている。鎌倉・南北朝時代には茶を飲む習慣が普 及し、茶にあった菓子の工夫が練られていく。そして室町・安土桃山時代になる と南蛮文化の影響でカステラ、金平糖やぼうろなどが伝わり小麦粉や卵を使用し た菓子つくりも行われるようになったという。 一方菓子のルーツは果物だとい う説もあり、古代木の実や果物を間食として食べておりそれが菓子の出現だとさ れている。このように日本の伝統的な菓子といえば和菓子というイメージがある がその日本の菓子とは外国の影響を受けつつ発展している。明治を過ぎると洋菓 子として外国からさらにいろいろな菓子が輸入されるようになり和菓子はこれら にもまれながら今日に至っていることがうかがい知れる。

3-3和菓子の現在

現在代表的な和菓子と言うと何があげられるか?饅頭、羊羹やおはぎ、

団子などがあげられると思う。いちご大福や仙台名物の「萩の月」など今では立 派な和菓子として定着しているがこれらも時代の変化とともに生まれてきた和菓 子と言える。例えば「萩の月」の製造元、三全の社長はシュークリームの和菓子 タイプを作ろうとしてあの「萩の月」を開発したのである。また最近では新たな 傾向も出てきているようである。例えば、豆腐の老舗藤野が販売する豆乳ぷりん やきなこおはぎなど豆腐という素材を和菓子に加えたものや、2003年六本木 ヒルズにオープンしたTORAYA CAFÉではあずきとカカオを混ぜ合わせて作

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ったパウンドケーキなど和・洋折衷的な菓子もどんどんと市場にでてきている。

もはや「和菓子」といった厳密な定義はできなくなっているような状況である。

こうした新商品が今後和菓子の新たな歴史として定着していくかは定かではない が、少なくとも和菓子という概念じたいが長い歴史をかけてそして現在も進行し ながら成長をしていると言えると思う。

第四章

第三章では和菓子についてみてきた。この第四章では和菓子製造の老舗、

株式会社虎屋をとりあげ、どのような業暦にもとづいてビジネスを行ってきたの か企業戦略や老舗としての強みなどを考えてみたいと思う。

4-1 会社概要

社名 株式会社 虎屋 創業 室町時代後期 資本金 2400万円

代表者 代表取締役社長 黒川 光博(17代当主)

従業員数 813名(2003年5月1日現在)

売上高 158億3千9百万円(2002年度実績)

事業内容 和菓子製造販売 売上高・従業員数推移

( 出所:株式会社 虎屋 会社案内 「会社概要・業績の推移」より)

虎屋は本体である高級和菓子専門店「とらや」を軸に、1980年にはフラン スに進出し「TORAYA FRANCE」、日本料理店の「日比谷きんせん」と20 03年六本木ヒルズにオープンさせた「TORAYA CAFE」の経営を行っている。

現在の形態として虎屋が創業したのは室町時代後期ということであるが、口伝 によると虎屋は奈良時代にすでに御所の御用をつとめていたと言われている。

4-2:虎屋の歴史と改革

虎屋は自らを高級和菓子専門店と定義しているが、上に述べたように昔は 朝廷の御用という役割が多くそれによる経営の安定と言ったメリットは十二分に 得ていたと考えられる。しかし業歴450年をほこるこの老舗が仮に御用という メリットを持っていたとしてもこれまでの長い歴史の中では数々の困難にもぶつ かっている。1868年の明治維新による東京遷都は京都御所御用の虎屋にとっ

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て大きな変化だったといえる。菓子は地域の風土に影響を受けながら徐々に蓄積 されていくものであるから虎屋にとって東京への移転は苦渋の決断だったのであ る。結局虎屋は東京移転を果たしたが、そこでも皇室御用達の強みを活かして政 界や軍部に地歩を築くことができた。戦後は消費需要増大の中で高級和菓子が大 衆にも浸透してきた。これは虎屋にとって良い兆しと思えるがデパートへの出店 を機に主力製品を生菓子から日持ちする羊羹や最中へと転化せざるをえなくなっ た。現在の虎屋の製品構成比は羊羹や最中類が85%を占めており結果としてこ うした変革も虎屋にとってはよかったということになる。また虎屋1953年に 新丸ビルに出店したが、この時の理由として皇室関連の御用だけでは大衆化しは じめた和菓子の市場に対応できないと考えサラリーマンの多い丸の内を選び新た な顧客開拓に取り組んだという。

