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In Vitro 反応実験の新展開 - J-Stage

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セミナー室

澱粉生合成研究の新潮流-5

In Vitro 反応実験の新展開

中村保典

秋田県立大学

はじめに

澱粉生合成の基本メカニズムに関する私たちの理解は 過去20年間に世界各地で展開された基礎研究の膨大な データによって大幅に進んだ.25を超える多数の酵素 のうち何がキー酵素で,アイソザイム間でどのように機 能分化しているのか,またそれらの機能を改変したと き,どのように澱粉の構造や物性が変化するのか,など の概要が明らかになってきた.しかし本連載の最初で述 べたように,研究現状は生合成過程の全容解明という段 階には遠く及ばない.アミロペクチン分子構造の完全解 明と   合成,澱粉合成の初期過程の解明,澱粉分 子が充填され植物種ごとに独特の形状をもつ澱粉粒が形 成される過程の解明等々,まだ手がかりさえつかめてい ない課題は山のようにある.目的を定めて着々と基礎 データを積み上げるほかはない.

早急に解決すべき課題と   酵素反応実験の 意義

アミロペクチンのタンデムクラスター構造は極めて規 則性が高く,個々のクラスターの長さはどんなアミロペ クチンでもほぼ一定で,分岐結合がクラスターの基部

(還元末端側)近傍に局在していて,尾部方向(非還元 末端側)への直鎖部分(途中に分岐結合をもたない鎖部 分)が一定の長さに達すると(グルコース重合度DPが

10以上になると)クラスター内部の鎖同士が直鎖部分 で二重らせんを形成する(1) (文献1の図1参照)

.した

がってアミロペクチン分子全体では,分岐結合がクラス ターごとにリズミカルに形成されているという大きな特 徴をもつ.この分岐結合をもたない部分での分子内二重 らせんの形成こそは澱粉が疎水性を示す決め手となって いるのである.一方グリコーゲンの場合,分岐結合は分 子全体にランダム状に分布し,原則として二重らせんは 形成されない.直鎖の長さの平均値(DP値)もアミロ ペクチンのほうがかなり長い.このように,タンデムク ラスター構造の形成は澱粉合成の最も根源的な生化学過 程であるが,この反応メカニズムはまだ想像の域を出て いない.いかなる酵素が関与し,酵素のどの性質がこれ を可能にしているのか,きちんとは証明されていない.

また,澱粉の構造や物性は植物種ごとに異なる.これに は多分にクラスター構造の差異(クラスターを構成する 鎖の平均鎖長や鎖数など)に起因する.この差異を生じ させている原因はまだ十分には解明されていない.さら に,タンデムクラスター構造のような規則性の高い分子 構造が,オリゴ糖やデキストリンなどの低分子グルコー スプライマーからいきなり完成するはずもなく,澱粉合 成には初期過程(   合成あるいは低分子プライ マーからクラスター構造ができるまでの過程)と増幅過 程(クラスター数を増やす過程)とも言うべき異なる過 程があるに違いない(2, 3)

.多様な生理的条件下で多数の

(2)

酵素が共存している組織・細胞レベルで澱粉合成過程を 解析するだけでは厳密さにおいて限界があり,証明され ていない事柄も多い.こうしたさまざまな課題の解決に は,精製酵素を使用した   反応解析法が欠かせな い.読者の中にはいまさら古典的な生化学手法でもある 酵素の   反応解析から何が得られるのかといぶか る向きもあろう.ところが,アミロペクチンの分子構造 構築過程を解明するためには今ほど精密な   反応 解析研究が必要な時期はない.本稿では,このような問 題意識のもとでイネ酵素を使って開始された研究例を概 説する.

