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Journal 東京歯科大学教養系研究紀要, 33(): 1‑13
URL http://doi.org/10.15041/tdckiyou.33.1 Right
Description
1
対面講義とオンライン講義の教育効果の比較
池上健司
11 はじめに
2020 年には新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し、これを予防す る観点から、多くの大学は学生と対面して行う通常の講義(以下、「対面講 義」)をオンライン上で行う講義へと切り替えた。筆者の勤務校である東京 歯科大学(以下、「本学」)でも、Google Meet による双方向型遠隔講義(以 下、「オンライン講義」)を 2020 年度当初から行った。本学で筆者が担当す る科目である第 1 学年向けの講義、物理Ⅰでも 2020 年前期(4 月から 9 月)
の全 14 回のうち 7 回をオンライン講義で行った。このような状況下で、
対面講義と比べてオンライン講義はより高い教育効果をもつのだろうか という疑問をもつのは自然なことだろう。アメリカ教育省の 2010 年の報 告[1]では、オンライン講義は対面講義よりも学習者のパフォーマンスが 高いと報告されている。では、日本でもオンライン講義の教育効果は対面 講義より高いのだろうか。本学の学生からも、オンライン講義について、
「質問がしやすい」「画面が教室より見やすい」「録画を何度も見直すこと ができ、復習がしやすい」「ノートが取りやすい」などの好意的な意見も出 ていた。西谷の報告[2]でも一橋大学の留学生へのアンケートの結果、学生 達はオンライン講義に満足を感じている傾向が報告されている。しかし、
山崎の報告[3]では香川大学経済学部の学生向けアンケートの結果、対面 講義に比べてオンライン講義では、良い受講態度で受講しにくく理解もし にくくなったと感じている傾向が報告されている。しかし、これらはアン ケートをもとにした、学生の主観の調査である。
1 東京歯科大学 物理学研究室
本稿ではオンライン講義と対面講義の教育効果をほぼ同じ問題を用いて 定量的に比較し、結果を考察する。この比較に利用するデータは、本学の 第 1 学年が前期に履修する自然科学演習(物理)のポストテストの結果で ある。詳細は次章で説明するが、自然科学演習(物理)のポストテストは かなり基礎的な内容の多肢選択方式の問題で構成されており、各問題は選 択肢に多少の違いはあるが例年ほぼ同じである。2019 年までは物理Ⅰも自 然科学演習(物理)も対面講義で行われたが、2020 年は物理Ⅰも自然科学 演習(物理)も半分以上の授業がオンライン講義で行われた。そこで本稿 では自然科学演習(物理)で行った各ポストテストの正答率を用いて、物 理Ⅰと自然科学演習(物理)について、2015~2019 年のうちの数年の対面 講義と 2020 年のオンライン講義との教育効果の定量的な比較を試みる。
次章では、物理Ⅰと自然科学演習(物理)の概要を説明し、3 章では自然 科学演習(物理)で行ったポストテストについて 2015~2019 年のうちの数 年の正答率と 2020 年の正答率を比較する。4 章で、考察とまとめを行う。
2 物理Ⅰと自然科学演習(物理)の概要
本学では、学生は第1学年前期には物理に関連する必修科目として物理
Ⅰと自然科学演習(物理)を受講することになっている。物理Ⅰは筆者と もう一人の物理担当教員が担当し、自然科学演習(物理)は筆者が担当し ている。学生は、物理Ⅰで各内容を学びながら、ほぼ2週ごとに自然科学 演習(物理)でその内容を簡単に復習し、基礎的な部分に関するポストテ ストを受けることになっている。
まず、物理Ⅰは必修科目として第 1 学年全員を対象に 1 年前期に全 14 回行われる講義である。本学は医療系大学であるため、物理を受験科目と して選択して入学した学生は2割弱であり、学生間で物理の理解度には大 きな差がある。そのため、入学時に行われるプレースメントテストや入学 試験の成績から各学生の物理の理解度を調べ、物理をある程度理解してい ると判断された学生は一般クラスへ、あまり理解していないと判断された 学生は基礎クラスに割り振られる。ただし、一般クラス・基礎クラスのど ちらでも、講義で扱う単元と定期試験は同じである。物理Ⅰでは主に力学 を講義し、その講義内容は単位、速度・加速度、力、運動方程式、仕事、
エネルギーなどである。
次に、自然科学演習(物理)は、必修科目として第 1 学年全員を対象に
3
