9 . 元の列・添数集合と元の族・集合族
科目: 基礎数学A及び演習(演習)(2‐1組)
担当: 相木
元の列
「{an}∞n=1 を数列とする」と言えば,n ∈ Nごとにanは1つの実数を与えており,
n = 1,2,3, . . .の順にa1, a2, a3, . . .と実数が並んでいるものとして扱ってきた.これを別 な視点から見ると,数列とはNからRへの写像であるとみなすこともできる.実際,数 列{an}∞n=1 が与えられたとき,写像f :N→Rをn∈N に対して
f(n) = an
と定める.同様にして数列{bn}∞n=1に対して写像g :N→Rをg(n) =bnで定めれば,数 列{an}∞n=1と{bn}∞n=1が等しいことと,fとgが写像として等しいことは同値になる.
このように,普段は意識していないが「数列を1つ定める」ということは上のような写像 を1つ定めているのと同じことなのである.そこで,数列を拡張した概念として「元の 列」というものを定義する.
元(げん)の列
Aを集合,f :N→Aを写像とする.このような写像を元の列ともいう.n ∈Nに対 して
an:=f(n)
とおき,元の列のことを(an)n∈Nと表記する.
厳密な定義は上でしたが,通常は写像に言及することは少なく,「(an)n∈NをAの元か ら成る列とする」などと元の列を指定することが多い.
平たく言えば,元の列とは自然数によって番号付けされた(ある集合の)元の集まりであ る.「(an)n∈NがAの要素からなる元の列である」と言った場合には∀n ∈ N, an ∈ Aで ある.
また,元の列は数列を特別な場合として含んでいるので(A=Rに対応する),元の列は 数列の概念の自然な拡張であると言える.
添数集合と元の族
数列の拡張として元の列というものを導入した.特に,元の列はN から集合Aへの 写像から定まるものであったが,定義域がNである必要はあるのだろうか?答えはNoで ある.
元の族
ΛとAを集合,f : Λ→ Aを写像とする.このような写像を元の族ともいう.λ ∈Λ に対して
aλ :=f(λ) とおき,元の族のことを(aλ)λ∈Λと表記する.
このとき,Λを添数集合(てんすうしゅうごう)といい,Λの要素λを添数という.な お,λはギリシャ文字で「ラムダー」と読む.Λは大文字のラムダーである.
元の列のときと同様に,写像に言及せず「(aλ)λ∈Λを集合Λによって添数付けされた Aの元の族とする」などの語法を用いる.
ΛとAを一般の集合としているので,元の族の定義に現れるfはもはや普通の写像であ る.したがって,fから定義される元の族,特にその定義域であるΛをいつ「添数集合」
として扱うかは,集合としての性質の違いで区別するというより,使う我々がλ ∈ Λを
「添字」のように扱うかどうかで決まる.
集合族
元の族の定義において,Aは一般に集合であるとした.したがって,Aが集合を要素 に持つような場合も当然考えられる.
集合族
Λを集合,Aを集合を要素に持つような集合とし,f : Λ →Aを写像とする.このf を用いて定まる元の族を特に集合族とよぶ.
Aλ :=f(λ) とおき,集合族のことを(Aλ)λ∈Λ などと表記する.
例えば,Λ = (0,1)と開区間で定め,λ∈Λ に対して Aλ ={x∈R | λ≤x≤λ+ 1} とおけば,(Aλ)λ∈Λは閉区間からなる集合族である.
部分集合族
ΛとXを集合,A⊂ P(X)とし,f : Λ→Aとする.このようなfから定まる集合族 を特に(Xの)部分集合族という.
集合族の定義ではAは単に集合を要素に持つとしか言っていないのに対し,部分集合族 においては,ある普遍集合Xがあり,Aの要素は全てXの部分集合になっている.した がって,部分集合族は集合族の特別なものである.
注意:集合族および部分集合族の定義そのものに主眼を置くために上では用いなかった が,一般に,集合を要素に持つような集合に名前(アルファベット)を付ける際 にはA,Mなどのフォントを用いることが多い.この書体をカリグラフィック体 (calligraphic font)といい,Aは「カリグラフィック エー」などと読む.
したがって,集合族および部分集合族の定義においてはAの代わりにA を用いた方が慣 例に沿った書き方であり,今後はカリグラフィック体を用いる.
集合族の和集合
これまでに,いくつかの集合が与えられたとき,その和集合を定義した.例えば,A, B が集合のとき,
A∪B ={x | (x∈A)∨(x∈B)} (1)
であり,定義(1)を帰納的に用いればn ∈ Nに対して,「n個の集合の和集合」も定義さ れる.
