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誰がために花は香る? - J-Stage

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化学と生物 Vol. 53, No. 3, 2015

誰がために花は香る?

コミカンソウ科植物における花の匂いの役割と性的二型の進化

陸上生態系の基盤をなす植物の多くは被子植物であ り,その種数は30万を超えると言われている.多くの 被子植物は花粉を運ぶ動物(送粉者)に,花蜜や花粉な どのさまざまな資源を花粉運搬の報酬として提供してお り,送粉者がその報酬を求めて花を訪れた際に,偶然体 についた花粉が雌蕊へと運ばれ,受粉が達成される(1)

このような花を舞台とした花粉を運ぶ動物との「送粉共 生系」は,植物の繁殖を支える最も重要な共生系と言え る.

被子植物は送粉者を誘い寄せるためにさまざまな工夫 を凝らした花を進化させてきた.花粉を効率的に運んで くれる送粉者だけに蜜を提供できるように,限られた時 間だけ花を咲かせたり,広告である花弁の形や色,匂い を送粉者の好みに合わせたりしている.たとえば,夜間 にガ類によって花粉が運ばれる植物の一部では,夕暮れ 時から開花し始め,わずかな月明かりでも目立つ薄白い 色の花弁をもち,さらに夜間にのみ強い匂いを花から発 することが知られている(2)

.このように,被子植物が見

せる多様な花は,送粉者との関係によって生み出されて きたと考えられている.

送粉者好みの花にはもう一つ重要な役割がある.同じ 場所に生育する近縁種との交雑を避ける生殖隔離は,受 粉の前に起こるか後に起こるかで主に2つに分けられる が,送粉者が寄与するのは前者の「受粉前隔離」であ る.簡単に言えば「他種の花粉は運ばない」ということ であり,たとえばキジカクシ科のヒヤシンスの仲間で は,近縁な2種の一方がハエによって,もう一方がベッ コウバチによって花粉が運ばれることで交雑が避けられ ている(3)

.このような生殖隔離の仕組みは,花の形質だ

けでなく,種の多様化機構の理解に不可欠であり,これ まで多くの研究者が注目してきた.本稿では,特殊な送 粉様式をもつカンコノキ属植物(コミカンソウ科)にお いて,花の匂いが生殖隔離機構に重要な役割を果たして いること,また,花の匂いが送粉者とのかかわり合いに よって進化してきたことを紹介する.

カンコノキ属植物(以下カンコノキと示す)は,体長 がわずか5 mm前後の小さなハナホソガ(ホソガ科)に よって花粉が運ばれている.これらの間には,蜜などを

介した一般的な送粉様式とは一風変わった2つの特徴が ある(図

1

.一つは植物と送粉者の間に1種対1種の極

めて高い種特異性が見られることである.つまり,同所 的に数種のカンコノキが生育していたとしても,ハナホ ソガは必ず1種の寄主植物だけを選び出し花粉を運ぶた め,植物は近縁種との交雑が避けられているのである.

では,このようなカンコノキの生殖隔離を支えるハナホ ソガとの種特異性は何によって支えられているのだろう か? カンコノキは花弁を失った緑色の地味な花を咲か せること,ハナホソガは夜行性であることから,私たち はまず,ハナホソガが花の匂いを用いて寄主を選んでい るという仮説を立て検証を行った.ハナホソガと花の匂 いを用いた行動実験の結果,ハナホソガは花の形などの 視覚情報がない状況でも,花から発せられる匂いだけで 寄主と非寄主植物を識別できることが明らかになった.

また,日本に同所的に生育する5種のカンコノキを対象 に,花の匂いを捕集し(ヘッドスペース法)

,ガスクロ

マトグラフ質量分析計で分析を行ったところ,カンコノ キは種ごとに独特な匂いを放出していることが明らかに なった(4)

カンコノキとハナホソガの送粉共生系のもう一つの特 徴は,ハナホソガが授粉の際に極めて特殊な送粉行動を 示すことである(図1)

.先に述べたように,ハナホソ

ガはまず花の匂いを頼りに寄主植物を訪れる.カンコノ キは雌花と雄花を別々に咲かせる雌雄異花の植物である が,ハナホソガは始めに雄花を訪れ,そこで口吻を巧み に扱い花粉を集める.その後,花粉をもったハナホソガ は雌花を訪れ,柱頭に花粉をこすりつけて授粉させる.

このような行動は,一般的な昆虫が,受動的に送粉する

(花を訪れた際に,体に偶然花粉がつくことで雌蕊へと 運ばれる)こととは異なり,自らが雄花で花粉を集め,

それを雌花に運んで授粉する点で能動的と言える.この ような能動的送粉行動の背景には,ハナホソガの幼虫の 食性がある.ハナホソガは授粉した雌花に卵を一つ産み つけ,その後花の中で孵化した幼虫が,発達途中の種子 だけを食べて成長するため,ハナホソガはわが子の餌を 確保するために能動的に授粉を行っているのである.こ のような場合,ハナホソガが雄花と雌花を識別できるこ

今日の話題

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とが,植物にとってもハナホソガにとっても繁殖を達成 するために必須であると考えられる.そこで私たちは,

