都市型木造建物の耐震診断・補強法の開発と推進
木質ラーメン、不整形建物、狭小間口、制振壁
1
*
河合直人 2**
宮澤健二 3***
杉山永幸1.はじめに
小課題 1.4 「都市型木造建物・伝統木造建物の耐 震診断・補強法の開発と推 進」では、当初、都市部 の木造住宅のうち、歴史的 ・文化的価値を持つ建物 に注目し、耐震補強や防耐 火性能の向上と価値の保 全を可能とする簡便で廉価 に診断・改良が行える方 法の開発を行うことを目的とし、平成 22 年度には横 手市増田町の内蔵を有する 住宅の耐震補強に関する 検討が行われた。平成 23 年度の中間評価において、
都市部の一般的な戸建て住 宅の検討も必要であり、
耐震基準や構造計算法に有 用な示唆も目指しては ど うかという指摘があった。 これを受けて、 研究課題 として「不整形平面を有す る木造住宅の耐震性能評 価法」及び「木質ラーメン を用いた木造住宅の耐震 補強方法」を追加 し、「内蔵 を有する住宅の耐震補強」
については、この種の併用 構造物の耐震性能評価法 の問題として一般化して検討することとした。
一般的な木造住宅に対する 耐震診断、補強法につ いては、すでに日本建築防 災協会の「木造住宅の耐 震診断と補強方法」があり 、補強後の耐震性評価も 含めて全国的に利用されている。
一方、この診断法では耐震 性能の評価に 限界があ ると考えられる建物として 、凹形平面など不整形の 建物、一部に剛性の高い構 造を含み水平構面剛性が 小さい建物(上記の増田町 の内蔵を有する住宅もこ れに当たると考えられる) などがある。また、荷重 変形関係の異なる耐震要素 、例えば集成材ラーメン フレームなどを用いて補強 を施した建物も、その配 置が偏在するような場合に は上記診断法に限界があ ると考えられる。
このため、平成 23 年度及び 24 年度には、耐力壁 とラーメンフレームを併用 した木質構造の地震時挙 動に関する振動実験、平成 24 年度には凹型平面を有 する木造住宅の振動実験、平成 25 年度には剛性の異 なる内蔵を有する住宅に対 する常時微動測定による 振動特性の把握を行い、こ うした複雑な振動を生じ
る構造物についての地震時挙動の把握を行った。
平成 26 年度には、剛性耐力の高い耐力制振壁を用 いた狭小間口住宅の振動実 験結果から、その耐震補 強効果についての検討を行 った。併せて 、こうした 検討を踏まえ、不整形な建 物あるいは構造特性が異 なる耐震要素が偏在する建 物に対する診断あるいは 補強後の性能評価手法とし て、比較的簡易な疑似 3 次元モデルを用いた評価方法の提案を行った。
2.平成 24 年度までの成果
2.1 耐 力 壁 と 木 質 ラ ー メ ン を 併 用 し た 木 質 構 造 の 地震時挙動
木造住宅の開口をふさがな い補強方法として木質 ラーメン構造を用いる方法 があるが、木質ラーメン は一般に木質耐力壁と復元 力特性が異なり、適切な 補強設計の方法が明確では ない。ここでは、耐震補 強方法として木質ラーメン を使用した木造住宅の耐 震設計法の基礎資料を得る ことを目的として行った 、 靱性の異なる耐力壁と木質 ラーメン を併用した構造 物の振動実験結果について述べる。
(1)木質ラーメンの静的加力試験
木質ラーメンは集成材を用 いた スパン 3.64(m)の フレームで、接合部は引き ボルト形式とし、「高剛性 低靭性」タイプと「低剛性高靭性」タイプの 2 種類 とする。図 1 に試験体形状を示す。高剛性低靭性タ イ プ の 柱 断 面 は 105(mm) × 360(mm) 、 梁 断 面 は 105(mm)×450(mm)、引き ボ ルトは M20( 全ネジ タイ プ)を使用する。低剛性高靭 性タイプの柱断面は 105
×300[mm]、 梁断 面は 105×360[mm]、 引き ボル トは SNR 材の M16、σy= 330(N/mm²)程 度 の も の と す る 。
試験体は高剛性低靭性タイプ
