12 . 微分係数の定義
科目: 基礎解析学I及び演習(1‐3組)
担当: 相木
高校で微分を習った際,極限を使って定義したと思うが,この授業においては「極限」
という概念を厳密に再定義し,色々な性質をみてきた.これによって「微分」も厳密化さ れる.
微分可能・微分係数
a, b∈R, a < bとし,I = (a, b)を開区間とする.f :I →Rとα ∈Iに対して,以下 が成り立つときにf はαで微分可能であるという.
∃l∈R, lim
x→α
f(x)−f(α) x−α =l.
(1)
このとき,lをfのαにおける微分係数といい,(1)に表れる極限をdf
dx(α)と書く.つ まり,fのαにおける微分係数がlであることを
df
dx(α) = l と書く.df
dx(α)のことをf′(α)とも書く.
∀α∈Iに対してf がαで微分可能なとき,fはI上で微分可能であるという.
今,fはI上で定義された関数なので,f(x)−f(α)
x−α はI\ {α}上で定義された関数で ある.分母にx−αがあるのでx=αでは定義されないが,1点で関数が定義されていな くても,その点に近づくときの極限の有無は定義されていたことを思い出そう(プリント 6参照).(1)は,そうして定義されている極限が存在するときにf がαで微分可能であ るとして定義しているのである.
関数がある点で微分可能であることから分かる重要な性質として以下がある.
微分可能と連続の関係
a, b∈R, a < bとし,I = (a, b)を開区間とする.f :I →Rとα∈Iに対して f は α で微分可能 ⇒ f は α で連続
が成り立つ.
これは,関数が連続であることより微分可能であることの方が強い条件であることを言っ
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ている.一般に,この逆は成り立たない(演習問題).
微分可能性の基本性質
a, b∈R, a < bとし,I = (a, b)を開区間とする.f :I →Rとg :I →Rは共にα∈I で微分可能であるとする.このとき,以下が成り立つ.
(i) ∀s, t∈Rに対してsf +tgはαで微分可能で
(sf+tg)′(α) =sf′(α) +tg′(α) (微分の線形性)
が成り立つ.
(ii) f gはαで微分可能で
(f g)′(α) =f′(α)g(α) +f(α)g′(α) (積の微分公式)
が成り立つ.
(iii) f(α)̸= 0ならば g
f はαで微分可能で (g
f )′
(α) = g′(α)f(α)−g(α)f′(α)
f2(α) (商の微分公式)
が成り立つ.
合成関数の微分
a, b, c, d∈R, a < b, c < dとし,I = (a, b), J = (c, d) を開区間,α∈Iとする.関数 f :I →Rとg :J →Rは以下の3つを満たすとする.
(i) ∀x∈I, f(x)∈J.
(ii) f はαで微分可能である.
(iii) gはf(α)∈Jで微分可能である.
このとき,fとgの合成g◦f :I →Rもαで微分可能で (g◦f)′(α) = g′(f(α))f′(α) が成り立つ.
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予約制問題
(12-1) 微分の線形性を証明せよ.
(12-2) 積の微分公式を証明せよ.
(12-3) I = (a, b)を開区間とし,f :I →Rはα∈Iで微分可能であるとする.fはα で 連続であることを証明せよ.
早いもの勝ち制問題
(12-4) m ∈Nに対してR上の関数f(x)をf(x) = xmとおく.微分係数の定義(1)にし たがってα ∈Rに対してf′(α) = mαm−1を示せ.
(12-5) I = (a, b)を開区間とし,f :I →Rはα∈Iで微分可能であり,∃l∈Rに対して f′(α) = lであるとする.このとき,
lim
h→0
f(α+h)−f(α)
h =l
を関数の極限の定義にしたがって示せ.
(12-6) I = (a, b)を開区間とし,f :I →Rはα∈Iで微分可能であり,∃l∈Rに対して f′(α) = lであるとする.このとき,
hlim→0
f(α)−f(α−h)
h =l
を関数の極限の定義にしたがって示せ.
(12-7) fはR上の関数でR上で微分可能であるとする.このとき,m∈Nに対してf(xm) のα ∈Rにおける微分係数を求めよ.ただし,(11-4)の結果を用いてもよい.
(12-8) ある点で連続であるが微分可能ではないような関数の例を1つ挙げ,それを示せ.
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