ハナホソガは雌花と雄花を匂いで区別でき,また,ハナ ホソガが授粉する植物では雌雄花間で匂いが異なると仮 説を立て検証を行った.始めに,まだ花粉を集めた経験 のない雌のハナホソガに,Y字型のガラス管を用いて雌 花と雄花の匂いを提示し選好性を調べた.その結果,ほ とんどの個体(30/38)が雄花の匂いを選択した.つま り,ハナホソガは,花の匂いを用いて雄花と雌花を区別 し,必要に応じてそれぞれの花を訪れていることを明ら かにした(3)

.このことは,カンコノキは,雄花と雌花で

異なる匂いを放出していることを示唆している.そこ で,対象をカンコノキ属から広げ,コミカンソウ科の中 でもハナホソガに花粉が運ばれる種とハナアブやハナバ チに花粉が運ばれる植物を選び,雄花と雌花の匂いを比 較した.その結果,ハナホソガによって花粉が運ばれる 種では,花の匂いに顕著な雌雄差(性的二型)が見ら れ,一方のハナアブやハナバチによって花粉が運ばれる 種では,花の匂いに雌雄差がないことが明らかになっ た.また,植物の分子系統解析により,花の匂いの性的 二型性は,系統的な制約によるものではなく,ハナホソ ガによる花粉媒介の獲得と同時に起こったことが明らか

になった(5)(図

2

これまで被子植物では,希に見られる花の性的二型が どのような進化的背景によってもたらされているのかは 示されてこなかった.また,花の匂いの多様化や進化 に,送粉者との相互作用がかかわってきたことを明確に 示した研究は限られていたが,私たちの一連の研究か ら,花の匂いの性的二型が,花粉を運ぶ昆虫の特殊な送 粉行動によってもたらされていることが明らかになっ た.今後はカンコノキとハナホソガが,花の匂いを介し てどのように種分化・多様化してきたかについて解明し ていきたい.

  1)  M.  Proctor,  P.  Yeo  &  A.  Lack: “The  natural  history  of  pollination,” Timber Press, 1996.

  2)  C. B. Fenster, W. S. Armbruster, P. Wilson, M. R. Dudash 

& J. D. Thomson:  , 35, 375 

(2004).

  3)  A.  Shuttleworth  &  S.  D.  Johnson:  , 277,  2811 (2010).

  4)  T. Okamoto, A. Kawakita & M. Kato:  , 33,  1065 (2007).

  5)  T. Okamoto, A. Kawakita, R. Goto, G. P. Svensson & M. 

Kato:  , 280, 2280 (2013).

(岡本朋子,森林総合研究所)

ハナホソガ コミカンソウ科植物

( カンコノキ属など)

花粉の運搬 種子

ハナホソガの能動的送粉行動

雄花で集粉 雌花で授粉・産卵 幼虫の餌 種子

1 種対 1 種

図1コミカンソウ科植物とハナホソガの送粉共生関係の概要 図

ハナホソガと一部のコミカンソウ科植物の間には1種対1種の高い 種特異性が見られる.ハナホソガは雄花で花粉を集め,雌花に運 び授粉する能動的送粉行動を示す(詳細は本文を参照)

キールンカンコノキ

Phyllanthus reticulatus ウラジロカンコノキ カンコノキ

オオシマコバンノキ

ヤマヒハツ

ヒラミカンコノキ

ヒトツバハギ

カキバカンコノキ

コバンノキ

Phyllanthus roseus

花の匂いの組成比

雄花 雌花

雄花 雌花

雄花 雌花

雄花 雌花

ハナホソガ媒 ハチ・ハナアブ媒

図2ハナホソガによる花粉媒介の進化

研究に用いたコミカンソウ科13種では,独立に3回ハナホソガに よる花粉媒介が起源している(図中●).ハナホソガに花粉が運ば れる種では顕著に雌雄花の匂いが異なるのに対し,ハチやハナア ブなどに花粉が運ばれる種では匂いの雌雄差は見られない.図中 の円グラフは花の匂いの組成比を示す.

キールンカンコノキ

Phyllanthus reticulatus ウラジロカンコノキ カンコノキ

オオシマコバンノキ

ヤマヒハツ

ヒラミカンコノキ

ヒトツバハギ

カキバカンコノキ

コバンノキ

Phyllanthus roseus

花の匂いの組成比

雄花 雌花

雄花 雌花

雄花 雌花

雄花 雌花

ハナホソガ媒 ハチ・ハナアブ媒

ハナホソガ コミカンソウ科植物

( カンコノキ属など)

花粉の運搬 種子

ハナホソガの能動的送粉行動

雄花で集粉 雌花で授粉・産卵 幼虫の餌 種子

1 種対 1 種

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化学と生物 Vol. 53, No. 3, 2015 プロフィル

岡本 朋子(Tomoko OKAMOTO)

<略歴>2004年大阪教育大学教育学部教 養学科卒業/2008年日本学術振興会特別 研究員DC2/2009年京都大学大学院人間・

環境学研究科博士課程修了博士(人間・環 境 学)/2010年JT生 命 誌 研 究 奨 励 研 究 員/2013年独立行政法人森林総合研究所 日本学術振興会特別研究員PD,  現在に至 る<研究テーマと抱負>花の匂いの進化,

化学物質が昆虫の行動に与える影響<趣 味>読書,貝拾い

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

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