前期にほぼ 2 週に 1 回ずつ計7回行われる演習科目である。例年の自然科 学演習(物理)の具体的な進め方は以下①~③の通りである。
①学生は、直前の数週間の間に物理Ⅰで学んだ内容の基本的な部分 を演習冒頭で再度簡単に解説され、その後に多肢選択形式のポス トテストを解く。
②解答はマークシートで回収され、すぐに採点される。この結果を 用いて、物理Ⅰの講義の基礎的な部分を理解できていない学生を その日のうちに抽出する。
③抽出された学生は、補習に出席することが求められる。
自然科学演習(物理)の主要な目的の一つは、上の過程で抽出された学生 を補習で集中して指導し、多くの学生が理解できている基礎的な内容を理 解できるよう導くことである。そのため、前述のように自然科学演習(物 理)のポストテストにはかなり基礎的な内容の問題だけが多肢選択方式で 出題されており、各問題は選択肢や実施時期に多少の違いはあるが毎年で ほぼ同じである。過去問を事前に勉強して基準点を超えることを目指すこ とはむしろ教員側から推奨しており、過去問も公開している。また、自然 科学演習の成績は定期試験の結果から出され、ポストテストの結果は成績 に影響しない。
このような物理Ⅰと自然科学演習(物理)の授業形式は 2015~2019 年で 同じであったが、2020 年では新型コロナウイルス感染症対策のため、次に 述べる点が異なった。まず表1にあるように、2020 年では物理Ⅰも自然科 学演習(物理)もオンライン講義が半数以上を占めた点が例年と異なった。
表1:2015~2020 年での、物理Ⅰと自然科学演習(物理)の講義方法 実施時期 2015~2019 年 2020 年
物理Ⅰ すべて対面講義(14 回) 対面講義5回 オンライン講義 9 回 自然科学演習(物理) すべて対面講義(7 回) 対面講義 3 回
オンライン講義 4 回
次に、2015~2019 年や 2020 年の対面講義では自然科学演習(物理)での ポストテストの解答をマークシートで回収したが、2020 年のオンライン講 義では Google のサービスである Google Classroom を用いて自然科学演習
(物理)のポストテストを実施した点も例年と異なった。Google Classroom は、オンライン上での多肢選択問題の出題、解答の回収を簡単にできるサ ービスであり、大変役に立った。表2で、2015~2020 年の前期において自 然科学演習(物理)で扱った内容を示す。
表2:前期において自然科学演習(物理)で扱う内容 自然科学演習(物理)の内容
第 1 回 比例・単位換算
第 2 回 ベクトル(成分、合成、分解) 第 3 回 1 次元での力のつり合い
作用反作用
第 4 回 2 次元での力のつり合い
微分による速度(年によって、微分による加速度まで扱う)
第 5 回 (年によって、微分による加速度も扱う)
積分による速度・加速度 慣性の法則
第 6 回 斜面上の物体に働く力 運動方程式
第 7 回 仕事・エネルギー
物理Ⅰの講義の進度の都合上、第 4,5 回の自然科学演習(物理)で扱う問 題内容は年によって一部異なっているため、次章では扱わない。また、以 下の表3のように、第 6 回自然科学演習(物理)で扱う内容は、物理Ⅰで は 2019 年までも 2020 年も対面講義で扱われたため、物理Ⅰの対面講義と オンライン講義の教育効果の比較に使えない。よって、次章では扱わない。
表3:斜面上の物体に働く力、運動方程式についての講義方法 2015~2019 年 2020 年
物理Ⅰ 対面講義 対面講義
自然科学演習(物理) 対面講義 オンライン講義
よって次章では、第1~3,7回自然科学演習(物理)のポストテストの結 果のみを与える。また、年によって問題も同じになるように、次章で与え るポストテストの結果において、2015~2020 年のデータのうち何年分を使
5 うかを回によって変える。
3 自然科学演習(物理)のポストテストの結果
この章では、前述のように内容が共通している自然科学演習(物理)の 第1~3、7回に行われたポストテストの正答率を、2015~2019 年のうち の数年と 2020 年で比較する。以下で、自然科学演習(物理)の第1~3、
7回の順番に見ていく。
第 1 回自然科学演習(物理) 演習内容:単位換算
第 1 回目の自然科学演習(物理)で扱う内容は比例と単位換算について であるが、物理Ⅰでは比例を扱っていないため、以下では単位換算に関す る部分だけを取り扱う。問題がほぼ同じで比較が可能な 2015~2019 年と 2020 年の物理Ⅰ・自然科学演習(物理)において、単位換算についての講 義が対面講義とオンライン講義のどちらで行われたかを表4に示す。