3
体、低剛性高靭性 タイプ3
体、それに各々の タイプに1.2(t)の錘で荷
重をかけて行うものが各1
体、計8
体である。試験結果として図 2 に各試験体の包絡線を示す。
(2) 併用構造の振動台実験
木質ラーメンと耐力壁が併 用された 構造物につい
*:工学院大学建築学部建築学科 **:工学院大学名誉教授 ***:工学院大学建築学部建築学科(
4
年)テーマ
1
小課題番号1.4
て、変形挙動を確認し構造 物の荷重変形関係を推定 する手法の妥当性確認を目 的として、併用構造箱形 試験体の振動台実験を行った。
箱形試験体は、片側に耐力 壁、 反対側に木質ラー メンを設けた平面
3,640m m×3,640mm
の1
層の試 験体合計4
体である。図3
に箱形試験体の概要を示 す。 耐力 壁部 分に 構造 用合 板( 厚さ24(mm)、N50
釘@150mm以下)を用いた場合は偏心が大きく、釘 打ちをN50
釘@100(mm)と した場合は偏心が小さい。木質ラーメン部分は静的加 力試験 と同様、低剛性高 靭性タイプと高剛性低靭性タイプの
2
種類とする。試験体の天井面には耐力要 素の許容耐力に基づいて
10ton
の錘を乗せる。入力地震動には、日本建築 センターによる人工地 震波
BCJ-L1
及びBCJ-L2
の位相を用い、建築基準 法で想定される2
種地盤の応答スペクトルに適合す るよう改変した人工地震波を用いた。実験結果の例として偏心が小さい場合の 2 体の試 験体について、BCJ-L2 加 振時の木質ラーメンと耐 力壁の応答変位を図
4
に比較して示す。耐力壁の剛性耐力が小さく 、偏心が大きい場合に
は、
BCJ-L2
加振において 木質ラーメンの剛性、靱性にかかわらず、いずれの 場合も構造用合板耐力壁 のせん断変形が大きくなり 大破した。 木質ラーメン は接合部での損傷を生じた が、高靱性低靱性タイプ の方が損傷は大きかった。
耐力壁の剛性耐力が大きく 、偏心が小さい場合に は、変形が同程度の並進振 動を生じた。低剛性高靱 性タイプの木質ラーメンは 大変形まで耐力を維持す るが、一方、高剛性低靱性 タイプの 木質ラーメンは
1/50rad.程度で耐力低下を 示した。
(3)
まとめ木質ラーメンの荷重変形 関係は、接合部等の設計 により大きく変化する。靱 性の乏しい 木質ラーメン を用いた場合には、耐力壁 と比べて早期に急激な耐 力低下を起こすため、構造 物全体の耐震性確保に問 題が生じる恐れがあり、適切な設計が必要である。
2.2 凹形平面を有する住宅の地震時挙動
近年、都市部では敷地の狭 小性 により不整形な住 宅が多く建てられており、 凹形平面の住宅も少なく ない。ここでは凹型平面の 住宅の地震時挙動の把握、
連結の有無による補強効果 などについて、実大振動 実験による検討を行う。
1)低剛性高靭性タイプ 2)高剛性低靭性タイプ 図 1 門型フレームの各試験体
図 2 木質ラーメンの静的加力実験結果-包絡線
図 3 箱形試験体概要図
1) 偏心小・低剛性高靱性タイプ・BCJ-L2
2) 偏心小・高剛性低靱性タイプ・BCJ-L2 図 4 各試験体の応答変位時刻歴
加振方向
X1
X3 X5
Y1
Y2
Y3
Y4
Y5
(1) 試験体
試験体は、2 階建て枠組壁工法 2 体と軸組壁工法 1 体であるが、主に枠組壁工法住宅(試験体 WS、WL)
について述べる。一方向振 動台のため、 凹形平面の 枠組壁工法住宅を直交して 2 棟配置した(写真 1)。
平面は 6,825mm×4,550mm、高 さ は 6,527mm で あ る 。 加振実験は、整形の場合、 凹形平面で くびれの両 側で不均衡な耐力壁配置の 場合、この両側を制振連 結した場合などで行ってい る。そのほかに制振壁や
「ねじ釘」による補強効果 を確認する加振も行う。
表 1 に実験ステージと概要の一覧を示す。
加振波は、兵庫県南部地震 (1995)における神戸 海洋気象台観測波(JMA 神 戸-NS)、建築センター波