酵素アイソザイムの機能分化の証明

ア ミ ロ ペ ク チ ン の 基 本 形 は ス タ ー チ シ ン タ ー ゼ 

(starch synthase ; SS) による伸長反応と枝作り酵素 

(starch branching enzyme ; BE) による分岐形成反応の 組み合わせ(活性バランスなど)で決まると考えられ る.グリコーゲンも伸長反応を触媒するグリコーゲンシ ンターゼ (GS) と枝作り反応を触媒するグリコーゲン BEの組み合わせで合成される点は同じであるが,アミ ロペクチン合成には機能分化した複数のSSとBEのア イソザイムが関与するのに対し,グリコーゲン合成には GSとBEのアイソザイム分化は必要ではない.さらに加 えて,アミロペクチン合成にはイソアミラーゼを中心に 枝切り酵素によるアミロペクチン形状のトリミング作用

(クラスター構造の整形,たとえば二重らせん形成を阻 害する余分な分岐結合の除去)が必要である(4)  が,グ リコーゲン合成には枝切り酵素の関与はない.

アミロペクチン合成においてアイソザイム間の機能分 化はどのような酵素反応特性に基づいているのであろう か.各アイソザイムの基本特性は従来から調べられてい るが,  研究から推定される機能特性をアミロペ クチン合成の素過程に当てはめるためには,従来からの 

 分析をさらに精度を上げ,反応機構を明確にし たうえで基礎から厳密に調べる必要がある(BEやSSの 基礎的な反応メカニズムに関するデータはまだまだ極め て不十分である.分析法が未整備だったこともその一因 である)

.また,アミロペクチンクラスターの基本骨格

の形成は,多数のSSとBEアイソザイム間でどのよう な機能的な相互作用のもとで行われるのであろうか.そ してこうした相互作用を保証するための構造的な基盤

(タンパク質複合体の形成など)はどのようなものであ ろうか.その実体をいずれ明らかにする必要がある.

これまでの研究でSSでは SSI, SSIIa, SSIIIa  が,BE

では BEI, BEIIa, BEIIb が主要でそれぞれ異なる役割を 果たすと考えられている(3〜8) (表

1

.しかしこれらの機

能は主として変異体や遺伝子組換え体を使用した

研究から導かれた推定であり,  研究で証明 されて初めて結論となる.

1.  BEの特性

イネBEの特性を調べるため,適当な構造をもつグル カンを基質として酵素反応させ,反応産物をバクテリア のイソアミラーゼで枝切り後,生じた直鎖の鎖長(グル コース重合度,DP)ごとの存在率(分子数の百分率)

を調べた(FACE法,後述)

.BE反応の前後では全グル

コース数に増減はないが全分岐鎖数は増加する.反応後 には基質に使われた鎖の数は減少し,転移された鎖の数 と,基質となった鎖から切り離(転移)されて残った鎖 の数は増加する(9)

.そしてこれら3者の減少数,増加

数,増加数は同数である.このようにして,基質と産物

表1  研究から推定されるイネSSおよびBEアイソザ イムの機能

BE(3, 4)

BEI(8) BEIIよりも長い短鎖,中間鎖を転移・形成す る

BEIIa(4) BEIIb鎖の働きを補う BEIIb(7) 短鎖を転移・形成する

(クラスター内部の第二の位置に短鎖を形成す る.極めて特異的な働き)

SS(4, 5)

SSI(12) 超短鎖 (DP 6, 7) を少し伸長し,DP 8 〜12の 短鎖を形成

SSIIa(11) 短鎖 (DP≦10) を伸長し,クラスター内部の 中間鎖 (DP≦24) を合成

(極めて特異的な働き)

SSIIIa(13) 長いB1鎖,長鎖であるB2, B3鎖を合成

表2  研究によって明らかになったイネBEアイソザ イムの特性(10)

《分岐状グルカンを基質とする場合》

・外部鎖への反応性 BE共通 反応する  ・基質となる鎖の最小長 BE共通 DP 12  ・転移される鎖の最小長 BE共通 DP 6  ・優先的に転移される鎖 BEI DP 10 〜12

BEIIa DP 6 〜10 BEIIb DP 7と6

・内部鎖への反応性 BEI 反応する BEIIa ほとんど反応し

ない BEIIb 反応しない

《直鎖状アミロースを基質とする場合》

・基質となる鎖の最小長 BEI DP 48 BEIIa DP>100 BEIIb DP>100

(3)

の構成直鎖数を比較した結果,次のことが明らかになっ た(10) (表

2

1)  BEが反応する基質鎖(直鎖部分)の最低鎖長は DP 12であり,生成(転移)鎖の最低鎖長はDP6で ある.

