週刊読書人
二〇
〇 六 年 回 顧
「マスコ
ミ」関
係 書
(
12月
22日
二六六
八 号)
二
〇
〇 六 年 十 一 月 太 平 洋 をは さ み
、 日米 で 歴 史 に残 る 二つの事件―米
国 中 間 選挙で のブッシュ政
権
( 共 和党)の 大敗、日
本での
教 育基 本法改 訂の 強行採
決
―があ っ たと い う(加藤周一『朝日』十一月 二十 七日 夕 刊)
。こ れ に 防 衛 庁 の「
省」
昇 格 の 件 を 加 えて も いいので
は な いか。
九・一 一 以降の右
傾化 とナ シ ョ ナ リ ズム の高 まりが復元 するかどうか疑問
だが、山本 武 利
[ 責
任 編 集
] 『
メ デ ィ ア の なか の「 帝国」
』(岩波講座
「 帝 国」
日本学
知 第 4 巻
) は 多 彩 な執筆人で、
近 代メディア
(活 字・
視聴覚
・ 通信)の
プロパ ンガンダ性と批判性を歴史的 に解 明し よ う と し て い る。
同 書は 学 問編 成 の 系 譜 の 再考の みな らず
、 そ こ に ア ジ ア的 視
点が ある の が 特徴的 と 言え る。
世紀 末の 湾 岸 戦 争
( 一 九九 一 年
)以降
、様々な
国際紛争 にテレビ、インター
ネ ットが 直接 的に関与し、茶
の 間にそ の影響
が ダイレクト
に 現 れて いる せいか
、あ る いは 日露戦 争か ら百年
「も」経ったか
ら なのか、は
た また第
二 次大戦 から 六〇 年
「 も」経た
から な のか
。ナ ショナリ
ズ ム とメ デ ィア、
戦 争とジャーナリズム に注 目し て みよ う
。 木村 勲『
日 本 海 海 戦 と メデ ィア
』( 講談 社選 書メチエ)
は 知将 秋山 真 之 助 批 判 で は あ る に し ても、メディアが日
露戦 争を どう 伝えた かと い う点で、
長山康生『日露戦争
もうひ と つ の
「 物 語
」』
( 新 潮 新 書
049
) や 黒 岩 比 佐 子
『 日 露 戦
争
勝 利 の あ と の 誤 算
』( 文 春新 書
473
)とあわ
せて読 ん でみ たい。特
集をまとめ
た も ので あ る が
、 朝 日 新 聞 取材 班
『戦 争 責 任 と 追 悼
(歴 史と 向 き合う1、朝
日新聞社)と読 売 新 聞 戦 争 責 任 検 証 委 員 会
『検 証 戦争責
任 (1) (2) ( 』中 央 公 論 新 社
) は
貴 重 な 歴 史 証
言・
資 料 を 数 多 く 含 ん で い る
。 米誌『フォーチ
ュ ーン』に描 かれ た日 本 観な ど か ら 考察 し た高島秀之『
嫌われた日本―
戦 時 ジ ャ ー ナ リ ズ ム の 検 証
―』
(創 成 社
)も 含めて、
メ デ ィアが作
り出 すイメー
ジ が 平 時と戦時(有事
)で どれほど 違う のか
、 流 布 さ れ る 社会 と メッセー
ジ性の怖さを
教 え て くれ る
。そ して 福 間 良 明『
「 反 戦」のメデ
ィ ア史
― 戦後日本 に おける世論と輿論の拮抗』
(世 界思 想 社)は
映画 と出 版 メデ ィアに 焦 点をあて
、戦 後 かもし出された「反戦
」世論 の実相を
描 い て い る
。 大石裕・
山 本 信 人
(編 著)
『メ ディ ア
・ ナ シ ョ ナ リ ズ ム のゆ くえ
』( 朝 日 選書
807
)は
二〇
〇五 年 に 起 き た 中 国の 反 日デ モを 中 心 と して 外 国メ デ ィアが作
る日本・日本人
イ メ ージを実証的に考
察した研究 書で ある
。「
大本営化す
る メ デ ィア」という副題
を つ けた浅 野健 一『戦
争 報 道 の 犯 罪』や 佐藤卓 己
『メディア社会―
現 代を 読み解
く 視点 』 ( 岩波新
書
) もメ デ ィ ア 批 判 と いっ た 側面ばか
りでな く
、 現 代社 会 が抱える諸
問 題の例示
として 示唆に 富 む
。 さらに国際関
係 のな かで の メ デ ィ ア、
情報 と いう メ ッ セ ー ジ 性 の 多 様さ に ついては
、橋本晃『
国際紛
争 のメ ディ ア学』
( 青弓 社)
や 江 畑謙 介『 情 報 と 戦 争
』(N TT 出版)にも
目 を向けた
い。
さて、
一 昨年の番
組改 変事 件、
職員 の 不 祥事の 続 発、
政 治家 の関 与
、 受信料 の 不払 い と民 事に よ る強 制 徴 収
、そ し て拉 致 事 件からの国際
