DDL が育む英語の文法規則に対する気づきの力
西垣 知佳子
1横田 梓
2神谷 昇
3安部朋世
4小山義徳
51,3,4,5千葉大学教育学部 〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町
1-33
2千葉大学教育学部附属中学校 〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町
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あらまし 本稿では,中学2年生の英語授業にData-Driven Learning(DDL:データ駆動型学習)を活用して文法指導 を実施し,未習の文法規則に気づく力における指導効果を検証した。DDLとは,学習者が,コーパスから抽出され たコンコーダンスラインを見て,帰納的に文法規則を発見して学ぶ方法である。筆者らは中学生の英語レベルに適 合させるために,提示するコンコーダンスラインやDDL活動に工夫を加えている。DDL群(処置群)では,文型 と品詞に関するDDL指導を合計7回行った。その後,未習の英文用例を見て,文法規則に気づき,それを記述する という「文法規則発見テスト」を実施した。通常の文法指導を受けてきた通常群(対照群)と発見記述について比 較したところ,DDL群において統計的にも有意な効果があった。これらの結果から,DDLが文法規則の発見力・気 づき力の育成において効果的であることが検証された。
キーワード DDL,データ駆動型学習,英文法,気づき
Promoting Noticing of Grammar Rules through Data-Driven Learning
Chikako NISHIGAKI † Azusa YOKOTA ‡ Noboru KAMIYA † Tomoyo ABE † and Yoshinori OYAMA †
†Faculty of Education, Chiba University 1-33 Yayoi-cho, Inage-ku, Chiba, 263-8522 Japan
‡Affiliated Junior High School of Faculty of Education, Chiba University 1-33 Yayoi-cho, Inage-ku, Chiba, 263-8522 Japan
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Abstract This paper presents the results of a modified version of Data-Driven Learning (DDL) used in an 8th grade EFL class in Japan. With DDL, students inductively learn grammar by noticing patterns in concordance lines extracted from a corpus. In this study, the treatment group experienced four DDL classes focusing on the structural pattern of a sentence and three on learning the functions of parts of speech. The control group was taught the same grammar in a traditional teacher-centered way. Students in both groups described the grammar rules they found in the concordance lines. Students’ findings were analyzed and categorized according to the depth of their insights into the grammar rules. The results showed that the treatment group noticed and described unknown English rules with clearer understanding than the control group.
Keywords Data-Driven Learning, English grammar, noticing
1. 研 究 の 背 景 と 目 的
本 節 で は , は じ め に Data-Driven Learning(DDL:
デ ー タ 駆 動 型 学 習 )の 手 法 に つ い て ,次 にDDLの 指 導 効 果 に つ い て , 先 行 研 究 調 査 の 結 果 を 述 べ る 。 1.1 DDLと は
DDL は コ ー パ ス 言 語 学 の 手 法 を 言 語 教 育 に 援 用 す
る も の で ,Johns(1991)[1]に よ っ て 提 唱 さ れ た 。DDL で は , コ ー パ ス ( 電 子 化 さ れ た 言 語 デ ー タ ) を , 専 用 の 検 索 ソ フ ト を 使 っ て 検 索 す る 。 そ の 結 果 , 検 索 語 を 中 心 に 置 い た 形 で 英 文 が コ ン ピ ュ ー タ ー の モ ニ タ ー に 表 示 さ れ る 。 さ ら に , 条 件 を 指 定 し て ソ ー ト す る と , 検 索 語 の 前 後 に 現 れ る 単 語 や 表 現 を 見 や す く 並 べ て 示
す こ と が で き る 。 図 1 は ,want を 検 索 語 と し て , CORPUS.BYU.EDUでBritish National Corpus(2007)[2]
を 検 索 し た も の で あ る 。例 文 を100件 に 絞 り ,want の 右 側 に 現 れ る 語 を ア ル フ ァ ベ ッ ト 順 に ソ ー ト し て 検 索 し た 結 果 の 一 部 で あ る 。図 1の 例 文 を 観 察 す る と ,want は [want + 名 詞],[want + to不 定 詞],[want +人+ to不 定 詞] の 文 構 造 で 使 わ れ る こ と が わ か る 。 こ の よ う に DDLで は 学 習 者 が 検 索 結 果 の 英 文 を 見 て ,語 法 や 文 法 規 則 を 自 分 で 発 見 し て 学 ぶ こ と が で き る 。
図1 wantを 検 索 し た 画 面 例
1.2 外 国 語 学 習 と DDL