2)  BEIIは主にDP 6 〜10程度の短鎖を生成するのに対 し,BEIは中間鎖(DP 10 〜 12程度をピークとす る)を最も多く生成する.BEIIbの鎖長選択性は顕 著で,生成される鎖はほとんどがDP 7と6で,基 質の大部分はDP 12 〜 14の鎖長をもつ.BEIIaは DP 6の鎖を最も多く作るが,DP 10程度までの比 較的広範囲の短鎖を作る.

3)  分岐結合に挟まれた内部鎖に対してもBEIは反応で きるが,BEIIaの反応性は極めて低く,BEIIbはほ とんど反応しない.上記 1)〜3) は分岐グルカンを 基質とした場合である.

4)  BEの最低鎖長は分岐グルカンと直鎖グルカンでは 大きく異なり,直鎖グルカンへはBEIの最低鎖長は DP 48程 度 で あ る の に 対 し て,BEIIaとBEIIbは DP 100以上のものでないと反応しない.

  研究の成果により,   研究では決して 得られないBE反応の基本特性やアイソザイムの鎖長特 性に関する精密な基礎データが初めて得られた.

2.  SSの特性

イネSSアイソザイムの鎖長伸長特性を調べるため,

アミロペクチンなどを基質プライマーにして得られた反 応産物の鎖長分布をBEのときと同様にして調べ,基質 と比べた.反応の前後で全体の鎖数は変化せず,プライ マーとして使われた鎖の分子数は減少し,産物の鎖数は 増加する(9)

.結果を以下に要約する(表2,Nakamura 

, 投稿準備中)

1)  SSI反応後に,減少する鎖は明確に3つのピーク 

(DP 6, 7, DP 10 〜13, DP 18 〜23)を示した.注目 されることにDP 8の鎖はむしろわずかながら増加 する.これはSSIがDP 6やDP 7の短鎖をグルコー ス数で2つあるいは一つだけ増加させ,DP 8の鎖を 合成する,言い換えれば,SSIはDP 6と7の鎖をご くわずか伸長してDP 8の鎖を作る活性は高いが,

それ以上に伸ばす活性は極めて低いことを示す.

SSIの鎖長選択性はこれほど厳密だったのだ.

2)  SSIIaとSSIIIaについても同様な実験を行い,それ ぞれ中間鎖や長鎖を伸長合成していることが証明さ れた.SSIと異なり,鎖長選択性はそれほど厳密で はなく,やや幅広い長さの直鎖を合成することがで

きる.DP 25 〜30を超える長鎖の合成活性は低い.

クラスター内の鎖の平均鎖長が短いジャポニカ米の アミロペクチンを試験管内でSSIIaを反応させる と,平均鎖長の長いインディカ米タイプのアミロペ クチンが合成される(11)

3)  各SSは非還元末端側からの直鎖部分の長さ (DP) 

を認識している.

4)  各SSの直鎖オリゴ糖やアミロースへの反応活性は 分岐グルカンに比べ極めて低い.

  研究から推定されるSSIの機能はDP 6と7を 基質としてDP 8 〜12ほどの短鎖を合成することであっ たが(12) (表1)

 研究でSSIの特徴的な鎖長特性 が厳密に決められた結果,改めてSSIが特化した機能を 有することがわかった.SSIIaとSSIIIaの鎖長特性は 

 研究の成果(11, 13) とほぼ同じであった.

3.  澱粉合成過程への適用

以上の成果のいくつかを澱粉合成の制御メカニズムに 関連させて考察してみよう.アミロペクチンにはクラス ター基部のアモルファスラメラ領域とアモルファスラメ ラとクリスタルラメラの境界領域に分岐結合が局在し,

前者には主としてBEIが,後者にはBEIIbが関与すると いう重要な結論が    研究から導かれている(4, 7, 8) 

図1アミロペクチンのクラスター合成におけるBEアイソザ イムの機能(3, 4)

アミロペクチン分子の分岐結合はクラスターの異なる2領域に局 在しており,基部に局在する結合(●印)は主としてBEIが,内 部(アモルファスラメラとクリスタルラメラの境界領域)の分岐 結合(○印)はほとんどBEIIbが合成し,通常のジャポニカ米タ イプのアミロペクチンができる (A).そのため,BEIIbが欠損す ると,第二の結合が欠落したクラスターとなり,その分クラス ターを構成する鎖の長さは長くなる(SS/BE活性比が高くなるた め)(B).結果として,Aに比べ長い二重らせんが形成されて,

澱粉が難糊化性になる.

