力学Ⅰ
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運動方程式を解く2
― 自由落下と等加速度運動 ― ある時刻t
において,物体に作用する合力 F(t)が分かっている場合,
物体の運動は,運動方程式 ma(t)F(t) を解くことによって決まる。
前回は最も簡単な例としてF(t)
0
(力がゼロ)の場合を考えた。運動方程式 を解くことによって,等速直線運動になることを確かめた。
次の例として,一定の力
F
0が作用している場合を考える。
基本手順
Step1 運動方程式を立て,加速度を求める。
Step2 加速度から速度を求める。
Step3 速度から位置(座標)を求める。
Step4 初期条件から,具体的な運動を決める。
合力が一定 F(t)
F
0の場合(等加速度運動)
問題 地表近くで質量
m
[kg]の物体を真上に投げ上げる。空気抵抗は無視で きる。t 0
のとき,地面より9 . 8
[m]の高さから,速さv0=4 . 9
[m/s] で投げ上げた。その後の運動を求めよ。図
Step1 運動方程式を立て,加速度を求める。
運動方程式を立てる手順
① 問題を必ず図に書く
② 物体に働く力
(
f1, f2
, ・・・)
を全て見つけて図に書き込む。③ 解きやすいように座標軸を決める。
④ 合力
F
(=
f1+
f2+・・・)
を求め,その成分( F
x,
Fy, F
z)
を 式で表す。⑤ 運動方程式を各成分ごとに立てる。
) ( ) ( ),
( ) ( ),
( )
(t F t ma t F t ma t F t
max x y y z z
] m/s [ 9 . 4
g m地面 [m]
9.8
x
y
O
z
力学Ⅰ
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①′②′ 描け。
③′適当に原点Oを決める。(例えば地上のどこかに決める。) 水平面内に
x
軸とz軸を決める。鉛直上向きをy軸の正とする。④′合力を成分で求める。
) (t
F
x0
,Fy(t) mg
,F
z(t ) 0
⑤′運動方程式を立てる。
) (t
ma
x0
,may(t) mg
,ma
z(t ) 0
・・・(ア) ・・・(イ) ・・・(ウ)
加速度を求める。
) (t
a
x0
,ay(t) g
,a
z(t ) 0
・・・(エ) ・・・(オ) ・・・(カ)
x
軸方向,z軸方向は,力がゼロの場合と同じ。(今の問題設定では,
x
軸方向,z軸方向には運動しない。) 興味があるy軸方向の運動のみを求める。Step2 加速度から速度を求める。
(オ)を速度の時間微分を用いて表す。
) (t ay
t
y t d
) ( dv
の関係を用いて,
t
y t d
) ( dv
g
速度vy(t)は,時間
t
で微分すると g
(定数)になる関数。探す=不定積分 答え⇒ 1次関数 定数を
C
1とおく。 )
y(t
v
a
y( t ) d t ( g ) d t g t C
1∴ vy(t)
g t C
1 ・・・(キ)グラフで考えると
t a
yO
(不定)積分 微分
t
vyO C1
g
傾き一定
g
数学の微分の公式
0 ) d (
) (
d C x
C
1 ) d (
) (
d x x
x
力学Ⅰ
29 Step3 速度から位置(座標)を求める。
(ク)を座標の時間微分を用いて表す。
)
y(t
v t
t y d
) (
d を用いて, t
t y d
) ( d
C
1t
g
座標y(t)は,時間
t
で微分すると1次関数になる関数 探す=不定積分 答え ⇒ 2次関数もうひとつ定数
C
2を使って, ) (t
y
vy( t ) d t ( g t C
1) d t
21g
t2 C1tC2∴ y(t) 2 1 2 2
1 t CtC
g
・・・(ク)グラフで考えると
(ク)式で座標y(t)の式が求まった。→ 運動方程式が解けた。
) (t
y 2 1 2
2
1 t CtC
g
・・・(ク) ,vy(t) g t C
1 ・・・(キ)が,運動方程式(イ)の解(一般解)である。
C
1,C
2が任意定数。Step4 初期条件から,具体的な運動を決める。
0
t
での座標と速度の値・・・初期条件 ) 0 (
y
9.8
[m]・・・(ケ),vy(0)4.9
[m/s]・・・(コ)一般解(ク),(キ)で
t 0
と置き,初期条件(ケ),(コ)を用いれば, ) 0 (
y 02 1 0 2
2
1 C C
g
C
2 これが9.8
[m]に等しい 。 ) 0
y(
v
g 0 C
1 C
1 これが4.9
[m/s]に等しい。∴
C
2 9.8
[m],C
1 4.9
[m/s]t
vy
O C1
y
O
t
C2(不定)積分 微分
数学の微分の公式
0 ) d (
) (
d C x
C
1 ) d (
) (
d x x
x
x x x
x ( ) 2
d ) (
d 2 2
時間が経過すると 傾きが減少する。
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したがって,
t 0
での運動の具体的な軌道を表す式は, ) (t
y 2
2 1 g t
4 . 9 t 9 . 8
・・・(サ) ,vy(t) g t 4 . 9
・・・(シ)これが特解である。(この初期条件のときだけ成り立つ特別な解)
練習1 y(0)
9 . 8
[m],vy(0)4 . 9
[m/s]を初期条件として,最高位置に到 達する時刻t
1,地面に到着する時刻t
2を求めよ。実際の運動の様子を図に描け。最高位置ではvy 0 となるので,vy(t1)
9 . 8 t
1 4 . 9 0 。
∴ t1 0 . 50 [s]
地面は
y 0
だから,y ( t
2) 4 . 9 t
22 4 . 9 t
2 9 . 8 0
。∴ t2 2 . 0 [s]
高校の物理では,自由落下,鉛直投げ上げなどと運動を区別しているが,
初 期 条 件 を 変 え れ ば 1 つ の 式 ( 一 般 解 ) で 表 せ る の で , 区 別 せ ず に
「自由落下」と呼ぶことにする。
一定の力F(t)
F
0が作用しているとき,物体の運動は等加速度運動となる。
一直線上を運動している場合は,等加速度直線運動の式
) (t
x 0 2 0 0
2
1a t v tx ,vx
(t ) a
0t
v0m a
0 F
0で表される。※速度の式は,加速度の意味を考えて,こう表せることを理解せよ。
練習2 加速度が
a
0[m/s2]である等加速度直線運動している物体の速度vx(t )
の 式が,vx(t ) a
0t
v0で表せることを示せ。加速度の意味は,1秒間で速度が
a
0[m/s]ずつ変化することである。0[s]から
t
[s]のt
秒間では,そのt
倍変化するから,速度はx
va
0t
だけ変化する。
t 0
[s]のときの速度をv0とすれば,v0からa
0t
だけ変化 するので,t
秒後の速度vx(t )
は, )
x
(t
v
a
0t
v0 で表せる。y
O x