放 送 へ の総 務省 強 制 命 令 な ど
、N H
1
K を め ぐ る 問 題 は N H K
- 朝
日- 政
府 と い っ た 図 式 以 上 に 社会 的問 題として関
心 が高 ま った
。 エ リ ス
・クラ ウ ス著
( 村松
・ 後藤訳)
『NHK
vs.日 本政 府』
( 東 洋 経 済 新 報社)
や 星浩・逢
坂巌『テ
レビと政治
―国会報
道からTVタ
ックル まで
』( 朝 日 選書 800 )
が テ レ ポリ ティ ッ ク ス 時 代 の 理解 を 高めて く れ る
。 グ レ ッ グ・
ダ イクBB
C前会長『真相―イ ラ ク 報 道 と B B C
』( N H K 出版)
、有馬哲夫
『日本 テ レ ビ
と
CI A』
など を読む
と
、ブ ラウン管から送
り 出される映 像ば か り で な いメデ ィ ア企 業 の裏 側の 生々しさが
伝 わ っ て くるだろ
う
。 出版分 野 は 元 気がいい。
研 究者・実務
者 が 執 筆 している 川井 良介
(編)
『 出 版 メデ ィ ア 入門
』(日本評論社)
は久々の アカ デミ ッ ク な 書で あ る。
蔡 星慧『出版産業の変遷と
書 籍
出 版 流 通
』( 出 版 メ デ ィ ア パ ル)は流
通 面 を 中 心 に 日本の 出版産業の
盛 衰を体系
的にま と めた。
舘野
晰・
文 ヨ ン
珠『
韓 国 の 出 版 事 情
』( 出 版 メ デ ィ アパ ル)
は 韓 流 ブ ー ム の中 で
、 韓国 出版メ デ ィ ア 事 情 を紹 介 して いる
。箕 輪 成夫
『 中世 ヨ ーロッ パ の書物―修道院出版 の 九
〇
〇 年
』( 出 版 ニ ュ ー ス 社)は、
写 本 をとおして中世 を語 り、書 物とは 何か を探 る 労作 で あ る
。 最 後 に
、B・マク
ネア(
小 川浩 一・ 赤 尾 光 史 監訳
)『 ジャ ー ナ リ ズ ム の 社 会 学
』( リ ベ ルタ 出版)
や 伊 藤 守(編)
『テ レ ビ ニ ュ ー ス の 社 会 学
』( 世 界思 想社
)、 時野 谷浩
『ニュー ス普 及の 研 究
』( 芦書 房)
な ど はこ こ に あ げ た マ スコ ミの 現 象を アカ デ ミ ッ クな 面 から の 研究書
と し て
、 ま た マ スコ ミ 産業の概論を平
易 に解い
た
、 湯浅正敏ほか『メディ
ア 産 業
論』
(有 斐 閣)
を あ げ る。
鈴木雄雅
(すずき・ゆうが 上智大学
文学部
教 授
・ 新聞学 専攻
) 以下
記事 掲載ではな
い もの の、
読んで おくべき
マ ス コ ミ 関係 書
▼金 田信 一 郎『 テ レ ビ は な ぜ、
つまらな
くなったのか―スタ ー で 綴 る メ デ ィ ア 興 亡 史
』
( 日 経 BP社
)
▼藤 田真 文『ギ フ ト
、再配 達』
(せ りか 書 房
)
▼杉山知
之
『 クール・
ジ ャ パ
ン
世界が 買いたが
る 日本』
(祥 伝社
)
▼本 田周 爾
『 発 展と 開 発のコ ミュニ ケ ー シ ョン政策』
( 武 蔵 野大学 出 版会)
▼梅 田望夫
『 ウ ェブ 進 化論
― 本当の大
変化はこれ
か ら始 ま る』
(ち く ま新書
582 )
▼田村 秀
『デー
タ の 罠
―世論 は こ う し て つ く ら れ る
』( 集
英社 新書 0360B )
▼ 別 府 三 奈子
『ジ ャーナ
リ ズ ム の起源』
( 世界思
想 社)
▼ 斉 間 満
『 匿 名 報 道 の 記 録
― あ る ロ ー カ ル 新 聞 社 の 試 み』(創
風社
)
二十年前から 全国で唯
一 匿 名報道 を 行って きた 和 歌 山の『南海日日新
聞 社』
の記 録
▼田島
泰彦 ・ 斎藤 貴男
(編
)
『 超 監 視 社 会 と 自 由
― 共謀 罪・
顔 認 証 シス テ ム・
住 基ネ ット を 問 う 』(
花 伝 社
) メデ ィア総
合研究所
( 編)
『
新
スポーツ
放送権
ビ ジネ ス最前 線』
(花伝社)
▼そ の他 イ デオ ロ ギ ー 論とは 異な る手 法で、
アジ ア の戦 争 を若 い読 者 に視覚的
に 知ら せ よう とし た もの に
、 別 府三 奈 子『
アジ アでど ん な 戦 争が あ った のか
』( めこ ん
) が あ る
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