(BCJ-L2)をレベル調整し 用いた。また加振実験進 行に伴う振動性状の変化を 把握するため、各ステー ジ前後に常時微動、スィー プ波及び 矩形波加振し、
固有周期、減衰定数及び振動モードを計測した。
(3) 実験結果とまとめ
①応答概要:図 6 に応答層間変位の経緯を示す。
②制振壁効果:加振方向合板壁 8 枚に対して制振壁 を 2 枚入れることで、応答変位は高減衰ゴム系では 10%程度、低降伏点鋼制振壁では 30%程度の低減効 果が認められた。
③制振連結効果:凹形平面 で全体偏心があり、外部 開口左右で耐力壁が不均衡の場合、WL 試験体では図 8 から左右で異なる床の変 形が見てとれる。 これに 対し、制振連結部材を設置 すると左右の 床構面が一 体化されることが確認された。
表 1 実験ステージと概要 ス テ ー ジ 試 験 体 WS お よ び WL
1 整 形 ・ 制 振壁 ( M 仕 様) 配 置
2 整 形
3 整 形 ・ 制 震壁 ( H 仕 様、 Ω 仕様) 配 置
4 整 形
5 凹 形 ・ 先 端左 右 制振 連 結 6 凹 形 ・ 床 開口 端 ボル ト 補強 7 凹 型 ・ 外 部補 強 なし 8 凹 型 ・ 左 右バ ラ ンス 調 整
9 凹 型 ・ 極 大加 振 ・WS の み 制 振壁 配 置 10 凹 型 ・ 極 大加 振 ・WL ね じ 釘 補強
写真 1 試験体全景(ステージ 1)
図-1 供試体震動台配置(ステージ①、⑤)
加振方向
VR VR VR
VR
MR MR
MR MR
MRMR
MRMR
X0
X1
X2
X3
X4
X5
X6
X7 X7.5
Y0 Y1 Y2 Y3 Y4 Y5
X0 X1 X2 X3 X4 X5 X6 X7X7.5
Y5
Y4
Y3
Y2
Y1
Y0
WL WS
G
加振方向
VR VR VR
VR X0
X1
X2
X3
X4
X5
X6
X7 X7.5
Y0 Y1 Y2 Y3 Y4 Y5
X0 X1 X2 X3 X4 X5 X6 X7X7.5
Y5
Y4
Y3
Y2
Y1
制振連結 Y0
制振連結
ブロック1
ブロック2
ブロック1 ブロック2
基準階高さ2751
図 5 試験体の配置(ステージ 1、ステージ 5)
図-5 1階応答層間変位の変遷(BCJ_L2)
ステージ1□
BCJ-L2_95gal 0.0057 (15.8mm) 0.0059 (16.3mm)
ステージ2□BCJ-L2_95gal 0.0061 (16.8mm) 0.0064 (17.6mm)
ステージ3□BCJ-L2_95gal 0.0058 (15.9mm) 0.0057 (15.8mm)
ステージ4□BCJ-L2_95gal 0.0063 (17.5mm) 0.0069 (19.1mm)
11月28日
ステージ5凹BCJ-L2_95gal 0.0090 (24.7mm) 0.0076 (21.1mm)
ステージ6凹
BCJ-L2_95gal 0.0123 (33.8mm) 0.0075 (20.6mm)
ステージ7凹BCJ-L2_95gal 0.0126 (34.7mm) 0.0075 (20.6mm)
ステージ8凹BCJ-L2_252gal/40kine 0.0431 (118.6mm) 0.0263 (72.3mm)
ステージ9凹BCJ-L2_252gal/40kine 0.0289 (79.4mm) 0.0295 (81.3mm)
ステージ9凹(再)BCJ-L2_252gal/40kine 0.0317 (87.1mm) 0.0294 (80.9mm)
ステージ10凹BCJ-L2_252gal/40kine 0.0254 (69.9mm) 0.0308 (84.8mm)
ステージ10凹(再)BCJ-L2_252gal/40kine 0.0265 (73mm) 0.0317 (87.2mm) 11月29日
11月30日
WL WS
最大層間変形角[rad]
加振日 ステージ
