言葉科編 あ
1 教科新設の経緯
(1) 想定される未来社会と「言葉科」の関係
言葉科は,言葉の豊かな使い手を育てる上で設定した教 科である。本教科は,2030 年代の言葉を介したコミュニ ケーションの予測として,バーチャルエージェントや立 体動画機能の進展,同時翻訳機能の高度化に伴い
1子供た ちが学校で言葉を学ぶ意味が大きく問い直されることを 想定している。こうした未来社会においては,言語によ る論理的思考やメタ機能育成は急務であり,言葉を介し た心の通じ合いが一層重要となると考える。
この目指す方向性の一方で,PISA2018 の結果では,テ クストの質と信憑性を評価する問題に課題が見られた。
その原因として,熟考や評価を伴う学習や質の高い言語 活動によって具体的な人や社会とのつながりの諸問題を 解決する学習の不十分さが挙げられた。そこで,様々な テクストを多角的な目で理解し,根拠の妥当性を吟味し ながら自分の考えを表現する創造性が必要である
2。 (2) 現行国語科,外国語科(活動)との関係
言葉科は,渋谷が述べる,「言葉を学ぶ教科として,真 の言葉の教育」
3を目指す。そのために,国語科と外国語 科(活動)を統合した,1つの教科とする。
現行の学習指導要領国語科においては,「話すこと・
聞くこと」「書くこと」「読むこと」の3領域及び〔伝 統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕で構成され ていた内容が〔知識及び技能〕,〔思考力,判断力,表 現力等〕に再構成された。これは,3領域を思考力,判 断力,表現力等,資質・能力ベースで捉え直すことで,
「生活に生きて働く言語能力」
4育成を目指すものである。
さらに,現行学習指導要領外国語科(活動)においては,
一貫した外国語教育の実現に向け,中学年では外国語活 動,高学年に外国語科が位置付けられた。これは,子供 の求めに応じたコミュニケーションや自分や相手が話す 言葉の意味を理解したり,慣れ親しんだ言語表現を他の 場面で活用したりしながらコミュニケーションを図る子 供を目指すものである。
言葉科は,現行の2教科の共通点と相違点を生かして 構想している。共通点は,国語科,外国語科(活動)双 方の言語認知プロセスと言語としての普遍的役割である。
相違点は,言語運用における伝達や思考の論理と言語の 文化的背景である。これら言語の共通点と相違点に気付 くことで,母語と第二言語を生かし合うメタ言語能力育 成に寄与することができると考える。
このように言葉科は,アイデンティティ言語としての 創造性を発揮する言語観を重視している。そうすること
で,子供が言葉への気付きを大切にしながら,生涯に渡 り主体的に言葉を尊重し,言葉を学ぶ意味を追究するこ とができるカリキュラム
5を構築していく。以上のことか ら,生涯にわたり主体的に言葉を学び,運用していく
「言葉の豊かな使い手」としての子供を育成するために 新教科「言葉科」を設定した。
(3) 言葉科に関わるこれまでの研究
本校ではこれまで,領域「言語文化」と領域「ことば」が 学習内容を担っていた。特に領域「ことば」において,言 葉に関する課題を捉え,言語活動を通して,主体的な言 葉の使い手としての資質・能力を育成することを目指し,
内容を「言語基礎」「言語活動」「言語文化」の3つとして研 究を進めてきた
6。
(4) これまでの開発研究で見えてきたこと ア 成果
○ 言葉がもつ伝達や思考の論理に着目し,指導内容 を焦点化することで,現行の国語科・外国語科(活 動)の内容を精選することができた。
○ 他教科との合科・関連的な学習において言葉科が 方略として学習効果を発揮する言語論理の内容を充 実させることができた。
延長1,2年次では,言葉の機能である伝達,思考,
認識,創造を基に内容を精選した。具体的には,言語固 有の構成や表現に焦点化する「A言語基礎」や日本語と 英語のノンバーバルコミュニケーションの効果や読むこ と(理解)と書くこと(表現)の内容を一体と捉え,そ れら言語間や領域間の共通点に焦点化する「B言語論 理」,言語の文化的背景など日本語と英語を往還して指 導する学習効果につながる「C言語文化」などである。
イ 課題
● 言葉科学習のアセスメントが言葉科カリキュラム の改善サイクルに資するものになっていない。
● テーマ学習やリレーション学習における方略とし て関わる場合の言葉科において育成する創造性が不 明確である。
● 映像言語能力(シネマリテラシー)など現代及び 未来社会において不可欠な言語能力育成に向けた内 容の追加ができていない。
そこで本年度は言葉科として,未来社会を創造する上 で不可欠な言語能力を育成する言葉科の内容を吟味しつ つ,3つの学びにおいて言葉科で育成すべき創造性の具 体を明らかにしていくとともに,子供を学習評価の主体 としたカリキュラムの具体とその改善サイクルの方法を 明らかにしていく。そのために,まず,各内容において 育成すべき概念と方略を明らかにする。次に,言葉科の 見方・考え方を基に,単元や年間でルーブリックの作成 と共有を行い,言葉科の特質に応じたアセスメントの在 り方を究明していく。