DDLは , 語 彙 (O’Keeffe, et al., 2007)[3], コ ロ ケ ー シ ョ ン (Molina-Plaza, 2010)[4], ラ イ テ ィ ン グ (Tono, et al., 2014)[5], 誤 り 訂 正 (Frankenberg-Garcia, 2014)
[6]等 , 第 2言 語 学 習 の 多 様 な 面 で 活 用 さ れ て い る 。 ま た , 多 量 で 豊 富 な オ ー セ ン テ ィ ッ ク な 英 語 に 触 れ ら れ る と い う 点 が 大 き な 特 長 で あ る と 言 わ れ る (Allan, 2009)[7]。さ ら に ,帰 納 的 な 学 習 に 有 効 で あ る(Smart, 2014)[8],深 い 学 び が お き る(O’Sullivan, 2007)[9],記 憶 の 保 持 に 良 い (Cobb, 1999)[10]等 の 報 告 も あ る 。
DDLは 本 来 ,オ ー セ ン テ ィ ッ ク な 英 文 に 触 れ ら れ る 点 が 強 み で あ る が , 一 方 で , オ ー セ ン テ ィ ッ ク な 英 語 を 教 材 と し て 検 索 す る た め , 英 文 の レ ベ ル が 高 く , 入 門 ・ 初 級 学 習 者 の 指 導 に 適 用 で き な い と い う 指 摘 も あ る(Allan, 2009)[11]。そ こ で DDLを 幅 広 い レ ベ ル の 学 習 者 に 活 用 す る た め に , 気 づ き を 引 き 出 し や す い 英 文 を 教 師 が 精 選 し ,英 文 の 数 を 絞 っ て 提 示 す る 形 のDDL も 実 践 さ れ て い る 。 選 定 さ れ た 英 文 を 印 刷 し て 学 習 者 に 配 布 す る 紙 版 DDLも 実 践 さ れ て い て , 紙 版 DDLが 検 索 用 ソ フ ト を 使 っ て 学 習 す る デ ジ タ ル 版 DDL と 同 様 の 学 習 効 果 を も た ら す こ と も 報 告 さ れ て い る(Chujo, et al., 2012)[12]。現 在 で は ,多 様 な 形 で DDLは 活 用 さ れ て い て , 高 い 指 導 効 果 を あ げ て い る こ と が メ タ 分 析 の 結 果 か ら も 確 認 さ れ て い る (Mizumoto & Chujo, 2015;Boulton & Cobb,2017)[13][14]。
こ の よ う に , 今 日 , 様 々 な 方 法 で 活 用 さ れ 効 果 を あ げ て い る DDLで あ る が ,小・中 学 生 の よ う な 入 門・初
級 学 習 者 へ の DDL 適 用 の 報 告 例 は ,Takahashi and Fujiwara (2016) [15],Boontam and Phoocharoensi (2018)
[16]等, 非 常 に 限 ら れ て い る 。 そ う し た な か , 本 研 究 グ ル ー プ で は , 小 ・ 中 学 生 を 対 象 に , 英 語 の 文 法 指 導 に DDL を 導 入 し ,文 法 学 習 に お け る 記 憶 の 定 着 と 保 持 に 関 す る 効 果 等 を 報 告 し て き た ( 西 垣 他 ,2015[17];; 小 山 他 ,2017[18]; 物 井 他, 2019予 定[19])。
本 研 究 グ ル ー プ で は 入 門 期 学 習 者 の レ ベ ル に 配 慮 し て ,DDL に 独 自 の 工 夫 を 行 っ て い る 。 具 体 的 に は , パ ソ コ ン 画 面 に 表 示 さ れ る 英 文 ( コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン と 呼 ば れ る ) に , そ の 日 本 語 訳 を 併 記 す る 2言 語 併 記 の コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン を 採 用 し て い る ( 具 体 例 は 図 3を 参 照 さ れ た い )。採 用 の 理 由 は ,日 本 語 と 英 語 の 比 較 を と お し て 生 徒 か ら 気 づ き を 引 き 出 し や す く , ま た 日 本 語 訳 を 載 せ る こ と で 英 文 理 解 の 難 易 度 が 下 げ ら れ , 生 徒 の 英 語 に 対 す る 抵 抗 感 を 下 げ ら れ る た め で あ る 。 さ ら に , コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン の 英 文 自 体 に つ い て も , 学 習 者 の レ ベ ル に 合 わ せ て 語 彙 や 文 法 等 を 調 整 し て い る 。
筆 者 ら は こ れ ま で 主 に ,記 憶 の 定 着 に 関 し て DDLの 効 果 を 検 証 し て き た 。そ こ で ,本 研 究 で は ,DDL学 習 に よ っ て , 中 学 生 が 未 習 の 文 法 事 項 と 遭 遇 し た 際 に , そ の 規 則 に 気 づ き , 発 見 す る 力 が 育 成 さ れ る か ど う か を 検 証 し た い と 考 え た 。
1.3 研 究 の 目 的
以 上 を 踏 ま え た 本 研 究 の 目 的 は ,「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 重 視 の 中 学 校 の 英 語 授 業 に DDL を 取 り 入 れ る と , 未 習 の 英 文 法 の 規 則 に 気 づ く 力 が 育 成 さ れ る か ど う か に つ い て 検 証 す る こ と 」 で あ る 。 設 定 し た 研 究 課 題 は 以 下 で あ る 。
研 究 課 題
中 学 生 が DDL を 活 用 し て 帰 納 的 に 英 文 法 を 理 解 し 習 得 す る と , 未 習 の 文 法 規 則 に 遭 遇 し た 際 に , そ の 規 則 に 自 ら 気 づ く 力 は 育 成 さ れ る で あ ろ う か 。
2 研 究 の 方 法
本 節 で は ,参 加 者・指 導 者 ,研 究 の 流 れ ,DDL実 践 , 評 価 方 法 に つ い て 述 べ る 。
2.1 参 加 者 ・ 指 導 者 と 研 究 の 流 れ