(4)

(図

1

.特にBEIIbの働きはBEIやBEIIaでは相補でき

ない特異的なもので,BEIIbが欠損すると第二の分岐結 合は欠落してしまう(図1)

.このような前提で考察す

ると,BEIIbとSSIの厳密な鎖長特性はまことに興味深 い.BEIIbが作るのはほとんどがDP 7とDP 6の鎖であ る.一方,SSIはDP 6と7の鎖をDP 8にまで(多少は DP 9の鎖も)伸ばす.次いでDP 8ないし9の鎖はSSIIa によってクラスターのサイズまでの中間鎖を作る(図

2

.このように,BEIIb‒SSI‒SSIIaのリレー反応によっ

てクラスターが形成されると推定される.この方式で注 目されることは,各酵素反応の鎖長選択性が極めて厳密 であることで,これは同一の形状のクラスターを同調的 に作るうえでまことに効率的な仕組みと考えられる.

次に,BEとSSは分岐鎖と直鎖では全く反応性が異な り,両酵素とも概して直鎖グルコース鎖には極めて反応 性に乏しいことの生理的な意義を考察してみよう.前述 したように,澱粉合成過程では,枝切り反応によりマル トオリゴ糖が生成される.このオリゴ糖はアミラーゼ,

不均化酵素 (disproportionating enzyme), ホスホリラー ゼなどにより完全分解されるのであり,BEに直接反応 して合成系に組み込まれるようなことはない.言い換え れば,両酵素は直鎖には反応せず分岐グルカン鎖にのみ 反応することで,澱粉合成系と分解系を峻別するのであ ろう.

酵素間相互作用

プラスチド型のホスホリラーゼ (Pho1) はグルカンの 加リン酸分解反応を触媒する酵素であるが,グルコース 1リン酸 (G1P) のグルコースをプライマーに付加して 伸長する反応も触媒する可逆反応酵素である.最近イネ 変異体を解析した結果から,pho1が澱粉合成にも 何らかの重要な役割を果たしていることが示された(14)

筆者らはPho1の役割を明らかにする目的で,  

分析実験を行っている.Pho1はプライマーの存在下で グルカンを伸長できるが,非存在下ではグルカンを合成 BEIIbはほとんどDP76

短鎖を生成する

SSI :短短鎖(DP6-7)に反反応応ししてて、、短短鎖(DP8--99)を生生成成すする SSSSIIIIaa:短短鎖((DDPP88--99))に反反応応ししてて、、短短鎖((DDPP≤≤2244))を生生成成すする

SSI+SSIIa

BEIIb

BEI

図2アミロペクチンのクラスター合成におけるBEIIb‒SSI‒

SSIIaリレー反応(10)

図1で示したように,BEIIbはクラスター内部に第二の内部鎖群を 特異的に形成する.この新たに形成される鎖の鎖長はほとんど DP 7と6であるという特徴がある.この短鎖はSSIの良い基質と なりSSIは主としてDP 8まで(ある程度はDP 9の鎖も)伸ばす.

次いでSSIIaはDP 8ないし9の鎖をクラスターの長さまで(DP≦

約24まで)伸ばす.このように,BEIIb‒SSI‒SSIIaは協同作用に よってクラスターの合成が同調的に進行する.これは,効率良く 同一の構造をもつクラスターを合成する優れた仕組みである.

