代数学 I ( 第 3 回 )
都築 暢夫
4月 28 日(金) 3・4時限 今回は、線形写像とその行列表示について復習する。
1. 線形写像
線形空間の線形写像の定義は教科書 116 - 117ページを見よ。2つの線形写像の合成は 線形写像になり、結合性(h◦g)◦f =h◦(g◦f) が成り立つ。
以下、例をあげる。
例 1.1. 零写像. V, W を F 線形空間とする。零写像 n :V →W (n(x) = 0 (∀x∈V))は 線形写像である。
例 1.2. 恒等写像. V をF 線形空間とする。恒等写像idV :V →V (idV(x) = x(∀x∈V)) は線形写像である。
例 1.3. 行列が定める線形写像. A を F 係数のn 行 m 列行列とする。写像 fA:Fm →Fn fA(x) =Ax
は線形写像である。A= 0 (零行列) のとき零写像、m =n かつA =En のとき恒等写像 になる。
例 1.4. 微分. F[x] 上の微分 dxd を d dx
à n X
i=0
aixi
!
= Xn
i=1
iaixi−1
と定めると、dxd はF 線形写像になる。また、任意の自然数nに対して dxd(F[x]n)⊂F[x]n−1 となる。ただし、F[x]−1 ={0} とする。
線形写像 f :V →W に関して、次のことが成り立つ(教科書 118 - 128 ページ)。 (1) f の核 Kerf ={x∈V |f(x) = 0} は V の部分空間になる。f が単射である必要
十分条件はKerf ={0} である。
(2) f の像 Imf ={y∈ W| ∃x∈V s.tf(x) = y} は W の部分空間になる。f が全射 である必要十分条件はImf =W である。
(3) f が同型であるとは、ある線形写像 g : W → V が存在してg ◦f = idV かつ f◦g = idW が成り立つことをいう (教科書 127ページの定義と少し違うが、次の 同値性より一致する)。f が同型写像であるための必要十分条件は f が全単射であ ることである。
2
2. 行列表示 (教科書 128 - 137 ページ)
V とW をF 線形空間、v1,· · · , vmとw1,· · ·, wnをそれぞれの基底とする。f :V →W を線形写像とする。このとき、
f(vi) =a1iw1+a2iw2+· · ·+aniwn とし、n 行 m 列行列 A をA=
a11 · · · a1m ... ...
an1 · · · anm
と定める。(行列表示すると
f(v1,· · · , vm) = (w1,· · · , wn)A
ということで、以下は単にこのように書く。) V の任意の元c1v1+· · ·+cmvm に対して
f(c1v1+· · ·+cmvm) = f
(v1,· · · , vm)
c1
...
cm
=f(v1,· · ·, vm)
c1
...
cm
= (w1,· · · , wn)A
c1
...
cm
となる。したがって、次の定理が成り立つ。
定理 2.1. 次の図式
V −→f W
∼=↓ ↓∼=
Fm −→
fA
Fn
は可換である。ただし、縦方向の写像は、基底を決めると決まる同型で、fA は例 1.3 の写像である。(可換とは、左上から右下に行く 2通りの写像が一致するということ。)
定理2.1 の図式のことを、線形写像の行列表示という。行列 A のことを表現行列とい う。行列表示は、V と W の基底を取り方により決まる。
例 2.2. 写像 f :F[x]→F[x] をf = (x2 + 2x+ 1)dxd で定める。f が F 線形写像になる ことは容易に確かめられる。f(F[x]2) ⊂ F[x]3 となるので、制限写像g : F[x]2 → F[x]3 に対して、基底 1, x, x2 と 1, x, x2, x3 に関する表現行列を求める。
g(1) = 0
g(x) = 1 + 2x+x2
g(x2) = (x2+ 2x+ 1)×2x= 2x+ 4x2+ 2x3 となるので、表現行列A は
A =
0 1 0 0 2 2 0 1 4 0 0 2
3
となる。
さて、基底を変えたら行列表示はどうなるだろうか。前節の状況で、v10,· · · , vm0 とw10,· · · , wn0 をそれぞれ V と W のもう一つの基底とする。すると、ある m 次および n 次の可逆行 列 P と Q が存在して
(v01,· · · , vm0 ) = (v1,· · · , vm)P (w01,· · · , wn0) = (w1,· · · , wn)Q
となる(前回 4節)。線形写像 f :V →W の基底v10,· · · , vm0 とw10,· · · , w0n に関する行列 表示は、
f(v10,· · · , vm0 ) = f((v1,· · · , vm)P) = f(v1,· · ·, vm)P
= (w1,· · · , wn)AP = (w01,· · ·, w0n)Q−1AP となるので、表現行列は
A0 =Q−1AP となる。以上より、次の定理が成り立つ。
定理 2.3. f : V → W の基底 v01,· · · , vm0 とw10,· · · , w0n に関する表現行列は、A0 = Q−1AP となる。さらに、次の図式は可換である。
V −→f W
∼=&(v) ∼=&(w)
∼=↓(v0) Fm −→fA Fn
∼=%fP ∼=↓(w0) ∼=%fQ
Fm −→
fA0 Fn
ただし、矢印の右下の太字の意味は基底に関する数線形空間との同一視を表す。
例 2.4. 例 2.2 の線形写像 g :F[x]2 →F[x]3 の基底1,(x+ 1),(x+ 1)2 と 1,(x+ 1),(x+ 1)2,(x+ 1)3 に関する表現行列B は
B =
0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 2
となる。前回の例4.3から、基底の変換行列はそれぞれP =
1 1 1 0 1 2 0 0 1
とQ=
1 1 1 1 0 1 2 3 0 0 1 3 0 0 0 1
となるから
B =Q−1AP となる。
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3. 階数と次元公式
線形写像の像の次元と表現行列の階数の関係を教科書(定理 5.2, 5.3) とは少し異なる 方法で証明する。
定理 3.1. f :V →W を有限次元 F 線形空間の間の線形写像で、V と W のある基底 に関する表現行列を A とする。このとき、
dimF Imf = rankA
dimF Kerf = dimF V −rankA が成り立つ。特に、次元公式
dimF V = dimFKerf+ dimF Imf が成り立つ。
証明. rankA=r とすると、掃き出し法(教科書定理3.1) から、ある可逆行列P と Qが 存在して
A0 =Q−1AP =
1
. ..
1 0
. ..
とできる(対角上方r 成分のみが 1で残りは0)。v1,· · · , vm と w1,· · · , wn を元の基底と すると、(v10,· · · , vm0 ) = (v1,· · · , vm)P と(w01,· · · , wn0) = (w1,· · · , wn)Q に関するf の表 現行列がA0 となる。f(v0i) =w0i(1≤i≤r)かつf(vi0) = 0 (i > r)となので
Imf = hw10,· · · , wr0i Kerf = hvr+10 ,· · · , vm0 i
となる。よって、定理が成り立つ。 ¤
例 3.2. 例 2.2 の線形写像 g : F[x]2 → F[x]3 の像は、(x+ 1)2,(x+ 1)3 で生成されてい て、その次元は 2である。
問 6. V と W を F 線形空間でそれぞれの基底を一組ずつとる。V から W への線形写 像全体から (n, m)行列全体への表現行列をとる写像
ρ: HomF(V, W)→Mat(n, m;F)
は F 線形空間の同型になることを証明せよ。また、写像の合成と ρ は適合していること を示せ。