本 研 究 に は , 千 葉 県 内 国 立 大 学 附 属 中 学 2年4ク ラ ス の 生 徒 126名 が 参 加 し た 。そ の 内 訳 は ,DDL授 業 を 受 け た DDL 群 ( 処 置 群 )53 名 と , 通 常 の 授 業 を 受 け た 通 常 群( 対 照 群 )73 名 で あ っ た 。図2に 本 研 究 の 流 れ を 示 す 。 長 期 欠 席 者 や テ ス ト を 受 験 で き な か っ た 者 は デ ー タ に は 含 ま れ て い な い 。ま た ,DDL群 と 通 常 群 で は , 異 な る 指 導 者 が 指 導 し た 。
図2 研 究 の 流 れ
当 該 DDL実 践 校 で は ,学 校 の 取 り 組 み と し て「 実 践 知 を 培 う 授 業 の あ り 方 」 を 研 究 テ ー マ と し て 授 業 研 究 を 行 っ て い る 。 外 国 語 科 で は , 実 社 会 で 使 え る 英 語 力 の 習 得 を 目 指 し , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 や 自 己 表 現 活 動 を 多 く 授 業 に 取 り 入 れ て い る 。 そ し て 通 常 群 で は 文 法 事 項 を 教 師 主 導 型 の 方 法 で 学 ん で い る 。一 方 ,DDL 群 で は ,文 法 学 習 に 生 徒 主 導 型 のDDLを 取 り 入 れ ,実 践 1で4 回 , 実 践 2で 3回 , 合 計 7回 の DDL 活 動 を 行 っ た ( 図2)。
通 常 群 と DDL群 の 両 者 は ,中 学 3年 生 に 進 学 し た 5 月 に ,2 種 類 の 英 語 力 に 関 わ る テ ス ト を 受 け た 。1 つ は ,一 般 的 な 英 語 の 文 法 力 に お い て ,DDL群 と 通 常 群 が 等 質 の グ ル ー プ で あ る か ど う か を 検 証 す る「 文 法 力 」 の 確 認 テ ス ト で あ る 。 も う1つ は , 本 研 究 の 研 究 課 題 で あ る 新 規 の 文 法 規 則 に 気 づ く 力 を 調 査 す る 文 法 規 則 の「 発 見 力 」テ ス ト で あ る 。テ ス ト の 詳 細 は 後 述 す る 。 2.2 DDL実 践 1
こ こ で は , 図 2 に 示 さ れ て い る DDL 実 践 1 に つ い て , 実 践 方 法 と 評 価 方 法 を 述 べ る 。
(1) 実 践 方 法
DDL 実 践 1で は , 約 20 分 ~30 分 の DDL 活 動 を 取 り 入 れ た 授 業 を 4回 行 っ た 。 実 践 参 加 者 の 前 期 期 末 テ ス ト の 結 果 か ら ,第3文 型(SVO)と 第 4文 型(SVOO)
の 文 の 構 造 の 違 い に 関 す る 理 解 が 充 分 で な い こ と が 判 明 し た こ と か ら , 学 習 タ ー ゲ ッ ト は こ れ ら の 文 型 と し た 。さ ら に 発 展 的 に 第 5文 型 の 導 入 も 行 う こ と と し た 。 4回 の DDL授 業 の 内 容 は 以 下 の と お り で あ る 。
第1回 第3文 型 と 第 4文 型 の 復 習 (showを 使 っ て ) 第2回 第3文 型 と 第 4文 型 の 復 習 (makeを 使 っ て )
第3回 第3文 型 でto 使 う 動 詞 と forを 使 う 動 詞
(showとmakeを 使 っ て )
第4回 第4文 型 と 第 5文 型 (makeを 使 っ て ) 文 法 規 則 発 見 の た め に 利 用 す る 2言 語 併 記 の コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン を ワ ー ク シ ー ト の 形 式 に し て , 教 師 か ら 生 徒 の タ ブ レ ッ ト に 配 信 し た 。 生 徒 に 提 示 し た コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン の 例 と し て , 第 1回 の 実 践 に 使 用 し た も の を 図 3に 示 す 。
ま た , デ ジ タ ル 版 ワ ー ク シ ー ト と 同 じ も の を 印 刷 し た 紙 版 ワ ー ク シ ー ト も 配 布 し た 。 こ れ は ワ ー ク シ ー ト に 発 見 し た こ と を 記 述 し た り , 復 習 用 に 保 存 し た り す る た め で あ る 。
図3 実 践1で 使 用 し た コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン の 例
上 記 の コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン を 使 っ て , 次 の4つ の ス テ ッ プ で DDL活 動 を 行 っ た 。
1個 別 活 動 ワ ー ク シ ー ト を 使 い 文 法 規 則 の 発 見 活 動 2協 働 学 習 自 分 の 発 見 を 友 だ ち と シ ェ ア
3集 団 学 習 ク ラ ス 全 体 で 発 見 内 容 の ま と め
4発 展 学 習 DDLサ イ ト のSCoRE( 中 條 他 ,2018)[20]
[21] 註1)を 検 索 し て 例 文 の チ ェ ッ ク
発 展 学 習 で の SCoRE検 索 は ,生 徒 が ,学 習 し た 文 法 事 項 を 多 様 な 例 文 の 中 で 確 認 し , 自 分 の 立 て た 文 法 規 則 の 仮 説 を 検 証 す る 機 会 を 設 け る た め に 行 っ た 。
入 門 期 学 習 者 は 第 2 言 語 の 知 識 が 未 熟 で あ る こ と か ら , 自 分 の 力 で は 文 法 規 則 の 発 見 を で き な い こ と が あ る 。 そ こ で 教 師 が 次 の 4 つ の 活 動 を 行 っ て , 生 徒 の 発 見 を 引 き 出 す よ う に 足 場 掛 け を し た 。
活 動1 リ ス ト 1と リ ス ト 2を 見 て く だ さ い 。「 ~ を 見 せ る / ~ を 見 せ た 」 の 「 ~ を 」 に あ た る 意 味 の ま と ま り を 黄 色 で 塗 っ て く だ さ い 。 → 黄 色 の 部 分 が 目 的 語 で す 。
活 動 2 リ ス ト 1と リ ス ト 2を 比 べ て , 共 通 す る 点 と 異 な る 点 を あ げ て く だ さ い 。
活 動3 リ ス ト2と リ ス ト 3を 見 て く だ さ い 。「 ~ に 見 せ る / ~ に 見 せ た 」 の 「 ~ に 」 に あ た る 意 味 の ま と ま り を 緑 色 で 塗 っ て く だ さ い 。 → 緑 色 の 部 分 が 間 接 目 的 語 で す 。