虎屋は業界に先駆けて取り組んだものも多い。例えば当時主流であった電 話注文だけでなく和菓子業界としては初めて新聞広告やチラシを利用したり、ト ラックによる配達も導入した。これにより正確な時間に配達可能になりより顧客 の信用をあげるきっかけにもなったという。最近ではTORAYA CAFÉを出店 し和・洋折衷的な菓子を開発しながら新たな和菓子を模索しながら市場に挑戦し ている。このようにみると老舗といえどもそのブランド力だけに頼らず、また時 代の流れが変わればそれにあった戦略で望んでいくという改革も十分行いながら 今日に至っていることがわかる。

また味に関しても変化に柔軟である。和菓子の製法や原材料の配合表が公 式の形で残されたのは1980年代のコンピュータ導入以降だという。特に生菓 子のレシピは職人一人一人が技術を盗んで覚えていくうちにその人なりの工夫が なされその時代にあった味を創りだしてきているそうだ。つまり「虎屋と言えば この味!」という決まったものはなく変化に対応していける一定の幅をもった味 ということになる。

第3章と4章の内容をまとめると、和菓子自体の特徴として長い歴史があるにも 関わらず時代の変化や海外の影響を常に受けながらもそうした変化を独自の文化 に吸い込み成長していける傾向があると言えること。そして虎屋のような超長寿 の老舗が多い和菓子業界はそうした和菓子自体の特徴を活かして時代のニーズに あった和菓子の開発が比較的スムーズに行えるのではないかと思う。しかしこう した超長寿の老舗企業と言えども実に様々な改革に常に取り組んでいることがわ かった。老舗というと固い・古いイメージで変化に疎く、だから時代の荒波にも まれて倒産にいたるケースが多いのだと考えていたが第1章で触れたように業種 転換はせずとも変革に変革を重ね今日にいたっていることで老舗としてのブラン ド力を維持することができ、また次の変化に対しても柔軟に対応していける下地 ができあがっていると言える点で実は最も現代社会に強い企業の特徴なのではな かろうか。

第5章

ここでは老舗虎屋にさらに焦点を当て、独自に行ったインタビューやイノ ベーションのジレンマという概念とをふまえて今後の虎屋の方向性を提案し卒論 のまとめとしたい。

5-1 簡易インタビュー

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虎屋広報部に問い合わせをして簡単なインタビューに答えてもらうことが できた。

①顧客層

個人客:法人(各種お茶会など行事に伴う受注含む)は6:4が理想であった が近年その割合は7:3から8:2へと変化しつつあり直営店や百貨店での個 人客への依存が高まっているという。

②購買層

40代後半から60代で約7割を占めており、高齢層に非常に偏っているとい える。以下コメント引用「40 代後半からの財力のある顧客層であり、食への こだわり・茶道や日本文化に興味のある方です。一般的に若者は洋菓子派、中 高年は和菓子派が多いと言われています。世代の後継者或いは潜在顧客として 、和菓子をアピールすることを心がけています。媒体などにも積極的な展開を 行ない、若者文化への認知度アップを図っています。」

③200年度導入のオンラインショッピングによる売上の変化

’01→’02 と’02→’03 2 年連続 160%台の進捗。お客様相談センター総 売上の構成比が 8%→15%(客数 14%→26%)とオンラインショップは急成長 している。客層もとらや本体は 40 代後半が主体なのに対して、30 代(41%)

が中心顧客であり、ヤング層の受注も多い。(いわゆるパソコン世代の活用)

将来的な潜在顧客の窓口的な役割を担っている。(回答引用)

④TORAYA FRANCE と TORAYA CEFE に対するコンセプト

パリに出店しました。日本文化の具象化された和菓子の素晴らしさを伝えたい との思いから出店です。(日本の良き伝統文化を海外にも伝えたいとの思い)

また逆に新たな素材・技術・文化を吸収し、そこで培ったノウハウが TORAYA CAFÉ に活かされています。TORAYA CAFÉ では「とらやがつくる、もうひとつの お菓子」を基本コンセプトに、海外店の経験を生かした、和(あん・葛・きな 粉)と洋(チョコレート・ココア)の垣根を取り払ったあたらしいお菓子を提供してい る。ターゲット顧客は特に設定していないが、六本木ヒルズと言う場所がら 20~30 代のヤングと中高年が万遍なくご来店頂いている。今後については、TORAYA CAFE2 号店 3 号店をすぐに展開することはない。もうしばらく様子を見ること としている。逆に平行してもっと気軽に和菓子を楽しんでもらえるような業態 も検討中。(回答引用)

⑤和・洋折衷的なお菓子など新セグメントにたいしての考え。

確かに和洋折衷であったり新しい素材とのコラボレーションなどは注目が集ま っています。お菓子の新しい形としておいしいもので時代のニーズがあれば、

当然定着し歴史ともなることと思います。弊社としては、「とらや」は今まで の和菓子(植物性の原材料)にこだわり、一方 TORAYA CAFÉ は和菓子の「あん 」を基本に洋の素材(チョコレート・ココア)を取り入れ、とらやがつくる新しいお菓 子の展開をすることで、お客様に喜んでいただけることに繋げたいと考えてい ます。(回答引用)