11月26日 11月27日
加振波
中加振
大加振
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06
WL WS
[rad]
入力:252gal
入力:
95 gal
図 6 1 階応答層間変位の推移(BCJ-L2)
■加振直交方向
WL(加振直交方向) WS(加振直交方向)
1F
2F 2F
WL(加振方向) WS(加振方向)
1F
■加振方向
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
Y0-B1 Y0-B2 Y0平均 Y3.5 Y5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
X0 X2.5 X5 X7.5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
Y0-B1 Y0-B2 Y0平均 Y3.5 Y5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
X0 X2.5 X5 X7.5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
X0 X2.5 X5 X7.5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
X0 X2.5 X5 X7.5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
Y0-B1 Y0-B2 Y0全体平均 Y3.5 Y5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
Y0-B1 Y0-B2 Y0全体平均 Y3.5 Y5
荷重[kN]
変形角[rad]
■加振直交方向
WL(加振直交方向) WS(加振直交方向)
1F
2F 2F
WL(加振方向) WS(加振方向)
1F
■加振方向
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
Y0-B1 Y0-B2 Y0平均 Y3.5 Y5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
X0 X2.5 X5 X7.5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
Y0-B1 Y0-B2 Y0平均 Y3.5 Y5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
X0 X2.5 X5 X7.5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
X0 X2.5 X5 X7.5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
X0 X2.5 X5 X7.5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
Y0-B1 Y0-B2 Y0全体平均 Y3.5 Y5
荷重[kN]
変形角[rad]
-150 -100 -50 0 50 100 150
-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06
Y0-B1 Y0-B2 Y0全体平均 Y3.5 Y5
荷重[kN]
変形角[rad]
図 7 荷重変形関係の例
WS_Y0,Y3.5,Y5通り負最大時 10.13 sec
-910 0 910 1820 2730 3640 4550 5460
-1820-910 0 91018202730364045505460637072808190 変位(mm)
変位(mm) -910
0 910 1820 2730 3640 4550 5460 6370 7280