活 動 4 リ ス ト 1~ リ ス ト 3を 比 べ て , 共 通 す る 点 と 異 な る 点 を ま と め て く だ さ い 。
以 上 の DDL 発 見 活 動 の 後 に は , 第 4 文 型 を 使 っ て 表 現 す る タ ス ク を 2つ 行 っ た 。1つ 目 は ,「 ス ク リ ー ン の 絵 や 写 真 を 見 て , そ の 様 子 を 表 現 す る 英 文 を た く さ ん つ く っ て 言 っ て み ま し ょ う 。」 と い う 練 習 で あ っ た 。 2つ 目 は ,「 友 だ ち に 誕 生 日 プ レ ゼ ン ト を あ げ る と し た ら , 誰 に 何 を あ げ ま す か 。 そ の 人 に 合 っ た プ レ ゼ ン ト を 考 え て , 時 間 内 に な る べ く 多 く の 英 文 を 書 い て み ま し ょ う 。」 と い う も の で あ っ た 。
(2) 評 価 方 法
実 践 1の 学 習 タ ー ゲ ッ ト で あ る 文 法 項 目 の 知 識 の 理 解 に 関 す る 定 着 状 況 を 確 認 す る た め に , 事 前 テ ス ト , 事 後 テ ス ト( 指 導4週 間 後 ),遅 延 テ ス ト( 指 導 9週 間 後 ) の 3回 テ ス ト を 行 っ た 。 テ ス ト は , 並 べ 替 え 問 題
(2点 ×10 題 ) と 空 所 補 充 問 題 (2点 ×10 題 ) の2種 類 で あ っ た 。2種 の 問 題 の 例 を 図 4, 図5に 示 す 。
図4 並 べ 替 え 問 題 の 例
図5 空 所 補 充 問 題 の 例
テ ス ト に は , 学 習 タ ー ゲ ッ ト に 含 ま れ な い 文 法 事 項 も 問 題 に 含 め た 。 学 習 事 項 の み を 出 題 す る と , 正 解 を 推 測 し て 答 え る 場 合 が あ る と 考 え ら れ る た め で あ る 。 以 上 の DDL実 践1の 詳 細 は 横 田(2017, 2018)[22][23]を 参 照 さ れ た い 。
2.3 DDL 実 践 2
こ こ で は ,図2の 中 の DDL実 践2に つ い て ,実 践 方 法 と 評 価 表 法 に つ い て 述 べ る 。
(1) 実 践 方 法
こ の 実 践 で の 学 習 タ ー ゲ ッ ト は , 文 法 学 習 の 基 本 で あ る 名 詞 , 動 詞 , 形 容 詞 の 文 中 で の 働 き を 確 認 し , 品 詞 の 知 識 を 整 理 す る こ と で あ っ た 。 は じ め に , 事 前 準 備 と し て 名 詞 , 動 詞 , 形 容 詞 と い う 文 法 概 念 を 復 習 し た 。復 習 は ,birthday, think, happy等 の 単 語 を 印 刷 し た 30 枚 の カ ー ド を 名 詞 ,動 詞 ,形 容 詞 に グ ル ー プ 分 け す る 作 業 を ペ ア で 行 っ た 。 品 詞 の 復 習 を し た う え で , 次 の よ う な 約 15分 のDDL活 動 を 3回 行 っ た 。 使 用 し た コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン の 例 を 図 6に 示 す 。
第1回 workが 名 詞 と 動 詞 の 両 方 で 働 く 用 例 を 観 察 し て , 働 き の 違 い を 確 認 し た 。
第2回 Japaneseが 名 詞 と 形 容 詞 の 両 方 で 働 く 用 例 を 観 察 し て , 働 き の 違 い を 確 認 し た 。
第3回 clearが 形 容 詞 と 動 詞 の 両 方 で 働 く 用 例 を 観 察 し て , 働 き の 違 い を 確 認 し た 。
図6 実 践2で 使 用 し た コ ン コ ー ダ ン ス の 例
こ の 実 践 で は , 日 本 語 訳 が 付 い て い る と , 品 詞 が わ か っ て し ま う の で ,2 言 語 併 記 の コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン に は せ ず , 英 文 の み を 提 示 し た 。 ま た , コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン を 載 せ た ワ ー ク シ ー ト は , ハ ン ド ア ウ ト に し て 配 布 し た 。
(2) 評 価 方 法
DDL実 践2の 効 果 検 証 に は ,品 詞 に 関 す る 知 識 を 問 う テ ス ト を , 実 践 の 前 後 に , 事 前 テ ス ト と 事 後 テ ス ト
( 指 導 1 週 間 後 ) と し て 実 施 し た 。 な お , 遅 延 テ ス ト は 年 度 末 の 学 校 行 事 の た め 実 施 で き な か っ た 。
使 用 し た テ ス ト 問 題 の 例 を 図7に 示 す 。 問 題 の 内 訳 は ,「 英 文 を 見 て ,下 線 が 引 い て あ る 単 語 の 品 詞 を 選 び , 該 当 す る 品 詞 を 丸 で 囲 む 」 問 題 が 6題 , ま た 「 下 線 が 引 い て あ る 単 語 の 品 詞 を 選 び , そ れ を 選 ん だ 理 由 を 書 く 」 問 題 が 6題 , 合 計 12題 あ っ た 。
採 点 の 際 は , 品 詞 を 正 し く 選 ん で 理 由 を 正 し く 答 え ら れ た 場 合 に 得 点 を 与 え た 。
問 与 え ら れ た 単 語 を 並 べ か え て , 日 本 語 に も っ と も あ う 適 切 な 文 に な る よ う に 英 文 を つ く っ て く だ さ い 。 た だ し , 使 わ な い 単 語 が 1 語 含 ま れ て い ま す 。ま た 文 頭 の 単 語 も 小 文 字 で 示 さ れ て い ま す 。
(1) ト ム は 自 分 の 写 真 を ク ラ ス メ ー ト に 見 せ た 。 his classmates/his pictures/for/showed/Tom
問 日 本 語 の 内 容 に 合 う 英 文 と な る よ う に ,( ) に 適 切 な 単 語 を 1 語 ず つ 記 入 し て く だ さ い 。 (1) 父 は 私 に 1匹 の イ ヌ を 買 っ て く れ た 。
My father ( ) ( ) ( ) ( ).
