福島沖海底堆積物中に見られる高放射性粒子の微細構造を初めて明らかに
公益財団法人海洋生物環境研究所研究員の池上隆仁博士( 九大院( 理( 地球惑星 2013 年 卒),九州大学大学院理学研究院の宇都宮聡准教授,国立研究開発法人量子科学技術研究開 発機構の石井伸昌主幹研究員らの研究グループは,これまで存在が示唆されながらもその 粒子の細かさから解析が難しかった高濃度放射性セシウム含有微粒子( CsMP)と高放射性 Cs 収着粘土鉱物凝集体を福島沖 35 ㎞の海底堆積物から発見し,多角的な先端微細分析を 駆使してナノレベルでの鉱物( 化学組成及び結晶構造の解析に初めて成功しました。また,
定量結果から高濃度放射性セシウム含有微粒子( CsMP)の起源と輸送経路を推定しました。
九州大学,量子科学技術研究開発機構とともに原子力災害による環境汚染の実態を究明す ることを目指して行われた共同研究の成果です。
近年,東京電力福島第一原発事故後、福島県と関東地方( つくば1、東京2)に拡散した 大気中の微粒子や陸域の土壌粒子の中に、周りの粒子に比べて,高い放射性セシウム 10-
1~103(Bq、単位質量あたり約~1011Bq/g)を多く含む粒子の存在が報告されています。これ までに海底堆積物や海洋に浮遊する微粒子においても高い放射性の微粒子が点在すること が確認され、高濃度放射性セシウム含有微粒子 CsMP)の存在が示唆されていましたが,
分析が難しいために、それらの鉱物( 化学組成及び結晶構造の詳細は明らかになっていませ んでした。
池上研究員らのグループは,福島第一原子力発電所の沖合 35 ㎞で採取した放射性セシ ウム 134Cs 及び137Cs)の放射能が全体で約 1200( Bq/kg 乾燥重量;( 2011 年 3 月 12 日に 減衰補正)の海底堆積物に含まれる放射性の微粒子ついて顕微分析を行いました。まず海底 堆積物から 697 個の放射性微粒子を分離して,さらにそのうち最も放射能の高い粒子( “高 放射性”)と中程度の放射能の粒子 “中放射性”)をそれぞれ単離して,134Cs と137Cs の総 放射能を求めたところ,それぞれ 56 及び 0.67(Bq( 2011 年 3 月 12 日に減衰補正)でした。
このうち,放射能の高い粒子の134Cs/137Cs 放射能比は 1.04 で,原子炉 2 号機または 3 号 機に由来する粒子であることが明らかになりました。
電子顕微鏡分析によって“高放射性”微粒子は粒径が~5μm でシリカガラスを母体とし、Cs 濃度は~9( %と高く、その組織、組成から陸域でこれまでに報告されてきたものと同様の CsMP であると同定されました( 図1)。この CsMP 一粒子の放射能は分析した堆積物全体 の放射能 377( Bq)の 15%を占め、目に見えない程小さいながらもその放射能の寄与は大 きいことが分かります。もう一方の“中放射性”粒子については,粒径は~1( mm 程度で通常 の土壌を構成する 14( Å の面間隔をもつ Al-Si 含有粘土鉱物と長石、石英の集合体であり,
原発近傍の高汚染土壌( 堆積物が起源であり、海洋を介して輸送されたことが示されました。
CsMP と Cs 吸着粘土鉱物粒子はこれまでに汚染された広い範囲の陸域で確認されている Cs の存在状態を代表する二つの形態であることから、これらが海洋堆積物、浮遊粒子でみ られる不均質な高放射性の微粒子であることが示唆されます。特に難溶解性 3の CsMP の 移行は海洋環境中の放射性 Cs の放射能の推移に影響を及ぼす要因の一つとなりうるもの で,今後の海洋放射能調査の結果を解釈するうえで重要な知見となります。
参考文献
1Adachi, K., Kajino, M., Zaizen, Y., Igarashi, Y., 2013. Emission of spherical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident. Sci. Rep. 3, 2554.
https://doi.org/10.1038/srep02554
2Utsunomiya, S., Furuki, G., Ochiai, A., Yamasaki, S., Nanba, K., Grambow, B., Ewing, R.C., 2019. Caesium fallout in Tokyo on 15th March, 2011 is dominated by highly radioactive, caesium-rich microparticles. ArXiv 1906.00212.
3Suetake, M., Nakano, Y., Furuki, G., Ikehara, R., Komiya, T., Kurihara, E., Morooka, K., Yamasaki, S., Ohnuki, T., Horie, K., Takehara, M., Law, G.T.W., Bower, W., Grambow, B., Ewing, R.C., Utsunomiya, S., 2019. Dissolution of radioactive, cesium-rich
microparticles released from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant in simulated lung fluid, pure-water, and seawater. Chemosphere 233, 633–644.
https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2019.05.248.
(
本研究成果の一部は,原子力規制庁の委託業務「原子力施設等防災対策等委託費 海洋 環境における放射能調査及び総合評価)事業」ならびに,文部科学省の科学研究費挑戦的萌 芽研究(16K12585)の支援を受けて行われたものです。また,本研究成果は,2020 年 11 月 19 日(木) 日本時間)に国際環境科学誌「Chemosphere」に掲載されました。
図1 福島沖海底堆積物のオートラ ジオグラフィー画像( 上段)とその中 に含まれていた高濃度放射性 Cs 含 有微粒子( CsMP)の SEM 分析結果 下段:二次電子像と元素マップ)
【論文詳細】
タイトル:Occurrence(of(highly(radioactive(microparticles(in(the(seafloor(sediment(from(
the(Pacific(coast(35(km(northeast(of(the(Fukushima(Daiichi(Nuclear(Power(Plant
著者(:Takahito(Ikenoue,(Masato(Takehara,(Kazuya(Morooka,(Eitaro(Kurihara,(Ryu(Takami,(
Nobuyoshi(Ishii,(Natsumi(Kudo,(and(Satoshi(Utsunomiya
雑誌名:Chemosphere(DOI:https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2020.128907 2021 年 1 月 7 日まで以下のリンクから無料で論文をダウンロードできます。