図3Pho1‒BE相互作用と澱粉合 成過程における役割

(A) Pho1はプライマーがないとグル カンを合成できないが,BEが共存す るとプライマーを添加しなくても活 発にグルカンを合成できるようにな る.これはPho1とBEが強い相互作 用を示し,双方の酵素能を高めるこ とが原因であることがわかってい る(14).(B) このPho1‒BEI相互作用 は,分岐グルカンを介して,澱粉合 成の初期過程(低分子プライマーか らクラスター構造が形成されるまで の 過 程) に 関 与 す る 可 能 性 が 高 い(3, 14).これに対し,直鎖マルトオ リゴ糖 (MOS) へはBEやSSの反応 性が極めて低く,初期過程にかかわ る可能性は否定された(3)

(5)

できない.ところが驚くべきことに,そこにBEが添加 されると,プライマー非存在下でも高いグルカン合成活 性が見られる(15) (図

3

A)

.さらに解析した結果,両酵

素間には機能上の強い相互作用があり,グルカンへの親 和性を格段に高め,触媒活性そのものを促進するという 互いの機能を活性化する効果があることがわかった(15)

本結果の意義について考察してみよう.筆者はPho1‒

BEの相互作用は澱粉合成の初期過程で重要な働きがあ ると見ている(図3B)

.これまで澱粉の 

 合成や アミロペクチン合成の初発プライマーについては全く情 報がなかった.グリコーゲン合成時のグリコゲニンのよ うに初期過程に特化したタンパク質の働きは,植物では グリコゲニンと一次構造が相同性のあるタンパク質は存 在するものの,まだ同定されていない(16)

変異体 の種子の中には澱粉を全く合成できなくなるものが出て くるが,特に低温条件下では顕著になる.この現象は,

Pho1の働きを相補できる未知因子があり,この未知因 子の発現あるいは活性が低温条件下で抑制されるのが原 因であると解釈される.

SSIとBEの間にも強い相互作用がある (Nakamura  ,  投稿準備中)

.SSIはBEのいずれかのアイソザイム

が共存するとプライマーを添加しなくてもグルカンを合 成できる.しかしSSIIaやSSIIIaにはこうした活性はほ とんどない.0.3 〜 0.5 M程度のクエン酸が単離あるい は精製したSSIのプライマー存在下での活性を促進する ことは広く知られている(細胞内ではこのような高濃度 のクエン酸は存在しないが,生理的条件下ではクエン酸 に代わるSSI活性化機構が存在すると思われる)が,

SSI‒BE相互作用活性には高濃度のクエン酸の存在が必 須で,クエン酸を必要としないPho1‒BE活性とは異な る.

Pho1‒BE, SSI‒BE相互作用の生理的な意義を考察し てみよう.筆者は両者が澱粉合成の初期過程に重要な役 割を果たしていると考えるがそのポイントを述べる(図 3B)

.第一に,両者ともに酵素外部環境にプライマーが

ない条件下で極めて効率的にグルカンを合成できる.一 方,増幅過程の場合,すでに合成されたクラスター(ア ミロペクチン)をプライマーとして,同一の構造をもつ クラスター(アミロペクチン)分子を再生し,その数を 増やす過程である.蓄積型の物質である澱粉の場合,生 理的な条件下ではこれらプライマーとして働くグルカン 量は高濃度に存在する.SSやBEは分岐グルカンをプラ イマーとする活性は高いが, m値は比較的高い.それ に対して,Pho1‒BE, SSI‒BE相互作用の場合,これら の m値よりも顕著に低い条件下でグルカン合成が行わ

れる.第二のポイントは,Pho1の直鎖伸長活性にはSS アイソザイムに見られるような鎖長選択性が見られない こと,言い換えればPho1は直鎖をどこまでも伸ばすこ とができる点である.このようなPho1の性質は一定の 鎖長をもつクラスターの合成には適当ではなく,初期過 程にこそ特性が生かされるのである.逆に鎖長選択性が 高く,極めて長い鎖は伸ばしにくいSSは一定のサイズ をもつクラスターを作るのに適役である.第三に,もし Pho1‒BEとSSI‒BE相互作用がともに初期過程に関与す るとすれば,両者の役割はどのように異なるのであろう か.この問いに関するデータは残念ながら現在持ち合わ せていない.ただし,後者だけがクエン酸によって活性 化されるなどの性質が異なっていることから,両者で役 割が異なっている可能性が高い.特にPho1とSSIの鎖 長選択性の特徴を考慮すると,Pho1‒BEは初期過程で も低分子からまだクラスター様構造がまだできていない 分岐グルカンまでの合成過程を担い,SSI-BEは分岐グ ルカンからクラスター様構造が形成されるまでの合成過 程を担っていると推定したくなる.