図7 実 践2で 実 施 し た テ ス ト 問 題 の 例
2.4 文 法 規 則 の 発 見 力 の 評 価
本 研 究 の 研 究 課 題 で あ る 「 未 習 の 文 法 規 則 の 発 見 力 の 向 上 」 を 調 査 す る た め に , 図 2の 中 の 「 文 法 力 」 の 確 認 テ ス ト と 文 法 規 則 の「 発 見 力 」テ ス ト を 実 施 し た 。 テ ス ト は , 参 加 者 が 中 学 3年 生 に な っ た 5月 に 実 施 し た 。 以 下 に , そ れ ぞ れ の テ ス ト に つ い て 述 べ る 。
(1) 文 法 確 認 テ ス ト
文 法 確 認 テ ス ト は ,DDL群 と 通 常 群 が 一 般 的 な 英 語 文 法 力 の レ ベ ル に お い て , 等 質 な グ ル ー プ で あ る か ど う か を 確 認 す る た め , 参 加 者126名 全 員 に 対 し て 実 施 し た 。問 題 は ,実 用 英 語 技 能 検 定( 英 検 )3級( 中 学 卒 業 レ ベ ル ) の 過 去 に 出 題 さ れ た 文 法 問 題 か ら , 空 所 補 充 15 題 と 並 べ 替 え 問 題 5 題 を 抽 出 し 出 題 し た (20 点 満 点 )。 テ ス ト の 結 果 ,DDL 群 の 平 均 得 点 は 15.09 点
(SD=4.78), 通 常 群 の 平 均 得 点 は 14.9 点 (SD=4.78)
で あ っ た 。t検 定 の 結 果 ,両 群 の 得 点 差 は 有 意 な も の で は な か っ た(t (124)= 0.581, p= 0.562)。こ の こ と か ら , 両 群 は 文 法 力 に お い て , 同 等 の 英 語 力 を 有 し て い る こ と が 確 認 さ れ , 等 質 な 学 習 者 群 で あ る と 判 断 し た 。
(2) 文 法 規 則 の 「 発 見 力 」 テ ス ト
新 規 文 法 項 目 に 対 す る 文 法 規 則 の 「 発 見 力 」 を 調 査 す る た め に テ ス ト を 行 っ た 。 こ の テ ス ト は 図8に 示 す も の で , 生 徒 は 英 文 と 日 本 語 訳 を 見 て , 自 分 が 気 づ い た 英 語 の 文 法 規 則 を 自 分 自 身 の 言 葉 で 記 述 し た 。 授 業 中 の DDL で は , 検 索 語 を 英 文 の 中 心 に 置 く 形 で コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン を 示 し て い る が , 本 テ ス ト で は 英 文 を 左 詰 め の 一 般 的 な 形 式 で 示 し た 。
問 英 文 と 日 本 語 訳 を 見 て 気 づ い た 英 文 法 の 規 則 を 書 い て く だ さ い 。
図8 文 法 の 規 則 発 見 テ ス ト
上 記 の コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン で は , 知 覚 動 詞 を 含 む 第5文 型(SVOC)の 英 文 を 見 て 文 構 造 に 気 づ く こ と が
ポ イ ン ト で あ り , 補 語 が 動 詞 の 原 形 の 例 文 と 現 在 分 詞 の 例 文 が あ る 。 知 覚 動 詞 は , 高 校 の 学 習 内 容 で あ り , 中 学 校 検 定 教 科 書 で は 扱 わ れ て い な い た め , 中 学 3年 生 5月 の 時 点 で は , 学 習 者 に と っ て 未 習 の 文 法 規 則 で あ る と 推 定 さ れ る 。
効 果 の 検 証 は , 生 徒 が ワ ー ク シ ー ト に 記 入 し た 発 見 内 容 を 質 的 に 分 析 し た 。 具 体 的 に は , 生 徒 の 発 見 内 容 を 読 ん で , そ の 内 容 に し た が っ て , 次 の よ う な 4つ の 規 準 で 分 類 し た 。
分 類1 無 回 答 , 誤 認
無 回 答 で あ っ た り , 文 法 規 則 を 誤 認 し て い た り す る も の を こ の 分 類 に 含 め た 。 例 え ば , 下 記 の(1)の よ う に...ing 形 を 動 名 詞 と と ら え た も の は , 分 類 1 に 含 め た 。 テ ス ト 問 題 ( 図 8) の 中 の 4 番 の 英 文 を 見 る と 後 置 修 飾 に も 見 え る が , 日 本 語 訳 と 併 せ て 考 え れ ば , こ の 捉 え 方 は 適 切 で な い こ と は わ か る 。 た だ し , 今 回 使 っ た 規 則 発 見 テ ス ト を 改 訂 す る 際 に は , こ の よ う な 紛 ら わ し い 英 文 は 含 め な い よ う に し た い。
(1) Miho saw him reading a book. 動 名 詞 が 名 詞 を 修 飾 し て い る 。
分 類2 表 面 的 ・ 既 存 知 識
分 類2に は ,例 え ば 下 の(2)(3)の よ う に ,見 れ ば わ か る よ う な 表 面 的 な 事 象 を と ら え て 説 明 し て い る も の や , (4)(5)の よ う に 中 学 1 年 生 で 既 習 の 過 去 形 に 関 す る 規 則 に 関 し て 書 い て い る も の を 含 め た 。
(2) 全 て の 文 に saw が あ る 。 (3) ひ と つ の 文 に 動 詞 が2つ あ る 。 (4) see の 過 去 形 はsaw で あ る 。
(5) Heや Sheで も Iと 変 わ ら な いsawを 使 っ て い る 。
分 類3 関 係 性 の 記 述