-1820 -910 0 910 1820 27303640455054606370 変位(mm)
変位(mm)
WS
WL
2F変形図 1F変形図 加振方向
ステージ 4 JMA 神戸-NS 90gal
10.21 sec WL_Y0通り負最大時、WS_X2.5,X5,X7.5通り正最大時
-910 0 910 1820 2730 3640 4550 5460
-1820-910 0 91018202730364045505460637072808190 変位(mm)
変位(mm) -910
0 910 1820 2730 3640 4550 5460 6370 7280
-1820-910 0 910 182027303640455054606370 変位(mm) 変位(mm)
WS
WL
2F変形図 1F変形図 加振方向
ステージ 8 JMA 神戸-NS 316gal
図 8 2 階床の変形状態(変位 10 倍に拡大)
ステージ⑩
BCJ_L2
252gal 再加振 ステージ⑧BCJ_L2
252galテーマ
1
小課題番号1.4
2.3 内蔵を有する住宅の振動特性 (1) 研究の目的
小課題 1.4 では、伝統木造建物の実例研究として 秋田県横手市増田町の町屋 を取り上げ、耐震診断・
補強方法の検討を行ってい る。増田町の町屋は、建 物内部に内蔵と呼ばれる土 蔵を取り込み、その周囲 に鞘(さや)と呼ばれる覆 屋を組んで蔵前を吹き抜 けとし、通常 2 階建ての主屋と連続した架構とする という特徴を有している。 剛性や構造特性の異なる 部分を連続させた構造であ り、耐震性能の評価に難 しい面がある。振動特性の 把握および詳細な構造モ デル化の基礎資料を得るこ とを目的として、 2 棟に ついて常時微動測定および人力加振実験を行った。
(2)旧石平金物店の常時微動測定
測定対象である旧石平金物店の写真を写真 2 に示 す。図 9 に示す地盤、 2 階 床レベル、桁梁レベル合 計 33 点に速度計(株式会社東京測振製 VSE-15D)14 台を順次設置して 100Hz、500 秒間の測定を行い、FFT 解析を行って固有振動数、 振動モードの把握を行っ た。併せて並進振動固有振動数に合わせて 1 階で柱 3 本を押す方法により人力 加振を行い、加振停止後 の自由振動波形から対数減衰率を算出した。
2 階床レベルの主要な測定 点について、地動との スペクトル比による伝達関数を図 10 に示す。 図 10 から 2.86Hz、3.49Hz、5.02Hz、5.75Hz に明瞭なピー クが見られる。それぞれの ピーク振動数に対して、
各点の振幅比と位相から振 動モード図を描いた結果 を図 11 に示す。
図4から、2.86Hz では梁間方向(短辺方向)の並 進振動であるが、内蔵部分 の振幅が小さく道路側の 住 居 部 分 が 大 き く 振 ら れ る 振 動 形 を 示 し て い る 。 3.49Hz は主として梁間方向の振動であるが、内蔵と 住居部分が逆位相で全体と してはねじれ振動である。
5.02Hz も主として梁間方向の振動であるが、中央部 分で逆位相となる弓なりの振動形である。5.75Hz で は、梁間方向にも振動する 部分があるが、全体とし ては桁行方向(長辺方向)の 並進振動と見て取れる。
自由振動波形から対数減衰 率として得られた減衰 定数の値は、2.86Hz で 4.3%、3.49Hz で 2.3%、5.75Hz で 3.5%であった。
全体としては内蔵という水 平剛性の高い部分を含 み、比較的柔らかい水平構 面で連結されている構造 物であると捉えることができよう。
写真 2 旧石平金物店写真(外観および内部)
図 9 旧石平金物店常時微動計設置位置
0 20 40 60 80 100
0 2 4 6 8 10
伝達関数
振動数(Hz)
CH4/CH1 CH5/CH1 CH7/CH1 CH8/CH1 CH9/CH1
0 10 20 30 40 50
0 2 4 6 8 10