しかし,一般に集合族の和集合を定義するためには,定義(1)を帰納的に用いるだけ では実は不十分である(その理由は後期で扱う「集合の濃度」という概念が必要なのでこ こでは厳密な説明は省く).そこで,定義(1)と矛盾せず,かつ集合族にも通用するよう に「和集合」の定義を表現し直そう.
n個の集合A1, A2, . . . , Anが与えられたとき,定義(1)を帰納的に用いると,
A1∪A2∪ · · · ∪An ={x | (x∈A1)∨(x∈A2)∨ · · · ∨(x∈An)}
となる.つまり,「xがA1, A2, . . . , Anの和集合に属す」とは「xがA1, A2, . . . , An のうち の少なくとも1つに属す」ということになる.これをxに関する別な命題関数の形に書く と,xがA1, A2, . . . , Anの和集合に属すとは
∃i∈ {1,2,3, . . . , n}, x∈Ai
が成り立つことである.このように表現すると,より一般の集合族の和集合が定義できる.
集合族の和集合
(Aλ)λ∈Λを集合Λによって添数付けされた集合族とする.
{x | ∃λ∈Λ, x∈Aλ} で定まる集合を集合族(Aλ)λ∈Λの和集合といい,
∪
λ∈Λ
Aλ
と表す.特に,添数集合がNで,集合族が(An)n∈Nで与えらるとき,その和集合を
∪∞ n=1
An
とも表す.もちろん,
∪
n∈N
An
と表記してもよい.
∪
λ∈Λ
Aλ は「集合族(Aλ)λ∈Λの和集合」を抽象的に表しているにすぎず,それが具体的にど のような集合であるかは別に求める必要がある.例えば,n∈Nに対して
An={x∈R |0< x < n} とおくと,集合族(An)n∈Nに対して
∪∞ n=1
An ={x∈R | 0< x <∞}
である(演習問題).
集合族の共通部分
和集合のときと同様に考えて,集合族の共通部分を定義する.
n個の集合A1, A2, . . . , Anが与えられたとき,「xがA1, A2, . . . , Anの共通部分に属す」
とは「xがA1, A2, . . . , Anの全てに属す」ということである.これをxに関する命題関数 の形にすると,xがA1, A2, . . . , Anの共通部分に属すとは
∀i∈ {1,2,3, . . . , n}, x∈Ai
が成り立つことである.これをもとに集合族の共通部分を以下のように定義できる.
集合族の共通部分
(Aλ)λ∈ΛをΛによって添数付けされた集合族とする.
{x | ∀λ∈Λ, x∈Aλ} で定まる集合を集合族(Aλ)λ∈Λの共通部分といい,
∩
λ∈Λ
Aλ
と表す.特に,添数集合がNで,集合族が(An)n∈Nで与えられるとき,その共通部 分を
∩∞ n=1
An
とも表す.
共通部分に関しても,∩
λ∈Λ
Aλが具体的にどのような集合であるかは個別に求めるしかない.
記号に関する補足
集合族(Aλ)λ∈Λ の和集合および共通部分をそれぞれ
∪
λ∈Λ
Aλ および ∩
λ∈Λ
Aλ
と表したが,添数集合Λがあるm ∈Nを用いて Λ ={1,2,3, . . . , m}
と表されるとき,集合族(An)n∈{1,2,3,...,m} の和集合および共通部分を
∪m
n=1
An および
∩m
n=1
An
などと表記したりする.
また,集合族(An)n∈Nが与えられたとき,その一部のみの和集合や共通部分を表すのに
∪m
n=k
An や
∩∞ n=m
An
などの表記も使う.
以下では断りがない限り,A, Bは集合を表すとする.
予約制問題
(9-1) n ∈Nに対してAn= (0, n)で与えられるとき,
∪∞ n=1
Anを求めよ.
(9-2) (Aλ)λ∈ΛをΛによって添数付けされた集合族とする.このとき,以下を示せ.
(∪
λ∈Λ
Aλ )
∩B = ∪
λ∈Λ
(Aλ∩B)
(9-3) f :A→Bを写像,(Aλ)λ∈Λ をAの部分集合族とする.このとき,
f (∪
λ∈Λ
Aλ )
= ∪
λ∈Λ
f(Aλ)
が成り立つことを示せ.
(9-4) f :A→Bを写像,(Bλ)λ∈Λ をBお部分集合族とする.このとき,
f−1 (∪
λ∈Λ
Bλ )
= ∪
λ∈Λ
f−1(Bλ)
が成り立つことを示せ.
早いもの勝ち制問題
(9-5) n ∈Nに対してAn= (0, n)で与えられるとき,
∩∞ n=1
Anを求めよ.
(9-6) (Aλ)λ∈ΛをΛによって添数付けされた集合族とする.このとき,以下を示せ.
(∩
λ∈Λ
Aλ )
∪B = ∩
λ∈Λ
(Aλ∪B)
(9-7) f :A→Bを写像,(Aλ)λ∈Λ をAの部分集合族とする.このとき,
f (∩
λ∈Λ
Aλ )
⊂ ∩
λ∈Λ
f(Aλ)
が成り立つことを示せ.
(9-8) f :A→Bを写像,(Bλ)λ∈Λ をBの部分集合族とする.このとき,
f−1 (∩
λ∈Λ
Bλ )
= ∩
λ∈Λ
f−1(Bλ)
が成り立つことを示せ.