2 目標
(1) 教科の目標
日常生活の言語活動を通して見いだした問いを,論 理的に解決する過程の中で,言葉による見方・考え方 らを養うことで,3つの資質・能力を次の通り育成す ることを目指す。
(1) 言葉に関する疑問や追究したいことについて,
言葉に着目して思いや考えを深めたり,言葉の価 値を見いだしたりすることができる。 (創造性)
(2) 言葉に関する疑問や追究したいことについて,
目的や意図,相手を意識して思いや考えを伝え合 おうとしたり,高めたりしようとする。
(協働性) (3) 言葉に関する課題追究を通して,考えの変容や 高まりを価値付けたり,言葉の使い手としての目 指す姿を明確にしたりしようとする。 (省察性)
(2) 見方・考え方と資質・能力の関係
言葉による見方・考え方とは,「言葉がもつ『機能』
7から言葉を『運用』し,言葉の『効果』を捉えること」で ある。そのために,「言葉を使って感じたことや考えたこ との理由や根拠を論理的に明らかにする言語の機能や運 用におけるきまりの概念的な理解」と「状況や文脈,相手 や目的によって対象と言葉の関係を吟味する方略的な表 現」を関連付けて高めていく。
言葉科で重視する資質・能力は創造性である。言葉科 に関する創造性は,情報を多角的に吟味し,構造化する 創造的・論理的思考の側面,言葉によって感じたり想像 したりする感性・情緒の側面,新しい情報を評価し取捨 選択する考えの形成・深化の側面が含まれている
8。これ らの創造性が育成されるために,情報の理解,考えの精 査・解釈,さらに,文章や発話による自己表現を行うこ とが重要である。このような方略を基に言葉を学ぶ価値 を捉えていく。このように創造性を中心に育成していく 言葉科の構造を図にすると次のようになる(図1)。
【図1 言葉科における目標と資質・能力の関係】
(3) 学年の目標
〔第1学年及び第2学年〕
① 身近な言語生活の体験に基づく言葉に関する課 題について,言葉や身体表現などに着目して考え たり,自分の思いや考えを創り出したりすること ができる。 (創造性)
② 相手を意識して,言葉や追究課題に対する自分 の思いや考えを伝え合おうとする。 (協働性) ③ 言葉に関する課題追究を通して,考えの広がり
に気付いたり,身の回りの言葉に関心をもち,言
葉を学び,使う意欲を高めたりしようとする。 (省察性)
〔第3学年及び4学年〕
① 身近な社会における言語生活から見いだす言葉 に関する課題について,複数の言葉に着目して自 分の思いや考えを明確にしたり,新たな考えを言
葉を根拠に創り出したりすることができる。 (創造性)
② 目的や相手を意識して,言葉や追究課題に対す る自分の思いや考えを伝え合おうとしたり,考え をまとめたりしようとする。 (協働性)
③ 言葉に関する課題追究を通して,考えの変容や 広がりを捉えたり,日常生活においてどのように 言葉を使うか,言葉の使い手としての目指す姿を 明確にしたりしようとする。 (省察性)
〔第5学年及び6学年〕
① 地球規模,歴史的,未来志向的視座で見いだし た言葉に関する課題について,言葉の文化的背景 や言葉に込められる思いや願いに着目して自分の 思いや考えを問い直して意味付けたり,新たな考 えを言葉を根拠に創り出したりすることができ る。 (創造性) ② 目的や意図,相手を意識して,言葉や追究課題
に対する自分の思いや考えを伝え合おうとした り,高めたりしようとする。 (協働性)
③ 言葉に関する課題追究を通して,考えの変容や 高まりを価値付けたり,言葉の価値を捉え,言葉 をどのように学び使っていきたいか,言葉の使 い手としての目指す姿を明確にしたりしようとす る。 (省察性)
3 内容構成
(1) 内容構成の考え方
言葉科は,創造性の育成を目指す教科であり,「言葉の 豊かな使い手」の育成を目指す。言葉の豊かな使い手を育 成するためには,言葉を通して生活を豊かにできること を子供が実感することが大切である。そのためには,言 葉で考えたり,互いの考えを伝え合ったり,言語文化に 親しんだりすることを捉えながら,言葉を学ぶ価値を子 供たちに気付かせることが必要である(図2)。
そこで,言葉科が目指す創造性を発揮した姿である
「言葉の豊かな使い手」の育成において,言葉に関する 課題について自分の思いや考えを深めるための言葉への 着眼に関する基礎的な内容を「A 言語基礎」として扱う。 また,実際に言語活動を行いながら,言葉に関する課題 について,思いや考えを深めるための言語の論理的な構
― 44 ―
Dalam dokumen
未来社会を創造する主体を育成する カリキュラム・マネジメントⅢ
(Halaman 48-54)