伝達関数
振動数(Hz)
CH10/CH1 CH11/CH1 CH12/CH2 CH14/CH2
a) 2 階床・梁間方向 b) 2 階床・桁行方向 図 10 旧石平金物店 地動との間の伝達関数
図 11 旧石平金物店 振動モード
1 階 床 (土 間 ) 2 階 床 レベル 桁 梁 レベル
→
:水 平 方 向○:上 下 方 向
2 階床レベル 桁梁レベル 2 階床レベル 桁梁レベル
a) 2.86Hz b) 3.49Hz
2 階床レベル 桁梁レベル 2 階床レベル 桁梁レベル
c) 5.02Hz b) 5.75Hz
(3) 佐藤又六家の常時微動測定
佐藤又六家の写真を写真 3 に示す。佐藤又六家は前 面に店蔵という蔵造りの部 分があり、鞘で覆われ、
鞘は主屋背面にまで伸びるという構造である。
同 様 に 常 時 微 動 測 定 、 人 力 加 振 を 行 っ た 結 果 、 2.28Hz、4.09Hz、4.52Hz、5.71 に明瞭なピークが見 られ、2.28Hz では手前の店蔵部分の振幅が大きい梁 間方向(短辺方向)の並進 振動 、4.09Hz は座敷蔵の 手前部分のねじれ振動、4.52Hz は桁行方向の並進振 動、5.71Hz は主として梁間方向の振動であるが、中 央部分で位相が逆転する弓なりの振動形であった。
自由振動波形から求めた減 衰定数は、梁間方向並 進の 2.28Hz で 3.1%、桁行方向並進の 4.52Hz で 2.2%
であった。
(4) 測定結果のまとめ
横手市増田町の内蔵を有する町屋 2 棟の常時微動 測定、人力加振を行った。 その結果、内蔵と周辺の 鞘は一体性を保った振動を 示している こと、建物全 体としては、水平剛性の高 い構造体が一部に配置さ れ、吹き抜けを挟んで水平剛性の低い 2 階建て部分 があり、相互にはせん断剛 性の低い水平構面で連結 されている構造と捉えられることがわかった。
3.平成 25 年度の成果
3.1 木質系狭小間口住宅の耐震補強構法の研究 (1) 背景と目的
近年、都市部では狭小間口 住宅の建設事例が多い が、間口方向に耐力壁を設 置することが難しいとい う問題がある。本研究は、低降伏点鋼を利用した「耐 力制振壁オメガシステム」(以下、オメガ壁)を配置 した木造住宅の実大振動台 実験により、その耐震補 強効果の確認を行うことを 目的とする。特に、狭小 間口方向に設けた壁長 600mm のオメガ壁(以下、細 幅構面オメガ壁)の耐震補強効果に着目する。
(2) 試験体と実験ケース
試験体は、軸組工法 3 階建て住宅(軽い屋根、耐 震等級 3)を想定した 2 階建てで、3 階建て相当の錘 を載せる。振動台上に同一 平面形状で耐力壁配置の 異なる 2 棟(A 棟、B 棟)を並べて設置し、同時に加 振を行う。また、途中で耐 力壁配置を変更し、前半 をステージ 1、後半をステ ージ 2 とする。各階の平 面は 3,640mm×9,100mm、 各階の重量 は錘を含 めて、
1 階は 109kN、2 階は 159kN である。階高は、1 階は 2,570mm、2 階(および 3 階の想定)は 2,850mm であ
る。写真 3 に試験体全景と細幅構面オメガ壁を、図 12 に供試体の 1 階耐力壁配置図を示す。ステージ 1 では建物手前の大開口周辺 に細幅構面オメガ壁を設 けるほか、構造用合板耐力壁と長さ 910mm のオメガ 壁を配置する。オメガ壁の 数(細幅構面オメガ壁を 含む)は、A 棟で 6、B 棟で 4 である。ステージ 2 で は、2 棟で内部の構造用合 板耐力壁の配置を同一と し、大開口周辺に A 棟は細 幅構面オメガ壁、 B 棟は 構造用合板耐力壁を使用す る。なお、設計上の壁倍 率は、オメガ壁が倍率 4、細幅構面オメガ壁が倍率 5、
構造用合板耐力壁(片面)が倍率 2.5 である。
写真 3 試験体写真(全景・細幅構面オメガ壁)
a) ステージ 1 A 棟(左)及び B 棟(右)
b) ステージ 2 A 棟(左)及び B 棟(右)