表4:単位換算についての講義方法
2015~2019 年 2020 年
物理Ⅰ 対面講義 オンライン講義
自然科学演習(物理) 対面講義 オンライン講義
2015~2019 年、2020 年とも単位換算をまず物理Ⅰで講義し、さらに自然 科学演習(物理)の冒頭で簡単に復習した後、ポストテストを出題した。
この内容は単なる暗記をしても問題が解けるようにはならず、特に高校で 単位換算を理解していなかった学生にとっては、物理Ⅰでの講義内容をし っかりと復習しておかないと自然科学演習(物理)のポストテストが低得 点となってしまう。2015~2019 年と 2020 年における、第 1 回自然科学演 習でのポストテストの正答率の平均値を図1に示す。
2015~2019 年と 2020 年における第 1 回自然科学演習(物理)でのポス トテストの正答率の平均値について t 検定を行った結果、有意水準 0.05 で 有意差があり、単位換算について、物理Ⅰが対面講義であった 2015~2019 年に比べて、物理Ⅰがオンライン講義であった 2020 年の正答率の平均値 が高いと言えた。
図1 第1回自然科学演習(物理)ポストテストの正答率の平均値 受験者:2015~2019 年 649 人、2020 年 132 人
Error Bar は標準誤差を表す
第2回自然科学演習(物理) 演習内容:ベクトル
第2回自然科学演習(物理)では、ベクトルの成分表示、合成や分解を 扱った。ベクトルは後の講義で扱う力の分解や速度・加速度を学ぶ上で必 須の基礎知識である。2020 年では、この内容を物理Ⅰと自然科学演習(物 理)のオンライン講義で扱った(表5)。
表5:ベクトルについての講義方法
2015~2019 年 2020 年
物理Ⅰ 対面講義 オンライン講義
自然科学演習(物理) 対面講義 オンライン講義
例年多くの学生が満点を取る内容である。例えば、2020 年では 132 名中 106 人が満点であった。問題がほぼ同じで比較が可能な 2016~2019 年と 2020 年における、第2回自然科学演習(物理)のポストテストの正答率の 平均値を図2に示す。
75 80 85 90 95 100
2015~2019年 2020年
正答率[%](問題数6問)
第1回ポストテスト(単位換算)
7
図2 第2回自然科学演習(物理)ポストテスト正答率の平均値 受験者:2016~2019 年 521 人、2020 年 132 人
Error Bar は標準誤差を表す
2016~2019 年と 2020 年における第2回自然科学演習(物理)でのポス トテストの正答率の平均値について t 検定を行った結果、有意水準 0.05 で 有意差がなく、ベクトルについて、物理Ⅰが対面講義であった 2015~2019 年に比べて、物理Ⅰがオンライン講義であった 2020 年の正答率の平均値 が高いとは言えなかった。
第 3 回自然科学演習(物理) 演習内容:力のつり合い、作用反作用
第3回自然科学演習(物理)では、力のつり合いや作用反作用を扱い、
力の向きが上下方向のみの場合での力の働き方や力のつり合いの意味を ポストテストに出題した。この内容も 2020 年の物理Ⅰではオンライン講 義で説明した。本学では6月 14 日より 1 年の講義を対面講義へと切り替 えており、自然科学演習(物理)ではこの内容を全学生に対面講義で再度 説明し、ポストテストを行った(表6)。
75 80 85 90 95 100
2016~2019年 2020年
正答率[%](問題数6問)
第2回ポストテスト(ベクトル)
表6:力のつり合い、作用反作用についての講義方法 2015~2019 年 2020 年
物理Ⅰ 対面講義 オンライン講義
自然科学演習(物理) 対面講義 対面講義
この内容は力の働き方を理解する上で大変重要である。しかも、中学や 高校で大きく誤った理解をしてくる学生が多い分野である。誤った理解を 中学高校でしてきた学生は、物理Ⅰの講義内容をしっかりと復習しておか ないと自然科学演習(物理)のポストテストが低得点となってしまう。2015
~2019 年と 2020 年における、第3回自然科学演習(物理)でのポストテ ストでの正答率の平均値を図3に示す。
図3 第3回自然科学演習ポストテスト正答率の平均値 受験者:受験者 2015-2019 年 648 人、2020 年 130 人
Error Bar は標準誤差を表す