⑥老舗として心がけていること

老舗として企業を永続させるために「安全」「安心」「信頼」が大切。商品の 品質(素材から完成品に至るまで)の安全性、贈答品として安心してお使い頂 ける、虎屋さんなら間違いないと思っていただける信頼感。その一つ一つを高 める為に品質の向上、接客・サービスの向上をお客様の視点で考え、実行して います。また「伝統は革新の連続である」と考えています。老舗といわれると ころはとかく古いもの=良いもの、変えてはいけないものと考えがちですが、

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時代を見据えて、その時代に求められる姿への変革なくして、存続は有り得な い。守るべきところは守り,変えるべきところは変える。(回答引用)

⑦固定客・得意客と新規顧客開拓とのバランス

守るべきところは守り,変えるべきところは変える。その基準は常に今を生き るお客様の視点となる。弊社ではお客様のロイヤル化推進に取り組んでいます 。既存のお客様のロイヤリティーを高める(購買頻度・購買単価の底上げ)こ とに注力しています。だからといって、新規市場である若年層に何もしないわ けではありません。媒体を通して虎屋の認知度を高めたり、TORAYA CAFÉ を通 して、若年層にアピールするなど潜在顧客への働きかけも怠りません。結果的 には TORAYA CAFÉ も新規顧客開拓に寄与しています

(回答引用)

このインタビューでわかったことは虎屋の顧客は圧倒的に40代後半からの財力 のある高齢者層であり、高級和菓子専門店としては理にかなったターゲット層と 言える。回答にもあったように和菓子は中高年で洋菓子は若者が多いという傾向 があるのかもしれないが、それにしても極端に偏っていると言えよう。オンライ ンショッピングをスタートさせ若干30代まで幅は広がっているようにうかがえ る。また TORAYA CAFÉ は六本木ヒルズという場所がら20-30代の若者も利用 しているようだが、特にターゲット層は設定してはおらず結果的に若年層へのア ピール材料となっていること。そして老舗として基本的には変えるべき所は変え、

守るべきところは守っていくという姿勢だが固定客のロイヤルティーをあげるこ とを主に考えていて若年層へのアピールは今後 TORAYA CAFÉ 二号店出店の計画 がないことをふまえてもやや弱いと言えると思う。老舗企業はブランド力が優位 性をもたらしてくれるが、一方でお得意客の次の世代さらに次の世代へと顧客を 獲得していかなければ客が途絶えその存続は危機的状況に陥ってしまうのである。

このことはイノベーションのジレンマという概念と関連づけられる。

5-2 イノベーションのジレンマ

クレイトン・クリステンセンの著書「イノベーションのジレンマ」は優良 企業の多くがその優良な経営ゆえに失敗に陥ってしまうという教訓を様々な事例 を通して述べている。ここのイノベーションとは持続的技術と破壊的技術にわけ ることができ持続的技術は既存製品の性能を高め、メイン顧客に評価される。一 方、破壊的技術は従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらしたいていは 新しい顧客に評価される特徴があると言う。一般的にある市場で成功している企 業はその利益性から考えてメイン顧客を相手に持続的技術のイノベーションに力 が入り、いずれはそのメイン市場を奪ってしまう破壊的イノベーションには注視 しなくなる。その見落としによって業界上位の座を新規参入企業にいとも簡単に 奪われてしまうというのである。

5-3 虎屋のケースと今後の提案

虎屋の場合、450年という長い業歴にも関わらず現在も有名な高級和菓 子専門店として君臨している。しかし先ほど4章でみたようにその顧客層は極端 に偏っている。主要顧客である40代後半からの高年齢層が若者だった時、今よ りも洋菓子の人気はなく和菓子が主流だったのではないか。近年和菓子の人気が 落ちてきていることや、洋菓子やカフェ人気により若者世代ますます和菓子離れ をおこしているのではないか。さらに同じ和菓子でも洋菓子と折衷したような新 セグメントも出てきている。若い時には洋菓子を食べていても年をとるにつれて

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和菓子に嗜好が移っていくとも考えられるが少なくとも虎屋の認知がなければそ れすら期待できないかもしれない。ここでは和・洋折衷的な新セグメントの商品 が破壊的技術と言える根拠はないが、仮にもこの新セグメントが今後ますます発 達していくとしたら虎屋は売上の85%を占める伝統的な羊羹や最中に頼ってい たのではそうした新たな流れに対応できなくなって老舗としての優位性が発揮で きなくなるのではなかろうかと思う。