以上まとめると,  研究によって初期過程に関 する重要な担い手候補が定まったと言いうるのではなか ろうか.今後この仮説の信憑性を検証する必要がある.

イネ高温障害の原因解明

各方面で澱粉研究の知見が蓄積し,データの精度も上 がってくると,陳腐ともいえる   解析データがほ かの知見と合わせることで生理現象の解明に役立つ例が ある.近年猛暑の夏が頻発し,イネの高温生育障害やコ メの品質劣化が農業生産現場で問題になっているが,原 因の解明研究はまだ途上である(17〜21)

イネのBEとSSの活性に対する温度の影響を分析し たところ,BE活性の至適温度は25〜30℃と低く,30℃

を超えると顕著に活性が低下することがわかった(22) 

(図

4

A)

.それに対してSSは37℃程度までは高温度ほど

活性が高い(Nakamura  ,  投稿準備中)

筆者は FACE法によるアミロペクチンの鎖長分布分析データを データベース化し,クラスター構造に大きな影響が及ぶ 遺伝子変異については区別できることを示し,この変化 全体を「クラスターワールド」と呼ぶことを提案してい る(3)

.筆者らはまた,栽培年の異なる酒米の澱粉を解析

したところ,高温年に収穫したコメのアミロペクチンの 鎖長分布パターンの変化が   変異体のものと類似す るパターンをすることがわかり,BEIIbの活性低下が原 因であると推定した(23) (図4C)

.最近山川ら

(19)  はオ

(6)

ミックス解析の結果,高温度条件下でイネが生育された 時には胚乳BEIIbの発現量が顕著に低下することを示し た.以上まとめると,高温年で酒米澱粉の品質が劣化す るのは,BEIIbの発現量が抑制され,タンパク質量が低 下する(23) とともに,比活性も阻害され,こうした相乗 効果によりアミロペクチンの分子構造が変化し(図 4D)

,澱粉の糊化開始温度を上げる(図4B)ことが主

原因であると結論された.生育温度はあらゆる生化学反 応に影響するので,植物に現れる生理現象の変化の原因 を特定することは容易ではないが,本件はBEIIbの澱粉 構造と物性への特異的な役割が特定されていたため,一 定の結論が導かれたと思われる.

今後の   研究の課題

澱粉合成の制御機構は極めて複雑で多元的で精密であ る.今後期待される   研究のいくつかを述べてみ よう.

1.  分析法の開発

澱粉合成研究では澱粉の特殊な構造,とりわけアミロ ペクチンのタンデムクラスター構造がいかに形成される かを明らかにすることが最も重要な課題である.アミロ ペクチンやその中間体,反応産物の独特な分子構造を精 密に決めることが求められるが,澱粉は2種類の結合

α

-1,4と

α

-1,6グルコシド結合)からなるグルコースホモ

ポリマーであるため,これは事実上実現されていない.

構成する直鎖の鎖長分布分析は,直鎖の還元末端を蛍光 で標識してDP値ごとに分離することができる蛍光キャ ピラリ電気泳動法(fluorophore-assisted carbohydrate  capillary electrophoresis method ; FACE法)が開発さ れて可能になった(24)

.FACE法の利点は,①DP値が

100程度までの直鎖を完全分離できる.②各直鎖の存在 比を分子数レベルで求めることができる.③検出感度が 高い.④分析の再現性が高い,などである.しかし鎖長 分析法の最大の欠点は分岐結合(

α

-1,6グルコシド結合)

の位置情報を得ることができない点である.グルカンの 分岐鎖の位置を求める良い分析法の開発が求められ る(25)

次いで求められているのは,酵素反応のグルカン基質 の合成法である.基質としてとしては,構成鎖長,分岐 数,分岐位置が自由に変化しているものが理想である が,合成するのは容易ではない.現状は入手可能な数種 類のグルカンを用いているが,酵素の特性や反応メカニ ズムを解明するには余りにも不十分である.