2015~2019 年と 2020 年における第3回自然科学演習(物理)でのポス トテストの正答率の平均値について t 検定を行った結果、有意水準 0.05 で 有意差があり、力のつり合いと作用反作用について、物理Ⅰが対面講義で あった 2015~2019 年に比べて、物理Ⅰがオンライン講義であった 2020 年 の正答率の平均値が高いと言えた。
75 80 85 90 95 100
2015~2019年 2020年
正答率[%](問題数6問)
第3回ポストテスト
(力のつり合い、作用反作用)
9
第 7 回自然科学演習(物理) 演習内容:仕事、エネルギー
第7回自然科学演習(物理)は、仕事とエネルギーを扱った。2020 年で はこの内容を、物理Ⅰの複数回のオンライン講義で説明した。ただし、2020 年では、仕事についてのみ物理Ⅰの対面講義で説明を受けた学生も約半数 いる。また、自然科学演習(物理)ではオンライン講義でこの内容を扱い、
ポストテストを行った(表7)。
表7:仕事、エネルギーについての講義方法 2015~2019 年 2020 年
物理Ⅰ 対面講義 オンライン講義
(約半数の学生 仕事のみ対面講義)
自然科学演習(物理) 対面講義 オンライン講義
エネルギーは生体内の現象の理解にも必要で、医療系大学での講義で も多用される重要な量である。仕事という量の理解や、エネルギー保存 則の具体例への適用に苦労する学生が例年多くいる。問題がほぼ同じで 比較が可能な 2018~2019 年と 2020 年における、第7回の自然科学演習
(物理)でのポストテストの正答率の平均値を図5に示す。
2018~2019 年と 2020 年における第7回自然科学演習(物理)でのポス トテストの正答率の平均値について t 検定を行った結果、有意水準 0.05 で 有意差があり、仕事とエネルギーについて、物理Ⅰが対面講義であった 2015~2019 年に比べて、物理Ⅰがオンライン講義であった 2020 年の正答 率の平均値が高いと言えた。
図5 第7回自然科学演習(物理)ポストテスト正答率の平均値 受験者:受験者 2018~2019 年 254 名、2020 年 131 名 Error Bar は標準誤差を表す
3 考察とまとめ
前章で、本学で第 1 学年が履修する自然科学演習(物理)でのポストテ ストの正答率を、物理Ⅰのすべての講義が対面講義で行われた 2019 年ま での数年と、物理Ⅰの多くの講義がオンライン講義で行われた 2020 年と で比較した。本稿で比較に用いたのは、その内容が 2020 年の物理Ⅰのオン ライン講義で扱われ、問題が各年でほぼ同じである、第1,2,3,7回 の自然科学演習(物理)の 2019 年までの数年と 2020 年のポストテストで ある。これらの比較によって、対面講義の教育効果とオンライン講義の教 育効果について検討することが可能であろう。
前章の比較から、第1,3,7回自然科学演習(物理)の各内容を物理
Ⅰの対面講義で扱われた 2019 年までの数年のポストテストの正答率の平 均値に比べて、物理Ⅰのオンライン講義で扱われた 2020 年でのポストテ ストの正答率の平均値は上昇していると言えた。しかし、第2回自然科学 演習(物理)の各内容については、ポストテストの正答率は上がっている
50 55 60 65 70 75 80
2018~2019年 2020年
正答率[%](問題数8問)
第7回ポストテスト(仕事、エネルギー)
11 とは言えなかった。
以上の結果について、まず、自然科学演習(物理)のポストテストの正 答率の上昇を言えた回(第1,3,7回)と言えない回(第2回)がある のはなぜかを考える。2019 年までの各回のポストテストの正答率の平均値 を比べてみると、第2回自然科学演習(物理)では正答率の平均値は 90%
代と高いが、第1,3,7回の自然科学演習(物理)では正答率の平均値 は 60~80%程度とあまり高くないことに気が付く。第2回自然科学演習
(物理)は、2019 年までに既に正答率が高かったため、2020 年で物理Ⅰが オンライン講義となっても正答率が上昇する余地が少なく、有意差が現れ にくかったと考えられる。また、第 2 回自然科学演習(物理)のポストテ ストでは、ベクトルの和を計算する問題について、2019 年までは紙面上で 作図を用いて計算を行っており計算ミスをしにくいが、2020 年ではこの問 題を Web 上で出題したため紙面上での作図が出来ず、計算ミスが増え、正 答率が上がらなかった可能性が考えられる。実際、2020 年の解答にはベク トル和の計算における計算ミスと思われる例が 8 例ほど見つかったが、
2015~2019 年では各年 0~2例ほどしか見つからなかった。このように、
対面講義よりオンライン講義の方が自然科学演習(物理)のポストテスト の正答率を高くする効果があっても、第2回自然科学演習(物理)ではそ の違いが見えなかったと考えられる。