図 12 試験体 1 階耐力壁配置
テーマ
1
小課題番号1.4
(3) 実験方法
ステージ 1、ステージ 2 ともに、主要な加振 波は、
BCJ-Level2、20%および 100%、JMA 神戸 NS、50%およ び 70%とし、これらの加振 前後に振動測定の把握の ため Step 波およ び White Noise 波による加振を行う。
ステージ 1 からステージ 2 に移る際には、試験体の 軸組はそのまま再利用する が、構造用合板の貼り替 え や 釘 の 増 し 打 ち を 行 っ て い る 。 ま た 、 JMA 神 戸 NS50%および 70%による大加振前には、それ以前の加 振による接合部損傷箇所の修復を行っている。
(4) 実験結果
実験結果の例として、JMA 神戸 NS 50%に対する 1 階の荷重変形関係(変位と して重心位置の変位を用 いたもの)を図 13 に、1 階の大開口位置における層 間変位および層間変形角の最大値を表 2 に示す。
これらの結果から、ステー ジ 1 の荷重変形関係は、
ステージ 2 に比べて履歴吸収エネルギーが大きいこ とが窺え、これはオメガ壁 の数によるものと考えら れる。また、ステージ 2 の A 棟と B 棟を比較すると、
B 棟において特に大開口位 置での変形が層間変形角 で 1/19 ラジアンと大きく、A 棟においては 1/23 ラ ジアンに納まっていること から、細幅構面オメガ壁 が変形抑制に有効に機能したことが確認できる。
損傷としては構造用合板耐 力壁の釘接合部の損傷、
細幅構面オメガ壁の柱脚接合部の損傷が見られた。
(5) 振動実験のまとめ
耐力制振壁(オメガ壁)を 配置した狭小間口の木 造住宅 2 棟 2 ステージの実大振動台実験により、オ メガ壁の実建物内での挙動 を把握 し、変形抑制効果 を確認した。損傷状況から オメガ壁の最大耐力に見 合った接合仕様選択の重要性が示唆された。
3.2 疑似 3 次元モデルによる評価法の提案
これまで検討の俎上に上が った凹型平面などの不 整形平面を有する木造住宅 、内蔵など剛性の高い部 分を有する木造住宅、木質 ラーメン や高剛性高耐力 の耐力制振壁を補強に用い た木造住宅においては、
地震時に水平構面のせん断変形を含む 3 次元的な挙 動が現れ、その耐震性能評価を難しくしている。
このような観点から、図 14 に示すような、水平構 面のせん断変形を考慮した疑似 3 次元モデルを用い た耐震性能評価法を提案す る。質点間の伸縮、上下 方向への変位を無視するこ とによって自由度は独立 な鉛直構面の数だけの簡易 なモデル化が可能 となり、
a) ステージ 1 A 棟(左)及び B 棟(右)
b) ステージ 2 A 棟(左)及び B 棟(右)
図 13 1 階の荷重変形関係(JMA 神戸 NS 50%)
表 2 1 階層間変位および層間変形角の最大値 ス テ ー ジ ス テ ー ジ
1
ス テ ー ジ2
試 験 体A
棟B
棟 A棟B
棟 最 大 層 間 変位 ・ 正側 ( mm) 108.6 100.4 119.6 146.4 最 大 層 間 変位 ・ 負側 ( mm)-44.3 -51.3 -53.1 -94.0
最 大 層 間 変形 角 ( rad)1/25 1/27 1/23 1/19
図 14 水平構面せん断変形を考慮したモデル化
限界耐力計算と同様の等価 な一自由度系への置換に よって、地震に対する応答予測が可能となる。
ただし、偏心が極めて大 きい場合の外力分布や、
減衰特性の著しく異なる要 素が偏在する場合の応答 予測手法等については、更なる検討が必要である。
謝辞
木 質 ラ ー メ ン と 耐 力 壁 の 併 用 構 造 の 振 動 実 験 は
(独)建築研究所との、凹 型平面を有する住宅の振 動実験は三菱地所ホーム株 式会社との、木質狭小間 口住宅の振動実験は株式会 社サトウとの共同研究と して実施された。関係各位に謝意を表する。