分 類3に は ,下 の(6)の よ う に ,目 的 語 の 直 後 に そ の 目 的 語 の 動 作 を 表 す 表 現 が 置 か れ て い る と い う よ う な , 語 句 の 相 互 の 関 係 に 気 づ い て い る も の を 含 め た 。 (6) 目 的 格 の 動 作 が あ る
分 類4 公 式 化
下 の(7)の よ う に ,文 法 規 則 を 自 分 の 言 葉 や 表 現 方 法 で 公 式 化 し , 規 則 性 を 一 般 化 し よ う と し て い る 記 述 を 分 類4に 含 め た 。
(7) 人1 + 動 + 人2 +( 人2が し て い た こ と ) に な っ て い る 。
以 上 の よ う な 規 準 で 発 見 記 述 を 分 類 し た が , 分 類 1 か ら 分 類 4に か け て 発 見 が よ り 高 度 に な っ て い る と 考 え る 。 こ う し た 生 徒 の 発 見 記 述 の 分 類 は , 英 語 教 育 を
専 門 と す る 大 学 教 員 が ,時 間 を お い て 2回 行 っ た 。1回 目 と2回 目 の 分 類 が 異 な っ た 場 合 は , さ ら に 時 間 を お い て 3 回 目 の 評 価 を 行 っ た 。 分 類 結 果 の 一 致 率 は 95.2% で あ っ た 。
3. 結 果 と 考 察
本 研 究 の 研 究 課 題 は「 中 学 生 がDDL を 活 用 し て 帰 納 的 に 英 文 法 を 理 解 し 習 得 す る と , 未 習 の 文 法 規 則 に 遭 遇 し た 際 に , そ の 規 則 に 自 ら 気 づ く 力 は 育 成 さ れ る で あ ろ う か 。」と い う こ と を 検 証 す る こ と で あ っ た 。そ こ で ,本 節 で は ま ず ,今 回 行 っ た2つ のDDL実 践 が 文 法 知 識 の 向 上 に 効 果 が あ っ た の か ど う か , そ の 成 果 を 確 認 す る 。 も し も 文 法 知 識 の 理 解 に 向 上 が 確 認 で き な け れ ば ,DDL実 践 に よ っ て ,文 法 規 則 の 習 得 が 達 成 さ れ て い な か っ た と い う こ と で あ り ,そ れ は す な わ ち ,「 文 法 規 則 の 発 見 力 」 の 育 成 が 起 こ る た め の 前 提 条 件 が 満 た さ れ て い な い こ と に な る と 考 え た か ら で あ る 。 3.1 DDL実 践 1 の 効 果
DDL実 践 1で は ,文 法 知 識 の 理 解 と 定 着 を 検 証 す る た め に , 事 前 テ ス ト , 事 後 テ ス ト , 遅 延 テ ス ト を 実 施 し た 。3 回 の テ ス ト で は 同 一 の 問 題 を 使 用 し た 。 テ ス ト 結 果 を 表1に 示 す 。一 元 配 置 分 散 分 析 の 結 果 は F=(2, 104)=48.36, p< 0.001, η2=.48で あ り ,多 重 比 較 の 結 果 で は , 事 前 テ ス ト < 事 後 テ ス ト=遅 延 テ ス ト で あ る こ と が 判 明 し た 。
表1 実 践 1の 結 果 (40 点 満 点 ) 事 前 事 後
1週 間
遅 延
9週 間 p η2
平 均 (SD)
16.83 (8.44)
22.42 (9.59)
23.42
(9.01) .00 .48
( 大 )
表1を 見 る と , 事 前 テ ス ト か ら 事 後 テ ス ト に か け て 得 点 が 上 昇 し , 指 導9週 間 後 の 遅 延 テ ス ト で は 得 点 は 下 降 し て い な い 。 こ の こ と か ら ,DDL 実 践 1 の 結 果 , 学 習 タ ー ゲ ッ ト に 関 わ る 文 法 力 の 向 上 が 認 め ら れ , そ の 知 識 が 定 着 し て い た こ と が 確 認 さ れ た 。 遅 延 テ ス ト で 平 均 点 が 下 が ら な い と い う 傾 向 は , 筆 者 ら の 他 の DDL実 践 で も 確 認 さ れ て い る( 西 垣 他 ,2015;物 井 他 , 2019予 定 )[24][25]。さ ら に ,今 回 は 指 導9週 間 後 と ,遅 延 期 間 が 今 ま で よ り も 長 か っ た に も 関 わ ら ず , 得 点 は 下 が ら な か っ た 。こ の こ と は ,DDL学 習 で 帰 納 的 に 学 ん だ 知 識 は 強 固 に 定 着 す る こ と が 確 認 で き た と 考 え る 。 な お , 今 回 の 事 後 テ ス ト と 遅 延 テ ス ト の 間 は 教 育 実 習 期 間 中 で あ り , 実 習 生 が 授 業 を 行 っ た た め , 学 校 で は DDL実 践 の 学 習 内 容 の 復 習 は 行 わ れ て い な い 。以 上 の 実 践 成 果 に つ い て は 横 田 (2017, 2018)[26][27]を 参 照 さ れ た い 。
た だ し , 表1の 得 点 を 正 答 率 に 換 算 す る と , そ れ ぞ れ , 事 前 テ ス ト 42.1% (16.83 点/40 点 ), 事 後 テ ス ト 56.1% (22.42点/40 点 ), 遅 延 テ ス ト58.6% (23.42点 /40点 )と 決 し て 高 く な い 。こ れ は ,テ ス ト 問 題 に ,DDL 文 法 学 習 で は 学 習 し て い な い 内 容 が 含 ま れ て い た た め で あ る 。そ れ は 予 想 以 上 に ,DDL活 動 に 時 間 が か か り , 予 定 し て い た 学 習 範 囲 を 終 え る こ と が で き な か っ た た め で あ る 。 当 該 校 が 実 践 す る よ う な 実 用 的 な 英 語 力 の 習 得 を 目 指 す 授 業 で は , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 に で き る だ け 多 く の 時 間 を 費 や す た め , そ の 枠 組 の 中 で DDL 実 践 の 時 間 を 確 保 す る こ と は 容 易 で は な い 。こ れ は 授 業 の 運 用 面 で の 課 題 で あ る と 言 え よ う 。