2.  タンパク質複合体の形成

澱粉合成はほかの代謝系と比べてマスフローが格段に 大きく,そのうえ澱粉は分子レベル,粒形態レベルとも に高度に均一化されており,その合成制御系は酵素間の 機能的かつ構造的な強い相互作用のうえに成り立ってい るに違いない.これまでに述べた   研究の成果も 図4生産年により異なる酒米アミ ロペクチン構造の変化

BE活 性 の 至 適 温 度 はBEIが30℃, 

BEIIaとBEIIbが25℃で比較的低く,

30℃を超える高温では顕著に活性が 低下する (A)(22).生産年の異なる酒 米澱粉の糊化開始温度は平均温気温 が高い年ほど高く,難糊化性になる 

(B)(23).一方,高温年(平成22年度)

の低温年(平成21年度)に対するア ミロペクチン鎖長分布の変化パター ン (C)(23) は,BEIIb活性が欠失した 変 異 体 ( ;   変 異 体)アミロペクチンの変化と同一で ある(7).このアミロペクチン構造の 変化の大きさは,平均気温と強い相 関がある (D)(23).以上まとめると,

高温年でBEIIb活性が低下したこと が原因でアミロペクチンの分子構造 が変化し,澱粉が難糊化性に変化す ると推定される.

(7)

相互作用の存在を強く示唆している.最近,コムギやト ウモロコシの胚乳で,澱粉合成に関与する多数の酵素ア イソザイムがタンパク質複合体を多種類にわたって形成 している証拠があがってきている(26)

.注目されること

は,複合体を形成することで酵素が単独で存在している ときに比べて活性化していることである(27)

.イネ胚乳

でも酵素複合体の存在が確認されている(藤田直子氏私 信)

.まだこうした成果をもとに複合体を澱粉合成過程

の各ステップに当てはめて全体をモデル化する段階には 至っていないが,今後こうした研究が加速するであろ う.その際,複合体の再構成系の条件決定やその機能の 検証に   分析手法が欠かせない.

3.  初期過程の分析

すでに述べたように澱粉合成の初期過程はまだほとん どわかっていない.基本スキームさえ想像の域を出な い.   研究によって,Pho1‒BE相互作用やSSI‒

BE相互作用が細胞内環境にプライマーとなるグルカン が何も存在しない条件下で分岐グルカンを合成し,それ が澱粉合成のプライマーに成長するとの有力な仮説が提 唱できたと筆者は考えている.初期過程の基本スキーム を明らかにするためには   系で,アミロペクチン が完成するまでに至る各種中間体を同定する必要があ る.BEやSSの基本的な性質を考慮すると,直鎖グルカ ンは中間体にはなりえないことは明白で,あくまで分岐 状のデキストリンやグルカンがその候補となる.

最後に,澱粉合成の制御過程に関する私たちの理解が 今後さらに飛躍的に進むためには,  研究の役割 は格段に大きい.これまでの澱粉研究はひたすら素過程 を解析してきたと言ってもよいが,酵素・酵素間,酵 素・グルカン間の相互作用による高次の制御系の解明研 究が待たれる.もちろん   研究には一定の限界が あるのも事実である.ブレークスルーには   研究 に加え   研究との擦り合わせが不可欠であること を強調しておきたい.

文献

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(8)

プロフィル

中村 保典(Yasunori NAKAMURA)  

<略歴>1969年東京大学教養学部基礎 科 学 科 卒 業/1971年 同 大 学 理 学 系 大 学 院相関理化学専門課程修士課程修了/

1974年同博士課程修了/同年東京大学ア イソトープ総合センター生物部門助手/

1986年農林水産省生物資源研究所機能開 発 部 室 長/1996年 同 生 理 機 能 部 上 席 研 究 官/2000年 秋 田 県 立 大 学 生 物 資 源 科 学 部 教 授/2011年 同 大 学 理 事/2013年 同大学名誉教授<研究テーマと抱負>澱 粉生合成過程の解明,とくに高次に規則 性がある一方でバリエーションにも富む 澱粉分子が酵素反応プラス他のメカニズ ムによって,いかに組み立てられるかを 解くこと.ほかには科学一般の歴史,澱 粉の利用史<趣味>ガーデニング,ゴル フ,木工,絵画鑑賞,将棋観戦   

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