次に、新型コロナウイルス感染症流行への本学の対応として、2020 年 4 月中に大学から郵送した課題を第 1 学年に自宅で勉強させていたことが、
第1,3,7回自然科学演習(物理)での正答率を上昇させた可能性を検 討する。この課題には第1,2回自然科学演習(物理)の内容が含まれて いる。よって、4 月に学生がこの課題を勉強したことは、5 月以降に行われ た第1,2回自然科学演習(物理)のポストテストの正答率を上昇させる 効果をもつだろう。しかし、この課題には第3,7回自然科学演習(物理)
の内容は含まれていないにも拘らず、図3と図4で見たように、第3,7 回自然科学演習(物理)のポストテストの正答率は 2019 年までと比べて 2020 年で上昇しており、学生が課題を勉強したことが正答率の上昇の主原 因ではないと考えられる。
さらに、2019 年までは学生はポストテストをノートや教科書を見ずに解 答しているが、2020 年においてはポストテストを Web 上で出題したため、
学生がノートや教科書を見ながらポストテストの解答をすることが出来、
正答率が高かった可能性も検討する。図3で示したように、対面で行った ため学生がノートや教科書を見ていないと分かっている 2020 年の第 3 回
自然科学演習(物理)のポストテストでも、2019 年までと比べて 2020 年 で正答率の上昇が確認できている。よって、2020 年のオンライン講義での 自然科学演習(物理)のポストテストで学生はノートや教科書を見ていな いか、見たとしても見たことが正答率の上昇の主原因ではないと考えられ る。
以上の考察より、対面講義と比較したオンライン講義の教育効果が表れ にくい第2回自然科学演習(物理)を除いた、第1,3,7回自然科学演 習(物理)では、2019 年までの物理Ⅰが対面講義で行われた年よりも、2020 年の物理Ⅰがオンライン講義で行われた年のポストテストの正答率の平 均値が高いことが言えた。よって、自然科学演習(物理)のポストテスト で出題されるような非常に基本的な物理の内容について対面講義で講義 するよりオンライン講義で講義する方が、学生の理解度を上昇させる効果 が高いと言えるだろう。
このように、物理の基礎的な内容については対面講義よりもオンライン 講義の方が理解度を上昇させる効果が高いならば、その理由は何だろうか。
東洋大学が全国 15 大学の学生を対象に行ったアンケート調査の報告[4]で は、オンライン講義が従来の対面型講義と比較して良いと思う点として
「自分のペースで勉強できる(82%)」「復習が何度もできる(34%)」「私 語がない(34%)」「教室より集中できる(22%)」などが上がっている(カ ッコ内はその選択肢を選んだ学生の割合)。本学の学生でも録画を用いて 復習をしている学生がいることは確認しており、これらの理由で対面講義 よりオンライン講義の方が学生の理解度が高くなるのだろう。
今回分かったように、物理の基礎的な内容について、オンライン講義に は対面講義よりも学生の理解度を上昇させる効果がある。アメリカ教育省 の報告[1]では対面講義とオンライン講義の複合型がより効果が高いこと が報告されており、日本でも今後は対面講義とオンライン講義の両方を併 用して講義を計画するべきだろう。
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[1]Evaluation of Evidence-Based Practices in Online Learning : A Meta-Analysis and Review of Online Learning Studies、U.S.
Department of Education(2010)
https://www2.ed.gov/rschstat/eval/tech/evidence-based- practices/finalreport.pdf
[2]山崎隆之:香川大学生のオンライン授業に対する評価と今後の意向(そ の1)、香川大学経済論叢 93(3)、99-125、2020 年
[3] ARCS モデルに基づいたオンライン授業に対する評価、一橋大学国際 教育交流センター紀要第2号、93―101、2020 年
[4]コロナ禍対応のオンライン講義に関する学生意識調査、松原 聡ほ か、東洋大学現代社会総合研究所 ICT 教育研究プロジェクト(2020)
https://www.toyo.ac.jp/research/labo- center/gensha/research/52395/