3.2 実 践 2の 効 果
DDL実 践2で 実 施 し た 品 詞 判 別 テ ス ト の 結 果 を 表 2 に 示 す 。事 前 テ ス ト の 平 均 点 を 正 答 率 で 見 る と ,75.9%
(9.11点/12点 ) と 比 較 的 高 か っ た が ,DDL 学 習 に よ っ て 事 後 テ ス ト は 正 答 率 が 平 均 81.2%(9.74 点/12点 ) に 向 上 し , 得 点 の 上 昇 は 統 計 的 に も 有 意 で , 効 果 量 も 中 程 度 で あ っ た (t (52)= 2.644, p= 0.011, r=0.46)。 こ の こ と か ら ,DDL実 践2が ,品 詞 の 理 解 と 定 着 に 効 果 を あ げ て い た こ と が 確 認 さ れ た 。
表2 実 践2の 結 果 (12点 満 点 )
事 前 テ ス ト 事 後 テ ス ト p r 効 果 量 平 均
SD
9.11
(2.13)
9.74
(2.34) 0.011 .46
( 中 )
3.2 DDL と 文 法 規 則 発 見 力
前 節 で , 今 回 行 っ たDDL実 践1と DDL実 践2が そ れ ぞ れ , 生 徒 の 文 法 知 識 の 理 解 と 定 着 を 促 し , 効 果 を あ げ た こ と を 確 認 し た 。そ こ で ,次 の 段 階 と し て ,DDL に よ る 帰 納 的 学 び が , 新 規 の 文 法 項 目 の 規 則 性 を 発 見 す る 力 を 育 て る か ど う か 調 査 し た 。 こ こ で は , 文 法 規 則 発 見 テ ス ト の 結 果 を 質 的 観 点 か ら 分 析 す る 。
生 徒 ご と に , 生 徒 各 自 の 発 見 内 容 が 上 述 2.4 節 の 発 見 内 容 の 4つ の 分 類 の う ち , ど の 分 類 に 分 け ら れ る か を 調 査 し た 。一 人 の 生 徒 に 複 数 の 発 見 が あ っ た 場 合 は , よ り 高 次 の 発 見 に 分 類 し た 。分 類 の 結 果 を 表 3に 示 す 。 χ2 検 定 に よ り 分 析 し た 結 果 は χ2(3)=10.04, p=0.18, CramerのV=0.31で あ り ,4つ の 分 類 の 頻 度 に は ,統 計 的 に 有 意 な 差 が あ り ,残 差 分 析 の 結 果 ,分 類1で はDDL 群 で 有 意 に 頻 度 が 少 な く , 分 類 4 で は DDL 群 の 頻 度 が 有 意 に 多 い こ と が 判 明 し た 。 ま た , 効 果 量 は 中 程 度 で あ っ た 。
表3 文 法 規 則 発 見 テ ス ト に 書 か れ た 記 述 の 分 類 結 果
分 類
1 2 3 4
無 回 答 誤 認
表 面 的
既 存 知 識 関 係 性 公 式 化
DDL群 3人
(5.7%)
29人 (54.7%)
5人 (9.4%)
16人 (30.2%) 通 常 群 13人
(17.8%)
42人 (57.5%)
10人 (13.7%)
8人 (11.0%)
以 上 の 結 果 か ら DDL群 で は ,通 常 群 に 比 べ て ,ま ず 分 類1の 無 回 答 だ っ た 生 徒 , す な わ ち 自 力 で は 文 法 規 則 の 発 見 に い た ら な い 生 徒 , ま た 自 己 流 の 解 釈 で 間 違 っ た 気 づ き を し た 生 徒 が 少 な い こ と が わ か る 。さ ら に , 分 類 4 に 含 ま れ た 生 徒 が 多 か っ た こ と か ら ,「 自 分 な り の 方 法 で , 文 の 構 造 を 公 式 化 し て 一 般 化 で き る 」 と い う 文 法 力 が 育 成 さ れ て い た こ と が わ か る 。
こ の こ と か ら ,DDL活 動 を と お し て 英 語 の 文 法 知 識 を 理 解 し て 習 得 す る こ と で , 新 規 の 文 法 規 則 の 発 見 力 が 育 成 さ れ た こ と が 確 認 で き た 。 し か し な が ら , こ の 文 法 規 則 の 発 見 力 の 向 上 は ,DDL活 動 自 体 に よ っ て も た ら さ れ た も の な の か , あ る い は , 文 構 造 や 品 詞 に つ い て 知 識 を 習 得 し た こ と に よ っ て 引 き 出 さ れ た の か は 今 回 の 実 践 か ら は 不 明 で あ る 。
次 に 生 徒 の 実 際 の 記 述 を 観 察 し , 生 徒 の 発 見 内 容 に つ い て 議 論 す る 。 下 に は 分 類3と 分 類4に 含 ま れ る よ う な 高 次 な 発 見 の 例 を あ げ る 。 ま ず 分 類 4で あ る が , (8)~(10)の よ う な 記 述 が あ っ た 。
分 類4の 例
(8) ○ ○ は ××が ~ す る の を み ま し た 。 の よ う に 主 語 が 誰 か が 何 か を す る の を 見 た と い う 構 造 に な っ て い る 。
(9)何 が 何 を し て い る の を 見 る と い う 文 章 は 主 語 +see(saw)+目 的 語+行 動
(10) saw him(them her)+Ving 彼 がVし て い る と こ ろ を 見 た 。saw+him(them her)+V 彼 がVす る の を 見 た 。