そこで今後は固定客と新規顧客のバランスを考え、もう少し潜在顧客の 獲得に力を入れてみてはどうかと考える。オンラインショップで若干客層にも幅 が出ているようであるので今後携帯電話のインターネットなどをつかってもっと 積極的に虎屋を若者世代にアピールしていく。そして TORAYA CAFÉ の出店を増 やすことを考え東京だけでなく日本の各都市に出し若者世代にアピールをしてい く。もちろん主力製品は羊羹や最中で結構であるし、メイン顧客も変える必要は ないと思う。しかし、若者が日常生活の中で TORAYA という看板を目にしその存 在をしっかり認知していること、そして若いうちは洋菓子や TORAYA CAFÉ での 新しいセグメントの商品を食べていたとしてもそこから虎屋本来の味である羊羹 や最中などへ興味をもって相乗効果も期待できると考える。

最後に、老舗企業を調べはじめて最も業歴の長い企業が多い和菓子業界 に興味をもった。そして虎屋に的を絞ってみてきたわけだが、450年の歴史を 誇る虎屋と言えども過去に幾度となく荒波を乗り越えてきた。しかもそれは受身 というよりは積極的な姿勢であった。時代の変化に対してこうした積極的な働き かけが現在勝ち抜いて生き残っている老舗企業の一つのキーワードかもしれない。

しかしこうした和菓子の業界においてもまた新たな変化が起こり始めているよう である。それが新たな和菓子のセグメントである。このセグメントが今後の和菓 子の歴史の一つに組み入れられるか否かは誰にも分からないことであるが、イノ ベーションのジレンマに陥らないようにこうした動きにも改めて対応していかな ければいけないのではないかと思う。それが老舗として固定客を掴みながら新規 開拓していく難しさであり醍醐味でもあるのかもしれない。

参考資料(本文掲載以外のもの)

船橋 晴雄 日経 BP 社 「新日本永代蔵」

神田 良 岩崎 尚人 日本能率協会マネジメントセンター 「老舗の教え」

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Referensi

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たとえば,2個のさいころの目の数の和が2にな る場合と3になる場合では,起こりやすさが異なる。 じゅんさんの考えでは,それらの起こりやすさが同 じ,つまり,同様に確からしいとみなしているとこ ろに誤りがある。 なお,2個のさいころの目の数の和が偶数になる 確率は,次のように求めることができる。 2個のさいころをそれぞれ A,B と区別し,起こ

みんなで考えて調べる小学理科ワークシート4年 2 天気による気温の変化 観そく1 4年 組 名前( ) 【見つけよう】 教科書 ~ ページにある午前8時ごろと午前 時半ごろの様子をくらべると, どのようなちがいがありますか。 午前 時半ごろの気温は,午前8時ごろの気温よりも なっている。 【観そく1】 晴れの日の気温の変化を調べよう。 【結果を書こう】

時 数 頁 小単元 目標 学習活動 1 104~ 105 ふゆと ともだちに なろう (とびら) 冬の野原や公園の様子がどのように変 わったのか関心をもち,遊びに行きたい という思いをもつことができる。また, 冬にできる遊びについて期待をもてるよ うにする。 ○身近な地域の様子や自分たちの生活の 中で,季節の変化を感じることを発表す る。

4 2.待機児童問題の現状 近年待機児童問題が叫ばれているが、企業設置の保育所割合は少ないという。そこで、待 機児童問題が企業のビジネスチャンスにならないか考察したい。 具体的には、まず待機児童問題の特徴を掴むことにより、保育ビジネス参入の契機を検討 したい。次に、企業が保育施設を運営する際の懸念事項を見ていく。最後に、今後企業が積

1 はじめに オプションの理論価格を求めるBlack-Sholes モデル以下BSモデルは多くの専門家がオプ ション価格分析に利用しているが、実際に市場に出回っているオプションの取引量が急増した とき、理論価格との差がどのように変わるのかを検証した。市場に異常事態が起きたとき、取 引量が増えて流動性が上がり理論値に収束するという見方もあれば、市場の急変によって投資

9 月 24 日から 26 日に広島にて行われたゼミ合宿。NHK 広島放送局・中国新聞社・中国 放送の3社を見学し、地方メディアの実態について学んできた。各社を見学し話を聞いた 中で感じたことを述べていく。 はじめに、NHK では8K 放送の映像体験をした。8K とは画素数の多い高精細な映像を

環境においても述べたように、役員報酬に ESG 要因を連動させる報酬制度が開始さ れている。ESG に取り組むことにより、世界へポジティブインパクトを⽣み出した分、実際報 酬を受け取ることのできるガバナンス基盤は、今後よりベーシックな軸となっていくであろうxii。 これまでの1では、企業の利益という視点から ESG に取り組むべきメリットが考察できた。企