都築 暢夫
5月 19 日(金) 3・4時限 固有空間と対角化を復習する (教科書 165 - 184 ページ)。
F を代数閉体とする。代数閉体に関しては前回の補足を見よ。ここでは、F =C と思 えばよい。今回考える行列はすべてF 係数とする。また、線形空間はF 線形空間とする。
1. 直和
V1 と V2 が F 線形空間とする。
V1⊕V2 ={(x1, x2)|x1 ∈V1, x2 ∈V2} (x1, x2) + (y1, y2) = (x1+y1, x2+y2) a(x1, x2) = (ax1, ax2) (a∈F)
と定めた F 線形空間を、V1 と V2 の直和線形空間という。V1 と V2 の基底を並べたもの が V1⊕V2 の基底になる。よって、
dimFV1⊕V2 = dimFV1+ dimFV2 である。f1 :V1 →W1 と f2 :V2 →W2 を線形写像とすると
f1⊕f2 :V1⊕V2 →W1⊕W2 (x1, x2)7→(f1(x1), f2(x2))
で、直和空間上に線形写像が定まる。V1 と V2 それぞれの基底からなる直和空間上の表 現行列は、f1 と f2 の表現行列をそれぞれA1 と A2 とすると
µA1 0 0 A2
¶
となる。逆 に、f : V1 ⊕V2 → W1 ⊕W2 の表現行列が上のように表されていると、f は線形写像 f1 :V1 →W1 と f2 :V2 →W2 の直和から得られる。
命題 1.1. W1, W2 を有限次元 F 線形空間 V の部分空間とする。
(1) (教科書 113 ページ・問題 10) 自然な線形写像 W1 ⊕W2 → V ((x1, x2) 7→
x1 +x2) が線形空間の同型となるための必要十分条件は W1∩W2 = {0} かつ dimFV = dimFW1+ dimFW2 となることである。
(2) V =W1⊕W2とする。線形写像f :V →V がf1 :W1 →W1とf2 :W2 →W2 の直和となるための必要十分条件は、W1 と W2 がともに f 不変となることで ある。
2. 固有空間
A を n 次正方行列とする。
定義 2.1. (教科書 165 ページ) λ∈F に対して
V(λ) ={x∈Fn|(λEn−A)x= 0}
を λ に関する固有空間と定める。線形写像 f :V →V の固有空間 V(λ)も同様に V(λ) ={x∈V |(λidV −f)(x) = 0}
で定める。
命題 2.2. (教科書 165 ページ) λ∈F に対して次が成り立つ。
(1) dimFV(λ) = dimF Ker(λEn−A) =n−rank(λEn−A).
(2) λ が A の固有値 ⇔ V(λ)6= 0.
定理 2.3. (教科書 169 ページ・定理 7.4) λ1,· · · , λs(i6=j ⇒ λi 6=λj)を A の固有値 とする。V(λ1),· · · , V(λs) の基底を並べたものは、Fn の中で一次独立である。特に、
自然な線形写像
V(λ1)⊕ · · · ⊕V(λs)→Fn (x1,· · · ,xs)7→x1+· · ·+xs は単射である。
例 2.4. 第 5回例 4.6 の 4次複素行列A=
0 −2 2 1 −3 1 2 −2 0
の固有値 −2,1 に対する固有空 間を求める。固有値 −2 に対する固有空間 V(−2)は方程式
(−2E3−A)
x y z
=
−2 2 −2
−1 1 −1
−2 2 −2
x y z
=
0 0 0
の解である。行に関する基本変形をすると
−2 2 −2
−1 1 −1
−2 2 −2
−→
−2 2 −2
0 0 0
0 0 0
となるので、rank(−2E2−A) = 1 となる。よって、dimV(−2) = 3−1 = 2 である。方 程式を解いて基底を求めると
V(−2) =
*
1 1 0
,
0 1 1
+
となる。固有値 1に対する固有空間 V(1) は方程式 (E3−A)
x y z
=
1 2 −2
−1 4 −1
−2 2 1
x y z
=
0 0 0
の解で
1 2 −2
−1 4 −1
−2 2 1
−→
1 2 −2 0 6 −3 0 6 −3
−→
1 2 −2 0 6 −3 0 0 0
より、rank(E2−A) = 2 となるので dimV(1) = 3−2 = 1 である。よって V(1) =
*
2 1 2
+
となる。 ¤
例 2.5. 第 5 回例4.8 の線形写像を複素線形空間の線形写像 f : Mat(2;C)→Mat(2;C) f(X) = AX−XB A=
µ 4 4
−1 0
¶ , B =
µ 1 0
−2 3
¶
と見る。f の表現行列 F は、F =
3 4 2 0
−1 −1 0 2
0 0 1 4
0 0 −1 −3
で、f の固有値は1 と −1であ る。固有値 1 に対する固有空間 V(1) は
(E4−F)
x y z w
=
−2 −4 −2 0
1 2 0 −2