(8)は ,文 構 造 を 示 す の に 〇 〇 ,××,~ の よ う な 記 号 を 使 っ て 自 分 な り の 方 法 で 公 式 化 し て い る 例 で あ る 。 文 法 用 語 を 使 用 し て 公 式 化 , 一 般 化 す る ま で に は い た っ て い な い 。(9) は 補 語 に く る 動 詞 が , 原 形 か ing 形 か の 違 い を 説 明 す る に は い た っ て い な い 例 で あ る 。 (10)は 補 語 に く る 動 詞 が 原 形 か ing 形 か の 区 別 が で き て い て , さ ら に 文 型 と そ の 意 味 の 関 係 を 理 解 し て い る 例 で あ る 。 以 上 の よ う に 文 構 造 の 理 解 は , 一 般 化 の 度 合 い を 見 る と 差 が あ る 。 次 に 分 類3の 例 を 見 る 。
分 類3の 例
(11) SVの 形 が 一 つ の 文 に 二 つ あ る 。
(12) I saw him. He crossed the street. が 合 わ さ り ,I saw him cross the street. と な っ て い て ,同 じ 意 味 に な っ て い る 。Miho saw him. He was reading a book.が あ わ さ り ,Miho saw him reading a book. と な っ て い て 同 じ 意 味 と な っ て い る 。
(13) [him]等 い つ も の he を 主 語 に す る の で は な く , い つ も そ の 後 に 動 詞 を つ な げ な か っ た も の に つ な げ て い る 。
(11)~(13)は , 第 5文 型 の [SVOC] の 文 に は [ 主 語+ 述 語 ] の 関 係 が 2つ 含 ま れ て い る こ と に 気 付 い て い る 例 で あ る 。 コ ン コ ー ダ ン ス ラ イ ン を 縦 に 見 て 英 文 同 士 を 比 較 し た り , そ れ を 横 に 見 て , 日 本 語 訳 と 見 比 べ た り す る こ と で , 語 句 の 関 係 性 を 理 解 し て い る 様 子 が う か が え る 。
4. ま と め と 今 後 の 展 望
DDL実 践 1とDDL実 践2で 行 わ れ たDDL活 動 に よ っ て , 文 法 規 則 を 帰 納 的 に 発 見 す る 力 が 育 っ て い る こ と が 確 認 で き た 。今 回 の DDL活 動 は ,7回 と い う 限 ら れ た 回 数 で あ っ た が , 文 法 知 識 を 理 解 し , そ れ が 定 着 す る こ と で , 未 習 の 文 法 事 項 に 対 す る 発 見 力 , 気 づ き 力 が 育 ち つ つ あ る 様 子 が 確 認 で き た 。 帰 納 的 な 学 び は 時 間 が か か る た め , 実 際 の 授 業 で は , 英 語 力 の 基 盤 と し て 身 に 付 け て 欲 し い 項 目 を 選 定 し て 指 導 し て い く こ と も 良 い で あ ろ う 。 そ う し た 指 導 を 定 期 的 に , 継 続 的 に 行 う こ と で , 英 語 の 文 法 規 則 を 自 分 の 力 で 発 見 す る 気 づ き 力 も 徐 々 に 育 っ て い く も の と 考 え る 。
今 回 の 生 徒 の 発 見 記 述 の 分 類 で は , 教 科 書 で 既 習 の 文 法 規 則 に 関 す る 記 述 は 「 分 類 2」 と し た が , 実 際 は こ の 生 徒 に と っ て は , は じ め て そ の 文 法 規 則 に 気 づ い た の か も し れ な い 。 つ ま り こ の 生 徒 は , そ の 文 法 規 則 の 知 識 を 理 解 し て お ら ず , 定 着 し て い な か っ た の か も し れ な い 。あ る い は ,今 回 の DDL実 践 を と お し て ,は じ め て 既 習 事 項 の 文 法 規 則 を 理 解 し , 整 理 が で き た の か も し れ な い 。 こ の こ と か ら 既 習 文 法 項 目 の 整 理 に , DDL 学 習 を 利 用 し た 場 合 の 効 果 も 検 証 し て い き た い 。 ま た , 今 回 調 査 し た 発 見 力 の 向 上 が , 文 型 や 品 詞 の 学 習 に よ る 効 果 な の か ,DDL活 動 に よ る 成 果 な の か に つ い て も 検 証 す る 必 要 が あ ろ う 。 今 後 は 教 材 開 発 だ け で な く , 授 業 に 定 期 的 に 組 み 入 れ る た め の 運 用 面 の 課 題 に も 取 り 組 ん で い き た い 。
註 1) SCoREはWeb上 で 自 由 に 閲 覧・検 索 で き る DDL 学 習 支 援 サ イ ト で あ る 。 利 用 登 録 等 の 必 要 が な く , 無 料 で 自 由 に 利 用 可 能 で あ る 。
謝 辞 本 研 究 は 平 成 28-31 年 度 科 学 研 究 費 助 成 金 事 業 基 盤 研 究(B)( 課 題 番 号16H03441)の 支 援 を 受 け て 行 わ れ ま し た 。
引 用 文 献
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[23] 横田梓,「中学校英語科における教育用例文コーパス
SCoRE を活用するデータ駆動型学習の実践-1人1台
タブレット端末によるデジタル版DDLの効果と課題-」
『 千 葉 大 学 教 育 学 部 附 属 中 学 校 研 究 紀 要 』,vol.48, pp.35-41, 2018.
[24] 西 垣 知 佳 子 , 小 山 義 徳 , 神 谷 昇 , 尾 崎 さ お り , 西 坂 高 志 , 横 田 梓 ,2015. 上 掲 論 文
[25] 物 井 , 西 垣 , 折 原 , 石 井, 2019予 定 上 掲 論 文 [26] 横田梓,2017. 上 掲 論 文
[27] 横田梓,2018. 上 掲 論 文