0 0 0 −4
0 0 1 4
x y z w
=
0 0 0 0
の解である。行に関する基本変形をすると
−2 −4 −2 0
1 2 0 −2
0 0 0 −4
0 0 1 4
−→
−2 −4 −2 0
0 0 −1 −2
0 0 0 −4
0 0 1 4
−→
−2 −4 −2 0
0 0 −1 −2
0 0 1 4
0 0 0 −4
となるので、rank(E4 −F) = 3 である。よって、dimV(1) = 4−3 = 1 であり、例えば x= 2, y =−1, z =w= 0 となる。したがって、
V(1) =
¿µ 2 0
−1 0
¶À
となる。同様に、固有値 −1に対する固有空間 V(−1) は
(−E4−F)
x y z w
=
−4 −4 −2 0
1 0 0 −2
0 0 −2 −4
0 0 1 2
x y z w
=
0 0 0 0
の解である。行に関する基本変形をすると
−4 −4 −2 0
1 0 0 −2
0 0 −2 −4
0 0 1 2
−→
1 0 0 −2
−4 −4 −2 0
0 0 −2 −4
0 0 0 0
−→
1 0 0 −2
0 −4 −2 −8 0 0 −2 −4
0 0 0 0
となるので、rank(−E4−F) = 3 である。よって、dimV(−1) = 4−3 = 1 であり、例え ば x= 2, y =−1, z =−2, w = 1 となる。したがって、
V(−1) =
¿µ 2 −2
−1 1
¶À
となる。 ¤
3. 固有空間の次元
A を n 次正方行列、λ1,· · ·, λs(i 6=j ⇒ λi 6=λj) をA の固有値全体、v1,· · · ,vm を 固有空間 V(λ1),· · · , V(λs) の一次独立な元を m1,· · · , ms(m = m1 +· · ·+ms) 個ずつ 並べたものとする。ただし、0 ≤ mi ≤ dimFV(λi) である。定理 2.3 から、これらは一 次独立になっているので、これらを含む V の基底を、v1,· · · ,vm,vm+1,· · · ,vn とする。
P = (v1,· · · ,vn)を、基底から作る n 次可逆行列とする。
命題 3.1. 上に述べた記号のもと次が成り立つ。
P−1AP =
λ1Em1 ∗
. .. ...
λsEms ∗
∗
ただし、何も書いてない成分は 0とする。
証明. 証明は、第 4 回補題2.3 と同様。 ¤
系 3.2. (教科書167 - 168ページ・定理7.3) φA(x) = (x−λ1)n1· · ·(x−λs)ns (ni を固 有値 λi の重複度という)とすると、dimFV(λi)≤ni となる。
4. 対角化可能性
定義 4.1. (教科書170 ページ) 正方行列A が対角化可能とは、A と相似な対角行列が 存在することである。
命題3.1 においてP は可逆行列だから、次の定理が成り立つ。
定理 4.2. (教科書 170 ページ・定理 7.5) λ1,· · · , λs を n 次正方行列 A の互いに異な る固有値全体とする。A が対角化可能であるための必要かつ十分条件はdimFV(λ1) +
· · ·+ dimFV(λs) =n となることである。
系 4.3. (教科書 171 ページ・定理 7.6) n 次正方行列 A の固有多項式 φA(x) が互いに 異なる n 個の根を持てば、A は対角化可能である。
線形写像f :V →V の言葉で対角化可能をいうと、命題 1.1 から、V は 1次元部分空 間 W1,· · · , Ws の直和になり、f は f1 :W1 →W1,· · · , f1 :Wn→Wn の直和になること である。それぞれの部分空間 Wi は 1 つの固有ベクトルで生成されていて、fi は固有値 倍写像になる。
例 4.4. 例 2.4 の 4 次正方行列 A に対して
dimV(−2) + dimV(1) = 2 + 1 = 3 = dimC3
となるので、定理 4.2 からA は対角化可能である。固有空間の基底をすべて並べて3 次 可逆行列 P =
1 0 2 1 1 1 0 1 2
を作る。すると、
AP =
0 −2 2 1 −3 1 2 −2 0
1 0 2 1 1 1 0 1 2
=
−2 0 2
−2 −2 1 0 −2 2
=P
−2 0 0 0 −2 0
0 0 1
となり、A の対角化が実際に得られた。 ¤
例 4.5. 例 2.5 の線形写像 f に対して
dimV(1) + dimV(−1) = 1 + 1 = 2<4 = dim Mat(4;C)
なので、線形写像 f (f の表現行列 F)は対角化できない。 ¤
問 7. A, B を n 次正方行列とする。A, B が同時対角化可能とは、ある可逆行列 P が存 在して、P−1AP と P−1BP がともに対角行列になることをいう。
(1) AB=BAならば、Aの固有空間V(λ)は B 不変部分空間であることを証明せよ。